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2020年の日本その5 ―菅新政権の登場と改革に期待を示すメディア

2020/10/07

英文メディアで読む 第89回
 
2020年の日本その5
―菅新政権の登場と改革に期待を示すメディア
 






 
前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト
       バベル翻訳大学院プロフェッサー
 
 

 前号で安倍前首相の突然の退任表明に関するメディアの論調を観察した。今回は、後継政権である菅内閣の発足に伴うメディアの報道と論調をみていく。要約は末尾の注を参照ください。
   
地銀、中小企業の統合推進を意図する菅新首相:9月16日付ウォール・ストリート・ジャーナルは「Japan’s New Prime Minister(日本版記事:【社説】日本の新首相、期待される経済改革)」と題する社説で、安倍政権の内閣官房長官(chief cabinet secretary)として長く仕え、その政策課題の立案と実行に主導的役割を果たした菅新首相は現在、非効率な地方銀行(regional banks)や中小企業の統合、合併などのアイデアを持っていると述べる。日本の地銀は数が多過ぎ、利益は少な過ぎ、菅氏は長年、統合(consolidation)によって地銀の中小企業への融資能力が向上すると信じてきたと指摘する。また生産性向上(productivity gains)を後押しするために中小企業間の統合、合併に対する政策上の障害を除去したいと考えていると述べ、こうした小さなアイデア(micro ideas)が大きな影響(big impact)をもたらす可能性があると主張する。

2つの経済から構成される日本経済:そのうえで社説は、日本には事実上、2つの経済があるとし、1つは大手輸出企業から構成される世界的競争力を持った生産性の高い製造業を中心とした経済、もう1つは国内サービス業を中心とした経済で、中小企業から構成され、きわめて生産性が低く、投資が不足していると指摘、菅氏が2番目の国内経済に向かって改革の矢を放ちたいと思っているのなら、その狙いは正しいと述べる。

財政再建は消費増税ではなく景気拡大で:ただし菅氏は新たな消費税引き上げにオープン(前向き)であることを示唆しているとし、日本の官僚はこの消費税が好きだが、引き上げのたびごとに景気後退(downturn)を引き起こしてきたと批判し、菅氏にとり、最良の財政計画は景気拡大に焦点を合わせることだと主張、日本はそれ以外の課題に対処する上でも力強い経済を必要としていると指摘する。
 
日本の安全保障には力強い経済が不可欠:社説は、そうした課題として北朝鮮などの従来の脅威や、攻撃性を増す(increasingly aggressive)中国などの新たな脅威を挙げ、安倍氏の成果には世界の民主主義勢力との関係強化があり、同氏はまた日本の安全保障(Japanese security)にとって、力強い経済が不可欠であることを理解していたと述べ、菅氏も同じように考えているようにみえると期待を表明する。

新首相はメッセージとビジョンを示せ:9月21日付フィナンシャル・タイムズは、社説「Japan’s new premier needs a message and a vision(日本の新首相、メッセージとビジョンを示す要あり)」で、菅首相は安倍前首相の影から脱却する道を見出さねばならないと主張する。社説は冒頭で安倍氏が、リオデジャネイロ五輪閉会式でスーパーマリオの格好で登場し、トランプ米大統領とゴルフを楽しみ、さらに広島平和記念館をバラク・オバマ氏と共に訪れたことを伝えるビデオに触れ、こうした行動すべての根底にあるのは、楽観主義と国家再生(national revival)という単純なメッセージだったと述べる。そのうえで、菅氏が首相の座を射止めたのは、主に過去8年間に官房長官を務め、安倍氏の遺産(legacy)を承継するのに最も適していたからであり、うまくいったプログラムを続けることは理にかなっているが、菅氏は単に政策だけでなく、安倍氏に匹敵するメッセージとビジョンが求められていることを認識すべきだと主張する。

改革の目標はデフレ脱却と所得の伸びの復活:社説は、それは菅氏の個人的経歴(personal story)から始まると述べ、同氏が地方の農家出身からのし上がった、これまでとは違ったタイプの政治家で、それが出だしの74パーセントという高い支持率につながったと指摘する。同氏は政策面では、主たる優先課題として、行政および構造改革を挙げ、携帯料金の引き下げやデジタル庁の新設を表明しているが、日本はそれ以上のものを必要としているとし、菅氏は国民の支持を維持するために、その改革をデフレからの脱却と所得の伸びの復活という目標と結びつける必要があると主張する。

