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東アジア地域包括的経済連携の調印 -影響力が増大する中国と減退する米国

2020/12/07

英文メディアで読む 第91回
 
東アジア地域包括的経済連携の調印
―影響力が増大する中国と減退する米国
 






 
前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト
       バベル翻訳大学院プロフェッサー
 
 

 アジア地域において長年の懸案であった東アジア地域包括的経済連携(Regional Comprehensive Economic Partnership、以下、RCEP )が11月15日、ベトナムのハノイで調印された。調印国は15カ国(注2)に上る。以下に主要メディアの論調を紹介する。要約は注1を参照。

人口とGDPで欧州連合を上回る新貿易圏が誕生:11月16日付ワシントン・ポストは「As Trump era ends, massive new Asian trade deal leaves U.S. on the sidelines(トロンプ時代の終焉と共に、アジアで米国抜きの大規模貿易協定が成立)」と題する記事で、アジア諸国はトランプ大統領が環太平洋経済連携協定(TPP)を廃棄してから、米国なしの貿易協定に意義があるかどうかを4年の歳月をかけて検討し、今や、大合唱でイエスの回答を出し、世界の国内総生産の3割を占める一大貿易協定に署名したと宣言したと報じる。このRCEPと呼ばれる協定は、日本の自動車部品からマレーシアのパーム油にまで及ぶ関税を引き下げ、人口とGDPで欧州連合を上回る新貿易圏内に強固なサプライチェーンを確立したと評する。

米国不在のなかでルールを書き続けるアジア:次いで記事は、18年に米国抜きで成立した「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(the Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership、以下、CPTPP)」と合わせると、米国を含む世界の大半で保護主義感情(protectionist sentiment)が高まるなかで、アジア各国の政府が、いかに地域貿易の拡大を目指しているか明示していると強調する。シドニー大学米国研究センターの投資・貿易担当ディレクター、スティーブン・キルヒナー氏は「米国は以前に望んでいたルール作りとリーダーシップの役割から降りたが、この地域は米国不在のなかでルールを書き続けている」と語っていると伝え、しかも米国はRCEPへの参加申請資格を有するも、すぐに申請するかが明らかでないと述べる。次期大統領に選出されたバイデン氏は選挙中に加盟問題について態度を明確にしておらず、まずは米労働者の競争力とインフラ強化を優先するとしか語っていないと報じる。

一様でない加盟国の受け止め方:さらに記事は加盟各国の反応も一様でないと次のように報じる。日本に関する箇所については、原文を読んで翻訳してみよう。

Across Asia, reactions were more mixed. In Japan, where industries from cars to sake would likely see tariffs slashed, the Keidanren business alliance cheered while security analysts fretted about the implications of Beijing’s growing regional clout and the absence of the United States or India — counterweights to China.

「アジア全般にわたって、反応は様々である。日本では、自動車から日本酒に至る産業の関税が引き下げられるそうであり、業界団体の経団連は歓迎したが、安全保障アナリストは中国政府の増大する地域的影響力の意味するものと、中国への対抗勢力である米国やインドの不在に懸念を抱いていた」

 次いで記事は、豪州では、中国が既に牛肉やワインなどの豪州輸出品を閉め出している現状に鑑み、労働組合が新協定の恩恵に疑問を呈していると伝え、またアナリストらは、RCEPは知的財産権(intellectual property)のような難しい問題を規定する画期的なルールを提示していないと指摘し、契約の詳細や項目の一部について適用時期が不明だと批判していると報じる。

東アジアと東南アジアの結束を加速させるRCEP:こう述べ記事は、それでもRCEPは北東アジアの経済大国同士及び彼らとベトナムのような巨大な市場機会(enormous market opportunities)を提供し急成長する東南アジア諸国とを結びつけるという国際的なトレンドを加速させると大方は考えていると述べ、新協定は、中国、韓国、日本を含む最初の多国間貿易協定であり、それによって企業は域内他国から部品を調達する誘因を得ると指摘する。

