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2021年の日本その4 -東京五輪の開催に深い懸念を示すメディア

2021/07/07

英文メディアで読む 第98回
 
2021年の日本その4
―東京五輪の開催に深い懸念を示すメディア―
 






 
前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト
       バベル翻訳大学院プロフェッサー
 
 
 
 7月23日に予定されている東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、東京五輪と略称)の開催日が近づいている。欧米メディアも開催の是非や問題点について活発な論議を展開している。以下に、そうした報道や論調の概略を順次みていく。(要約については後述の注を参照)

コロナに対する勝利の祝典とは大違いとなった東京五輪:4月12日付英ガーディアンは「The Guardian view on the Tokyo Olympics: must the show go on?(東京五輪は進めなければならないショーなのか)」と題する社説で、新型コロナウイルスが再発(resurgence)し、開催国の国民の大多数が幅広く反対するなかで、延期された東京五輪の開催日が近づいていると述べ、東京五輪はトンネルの終わりにある明るさを象徴し、それは人類のコロナに対する勝利の祝典とされているが、今や楽観的でないだけでなく、全くの間違い(flat wrong)となったと指摘する。

通常を超える次元の懸念が渦巻く東京五輪:次いで社説は、五輪をめぐる懸念はチケット売上げの低迷とか、大会施設(venues)が未完成などの通常の懸念を超える次元のものだと警告を発し、感染力の強い変異株の登場や日本でのワクチン計画の遅れ、さらにブラジルやインドにおける急激な感染拡大などを挙げ、そうした中で数万人のアスリートと大会関係者、メディア関係者らが日本の首都を訪問すると指摘する。

五輪中止はアスリート、ファン、日本、IOCなどに大きな影響:五輪の中止について社説は、オリンピックの過去のカレンダーをみると、世界大戦以外の原因で空白になっている箇所はないと述べ、今回の五輪が取り消された場合には、生涯に一度となるかもしれない五輪での競技や勝利の機会を失うアスリートにとって衝撃的であり、世界中のファンを落胆させ、とりわけ日本は、2022年冬季オリンピックを開催する中国にパンデミック後、世界初となる主要なスポーツイベントの名誉(prestige)を譲りたくないだろうと述べる。そして、ウイグル人に対する人権侵害に抗議して北京五輪のボイコットの話が高まるなか、IOCは東京が確実に先行することをさらに切望するだろうとコメントする。

何よりも人命がかかる五輪開催:社説は最後に、五輪運営上は認めたくないことだろうが、数十億ドルの資金がリスクにさらされていることが大きな問題となっていると指摘、これに対して命が失われる可能性が問題なのだと述べ、日本とIOCは五輪開催が本当に正当化されるかどうかを自問しなければならないと主張する。そのうえで、社説は次のように提言する。ここは原文を読んで翻訳してみよう。

Undoubtedly, the cancellation of the Games would lead to disappointment and financial losses. However, these factors must be weighed against any risk that the Olympics could make the pandemic worse.

「間違いなく、大会の中止は失望と財政的損失につながる。とはいえ、これらの要因は、東京五輪がパンデミックを悪化させると考えられる、あらゆるリスクと比較検討されなければならない」

米政府は東京五輪の救援を拡大すべし:5月28日付ウォール・ストリート・ジャーナルは、「How to Save the Olympics(日本版記事:【社説】東京五輪を救う方法 米は支援拡大を)」で、米国は同盟国の日本のために、もっと多くの支援を提供できると述べ、4月の日米首脳会談での共同声明で「バイデン大統領は、今夏に安心で安全な五輪とパラリンピックを開催するための菅首相の取り組みを支持する」と宣言していたと指摘、バイデン氏が本気なら、米国務省が5月24日、米国人の日本への渡航に関し、日本での新型コロナ感染状況を理由に出した「中止勧告」の撤回が良い出発点になるだろうと述べ、同時にホワイトハウスは、ワクチンの供給と配布でも日本に緊急の支援を申し出るべきだと提言する。
 
東京五輪の失敗は中国政府にとってプロパガンダ上の大勝利:社説はさらに次のように論じる。日本政府への支援は、米国自体の利益にとって行う価値のあるものだ。しかし、中国が来年の北京冬季五輪の主催国であるという事実を思い起こすことも重要だ。独裁主義諸国は自国の政治モデルを顕示する場として五輪を利用する。東京五輪の失敗は中国政府にとって、プロパガンダ上の大勝利となるだろう。

