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2021年の日本その2- コロナ後の世界の復興に貢献する日本の技術

2021/04/07

英文メディアで読む 第95回
 
2021年の日本その2
―コロナ後の世界の復興に貢献する日本の技術
 






 
前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト
       バベル翻訳大学院プロフェッサー
 
 
 3月24日付フィナンシャル・タイムズは、日本政府をコンテンツ・パートナーとする特集記事を発表し、コロナ後の世界のレジリエンス(回復力、再起力)構築に貢献できるとする日本独自の技術につい幅広く紹介している。(要約は後述の注1を参照)

コロナ後の世界のレジリエンス構築に貢献する日本:記事は冒頭で、日本はその独自の技術を生かして新型コロナウイルス感染症後の世界の復興に貢献できると報じる。早速、この冒頭の原文を紹介し翻訳してみよう。

With its culture of fortitude in adversity, tested ability to bounce back from natural disasters, and a wealth of cutting-edge technologies, Japan is uniquely positioned to contribute to building greater resilience in the post-Covid world.

「逆境の中での不屈の精神という文化や自然災害からの試練を経た復旧力、そして豊富な最先端技術を備えた日本は、その独自な立場を生かして、新型コロナコロナ感染症後の世界においてレジリエンスの構築強化に貢献する。」
 
 こう論じた記事はさらに、日本企業や起業家は24時間体制でイノベーションを追求し、「より良い復興」(Build Back Better)を実現していると述べ、そうした日本は地球に利益をもたらす国だと指摘、医療イノベーション、インフラ復旧力、グリーンかつリーン成長という3つの観点から日本の技術を紹介する。

医療インフラ・レジリエンス構築の源泉となった日本:そのシリーズ記事の第1号が「Japanese healthcare tech evolved for a post-Covid world(新型コロナウイルス後の世界のために進化する日本の医療技術)」と題する特集記事である。まず、健康イノベーションの促進について概略次のとおり伝える。
 パンデミックは、私たちの生活のあらゆる面にわたって革新に拍車をかけている。私たちが健康をいかに維持するかという問題が、この最も明確な分野である。このことは、優れた国民皆保険(universal health care)で知られ、世界で最も長寿を誇る日本も例外ではない。この1年で、日本はパンデミックと戦い、医療インフラで大きなレジリエンスを構築するための発明の源泉となった。遠隔医療(telemedicine)、ロボット手術(robotic surgery)、モノのインターネット(Internet of Things、IoT)、ヘルスデバイスなどの新しいソリューションは、日本企業が立ち上げ、規制の変更が後押ししたのである。

日本発のAIとロボット駆動型デジタルヘルスソリューション:ロボット工学の大国(powerhouse)として、日本は独自の医療イノベーションを加速している。これらの開発は、コロナ後の世界のための賜物(boon)になるだろう。世界経済フォーラムは、デジタル技術力の活用は、すべての人にとって効率的でアクセスしやすく、効果的な医療の実現に不可欠であると指摘している。さらにこうした医療技術は、コロナ後の経済成長の重要な原動力になる。デジタルヘルスソリューション需要が、次の1兆ドル規模のグローバル産業分野になるとの見方もある。これには2つのケースが考えられる。人工知能(AI)駆動型の医療調査ソフトウェアと遠隔手術を可能にするロボットである。いずれも日本の新しい健康イノベーションを実証するものである。

革新的なAI問診ユビー:AIを活用した医療問診については、ヘルステックのスタートアップ、ユビー(Ubie)株式会社が開発したAI問診ユビーが昨年、目を見張るような革新的なヘルスケアアプリの1つとなった。独自のアルゴリズムを使用し、タブレットを介してソフトウェアとインターフェースする患者と予備問診を行い、症状や医学的背景に関する質問に対する患者の回答に応じて自動的に質問を調整する。また患者からの応答に基づいて医師に潜在的な病気を示唆するとともに、患者の答えを臨床メモとして文書化し、医師によるメモ書き込みの労を軽減する。パンデミックの発生以来、スマートフォン版の「病院用ユビー」が一般に公開され、最良の治療を受けられる医療提供者を選び易くなった。このアプリに追加された「コロナウイルス-トリアージ(選別。triage)」拡張機能は、Covid-19(新型コロナウイルス感染症)のような症状について医療提供者に警告を発し、病院や診療所は事前に潜在的なコロナ患者の到着に備えられるようになる。