アジア内貿易の流れと世界のGDPを押し上げる2つの新協定:記事はさらにピーターソン国際経済研究所のシミュレーションによると、CPTPPとRCEPの2つの新協定によって、2030年までに加盟国間の貿易は4280億ドル、世界のGDPは1860億ドルそれぞれ増加させるとされていると伝える。また同研究所は、米中を基軸としない域内を目指す貿易の流れがパンデミックと米中貿易戦争によって加速する可能性があると予想していると報じる。

米国は明確な敗者:11月17日付米タイムは、「Why the U.S. Could Be the Big Loser in the Huge RCEP Trade Deal Between China and 14 Other Countries(無残な敗者になるかもしれない米国、中国と14カ国との間に巨大貿易協定成立)」と題する記事の冒頭で、かつてない大規模な貿易協定が11月15日、ビデオ会議で調印されたが、その勝者と敗者は既に明白だと指摘する。専門家は、この取引は実質的(substantive)というよりも象徴的なものであるが、アジア太平洋地域における中国の力と衰退する(waning)アメリカの影響力の両方を明確に示していると語り、また関係筋は、日本、韓国、オーストラリアのような米国の同盟国でさえ、代替案がない中で中国との交渉に動いたと指摘していると伝える。

署名国を自国の経済的、政治的軌道に引き込む中国:また記事は、RCEP調印によって、トランプ大統領が多国間主義(multilateralism)から撤退した「アメリカ・ファースト」の4年間の動きを逆転させるのがバイデン政権にとって、これまで考えられていたよりも難しくなったとみられると指摘する。「貿易協定は署名国(signatory countries)の経済的財産をさらに緊密に中国の経済財産に結び付けており、時が経つにつれてこれらの国々を中国の経済的、政治的軌道に深く引き込むだろう」とコーネル大学の経済学と貿易政策の教授で、国際通貨基金の元中国部門責任者であるエスワル・プラサドは語っていると報じる。

11月17日付フィナンシャル・タイムズは「Asia deal is wake-up call for free trade(RCEPは自由貿易への警鐘)」と題する社説で、RCEPは地域における米国の影響力低下を裏付けていると述べ、自由貿易の恩恵に疑問が提起され、グローバリゼーションへの懸念が世界で台頭するなかで、新協定が調印されたのは象徴的出来事であり、地域の経済統合に向けた一里塚となると論じる。

米国の影響力減少を浮き彫りにしたRCEP:社説は、参加15カ国の国内総生産(GDP)は世界のほぼ3分の1を占め、中日韓を結び付ける初めての貿易協定であると述べ、アジアは統合的貿易圏(a cohesive trading bloc)とする目標へ一歩近づいたとし、同様に重要なこととして、米国の影響力縮小(diminution)を明示したと指摘する。さらに米国を環太平洋経済連携協定(TPP)から引き離したトランプ米大統領は現在、中国が他のアジア太平洋14カ国との協定に署名するのを目撃して大統領就任を終わろうとしている一方、バイデン次期米大統領は、中国政府の世界的影響力の増大を押し戻すために米同盟国を結集することを明らかにしたと述べ、RCEPの署名はそうした目標の大きさを物語っていると付言する。

関税引き下げに集中する比較的底の浅い新協定:ただしRCEPは象徴的な意味を持つにもかかわらず、関税の引き下げに集中する比較的底の浅い(shallow)前世紀スタイルの貿易協定だと述べ、さらに複雑な問題、例えば、国境を越えるデータフロー、Eコマース、農業などを回避していることに注意を払うべきであり、またRCEPの紛争解決メカニズムが十分に効果を発揮するかも不明だが、これも中国が政治的紛争で貿易相手国をいじめる(bullying)傾向があることから極めて重要な問題だと指摘する。

中国を利する原産地規則の自由化と統一:それにもかかわらず、RCEPには中国にとって地域での地位を強化する重要な手段がいくつか込められていると述べ、最も重要なものは、域内で取引される商品の原産地規則(rules of origin)を自由化し、統一する方法であると指摘する。これにより柔軟なサプライチェーンの構築が容易となり、米国が再び制裁で中国製品を標的にした場合など、いくつかの理由で中国にとって役立つ可能性があると指摘する。原産地規則が統一されてくる(Convergence)と、規制当局による原産地基準の設定が幅広く進められるようになり、加盟国の貿易相手国がその要求に応じるにつれて、RCEPを超える波及効果(spillover effects)が出てくると思われると述べる。ただし、このことは中国が高圧的ではなく、RCEPメンバーと協力する態度を取る場合にのみ可能となると付言する。

