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米欧経済の現状と対策 -超党派で対応する米国、統合を深化させる欧州

2020/08/07

英文メディアで読む 第87回
 
米欧経済の現状と対策
超党派で対応する米国、統合を深化させる欧州―
 






 
前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト
       バベル翻訳大学院プロフェッサー
 
 
 本シリーズの4月号以降、コロナウイルスの世界やアジア、そして日本の政治、経済、社会に与える影響についてみてきたが、今回はコロナで甚大な被害を受けた米欧経済とその景気対策の現状について観察する。なお要約を後述の注に掲載。

米経済に先行して回復する欧州:まず米欧経済の現状からみていく。7月26日付ブルーブルームバーグは、「Europe’s Economy to Outpace U.S. in Upending of Past Roles(米を追い越す欧州経済、過去の役割を逆転)」と題する記事で、コロナウイルスへの対応の差によって欧州経済は米経済より早期に回復していると述べる。経済の持続的回復にはウイルスが管理不能ではないという信頼感(confidence)が欠かせないが、米国がパンデミックにブレーキをかけることに失敗するなかで、欧州はその抑え込みに比較的成功したために、消費者は支出、企業は投資の意欲を取り戻して需要と成長を促進しており、雇用(job)と所得の保護でも成果を上げたと報じる。

来年の欧州経済は米の倍以上で成長の予想:ただし厳しい都市封鎖(lockdowns)により、4-6月(第2四半期)はユーロ圏経済の方が米国よりも深い落ち込みになるとみられ、4-6月のユーロ圏域内総生産(GDP)はブルーブルームバーグの調査によれば、前四半期比マイナス12パーセントになるとみられるが、米国は年率でマイナス35パーセント、前四半期比ではおよそマイナス10パーセントになると予想されていると報じる。とはいえ、欧州の経済回復は米国より速く、その差は最近拡大しているとのエコノミストのコメントを伝える。今年通年の経済成長率については、JPモルガン・チェ-ス銀行はユーロ圏がマイナス6.4パーセントと米経済のマイナス5.1パーセントより若干悪化する水準を見込んでいるが、21年はユーロ圏がプラス6.2パーセントと米国のプラス2.8パーセントの倍以上の成長を遂げると予測していると報じる。

欧州経済の回復は初期段階:ただし記事は欧州経済の先行きについて次のように警告する。欧州では寛大な融資と一時帰休制度(furlough programs)が失業率の上昇を防いだ。それがまた目先の支えになっている。しかし今は回復の初期段階にあり、企業は資金支援をこれから無期限に受けられるわけではない。力強い需要が戻ってこない限り、企業は最終的にコスト削減に迫られる、つまり失業による被害の増大を先延ばししたに過ぎないことになる。 

苦戦する米経済:米経済の現状について記事は、米南西部では感染者数がなお急増し、幾つかの州が経済活動の再開計画(reopening plans)の停止や後戻りを余儀なくされており、人々の移動や外食の予約状況を示す指標は停滞、新規失業保険申請件数(applications for unemployment benefits)も毎週、100万人以上に達していると報じる。欧州では7月のユーロ圏総合購買担当者指数(PMI)は予想を上回る上昇を示したが、米国のPMIは製造業、サービス業ともに予想を下回ったとし、米国の経済状況は、追加経済対策で失業給付金の週600ドル上乗せが延長されなければ一段と悪化する可能性があると述べ、同給付金が過去数カ月の所得と消費を支えてきたからだと指摘する。

緩和政策の維持を決めたFRB:次に上記失業給付金などを含む米欧当局による景気対策について観察しよう。まず米連邦準備理事会(FRB)の金融政策からみていく。FRBは7月28日から2日間にわたって政策決定会合である連邦公開市場委員会(FOMC)を開き、今後の金融政策を審議した。7月30日付ロイター通信は会議の結果について次のように報じる。ここは原文を読んで翻訳してみよう。

Fed policymakers repeated a pledge to use their “full range of tools” to support the economy and keep interest rates near zero for as long as it takes to recover from the epidemic. All FOMC members voted to leave the target range for short-term rates between 0% and 0.25%, where it has been since March 15 when the virus was beginning to hit the nation. 

