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【連載】JTA News & Topics  第142回

2020/05/22

JTA  News & Topics 」  第142回 

今回は、2019年10月25日に実施した「翻訳者に役立つ『やさしい日本語』」セミナー(主催:バベルユニバーシティ/後援:一般社団法人日本翻訳協会)受講者の横須賀珠世さん及びチエン静さんよりセミナーレポートを投稿してくださいましたので掲載いたします。

情報提供:一般社団法人 日本翻訳協会 (Japan Translation Association 略してJTA) 

http://www.jta-net.or.jp/ 

 

 

    「翻訳者に役立つ『やさしい日本語』」セミナー

 ―  母語話者にとっての「やさしい日本語」や「Plain Japanese」の利点 ―




●レポーター :横須賀珠世
アメリカ、ミシガン州在住。日系自動車サプライヤーでオフィス・アドミの仕事をする傍ら、バベル翻訳専門職大学院USAで法律翻訳を学んでいる。

 10月25日に開催された「翻訳者に役立つ『やさしい日本語』セミナー」に参加しました。私事ながら、何ともタイムリーなトピックのセミナーであり、大変興味深いものでした。というのも、この4月から息子が交換留学生として日本で1年間の留学生活を送っており、先月の台風19号襲来時は、日本語中級者の息子が無事に避難できるのか、避難指示が読めるのか、とアメリカから固唾をのんで見守るしかない状況だったからです。

 約2時間のセミナー、前半は、「やさしい日本語とは何か」、「日本語のバリエーションとしてのやさしい日本語と、Plain Japanese」、「母語を産出する観点からのやさしい日本語、Plain Japaneseの利点」についてお話しされました。今回のレポートでは、私が特に興味を持った講義前半部分にフォーカスしてレポートしたいと思います。

 まず、「やさしい日本語」は、「多文化共生(日本語が母語ではない人や、障害者を含む)」というコンテキストの中で語られ、「地域社会での共通言語」として捉えられ、日本人が日常使っている日本語よりも簡単で分かりやすいものを言います。これは、「日本語による直接コミュニケーション」であるため、翻訳の際にありがちな誤訳トラブルがなく、情報をリアルタイムに正しく伝えられるのが、大きな特長です。

 「やさしい日本語」は、1995年の阪神淡路大震災で、多くの外国人が被災されたことがきっかけで開発されましたが、それまでは、非母語話者同士の共通語として、英語が選ばれてきました。しかし、日本人は、英語で話しかけられると逃げ腰になり、上手く応答できず、結局コミュニケーションが取れない問題が出てきたとのこと。現在では、在留外国人の8割が日本語を使ってコミュニケーションをとっており、やさしい日本語は、病院・役所・観光などにおける多言語対応のコミュニケーション手段として、注目を集めていることを知りました。

 次に、やさしい日本語の例を挙げて説明下さいました。例えば、「今朝7時21分頃、東北地方を中心に広い範囲で強い地震がありました。大きな地震のあとには必ず余震があります。引続き厳重に注意してください。」という、日本人に使われている文があります。これを12の規則に従ってやさしい日本語にすると次のようになります。

 「今日(きょう) 朝(あさ) 7時(じ)21分(ふん)、 東北(とうほく)地方(ちほう)で 大(おお)きな 地震(じしん)が ありました。 大(おお)きい 地震(じしん)の 後(あと)には 余震(よしん)〈後(あと)から 来(く)る 地震(じしん)〉が あります。気(き)をつけて ください。」

 シンプルですが、伝えたいことをきちんと伝えることができます。
「やさしい日本語」にするための12の規則は、次の通りです。
(1)難しい言葉をさけ、簡単な語を使う。
        語彙数は、日本語能力検定基準3級・4級程度。
(2)1文を短くして、分かち書きにし、文の構造を簡単にする。
           主語と述語を一組だけ含む文にする。
(3)災害時によく使われることば、知っておいた方がよいと思われることばは、
          そのまま使う。
(4)カタカナ・外来語はなるべく使わない。
(5)ローマ字は使わない。
(6)擬態語や擬音語は使わない。
(7)使用する漢字や、漢字の使用量に注意する。
(8)時間や年月日は外国人にも伝わる表記にする。(元号は使わない等)
(9)動詞を名詞化したものはわかりにくいので、出来るだけ動詞文にする。
        (揺れがあった→揺れた)
(10)あいまいな表現は、避ける。
(11)二重否定の表現は避ける。
(12)文末表現は、なるべく統一する。

マニュアルや公用文等の実用的な文章においては、「凝った」文章を目指す必要はなく、極力シンプルで誤解されにくい文を目指すことが第一とのお話でした。又、自分の書いた日本語が相手に伝わりやすい日本語であるかどうかのチェック方法についてもご紹介頂きました。これには、ワードやグーグルの機械翻訳機能が有効です。伝えたい文をこれらの機械翻訳にかけてみて、機械が誤訳をしてしまう部分こそが相手に伝わりにくい、つまり、人が誤解しやすい部分と言えます。自分が伝えたいことは何なのかを再度考え、この部分を手直ししてあげることで、相手を混乱させることのない日本語ができあがるというわけです。(因みにやさしい日本語で書かれた文を機械翻訳にかけると、誤訳のない英文が出力されます。)