日本の進化するロボット技術:次に手術ロボットの台頭がある。ロボットに定評がある日本は、世界の産業用ロボットの主要サプライヤーである。日本のロボット技術の革新は、工場の現場を超えてサービス、農業、介護(nursing care)、学校、医療処置(medical procedures)へと大きく拡大している。日本の規制当局は昨年8月、同国初のロボット支援手術システム「火の鳥外科用ロボットシステム」を承認した。「火の鳥」は、手術に必要な外科医の敏感な動きを実現できるロボット支援手術システムで、川崎重工業とシスメックスの合弁会社であるメディカロイド・コーポレーションが開発した。このシステムは、内視鏡と手術器具に取り付ける4本のアームを装備している。外科医はコックピットで高精細3Dビデオを見ながら、これらのロボットアームを遠隔操作する。システムはコンパクトで緊急時に動かしやすく、既存の外科室への取付けも容易で、購入および維持の点で費用効果が大きい。当初、前立腺癌やその他の泌尿器疾患の治療のために設計されたが、神戸に拠点を置くメディケイドは治療を拡大する計画である。研究者、医師、公共部門と協力して、同社は「進化するロボット」(“evolving robot”)にしたいと考えている。

コロナ後のレジリエントな世界に貢献する日本の技術:こう論じた記事は最後に、オンライン医療相談からロボット手術システムなどまで、起業家のイノベーションに合わせた日本政府の施策によって、日本国内のヘルス技術革新は加速したと指摘し、こうした技術ソリューションは、日本の健全な回復を支援するだけでなく、他の国々が現在のパンデミックと戦う上でも役立つかもしれないと述べ、長期的には、これらの技術と他の日本の技術は、コロナ後のレジリエンスのある世界構築に貢献するはずだと強調する。

破壊適応可能ユーティリティと輸送インフラも提供する日本:次にインフラ・レジリエンスについて観察する。記事は旧常態(OLD NORMAL)と題して、次のように論じる。「より良い復興」の概念は長い間、日本人のための標準的な操作手順だった。実際、このフレーズは、2015年に仙台で開催された国連防災世界会議で用いられている。菅義偉首相は今年1月、国会での所信表明演説(policy speech)で、復興を通じたレジリエンスの重要性を強調した。今日、日本は地震に強い都市景観で知られ、破壊に適応可能なユーティリティおよび輸送インフラも提供している。東日本大震災から10年が経ち、壊滅的被害を受けたコミュニティは回復し、より良い復興を遂げた。同様にパンデミックも、日本の資源と創意工夫を触媒として活用し、公共スペースの安全性強化につながっている。モビリティ、セキュリティ、衛生の分野で、日本はこの1年に技術革新をもたらした。それは日本を越えてインフラに対するレジリエンスを高めるだろう。
    
安全旅行を保証する空気清浄機:こう述べた記事は、安全な旅行(SAFE TRAVELS)を保証する交通インフラとして、パナソニックの高度な抗菌素材を備えた特別な空気清浄機(air-purifiers)、ナノイーX機器(NanoeX)を挙げる。同社の空気浄化技術は幅広い用途を持っており、その独自の「ナノ」技術は、臭いやアレルゲンを減らすだけでなく、空気中のウイルスや細菌などの病原体抑制力も発見されていると伝える。そのうえで「クリーン」がキーワードになっているコロナ時代には、日本からの輸送スペースのウェルネス(健康)イノベーションは、他の地域でも需要が高まる可能性があると指摘する。