「FRBの政策当局は、感染症から回復するために必要な限り、『あらゆる手段』」を使って経済を支援し、金利をゼロ近傍に維持するという公約を繰り返した。米連邦公開市場委員会のメンバー全員が短期金利を0-0.25パーセントの目標範囲に据え置くことに賛成票を投じた。これはウイルスが米国に被害を与え始めた3月15日以降維持されてきた金利である」

 ロイター通信はさらに、こうしたFRBの金融政策は当面、変わらないだろと述べ、パウエルFRB議長は、公式経済データで経済成長低下の初期症状が見受けられれば、追加緩和を実施すると示唆したと報じる。また同議長は、3月に実施した量的緩和策についても、米国債と住宅ローン担保証券(mortgage-backed securities)をそれぞれ月間800億ドルと400億ドルで買い入れる購入ベースの維持を決めている。

超大型財政刺激策を超党派で決定:財政政策でも米政府は超党派で大型景気対策を打ち出した。第1弾は3月6日に成立したワクチン開発などのための83億ドルの対策である。現在までに第4弾を発動し、総額で2兆8000億ドル弱と国内総生産(GDP)比で13パーセントに達している。特に第3弾は2兆2000億ドルと08年の世界的金融危機時を越える過去最大規模となった。この第3弾について3月25日付ウォール・ストリート・ジャーナルは「Senate Approves Roughly $2 Trillion in Coronavirus Relief(日本版記事:トランプ政権と上院民主党、景気刺激策で合意)」と題する記事で、同対策は新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済への打撃緩和を目指していると述べ、法案(「コロナウイルス支援・救済・経済安全保障(CARES)法」と呼ばれる)には、国民への小切手支給(direct payments)や失業保険(unemployment insurance)の大幅拡充、中小企業向け巨額融資や医療提供者(health-care providers)への追加支援が含まれていると報じる。 

家計、失業者、中小企業、医療提供者などを支援:このうち小切手支給は、総収入が7万5000ドルまでの家計に対して一人当たり1200ドルが支払われる。また失業者に対して現行の失業保険に加えて一週間当たり600ドルを4ヶ月間にわたって支払うことになり、これには新たに失業保険の対象となったギグ・ワーカーやフリーランサーなどの非伝統的労働者も含まれる。さらに法案には、小規模企業向けの総額3500億ドルの融資が含まれており、融資金が給与(payroll expenses)、家賃、住宅借入金の金利(interest on mortgage obligations)、(電気、ガス、水などの)公共料金(utilities)の支払いに充当する分は返済免除とされた。また医療提供者や航空会社及び州その他の地方政府向けの支援金(grants)も含まれ、金額はそれぞれ1000億ドル、250億ドル、1500億ドルとされている。大企業向けの融資や債務保証などには5000億ドルが充当される。

配分や割当に問題がある財政刺激策:上記の米財政政策について、上述の7月26日付ブルームバーグ記事は、次のように論評する。3月に米議会が承認した2兆ドルの財政刺激策は史上最大の部類の刺激策であるが、配分の仕方がつぎはぎでばらつきがある。失業手当の窓口は申請者で溢れパンク状態にあり、失業者は未だに手当を貰えていない。同時に、中小企業に対する融資の割当にも問題があり、政府支援を求めて経営者が殺到して混乱状態にある。とはいえ、FRBとマサチューセッツ工科大学の調査によれば、新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けた中小企業向けの支援策である「給与保証プログラム(Paycheck Protection Program)」は320万人もの雇用を救済している。第3四半期の米経済は回復に向かうと思われるが、問題はその持続性だとBOAコープのエコノミストはコメントしている。

