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バイデン米政権の誕生 -キーワードは団結、礼譲、中道

2021/02/08

英文メディアで読む 第93回
 
バイデン米政権の誕生
―キーワードは団結、礼譲、中道
 






 
前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト
       バベル翻訳大学院プロフェッサー
 
 
 米民主党のジョー・バイデン(正式名:ジョセフ・ロビネット・バイデン・ジュニア)氏が1月20日、米国の第46代大統領に就任した。主要メディアは一斉に新政権のあり方や政策について論じている。以下は、そうした論調を各メディアの社説から観察したものの要約である。詳細は後述の注を参照ください。

要約:1月19日付フィナンシャル・タイムズ社説は、バイデン氏が就任前に1.9兆ドルの財政救済策(fiscal relief)を提案したことを迅速で大胆な行動と評価する。その米国救済プランは、個々の国民に3度目となる小切手の送付、最低賃金の引き上げ、医療給付の拡大、そして学校再開のためだけに400億ドルを配分するなどの野心的な目標を設定し、さらに短期的な救済と不平等な経済の構造改革、公衆衛生の救済を一括して実現しようとしていると伝える。ただし前途に障害が待ち構えているとして、議会や民主党内保守派の存在を挙げ、とはいえ財政面でのてこ入れ不足による景気の失墜だけは避けるべきだと主張し、保守勢力からの反対を考慮して財政刺激策を縮小し、08年の経済危機からの回復を損なったバラク・オバマ政権の例を反面教師として挙げる。そのうえで、100年に一度のパンデミックに見舞われた世界では中途半端な対応は不自然であり、大盤振る舞いの財政計画がコモンセンスとして受け入れられると論じ、バイデン氏はプラグマティストとしての気概を示すべきだと提言する。

 1月20日付ブルームバーグは社説「A New President, and a New Start(新大統領と新たな出発)」で、政府の能力回復と憎しみの感情収拾を訴える。社説は、バイデン新政権は歴代政権でもの稀有な難局の中で発足したが、バイデン氏には広く協力を求める傾向があり、これはまさしく米国の修復に必要な条件だと述べ、周囲も夫々の役割を果たすならば、バイデン政権は2つの包括的な(overarching)目標を達成できると主張、第1に政府の基本的能力の回復、第2に米国を麻痺させ、分裂させる恐れのある憎悪の感情(rancor)を冷却させることだと指摘する。第1の有能な政府に関しては、バイデン氏の指名人事(nominations)が心強い(encouraging)と述べ、指名された人々は高く評価され、トップの地位に相応しい人材だと評価する。ただし優秀な役人も、大統領が彼らの言に耳を傾けなければ、無用の長物(no use)となるとしてトランプ前大統領の虚栄心による有為の人材の無視、否定の例を挙げ、これが政策を骨抜きにし(blighted)、パンデミックが急増するにつれて何千人もの命を犠牲にしたと批判する。これに対しバイデン氏は良き助言を求め、それに耳を傾けると思われると期待を表明する。次いで新大統領のもっと厳しい試練として、コロナ救済、雇用、インフラ、教育、不平等、気候変動、移民改革などの諸問題を挙げ、こうした重要課題に迅速に取り組みながら、米国の政治的分断(political divide)を修復しなければならないと指摘する。そして米国は、この国と世界中の友人のために世界的地位(global standing)を回復する必要があり、こうした困難な仕事を不可能にするリスクを排除するためにバイデン氏は、トランプ前大統領に有罪判決を下し、再出馬の資格を失うよう議会と共に努力すべきだと主張する。最後に、民主党に対して、コロナ救済パッケージのような優れた案件を成立させ得る法案に関する交渉を行うための余裕を、新大統領に与えること、共和党には、民主党の大統領による提案はすべて反射的に反対せず、また愛国的な反乱者(insurrectionists)とみる支持者から距離を置くことを要求し、トランプを党の指導者に引き上げた盲目的な(purblind)戦術とあからさまなニヒリズムの混合物(blend)を捨て去れなければ、国内で過半数の支持を再び獲得することを期待すべきでなく、かつそれに値しないだろう、と断じる。

 1月20日付ニューヨーク・タイムズは社説「Biden Bets on Unity(団結に賭けるバイデン)」でトランプ前政権時代に米国の抱える深刻な問題がさらに深まったと論じる。米社会は、今や以前よりも脆く、不平等で不健康になり、政治的に過激化(radicalized)しており、パンデミックは抑えられないまま、猛威を振るい(raging)、経済は無残な状態に、そして気候変動は危機的状況にあると指摘する。赤(共和)と青(民主)に別れた市民は、共有する共通箇所を見分けるどころか、目の前の現実に同意さえできない。バイデン氏は、就任演説でそうしたことすべてを認め、礼譲(comity)を求めたと述べる。次いで社説はトランプ時代の過去4年間を振り返り、それは疲労困憊と混乱そのものだったと批判し、トランプ前大統領も2017年、同じ演説台から任期をスタートさせ、都市の貧困や製造業の失われた雇用、麻薬、犯罪によって引き起こされた「アメリカの大虐殺」を断罪したが、4年後の今も、この国には未だそれらすべての病が 蔓延しており、かつて国を結びつけた政治的伝統から益々切り離されていると指摘、バイデン氏は、中道は持ちこたえられる、と述べて選挙運動を導いたが、これは大きな賭け(wager)だと主張する。

