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急激な円安と日本経済 -円安要因は強い米経済、地政学的混乱、弱い日本経済

2022/05/07

英文メディアで読む 第108回
 
急激な円安と日本経済
-円安要因は強い米経済、地政学的混乱、弱い日本経済
 






 
前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト
       バベル翻訳大学院プロフェッサー
 
 
 円が急激に下落している。今回は、この記録的といえる円急落の背景と経済に与える影響そして今後の見通しなどについて、メディアの報道や論調を観察した。(要約は末尾の「まとめ」を参照)。まず円安はインフレ上昇を通じて日本経済に「痛みを伴う取引」をもたらすと論じた4月2日付ウォ-ル・ストリート・ジャーナルの「Japan Gets a Taste of the Wrong Type of Inflation(日本版記事:円安の功罪、日銀に迫る悪いインフレの足音)」と題する記事から紹介する。

低金利政策の堅持を鮮明にした日銀:日銀はこの1週間で、低金利政策を堅持する姿勢を鮮明にした。他の主要中銀に追随して日銀も金融引き締めに動くとの思惑から、債券利回り(bond yield)を押し上げる動きが広がっていたためだ。10年物日本国債の利回りは3月初旬の0.17パーセントから、同月28日の取引では一時0.25パーセントを上抜けた。これは日銀が「長短金利操作(イールドカーブコントロール、YCC)」政策の下で上限(cap)としている水準だ。ところが日銀が無制限の国債買い入れオペ(公開市場操作)を実施するなどして、上限を死守する決意を改めて強調すると、国債売り(selloff)は失速した。 

デフレから脱却できていない日本経済と今後も売られる円:とはいえ、すでに急落している円は今後も継続的に売られる可能性が高い。米国の金利が上昇するなか、日米の10年物国債利回り差(yield spread)は2019年以来の水準まで拡大した。この差を意識してマネーはこの先も米国に流入するだろう。米国株がなお底堅さを維持している(resilient)状況を踏まえればなおさらだ。日銀が目指す2パーセントのインフレ達成はなお程遠い。生鮮食品を除く日本のコア消費者物価指数(CPI)は2月、前年同月比0.6パーセント上昇したが、押し上げ要因はエネルギー価格で、これを除くと、日本はまだデフレから脱却できていない(mired in deflation)だろう。 

利上げではインフレ抑制できない可能性:ロシアのウクライナ侵攻によって増幅されているエネルギー価格の高騰により、インフレ率はいずれ日銀の目標に到達するかもしれない。ただ、そうなれば日銀にとってはいくぶん厄介な問題が生じる。利上げに踏み切っても、輸入が中心の食品・エネルギーの値上がりを直接的に抑える効果は限られるとみられるためだ。それどころか、低金利がもたらす円安で、さらに大幅な値上がりを招く恐れがある。

円安進行は痛みを伴う取引(ペイン・トレード):円安は日本の輸出業者を支援するはずだが、それには時間を要する。また半導体不足といった供給の目詰まり(supply bottlenecks)によって、日本の輸出業者にそこまでの追い風は吹かないかもしれない。日本政府が依然として入国を制限していることを踏まえると、観光業界は今後も低迷する可能性がある。世界銀行によると、観光は2019年の日本の輸出全体の5.4パーセントを占めた。バンク・オブ・アメリカ (バンカメ)のアナリストは、さらなる円安進行は、日本経済にとって「痛みを伴う取引」(“pain trade”)になると指摘している。日本は市場からの圧力にもかかわらず、金融緩和政策を維持できた。円安は再開を待つ観光客には朗報かもしれないが、エネルギー価格が高止まりしたり、さらに上昇したりすると、日銀にとって頭痛の種となろう。

円安はビジネスに悪影響と日本企業の多くが回答:4月19日付フィナンシャル・タイムズは、「Yen’s slide to 20-year low puts pressure on loose monetary policy(20年ぶりの円安、金融緩和政策への圧力に)」と題する記事の冒頭で、円の対ドル相場が128円を超えて急落するなかで、日本企業の約4割が円安はビジネスに「悪影響」を与えていると回答したと述べ、113円台だった12月時点では、29パーセントしかそう考えていなかったと報じる。円安の影響を受けた企業のうち、最も割合が高かったのは衣料品と繊維製品で、次いで食品と家具装備品メーカーが多かったと伝える。