バイデン政権の公式目標に対する挑戦:これらの動きは、貿易に関する米国のリーダーシップを取り戻し、中国を押し戻すというバイデン政権の公式目標(professed aims)に対する挑戦となる。この目標の達成には、外交的に言えば、米国がCPTPPに参加すればよいことは明らかであるが、現在の米国の状況では政治的に不可能だろうと指摘する。

防衛的で内向きの政策に戻ってはならないインド:記事は最後にインドについて次のように述べる。インドも何をすべきかを考えるべきだ。モディ政権は、中国の急速な産業発展に倣って、インドを今世紀における第2のアジア超大国として台頭させようと熱望している。しかし、新興のインド産業が安価な中国の輸出品によって押しつぶされるのを恐れて、RCEPから離れた。だがインドは、過去の防衛的で内向きの態度に逆戻りしないように注意すべきだ。

11月17日付ウォール・ストリート・ジャーナルは「Asia’s Massive New Trade Deal Is No Big Victory for Beijing(日本版記事:RCEP署名、「中国の大勝」には程遠い実情)」と題する記事で、世界の国内総生産(GDP)の約3分の1をカバーする大規模なアジア貿易協定(A mammoth Asian trade)が、最初に構想されてからほぼ10年の時を経て署名されたと報じる。
 
中国にとって勝利ではないRCEP:記事は、この協定が中国政府にとっては勝利とされているが、協定の内容が弱いために中国は地域貿易のリーダーシップからは程遠い場所に置かれていると述べ、RCEP加盟国15カ国のうち、7カ国は既に約2年前に発効したCPTPPの加盟国であり、10カ国は東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国で、RCEP は2011年、ASEANによって立ち上げられたと指摘する。
  
ルールメーカーよりもルールテーカーである新協定:また協定の内容について、野心的要素は比較的少なく、取り決められた関税引き下げはCPTTPよりも少ないとし、戦略国際問題研究所(CSIS)は、RCEPは環境や労働に関するルールを含んでおらず、かつ紛争解決(disputes settlement)、競争、サービス、投資に関する部分が比較的弱いと述べ、多くの場合、既存の多国間・2国間協定網の方が、RCEPで進められる予定のものよりもかなり貿易自由化(liberalized trade)の程度が高いと報じる。このため他の国々や グループは、既に結んでいる取り決めの方を優先するだろうとし、この新たな経済圏は、「ルールメーカー(規則を作る側)」としてよりも「ルールテーカー(規則を受け入れる側)」としての立場を続けることになりそうだと述べる。さらにインドが離脱したことで、オーストラリアとニュージーランドは現行の貿易協定を結んでいない唯一の参加国を失ったと指摘する。 

RCEPの利点は規模と原産地証明:こう報じた記事は最後に新協定の強み(advantages)として、第1に規模(scale)を挙げ、弱い協定であっても、世界最大の貿易国である中国を参加させたことは重要だと述べ、第2に最大の利点(upside)は、他の全加盟国との貿易に輸出業者に必要とされる原産地証明(certificate of origin)が統一されることかもしれないと述べ、既にアジア内のサプライチェーンを利用している多国籍企業には管理が容易になり、事業の展開場所を検討している企業には魅力となると指摘する。  

近隣諸国を中国の経済軌道に乗せるRCEP、米国は決起せよ:11月20日付ブルームバーグは「The U.S. Shouldn’t Let Itself Be Left Behind on Trade(米国は貿易で置き去りにされる事態を放置すべきではない)」と題する社説で、世界で最もダイナミックな地域で大規模な自由貿易協定が新たに調印されたことによって、米国の民主、共和両党は行動を起こすべきだと米国の決起を促す。社説は、RCEPが近隣諸国をさらに中国の経済軌道(economic orbit)に乗せるとみられるなか、これに世界最大の米経済が参加していないと指摘、この事態に対して、大統領に選出されたバイデン氏とライバルの共和党は懸念を抱き、かつ米国の指導力を再生するという問題を想起すべきだと主張する。