マスク着用者の顔認識技術:記事はさらにマスク着用者の顔認識技術(facial recognition engine)を次のように紹介する。9月、日本のテクノロジー企業であるNECは、マスクを着用しても99.9パーセントの精度と1秒以下の検証時間で提供できる新しい顔認識エンジンの開発を発表した。この技術はタッチレスで非接触性(touchless and contactless)であり、ユーザーがマスクを外す必要がなく、しかも特別なカメラや機器なしで作動するので、非常に衛生的(hygienic)で利便性に富む。企業、教育機関、公共施設、商業施設、イベント会場(event venues)、テーマパークの入退出システムとして利用できる。ルフトハンザドイツ航空とスイス国際航空が昨年11月以降、フランクフルト空港とミュンヘン空港で導入した。

使用水のリサイクル技術を開発した日本のスタートアップ:この他に記事は、使用水の98パーセント以上をリサイクルする日本のスタートアップによるコンパクトでポータブルな手洗いステーションを取り上げ、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に記載されている「すべての人のための水と衛生の可用性と持続可能な管理を確保する」という緊急の課題に対応するための独創的なソリューションだと紹介する。
    
グリーンでリーンな成長を追求する日本:最後に、「Greener, Leaner Growth through Japanese Tech(日本の技術を通じてグリーンかつリーン成長を追求する)」と題する記事からグリーンでリーンな経済成長を推進する日本の努力をみていく。記事は、この1年でクリーンテクノロジー、再生可能エネルギー、グリーンボンド発行に対する世界的な支出、そして環境・社会・ガバナンス(ESG)に関するガイドラインによる投資が急増したと述べ、今年後半に国連気候変動会議(COP26)を開催する英国は、グリーンファイナンスにおけるリーダーシップの地位を拡大すべく気候変動に取り組み、グリーン創出プロジェクトへの資金提供のために、史上初のソブリングリーン債を発行する計画だと報じる。また気候関連財務開示に関するタスクフォース(TCFD)報告基準を25年までに完全に義務付けることを目標にして、堅牢な環境開示基準の推進を公約している。

グリーンウェーブに取り組む日本政府と企業:日本も真剣に取り組んでいる(step up to the plate)と次のように伝える。日本政府は2050年までにカーボンニュートラルに取り組み、輸送用水素、燃料電池車(fuel cell vehicles)、蓄電(power storage)などのクリーンエネルギー技術を含むコロナ後の投資に数十億ドルを発表した。日本の投資家や企業もグリーンウェーブの波に乗ろうとしている。過去5年間で、日本の機関によるESG投資は、2020年12月時点で12倍の310兆円に達した。一つには、日本のスチュワードシップ・コード(Stewardship Code)の最近の改革によって推進されている。21年2月現在、日本に本社を置く341社がスチュワードシップ・コードのガイドラインを支持しており、この数は他のどの国よりも多い。また英国の非営利団体CDPから、環境への影響がもたらすリスクに対する取り組み方において過去最高の数の日本企業が「Aリスト」ランキングを獲得した。

ロボット工学を通じてグリーン生産に貢献する日本:次いで記事は、グリーンで自動化された生産には、ロボット学習を通じる工場の効率化が必要だと指摘し、ロボット工学(robotics)とオートメーション技術の世界的リーダーの一人である日本は、コロナ以降の世界における生産環境のグリーン化(greener production)に重要な役割を果たしていると次のように論じる。
 日本は世界で最もロボット集約型経済(robot-intensive economies)の一つであり、世界の産業用ロボットの主要サプライヤーだ。人口減少による労働力不足に直面した日本企業は、長い間、ロボットなどの自動化技術(automation technologies)に投資してきた。パンデミックの下で自動化と生産性向上のニーズが急増し、人がロボットと並んで作業する半自動化プロセスに対する世界的な需要が高まるなか、人とロボットが協働する共同ロボット、すなわちコボットの生産が増えていると日本のメーカーは語り、軽量で小さく安全柵を必要としないコボットは、混雑や感染リスクを減らし、特に手動プロセスに大きく依存している中小企業の生産性向上に活用できると述べている。