「自由で開かれたインド太平洋」構想を推進すべし:さらにグローバルな政治情勢(global politics)に触れ、安倍前首相は自由貿易、法の支配、自由な国際秩序の推進などで建設的役割を果たし、外国首脳との会談を通して日本の声を届けたと述べ、菅氏は安倍氏の「自由で開かれたインド太平洋」構想を守るべきだと主張、それも言葉だけでなく安倍氏と同様レベルの外交的エネルギーと行動をもって推進すべきだと提言する。さらに韓国や中国との関係について、物議を醸している歴史問題(contentious historical issues)で目立つ立場になかった(lower profile)菅氏は、そのため新しい関係でスタートできるだろうと指摘する。

政権を激励し、国民と目標を共有せよ:社説は最後に最も重要なこととして、次のように提言する。ここは原文を読んで翻訳してみよう。

As prime minister, he needs to motivate an administration to follow him, while persuading the Japanese public to share in his goals. It will not be an easy transition: it is hard to imagine Mr Suga glad-handing on the golf course, let alone dressing up as Super Mario. But if he can find his own voice, then one day Mr Suga may release a highlights reel of his own.

「首相としての菅氏は、政権にやる気を起こさせて従わせ、その一方で、国民を説得して目標を共有していく必要がある。簡単な政権の移行ではないのだ。ゴルフコースでいそいそと握手する菅氏、ましてやス-パー・マリオの衣装で着飾った菅氏を想像するのは困難だ。しかし菅氏が自らの声を発見できれば、そうなった暁には、菅氏は本領を発揮するようになるかもしれない」

昔ながらの男子支配の新内閣:9月16日付ワシントン・ポストは「Japan’s new cabinet looks a lot like its old (male-dominated) cabinet(昔ながらの(男子支配の)内閣にそっくりの新内閣)」と題する東京特派員記事で、新内閣は、古めかしい同じ顔、それも主に男子からなる内閣で、女性は前政権より1人減って僅か2人と評する。記事は、菅氏の安倍政権下で長く官房長官を務めた経歴や与党内有力派閥による後押しで後継者に選ばれた経緯について触れ、したがって菅新内閣にかくも顔なじみが多いのは、全く驚きに値しないとしつつも新内閣で副総理として留任した麻生氏について、79才の麻生氏は、有力派閥(a powerful faction)の領袖で、性差別主義者(sexist)、ナショナリストそして無神経な発言(insensitive remarks)の長い経歴にもかかわらず、副総理兼財務相のポストを維持したとコメントする。

依然として輝かない女性の社会的地位:次いで、安倍前首相は女性を「輝かせる」と宣言し、女性の職場進出推進法案を制定、育児休暇や保育所を拡大し、職場における女性労働者の比率を63パーセントから71パーセントと米国を上回る水準に押上げたが、女性の職種の多くは、低賃金のパートタイムや契約労働で、コロナウイルスに際しては女性が不平等に解雇されたと指摘する。役員の登用について安倍氏は、20年までに全国ベースで女性比率を30パーセントにすると宣言したが、明らかに未達となっていると述べ、さらに世界経済フォーラム(the World Economic Forum)の男女格差指数(gender gap index)に触れ、日本は総合の格差指数で121位、政治参画の部門ではカタールとイランに挟まれて144位だと指摘、衆議院(parliament’s lower house)議員の女性比率も10パーセントだと報じる。

大物政治家が名を連ねる新内閣:記事はまた、菅新内閣には顔なじみの大物政治家(political heavyweights)が枢要のポストに名を連ねていると述べ、外相に留任した茂木氏や行革大臣に横滑りした河野前防衛相、新官房長官に就任した加藤前厚労相の名を挙げ、加藤氏については、厚労相時代にコロナウイルス対策で国民の信任を得られなかったとコメントする。自民党人事について、菅氏は党総裁に選出されるとすぐに、配下として老人4人組(a quartet of elderly men)を与党、自民党のヒエラルキーの中で重要な地位に据えることを表明し、また上位5つの役職には全て平均年齢71才の男性を当てたと述べる。ただし女性閣僚が2人いるとして、留任した橋本五輪担当相とハーバード大学卒の上川法務相の再任を挙げる。

