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『翻訳マーケット観測 - 翻訳マーケットはどうなる?』  - 編集部まとめ

2013/08/26

翻訳の近未来予測
翻訳ビジネスはこう変わる 1.

 

ビジネス・産業はこう変わる
 
報道されておりますように、ここ数年は世界同時不況が進行するでしょうが、同時にビジネス・産業の仕組みも構造的に変わっていくでしょう。 翻訳業界は産業界からの発注を受けているのですから、産業やビジネスの変化に大きく影響されます。 次のような変化が翻訳産業に影響を与えると考えられます。
 
1.グローバリゼーションの更なる進行
1980年代末の社会主義圈の崩壊、中国の市場経済参加以来続いているグローバリゼーションは、更に急速に進行して行くでしょう。米国のサブプライム問題に端を発した世界同時大不況にもかかわらず、世界各国の自由貿易体制は維持されています。保護主義に堕して自由貿易を捨てた国はありません。このことはヒト ・モノ ・カネが世界の国と国の間で益々多く自由に、障害なく流通することを意味します。国際分業、発展途上国の先進国化、先進国の社会経済の相似化は、連れて益々進むでしょう。通信技術の高度化もあって世界中の情報の流通は飛躍的に増加しています。 情報量の増加と多様化は「翻訳」需要を増加させます。グローバリゼーションに対応する言語は英語ですから、グローバリゼーションが進めば進むほど、英語をソース言語、あるいはターゲット言語とする「翻訳」は増えざるを得ないのです。
 
2.ISO化現象・文書が増える
IS09000 とかIS012000 とかいう言葉をお聞きになったことがありませんでしょうか。 国際標準機構のことで最近は製造業のみならずサービス業にも導入されています。 製造工程から品質管理そして内部統制に到るまですべての社内プロセスを国際標準にあわせて文書化する作業で、大企業のみならず中小企業に到るまで広く普及して来ています。このシステムを採用しますと社内のすべての手続を「文書化」することが必要となります。必然的に文書の数は増えます。 IS0 を使用しない企業でも多くが口頭の共有知あるいは暗黙知を文書化して明示するようになりました。派遺や期間工などの短期雇用が増え、請負や独立事業者へのアウトソーシングが増えたため暗黙知を明示化する必要が生じたからです。企業内の文書はこのため激増しています。これを IS0化現象と呼んでいます。
一方、国内における外国人労働者の増加や海外発展途上国への生産シフトの結果として、これらIS0化文書を翻訳しなければならない需要が増加して来ています。それも数多くの言語への翻訳です。たとえば日本の企業が海外展開するに当って生産マニュアルや仕様書を日本語と英語だけでなく、中国語、ブラジル (ポルトガル) 語、ベトナム語、インドネシア語等いろいろな言語で複数作らなければならないのです。ここにも「翻訳」を必要とする文書の増加があります。
 
3.先進諸国の法制の収斂傾向
いま先進各国の法制は似たようなものになりつつあります。たとえば株式会社法は日米欧同じようなものですし、独占禁止法制も日米欧殆ど同じです。企業はそれに合わせて同時的に対応しようとしています。たとえば、特許の出願であれば、特許出願書を日英両語で作成し、日米欧の特許庁に同時出願します。医薬品の承認中請であれば、日英両語で作成して日本と米国、英国の厚生薬務当局に同時申請し、同時に仏 ・独語の申請をそれぞれの国の薬事規制当局に申請します。食品、自動車、電子機器など規制当局の許認可が必要な商品の申請はすべて複数の言語で作成し複数の国の行政当局に申請します。申請には多量の文書が必要ですが、これはそれぞれの言語で作成されなければなりませんから、ここにも「翻訳」が必要です。
 