ロボットによる自動化の利点:さらに記事は、日本メーカーの言として次のように報じる。自動化の利点は、より少ない量でより多くを作るだけでなく、環境フットプリント(environmental footprint)を減らし、変化するニーズに対して経済を柔軟にし、将来の未知数に対する耐性を高める(more resilient)ことにある。ロボットは、再プログラムし、新しい需要を満たすことが可能で、例えば普段は服を作っていたロボットは、パンデミックに際してマスク生産に転用できる。こうした柔軟性は、製造をカスタマイズする能力を意味する可能性もある。個々の好み(individual tastes)に合わせて柔軟な生産ができるのである。

グリーンかつリーン生産の呼び掛けに応える日本政府の戦略:こうしたメーカーのビジョンは、社会的課題解決のためにデジタル技術を展開し、人間中心の社会(human-centred society)を目指すSociety 5.0(注2)を実現するとの日本政府のビジョンを反映している。イノベーションを通じて社会的課題を解決し、経済発展と両立させるのが日本政府の中核的戦略である。こうしたアプローチは、コロナ後の世界で大きなレジリエンスを構築するために、グリーンかつリーン生産(green and lean manufacturing)を求める最近の世界的な呼び掛けに呼応している。そして日本の技術がコロナ後の回復への道を推し進められるのだ。

 次に、プロテニス選手で昨年の全米オープンと今年の全豪オープンを制した大坂なおみが、ウォール・ストリート・ジャーナルに寄稿した「Naomi Osaka on the Pandemic Year: Finding Success Off the Court.(日本版記事:コロナの1年「成功はコートの外に」)」と題する記事を紹介したい。記事は、遠征で動き回っているなおみ選手にとって、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)はじっとしていることの素晴らしさ(beauty of stillness)を教えてくれたと概略次のように伝える。

パンデミックは自分の思考と心の中を見つめ直す機会:私たちは行動すればするほど生産的になれる(more productive)と思わされているが、パンデミックは必ずしもそうではないことを証明している。常に行動しているからといって、人生が創造的(creative)でポジティブな方向に向かっているわけではない。渡航ができないことで、私は自分の思考と心の中を見つめ直し、新たな方法で成長することができた。初めて、ニュースをもっと頻繁に、そして、より深く読んだり聴いたりし、世界に影響を与えている問題を理解することができた。世界を飛び回っていないのに、もっと世界について知るようになった(more globally aware)というのは皮肉な(ironic)ことだ。

自信を与えてくれる肌の色:私はまた、自分自身の肌(my own skin)について――私という人間や、私の出生について――とても心地よさを感じている(comfortable)ことに気づいた。おかげで、関心のある問題に取り組むために適切なら、声を上げて、はっきりと主張する自信が持てるようになった。多くの人にとって、このコロナ禍に愛する人たちと一緒に自宅で過ごせるのはせめてもの救い(silver lining)となっている。私自身は、幸せがテニスコートの中での成功よりも外に関係していることに気づくことができた。家族や友人と過ごす時間はお金で測ることはできない。パンデミックは私たち皆にそうした時間が当たり前ではないと教えている。
  
本当の成功はコートの外にある:パンデミックによる悲劇はいうまでもないが、ポジティブな側面(offshoots)もある。私の場合、優先事項をリセットして再評価し、あらゆることを総点検することができた。私はとても野心的なので、今後もコートの中で成長を続けたいと望んでいるのは確かだ。だが今では、私にとって本当の意味での成功はコートの外にあると分かっている。世界にはまだ多くの癒やしが必要だ。だが愛と思いやりをもって支え合うなら、私たちは以前より強く前に進んでいけるだろう。

 以上が寄稿のほぼ全容であるが、結びの箇所について原文を紹介すると、次のとおりである。

The tragedy of it all is self-evident, but there have been positive offshoots. For me, the pandemic has allowed me to reset and reassess my priorities and evaluate everything. I’m hugely ambitious, so I definitely want to continue making progress on the court. But now I know that my real success will be determined off the court. The world still has a lot of healing to do, but if we stick together with love and kindness, we will move forward stronger than before.

