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これからのリーガル翻訳マーケットについて - 釈迦郡 享子

2013/07/10

「これからのリーガル翻訳マーケットについて」


釈迦郡 享子:パラリーガル。バベル翻訳大学院在学。



私は、ニューヨーク市の移民法弁護士事務所でパラリーガルとして働いていますが、今回の記事の中では、この仕事を通して感じている、リーガル翻訳マーケットの今後の展望と、リーガル翻訳プロフェッショナルに求められるスキルについて考えてみたいと思います。

 

ボーダレスに伴う法律サービスの国際化・複雑化
 
グローバル化が進み、世界が近くなって来たことについては、皆さんも日々実感されている点ではないでしょうか。私が働く法律事務所でも、
顧客は世界中にいます。日本の企業や個人に限らず、ヨーロッパ、東南アジア、カナダ等からも依頼が来ます。インターネットで連絡がとれ、スカイプ等でリアルタイムでのオンライン会議も可能ですから、ニューヨークを拠点としていても、米国外に住むクライアントと瞬時に連絡が取れ、物理的に“離れていること”に対して不便さは感じません。
 
ボーダレス化により、顧客の枠が広がることは、プロフェッショナルとしても興味深く、事務所のビジネスにとっても顧客の層が広がり良いことなのですが、
顧客の国際化が進むに連れ、リーガルサービスの業務はより多様化・複雑化します。
 
各国には、その
国特有の法律制度があり、企業文化があるため、型にはまった機械的な法的サポートではこと足りなくなるためです。例えば、私が専門とする、移民法を例にとり、外国人が米国で就労するための就労ビザの取得サポートを提供するとします。
 
クライアントは、最終的には渡航前に、
各国にある、米国大使館・領事館を通してこれらの就労ビザを取得するのですが、国により、大使館・領事館の審査基準が違ったり同じビザでも国によって、審査の手順や必要書類、面接費用の支払い方法などが違ってきます。このように、これからも、常に変化する顧客の環境やニーズに対応するためには、型にとらわれず、顧客の状況やニーズに合わせた法的サービスや翻訳サービスが提供できるよう、リサーチ能力と情報を正確に短時間で読み取る読解力が非常に重要なスキルとなるでしょう。

 

法律業務の複雑化による法的サービスの専門化
 
法的業務の複雑化に伴い、各国の法律や規定自体も、政府の方針により改正がなされたり、規制が厳しくなったりと、千変万化な動きをみせるようになりました。このような環境の中では、常に最新の法律の動向やこれからの流れを掴む必要があります。
米国では、弁護士は専門分野をもつ弁護士がほとんどですが、法律の国際化、複雑化が進むにつれ、弁護士だけでなく、法律を専門とする翻訳の世界でも
“専門化”が進むように思います。
 
今後、翻訳の世界でも、
“リーガル・トランスレーター”であるだけでなく、一歩踏み込み、専門の法律分野に特化したリーガル・トランスレーターの需要が更に高くなるのではないでしょうか。最近では、米国にまず拠点を置き、ラテンアメリカ、ヨーロッパへの進出の足がかりとされる日本企業も多いように思います。日本の企業がアメリカへ進出する際に一番始めに触れるアメリカ法は 、会社法、税法、労働雇用法、金融法、企業コンプライアンス、移民法等の分野の法律ではないでしょうか。
 
これらの分野の法律は、それぞれに複雑で、特有の専門用語や略語が使用されていますので、正確に文脈を読み取り、顧客が求める翻訳を提供するためには、まず、
翻訳家がある程度の法律の知識と法律用語を習得する必要があるでしょう。リーガルトランスレターを目指す方々は、バベル翻訳大学院でオファーされている法律のクラスを受講することで、これらの米国法の基礎を得ることもできるでしょうし、更に、オンラインを利用し、米国の大学が提供する法律分野のポッドキャストやオンラインウェビナーを受講してみるのも良いと思います。
 