男性記者からの質問のみに答える記者会見:記事は最後に、菅新首相は就任直後の記者会見で一握りの男性記者だけからの質問に答えたと述べ、しかも日本や菅政権における女性の地位ついて質問した者は誰もいなかったと伝える。

農家出身で無派閥の新首相:9月19日付エコノミスト誌は、「Searching for Suga-san(菅さんを探索する)」と題する記事で、安倍晋三の後継者は継続を約束しているが、変革も表明していると報じ、新首相の菅氏は東北の片田舎の農家出身で、1955年の自民党創設以来、どの派閥(faction)にも属さない最初の党首であり、また約30年ぶりに親族から国会の議席を継承しなかった議員だと紹介する。

安倍、菅両氏の経歴の相違が形作った優先政策:こうした安倍、菅両首脳の対照的な背景はまた、それぞれが優先する政策を形作ったと指摘する。安倍氏の使命は、世界の舞台での日本の地位復活と憲法改正による自衛隊の合法化で、経済復興計画をこうした大きな目的への手段とみなしたと述べる。他方、菅氏にとって経済復興はそれ自体が目標であり、内閣官房長官として、農業と通信の競争を強く求め、自由貿易協定を提唱し、インバウンド観光の振興に取り組み、外国人労働者の増加を認める措置も主導したと報じ、コロンビア大学のジェラルド・カーティスは「情熱を国内に注いでいる」と語っていると補足する。

重要性を増すアベノミクスの「第3の矢」:記事は、安倍氏は数十年ぶりに日本経済にダイナミズムを吹き込んだが、コロナウイルス(covid-19)はそれを後退させ、デフレの懸念が戻ってきたと述べ、菅氏は、拡張的な金融政策や財政刺激策を含む「アベノミクス」の遵守を約束しているが、日本銀行には操作の余地がほとんど残っていないと指摘、したがって構造改革の「第3の矢」はますます不可欠になるだろう、との三菱UFJモルガン・スタンレー証券エコノミストのコメントと、菅氏は第3の矢という表現は使わないだろうが、規制緩和と構造改革に取り組むだろうとの民間シンクタンクの責任者の言を紹介、この組み合わせには、労働者の生産性を高め、政府サービスをデジタル化し(digitise)、省庁間の調整を改善するための措置が含まれる可能性があると指摘する。

直面する3つの課題:記事は、そのために菅氏は全情熱を注ぎ込む必要があると指摘する一方で、このような変革は激しい抵抗に直面するだろうと述べ、その成功は菅氏の3つの課題(challenges)の管理能力にかかっていると主張する。第1は外の世界で、菅氏は安倍氏が輝いた外交問題(foreign affairs)にほとんど関心を示さないと指摘する。第2は、彼自身の与党の問題で、派閥に属さない菅氏には柔軟に振舞う余地があるかもしれないが、来年の自民党の選挙が近づくにつれて、何かつまずくことがあると、党内の権謀術数(machinations)に対して脆弱になる(vulnerable)可能性があると警告する。第3は、国民との関係で、菅氏はカリスマ性に欠け、メディアとは争う関係(combative relationship)にあると述べる。

早期に訪れるかもしれない有権者との信頼関係構築の機会:記事は最後に、菅氏は過去の苦しかった生活を強調して、新しいイメージを作り出そうとしており、「秋田の農村の長男坊として生まれ、農村地域を大切にしたい」と最初の記者会見で語ったと伝え、有権者と新しい信頼関係を構築する機会は、意外に早く訪れるかもしれないと述べる。国会の任期(Diet’s mandate)は来年秋まで続くが、早期の解散総選挙の話が横行しており、それはパンデミックの中で危険な動きだが、菅氏が安倍氏の影から離れ、脚光を浴びる準備ができていることを告げているのかもしれないと指摘する。