当局の円安沈静化発言に注意を払わない市場:記事によれば、為替アナリストは投機筋が今後数日間130円のラインを試すのは「避けられない」と語り、それは特に市場が日本の当局による円安沈静化のための発言(remarks)にほとんど注意を払っていないようにみえるからだという。円は今年に入ってから、対ドルですでに10パーセント下落している。日銀と財務省の最近の発言に対する市場の反応は、米国の金利が上昇を続け、日本の超金融緩和政策(ultra-loose monetary policy)が維持される限り、限定的であろうとJPモルガンの為替ストラテジストは指摘する。円が19日に下落した際、鈴木俊一財務相は、円の動きの速さと突然さを「望ましくない」(“undesirable”)と断言し、前日よりもわずかに強いトーンを採用した。

130円超の円安は岸田首相に政治的圧力がかかる可能性:政策の分裂により日米国債の利回り格差は拡大し、10年物米国債は同様の日本国債より2.6パーセントポイント以上高い水準にある。円は着実に下落し、ドルベースで今年最悪の実績を示した主要通貨となった。19日に約1パーセント下落したことで、円の為替レートは128.15円となり、2002年5月以来の低水準となった。日銀の幹部は今のところ通貨安にひるむ様子はなく(no sign of flinching)、円安は輸出企業にとって好材料であると公に歓迎している。しかしアナリストは、130円を超える円安が国内経済に重くのしかかるようになれば、岸田文雄首相が政治的圧力を受ける可能性があると予想する。 

黒田総裁はイールドカーブ・コントロール政策を任期終了まで維持:こう報じた記事は最後に日銀の今後の金融政策動向について次のように予測する。ここは原文を読んで翻訳してみよう。

The BoJ is set to release its latest monetary policy decision next week. Analysts at Citigroup expect the BoJ to maintain its so-called yield curve control policy through to the end of Kuroda’s tenure in April 2023, but have forecast a policy rate rise of 0.1 percentage points in September next year.

「日銀は来週、最新の金融政策を決定し発表する予定である。シティグループのアナリストは、日銀はいわゆるイールドカーブ・コントロール政策を2023年4月の黒田総裁の任期終了まで維持するとみているが、来年9月に政策金利を0.1パーセントポイント引き上げると予測している」

 さらに4月19日付フィナンシャル・タイムズは経済やビジネスに関する専門性の高い報道で知られるはレックス欄の記事「Japan Stocks: Weak Yen No Longer Boosts Economy Via Manufacturing(日本株、円安は製造業を通して経済を後押ししない)」で、円安がもはや日本経済を押し上げ、株価を下支えしない理由と背景について以下のように論じる。

最長の連敗記録で歴史を作っている円:円は歴史を作っている、しかし悪い意味で。火曜日は、日本の通貨がドルに対して13日連続で下落したことになる。これは、少なくとも50年間で、最も長い連敗記録である。通常、円に対する記録的な売り攻撃は、国内の輸出企業にとって追い風となる。しかし今は問題が起きている。円は1ドル128円の安値をつけ、この1年で16パーセント下落した。かつて強力だった日本の通貨は、下落を食い止めようとする政府の警告にもかかわらず、この20年間で最も円安になっている。トレーダーが警告を無視する理由はある。日米間の政策ギャップが拡大している。米連邦準備理事会(FRB)のジェイ・パウエル議長は利上げを加速させると予想されている。日本の黒田東彦日本銀行総裁は揺るぎないハト派(unwaveringly dovish)である。歴史的に、日本株は円安の恩恵を受けている。トヨタ、日立、ソニー、ホンダのような輸出大企業は、円安によって利益を得ている。こうした企業は従来、米国向けだけでなく、アジア域内での販売もドル建てで請求していた。

海外に生産拠点を移す主要輸出企業:このため、日本銀行は20年以上にわたって円安誘導に直接介入せず、口先だけの警告(verbal warnings)に頼ってきた。しかし過去10年間、日本企業は為替変動をヘッジするためもあって、海外に生産拠点(offshore production sites)を設けることが多くなった。2月には、トヨタの海外生産はグループ生産の半分以上を占め、海外売上高は全体の5分の4を占めるに至り、円安の押し上げ効果は限定的となった。同時に国内物価の上昇も日本企業に打撃を与えている。3月の東京のコア・インフレ率は2年ぶりの高水準に達した。これは経済の50パーセントを占める国内消費(local consumption)に悪い影響を与える。日本経済の約15パーセントを占めるに過ぎない輸出をいくら増やしても、それを補えない。

新常態に適応しなければならない株式投資家:上記のように論じた記事は、最後に、株式市場と円安の関係について以下のように述べる。ここは原文を読んで翻訳してみよう。

Japan’s benchmark Topix, which is down 5 per cent this year, has reacted sensitively and negatively to hawkish signals from the Fed in recent months. As the US tightens monetary policy, equity investors in Japan must adjust to a new normal where a weaker yen no longer underpins blue-chip stocks.