 以上のようにメディアがバイデン演説に呼応して、国民に団結を呼びかけるなか、1月20日付ウォール・ストリート・ジャーナルは社説「Joe Biden’s Unity Address(ジョー・バイデンの団結演説)」で、国を癒すためには1つの見方で団結する必要はないと主張する。社説は冒頭で、政党間の平和的な政権移行は根底にある米民主主義の強さを示しており、議事堂(the Capitol)での式典は、最近は全く見かけない愛国的感情を臆せずに抱かせたと強調、カマラ・ハリス新副大統領夫妻がペンス前副大統領夫妻をエスコートして議事堂を出る光景が感動的だったと述べ、これらの儀式は、アメリカの体制の基本的な強さ(institutional strength)について世界に対してメッセージを発信したと主張する。バイデン氏は就任演説で人々の心に訴える多くの言葉を発したとし、演説の全体的なテーマは「団結」で、最良の言葉は「新たに始める」と、「お互いに耳を傾けよう」という呼びかけだったと表明する。同時に、この団結の呼びかけには1つの見方での団結を迫る示唆に溢れていたと述べ、「私たちの歴史は、私たち全員が平等に創造されているというアメリカの理想と厳しい醜い現実との間の絶え間ない闘争だった。その現実とは、人種差別(racism)、移民排斥(nativism)、恐怖、悪魔化(demonization)という長い間、私たちを引き裂いてきたものだ」との発言に注目する。そのうえで、私たちの政治的な違いは、アメリカの理想を信じる人々と人種差別主義者(racists)や移民排斥主義者(nativists)との間の相違ではなく、分断はイデオロギーや政策に関する文化的、道徳的な謙譲さ(condescension)における相違、つまり妥協やトレードオフの問題だと述べ、ほとんどの政治的な違いは、真実か、虚偽か、という議論ではなく、自由と平等のような中核的原理の間の妥協、または良い目的を達成するための最良の手段をめぐるトレードオフに関する議論だと喝破する。そのうえで、バイデン氏が社会正義を追求し、生活のあらゆる不平等を人種差別に帰し、気候変動反対論者を地球について何も気にしない気候変動「否定論者(deniers)」だと決めつけるような動きになれば、団結どころか分断をもたらすと懸念を表明、要は、バイデン氏の試練はその統治方法にあると主張する。

 1月21日付ワシントン・ポストはこうした難局の中で船出するバイデン政権に対し、超党派の団結を求めるならば外交分野で始めるのがよいと社説「Biden is looking for bipartisan unity. Foreign policy would be a good place to start.(超党派の団結を求めるバイデン、格好な手始めは外交政策)」で助言する。社説は、新政権の国家安全保障チームについての公聴会から判断すると、トランプ前大統領の不在の中で、米国が直面する主要な脅威に関して実質的に超党派のコンセンサスが存在すると述べ、バイデン新政権で閣僚となるブリンケン国務長官、ヘインズ国家情報長官、ロイド・J・オースティン国防長官は共和党上院議員と幅広い分野で意見が一致していると指摘する。具体的には、中国のウイグル少数民族弾圧を大量虐殺とする見解、アフガニスタンでのタリバンとの米国の合意は「条件ベース」とする解釈、米国大使館をエルサレムのイスラエルに残す件、ロシアからドイツへのバルト海経由ガスパイプライン事業「ノルドストリーム2」の完工防止、サウジアラビアのイエメン介入に対する米国の支援終了などの問題、そして最重要事案として米国に対する中国の高まる挑戦への超党派のコンセンサスを挙げる。また米国が中ロその他の独裁国家(autocracies)に立ち向かう必要性と独裁者を甘やかす(coddling)のはそれにそぐわないという考えで超党派の合意が成立していると指摘する。ただしバイデン政権と共和党の最大の意見相違点はイラン政策だと警告する。

 1月23日付エコノミスト誌は、「Morning after in America(米国でのトランプ後の朝)」と題する社説の冒頭で、ウイルス終息が米国修復の第一歩で、そのための予防接種はきわめて手のかかる作戦だが、春から夏にかけて大きな違いをもたらし、米経済の回復に役立つと指摘する。経済的被害が、限られたスペースに多くの人々を詰め込むような職場で働く労働者に集中しているが、連邦政府の景気刺激策のおかげで昨年の実質可処分所得(real disposable income)は、おそらく過去20年間で最も速いペースで上昇したとみられると述べる。バイデン政権はさらに1.9兆ドルの財政刺激策を予定しており、これにより支援予算額は、パンデミック危機前の国内総生産(GDP)の27パーセントに達し、議案が上院を通過できない可能性もあるが、バイデン氏の公約、すなわち、ワクチン配布用の資金増額、失業保険の延長、児童向け税額控除の拡大などの規模が縮小されても、大きな効果が見込めるだろうと期待を表明する。
 米国が直面する政治危機は、トランプへの忠誠を誓って組織されたようになった共和党、人種差別派への危険な甘やかし、真実でない事実(alternative facts)の流布などが引き起こしており、すぐには消え去らないとし、特にトランプ氏が2024年に再立候補することに警戒感を示す。その一方で、バイデン氏が一部の共和党議員と協力し、インフラや気候変動法案、コロナ関連の刺激策などを成立に導くことや、連立を組む気のある新大統領の下で民主主義の精神がワシントンに復活することに期待を示す。またトランプ外交を引き継ぐバイデン氏は一連の非常に厳しいトレードオフに迫られるだろうと述べ、成功の最高のチャンスは、その根気強い中道主義(dogged centrism)に徹することにあり、それによってトランプ後の米国に朝が訪れると示唆、同時に西側同盟国に対して忍耐強くあるべきで、奇跡的な一夜の変革を期待すべきではないと注文をつける。

 次いで1月25日付ロサンゼルス・タイムズは、「Joe Biden’s battle for the soul of America has begun(ジョー・バイデン、アメリカの魂を求める戦いを開始)」と題する社説で、バイデン大統領は就任演説で米国が同時に直面する6つの危機、すなわち致命的なパンデミック、民主主義への脅威、経済的不平等、システミック(連鎖的)な人種差別、気候変動、世界における米国の役割の縮小を挙げたと述べ、しかもこれらの危機は、米国の政治、社会そして国家のアイデンティティを歪めている分極化(polarization)によって深刻化していると指摘する。一部の共和党議員や右寄りの(right-leaning)メディアは、就任直後のバイデン氏の言動に怒りを感じており、国の癒しが極めて困難な状態にあると危惧を表明する。社説は、米国市民の多くは、民主党の中核的綱領(tenets)、すなわち、マイノリティー優遇政策(affirmative action)、文化的多様性、性と生殖に関する権利(reproductive rights)、銃規制(gun control)などに疑念を持っており、彼らに同意しないとしても、耳を傾け、理解しようとしていることを示す方策を見つける必要があると指摘、手始めに、米国民の生活で最も必要とされる分野、すなわち連帯感の向上、生きる目標や生き甲斐の意味の把握などで対応すべきだと述べる。国民は個人として社会における価値観を喪失し、同時に世界における米国の失われた地位の回復を願っているが、政策ではこうした憧れには対処できず、バイデン氏は時間をかけて、行動と言葉を通してのみ、国民が相互の信頼を取り戻すようにできるだろうと主張する。
 さらに社説は、バイデン氏がウイルス問題に関する連邦政府のリーダーシップを強化していると述べ、具体例としてワクチン配布の改善、保護具の供給増、学校の安全な再開方法に関するガイダンスの提示などを挙げる。さらにパンデミックと戦うために議会に対して巨額の資金注入を求めており、これにはインフラ改善投資の実施と何百万人もの雇用創出、環境懸念への対処と生産性向上のための法案が含まれていると述べ、バイデンが上院の共和党議員を取り込んで早期に成立させることに期待を示す。最後に、トランプ時代に多くの国民に米国の民主主義の完全性(integrity)に対して疑いを抱かせたと指摘、バイデン氏は、投票率と有権者の選挙結果に対する信頼の両方を高める方法について、共和党と共通点を見つける必要があると提言する。