これから試される外交の力量:次に菅新首相が不得意とされている外交分野に関する論調を観察する。9月17日付米タイム誌は、「Yoshihide Suga Is Japan's New Prime Minister. Here's What That Means for the U.S.(菅義偉が日本の新首相、米国にとっての意味を解説する)」と題する記事で、新首相はコロナウイルスの大流行、史上最悪の不況、延期された東京五輪など膨大な国内の政策課題(domestic agenda)を引き継いだが、同時に米中関係が急速に悪化するなか、緊張する地政学的環境にも足を踏み入れたと述べ、この新首相の外交分野での力量が試されるのはこれからだとコメントする。

個人外交から転換する日米関係:次いで記事は、安倍前首相の外交面での業績に触れ、特にトランプ米大統領との緊密な関係に言及、同大統領は、安倍氏が8月下旬に辞任を発表すると、直ちにツイッターで「日本史上最高の首相」と呼び、「米国との関係はこれまでで最高だ」と付け加えたと伝え、そのことは、新しい首相が日米関係にとって何を意味するのかという疑問を投げかけると指摘、それは個人政治(personal politics)からの転換になろうと次のように述べる。

対米関係を処理する術を理解する菅氏:「安倍総理のリーダーシップ外交は本当に素晴らしかった。私はそれに合わせられないと思う」と菅は9月に語り、安倍と外交関係について引き続き協議すると付け加えた。それでも、過去8年間の安倍の右腕としての役割を果たした菅は、米国との関係を処理する術をよく心得ている、と香港大学アジアグローバル研究所の加藤義和准教授は言う。「菅は安倍よりも社交的(outgoing)ではないが、少なくとも11月までは自分が何をしなければならないかは分かっている。11月までは、(菅の)最も重要な仕事の一つは、トランプ大統領の絶え間ない侮辱と予測不可能性(unpredictability)にうまく対処することだ」と、米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のアジア担当上席バイスプレジデントで日本議長のマイケル・J・グリーンは語っている。ただし菅はワシントンでは全く未知の存在ではなく、マイク・ペンス副大統領やマイク・ポンペオ米国務長官とは会談を通じて関係を築いている。

対米関係を優先しつつ中国との雪解け関係も維持:また菅氏は国内の多忙な課題に対処しながらも、米中の狭間で綱渡り(a balancing act)をしなくてはならないだろう。テンプル大学東京キャンパスのアジア研究ディレクター、ジェフ・キングストンは、菅は対米関係を優先するだろうが、中国との雪解け(thaw)関係も維持しようとするだろうと語る。安倍前首相の下で日中の経済関係は改善したが、歴史的緊張が残っており、紛争中の尖閣諸島周辺海域への中国の侵入(incursions)が動揺を引き起こしている。

日本との緊密なパートナーシップを呼びかける中国:他方、中国外務省の王文浜報道官によると、中国は日本に対してコロナウイルスとの戦いに関する協力の深化と経済関係の強化を期待している。中国共産党の報道機関、環球時報は8月下旬の社説で、「中国は米国からの戦略的封じ込め(strategic containment)に直面している」として、「中国は日本のような国々の支持を得なければならない」と米国との緊張関係の中で、日本との緊密なパートナーシップを呼びかけている。

外交で未完の仕事の解決に意欲を示す菅氏:上記のように伝えた記事は、菅氏が外交面で未完の仕事の解決に意欲を示し、北朝鮮との関係正常化とロシアとの平和条約締結を挙げ、記者会見で、北朝鮮の金正恩委員長と前提条件なしで会談することを検討すると語り、日本人拉致(abduction of Japanese nationals)問題について「突破口(a breakthrough)を開きたい」と語ったと報じる。

菅政権下でも変わらない日米関係:「菅が安倍に従うならば、おそらくそうなると思われるが、彼は安全保障、領土、歴史に関する違いにもかかわらず、中国と良好な経済関係を求め、かつ米国が安全保障を提供し続けるように必要なことは何でもするだろう」と前述のテンプル大学のジェフ・キングストンは語り、さらに、ハワイ大学マヌア校アジア研究所の助教授クリスティ・ゴベラは、日米同盟の基礎は、個々の指導者間の関係よりもはるかに深く埋め込まれていると指摘し、次のように語っていると報じる。ここは原文を読んで翻訳してみよう。

“The U.S. and Japan share significant interests and values that give them strong incentives to maintain good relations with each other, and this is unlikely to change under a Suga administration. Japan is a key U.S. partner in dealing with China and North Korea and maintaining stability in the region more broadly.”

