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2021年の日本その1 ― 日本社会の表裏に切り込むメディア

2021/01/07

英文メディアで読む 第92回
 
2021年の日本その1
―日本社会の表裏に切り込むメディア
 






 
前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト
       バベル翻訳大学院プロフェッサー
 
 

 昨年、本欄で紹介した「2020年の日本その1」でメディアは先ず、第2東京五輪について、第1回と同様に日本に誇りと再生をもたらすだろうと述べ、日本が野心をもって五輪を挙行することに期待を示した。だが東京五輪は結局、新型コロナウイルスという未知の脅威のために延期された。メディアは今年、この延期された東京五輪と共に正規、非正規労働者の格差拡大や少子高齢化などの社会問題、さらに日本企業の起業の少なさなどの問題を取り上げる。以下にこうしたメディアの論調を順次紹介する。要約は後述の注を参照。
 
日本政府、東京五輪までに全国民へのワクチン接種を計画:12月19日付ワシントン・ポストは、「Japan had ordered enough vaccines for the whole country. Now it has to overcome a history of vaccine mistrust.(全国民にワクチンを用意した日本政府、次はワクチン不信の歴史の克服が課題)」と題する記事で、日本政府はファイザー、アストラゼネカ、モデルナのワクチンを2億9000万回分注文し、7月の東京五輪に間に合うよう来年央までに全国民にワクチンを接種することを計画していると報じる。

政府の前に立ちはだかる国民のワクチン不信感:記事は、しかし、こうしたコロナを終息させて経済を修復し五輪への準備を急ぐ政府の前に、国民の警戒心(caution)が立ちはだかっていると伝え、日本の女子陸上競技選手(長距離走・マラソン)で東京五輪内定を手にしている新谷仁美は副反応を恐れてワクチン接種を望まないと語っているが、こうした選手は彼女一人ではないと報じる。英医学誌ランセットが9月に発表した世界的な研究によれば、日本はフランスやモンゴルの人々と並んでワクチンの安全性(vaccine safety)に対する信頼が世界で最も低く、ワクチンは安全だという考えに全面的に同意する回答者の割合は10パーセント未満だったと述べる。

懸念される東京五輪や経済回復への悪影響:記事は、これは反ワクチン(anti-vaxxers)や陰謀論者(conspiracy theorists)の国ではなく、市民が特に外国の薬物について、しばしば慎重で注意深い日本でのことだと述べ、これは第2次世界大戦後の米国による占領にさかのぼる過去のワクチンに対する安全性への恐怖の記憶が重なっていると報じる。そしてワクチンへの取り組みが世界の舞台に登場するに伴い、米国を含む他の多くの国々と同様に、日本にとっても懐疑と不信感(mistrust)を克服することが課題になったと指摘する。そのうえで記事は次のように警告を発する。ここは原文を読んで翻訳してみよう。 

Failure in Japan to reach a critical mass of vaccinations could not only put the Olympics in danger, but also slow the country’s return to the global economy and international tourism when the post-pandemic recovery gets underway.

「日本でワクチン予防接種が本格化しなかった場合、オリンピックが危険にさらされるだけでなく、パンデミック後の回復が進むなかで、世界経済や国際観光への復帰が遅くなる恐れがある」

ワクチンへの懐疑的な感情が根強い日本:12月23日付ブルームバーグも、ワクチン警戒感が根強い日本、と題する記事で、日本国内では過去の薬害や副反応に対する扇情的な報道などの影響でワクチンに対する懐疑的な感情が根強いことから、普及が他の先進国に大きく後れを取るとの見方が広がっていると伝える。記事は、新型コロナのワクチンでも日本人の忌避傾向は顕著で、世界経済フォーラムと調査会社イプソスが共同で15カ国を対象に実施した意識調査では、日本の新型コロナワクチンの接種意向は69パーセントにとどまり、インドの87パーセントや英国の79パーセントよりも低く全体の平均の73パーセントも下回ったと報じる。
 
日本のワクチン普及は先進国の中で最も遅い22年4月:さらに新型コロナのワクチンの各国・地域での普及と社会が日常に戻る時期を予測している英調査会社エアフィニティーによると、日本の時期は先進国の中で最も遅い22年4月となると見込まれている。日本政府は通常の経済活動や日常生活を取り戻すために早期にワクチンを承認する必要がある一方で、国民の信頼を損なわないよう慎重に審議を進める事も求められていると報じる。