結び:メディアはまず、バイデン氏が就任前に1.9兆ドルの財政救済プランを提案したことを迅速で大胆な行動だと評する。家計や医療、教育への財政面からのテコ入れ策として確かに評価すべきだろう。ただし、共和党や与党保守派の出方への警戒感を滲ませ、コロナの時代では大盤振る舞いの財政計画がコモンセンスだと強調、出し惜しみによる景気失墜のリスクを指摘しているのは、理解できる警告といえよう。
 次いでバイデン新大統領の就任演説を踏まえ、ブルームバーグは政府の能力回復と憎しみの感情収拾を訴える。トランプ時代に政府機能が著しく毀損されたのは間違いなく、その修復が喫緊の課題であり、それが新大統領の指名した人事と、広く助言を求めて耳を傾ける新大統領の気質によって実現することに大いに期待したい。さらに重要課題として、コロナ救済、雇用、インフラ、教育、不平等、気候変動、移民改革、そして米国の政治的分断の修復と、米国の世界的地位の回復が挙げられている。いずれも新政権にとって喫緊の課題である。
 ニューヨーク・タイムズも、トランプ時代の過去4年間を振り返り、それは疲労困憊と混乱そのものだったと評し、米国の深刻な問題がさらに深まったと論じる。米社会は以前よりも脆く、政治的に過激化し、パンデミックのために経済は無残な状態にあると述べる。市民は赤(共和)と青(民主)に分かれ、目の前の現実に同意することさえできないという指摘は、米国の分断の深さを示して余りある。これに対してバイデン氏は、就任演説でそうしたことすべてを認め、礼譲を求めている。国民が互いに歩み寄って、かつて国を結びつけた政治的伝統を取り戻そうと呼びかけ、中道は持ちこたえられる、と訴えているが、それは今のところ、1つの期待であり、大きな賭けとしか言えないだろう。
 他方、保守系のウォール・ストリート・ジャーナルは、政治的分断と批判される状況のなかでも、政党間で平和的な政権移行が行われたのは、根底にある米民主主義の強さを示し、就任式は、アメリカの体制の基本的な強靭さを世界に発信したと論じる。特に、バイデン氏の就任演説のテーマは「団結」であり、人々の心に訴える多くの言葉を発したと認める一方で、国を癒すためには1つの見方で団結する必要はないと主張しているのは、他のメディアと一線を画す論調である。私たちの政治的な違いは、アメリカの理想を信じる人々と人種差別主義者や移民排斥主義者との間の相違ではなく、分断はイデオロギーや政策に関する文化的、道徳的な謙譲さにおける相違、つまり妥協やトレードオフの問題だと主張している。具体的には、自由と平等のような中核的原理の間の妥協、または良い目的を達成するための最良の手段をめぐるトレードオフに関する議論だと指摘し、バイデン氏の社会正義追求の姿勢が、かえって団結でなく分断をもたらすと懸念し、バイデン氏の試練はその統治方法にあると指摘しているのは、1つの警告として留意しておく必要がある。
 こうした超党派の団結を求めるバイデン新大統領に対して1月21日付ワシントン・ポストは、外交分野で始めるのがよいと具体的に助言する。社説は国務、国防、国家情報という主要閣僚が共和党上院議員と幅広い分野で意見が一致していると指摘、新政権の国家安全保障チームには、米国が直面する主要な脅威に関して実質的に超党派のコンセンサスが存在すると述べる。関連する地域や案件は、アフガニスタン、イスラエル、露独ガスパイプライン計画、中東など全世界にわたっているが、特に最重要問題として、中国の高まる挑戦への超党派のコンセンサスが挙げられ、かつ米国が中ロその他の独裁国家に立ち向かう必要性が指摘されていることに注目したい。

 1月23日付エコノミスト誌も冒頭で、ウイルス終息が米国修復の第一歩だと指摘し、1.9兆ドルの対策によるワクチン、失業保険、税額控除などの経済問題への対応に期待を表明、政治危機については、根源はすぐには消え去らないだろうが、新大統領の下で民主主義の精神がワシントンに復活することに期待を示している。ここで注目されるのは、トランプ氏が2024年に再立候補することに警戒感を示すとともに、バイデン新大統領に対して中道主義の徹底を提言し、それが米国に明るい朝をもたらすと示唆していることである。

 1月25日付ロサンゼルス・タイムズは、バイデン大統領が就任演説で6つの危機を挙げ、これらの危機は分極化によって深刻化していると述べていると指摘する。6つの危機とは、致命的なパンデミック、民主主義への脅威、経済的不平等、システミック(連鎖的)な人種差別、気候変動、世界における米国の役割の縮小である。まさにバイデン新政権が直面する挑戦である。また米国市民の多くが、民主党の中核的綱領に疑念を抱いており、これに耳を傾け、理解しようとしていることを示す方策を見つけるべきだとの指摘も、新政権が早速取り組むべき課題を提起している。厄介な問題は、国民が個人として社会における価値観を喪失し、失われた世界における米国の地位回復を願っているが、政策ではこうした憧れには対処できないことであろう。社説は対策として、バイデン氏は時間をかけて、行動と言葉を通してのみ、国民が相互の信頼を取り戻すようにできると提言する。ここでも同氏の統治方法が問われているのである。ひとつの救いは、バイデン氏がウイルス対策でリーダーシップを強化し、議会に対して巨額の資金注入を求め、インフラ改善投資と雇用創出、環境対策、生産性向上に取り組もうとしていることである。それには上院の共和党議員を取り込む必要があるが、それとともに国民が米国の民主主義の完全性(integrity)に対して抱いた疑いを共和党とともに解消する努力が期待される。