国民の6割以上が五輪開催に反対:6月1日付ウォール・ストリート・ジャーナルは「Japan Faces Olympic Losses No Matter How It Handles the Games(日本版記事:東京五輪、どう対処しても失うもの多い日本)」と題する記事で、日本人の大半はワクチン接種を受けていない状態で五輪開幕を迎えるとみられていると述べ、国民の間で、新型コロナウイルスの変異株(variants)に懸念が高まっており、特にインドで最初に発見された強力な変異株に対して警戒感が強いと報じ、日本国民(the public)の6割以上が予定通りの五輪開催に反対しているとの日本経済新聞の調査を紹介する。さらに世論調査によれば、韓国など一部の国の人々は、アスリートや大会関係者が日本から帰国した際に自国でウイルス感染を広げる懸念があるとして、東京五輪開催に反対していると述べ、ニュージーランドの五輪選手団に同行予定だった医師の一部は、新型コロナ感染への懸念から同行を見送っていると伝える。

五輪選手、関係者の外部接触を断つ「バブル方式」で対処と政府:また野党・立憲民主党の枝野幸男代表は、5月31日の記者会見で、「国民の生命や暮らしを守るのが最優先だ。守れないなら五輪開催を断念すべきだ」と語り、これまでの政府の説明では、どうやって五輪を安全に開催できるのか分からないと述べていると報じる。他方、菅氏は5月28日の記者会見で五輪に関するさまざまな質問を浴びせられ、同氏は、選手と関係者が外部との接触を断つ「バブル方式」(a bubble)などの措置を適用することで感染拡大を防ぐとし、「国民の命と健康を守るのは、これは当然、政府の責務だ」と応じたと報じる。

既に喪失収入10億ドルの日本、中止で1兆8000億円の経済損失:さらに記事は五輪関連の経済的影響(economic repercussions)について、エコノミストの推計によると、日本は既に海外からの観客の入国を禁じ、他国の五輪関係者の入国を制限したことから、10億ドル(約1100億円)以上の収入を失っているが、五輪によって感染者数が急増すれば、より大きな経済的影響が生じる可能性があると指摘する。野村総合研究所 のエコノミスト、木内登英氏は、中止にした場合の経済損失が1兆8000億円を超えると予想しているが、五輪によって感染が大きく広がった場合、それに対応する費用の方が大きくなると語っていると述べ、次のように報じる。

観客を入れた場合の経済効果:日本政府と企業は既に、8カ所の新会場建設に伴う30億ドルを含め、五輪に100億ドル以上の資金をつぎ込んでいる。コロナ禍で開催が1年延期されたことで、追加の準備や感染防止対策などにかかる費用の総額は10億ドル近くに上る。現状では観客を入れるとしても日本人観客(local spectators)となるが、その場合の経済効果に関するエコノミストの見方はさまざまだ。選択肢の一つとして、会場の観客入場者数を収容能力の半分に制限する案がある。これは日本のプロ野球やサッカーJリーグでよく行われるやり方で、菅首相は28日、五輪でも利用できるかもしれないとの見方を示した。半数受け入れのケースでは、観客がゼロの場合に失われる約2000億円の観客支出のうち、野村総研によれば734億円前後を回収可能とみられる。

「五輪のレガシー(遺産)効果」も喪失した日本:大会組織関係者らは、五輪開催で日本を訪れた観光客がその後の数十年にわたり再び日本を訪れようとする、いわゆる「五輪のレガシー(遺産)効果(legacy effects)」に期待していた。経済学者で関西大学名誉教授の宮本勝浩氏は、このレガシー効果を逃すことで失われる収入は10年間で100億ドルに達する可能性があると指摘した。

大会中止損失は最大でも国内総生産の0.5パーセント未満:大会の中止は、全ての売上高が失われることを意味する。10億ドル近いチケット収入、五輪開催の興奮の中で生じるテレビ購入を含む関連商品への日本人の支出などだ。警備などの関連サービスに従事する企業との契約がもたらす経済刺激効果も失われる。ただし大会中止による損失は、最も深刻な予想でも国内総生産(GDP)の0.5パーセント未満とされる。このため最も懸念すべき五輪シナリオはパンデミックの勢いが再び増すことだ、とエコノミストらは指摘する。感染が拡大すれば、日本は再び緊急事態に追い込まれ、多くの企業が営業時間を制限したり、休業したりすることになりかねない。    