気候危機が桜早咲きの原因:最後に、今年は早々と咲き、散ってしまった桜に関する不気味な報道をみていく。3月30日付英ガーディアンは「Climate crisis 'likely cause' of early cherry blossom in Japan(気候危機が桜早咲きの原因か)」と題する記事で、今年は日本全土で史上最も早く桜が開花したが、それは地球温暖化(global warming)が原因だと報じる。記事によれば、今年は日本各地で70年近く前の統計開始以来、最も早く桜が満開(peak bloom)となった。例年であれば、新学期に満開となるはずが、今年はその時期には散ってしまっていたのだ。専門家は気候変動危機が原因ではないかと語っている。気象庁(Japan Meteorological Agency)は全国で58本の「標本木」(“benchmark” cherry trees)を追跡しており、今年はすでに40本がピークに達し、14本が過去最速で満開に達している。桜は気温の変化に敏感で、開花のタイミングは気候変動研究のための貴重なデータになっていると専門家は語る。

京都でも気温が上昇し過去最速で桜が満開:古都、京都でも今年は気象庁が1953年にデータ収集を開始して以来最も早い3月26日に満開となり、過去30年間の平均を10日上回った。同様のことが今年、全国の十数都市で記録された。京都に関する歴史的文書や日記、詩集などの記録に基づいても、これまでで最も早い満開だと指摘されている。気象庁のデータによると、京都の3月の平均気温は1953年の8.6°Cから2020年には10.6°C(51.1°F)に上昇している。

結び:日本の技術がコロナ後の世界の復旧、復興に貢献できるとすれば、素晴らしいことである。フィナンシャル・タイムズ特集記事は、この点に関して具体的で説得力のあるレポートを提供している。貢献分野を3つに分けて解説しているのも分かりやすい。「より良い復興」(ビルド・バック・ベター)の実現という切り口も、この言葉が2015年に仙台で開催された第3回国連防災世界会議で採択され、仙台防災枠組で公式に定義された日本発の用語で、今や世界で使用されるに至った経緯からみても、それなりに適切なプレゼンテーションと言える。ただし以上のようなことは、日本政府がコンテンツ・パートナーとなっている特集記事であることから当然とも言えよう。
 医療とインフラ分野で例示された日本独自の技術も、日本発のロボット支援手術システム「火の鳥」やAI問診ユビー、同アプリに追加された「コロナ-トリアージ(選別)」拡張機能、そして安全な旅行を保証する交通インフラとして、パナソニックの空気清浄機、ナノイーX機器とNECのマスク着用者の顔認識技術、コンパクトなポータブル手洗いステーションと多彩である。クリーンかつリーン成長の分野でも、2050年までのカーボンニュートラル達成という日本政府の目標や日本企業による巨額のESG投資、さらに軽量で小型のコボットというコロナ以降の世界における生産環境のグリーン化に重要な役割を果たすと期待される技術が注目される。記事は、こうした日本企業の技術はSociety 5.0を実現するという日本政府のビジョンを反映していると伝え、イノベーションを通じる社会課題の解決と経済発展を両立させるのが日本政府の中核的戦略だと指摘する。何はともあれ、日本政府と企業は上記のような世界の期待に是非応えてほしいものである。