 以上を集約すると、バイデン新大統領は就任演説で6つの危機を提示し、メディアはそうした危機を、米国の政治・外交、経済、社会の視点から論じている。経済の問題は、コロナウイルスの蔓延と結びついて深刻化しているが、バイデン氏は就任前に1.9兆ドルの財政救済プランを提案するなど積極的に動いている。懸念は、抑制的な財政政策による景気失速であるが、コロナの時代では大盤振る舞いの財政計画がコモンセンスという考えで乗り切るほかはない。
 社会問題としては、国民の間に広がる憎しみの感情の収拾や、個人の社会における価値観喪失への対応が肝要である。これに対してバイデン氏は、礼譲を呼びかけている。確かに国民が互いに歩み寄る努力が欠かせないが、それにはバイデン氏自らが国民の言い分に耳を傾ける姿勢が不可欠である。 
 問題は何といっても、政治・外交分野にある。政府の能力復活と政治的分断の修復、そして米国の世界的地位の回復という問題が待ち構える。しかも米国市民の多くが、民主党の中核的綱領に疑念を持っており、国民が米国の民主主義の完全性に対して抱いた疑念を解消しなければならない。バイデン氏は、国民が互いに歩み寄って、かつて国を結びつけた政治的伝統を取り戻そうと呼びかけ、中道は持ちこたえられる、と訴えている。まさしくバイデン氏が持ち味を生かして、分裂を深める国民に寄り沿っていくほかはないだろう。たとえそれが、大きな賭けであるとしても。保守系メディアが指摘するように、政党間で平和的な政権移行が行われたのは、根底に米民主主義の強さと体制の基本的な強靭さがあるからであり、それを信じていくほかはない。そして確かに、国を癒すためには1つの見方で団結する必要はないのだ。分断を癒すには、イデオロギーや政策に関する文化的、道徳的な見地からの妥協やトレードオフが欠かせない。そこで問われるのは、やはりバイデン氏の統治方法である。バイデン新大統領は、そのよく知られるブランドである中道主義を徹底することが、有力な方策となろう。超党派の団結を求める試みは、外交分野で始めるのがよいとの提言もある。特に中国の高まる挑戦への超党派のコンセンサスがあると指摘されており、大いに活用すべき分野である。そうした努力が総合的な効果を発揮するとき、米国に明るい朝が訪れるだろう。(2021年2月4日)

(注)以下が主要メディアの論調詳細である。
大胆な行動が期待できるバイデン新政権:バイデン氏の大統領就任に先立って1月19日付フィナンシャル・タイムズは、「A daring start to Joe Biden’s presidency(バイデン大統領には大胆な出発を)」と題する社説で、新政権に次のように期待を表明する。民主党出身の大統領は昔から、当初は全くそうはみえなかった大胆な人物が何人かいる。福祉国家(welfare state)の基礎を築いたフランクリン・ルーズベルトは貴族的(an aristocrat)で、公民権の著者であるリンドン・ジョンソンは人種差別的な会社を経営する南部出身者(a Southerner)だった。彼らは、外向きは保守主義者の顔をしながら国を変えるアイデアを持ち込んだ。同じトリックがバイデン新大統領にも見て取れる、すなわち同氏の場合は、堅苦しい(staid)イメージとは裏腹の大胆な行動が明らかになってきている。 

大型財政救済策を迅速に提案:次期大統領は議会がその半分規模の法案を可決したわずか数週間後に、1.9兆ドルの財政救済策(fiscal relief)を提案した。その米国救済プランは、パンデミックが米経済を襲って以来、個々の国民に3度目となる小切手の送付と最低賃金の引き上げ、医療給付(healthcare benefits)の拡大などを求める内容だ。ウイルスとの戦いについては、学校再開のためだけに400億ドルを配分する野心的な目標を設定している。バイデン氏の計画は、短期的な救済と不平等な経済の構造改革、公衆衛生(public-health)の救済を一括して実現しようとしている。 

要警戒は財政支援不足による景気失墜:とはいえ、計画のすべてが議会のふるいにかけられて生き残れるわけではない。上院を支配できるとしても、民主党内の保守派何人かの動きを気にする必要がある。しかし新大統領の意図は確固としており、それは広範にわたって正しい。バイデン氏は就任日に激しく分裂した国家を団結させることを誓うだろう。何事もなく就任式を執り行えば、一つの快挙(a feat)として時代に刻まれる。しかし大統領の器量(magnanimity)は、少なくともパンデミックの時代には、暫定的な政策の形では表せない。たとえ共和党が財政上の慎重さを選択的に進めているとしても、そのような莫大な金額を費やすことは決して小さな問題ではない。潜在的な危険は、浪費、異常なインセンティブ、財政正常化の雰囲気の先送りなどがある。しかし最悪の結果は、財政面でのてこ入れ不足による景気の失墜だろう。 

財政支援策の縮小は禁物:ここでの真の慎重さは、寛大に失することである。まず連邦準備制度理事会(FRB)のジェイ・パウエル議長が、金利引き上げはないと述べたのは良いニュースである。またバイデン計画が議会を通過すれば、その迅速な対処はルーズベルトの有名な最初の100日間に例えられて当然である。しかし10年以上前のオバマ大統領による対応が、反面教師として挙げられて然るべきだろう。バラク・オバマは保守勢力からの反対を考慮して財政刺激策を縮小したのである。民主党はその後、このため08年の経済危機からの回復を損ない、かつ共和党の牙を抜けなかったことを悔やんでいる。