「日本の基準株価であるTOPIXは今年5パーセント下落し、ここ数ヶ月は米連邦準備理事会のタカ派的なシグナルに敏感かつネガティブに反応してきた。米国が金融政策を引き締めるなか、日本の株式投資家は、円安がもはや優良株の下支えにならないという新常態に適応しなければならないのだ」

 4月20日付ワシントン・ポストは「Why the Yen Has Weakened and What Japan Is Doing About It(円安の理由と日本の対応)」と題する記事で、円安の理由について次のように解説する。

主要中銀の中で際立った対応を示す日銀:日本銀行は、米国連邦準備理事会(FRB)が景気刺激策を縮小して金利を引き上げるなか、低迷する(moribund)経済を活性化させるために最低水準にある(rock-bottom)金利を維持するという、主要な中央銀行の中でも際立った対応を示している。その結果、円は劇的に安くなり、4月には対ドルで20年ぶりの安値を記録した。日銀の黒田東彦総裁は円安を気にしないと語っているが、日本国債は物価上昇が拍車をかけた債券価格の世界的な暴落(global rout)」から免れることができなかった。そのため、イールドカーブ・コントロール(yield curve control)と呼ばれる日銀の長短金利操作付き緩和政策に並々ならぬ負担がかかっている。

イールドカーブ・コントロールは安い資金で経済を潤す取り組み:通常、イールドカーブは市場の力(market forces)によって決定されるが、日銀はより実戦的な(hands-on)アプローチをとっている。2016年に採用されたイールドカーブ・コントロール政策は、10年物国債利回りを0%前後に保ち、上下に4分の1ポイント、つまり25ベーシスポイントの余裕を持たせることを目指している。これは経済成長を復活させるために、安い資金で経済を潤す取り組みの一環である。しかし今年になってFRBが金利を上げ始めたため、そのコントロールに大きな圧力がかかり、投資家は日本がそれに追随するのではないか、つまり利回りの上昇を許容するのではないかとの憶測を抱いた。

最大の円安理由はドル建て資産の高リターンと日本経済の低成長:こう述べた記事は、日銀の政策が円安を導く理由について次のように解説する。円安の最大の原因は、米国の金利が上昇し、ドル建て資産がより高いリターンを求める投資家にとって魅力的になったことにある。基準となる10年物米国債の実質利回り(インフレ調整後)は4月、2年以上ぶりにゼロを超え、債券市場は新型コロナウイルスの世界的大流行前(pre-pandemic)の正常な状態(normality)に戻りつつある。10年債の名目利回りは3パーセントに向かって上昇し、2018年以来の高水準となったが、これはトレーダーがFRBの積極的な一連の利上げ(rate hikes)に賭け続けているためである。その他の要因としては、米国経済とその労働市場が強い一方で、日本は他国に遅れをとり続けていることが挙げられる。日本の貿易収支が赤字にとどまっていることも、円安に作用していると思われる。

 最後に、円安の裏返しとしてのドル高の動きについてメディアの報道をみておこう。4月21日付ウォ-ル・ストリート・ジャーナルは「Dollar’s Upward March Reaches a Nearly Two-Year High(日本版記事:止まらぬドル高、割れる市場の見通し)」と題する記事で次のように論じる。

ドル高の要因は利上げ、力強い米国経済、地政学的な混乱:ドルはほぼ2年ぶりの高値を更新しつつある。要因は、米連邦準備理事会(FRB)の迫り来る利上げや米国の力強い経済成長、そして世界の地政学的な混乱(geopolitical jitters)だ。主要16通貨のバスケットに対するドルの価値を示すウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)ドル指数によれば、ドルは円に対し年初から10パーセント超、対ユーロでは5パーセント超上昇している。ドル高は外国からモノを輸入する米企業の利益や、外国製品を購入する米消費者の購買力(purchasing power)を押し上げる。一方で多国籍企業にとっては、米国外での製品競争力を損ない、海外の収益をドルに換算するコストがかさんで打撃となる恐れがある。