象徴的な存在に止まる可能性もある新協定:同時に社説は、8年間の話し合いを経て、中日韓豪、ニュージーランドと東南アジア諸国連合の10カ国のメンバーが11月15日、ようやく東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に署名したが、少なくとも当初、この取引は経済的影響よりも象徴的なものである可能性があると述べる。理由として、比較的大胆さに欠ける関税引き下げスケジュール、不必要に複雑な同手続、他の高水準貿易協定(other high-standard trade pacts)に及ばない電子商取引とデジタル貿易に関する規定、そしてインドの交渉撤退による大幅な規模縮小を挙げる。

多国籍企業の経営を容易にする簡素化された原産地規則:同時に社説は、長期的には新協定は大きな影響を持つ可能性があると次のように述べる。20億人以上の人々と26兆ドルの国内総生産(GDP)を擁する地域をカバーし、インドが加盟すればさらに劇的に拡大する可能性がある。簡素化された原産地規則は、地域で事業を展開する多国籍企業(multinationals)の経営を容易にする。このため競争上、多国籍企業はRCEP加盟国へ生産をシフトする圧力に直面するだろう。

中国の経済モデルに制限を加えていない新協定:また日韓両国からのハイテク貿易の拡大と地域貿易の増加によって、中国は経済的影響力(economic sway)をさらに増すことになろう。同様に重要なのは、この協定が、中国政府による国有企業への支援やその他の中国経済モデルの側面を制限していないことだ。ただし始めは控えめ(modest)であっても、RCEPによってアジア諸国は時間をかけて、その利益に合致する貿易条件を設定するためのプラットフォームを確立するだろう。 

米国の早急なTPP復帰は困難か:他方、この間の米国の動きについて、TPPから撤退した後、米国は世界で最もダイナミックな地域における最大の貿易協定から事実上絶縁して、米企業や労働者を不利な立場に置いたと述べ、それはまた近隣諸国を経済軌道に深く引き込み続ける中国に対する影響力を後退させ、米国のアジアへのコミットメントに対する根強い疑念を煽った と指摘する。そのうえで社説は、こうした流れを逆転するのは容易ではないと述べ、バイデン氏が、TPPを引き継いだ包括的かつ進歩的な環太平洋パートナーシップ(CPTPP)への加盟問題について民主党内左派からの強い反対に直面していることや、現在のCPTPP加盟国も、米国のために重要な新たな譲歩をすることに消極的とみられることなどを挙げ、米国の早急な復帰について悲観的見方を示す。

乗り越えられる内外の障害:ただし社説は、これらの障害(hurdles)は乗り越えられない(insurmountable)ものではないと主張し、巨大な米国市場が加われば、一部の加盟国にとって収益性が劇的に高まる可能性があると述べ、米新政権の要求が合理的である限り、加盟国は喜んで交渉に応じるかもしれないと指摘する。まず、国内での反対を和らげる方法として、バイデン氏は協定における労働と環境保護を改善する交渉を進めると共に、生産の海外移転(offshoring)によって仕事を失った人々を支援するプログラムへの投資増大の公約を果たすことを挙げる。また加盟国との交渉に当たっての一つの戦略として、デジタル貿易などの特定のセクターに焦点を当て、的を絞った議論の余地の少ない(less-controversial)合意を求め、双方の信頼を再構築することを提案する。

アジアの導きに従うべき民主、共和の両党:こう論じた社説は最後に、中国の不公正な貿易慣行(unfair trade practices)を抑えたいのであれば、協定に加わることが最も効果的な武器の一つになると説き、アジアの指導者がRCEPに調印したのは、協調と妥協の恩恵をよく理解しているからであり、米国がアジアにおける影響力の底上げを望むのであれば、民主、共和の両党はアジアの導きに従うべきだと論じる。