ワクチン忌避の国民感情は過去の薬害の影響:また記事は、日本でのワクチンを避ける国民感情には過去に何度か起きた薬害が影響していと指摘、ジフテリアの予防接種やはしか・おたふくかぜ・風しん(MMR)などのワクチン接種による健康被害、近年では子宮頸(けい)がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)感染予防のためのワクチン接種を巡る副反応などが大きな話題となったと報じる。さらにワクチンの恩恵を最も大きく受ける高齢者にとって、ワイドショーが重要な情報源となっているため、センセーショナルに報道する傾向があるワイドショーの影響が懸念されると指摘、新型コロナワクチンの接種を普及させるためには政府やメディアが積極的に広報の役割を果たすべきだとの専門家らの意見を紹介する。

 なおブルームバーグ報道によれば、厚生労働省の関係者は、新型コロナのワクチン接種は予防接種法上、推奨することになっており、接種を希望する人が受けられるよう、自治体を通じて接種を促す文書を配布する形になろうと語り、田村憲久厚労相は記者会見で、ファイザーのワクチン承認後の接種は医療関係者が優先されるとした上で、なるべく早く接種できるよう「しっかりと体制整備を進めたい」と述べている。当局の動きに注目したい。

 他方、メディアは昨年、日本は長寿企業の存在や独自の伝統的精神によって高い生活水準と心地よい社会を維持し、社会的道徳観によって中道で安定した社会を堅持しているが、その裏で非正規労働者が増加し、富の格差が増大していると批判した。

拡大する正規と非正規労働者の格差:11月27日付ニューヨーク・タイムズは「A Job for Life, or Not? A Class Divide Deepens in Japan (終身雇用か、そうでないかで深まる階層格差) 」と題する記事で、正規と非正規労働者の格差が最近の2つの判決によって、さらに深まっていると述べ、特に非正規労働者として働く多くの女性が被害を受けていると警鐘を鳴らす。記事は概略次のように報じる。
 最高裁判所は先月、非正規労働者として働く女性が正規労働者との待遇格差の是正を求めて提訴した案件について、雇用主は非正規従業員(nonregular employees)に正規従業員と同じ退職金(退職時の一時金)を支払う義務はないという判決を下した。この判決は、終身雇用(lifetime employment)と付随的ベネフィットを受けているいわゆる正規労働者(regular workers)と、その多くが女性である非正規労働者(nonregular workers)の地位との間に存在する日本の長年の格差(divide)をさらに定着させる可能性のある2つの最近の裁判所判決の1つである。

増大する非正規労働者と働く女性の半数は非正規:こうした分断の効果は、特にコロナウイルス感染症の間に顕著に表れている。日本経済がこの春の終わりと初夏にかけて最悪の数ヶ月に直面したとき、企業は何万人もの非正規労働者を削減し、多くの女性が失業の矢面に立たされたが、正社員の多くは自宅待機(put on furlough)で職を維持した。非正規労働者の不安定な雇用状態は、パンデミックに先立って長い間懸念されていた。終身雇用制は第二次世界大戦後に日本で定着してきたが、雇用者は従業員を雇い、解雇する柔軟性が高まれば、経済効率も高まると主張し、既に何年間も終身雇用制から距離を置き始めていた。最新の政府統計によると、現在、日本の労働力の約37パーセント、つまり2060万人以上の労働者が非正規であり、80年代初頭の約16パーセントから増加している。働く日本人女性の半数以上は非正規社員であり、これはウィノミクスと呼ばれる近年の職場における女性地位向上プログラムの限界を示す一例となっている。

雇用慣行自体でなく差別の程度を問題視するに過ぎない判決:上記のように報じた記事は、東京の労働組合委員長の須田光照氏は、「裁判所が、このケースを不合理だと認めなければ、いったい何が不合理なのか」と疑問を呈していると伝え、これに対する暫定的な答えのようなものを、別の裁判所が先月、非正規労働者の条件に関する第3の判決(ruling)で提示したと報じる。ここで裁判官は、日本で最も重要な祝日である正月で配達が急増し、その残業代の支払いを拒否した雇用主、日本郵便を訴えた原告に有利な判決を下したのである。しかし、その判決でさえ、現在の雇用制度(prevailing employment system)をさらに正当化(legitimize )してしまう可能性が高い、と須田氏は語っていると報じ、次のように批判する。ここは原文を読んで翻訳してみよう。

While the ruling will force the company to reassess its employment practices, it found fault only with the degree of discrimination, not the practice itself. 