政策金利は年内に3パーセントへ、安全逃避の買いも発生予想:市場データによると、投資家はFRBが年内に政策金利のフェデラルファンド(benchmark federal-funds)金利を3パーセントに引き上げると予想している。金利が上昇すれば、より高い利回りを求める投資家はそうした通貨に引き寄せられる。ロシアのウクライナ侵攻もドルの押し上げ要因となった。それは安全逃避の買い(a run to safe-haven investments)の契機となる一方、欧州の成長を脅かしている。戦争を背景に、ロシアからのエネルギー輸入に大きく頼る欧州では物価が急騰している。

米国の成長見通しがカギ:ドルが一定以上の水準にとどまるか、懐疑的な見方もあるが、米経済指標が揺らいだり、FRBが金融市場に示した利上げ計画を撤回したりしない限り、ドルには一段の上昇余地があるとアナリストらはみている。資産運用会社などの市場参加者は他通貨よりドルの買いを増やしており、ドルと米経済の先行きを巡る楽観的な見方が揺らいでいないことがうかがえる。モルガン・スタンレーのFXストラテジー責任者は、「投資家がますますドルの買い持ちに傾き、積み増していることが分かった」と言う。「カギとなるのは、向こう半年から1年で、世界成長見通しに対する米国の成長見通しがどうなるかだ」

結び:以上のようなメディアの論調を、幾つかの論点から整理してみたい。
第1に、円安をもたらした要因である。メディアは主因として日本銀行の金融政策を挙げ、日銀が経済活性化のために最低水準にある金利の維持という、主要中銀の中で際立った対応を示し、円は劇的に安くなったと述べる。また最大の円安要因は、米金利の上昇でドル建て資産が投資家にとって魅力的になったことだとも指摘する。米金利が上昇を続け、日本の超金融緩和政策が維持される限り、市場は日本の当局による円安沈静化の発言をほぼ無視しているとし、こうした日米間の政策分裂により日米国債の利回り格差が拡大し、円は着実に下落すると論じる。事実、10年物国債は米国の方が日本より2.6パーセントポイント以上高い水準にあると報じる。その他の円安要因として、米経済と労働市場が強い一方で、日本は他国に遅れをとり続け、日本の貿易収支も赤字にとどまっていることを挙げる。
 さらに円安の裏返しとしてのドル高について、その動きは止まらないと述べ、要因として米FRBによる利上げ、力強い米経済成長、そして世界の地政学的な混乱を挙げ、ロシアのウクライナ侵攻が安全逃避の買いの契機となり、ドル押し上げ要因となっていると指摘する。今後の見通しについては、米経済指標が揺らいだり、FRBが金融市場に示した利上げ計画を撤回したりしない限り、ドルは一段と上昇余地があるとアナリストらはみていると報じる。資産運用会社などの市場参加者は他通貨よりドルの買いを増やしており、ドルと米経済の先行きを巡る楽観的な見方が揺らいでいないとし、カギは向こう半年から1年で、世界の成長見通しに対する米国の成長見通しがどうなるか、だとのFXストラテジストの見方を伝える。

第2は、上述のように円安をもたした日銀の金融政策の今後の動向である。メディアは、円安は日本企業に悪影響を与え、そのためイールドカーブ・コントロールと呼ばれる日銀の長短金利操作付き緩和政策に並々ならぬ負担がかかっていると報じる。通常、イールドカーブは市場の力によって決定されるが、日銀はより実戦的なアプローチをとり、2016年に採用されたイールドカーブ・コントロール政策で、10年物国債利回りを0パーセント前後に保ち、上下に4分の1ポイント、つまり25ベーシスポイントの余裕を持たせることを目指している。これは安い資金で経済を潤す取り組みの一環だが、今年になってFRBが利上げ始めたため、そのコントロールに大きな圧力がかかっていると指摘する。
 日本企業への影響については、企業の約4割が円安はビジネスに「悪影響」を与えていると回答したと報じ、そうした企業として衣料品、繊維製品、食品、家具装備品メーカーなど輸入品の多い業界を挙げる。アナリストは、130円を超える円安が国内経済に重くのしかかるようになれば、岸田首相が政治的圧力を受ける可能性があると予想する。今後の日銀の金融政策動向について、アナリストは、日銀はイールドカーブ・コントロール政策を2023年4月の黒田総裁の任期終了まで維持するとみているが、来年9月には政策金利を0.1パーセントポイント引き上げると予測していると伝える。