結び:東南アジア10カ国と東アジア3カ国及びオーストラリア、ニュージーランドの15カ国が調印したRCEPは、世界のGDPの3分の1を占める、文字通り世界最大の貿易協定となる。中核に急成長する経済圏を擁して、今後、世界をリードする貿易協定となると期待されている。そこで際立つのは米国の不在と、それと対照的に協定の中心に位置する中国の存在感である。メディアの論調もこの点に集中し、RCEPはアジア太平洋地域における中国の力と衰退するアメリカの影響力を明示したと指摘する。
 日本については、経団連は歓迎しているが、安保アナリストは地域で存在感を増す中国への影響と米国及びインドの不参加に懸念を示している、とコメントする程度で記述は乏しい。しかしCPTPPを含めて日本の果たした役割の重要性については、メディアも評価しているのは間違いない。そのことは本誌 前月号で紹介したように主要メディアがCPTPPの調印に際して果たした安倍前首相の役割を、その主要な功績の一つとして挙げていることからも明らかである。日本には、そうした過去の実績も踏まえ、RCEPを堅実に運営、育成することが求められるのは言うまでもない。
 日本に期待される役割の第1は、米国のCPTPPへの誘致であろう。CPTPPには、中国の習近平国家主席が最近、参加に前向きな発言をして注目されている。RCEPも含めて中国に支配権を握られないためにも、米国のCPTPP加盟は欠かせない。ただし、これには米国内に参加に消極もしくは批判的な意見が強いとい問題がある。特に与党となる民主党内左派が強く反対しているとされる。他方、CPTPP加盟国側も、米国が加盟のために協定内容について厳しい修正条件を突き付けてくることに警戒心を示している。しかしメディアが指摘するように、これらは乗り越えられない障害ではない。メディアが示唆し、提案するような方策を駆使して、日本が主導して米国の加盟を実現させることが期待される。同時に、地域の一方の大国として、中国への有力な対抗勢力となるインドの誘致も日本が果たすべき重要な役割の一つである。
 中国はRCEP内では中心と程遠いところに位置しているとのウォール・ストリート・ジャーナルのような見方もあるが、経済力と最近とみに強まる強権的姿勢を考えると、その戦略は大いに警戒する必要があろう。一つの問題は、日本のメディアはほとんど関心を示していないが、幾つかの海外メディアが指摘するように、原産地規則の自由化や統一という動きが、中国を大いに利する可能性があることに注意すべきだろう。原産地基準は複雑な手順や手法を経て決定される。その規則の弾力化によって、例えば、中国は自国製品への経済制裁を原産地基準の柔軟な運用で巧みに回避する道が開かれる。ただしRCEPは、「規則を作る側」よりも「規則を受け入れる側」として位置づけられている。つまり内容の水準が低いRCEPは、CPTPPのルールで取り込める余地があるということである。しかもRCEPは、中国政府による国有企業の支援やその他の中国経済モデルを制限していないと指摘されており、こうした中国政府を抑制できるのは日本を筆頭とするCPTPP加盟国なのである。 
 とはいえRCEPを通じて加盟各国は、中国の経済的、政治的軌道に深く引き込まれていく可能性がある。RCEPによる対中貿易の拡大は、経済的恩恵と共に政治的あるいは安保上のリスクを増大させる。RCEPが包含する大きなジレンマである。日本は自身のためにも、その均衡を塩梅しながら利活用を進める必要がある。