大胆な振る舞いがパンデミック時代のコモンセンス:政治的かつ経済的に、バイデン氏は大胆であるべき(go big)理由がある。そうすることで、彼の大統領としての気概(mettle)に関する疑問の一つに答えるだろう。同氏の半世紀にわたる公的キャリアには、壮大なアイデアや言動は見当たらず、閣僚に指名した人々は安心感を与える顔なじみばかりだ。民主党がバーニー・サンダースではなくバイデン氏を候補者に選んだのは、その知的大胆さのためではなかった。党は世論を踏まえて、プラグマティストを好んだのだ。しかしその後、プラグマティズムの意味はまさしく変わったのである。100年に一度のパンデミックに見舞われた世界では、中途半端な対応は不自然なのである。同氏が最終的に財政正常化(fiscal normality)を果たす構えを崩していない限り、新大統領は、その大盤振る舞いの計画をコモンセンスとして擁護できる。冒頭で指摘したように、堅苦しく(starchy)みえても冒険心に富む(adventurously)大統領は同氏が初めてはないのだ。

稀有な難局の中で発足するバイデン新政権:次いでメディアは、バイデン新大統領の就任演説をテーマとして新政権の在り方や政策について一斉に論評する。
1月20日付ブルームバーグは社説「A New President, and a New Start(新大統領と新たな出発)」で、政府の能力回復と憎しみの感情収拾を訴える。社説は冒頭で、バイデン新政権は未だおさまらないパンデミックに襲われている経済、失政と不正行為(malfeasance)によって機能不全に陥っている(crippled)行政府(executive branch)などの困難な諸問題を抱え、歴代政権でもの稀有な難局の中で発足したと述べ、米国は新たな出発(new start)を必要としていると指摘し、概略次のように論じる。

政府の能力回復と憎しみの感情収拾が可能なバイデン政権:バイデン新大統領は確かに新顔ではないが、その経験と気質が現在の状況に適しているのは間違いない。同氏には広く協力を求める傾向がある。これはまさしく米国の修復に必要な条件だ。周囲も夫々の役割を果たすならば、バイデン政権は2つの包括的な(overarching)目標を達成できるだろう。第1は政府の基本的能力の回復である。前任者の在任中に無残に(dismally)欠けていたものだ。第2は、実用的な民主党の綱領を進める一方で、国を麻痺させ、取り返しのつかないほど分裂させる恐れのある憎悪の感情(rancor)を冷却させることである。

優れた人材を政権トップに指名したバイデン新大統領:有能な政府に関しては、バイデン氏による閣僚の指名人事(nominations)が心強い(encouraging)。指名された人材は人々に高く評価され、トップの地位に相応しい人材だからだ。ただし優秀な役人も、大統領が彼らの言に耳を傾けなければ、無用の長物(no use)となる。ドナルド・トランプの最悪の失敗の一つは、理解していない問題を理解したふりをし、有為の人材を無視したり、否定したりしたことである。この虚栄心が政策を骨抜きにし(blighted)、パンデミックが急増するにつれて何千人もの命を犠牲にしたのだ。バイデン氏は正常な政治家の通常の基準に照らしても、潔く良き助言を求め、それに耳を傾けると思われる。

政治的分断の修復や米国の地位回復などが試練:新大統領のもっと厳しい試練は、コロナ救済、雇用、インフラ、教育、不平等、気候変動などの重要課題に迅速に取り組みながら、米国の政治的分断(political divide)を修復することである。移民改革にも迅速な対応が必要である。今の制度は国の活力を奪っている。大手テク企業と市民の意見との衝突は、憲法の原則に則って賢明に処理されなければならない。そして米国は、この国と世界中の友人のために世界的地位(global standing)を回復する必要がある。バイデン氏は、これらすべてを単独で行うことはできない。第一に、トランプ前大統領に有罪判決を下し、再出馬の資格を失うよう議会と共に努力しなければならない。そのプロセスを可能な限り迅速に進めて結論に達する必要がある。さもないと、バイデン氏のただでさえ困難な仕事を不可能にするリスクがある。

民主、共和両党に望むこと:社説は最後に、民主、共和両党に次のような要求を突きつける。議会と全国の民主党議員は、コロナ救済パッケージのような優れた案件を成立させ得る法案に関する交渉を行うための余裕を、新大統領に与える必要がある。共和党は、民主党の大統領による提案はすべて反射的に反対する、非の打ちどころのない反対者ではなく、政府のパートナーとして行動することがきわめて重要である。さらに自分自身を愛国的な反乱者(insurrectionists)とみる支持者から距離を置くべきだ。そうした感情は毒薬である。共和党はトランプを党の指導者に引き上げた盲目的な(purblind)戦術とあからさまなニヒリズムの混合物(blend)を捨て去れなければ、国内で過半数の支持を再び獲得することを期待すべきでなく、かつそれに値しないだろう。

中道に賭けるバイデン新大統領:1月20日付ニューヨーク・タイムズは社説「Biden Bets on Unity(団結に賭けるバイデン)」でトランプ前政権時代に米国の抱える深刻な問題がさらに深まったと次のように論じる。
 ジョー・バイデンは1月20日、中道は持ちこたえられる、という選挙運動を導いたのと同様の晴れやかな(animating)考えの下で大統領に就任した。だがこれは大きな賭け(wager)である。米社会は、今や何年か前よりも脆く、不平等で不健康になり、政治的に過激化(radicalized)している。パンデミックは抑えられないまま、猛威を振るっている(raging)。経済は無残な状態に、そして気候は危機的状況にある。赤(共和)と青(民主)に別れた市民は、共有する共通箇所を見分けるどころか、目の前の現実に同意することさえできない。バイデン氏は、就任演説でそうしたことすべてを認め、礼譲(comity)を求めた。

トランプ時代に悪化した米国の病:次いで社説は新大統領の就任演説の一部に触れつつ、トランプ時代の過去4年間を振り返り、それは疲労困憊と混乱そのものだったと述べる。トランプ前大統領も17年、同じ演説台から任期をスタートさせ、都市の貧困や失われた製造業の雇用、麻薬、犯罪によって引き起こされた「アメリカの大虐殺」を断罪したと述べ、しかし4年後の今も、この国には未だそれらすべての病が蔓延しており、かつて国を結びつけた政治的伝統から益々切り離されていると指摘する。