第3は、円安と迫りくるインフレの問題である。メディアは、生鮮食品を除く日本のコア消費者物価指数(CPI)は2月、前年同月比0.6パーセント上昇したが、その要因はエネルギー価格の高騰にあり、これを除くと、日本はまだデフレから脱却できていないと主張する。その一方で、円安と関連して日銀に悪いインフレの足音が迫っていると警告する。インフレ率はいずれ日銀の目標に到達するかもしれないが、そうなれば日銀にとっては厄介な問題が生じるとし、利上げに踏み切っても、輸入が中心の食品・エネルギーの値上がりを直接的に抑える効果は限られると指摘する。

第4に、円安と景気浮揚効果の問題である。メディアは、円安がもはや日本経済を押し上げ、株価を下支えしないと主張する。歴史的には、トヨタ、日立、ソニー、ホンダのような輸出大企業は従来、米国向けだけでなく、アジア域内での販売もドル建てで請求し、円に対する売り攻撃は、国内の輸出企業にとって追い風となっていたが、過去10年間、日本企業は為替変動をヘッジするためもあって、海外に生産拠点を設けることが多くなったと述べ、2月には、トヨタの海外生産はグループ生産の半分以上に達し、海外売上高は全体の5分の4を占めるに至り、円安による押し上げ効果は限定的となったと主張する。また円安は日本の輸出業者を支援するとしても時間を要し、半導体不足といった供給の目詰まりによって輸出業者にまで追い風は吹かないかもしれないと指摘する。国内物価の上昇も日本企業に打撃を与えているとし、3月の東京のコア・インフレ率は2年ぶりの高水準に達し、経済の50パーセントを占める国内消費に悪い影響を与えており、日本経済の約15パーセントを占めるに過ぎない輸出をいくら増やしても、それを補えないと指摘する。

最後に第5の問題として、円安の今後の動向がある。メディアは投機筋が今後、130円のラインを試すのは「避けられない」との為替アナリストの見方を伝えていたが、事実、円は4月28日に対ドルで一時131円台を記録した。さらにメディアは、日銀はいわゆるイールドカーブ・コントロール政策を2023年4月の黒田総裁の任期終了まで維持するだろうとの見方を伝える。

 以上を要すれば、今回の円安は、ドル高と強い米経済、ウクライナ危機という海外要因と、なおデフレから脱却できない日本経済の脆弱性が招いたものといえよう。その限りでは、円安継続は不可避という状況にある。提起された円安要因のうち、海外要因は日本としては所与の状況として受け入れざるを得ず、政策対応の目標は国内の問題となる。その国内の問題としてメディアは、米経済と労働市場が強い一方で、日本は他国に遅れをとり続け、日本の貿易収支も赤字だと指摘する。貿易収支の悪化を引き起こしているのは資源高、とくにエネルギーや食料の高騰にある。この問題に対処するには、エネルギーや食料の自給率を向上させる必要があり、これは労働市場改革と共に、久しい以前から提起されていた問題である。労働市場改革は景気回復に不可欠な賃金上昇の契機となると期待されている。賃金上昇が実現すれば、それによってインフレもコスト押し上げ型ではなく、日銀が目指している需要牽引型の良好なインフレに転換することが期待される。ただし、これらの政策対応は日銀ではなく政府が取り組むべき問題である。政策当局にとって、そうした日本経済強靭化策が喫緊の課題となっている。
 他方、日銀には資源高と円安によるインフレ要因が高まるなか、いつまで超緩和策を維持すべきか、という問題が提起されている。この問題への対応と日本経済強靭化策の取り組みが今後の円の動向を左右する大きな要因となろう。日銀は目下、円安の企業への悪影響を防ぐためにイールドカーブ・コントロールのような超緩和政策を継続しているが、明らかに矛盾した立場に置かれている。企業支援のための緩和政策の継続は、同時に円安を招いているからである。
円安を是正するには、まず為替介入策が考えられるが、他国への配慮が必要とされ、また単独介入では効果を上げにくい。その点、利上げの方が即効性に富む。しかし日銀は利上げにあくまで消極的である。その理由は、デフレから脱却しきれていない日本経済の現状と、メディアは指摘していないが、黒田総裁下の日銀が膨大な国債を抱える政府の利払い額の急増に配慮しているためとみられる。だが、日銀には過去の経緯にとらわれない、大胆な思い切った政策転換が求められている。さもないと円安は益々「痛みを伴う取引」となっていくだろう。