無観客開催では財政支援が必要な東京五輪:6月16日付フィナンシャル・タイムズは「Tokyo Olympics will need bailout if games go ahead without spectators(東京五輪、無観客開催であれば財政支援が必要)」と題する記事で、東京五輪が無観客で開催されることになれば、約8億ドルの公的支援が必要になろうと報じる。記事によれば、最近の予算で主催者は依然として満席の観客(full stadiums)を前提にしており、チケット販売で調達した数十億円を払い戻すには、納税者からの補助金が唯一の道であるという。

主催者側に巨額のチケット代払い戻しが発生:記事は、日本政府が五輪開催を決断している現状、観客の入場可否が最も重要な論議の一つになっていると述べ、菅首相は先の主要7カ国(G7)首脳会議でコロナウイルスの感染水準を考慮して、他のスポーツ行事において許容されている観客数を参考にして決定すると語ったと伝える。記事によれば、観客が完全または部分的に禁止される場合、遅延した五輪の開催費用の引き受けに合意している東京都にチケット払い戻し義務が発生する。組織委員会が計上した今年の予算収入6680億円のうち、900億円はチケット販売によるものと考えられており、これは大会の商業収入の約半分を占めるとされ、残りは公的資金(public funding)からきている。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が先週発表した貸借対照表によると、前受金(advance payments received)として負債項目に1183億円を計上している。そのほとんどは、約2年前に現金払いをした日本の一般市民からのチケット収入である。

無観客の開催を主張する専門家:医師や公衆衛生専門家(public health experts)は、新型コロナウイルスの感染拡大を避けるために観客なしでの開催を助言しているが、主催者やスポンサーは投資収益を得るために少なくとも一部のファンを維持しようと必死である。政府の主任医療顧問である近江茂氏は、大会における「お祭りムード」を避けるよう強く求めている。お祭り気分で飲酒する観客は、病気を広めるハイリスクの社交につながるだろう、と警告する。また「開催されるなら、無観客が唯一の選択肢だ」と東京都医師会会長の尾崎治夫氏は最近の記者会見で述べている。

有観客の開催を切望するスポンサー:スポンサーは、大会やその他のマーケティングイベントでチケットを配っているため、有観客での開催を切望している。「スポンサーにとって大きな問題は、昨年、五輪に先立って実施し始めた消費者キャンペーンの勝者が参加できるかどうかである」と、東京2020のスポンサーに五輪について助言しているマーケティングエグゼクティブの一人は指摘、「スポンサーのほとんどは、すでにチケットキャンペーンから多くの利益を得ている。これらのチケットが取り消されると多数の抗議が押し寄せるだろう」と語る。

スポンサーの足を引っ張る五輪:6月19日付エコノミスト誌は、「Once a bonanza for sponsors, the Olympics are becoming a drag(スポンサーにとって金儲け話だった五輪、今は厄介話)」と題する記事の冒頭で、料理から車作りに至るまで細部に拘る日本にしては、東京五輪は正反対の状態にあると述べ、新型コロナウイルスやワクチン接種(vaccinations)の遅れのために、五輪に観客を入場させるかどうかの問題や、あるいはそもそも五輪を開催するのかどうかも、はっきりしていないと批判し、さらに次のように述べる。

日本の評価が問われる地雷原:このことは最高の状態で五輪を迎えたいと望む人々の神経質を苛立たせている(nerve-jangling)。アスリートはもちろんのこと、五輪の財政的な支援者である企業のスポンサーたちである。支援を止めた企業はないが、一部はさらなる延長(delay)を非公式に求めている。公式メディアパートナーである朝日新聞は、国際オリンピック委員会(IOC)による開催の決意を「独善的」(“self-righteous”.)に推進していると非難している。国としてのブランドを磨き上げる絶好の機会になるはずだったものは、評価が問われる地雷原(minefield.)に変わったのだ。

商業主義と無縁でない東京五輪:次いで記事は、1896年のコダック社による宣伝広告に始まるオリンピックに深く根付いた商業主義(commercialism)の歴史について触れ、スポンサー企業とオリンピックとの密着振りについて報じるが、開催都市にとっては収益をもたらすのは稀だったと述べる。東京五輪については、主催者は1964年の前回五輪が日本の戦後復興を演出したように、今回は国内スポンサーのために、日本が何十年もの経済停滞から復活したことを祝う機会として宣伝したとのスポーツエコノミストの言を紹介する。そして東京都は、過去のオリンピック記録を2倍上回る47の主に国内の「パートナー」から30億ドル以上を調達し、IOCの14の「トップ」スポンサー(コカ・コーラ、Visa、Airbnbなどのグローバル企業)から約5億ドルを獲得したと報じる。