米民主主義の強さを示した新大統領の就任式:他方、1月20日付ウォール・ストリート・ジャーナルは社説「Joe Biden’s Unity Address(ジョー・バイデンの団結演説)」の副題で、国を癒すためには1つの見方で統一する必要はないと主張する。次いで新大統領の就任式にはすべての米国人が党派を超えて誇りを感じたと述べ、政党間の平和的な政権移行は、現在の政治的な不調(distemper)に関係なく、根底にある米民主主義の強さを示しており、議事堂(the Capitol)での式典は、最近は全く見かけない愛国的感情を臆せずに抱かせるものだったと強調する。次いで、カマラ・ハリス新副大統領夫妻がペンス前副大統領夫妻をエスコートして議事堂を出る光景が感動的だったと述べ、各州の選挙人投票(state electoral votes)を拒否するよう迫ったトランプ大統領の要求を拒絶したペンス氏は、こうした伝統的な敬意の表明に値し、憲法の原理を明らかにした振る舞い以上の賞賛を得てしかるべきだと評し、さらに概略次のように論じる。

人々の心に訴えた就任演説:これらの儀式は、苦い選挙運動とここ数週間の混乱にもかかわらず、アメリカの体制の基本的な強さ(institutional strength)について、様々な国と世界に対してメッセージを発信している。中国では、権力の移行は共産党員間の移転であり、公式の政治的儀式は満場一致の拍手喝采(unanimous acclamation)によるものと相場が決まっている。敵対する国々はしばしば米国の騒々しい政治は国家の弱さであり、最終的には悔いを残すものとの誤った判断を下してきた。バイデン氏は就任演説で人々の心に訴える多くの言葉を発した。議事堂暴動後のために、それらは言葉以上に人々の記憶に留められるだろう。演説は、聖アウグスティヌスを引用し、死者のために祈るなど、同氏のカトリック教徒としての個人的な味を漂わせていた。この他にも個人的なスタイルで、新大統領は差別や偏見を越えてさわやかだった。

演説のテーマは1つの見方で迫る団結:演説の全体的なテーマは「団結」で、それをバイデン氏は「私たちの道を前進させる」と表現した。その点に関する彼の最良の言葉は、「新たに始める」と、お互いに耳を傾けよう、という呼びかけだった。「政治は業火(a raging fire)である必要はない」と述べ、さらに「意見の相違(Disagreement)が不和(disunion)につながるべきではない」と語った。同時に、この団結の呼びかけには、余りにも1つの見方での団結を迫る示唆に溢れていた。「私たちを分断する力は根深く、本物であることが分かっている。しかし、私はまた、彼らが新しいものではないことも分かっている」、「私たちの歴史は、私たち全員が平等に創造されているというアメリカの理想と厳しい醜い現実との間の絶え間ない闘争だった。その現実とは、人種差別(racism)、移民排斥(nativism)、恐怖、悪魔化(demonization)という長い間、私たちを引き裂いてきたものだ」と語っているのだ。

分断は思想や政策に関する文化的、道徳的な謙譲さの違い:それでは私たちの政治的な違いは、アメリカの理想を信じる人々と人種差別主義者(racists)や移民排斥主義者(nativists)との間の相違なのだろうか。これは、バラク・オバマがその違いを啓蒙(enlightenment)と偏見(bigotry)の分断として断定する性癖と余りにも同じように聞こえる。オバマ時代は結局、トランプ政治への道を開いたのだ。分断はイデオロギーや政策に関する文化的、道徳的な謙譲さ(condescension)における相違なのだ。「真実」と「嘘」には違いがあり、政治的論議にあまりにも多くの欺瞞(falsehoods)が散りばめられているというバイデン氏の主張は正しい。しかし、そうした欠陥は、党派にこだわる人々すべてが関わっている。ほとんどの政治的な違いは、真実か、虚偽か、という議論ではなく、自由と平等のような中核的原理の間の妥協、または良い目的を達成するための最良の手段をめぐるトレードオフに関する議論なのだ。

統治の方法がバイデン氏の試練:その点についてバイデン氏の演説は、現在追放、排斥されている保守派に対する進歩派による厳しい批判を取りやめることの確約にあまり言及していない。同氏が社会正義を追求し、それが米国の生活のあらゆる不平等を人種差別に帰す原動力になれば、団結どころか分断をもたらすだろう。また気候変動に反対する人々を地球について何も気にしない気候変動「否定論者(deniers)」だと主張するならば、何百万人もの人々と疎遠になるだろう。要は、団結を誓うバイデン氏の試練は、その統治方法にあるといえるが、新大統領を信じようではないか。新大統領は誰であれ、それに値するのだから。

外交政策がバイデン政権と共和党が協同できそうな分野:こうした難局の中で船出するバイデン政権について、超党派の団結を求めるならば、外交分野で始めるのがよいと1月21日付ワシントン・ポストが社説「Biden is looking for bipartisan unity. Foreign policy would be a good place to start.(団結を求めるバイデン、格好な手始めは外交政策)」で助言し、概略次のように論じる。
 バイデン大統領が共和党と協同できる分野を見つけられるかどうかはまだ分からないが、外交政策が手始めとするのが、その一つかもしれない。新政権の国家安全保障チームについての火曜日の公聴会から判断すると、ドナルド・トランプ前大統領の不在の中で、米国が直面する主要な脅威に関して実質的に超党派のコンセンサスが存在するからだ。バイデン政権のアヴリル・ヘインズ国家情報長官とアントニー・ブリンケン国務長官はオバマ政権時代のベテラン閣僚であり、国防長官候補のロイド・J・オースティンはバラク・オバマ大統領によって国防総省中央司令官に任命された人物である。しかし、同候補は、トランプ政権の忠誠者であった共和党上院議員と幅広い分野で意見が一致している。

共和党との一致点が多いブリンケン次期国務長官:バイデン氏の主任外交政策顧問(chief foreign policy advise)を数十年間務めてきたブリンケン氏は、リンジー・O・グラハム上院議員(共和。サウスカロライナ州選出)に対し、中国によるウイグル少数民族の弾圧は大量虐殺に相当し、アフガニスタンでのタリバンとの米国の合意は「条件ベース」であるべきだという前政権の決定に賛同していると語った。またテッド・クルーズ上院議員(共和。テキサス州選出)には、米国大使館をエルサレムのイスラエルに残し、ロシアからドイツへのバルト海を経由するガスパイプライン事業「ノルドストリーム2」の完成を防止することを確約した。