まとめ:まず4月2日付ウォ-ル・ストリート・ジャーナルは、円安とインフレについて問題提起し、日銀に悪いインフレの足音が迫っていると警告する。日銀も他の主要中銀に追随して金融引き締めに動くとの思惑から、債券利回りを押し上げる動きが広がり、10年物日本国債の利回りは3月初旬の0.17パーセントから、同月28日の取引では一時0.25パーセントという日銀が「長短金利操作(イールドカーブコントロール、YCC)」政策の下で上限としている水準を上抜けたと述べ、このため日銀は無制限の国債買い入れオペ(公開市場操作)を実施するなどして上限の死守と低金利政策の堅持を鮮明にしていると報じる。他方、米国の金利は上昇し、日米の10年物国債利回り差は2019年以来の水準まで拡大し、この差を意識してマネーはこの先も米国に流入し、米国株がなお底堅さを維持している状況を踏まえればなおさらだとし、日銀が目指す2パーセントのインフレ達成はなお程遠く、円は今後も売られる可能性が高いと指摘する。
 インフレについては、生鮮食品を除く日本のコア消費者物価指数(CPI)は2月、前年同月比0.6パーセント上昇したが、その要因はエネルギー価格で、これを除くと、日本はまだデフレから脱却できていないと主張する。ただしロシアのウクライナ侵攻によるエネルギー価格の高騰により、インフレ率はいずれ日銀の目標に到達するかもしれないが、そうなれば日銀にとっては厄介な問題が生じるとし、利上げに踏み切っても、輸入が中心の食品・エネルギーの値上がりを直接的に抑える効果は限られ、それどころか低金利がもたらす円安で、さらに大幅な値上がりを招く恐れがあると指摘する。また円安は日本の輸出業者を支援するとしても時間を要し、半導体不足といった供給の目詰まりによって輸出業者にまで追い風は吹かないかもしれず、世界銀行によると2019年の日本の輸出全体の5.4パーセントを占めた観光業界も、日本政府が依然として入国を制限していることから、今後も低迷する可能性があると述べ、さらなる円安進行は、日本経済にとって「痛みを伴う取引」(“pain trade”)になり、日銀にとって頭痛の種になろうと警告する。

 4月19日付フィナンシャル・タイムズは、20年ぶりの円安が日本企業に悪影響を与え、日銀の金融緩和政策への圧力になるだろう警告する。円は今年に入ってから、対ドルですでに10パーセント下落し、対ドル相場が128円を超えて急落するなかで、日本企業の約4割が円安はビジネスに「悪影響」を与えていると回答したと述べ、そうした企業として衣料品、繊維製品、食品、家具装備品メーカーを挙げる。
 今後の円安動向について、投機筋がこの数日間130円のラインを試すのは「避けられない」との為替アナリストの見方を伝え、それは市場が、米国の金利が上昇を続け、日本の超金融緩和政策が維持される限り、日本の当局による円安沈静化のための発言にほとんど注意を払っていないからだと報じる。こうした日米間の政策分裂により日米国債の利回り格差は拡大し、米国債10年物は同様の日本国債より2.6パーセントポイント以上高い水準にあるため円は着実に下落し、19日に128.15円と2002年5月以来の低水準となったが、日銀の幹部は今のところ通貨安にひるむ様子はなく、円安は輸出企業にとって好材料であると公に歓迎していると報じる。しかしアナリストは、130円を超える円安が国内経済に重くのしかかるようになれば、岸田首相が政治的圧力を受ける可能性があると予想していると述べる。今後の日銀の金融政策動向について、アナリストは、日銀はいわゆるイールドカーブ・コントロール政策を2023年4月の黒田総裁の任期終了まで維持するとみているが、来年9月には政策金利を0.1パーセントポイント引き上げると予測していると伝える。