「判決は会社に雇用慣行の見直しを迫る一方で、雇用慣行そのものではなく、差別の程度を非難しているに過ぎないのだ」

 また日本が高い生活水準と心地よい安定した社会を維持している指摘に関連してメディアは今年、少子高齢化が急激に進む日本社会について次のような肯定的な見方を披露する。

日本は人口が縮小しても生活水準を向上できる手本:11月29日付フィナンシャル・タイムズは、「Japan’s lesson on ageing gracefully(優雅に老いる日本の教訓)」と題する社説で、コロナウイルス大流行が終息すると、世界は経済の長期的な停滞を防止し、民間債務と非民間債務の負担に対処するための選択肢(options)を求め、そこで日本は何をなすべきでないかの警告を発せられると想像する人が多いだろうが、実際には日本は、優雅に老化する方法について他の見本になるノウハウ(expertise)を持ち合わせているとみるべきだと主張、日本は人口が縮小しても生活水準を向上できる手本となっていると次のように論じる。

人口減により1人当たり所得が他国と同一歩調で推移:日本の経済成長は90年代のバブル崩壊後、全体として低かった。だが、国民の生活水準向上という点では、他の多くの豊かな国に劣っておらず、しばしば陵駕してきた。経済全体が停滞している一方で、人口が減少したために1人当たりの所得が他国と歩調を同じくしてきたのである。失業率と格差も大半の欧州諸国や米国に比べてうらやましいほど低い。

社会の安定と生活水準向上の維持で賞賛に値する日本:しかし日本は他の先進国と同様の問題に直面している。これには高齢化問題が含まれるが、人口統計では、欧米の方が経済成長に有利である。特に州政府が働く家族に多くの支援を提供しているフランスやスウェーデンなどでは、出生率が概ね高い。同様に移民も歴史的に日本より多いが、移民の高齢化に伴い人口増加はその出生率を維持することにかかってきている。大西洋の両側での移民排斥(Nativism)は、米欧もこの分野では日本と似たような状態にあることを意味しているかもしれないが、人口動態の圧力に直面しながらも、日本が比較的安定した社会の維持と生活水準の引き上げに成功しているのは称賛に値する(admirable)。その主な教訓は、国は人口を増やすことなく、市民の物質的な福祉(material wellbeing)を向上し続けられるということである。

日本の取り組みは人口動態移行管理の有益なガイド:このことは、他国が人口動態の移行(demographic transition)に取り組むうえで1つのルートを示唆している。日本の対処方法や、その誤り(missteps)に注意深く関心を払うことは、世界の他の国々にとって役に立つガイドとなる。総合すると、注意深い観察によって、他国には日本化(Japanification)よりも悪い運命(fates)が待ち受けていることが分かってくるかもしれない。

 メディアは日本企業の動向について昨年、多額の現金を手元に積み上げた日本企業は内外で活発にM&Aを展開すると予想し、その通りとなったといえるが、今年は、日本ではベンチャー投資がライバルに対して大幅に出遅れていると懸念を表明する。

大幅に出遅れているスタートアップ企業の成長:12月28日付ウォール・ストリート・ジャーナルは「Japan Plays Catch-Up in Venture Capital as Rivals Boom(日本版記事:日本のベンチャー投資、ライバルに追いつけるか)」で、米国や中国では多くのスタートアップ企業が上場しているが、世界3位の経済大国、日本は大幅に出遅れている(lagging far behind)と述べ、日本政府はスタートアップ企業(startups)の成長を加速させたい考えだが、簡単にはいかないとみられると指摘する。

日本政府、ベンチャーキャピタル・ファンドを設立:先ず記事は、日本は米国のシリコンバレーや中国の杭州のような成長の拠点を生み出す環境にないが、ベンチャー投資家や起業家(venture capitalists and entrepreneurs)は、状況は改善しつつあると口をそろえると述べ、スタートアップ情報プラットフォーム「INITIAL」によると、新興企業の調達資金は19年に約48億ドルに上り、この7年で7倍余りに増加したと報じ、さらに次のように伝える。
 ベンチャーファンドは拡大しており、日本政府も資金を投入している。官民ファンドの産業革新投資機構(Japan Investment Corp.以下、JIC)は今年、同国最大となるベンチャーキャピタル・ファンド、JICベンチャー・グロース・インベストメンツを設立した。JICの前身である09年設立の産業革新機構は結局、苦境に陥ったハードウエア企業(struggling hardware companies)の支援に資金の大半を費やすこととなった。2年前、JICの初代取締役のほとんどが、給料を巡って政府と対立し辞任した。だが政府による支援は、スタートアップ企業が過去の悪いイメージ(once-disreputable image)を払拭し、シリコンバレーのクールさを身に着けるのに役立っていると業界ウオッチャーらは話す。