(注1)要約:メディアはまず、アジア諸国はトランプ米大統領が環太平洋経済連携協定(TPP)を廃棄してから、米国抜きの貿易協定について検討を重ね、ついに世界の国内総生産の3割を占める一大貿易協定、RCEPに署名したと述べ、人口と国内総生産(GDP)で欧州連合(EU)を上回る新貿易圏内に強固なサプライチェーンを確立したと評する。米国は参加申請資格を有するも、すぐに申請するかが明らかでないと述べ、次期大統領に選出されたバイデン氏は選挙中に加盟問題について態度を明確にしておらず、米労働者の競争力とインフラ強化を優先するとしか語っていないと報じる。
 RCEPの問題点として、協定には野心的要素が比較的少ないと指摘、関税引き下げは、米国抜きで成立したCPTPPよりも少なく、引き下げスケジュールも大胆さに欠け、手続が不必要に複雑だとし、さらに、他の高水準貿易協定に及ばない電子商取引とデジタル貿易に関する規定、そしてインドの交渉撤退による大幅な規模縮小を問題点として挙げる。戦略国際問題研究所(CSIS)は、RCEPは環境や労働に関するルールを含んでおらず、かつ紛争解決、競争、サービス、投資に関する部分が比較的弱いと指摘、既存の多国間・2国間協定網の方が、RCEPよりもかなり貿易自由化の程度が高いと報じる。このため他の国々やグループは、既に結んでいる取り決めの方を優先するだろうとし、この新たな経済圏は、「ルールメーカー(規則を作る側)」としてよりも「ルールテーカー(規則を受け入れる側)」としての立場を続けることになりそうだと述べる。
 またアナリストは、RCEPは知的財産権のような難しい問題を規定する画期的なルールに欠け、契約の詳細や項目の一部について適用時期が不明だと批判していると伝える。さらにRCEPは、関税の引き下げに集中する比較的底の浅い前世紀スタイルの貿易協定であり、例えば、国境を越えるデータフロー、Eコマース、農業などを回避していると批判、紛争解決メカニズムが大いに効果を発揮するかも不明だが、これも中国が政治的紛争で貿易相手国をいじめる傾向があることから極めて重要な問題だと指摘する。メディアはまた、加盟各国の反応が一様でないことを挙げる。日本では経団連は歓迎しているが、安保関係アナリストは,地域で存在感を増す中国への影響と米国及びインドの不参加に懸念を示していると述べ、豪州では、中国が既に豪州輸出品を閉め出しており、労働組合が新協定の恩恵に疑問を呈していると報じる。
 とはいえ、新協定には次のような強みがあるとし、第1に規模を挙げ、世界最大の貿易国である中国を参加させたことは重要だと述べる。第2に最大の利点は、他の全加盟国との貿易に輸出業者に必要とされる原産地証明が統一されることだろうと指摘、既にアジア内のサプライチェーンを利用している多国籍企業には管理が容易になり、事業の展開場所を検討している企業には魅力となると指摘する。またRCEPは北東アジアの経済大国同士及び彼らとベトナムのような急成長する東南アジア諸国とを結びつけるという国際的なトレンドを加速させると大方はみていると述べ、新協定は、中韓日を含む最初の多国間貿易協定であり、それよって企業は域内他国から部品を調達する誘因を得ると指摘する。さらに20億人以上の人々と26兆ドルの国内総生産(GDP)を擁する地域をカバーし、インドが加盟すればさらに劇的に拡大する可能性があること、簡素化された原産地規則は、地域で事業を展開する多国籍企業の経営を容易にすること、このため競争上、多国籍企業はRCEP加盟国へ生産をシフトする圧力に直面すると予想する。また協定は、始めは控えめであっても、アジア諸国は時間をかけて、その利益に合致する貿易条件を設定するためのプラットフォームを確立するだろうと指摘する。ピーターソン国際経済研究所によると、CPTPPとRCEPの2つの新協定によって、2030年までに加盟国間の貿易は4280億ドル、世界のGDPは1860億ドルそれぞれ増加すると予測していると報じる。
 専門家は、RCEPは象徴的なものだが、アジア太平洋地域における中国の力と衰退するアメリカの影響力を明示したと語り、自由貿易の恩恵に疑問が提起され、グローバリゼーションへの懸念が世界で台頭するなかで、新協定が調印されたのは象徴的出来事であり、地域の経済統合に向けた一里塚となると論じる。関係筋は、日本、韓国、オーストラリアのような米国の同盟国でさえ、代替案がない中で中国との交渉に動いたと述べていると報じる。またRCEPは、貿易に関する米国のリーダーシップを取り戻し、中国を押し戻すというバイデン政権の公式目標に対する挑戦となり、「アメリカ・ファースト」の4年間の動きを逆転させようとするバイデン政権にとって、目標達成がこれまで考えられていたよりも難しくなったとみられると指摘する。「貿易協定は署名国の経済的財産をさらに緊密に中国の経済財産に結び付けており、時が経つにつれてこれらの国々を中国の経済的、政治的軌道に深く引き込むだろう」との国際通貨基金(IMF)元中国部門責任者のコメントを伝える。