生産性の効率化と業務のスピード化
 
法律産業サービスは、正確さと迅速さが求められます。どんなに法的サービスの環境が複雑化しつつある傾向にあっても、クライアントは、出来るだけコストを抑えながらも、正確で迅速なサービスを受けることを望みます。
 
また、法律業というのは、繁閑がある業種ですので、忙しい時期には、弁護士もパラリーガルも夜中まで働き詰めですが、時期によっては、収益が伸びない月もあります。忙しい時こそ、正確さとスピードが求められる、という、なんとも難しい仕事環境となります。
 
特に、
 知的財産権の訴訟準備、M&A事業再編の法的サービスなどの分野 では、膨大な量の情報処理を決められた期間に行うことが必須となります。決められた期間内に、大量の情報を正確かつ迅速に処理しつつ、法的戦略を立て、クライアントが求める質の高い法的サービスを提供するため、多くの事務所では、弁護士資格をもつスタッフと、弁護士資格を持たないスタッフのチームが組まれ、それぞれの専門性を引き立てながらチーム作業でケースが進められていきます。
 

弁護士資格を持たないスタッフの内訳としては、書類のファイリングやコピー、スケジュール管理や、顧客への応対や受付等を担当するリーガルセキュリタリー、書類作成、リーガルリサーチ等を行うパラリーガル、外国語文書の翻訳やサマリを英文で作成するリーガルトランスレーター、英語を話せないクライアントと米国弁護士とのコミュニケーションをサポートするリーガルインタープリター等となるでしょう。
 
この中で、
リーガルトランスレーターについては、プロジェクトベースで、2 9ヶ月等の集中的な期間、フリーランスのトランスレーターを募集し、プロジェクトチームに加えるケースが多いようです。訴訟準備のプロジェクトは、通常、ドキュメントレビューと呼ばれ、ニューヨーク等では、ドキュメントレビューを専門にしている翻訳もいます。これらの翻訳者は、ドキュメントレビューアーと呼ばれているようです。今後、国際化が進むにつれ、知的財産法や会社法の訴訟も複雑化、大型化することが予想され、それに伴い、専門性をもつ、ドキュメントレビューアーの需要も高くなると予想します。
 


電子化に伴う、テクノロジーへの対応力の必要性
 
上記のような環境の中で、法的サービスの効率、スピード、正確さを保つため、法的サービスでも電子化が進んできました。前述のドキュメントレビューに関しては、法的プロセスの中で最も時間と労力、コストがかかるといわれています。数万から数百万という数の資料を人がレビューし、翻訳をするというのは、顧客にとっても弁護士事務所にとってもかなりの時間とコストの負担となります。この
負担を減らすためのテクノロジーとして近年注目を集めているのが、Predictive Coding (予測コード付)の利用です。
 
この手法は、
収集した大量のデータや資料のうち、コンピュータがランダムに抽出した一部のサンプル・データを人間がレビュー、コード付けを行い、その結果に基づきコンピュータが残りのドキュメントのコード付けをしていくというものです。この手法の利用により、かなりドキュメントレビューの負担が軽減されると期待されています。 
 
膨大な資料を短時間で正確に翻訳していくことは、今後も益々求められてくるニーズと考えられます。
翻訳支援ソフトリーガルリサーチソフトウェア、また、レイアウトを保ちながら翻訳をするために、イラストレーターやAdobeなどの利用が求められるなど、リーガルプロフェッショナルにも、今後ますますテクノロジーへの対応力が求められてくるでしょう。バベル翻訳大学院では、翻訳支援ソフトやリーガルリサーチの講義も提供されていますので、これらのクラスの中で、テクノロジーの基礎を学んでおくこともとてもよい基盤作りとなるのではないでしょうか。
 


<プロフィール>
釈迦郡享子 (しゃかごおり きょうこ)
米国セント・ジョーンズ大学法学部卒業。卒業後、ニューヨーク市のNPO法人勤務を経て、現在は、移民法専門弁護士事務所にて、パラリーガルとして勤務。法律文書作成、翻訳業務に従事。現在、バベル大学院のインターナショナル・パラリーガル専攻に在学中。

 

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