スポンサー企業もリスクに直面:ただし記事は、スポンサー企業は常にリスクを抱えていると述べ、今回のリスクとして、五輪の直前のキャンセルまたはコロナウイルスの感染急拡大を挙げ、日本の一部でなお緊急事態が続き、かつ人口の半数以上が五輪開催に反対していると指摘する。そうなると日本航空やNTTなどの国内パートナーは国内市場で消費者離れのリスクに直面することになり、しかも彼らは昨年、契約延長に署名し、合計2億ドルを追加投資していると報じる。またこの夏にもコロナ災害を恐れてさらに大きな金額を投じ、五輪を10月に先延ばししようとしていると伝え、その理由として、10月に、ワクチン接種を終えた人々が増え、国民の不安(disquiet)も和らいでいるかもしれないことを挙げる。

対応に苦慮するスポンサー企業:こうしたなか、一部の国内スポンサーはコンサルタントを雇い、撤退した場合のブランドに与える影響を評価している。あるアドバイザーは、マーケティングキャンペーンが「混乱している」(“in disarray”)と指摘する。無観客の場合には、会場や企業のおもてなし(corporate hospitality)での販促キャンペーンはあり得なく、商品の売り上げは低迷し、東京五輪関連ブランド品(Tokyo 2020-branded gear)は山積みとなりほこりにまみれるだろう。広告に関しては、スポンサーはメッセージがどうあるべきか、オリンピックとのつながりを誇示すべきかどうか迷っている(unsure)が、多くの企業は結論を出さず、パンデミックを念頭に置き、団結、回復力などの明るい話を前面に出しながら、アスリートたちを宣伝していると伝える。

 6月21日付ニューヨーク・タイムズは「Why Are the Olympics Still Happening? These Numbers Explain It.(数字が語る、それでもオリンピックが開催される理由)」と題する記事で、東京五輪が取り消されない理由について、数十億ドル(数千億円)の金額、数年間の準備作業、そして待ちきれない数千人のアスリートたちなどの数字を挙げ、まず新国立競技場の建設費用と五輪中止の場合に国際オリンピック委員¬会(IOC)がこうむる被害額に関連して次のように報じる。

金額のみならず国としての評価が問題:東京五輪の開会式の夜、新しい国立競技場が空席になるとすれば、154億ドルの投資の大半がどぶに捨てられた(down the drain)ことになろう。特大として知られる東京五輪は予算も記録的であり、この1年間だけで30億ドルも膨れ上がっていた。とはいえ、お金の損失に加えて、日本は国として計り知れないくらい評価を落とすことになろう。「東京五輪は世界的な超大国がそのライフスタイルを紹介する極めつけの行事だった」と、30年以上日本に住む投資アドバイザーのジェスパー・コルは語る。「要するに(At the end of the day)、建設費が回収されるかどうかではなく、国のブランドが上がるかどうかの問題なのだ」

IOCが直面する巨額の五輪取り消し料:東京五輪が開催されない場合、大会を組織し運営するIOCは40億ドルを払い戻さなければならない可能性がある。これは東京五輪に関連するテレビ放映権(television rights)の収入金額で、この数字はIOCの収入の73パーセントを占めている。五輪に関連するスポンサー企業(Sponsorships)はさらに数億ドルを占めており、五輪取り消しは、それらの企業もスポンサー料の払い戻しを求めてくる可能性がある。

各国オリンピック委員会が当てにしている「連帯支援金」:また記事は、この他の金額として米放送局、NBCユニバーサル(NBC Universal)の12億5000万ドルに達する国内広告料(national advertising)やIOCが各国オリンピック委員会に配分する5億4900万ドルの「連帯支援金(solidarity)」その他の支払額などに言及、特に支援金について、カリブ海諸国から英国など大小様々な国のオリンピック委員会がこれを当てにしていると解説する。