 メディアは、米国がリーダーシップを取り戻すという目標を達成するには、外交的に言えばCPTPP、に参加すればよいのだが、米民主党内左派の強い反対や、現加盟国も米国のために重要な新たな譲歩をすることに消極的とみられることなどから、米国の同協定への早急な復帰について悲観的見方を示す。ただし乗り越えられない障害ではないと主張し、巨大な米国市場が加われば、一部の加盟国にとって収益性が劇的に高まる可能性があり、米新政権の要求が合理的である限り、加盟国は喜んで交渉に応じるかもしれないと指摘する。また加盟国との交渉に当たって、デジタル貿易などの特定のセクターに焦点を当て、的を絞った合意を求め、双方の信頼を再構築することを提案する。米国内での反対を和らげる方法としては、バイデン氏はCPTPPにおける労働と環境保護を改善する交渉を進めると共に、生産の海外移転によって発生した国内の失業者向け支援プログラムへの投資増大という公約を果たすことを挙げる。
 中国については、この新協定は中国の勝利とされているが、協定の内容が弱いために中国は地域貿易のリーダーシップからは程遠い場所に置かれていると述べ、加盟15カ国のうち、7カ国は既に約2年前に発効したCPTPPの加盟国であり、10カ国は東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国で、そもそもRCEP は2011年、ASEANによって立ち上げられたと強調する。しかし中国にとって地域での地位を強化する重要な手段がいくつか盛り込められており、最も重要なものは、域内で取引される商品の原産地規則を自由化し、統一することだと述べる。これにより柔軟なサプライチェーンの構築が容易となり、米国が再び中国製品を制裁の標的にした場合には、中国にとって役立つ可能性があると指摘する。原産地規則が統一されると、規制当局による原産地基準の設定が幅広く進められるようになり、加盟国の貿易相手国がその要求に応じるにつれて、RCEPを超える波及効果が出てくると述べる。さらに中国は、日韓両国とのハイテク貿易の拡大と地域貿易の増加によって経済的影響力を増すだろうとし、重要なのは、この協定が、中国政府による国有企業への支援やその他の中国経済モデルを制限していないことだと指摘する。
 インドについては、モディ政権は、中国の急速な産業発展に倣って、インドを今世紀における第2のアジア超大国として台頭させようと熱望しているが、新興のインド産業が安価な中国の輸出品によって押しつぶされるのを恐れて、RCEPから離れたと批判、過去の防衛的で内向きの態度に逆戻りしないように注意すべきだと警告する。
 メディアはさらに米国について、世界で最もダイナミックな地域における最大の貿易協定から事実上絶縁して、米企業や労働者を不利な立場に置き、中国に対する影響力を後退させ、米国のアジアへのコミットメントに対する根強い疑念を煽ったと批判し、RCEPが近隣諸国をいっそう中国の経済軌道に乗せるとみられるなか、米経済が参加していない事態に対して、大統領に選出されたバイデン氏とライバルの共和党は懸念を抱き、かつ米国の指導力を再生するという問題を想起して然るべきだと述べ、民主、共和両党は行動を起こすべきだと米国の決起を促す。そのうえで、中国の不公正な貿易慣行を抑えたいのであれば、協定に加わることが最も効果的な武器の一つになると説き、アジアの指導者がRCEPに調印したのは、協調と妥協の恩恵をよく理解しているからであり、米国がアジアにおける影響力の底上げを望むのであれば、民主、共和の両党はアジアの導きに従うべきだと論じる。

(注2)RCEP加盟の15カ国は以下のとおり。ASEAN加盟10カ国(ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)と日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランド。                  

                                

                              
前田 高昭
金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。
訳書に『チャイナCEO』他。
『東アジアニュースレター』も配信中。

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