超緩和政策を維持する欧州中銀:次に、欧州連合(EU)の景気対策をみてみよう。ユーロ圏の金融政策を取り仕切る欧州中央銀行(ECB)は今年3月18日、それまでの量的緩和策である資産買取プログラム(APP)を拡大したパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)計画を発表、2020年末までに購入する資産を3600億ユーロから7500億ユーロ(約89兆円)まで増額することを決めた。次いで6月4日には6000億ユーロ増額して1兆3500ユーロとし、実施期間も少なくとも2021年6月末までと6カ月間延長、政策金利もゼロパーセントで据え置いた。また直近の7月16日に遠隔会議方式で開かれた理事会でも、こうした大規模緩和政策の維持を決めている。

EU、復興基金の創設で合意:しかし、こうした量的緩和以上に注目されるのは、財政面での対策である。EUはようやく初となる共同債の発行と復興基金の創設に合意に達したのである。7月21日付ウォール・ストリート・ジャーナル記事「European Union Leaders Agree on Spending Plan for Recovery(日本版記事:EU首脳、コロナ復興基金で合意)」は、EU首脳会議が同日、7500億ユーロの復興基金と1兆ユーロ超の次期中期予算で合意したと伝える。記事によれば、今回の合意は4日間に及ぶ協議で取りまとめたもので、前例のない景気後退(economic downturn)に歯止めを掛けるため、経済統合の深化につながる新たな措置を導入した。合意の柱はEU初の共同債(common debt)発行で、7500億ユーロの復興基金のうち3900億ユーロは補助金(grants)として、残りは融資として提供される。

補助金で譲歩を迫られた独仏首脳:補助金は当初、5000億ユーロだったが、ドイツのアンゲラ・メルケル首相とフランスのエマニュエル・マクロン大統領は譲歩を強いられ、減額されたのである。首脳らはまた、21年~27年のEU中期予算についても1兆ユーロを上回る額で合意した。議長役のシャルル・ミシェルEU大統領は記者会見で、「われわれはやり遂げた。欧州は強い。欧州は団結している」と述べた。

財政同盟に向けた一歩:合意はEUが真正な財政同盟に向けた大きな一歩となり、これはEUにとっての「ハミルトンの時」(Hamiltonian moment)になると歓迎するものもいる。アレクサンダー・ハミルトンは、各州の債務を連邦政府が取り込んだアメリカ合衆国の初代財務長官である。この救済計画は、一つには来年からの欧州経済の回復を後押しする狙いがあるが、これによりイタリー、スペイン、ギリシャその他の諸国は、国家債務(national debt)が持続不可能な水準にまで上昇するという恐怖なしで政府支出を増やせるのである。この計画がなければ、イタリーの国家債務はユーロを危機に追い込む水準にまで膨らみ、北方諸国は後日、危機に遭遇するよりも、イタリーを今、救済する方が望ましいと決断したのだ、と記事は報じる。

北方諸国との意見対立は未解決:ただし記事は、オランダ、オーストリア、スエーデン、デンマークなどの北方諸国は、今回の合意はEUを富移転同盟(wealth-transfer union)に変えるものではなく、あくまで公衆衛生の危機のために導入された時限的(time-limited)で1回限り(one-off)のプログラムであると主張していると報じ、合意には各国議会の承認が必要で難航が予想され、またユーロ圏経済は今年、最大で9パーセントのマイナス成長に陥るとの見方もあると伝える。

共同債は問題含みとはいえ劇的合意:7月26日付ブルーブルームバーグも社説「Europe’s Recovery Plan Is Progress(欧州の復興計画は前進)」で、計画はもっと規模が大きく、詳細が煮詰まっているべきだが、それでも重要な一歩前進であり、成功だと評価し、次のように論じる。
 今回の合意で考えられる将来の落とし穴は、条件付けと執行をめぐる意見の不一致の他に、共同債の支払い条件と原資が不明確で、加盟諸国とEU自体の議会の承認取得が必要なことがある。金額も米国対比で決して大胆な計画とは言えない。しかしEU基準からは劇的な合意であり、奥深い変化を示している。