総勢1万5500人の選手にとって五輪は生活の全て:次いで記事は、東京五輪に出場する約1万5500人に上る選手について概略次のように報じる。五輪の延期によって出場選手も1年間、生活がストップし、余分にトレーニングすることになった。その数は総勢1万5500人で、約1万1100人のオリンピック選手と約4400人のパラリンピック選手からなり、200以上の国を代表して出場する。そのなかには結婚や大学入学、さらには出産の予定を遅らせた者もいる。したがって多くのアスリートが当然、待ちに待った五輪開催に意欲を燃やしている。夢を追いかけるために全生活を賭けてきたオリンピック選手(Olympians)にとって、五輪はすべてなのだ。五輪はスポンサーを得る機会やメダル獲得によるボーナス収入、大会後のキャリアへの門戸を開く可能性があり、多くの選手にとって世界中の観客を前にして力を披露する貴重な機会でもある。

五輪を政治的生命線と見なす菅首相:記事は最後に、菅義偉首相の世論調査支持率37パーセントを挙げ、概略次のように伝える。37パーセントは日本の菅義偉首相に対する現在の好感度評価(favorability rating)である。同氏は、政治的命運(political fortunes)が今回の五輪と余りにも強く結び付ているために中止できないと懸念しているようだ。「五輪を取り消せば、政治的には、彼は死んでいた」と東京のテンプル大学アジア研究ディレクター、ジェフ・キングストンは語り、9月に国政選挙が迫るなか、菅首相は五輪を潜在的な生命線(lifeline)と見なしていると思われると指摘する。

問題は五輪開催による公衆衛生上の災害リスク:そのうえで記事は、次のように論じる。ここは原文を読んで翻訳してみよう。

For Suga and his government, staging a successful — and safe — Olympics would offer a huge political upside. The downside, of course, is the risk of a public health disaster that costs lives and pummels Japan’s economy. That would inflict damage far more serious than just harming Suga’s personal political reputation.

「菅と政権にとって、五輪を成功裡に、しかも安全に開催することは、大きな政治的プラス要因になる。マイナス面はもちろん、公衆衛生上の災害リスクである。国民の生命を奪い、日本経済に打撃を与え、菅首相の個人的な政治的評判を傷つけるよりもはるかに深刻な損害をもたらすだろう。」

 こう述べた記事は最後に、「ゴジラ変異株が生み出される可能性がある。東京はそんなふうに人々の記憶されたいのだろうか」とのキングストン教授のコメントを伝える。

結び:以上みてきたようにメディアは、新型コロナウイルスが世界各地で猛威を振るい、感染力の強い変異株が登場するなか、東京五輪の開催について深く懸念し、問題を提起している。同時に五輪の中止は、アスリートは無論のこと、スポンサー企業を含む大会関係者、世界中のファン、22年冬期五輪へのボイコット話が高まるなか、東京が確実に先行することを切望するIOC、さらに五輪運営にからむ巨額の資金の存在など多方面に多様な影響を与える。
アスリートについては、その数が約1万1100人のオリンピック選手と約4400人のパラリンピック選手の総勢1万5500人に達し、200以上の国を代表して出場する。なかには結婚や大学入学、さらには出産の予定を遅らせた者もいる。彼らは五輪出場の夢を追って全生活を賭け、五輪がすべてだとメディアは伝える。
 主催者やスポンサーについては、東京都は、東京五輪を国内スポンサー企業のために日本が何十年もの経済停滞から復活したことを祝う機会としてとらえ、47の国内パートナーから30億ドル以上、IOCの14の「トップ」グローバル企業から約5億ドルを調達したと報じられている。こうした企業が投資収益を得るために一部のファンを必死に維持しようとしているのは理解できる。その意味で、スポンサーにとって金儲け話だった五輪が今は、五輪の直前キャンセルやコロナウイルスの感染急拡大というリスクを抱えて、厄介話となっているといえよう。スポンサー企業が、ワクチン接種の進行で国民の不安も和らいでいるかもしれない10月に五輪を再延期しようとしていると報じられているのも留意しておく必要があろう。
 資金の問題についてメデイアは、東京五輪が無観客で開催されるとなれば、東京都や組織委員会などの主催者はチケット販売で調達した1000億円有余を払い戻す必要があり、それには約8億ドル(約900憶円)の公的支援が必要になると述べ、また五輪中止の場合の経済損失は1兆8000億円を超えるとの見方を伝える。さらに五輪中止の費用はせいぜい日本の国内総生産(GDP)の0.5パーセントであり、それに比べると開催による感染拡大のコストの方が大きいと主張する。ただしメディアは、五輪中止はお金の損失に加えて、日本として計り知れないくらい評価を落とすことになるとし、国のブランドが上がるかどうかの問題だとも指摘する。
 この他にも、IOCは東京五輪に関連するテレビ放映権の収入金額40億ドルを払い戻さなければならない可能性があると報じられている。この金額はIOCの収入の73パーセントを占めており、IOCとしてかなりの負担になると思われる。またIOCが各国オリンピック委員会に配分する5億4900万ドルの連帯支援金について、カリブ海諸国から英国など大小様々な国のオリンピック委員会がこれを頼りにしているという点も留意しておく必要があろう。
もう一つ問題点として挙げられているのは、菅義偉首相の世論調査支持率である。メディアは支持率が37パーセントと低迷しており、同氏は政治的命運が今回の五輪と余りにも強く結び付ているために中止できないと考え、五輪を潜在的な生命線と見なしていると思われると述べる。確かに菅政権にとって、五輪を安全に成功させることは大きな政治的成果になるが、問題は公衆衛生上のリスクであり、国民の生命や経済に与える打撃は、菅首相の個人的な政治的評判を傷つけるよりもはるかに深刻な問題である。その意味で、日本政府とIOCは五輪開催が本当に正当化されるかどうかを自問すべきだとの主張には謙虚に耳を傾けるべきだろう。