中国の挑戦について超党派の合意が成立:さらに重要なのは、新政権の民主党当局者が、中国が米国に対して挑戦を強めていることについて超党派のコンセンサスを確認したことだ。「中国に対して厳しいアプローチをとったトランプ大統領は正しかった」とブリンケン氏は語り、その後さらに、共和党のミット・ロムニー上院議員(ユタ州選出)が「ロシアが一連の分野で提起した挑戦」を予知したのは、先見の明があった(prescient)と付け加えている。ヘインズ氏は「中国は様々な問題において我国の安全保障、繁栄、価値観に対する挑戦である」と述べ、ベン・サッセ上院議員(共和。ネブラスカ州選出)に対して「この問題には私なりの視点から優先的に適切な資源を確実に割り当てる」と約束している。 

反トランプの外交政策を打ち出すブリンケンとへインズ:ヘインズ氏はまた、中国政府に対するトランプ氏の戦術には賛同しなかったと強調したが、これについても共和党員と意見の一致を見る可能性がある。トランプ前大統領が習近平国家主席とプーチン大統領を称賛し、人権犯罪を免責または無視した際、これに苛立ちを示した(squirmed)共和党員が多かったからである。トランプ氏は、サウジアラビアのイエメン介入に対する米国の支援を終わらせる超党派の議会法案に拒否権を行使したが、ブリンケン氏は、新政権は「非常に早い順番で」その方針で行動すると語っている。他方、ヘインズ氏は国家情報長官として、サウジアラビア政権によるジャーナリストのジャマル・カショッジ殺害の責任を追及する問題に関して、公的な報告書を義務付ける法律を遵守すると述べた。これもトランプ氏が覆した法案の一つであった。

バイデン政権と共和党の最大の対立点はイラン政策:バイデン政権と共和党議員の間で考えられる最大の意見相違(disagreement)は、公聴会から判断すると、イラン政策であろう。ブリンケン氏は、トランプ氏が拒絶した核合意をイランが遵守することに合意すれば、米国も同様に順守することを確認した。しかし同氏とヘインズ氏は、イランによる順守には「長い道のり」があるとみていると語り、ブリンケン氏は、イランの節度に対してオバマ政権のような希望を示しておらず、イランは世界最大のテロ支援国であり、それに応じて制裁に直面して然るべきだとの見方に賛同している。

独裁国家への対応には超党派の合意:社説は最後に、共和党は間違いなく、他にもバイデン氏の外交政策に反対する問題を穿り出すだろうが、米国が中国、ロシア、その他の独裁国家(autocracies)に立ち向かう必要性と、独裁者を甘やかす(coddling)のはそれに相応しくないという考えで、明確に超党派の合意に達していると指摘する。

 1月23日付エコノミスト誌は、「Morning after in America(米国の悔恨)」と題する社説の冒頭で、バイデン氏は米国の民主主義の腐敗と戦わねばならず、幸先の良いスタートとは言えないが、今後数ヶ月でホワイトハウスからの眺めは劇的に改善される可能性があると述べ、概略次のように論じる。 

ウイルス終息が回復の第一歩:米国の修復は、ウイルスを終息させることから始まる。予防接種はきわめて手のかかる作戦で、連邦、州、地方の当局者間の協力を試すことになろう。ポリオ撲滅のために連邦政府が主導(masterminded)したような洗練されたキャンペーンを展開すれば、多くの命が救われるだろう。とはいえ不完全なワクチン接種プログラムであっても、春から夏にかけて大きな違いをもたらすだろう。暖かい天候となり、長く屋外で過ごせるようになるのも助けになる。新型コロナウイルスは指数関数的に(exponentially)広がるが、感染数が1人当たり1人を下回ると、指数関数的に消滅していく。
    
一部の労働者に景気低迷の被害が集中:このことはまた、米経済の回復に役立つだろう。労働市場は、バイデン氏が金融危機の最中にバラク・オバマ政権の副大統領として宣誓した当時と同程度、落ち込んでいる(depressed)が、今回の低迷(downturn)は大きく異なる。昨年の実質可処分所得(real disposable income)は、おそらく過去20年間で最も速いペースで上昇したとみられる。これは連邦政府の景気刺激策による巨額の資金注入のためである。銀行システムは健全と思われ、経済の痛みは広まっていないものの、限られたスペースに多くの人々を詰め込むような職場で働く労働者に被害が集中している。

大きな効果が見込める財政刺激策:連邦政府は事実上無償での借り入れが可能なことから、バイデン政権はさらに1.9兆ドルの財政刺激策を予定している。これにより支援予算額は、パンデミック危機前の国内総生産(GDP)の27パーセントに達した。ただし議案が上院を通過できない可能性があり、また全額が必要か否か明らかではないが、バイデン氏の公約、すなわち、ワクチン配布用の資金増額、失業保険の延長、児童向け税額控除の拡大などが縮小されても、大きな効果が見込めるだろう。税額控除(tax-credit)の変更だけでも児童貧困が半減する可能性がある。

すぐに消滅しない政治危機の原因:バイデン氏の就任式では、路上で2万5000人の軍隊を必要としたが、こうした政治危機を引き起こした原因はすぐに消え去らない。自分以外に何も忠誠心を持たない人への忠誠を誓って組織されたようになった共和党、人種差別派の危険な甘やかし、真実でない事実(alternative facts)の流布。こうした状況はすべて数十年間にわたって形作られてきた。またFBIは国内テロの脅威を傍観している。前大統領は、今は1市民にすぎないが、議会が弾劾裁判によってそうするのを妨げない限り、2024年に再び立候補するかもしれない。