財政統合への前例を設定した復興計画:コロナウイルス以前では、ドイツのメルケル首相は通常、財政保守主義の陣営に与していた。しかしパンデミックによって同首相は考えを変え、共同借り入れによる大規模財政政策への転換を決意した。この計画は、将来の財政統合に向けて前例を設定した。財政統合はまた、いつの日か欧州同盟を変革する。然るべき時に、EUの有権者は、それが、彼らが現実に欲した変化であるかどうかを決める必要が出てくるだろう。実際、そうした行動とは別に、ある種の移転同盟が必要になると思われる。欧州が創設した通貨同盟は何らかの財政同盟なしには、うまく機能しないからだ。このことは金融危機で明確になり、パンデミックがまさにそれを裏付けた。

ユーロの国際通貨としての成長に資する共同債:6月24日付フィナンシャル・タイムズは「EU sovereign bonds can reshape the bloc’s future(EUソブリン債、ユーロ圏の将来を再編する可能性)」と題する社説で、EUソブリン債である共同債の発行に焦点を当て、共同債はユーロが国際通貨として成長する契機になるとの独自の見解を展開する。以下はその概略である。

金融上の自律性が向上するユーロ圏:今週、合意された経済の復興基金(recovery fund)に使われるEUソブリン債の発行は、ユーロ圏による米国からの金融上の自律性(autonomy)を高めるだろう。マネーマーケットで担保として使用できる新たな安全資産を創造することによってユーロの準備通貨としての役割に貢献し、また個々の国々の支払い状態と銀行の間の「負の連鎖(doom loop)」を切断する潜在力があるからだ。 

実力に見合った役割を果たしていないユーロ:この体制的変化は、時が経つにつれて、基金自体よりもユーロ圏の将来に対する影響力を増していくと思われる。ユーロは現在、その力に見合った役割を果たしていない。ユーロはドルの後塵を拝している(plays second fiddle to the dollar)。グローバルな所得に占めるユーロ圏の比率は16パーセントと米国の15パーセントを上回っているが、欧州中央銀行(ECB)の2018年報告書によると、各国の外貨準備高に占める比率はドルの62パーセントに対して、ユーロは20パーセントにすぎない。国際的債務や融資残高についても、同様の数字なのだ。

懐の深い資本市場が未発展のユーロ圏:グローバルな準備通貨としてのドルの地位は、米国にとって外交だけでなく経済政策上の梃として働いている。例えば、米国務省は経済制裁を活用して、国際金融から標的を排除できる。ドルは危機に際して強くなるとともに、米政府の債券価格も上昇して利回りが低下する。米国の輸出業者には厳しい話かもしれないが、財政の持続性や輸入インフレの懸念が少なくなる。ドルはこの役割を戦後のブレトンウッズ体制の固定相場制から引き継いだが、懐の深い米資本市場のおかげで今日まで維持してきた。しかしユーロ圏では、安全資産が不足し、単一通貨の崩壊懸念が持続しために、懐の深い市場がドルと同程度の規模で発展しなかった。

EUは資本市場同盟の構築に全力を傾注すべし:ユーロ建て共同債はこうした問題の多くの解決に役立つが、特効薬(silver bullet)ではない。EUは資本市場同盟(capital markets union)の構築に向けて全力を傾けなければならない。新合意に懐疑的になる理由はまだある。第1に復興基金は暫定的なものである。支払い資金として発行される債券は暫く存続するとしても、支出は継続せず、1回限りのものとして計画されている。第2に復興基金はユーロ圏よりもEUのための計画である。両者の違いは英国のEU離脱によって縮小したが、組織上の不確実性は増している。

ブレトンウッズ体制の終わりの始まり:米国にもリスクがある。中国が、米政府債務の4パーセントを占める米国の主たる債権者であることだ。中国政府が保有する3兆ドルと見積もられる外貨準備は、大半がドル建て資産と考えられている。こうなった主因は、米ドルに変わる有効な代替資産(viable alternatives)がなかったからである。EU債の出現は、こうした見方を変えるかもしれない。また、このため米国にとって、債権者が中国であれ、長く休眠状態にある民間部門の債券自警団(bond vigilantes)であれ、その善意に頼る度合いが高まっている。とはいえ、この懸念はこれからのものである。またEUの新「国家」債券の規模は大きくない。借入が必要とされる7500億ドルはユーロ圏GDPの僅か5パーセントである。国際金融体制を短期間で変えるには十分ではない。しかしながら、長期的には、70年前に始まったブレトンウッズ体制の終わりの始まりとみられるようになるかもしれない。