 さらに別の4月19日付フィナンシャル・タイムズ記事は、円安がもはや日本経済を押し上げ、株価を下支えしないと主張する。歴史的に、トヨタ、日立、ソニー、ホンダのような輸出大企業は従来、米国向けだけでなく、アジア域内での販売もドル建てで請求し、円に対する売り攻撃は国内の輸出企業にとって追い風となっていたが、今は問題が起きていると指摘する。過去10年間、日本企業は為替変動をヘッジするためもあって、海外に生産拠点を設けることが多くなり、2月には、トヨタの海外生産はグループ生産の半分以上に達し、海外売上高は全体の5分の4を占めるに至り、円安による押し上げ効果は限定的となったと述べる。
 同時に国内物価の上昇も日本企業に打撃を与えているとし、3月の東京のコア・インフレ率は2年ぶりの高水準に達し、経済の50パーセントを占める国内消費に悪い影響を与えており、日本経済の約15パーセントを占めるに過ぎない輸出をいくら増やしても、それを補うことはできないと指摘する。そのうえで、日本の総合株価TOPIXは今年5パーセント下落し、ここ数ヶ月は米連邦準備理事会のタカ派的なシグナルに敏感かつネガティブに反応してきており、米国が金融政策を引き締めるなか、日本の株式投資家は、円安がもはや優良株の下支えにならないという新常態に適応しなければならなくなったと警告する。

 4月20日付ワシントン・ポストは、日本銀行は米連邦準備理事会(FRB)が景気刺激策を縮小して金利を引き上げるなか、低迷する経済を活性化させるために最低水準にある金利を維持するという、主要な中央銀行の中でも際立った対応を示していると指摘する。その結果、円は劇的に安くなり、日本国債は物価上昇が拍車をかけた債券価格の世界的な暴落から免れることができず、そのため、イールドカーブ・コントロールと呼ばれる日銀の長短金利操作付き緩和政策に並々ならぬ負担がかかっていると述べる。通常、イールドカーブは市場の力によって決定されるが、日銀は実戦的なアプローチをとり、2016年に採用されたイールドカーブ・コントロール政策で、10年物国債利回りを0%前後に保ち、上下に4分の1ポイント、つまり25ベーシスポイントの余裕を持たせることを目指していると述べる。これは経済成長の復活と安い資金で経済を潤す取り組みの一環だが、今年になってFRBが利上げ始めたため、そのコントロールに大きな圧力がかかり、投資家は日本が追随するのではないか、つまり利回りの上昇を許容するのではないかとの憶測を抱いたと指摘する。 
 そのうえで記事は、最大の円安要因は、米金利の上昇でドル建て資産が投資家にとって魅力的になったことにあるとし、トレーダーらもFRBの積極的な利上げに賭け続けたために、4月には基準となる10年物米国債の名目利回りが3パーセントに向かって上昇し、2018年以来の高水準となったと報じる。その他の円安要因として、米経済と労働市場が強い一方で、日本は他国に遅れをとり続け、日本の貿易収支も赤字にとどまっていることを挙げる。

 円安の裏返しとしてのドル高の動きについて、4月21日付ウォ-ル・ストリート・ジャーナルは、ドル高は止まらず、市場の見通しも割れていると伝える。ドル高の要因として、米連邦準備理事会(FRB)による利上げ、力強い米経済成長、そして世界の地政学的な混乱を挙げ、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)ドル指数によれば、ドルは年初から対円で10パーセント超、対ユーロで5パーセント超上昇し、市場データによると、投資家はFRBが年内に政策金利のフェデラルファンド金利を3パーセントに引き上げると予想していると報じる。またロシアのウクライナ侵攻も安全逃避の買いの契機となり、ドル押し上げ要因となる一方、ロシアからのエネルギー輸入に大きく頼る欧州で物価が急騰し、その成長を脅かしていると述べる。
 今後の見通しについては、米経済指標が揺らいだり、FRBが金融市場に示した利上げ計画を撤回したりしない限り、ドルは一段と上昇余地があるとアナリストらはみているとし、資産運用会社などの市場参加者は他通貨よりドルの買いを増やしており、ドルと米経済の先行きを巡る楽観的な見方が揺らいでいないと報じ、カギとなるのは、向こう半年から1年で、世界成長見通しに対する米国の成長見通しがどうなるかだ、とのFXストラテジストの見方を伝える。                          

 

                                                           
前田 高昭
金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。
訳書に『チャイナCEO』他。
『東アジアニュースレター』も配信中。

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