 先日、アメリカ政府が出している移民についてのホームページを閲覧していたのですが、そこでも新聞等で使われている英語よりはるかに簡単な英語が使われていることに気が付きました。翻訳を介さずに、地域社会での共通言語を、よりシンプルなものに書き換える動きが世界的に加速しているのだと実感しました。
 今後ますます日本国内に外国人が増える中、日本でもこの動きが活発になることを期待しています。

以上

レポーター :チエン静
バベル翻訳専門職大学院USA・法律翻訳専攻 2019年1月より在学中。幼少期はアメリカに滞在。東京で法律事務所秘書、メーカーの営業をしていた。2017年、結婚を機にホノルルに移住。

【セミナー内容】
日時:2019年10月25日(金)15時~17時(日本時間)
講師:猪塚 元 先生

 2週間前に日本に台風が上陸し、外国人向けの災害時のサポートが足りないとの議論が巻き起こった。また、オリンピックを前に地図記号を分かりやすくするため、2017年に外国人向け地図記号が15個追加された。災害時の速報等を多くの言語に翻訳するのは現実的に難しく、誤訳も生じかねない。そこで、日本語の表現自体をやさしくするというのが今回のテーマだ。

 英語は使い方のルールが日本語ほど厳しくなく、使う国や文化に応じて変化する。イギリス人とアメリカ人が使う英語は異なり、一つの正解というのは存在しない。一方、日本語の場合、日本人が使う日本語が正解とみなされている。社会生活において必要な語彙力も、英語は約3000語だが、日本語は約1万語である。外国人にとって日本語の習得は難しい。従来、留学生向けに日本語をアカデミックな手法で教育することが多かったが、現在、就労目的で日本に暮らす外国人も増えており、やさしい日本語表現の需要が高まっている。どの程度やさしくすべきかは、日本語能力試験の第3級から4級で使用される漢字と語彙(漢字100~300字、語彙800~1500語)を参考にするといい。

●   漢字にルビを振る。
    文を短く区切り、構造を単純にする。文節ごとに余白を入れて区切る。
  例:「手(て)を 拭(ふ)いて ください」
    複数の意味・用法がある助詞は使わない。
     「に」にはto, at, in, on, for等の意味がある。
  方向のtoを表す場合、「へ」を使用する。「そこに行く」→「そこへ 行(い)く」
    同音異義語は、難しい漢字でも、漢字表記の方が分かりやすい場合もある。
  例:吐く・履く、拭く・吹く
    時間・年月日は外国人も分かる形に修正。時間は12時間表記。
  元号は使用せず西暦にする。年月日にスラッシュは使わない。
    動詞を名詞化したものは使わない。例:「揺れがあった」→「揺(ゆ)れた」
    二重否定、曖昧な表現を避ける。
    「亀裂が入ったりしている建物」→「壊(こわ)れた 建物(たてもの)」
    「コーヒーでもいかが」など、「も」を使う必要がない場合は使わない。
    文末表現
    文末表現を統一する。
  Can:「使える」
  「行ける」→「使(つか)うことが できる」「行(い)くことが できる」
    日本語検定 3級までに出てこない文末表現「かしら」「ぜ」「ぞ」を使用しない。
    動詞と強調表現の組み合わせは、言語によって異なる。
  「濃いお茶」を英語にすると”strong tea”(強いお茶)。
  日本人は無意識のうちに「濃い」+「お茶」の組み合わせを選ぶが、
       外国人は「強い」を選びかねない。
    動詞と目的語のルールも言語により異なる。
      ”ask a question”をアメリカ人が日本語に訳すとき、「質問する」ではなく、
     「質問を聞く」とする可能性がある。
    全体的な意味が伝わればいいので、削れるところは削る。
    「今朝、東北地方を中心に広い範囲で強い地震があった。」
      という文をやさしい日本語にしてみる。
    「けさ」は「今日(きょう)の 朝(あさ)」と簡単にする。
    「~を中心に広い範囲で」という部分を削り、
    「東北(とうほく)地方(ちほう)で 地震(じしん)が あった」
      と重要箇所を残して文をすっきりさせる。
      この文脈では「強い」を「大(おお)きい」に変えても問題ない。
    単純化し過ぎて、逆に誤解が生じないか?
    「昼間に居宅外で労働することを常態としている場合」という表現があるが、
      これを「外で働いている」と単純化すると「外」が「屋外」を表すのか
    「家以外」を表すのかが不明瞭になるので「家以外」と明記する。
    接続詞、主語など、日本人が省略してしまいがちな部分を補う。
    テ形接続の用法に注意する。
      例:「黒くて長い髪」(並列)「夏は暑くて冬は寒い」(対比)