結び:以上のようにメディアは、コロナ対策の成否が米欧経済の回復の速さを左右しており、その対策に米国より成功した欧州経済は、来年は米経済の倍以上の成長率を達成すると予測する。とはいえ両経済とも今年は5から6パーセントのマイナス成長が予想されており、コロナによる打撃は深刻である。このため米欧当局は共に積極かつ大胆な景気対策を打ち出した。超金融緩和策と大規模財政出動である。米欧共にゼロ金利と超量的緩和を進め、さらに米政府は08年の世界的金融危機時を越える規模の財政出動を決断、欧州ではEU加盟国が遂に長年の懸案だった共同債の発行と大型復興基金の創設に合意した。米国は分断を乗り越えて超党派の合意形成に漕ぎ着け、欧州は財政統合に向けて大きな一歩を踏み出し、統合の深化に向かった。

 ただし米欧経済は共に大きな課題を背負っている。欧州の経済回復は初期段階にあり、力強い需要が戻ってこない限り、企業は最終的に人員削減に迫られると指摘され、また合意には各国議会の承認が必要で難航が予想されている。さらに基本的問題として、北方諸国が合意は公衆衛生危機のために導入された時限的で1回限りのプログラムであり、EUを富移転同盟に変えるものではないと主張している。欧州における南北間の対立は依然として根深い。また共同債はユーロが国際通貨として成長する契機になるとの評価も大いに注目される。そのために懐の深い資本市場の育成の必要性が指摘されているが、米ドル一強の国際通貨情勢に大きな変革をもたらす契機になるかもしれない。その意味でも、EUは真の統合を目指す決意が試される正念場を迎えている。

 他方、米国では感染者数の急増、経済活動再開の停止や後戻りの可能性、厳しい統計数字などが指摘され、追加対策が早急に必要と警告されている。この点については、共和、民主両党議員とトランプ政権が目下、第5弾となる景気対策について協議を続けている。7月20日付ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、焦点は、国民への再給付金、失業給付、学校運営の資金支援、企業・学校・NPOなどの賠償責任免除拡大、州・地方政府への追加支援などであるが、問題によっては共和、民主両党間に大きな溝が生じているという。7月31日には、4-6月期の実質国内総生産成長率が前期比年率でマイナス32.9パーセントと現行統計開始以来のマイナス幅となったと発表され、また柱の一つだった失業保険給付の上乗せ措置も期限が切れとなり、追加対策の取りまとめが喫緊の課題となっている。対立を乗り越えて再度、超党派の合意が得られるか、米国も試練の時を迎えている。

(注)要約:メディアは、コロナウイルス対策で米国よりも成功した欧州では、信頼感を回復した消費者と企業がそれぞれ支出と投資の意欲を取り戻し、雇用と所得の保護でも成果を上げたと報じる。ただし厳しい都市封鎖によって目先の経済成長率はユーロ圏経済が米国より落ち込むとみられ、4-6月(第2四半期)はユーロ圏が前期比マイナス12パーセント、米国は同マイナス10パーセント程度、また今年通年はユーロ圏がマイナス6.4パーセント、米国がマイナス5.1パーセントになると予想する。しかし21年はユーロ圏がプラス6.2パーセントと、米国のプラス2.8パーセントの倍以上の成長を遂げるとのエコノミストの見方を伝える。ただし欧州経済の回復は初期段階にあり、力強い需要が戻ってこない限り、企業は最終的に人員などのコスト削減に迫られると警告する。米経済も、感染者数の急増、経済活動再開の停止や後戻りの可能性、毎週100万人以上の新規失業保険申請件数、予想を下回るPMIなどを挙げ、追加対策がなければ、経済は一段と悪化する可能性があると指摘する。