昨年のベンチャー投資額は、中国の10分の1、米国の3パーセント:調査会社ピッチブック(PitchBook)とINITIALのデータによると、それでも日本の昨年のベンチャー投資額は、中国の10分の1、米国の3パーセントにも届かない水準だ。昨年前半は前年と比べてやや減少した。一方の米国は小幅増となっている。日本は米中に後れを取っているだけでなく、評価額が10億ドル超のスタートアップ起業である「ユニコーン」の数もインドのような発展途上国よりも少ない。世界最大のハイテク投資家であるソフトバンクグループでさえ、国内のスタートアップ企業にはほとんど関心を示していない。成熟した経済国の中でもスタートアップの成長スピードが比較的遅い欧州の国々と比べても、日本にはまだ長い道のりがあると、JICベンチャー・グロース・インベストメンツ代表取締役社長CEOの鑓水英樹氏は指摘し、ただ、「逆にいうと、成長の余地はめちゃくちゃある(crazy opportunity)と思う」と述べた。鑓水氏によれば、日本の経済規模対比でベンチャー投資がより適正な規模となるには約5~6倍増える必要がある。それは5年から10年かけて緩やかに実現するだろうと同氏はみている。

起業が少ない日本独特の要因:こう報じた記事は最後に、日本で起業が少ない背景として、何十年もの間、大企業が日本経済と企業風土の中心にあり、成功への道は一流大学(top-tier university)からソニーやトヨタのような優良企業(blue chips)に入ることだと考えられてきたと述べ、また金もうけ(making money)に対する否定的な見方が社会に広がっており、さらに日本では米国よりもビジネスの失敗(business flops)は厳しい目で見られがちであるなどの日本独特の社会文化的要因があると指摘する。

結び:メデイアは先ず、新型コロナウイルスが大流行するなかで、今年に延期された東京五輪の開催可否の問題に目を向け、これには開発間もないワクチンが大きな役割を果たすとみて、日本におけるワクチン接種の普及に大きな関心を寄せる。海外のメディアは、日本におけるワクチン接種は歴史的経緯があるため簡単には進まないと、ややセンセーショナルに報じるが、日本のメディアは余り問題視していないと言え、内外メディアの報道姿勢に落差がある。しかし日本の当局はコロナ対策としての集団感染という選択肢を採用していないことから、ワクチン接種が、いわば唯一無二の防止策であり、その意味で接種の普及は不可欠な課題である。さらに重要なことは、経済政策としての意義である。コロナ制圧は経済の早期回復に不可欠であり、五輪以上の意味があると言える。
 正規と非正規労働者との格差拡大も、海外メディアが容赦なく追求する問題となっている。メディアは、日本が生活水準の維持向上と安定した社会の堅持に成功していると評価しているが、正規と非正規の格差拡大はまさに、日本社会の安定や生活水準の向上を脅かす問題である。他国と肩を並べてきたと評価されている1人当たりの所得や、大半の欧州諸国や米国に比べてうらやましいほど低いと指摘されている失業率と格差は、この問題への対応を誤ると雲散霧消しかねない。安易に非正規労働に依存する企業も、労働力の劣化や対外競争力の低下などの大きな代償を支払うことになる可能性がある。何よりも、格差拡大の被害者が将来の日本を背負う若者や女性であることが問題である。しかも司法も、こうした流れをむしろ後押しするような判断を示している。このままでは日本の将来が危うい。官民挙げて格差拡大に歯止めをかける対策を早急に打ち出すべきだろう。
 少子高齢化が進み、経済成長は全体として低かった日本が、生活水準の向上では他の豊かな国に劣らず、しばしば陵駕したと評されているが、それは人口減少により1人当たり所得で他国と肩を並べているためだと説明されている。まさに食い扶持を減らして生活を維持する無数の家計の縮図である。生活水準の維持向上は生産性の向上で実現して然るべきだろう。
 そのためにも企業の奮起が期待されるが、その観点で懸念されるのは、日本における起業の力不足である。日本の昨年のベンチャー投資額は、中国の10分の1、米国の3パーセントにも届かず、「ユニコーン」の数もインドのような発展途上国よりも少ないと指摘されている。政府もそれなりの対策を講じているようだが、同時にビジネスの失敗や金もうけに対する否定的な見方、立身出世主義などの日本独特の社会、文化的背景を今後、変えていく必要がある。最近のコロナ禍など、こうした考えに一大変革をもたらすような潮流の変化も看取され、今後に期待したい。以上のようにメディアは、日本社会や企業の抱える諸問題の表裏に切り込み、その明暗を鋭くえぐり出している。今年の日本経済の行方に関する論調ついても今後、折にふれ取り上げていきたい。(2021年1月5日)