「日米は重要な利益と価値観を共有し、それが相互に良好な関係を維持する強いインセンティブとなっており、これが菅政権下で変わる可能性は低い。日本は、中国や北朝鮮に対処し、地域の安定を幅広く維持するうえで、米国の不可欠なパートナーだ」

結び:以上のようにメディアは、国内政策と外交安保政策とに分けて、菅新首相に対して幾つか期待を表明する。注目すべきものとして国内政策では、まず菅氏が掲げる非効率な地銀や中小企業の統合推進という改革案があるが、特に低生産性が指摘されている国内サービス業の改革は喫緊の課題である。財政再建には消費増税よりも景気拡大を考えるべきだとの主張も重要である。また菅氏は安倍前首相の影から脱却すべく、安倍氏に匹敵するメッセージとビジョンを早期に示すべきであり、改革の目標をデフレ脱却と所得の伸張とすべきだとの提言は、それなりに理解できるが、メディアはその一方で、無派閥で親族から議席を継承していない菅氏は、経済再生自体が目標になっていると指摘する。このことは、世界における日本の地位復活と憲法改正による自衛隊の合法化というビジョンを示した安倍氏と比べて、菅氏がいまのところ、それに匹敵するものを示していないことを意味している。菅首相には改めて国民を引っ張る明確なビジョンの提示が求められていると言えよう。

 経済政策で菅氏は、アベノミクスの遵守を約束しているが、メディアが指摘するように、日銀には操作の余地がほとんど残っておらず、したがって構造改革の第3の矢が重要となり、菅氏は規制緩和と構造改革に取り組むと述べるが、これが労働者の生産性向上やデジタル庁構想による行政業務のデジタル化、省庁間の調整措置の改善などを促進するのであれば、大いに歓迎すべきである。

 他方、メディアは新政権が昔ながらの男子支配の内閣で、79才の麻生氏など顔なじみの大物政治家が枢要のポストを占め、女性は前政権より1人減って僅か2人と述べ、安倍氏の女性を「輝かせる」宣言は未達のまま、うやむやに終わりそうだと指摘している。これは真剣に受け止めるべき批判である。特に、世界経済フォーラムの男女格差指数では、日本は総合の格差指数で121位、政治参画では144位という事実をそのまま見過ごすわけにはいかない。

 外交安保分野でも、菅氏は安倍路線を継承すると明言している。メディアは、北朝鮮と中国からの新たな脅威を念頭において、菅氏は安倍氏の「自由で開かれたインド太平洋」構想を安倍氏同様に鋭意推進すべきだと提言、韓国や中国との関係については、歴史問題で表に出なかった菅氏に新しい展開を期待する。また日中は安倍氏の下で経済関係が改善され、菅氏はこうした雪解け関係も維持しようとするだろうとの見方を伝え、その一方で菅氏は、米国が安全保障を提供し続けるように最善を尽くすだろうと指摘、日米同盟の基礎は、指導者間の個人的関係よりもはるかに深く埋め込まれており、これが菅政権下で変わる可能性は低いとの見方も報じる。

 ただしメディアは、米中関係が緊張する地政学的状況に足を踏み入れたが、新首相の外交上の力量は未知だと懸念を示す。しかし菅氏は米国との関係を処理する術をよく心得ているとの関係筋の見方とともに、菅氏はペンス副大統領やポンペオ米国務長官とは会談を通じて関係を築いていると伝え、それなりの期待も表明している。菅氏は当然、そうした期待に応えていかなければならないだろう。菅氏は米中間にあって難しい舵取りに迫られ、これが当面、菅氏にとって最大の外交課題といえよう。その他に菅氏が意欲を示すとされる外交面で未完の問題、例えば北朝鮮との関係正常化やロシアとの平和条約締結も、拉致や北方領土問題の解決に欠かせない課題として取り組んでいく必要があるのは言を俟たない。(2020年10月5日) 