 以上を整理すると、五輪開催の是非をめぐる論議で5つの主要な論点がみえてくる。第1は、アスリートの存在である。これまでの奮闘努力を考慮すれば、大会中止という結論には傾き難い。第2は、IOCやスポンサー、開催都市の東京などの利害関係者である。中止となれば、いずれも巨額の費用負担の問題が生じる。第3は、日本という国の名誉や評価の問題である。しかし、国民の生命保全という観点からみると、自ずと方向性がみえてくる。第4は、北京冬季五輪を来年主催する中国を視野に入れた地政学的視点である。メディアは、東京五輪が失敗すれば、自国の政治モデルを顕示する場として五輪を利用する中国政府を利すると報じる。第5は、日本の政局である。同じくメディアは、菅首相は五輪開催を潜在的な政治生命線と見なしていると思われると指摘する。

 しかし、これらの論点を越えて結論は既に示されていると言えよう。ニューヨーク・タイムズが懸念しているように、東京五輪は、まかり間違うと新型コロナウイルスの感染爆発を引き起こし、世にも恐ろしい変異株ゴジラを生み出す可能性があるのだ。海外メディアは、そうした警戒感や危機感を明確に発信している。菅首相は、国民の生命を守るのは政府の責任だと幾度となく宣言し、バブル方式で開催中の感染防止に努めるとしているが、詳細は必ずしも明らかでない。しかし海外メディアは、日本のみならず、日本発の大変異株の発生を恐れている。日本政府と主催者の責任は、誠に重大と言わざるを得ない。
 こうした五輪反対の大合唱のなかで、ウォール・ストリート・ジャーナル社説が唯一、東京五輪が失敗すれば、北京冬季五輪を来年主催する中国政府にとってプロパガンダ上の大勝利となると指摘し、米政府に対して東京五輪の支援に動くべきだと主張しているのが注目される。これは唯一の東京五輪擁護論といえる。

(注)要約:メディアはまず、新型コロナウイルスが世界各地で今なお猛威を振るい、感染力の強い変異株などが登場するなか、開催される東京五輪をめぐる懸念は、人命が関係しており、その意味で通常の懸念を超える次元のものと論評する。同時に、五輪の中止は、アスリートは無論のこと、大会関係者、世界中のファン、22年冬期五輪へのボイコット話が高まるなか、東京が確実に先行することを切望するIOC、さらに五輪運営にからむ巨額の資金の存在など多方面に多様な影響を与えると述べ、東京五輪に出場する選手は、その数が約1万1100人のオリンピック選手と約4400人のパラリンピック選手の総勢1万5500人にも達し、200以上の国を代表して出場すると伝える。