4.翻訳をめぐる技術革新
豊富な翻訳需要に支えられて、翻訳を大量に迅速に行うための技術革新が急速に進んでいます。技術革新のための資金も豊富に投じられています。EU では EU政府の公用言語が加盟27 ヵ国の言語となっており、全ての法令規則 ・議事録 ・ 報告類を 27 の公用言語で作成提供しなければならないことから膨大な量の翻訳の需要 (翻訳官9000人と言われています) がありますが、 この省力化のために大規模な言語研究開発の資金が投入されています。米国ではソフトウェアのローカライゼーションを中心に巨大な翻訳会社が存在しその需要に応ずるための技術開発投資が行われています。日本も翻訳大国の一つとして翻訳ソフトメーカーや翻訳支援ツールメーカーなどによる活発な投資が行われています。
翻訳ソフトはどんどん高度化 ・精密化して来ています。 最近ではキーワード解析、データ言語処理に統計的アプローチや確率計算を使った翻訳ソフトも登場しており、出力翻訳文も満足の行くものになって来ています。少なくとも社内用途の翻訳文であれば充分に通用します。 コンピュータ製造企業などは特に社内利用に熱心で、社内のあらゆる部門で積極的に自動翻訳を使って世界中の情報を集め共有しています。市販の翻訳ソフトも、販売数が増加するにつれて価格が安くなり、現在では一万円を切っています。アトラス、 ロゴビスタ、オムロン、ソースネクスト、イー・フロンティア、ソフトバー、クロスランゲージ、PC トランサーなど、いろいろなブランドが市販ソフトとして売り出されています。
翻訳支援ソフトは翻訳者が行う翻訳作業を対訳や辞書検索などで助けるソフトですが、性能も向上し使い勝手のよいものになって来ています。翻訳支援ソフトは翻訳者が使い込めば使い込むほどデータが蓄積して行きますので、専門的な翻訳者にとって必要なツールになって行くでしょう。市販の商品としてトラドス、 トラツール、 アトラスなどが利用されています。
翻訳ウェブサイトは Google や YAHOO などの検索エンジンやエキサイトやインフォシークのようなプロバイダーが運営しているインターネット上の翻訳サイトです。 自己のパソコンのハードデイスクを使わず、ウェブサイトの側のコンピュータを使用して翻訳する、いわゆるクラウドコンピューティングの一つです。無料で主要言語(日 ・英・中・韓)の自動翻訳を提供しています。ウェブ検索した外国文をそのまま自動翻訳にかければ必要な訳文が一瞬で出て来るのですから大変に便利です。出て来る翻訳文も最近はずい分と良くなりました。 翻訳ソフトは常時更新をされていますので、これからも更に精度は上がって行くと思われます。今後、端末である小型ノートパソコンと携帯電話の融合が進めば、誰にでも翻訳がユービキタスなものになって行くことになるでしょう。翻訳をめぐる技術革新は恐るべきものになります。
 
5.日本語が変わる
社会の高度化とあわせまた日本人の進化と合わせて「日本語」も変わって来ています。これも翻訳に影響する変化の一つです。文の短縮化、カタカナ多用、英語風の日本語構文など実感しておられるでしょう。日本語の変化も翻訳をめぐる変化の重要な一つです。                         
 

 

翻訳の近未来予測
翻訳ビジネスはこう変わる 2.

 

翻訳業界、翻訳会社はこう変わる
 
上に述べたようなビジネス・産業など翻訳を取り巻く環境の激変を受けて翻訳業界・翻訳会社はどう変わるでしょうか?
 
1.翻訳発注者はどう変わるか
前述の環境の変化を受けて翻訳の発注者はどのように変わるでしょぅか。
 
(l) 難しいもののみを発注する
企業のグローバリゼーションと IS0化の進行から翻訳すべき文書は増えます。 しかし、その多くは社内で参考にするためのものです。そのような文書は、翻訳ソフトやウェブ翻訳コーナーで充分翻訳できます。完璧な精度は要求されないのですから、入力しさえすれば即時に無料で訳文が出て来る自動翻訳で充分なのです。既に大手の会社では、各従業員が上司の許可を要せず自由にコンピュータ翻訳を利用して必要な情報を取り出し使っています。大学や研究機関でも同様です。翻訳ソフトやウェブ翻訳はパソコンと並んで鉛筆と同じようになったと考えてよいでしょう。そうなりますとわざわざ翻訳代金を支払ってまで外部に翻訳を発注するのは、大量で重要なもの ・ 難しいものの正確な翻訳に限られてくることになります。
 
(2) パッケージで発注する
企業内のどの分野でも仕事のアウトソーシングが進んでいます。 専門の業者にアウトソースする方がより省力化でき安価で信頼できるからです。翻訳の外部発注はその前後のプロセスと併せてアウトソースされるようになるでしょう。グローバリゼーションが進んで企業の内外一体化が進行しますと報告 ・ 説明文書が大量 ・ 定期的に発生するようになりますが、これを専門企業に任せるようになるのです。例えば、医薬品企業は創出した新薬の臨床試験を「治験専門研究機関」にパッケージで委託します。この治験は大型のものになりますと数ヶ月にまたがります。治験プロトコルに始まり患者ごとの投薬指示書、インフォームドコンセント、臨床カルテ、症例分析と統計処理など膨大な治験文書は複数の言語で作成され、まとめられます。翻訳はこのような大量の文書作業のほんの一部でしかありません。翻訳は定期的 ・ 大量に作成される文書作業の中に組みこまれてしまっているのです。同じような現象はコンピュー夕 ・ソフトウェアの製作におけるローカライゼーションにも見られます。翻訳はソフトウェア製作の中にローカライズ作業として組み込まれてしまっているのです。
 