民主主義の教科書通りに動くバイデン氏に期待:バイデン氏は就任式で法の支配と人種平等に対する明確な支持を宣言したが、就任式の場でなければ、これは通り一遍の言葉である。しかし、その言は米政治の熱を冷ますのに役立ち、他の可能性を開くかもしれない。バイデン氏は、議会が成果を挙げるのに熱心な共和党議員と協力し、インフラ法案や気候変動関連法案、またコロナ関連の刺激策などを通過させられるかもしれない。民主主義は教科書によれば、妥協を通じて問題を解決し、選挙で紛争を処理するとされる。連立を組む気のある新大統領の登場で、こうした精神が少しはワシントンに戻るかもしれない。有権者も党派の争いに1日中明け暮れているよりも、その方を好むかもしれない。これは米国が必要としていることである。米国は、政府に支援を必要とする課題に直面している。学校再開がうまくいかず、多数の子供が学習の機会を失った。アフリカ系とヒスパニックの米国人の死亡率が高く、健康が肌の色に関連していることを思い出させている。ドナルド・トランプの4年間は、国の体制を空洞化し、不正行為に対する監視を弱めのだ。

中道主義の徹底が成功への道:以上のように論じた社説は、さらにトランプ外交は任期中の4年間に海外において多くの問題を引き起こし、それを引き継ぐバイデン外交は一連の非常に厳しいトレードオフに迫られるだろうと指摘、国内のおいても共和党のみならず、共和党と取引しようとすれば、身内の左派からも冷たくされるかもしれないと述べ、成功のための最高のチャンスは、その庶民的なブランド(folksy brand)である根気強い中道主義(dogged centrism)に徹することだと主張、また西側同盟国は忍耐強く、奇跡的な一夜の変革を期待すべきではないと注文をつける。

6つの危機に直面するバイデン新大統領:1月25日付ロサンゼルス・タイムズは、「Joe Biden’s battle for the soul of America has begun(ジョー・バイデン、アメリカの魂を求める戦いを開始)」と題する社説で、バイデン大統領は先週の就任演説において米国が同時に直面する6つの危機、すなわち致命的なパンデミック、民主主義への脅威、経済的不平等、システミック(連鎖的)な人種差別、気候変動、世界における米国の役割の縮小に手際よく言及したと述べ、概略次のように論じる。

分極化によって深刻化する危機:しかも、これでは足りないかのように、これらの問題全てが、米国の政治、社会そして国家のアイデンティティを歪めている分極化(polarization)によって深刻化している。一部の共和党議員や右寄りの(right-leaning)メディアは、就任直後のバイデン氏の多くの行動に怒りを感じていると述べる。例えば、同氏が演説でシステミック人種差別を非難したり、トランプ大統領の論議を呼んだ行動を否認する大統領令に署名したりしたことである。しかし、それを分断と呼ぶならば、国の癒しはあり得ない。

民主党の中核的綱領に疑念を持つ有権者との対話が必要:新大統領は、我々が抱える課題(challenges)と対策、その理由について頻繁に一般の人々に話す必要がある。しかし同氏はそれ以上に、何百万人もの不満を抱く、あるいは敵対的とすらいえる選挙民に対して、彼らに同意しないとしても、耳を傾け、理解しようとしていることを示す方策を見つける必要がある。こうした米国市民の多くは、民主党の中核的綱領(tenets)、すなわち、マイノリティー優遇政策(affirmative action)、文化的多様性、性と生殖に関する権利(reproductive rights)、銃規制(gun control)などに疑念を持ち、バイデン政権の仕事を複雑にしている。

行動と言葉を通してのみ国民相互の信頼回復が可能:手始めに、米国民の生活で最も必要とされる分野、すなわち連帯感、生きる目標や生き甲斐の意味を把握し対応することが良いだろう。トランプ氏は、そうした必要性に対処し、信仰や趣味、人種、階級で人を軽蔑すると考えられている社会に対する怒りを表わす機会を人々に与えて成功したのである。彼らはまた、社会は財産や人脈で人を判断すると信じている。バイデン氏は、経済的機会と社会正義の拡大なくして価値感(a sense of worth)の回復を果たせないが、それだけでは米国民の信頼危機(Americans’ crisis of confidence)や、社会における個人の価値感と世界における我が国の地位への憧れに対処できないだろう。それらを修復する政策はそう簡単には存在しない。時間をかけて、行動と言葉を通してのみ、バイデン氏は国民がお互いに信頼を取り戻すようにできるだろう。

ウイルスに関する連邦政府のリーダーシップを強化するバイデン:パンデミックを終わらせても、魔法のように米社会の亀裂は治せないが、幾つかの分野で前進できるだろう。新型コロナウイルスは、経済的、物理的、精神的に国民全員に大きな被害をもたらした。バイデン氏は、ウイルスに関する連邦政府のリーダーシップを強化している。ワクチン配布の改善、保護具の供給増、学校の安全な再開方法に関するガイダンスの提示などである。金曜日、さらに多くの支援を命じ、連邦政府機関に対して連邦請負業者の最低賃金の1時間あたり15ドルへの引き上げや食糧援助の増加に関する作業の開始を求めた。

即刻成立に向けて動かすべき重要法案:またバイデン氏はパンデミックと戦い、財政的支援を行うために、議会に対して巨額の資金注入を求めており、その法案には多くの優れたアイデアが含まれている。こうした大掛かりな動きには議会の協力が必要となる。バイデンは上院の共和党議員を取り込むために奮闘しなければならないだろう。36年間も公職にあった新大統領には議会対処法に関するアドバイスは不要だろうが、それでも我々は、同氏が即刻、多大な影響力のある法案を動かすのを願っている。これにはインフラ改善のために大きな投資を実施して、何百万人もの雇用を創出し、環境の懸念に正しく対処しながら生産性を向上させるような法案が含まれている。

選挙制度に対する有権者の信頼向上で共和党と共通点を探るべし:社説は最後に、前回の選挙に関するトランプの根拠のない主張は、何百万人もの国民に米国の民主主義の完全性(integrity)に対して疑いを抱かせたと指摘する。民主党議員は、人々が投票を行いやすくするための重要な提案を用意しているが、バイデン氏は投票率と有権者の結果に対する信頼の両方を高める方法について共和党と共通点を見つける必要があると述べ、トランプ支持者に欺かれた(misled)と伝えるだけでは不十分であり、特にこの問題では、バイデン氏は彼らの懸念が同氏にとって他人事ではないことを明確にする必要があると強調する。
                              

 
                              
前田 高昭
金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。
訳書に『チャイナCEO』他。
『東アジアニュースレター』も配信中。

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