 景気対策については、米国はFRBがゼロ金利と月間1200億ドルの債券購入を含む超緩和策を維持し、財政政策でも第1弾から4弾に至る2兆8000億ドルという過去最大規模の大型景気対策を打ち出したと報じる。特に2兆2000億ドルの第3弾は、国民への小切手支給や失業保険の拡充、中小企業向け融資、医療提供者、航空会社、各州への支援が含まれていると伝える。また中小企業向けの総額3500億ドルの融資は、従業員給与や家賃、公共料金などの支払いに充当する限り返済免除されていると述べ、特に給与支払いを支援する給与保証プログラムは失業者の発生抑制に役立ったと評価する。ただし配分の仕方にばらつきがあり、失業手当の窓口は申請者で溢れ、未だに手当を貰えていない失業者がおり、中小企業向け融資の割当にも問題があり、経営者が殺到して混乱状態にあると批判する。

 メディアによれば、欧州でも欧州中央銀行(ECB)はゼロ金利とパンデミック緊急購入プログラムによる金融緩和策を実施し、財政面でもEU首脳は共同債の発行と7500億ユーロの復興基金の創設、1兆ユーロ超の次期中期予算で合意した。特に共同債の発行は長年の懸案であり、コロナ危機に際してようやくEU間で画期的合意が成立した。狙いは来年の欧州経済の回復支援にあるが、これによりイタリー、スペイン、ギリシャなどの南方諸国は、国家債務への懸念なしで政府支出を増やせることになった。復興基金7500億ユーロのうち3900億ユーロは補助金、残りは融資として提供されるが、当初、補助金は5000億ユーロで、合意を主導した独仏がオランダ、オーストリア、スエーデン、デンマークなどの北方諸国の反対で譲歩を強いられ、減額された。北方諸国は合意は公衆衛生危機のために導入された時限的で1回限りのプログラムであり、EUを富移転同盟に変えるものではないと主張している。合意には各国議会の承認が必要で難航が予想されている。共同債の支払い条件と原資が不明確だなどの批判もあるが、合意はEUが真正な財政同盟に向けた大きな一歩になるとメディアは評価する。

 さらにメディアは、共同債はユーロが国際通貨として成長する契機になると次のように論じる。グローバルな所得に占めるユーロ圏の比率は16パーセントと米国の15パーセントを上回っているが、ECBの2018年報告書は、各国の外貨準備高に占める比率はドルが62パーセント、ユーロが20パーセントで、国際的債務や融資残高についても同程度としており、ユーロは現在、十分な役割を果たしていない。共同債は、マネーマーケットで担保として使用可能な新安全資産を創造することによって、ユーロの準備通貨としての役割に貢献し、ユーロ圏の金融上の自律性を高めるだろう。また共同債には、国と銀行間の支払い状態の「負の連鎖」を切断する潜在力がある。グローバル な準備通貨としてのドルの地位は、米国にとって外交、経済政策上の梃として働いているが、ドルはこの役割を戦後のブレトンウッズ体制から引き継いでおり、懐の深い米資本市場のおかげで今日まで維持してきた。しかしユーロ圏では、安全資産が不足し、単一通貨の崩壊懸念が持続しために懐の深い市場がドルと同様の規模で発展しなかった。EUは今後、資本市場同盟の構築に全力を傾けなければならない。また復興基金はユーロ圏よりもEUのための計画であり、両者の違いは英国のEU離脱によって縮小したが、組織上の不確実性は増していることに注意すべきだ。これまで米ドルに変わる有効な代替資産がなかったが、EU債の出現は、こうした見方を変えるかもしれない。EUの新「国家」債券の規模は大きくなく、7500億ドルはユーロ圏GDPの僅か5パーセントで、国際金融体制を短期間で変えるには十分ではないが、長期的には、70年前に始まったブレトンウッズ体制の終わりの始まりとみられるようになるかもしれない。

 
                              
前田 高昭
金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。
訳書に『チャイナCEO』他。
『東アジアニュースレター』も配信中。

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