(注)要約:メディアは、安倍前政権の政策継承を明確にする菅新政権の誕生を基本的に歓迎すると共に、新首相が唱える改革案に期待を表明する。まず地銀や中小企業の統合推進案について、こうした小さなアイデアが大きな影響をもたらすと歓迎、特に非効率なサービス産業の生産性向上に期待する。ただし消費増税は過去において、その度に景気後退を引き起こしたとして景気拡大による財政再建を主張する。

 また菅氏がこれまでとは違ったタイプの政治家だと指摘し、安倍氏の影からの早期自立を促し、独自のメッセージとビジョンを示すべきだと主張、改革の目標をデフレからの脱却と所得の伸びとすべきだと提言する。特にコロナウイルスが経済を後退させ、デフレ懸念が戻るなか、菅氏は「アベノミクス」の遵守を約束しているが、日銀には操作の余地がほとんど残っていないため構造改革の「第3の矢」が不可欠になると述べ、構造改革には、労働者の生産性向上や政府サービスのデジタル化、省庁間の調整改善措置が含まれるとし、菅氏は全情熱を注ぎ込む必要があると強調する。

 その一方で、新政権は昔ながらの男子支配の内閣で、女性は前政権より1人減って僅か2人と批判する。79才の麻生氏を始めとして顔なじみの大物政治家が枢要のポストを占め、自民党人事についても老人4人組を自民党の重要な地位に据えたと述べ、安倍氏の女性を「輝かせる」宣言は女性労働者の比率向上などで一部成果を挙げたが、女性の多くは低賃金のパートタイムや契約労働で、役員登用目標も未達となったと述べ、世界経済フォーラムの男女格差指数で日本は100以内にも入っていないと指摘する。

 日本の外交安保問題として、北朝鮮と攻撃性を増す中国の新たな脅威を挙げ、それには力強い経済が不可欠だと主張、安倍氏は、世界における日本の地位復活と憲法改正による自衛隊の合法化を使命とし、経済復興をその目的への手段とみなしたと述べ、このため安倍前首相は 自由貿易、法の支配、自由な国際秩序の推進などで建設的役割を果たし、外国首脳との会談を通して日本の声を届けたと指摘、菅氏は安倍氏の「自由で開かれたインド太平洋」構想を安倍氏と同様レベルのエネルギーと行動で推進すべきだと提言する。韓国や中国との関係については、歴史問題で表に出なかった菅氏に新しい関係でのスタートの期待を表明する。ただし米中関係の悪化という緊張する地政学的環境に足を踏み入れたが、新首相の外交分野での力量はほとんど分かっていないと懸念を示す。それでも、過去8年間の安倍の右腕としての役割を果たした菅は、米国との関係を処理する術をよく心得ている、との関係筋のコメントや11月までは、(菅の)最も重要な仕事の一つは、トランプ大統領の絶え間ない侮辱と予測不可能性にうまく対処することだとの見方を紹介、さらに菅氏はペンス副大統領やポンペオ米国務長官とは会談を通じて関係を築いていると指摘する。
 
 対中関係については、安倍氏の下で経済関係は改善したが、歴史的緊張は残り、尖閣諸島周辺への中国の侵入が動揺を引き起こしていると述べ、そうしたなか、菅氏は対米関係を優先するだろうが、中国との雪解け関係も維持しようとするだろうとの見方を伝える。安倍路線に従うと思われ菅は、安全保障、領土、歴史に関する違いにもかかわらず、中国と良好な経済関係を求め、かつ米国が安全保障を提供し続けるように必要なことは何でもするだろうと語る専門家の言や、日米同盟の基礎は、個々の指導者間の関係よりも深く埋め込まれており、日米は重要な利益と価値観を共有し、それが相互に良好な関係維持の強いインセンティブとなっており、これが菅政権下で変わる可能性は低いとの見方を伝える。中国もまた、日本にコロナウイルスとの戦いに関する協力の深化と経済関係の強化を期待していると報じる。

 その他に、菅氏は外交面で未完の仕事の解決に意欲を示し、北朝鮮との関係正常化とロシアとの平和条約締結を挙げ、記者会見で、北朝鮮の金正恩委員長と前提条件なしで会談することを検討すると語り、日本人拉致問題について「突破口を開きたい」と述べたと報じる。
                                

                              
前田 高昭
金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。
訳書に『チャイナCEO』他。
『東アジアニュースレター』も配信中。

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