 自分の日本語を客観視できないときは、和→英→和→英と機械翻訳を繰り返し、文を見直すといい。Wordにトランスレーターという機能がある(トランスレーターはルビを認識しないので、ルビは最後に振る)。複雑な文は、英語から日本語に戻した時、その文が元の文と大きくかけ離れてしまうが、やさしい日本語を使うと、日本語に戻し、更に英訳しても、意味はほとんど変わらない。複雑な日本語を使えば翻訳の難易度が高くなり、やさしい日本語を使えば、簡単に訳すことができ、誤解が少なくなる。取扱説明書やディズニー映画など輸出を前提にした文章は翻訳しやすくなっている。文学作品では、表現の微妙なニュアンスの違いや語彙のバリエーションの豊富さが求められるが、伝わりやすい日本語を書きたいなら、ある程度事務的に考えなければならない。伝えたい内容が同じなら、より単純な文を選んだ方が、誤解が少ない。

以上

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●●セミナーのご案内●●

*バベル吉祥寺キャンパス及びZOOM(オンライン)で受講できます。                           
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☆ 「出版翻訳における日英翻訳のポイント」セミナー 第5回☆
 
           ― 『ノルウェイの森』の3訳比較 ― 
    
今回は、二つ以上の英訳が出ている小説の英訳を比較して、英訳技法の研究をします。

原文は世界のベストセラーになった『ノルウェイの森』(1987)です。この作品の英訳には、Alfred Birnbaum訳(1989)とJay Rubin訳(2000)の二つがありますが、文庫本(上巻)の原文の3章前半pp.50~75の26頁をセミナー講師の私も、英訳練習のために訳してみました。この3訳を比較してみましょう。Birnbaumの砕けた口語調に比べて、前田訳はやや硬い感じになっていますが、Rubin訳は、Birnbaum訳をじっくり検討したうえで練り上げた訳になっています。

26頁分の原文を七つに分けて、今回は最初の部分の訳を比較します。<原文・訳文・問題>のファイルを事前に配布しますので、問題の解答を提出してから受講してください。

問題の解答はセミナーで説明するとともに、終了後、<解答例>ファイルを配布しますので、自己点検してください。それでは、ハルキ・ワールドを楽しみながら、訳者の工夫の跡をたどってみましょう。

*このセミナーでは参加者にあらかじめ課題問題を解いていただき、各人が提出した
課題の解答を題材に解説を致します。
*時間の都合で、お送りいただいた参加者様の課題の解答を題材にできない場合がありますのでご了承ください。
 提出物の採点・添削はございません。


*課題提出締切:6月18日(木) 午後3時まで(日本時間)
 お早目にお申込み下さい!

●講師:前田 尚作(まえだ しょうさく)
 ・元帝塚山学院大学教授。京都大学大学院(言語学)修了
 ・インディアナ大学(言語学MA)
 ・バベル翻訳大学院USA教授
 ・翻訳家

・実施日:     2020年6月24日(水)15時~17時(日本時間)
・申込締切 :2020年6月19日(金)(日本時間)

◆セミナーの詳細・お申込みはこちらまで↓

http://www.jta-net.or.jp/seminar_200624_nichiei_honyaku5.html

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●●翻訳試験のご案内●●

*試験は全てインターネット受験ですからご自宅での受験となります。

 



1.「出版翻訳能力検定試験」
実施日:2020年6月20日(土)10:00~13:00(日本時間)
締切り:2020年6月16日(火)(日本時間)
1) 第25回 一般教養書(ビジネス関連)翻訳能力検定試験   
2) 第25回 一般教養書(サイエンス関連)翻訳能力検定試験
詳細・お申込は、当協会ホームページから 

http://www.jta-net.or.jp/about_publication_exam.html


2.ビジネス翻訳能力検定試験
実施日:2020年6月20日(土)10:00~12:00(日本時間)
締切り:2020年6月16日(火)(日本時間)
1) 第36回 医学・薬学翻訳能力検定試験(英日・日英)
2) 第36回 特許翻訳能力検定試験(英日・日英)
詳細・お申込は、当協会ホームページから 

http://www.jta-net.or.jp/about_business_exam-2.html


3.第24回 フランス語翻訳能力検定試験 フィクション分野
実施日:2020年6月20日(土)10:00~13:00(日本時間)
締切り:2020年6月16日(火)(日本時間)
詳細・お申込は、当協会ホームページから

http://www.jta-net.or.jp/about_french_translation_exam.html


4.第24回 ドイツ語翻訳能力検定試験 フィクション分野
実施日:2020年6月20日(土)10:00~13:00(日本時間)
締切り:2020年6月16日(火)(日本時間)
詳細・お申込は、当協会ホームページから

http://www.jta-net.or.jp/about_german_translation_exam.html

 
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情報提供 : 一般社団法人 日本翻訳協会 (Japan Translation Association 略してJTA)
 
●一般社団法人 日本翻訳協会●
http://www.jta-net.or.jp/ 
・設立:1986年10月
・Mission:「翻訳に対する社会の認識を高めること及び翻訳に関する技術及び知識を増進することによって翻訳の水準を高めること並びに翻訳者を支援してその自立を促進することを通じて、世界の文化交流及び産業経済の発展に寄与することを目的とする。」
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