(注)要約:メディアは先ず、東京五輪とコロナ禍との関係に目を向け、経済を修復し五輪への準備を急ぎ、来年央までに全国民へのワクチン接種を計画する日本政府の前に、国民のワクチン不信感が立ちはだかっていると報じる。日本はフランスやモンゴルと並んでワクチンの安全性に対する信頼が世界で最も低く、安全と考える回答者の割合は10パーセント未満だとの研究や日本の新型コロナワクチンの接種意向は69パーセントと全体平均の73パーセントも下回ったなどの調査の結果、さらに日本のワクチンのワクチン普及と社会が日常に戻る時期は、先進国の中で最も遅い22年4月となると見込まれているとの見方を伝える。これは戦後の米国占領時にさかのぼるワクチン安全性への恐怖の記憶が重なっていることや過去のワクチン接種による健康被害などのためだと報じる。

 このため日本政府にとってワクチン不信感の克服が課題になったと指摘し、ワクチンの恩恵を最も大きく受ける高齢者にとって、ワイドショーが重要な情報源となっているため、センセーショナルに報道する傾向があるワイドショーの影響が懸念だと述べ、ワクチンの接種の普及には政府やメディアの積極的な広報上の役割が必要だとの専門家らの意見を紹介する。ワクチン予防接種が本格化しなかった場合、オリンピックが危険にさらされ、パンデミック後の日本の世界経済や国際観光への復帰が遅れる恐れもあると警告する。
 他方、メディアは昨年、日本は高い生活水準と心地よい安定した社会を堅持しているが、その裏で非正規労働者が増加し、富の格差が増大していると批判したが、今年も正規と非正規労働者の格差がコロナウイルス感染症の間にますます顕著になり、最近の2つの判決によって、さらに深まったと指摘する。その1つは、非正規労働者として働く女性が正規労働者との待遇格差の是正を求めて提訴した案件について、雇用主は非正規従業員に正規従業員と同じ退職金を支払う義務はないという判決、もう1つは、正月で配達業務が急増するなか、その残業代の支払いを拒否した雇用主、日本郵便を訴えた原告に有利な判決を下したことである。ただし、この判決も雇用慣行そのものではなく、差別の程度を非難しているに過ぎないと批判する。
 同時にメディアは、少子高齢化が急激に進む日本社会について肯定的な見方を示し、コロナウイルス大流行が終息後の世界に対して日本は、優雅に老化する方法について他の見本になるノウハウ(expertise)を示していると主張する。経済成長はバブル崩壊後、全体として低かったが、生活水準の向上では、他の多くの豊かな国に劣らず、しばしば陵駕し、経済全体が停滞している一方で、人口が減少したために1人当たりの所得は他国と肩を並べてきたとし、失業率と格差も大半の欧州諸国や米国に比べてうらやましいほど低いと指摘、出生率や移民受け入れで欧米より劣後する日本が、比較的安定した社会の維持と生活水準の引き上げに成功しているのは称賛に値すると述べ、その主な教訓は、国は人口を増やすことなく、市民の物質的な福祉を向上し続けられるということだと論じる。
 他方、メディアは今年、米国や中国では多くのスタートアップ企業が上場しているが、世界3位の経済大国、日本は大幅に出遅れていると懸念を示す。日本政府も資金を投入して官民ファンドの産業革新投資機構を設立するなど支援に乗りだし、ベンチャーファンドは拡大しているが、それでも日本の昨年のベンチャー投資額は、中国の10分の1、米国の3パーセントにも届かない水準で、評価額が10億ドル超のスタートアップ起業である「ユニコーン」の数もインドのような発展途上国よりも少ないと指摘する。また日本の経済規模対比でベンチャー投資がより適正な規模となるには約5~6倍増える必要があり、それは5年から10年かけて緩やかに実現するだろうとの専門家の見方を紹介する。こうした背景として、大企業が経済と企業風土の中心にあり、一流大学から優良企業に入ることが立身出世との考えや、金もうけに対する否定的な見方、ビジネスの失敗が厳しい目で見られることなどが挙げられている。

                                

                              
前田 高昭
金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。
訳書に『チャイナCEO』他。
『東アジアニュースレター』も配信中。

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