 またウォール・ストリート・ジャーナルが伝えるプロテニス選手、大坂なおみのメッセージはコロナの時代にあって、大変含蓄に富む内容である。絶えず行動しているからといって、人生が創造的でポジティブな方向に向かっているわけではないと述べ、パンデミックは自分の思考と心の中を見つめ直す機会となり、じっとしていることの素晴らしさを教えてくれたと述懐する。また自分の肌、自分という人間やその出生について、とても心地よさを感じていると語り、おかげで、関心のある問題に取り組むために適切なら、声を上げて、はっきりと主張する自信が持てるようになったと宣言する。黒人への差別や直近ではアジア系米人への憎悪犯罪に抗議する大坂選手の面目躍如たる率直な告白である。そして幸せはテニスコートの中での成功よりも外に関係しており、家族や友人と過ごす時間はお金で測ることはできないと心情を吐露し、コートの中で成長を続けたいという野心を確かに持っているが、本当の意味での成功はコートの外にあると明言する。そのうえでlove and kindnessという言葉で最後を飾る。コロナの時代、人々は互いに距離を置くことを余儀なくされ、たださえ疎外感を募らせている。そうした異常な状況にあって、人間関係の持つ意味を独自の感性で捉え、世界に対してメッセージを発信している。
 最後に紹介した桜の開花と満開の時期に関する論評は、日本の象徴ともいえる桜の花の異変は地球が直面する喫緊の課題と関連していると問題提起する。これまで桜の開花は、春の訪れや新学期、新年度の始まりを告げる風物詩だったが、このまま温暖化が進めば、冬や年度の終わりの到来を伝える単なる自然現象になりかねない。日本の独自のテクノロジーがパンデミック後の世界の復興だけでなく、地球救済ためにも貢献することを期待したい。(

(注1)要約:記事は、日本はそのテクノロジーを通じてコロナ後の世界のレジリエンス(再起力)構築に大きく貢献できる立場にあると伝え、医療、インフラ、グリーンかつリーン成長という3分野に分けて論じる。内容は、日本独自の技術について幅広く精細に分析して紹介している。日本は地球に利益をもたらす国であり、日本企業や起業家は24時間体制でイノベーションを追求し、「より良い復興」を実現している、と述べ、医療分野で、遠隔医療、ロボット手術、モノのインターネット、ヘルスデバイスなどの新しいソリューションを挙げて、日本はパンデミックとの戦い、医療インフラで大きなレジリエンスを構築するための発明の源泉となっていると指摘する。

 さらに日本発のAIとロボット駆動型デジタルヘルスソリューションに言及し、ロボット工学の大国として日本は独自の医療イノベーションを加速しており、こうした医療技術はコロナ後の経済成長の重要な原動力になると述べ、デジタルヘルスソリューション需要が、次の1兆ドル規模のグローバル産業分野になるとみられると伝える。そうした日本発のデジタルヘルスソリューションとして、ロボット支援手術システム「火の鳥」とAI問診ユビーを革新的なヘルスケアアプリとして紹介、スマホ版「病院用ユビー」が一般に公開されたことで、最良の治療を受けられる医療提供者を選び易くなったと報じる。またアプリに追加された「コロナ-トリアージ(選別)」拡張機能はコロナ症状を医療提供者に警報する機能があり、病院や診療所は事前に潜在的なコロナ患者の到着に備えられると報じ、長期的には、こうした日本の技術はコロナ後のレジリエンスのある世界構築に貢献するだろうと強調する。

 インフラ・レジリエンスについても、日本では旧常態(OLD NORMAL)として「より良い復興」の概念が標準的な操作手順だったと述べ、菅義偉首相も国会での所信表明演説で、復興を通じたレジリエンスの重要性を強調したと伝える。今日、日本は地震に強く、破壊に適応可能なユーティリティおよび輸送インフラを提供しており、東日本大震災で大被害を受けたコミュニティは回復し、より良い復興を遂げ、またパンデミックは日本の資源と創意工夫を触媒として活用され、モビリティ、セキュリティ、衛生の分野で日本はこの1年に技術革新をもたらしたと指摘する。具体的には、安全な旅行を保証する交通インフラとして、高度な抗菌素材を備えた特別な空気清浄機、パナソニックのナノイーX機器とNECが開発したマスク着用者の顔認識技術を紹介する。前者につついては、こうした日本からの輸送スペースのウェルネス(健康)イノベーションは、「クリーン」がキーワードになっているコロナ時代には、他地域でも需要が高まるだろうと指摘、後者は、マスクを着用しても99.9パーセントの精度と1秒以下の検証時間で提供できる新しい顔認識エンジンで、ユーザーがマスクを外す必要がなく、しかも特別なカメラや機器なしで作動するので、衛生的で利便性に富むと解説する。さらに使用水の98パーセント以上をリサイクルする日本のスタートアップによるコンパクトなポータブル手洗いステーションを取り上げ、国連のSDGsに記載されている「すべての人のための水と衛生の可用性と持続可能な管理の確保」という課題に対応する独創的なソリューションだと紹介する。