 資金の問題については、ウォール・ストリート・ジャーナル記事によれば、日本は既に海外観客や五輪関係者の入国禁止や制限によって収入を失い、新会場建設費用や開催の1年延期諸掛かりなどで総額120億ドル余りの費用を負担している。五輪中止の場合の、いわば「得べかりし利益」の喪失として10億ドル近いチケット収入と、五輪開催で日本を訪れた観光客がその後の数十年にわたり再び日本を訪れようとする「五輪のレガシー(遺産)効果)」を逃すことで失われる収入が10年間で100億ドルに達する可能性を挙げる。また五輪を中止にした場合の経済損失は1兆8000億円を超えるとの野村総合研究所エコノミストの予想も伝える。そのうえで、五輪中止の費用はせいぜいGDPの0.5パーセントであり、それに比べると五輪開催による感染拡大のコストの方が大きいと主張する。

 この他にも、IOCは東京五輪に関連するテレビ放映権の収入金額40億ドルを払い戻さなければならない可能性があると報じる。この金額はIOCの収入を占めている。この他の金額として米放送局、NBCユニバーサルの12億5000万ドルに達する国内広告料やIOCが各国オリンピック委員会に配分する5億4900万ドルの「連帯支援金」その他の支払額などに言及、特に支援金について、カリブ海諸国から英国など大小様々な国のオリンピック委員会がこれを当てにしていると解説する。

 もう一つの論点は、菅義偉首相の世論調査支持率である。メディアは支持率が37パーセントに低迷しており、同氏は、政治的運命が今回の五輪と余りにも強く結び付ているために中止できないと懸念しているようだと述べ、五輪を潜在的な生命線(lifeline)と見なしていると思われると指摘する。ただし記事は、菅と政権にとって、五輪を安全に成功させることは大きな政治的成果になるが、問題は公衆衛生上のリスクであり、国民の生命を奪い、日本経済に打撃を与え、菅首相の個人的な政治的評判を傷つけるよりもはるかに深刻な損害を与えると警告する。
 五輪運営では数十億ドルの資金がリスクにさらされていることが問題視されているが、人命が失われる可能性があることの方が大きな問題だと述べ、日本とIOCは五輪開催が本当に正当化されるかどうかを自問すべきだと主張する。

 他方、フィナンシャル・タイムズは、東京五輪が無観客で開催されるとなれば、東京都や組織委員会などの主催者はチケット販売で調達した1000億円有余を払い戻す必要があり、それには納税者からの補助金が唯一の道であり、約8億ドル(約1100憶円)の公的支援が必要になろうと報じる。記事によれば、医師や公衆衛生専門家は観客なしでの開催を助言し、大会における「お祭りムード」を避けるよう強く求めているが、主催者やスポンサーは投資収益率を得るために少なくとも一部のファンを維持しようと必死である。
 その意味で、エコノミスト誌は、スポンサーにとって金儲け話だった五輪が今は厄介話となっていると論評する。もともと今回の東京五輪は国内スポンサーのために、日本が何十年もの経済停滞から復活したことを祝う機会として宣伝してきており、東京都は過去のオリンピック記録を2倍上回る47の主に国内の「パートナー」から30億ドル以上、IOCの14の「トップ」グローバル企業のスポンサーから約5億ドルを獲得したと報じる。こうしたスポンサー企業は今回のリスクとして、五輪の直前のキャンセルまたはコロナウイルスの感染急拡大を抱えている。このため国民の不安も和らいでいるかもしれない10月に五輪を再延期しようとしていると伝える。

 ニューヨーク・タイムズ記事は、東京五輪が取り消されない理由は数字を見ればわかると述べ、開催に費やされた数十億ドル(数千億円)の金額、数年間にわたる準備作業、そして待ちきれない数千人のアスリートなどの数字を列挙、一例として新国立競技場の建設費用として154億ドルが投資されていることを挙げる。ただし五輪中止は、お金の損失に加えて、日本として計り知れないくらい評価を落とすことになるとし、国のブランドが上がるかどうかの問題だと指摘する。さらにニューヨーク・タイムズは、東京五輪は、まかり間違うと新型コロナウイルスの感染爆発を引き起こし、その結果、世にも恐ろしい変異株ゴジラを生み出す可能性があるとの懸念を表明する。

 こうした五輪反対の大合唱のなかで、ウォール・ストリート・ジャーナル社説は、東京五輪が失敗すれば、北京冬季五輪を来年主催する中国政府にとってプロパガンダ上の大勝利となると指摘し、米政府に対して東京五輪の支援に動くべきだと主張する。

                                                           
前田 高昭
金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。
訳書に『チャイナCEO』他。
『東アジアニュースレター』も配信中。

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