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金融・IRマーケット事情 - 藤江 徳子

2013/08/10

「金融・IRマーケット事情」


藤江 徳子:金融・IR翻訳者、翻訳専門職修士(MST)



 米国発の金融危機に伴うグローバルな景気後退による翻訳発注件数の減少傾向は、落ち着いてきました。昨年ぐらいからは翻訳の引き合いも増えてきたような気がします。自分の作業量を考えて、残念ながらお断りする案件がいくつかありました。
 
 今日は
 「金融・IRマーケット事情」 についてということなので、本来なら全体像を書くほうがよいのですが、1人の翻訳者として最近受けた仕事の中から可能な範囲でまとめることにします。
 金融分野では
株式調査レポートやファンドの運用報告書といった定期刊行物の翻訳ニーズは安定しています。株式や債券、為替に関する用語の知識はもちろんのこと、欧米諸国をはじめ中国や韓国、インドなど世界各国の最新経済事情にもアンテナを張り巡らせて、来るべき翻訳案件に備えておく必要があります。
 
 そして、
前回レポートとの継続性にも配慮しながら訳出できれば、継続的な受注につながります。
 さらに、この分野では
日本時間の深夜時間帯の翻訳作業に対応できれば、クライアントへのアピールポイントになります。海外で発表された英文記事を翌日の東京市場の取引開始前に日本語で用意するケースがあるからです。
 
 次に、
IR分野について。アニュアルレポートのような定期的に作成される文章、株主総会招集通知など定型的な表現の多い文章では、翻訳ソフトを用いたローカライズ化がだいぶ進んでいるように思われます。過去のデータを蓄積したデータベースの活用により、翻訳料金をおさえたいというソースクライアントの意向が感じられました。
 
 翻訳者は指定された箇所だけを訳すことが求められますが、全文を読まないことには翻訳できません。そして、ローカライズとはいっても、最終的なチェックは人間が行うわけで、
翻訳物のチェックの仕事も増えています。
 
 企業会計に関連して、
国際会計基準やIFRSについての知識が求められます。専門書だけでなく、トピックごとにまとめられたレポートをインターネット上で読むことができるので、大いに活用しています。
 
 ここ数年、継続的に受けている仕事に
企業の信用調査の翻訳があります。過去3年分ぐらいの財務諸表、財務分析と格付、事業内容、事業環境(経済白書からの抜粋など)、与信判断、その会社についての報道記事などがセットになっているものです。対象となっている企業は外国企業から日本法人が出資している海外法人まで多岐にわたり、各国の制度や会社法の知識が求められます。外国の会社法は日本語訳がないものが多く、その都度調べながら訳出しています。
 
 両分野に共通して言えることですが、ワードやテキストファイルでの翻訳作業だけでなく、パワーポイントやPDFファイルにテキストボックスを使って訳語を張り付けるような作業が増えたように思います。さらに、
レイアウトを整えたりすることも求められます。翻訳者の業務範囲はどこまでなのかと、自問自答しながら作業しています。翻訳作業の時間より、レイアウトを整えるのに時間がかかることもありました。
 
 翻訳会社から提示される翻訳料金そのものに変化はありませんが、
短期間での納品を求められることが非常に多いです。最終的に時給換算するとわりに合わないと思うような案件もありました。私のほうでの翻訳作業時間を短縮するには限界があるので、分納することにより少しでもはやくチェックにまわせるようにするなど、翻訳会社と相談しながら作業をすすめています。
 
 私が
翻訳作業の効率化のために使っているツールは、Omega-T、KWIC Finderとワードのマクロです。以前は対訳君を使っていましたが、パソコンを買い替えたことによりOSのバージョンとあわなくなってしまいました。Omega-TとKWIC Finderはまだスイスイと使いこなせているというレベルではないのですが、金融・IR分野はOmega-T、企業調査レポートはKWIC Finderと使い分けてみようかなと思っています。ワードのマクロは何種類もあるのですが、自分がマクロを使ってやりたい作業というのはそれほど多くなくて、使いながら取捨選択しています。
 
 最後に、英語から日本語への翻訳(英日翻訳)と日本語から英語への翻訳(日英翻訳)について書いておきます。現在は英日翻訳をメインにしていますが、日英翻訳の引き合いもいただいています。むしろ、
最近は日英翻訳のほうが多いような気がしています。複数の翻訳会社から同じ文章、納期もほぼ同時の日英翻訳案件の打診がたびたびあり、無償で試訳の作成依頼もありました。どこかのクライアントが検討中の入札案件だったようですが、無償で翻訳するのも限度があるので途中からお断りしました。
 
 今後も、英日翻訳のための情報収集とスキルアップを継続的に行うと同時に、日英翻訳でもスムーズに対応できるように研鑽を積んでいきたいと思います。また、過去の翻訳物を有効活用できるようにパソコン内のファイルの整理もこまめに行いたいと思いますが、なかなかまとまった時間がとれなくて難しい状況です。

 



<プロフィール>

藤江 徳子(ふじえ のりこ)
証券会社や銀行などでの勤務を経て、2010年にバベル翻訳大学院金融・IR翻訳専攻を修了(MST)。現在は派遣社員として翻訳コーディネート業務をするかたわら、在宅では主に金融やIR分野の翻訳を行っている。

 

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