(3) サーチ、コンサルの要求
発注者企業は以上のように水準の高い作業を求めるようになりますが、 これが更に進みますと情報のサーチやコンサルテーションまで求めるようになります。発注者が探した原情報を翻訳者に渡して翻訳させるのではなく、情報を探すところから依頼して翻訳された結果情求を求めるのです。あるいは、発注者が翻訳者に対して意見やコンサルテーションを求めるようになります。翻訳に出される文書は一般的なものがなくなり、より高度な専門のものになって来ていますのでこのような現象に必然的になるのです。実際に、パテント翻訳の分野で侵害被害者の判断を質問されたり、契約書翻訳の分野で法律的な意味を問われたりすることが多くなって来ています。
 
 
2.翻訳業界の動きと翻訳会社の対応
以上のような発注者側の変化に対して翻訳業界も変わりつつあります。
 
(l) 専門化の進行
通常の翻訳は発注者側の社内の自動翻訳や翻訳ウェブの利用で処理し翻訳会社には大量の難しいもののみを出すようになりましたので、普通の翻訳会社は淘汰され、生き残っているのは特徴のある専門の翻訳会社です。医薬翻訳を専門とする「翻訳センター」、特許翻訳を専門とする「知財翻訳研究所」、 IT ローカリゼーションを専門とする「ライオンブリッジ」、リーガル分野を専門とするバベルトランスメデイアセンターなど、大手はみな特徴をもっています。 中小規模の翻訳会社でも強い分野をアピールして専門化を進めようとしています。
 
(2) パッケージ発注に応えられるか
翻訳の部分のみを翻訳会社に発注するといったことから前後のプロセスを一括してアウトソースしたいという発注者の要求に応えることが翻訳会社の変貌によって行われるのか、あるいはそれ以外の方法 (たとえば発注元企業の分社化) によって行われるかは現在のところ判然としませんが、金融証券業界における IR翻訳の分野がそのはしりになって行くものと思われます。
 
(3) 翻訳会社の多国籍化
翻訳業務がインターネット経由して行われるようになって20年以上になりました。 原文を電子データで受注して訳文を電子デー夕で納入するというのが業界の標準になりました。そのような形態となりますと翻訳会社の立地はどこでも良いことになります。東京でなくても良いわけです。既に有力翻訳会社の多くが広島や沖縄などの地方に立地としていますが、日本国内でなくても良いことになります。イン夕一ネット時代では、世界のどこにいても翻訳事業は運営できるわけで、最適の立地を選んで翻訳会社を置き、国を越えての翻訳者ネットワークを作り上げて事業の展開が可能となります。ライオンブリッジやトランスパーフェクトのような外資系翻訳会社が日本に事業所をもって活動しているのと同様に、日本の翻訳会社も国境を越えて世界に進出しつつあります。翻訳センターはカリフォルニア州シリコンバレーと、中国の北京に海外オフィスを持ち、バベルはハワイ州ホノルルに別法人を運営していますが、他の翻訳会社も顧客や翻訳者の動きにともなって多国籍に展開して活動することになるでしょう。
 
3.出版翻訳について
以上は実務翻訳の分野についての予測ですが、出版翻訳についてはどうでしょうか。
出版界は出版部数の減少に悩んでいますが、構造的に、これは変わらないでしょう。
少子化で読書人口は減って行きますし、若い世代を含めて携帯やパソコンの多用により
人ロ 1人当りの読書冊数が減って行くからです。出版工程における電子化でより少部数の印刷が可能になり又は電子データでの出版や電子ブックの普及もありましょうが、出版部数全体は縮少して行くでしょう。但し、社会の高度化複雑化につれてより少部数の専門化は進むと思われ、出版翻訳の業界もより細分化した専門化の世界となるでしょう。出版社の編集者はすべての専門に通暁するわけには行きませんから、翻訳出版すべき本のサーチ、その解説、予測なども翻訳者や翻訳会社に頼ることになります。この面においても翻訳者や翻訳会社の専門化の深化が進行すると予測されます。 
            
以上

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