 最後のグリーンかつリーン成長については、クリーンテクノロジー、再生可能エネルギーへの関心が世界的に高まり、グリーンボンド発行や環境・社会・ガバナンスに関する投資が急増するなか、日本政府も問題に真剣に取り組み、2050年までのカーボンニュートラル達成という目標を掲げて、輸送用水素、燃料電池車、蓄電などのクリーンエネルギー技術を含む数十億ドルのコロナ後の投資を発表、日本の投資家や企業も2020年12月時点で過去5年間に12倍となる310兆円のESG投資を行ったと報じる。これは、一つには日本のスチュワードシップ・コードの最近の改革によるもので、21年2月現在、世界最多となる日本企業341社がスチュワードシップ・コード・ガイドラインを支持し、また環境への影響リスクに対しても積極的に取り組んでいると述べる。

 次いで、パンデミックの下で自動化と生産性の向上のニーズが世界的に急増し、日本メーカーが生産する、人とロボットが協働するコボットの生産が増えていることを挙げ、日本は、コロナ以降の世界における生産環境のグリーン化に重要な役割を果たしていると指摘する。軽量で小型のコボットは、混雑や感染リスクを減らし、手動プロセスに大きく依存している中小企業の生産性向上に活用できると述べ、またロボットは再プログラムし、例えば普段は服を作っていたロボットはマスク生産に転用可能で、こうした柔軟性は製造をカスタマイズする能力をも意味すると論じる。

 最後に日本メーカーの言として、自動化の利点は環境フットプリントを減らし、変化するニーズに対して経済を柔軟にし、将来の未知数に対する耐性を高めることにもあると述べ、こうしたメーカーのビジョンはSociety 5.0を実現するとの日本政府のビジョンを反映していると伝える。イノベーションを通じる社会課題の解決と経済発展を両立させるのが日本政府の中核的戦略で、こうしたアプローチはグリーンとリーン生産を求める最近の世界的な動きに呼応しており、日本の技術がコロナ後の回復への道を推し進められると再度強調する。

(注2)Society 5.0について、内閣府はホームページで概略次のように報じる。
「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)。狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱されました。これまでの情報社会(Society 4.0)では知識や情報が共有されず、分野横断的な連携が不十分であるという問題がありました。人が行う能力に限界があるため、あふれる情報から必要な情報を見つけて分析する作業が負担であったり、年齢や障害などによる労働や行動範囲に制約があったりしました。また、少子高齢化や地方の過疎化などの課題に対して様々な制約があり、十分に対応することが困難でした。
 Society 5.0で実現する社会は、IoT(Internet of Things)で全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すことで、これらの課題や困難を克服します。また、人工知能(AI)により、必要な情報が必要な時に提供されるようになり、ロボットや自動走行車などの技術で、少子高齢化、地方の過疎化、貧富の格差などの課題が克服されます。社会の変革(イノベーション)を通じて、これまでの閉塞感を打破し、希望の持てる社会、世代を超えて互いに尊重し合あえる社会、一人一人が快適で活躍できる社会となります。

 
                              
前田 高昭
金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。
訳書に『チャイナCEO』他。
『東アジアニュースレター』も配信中。

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