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新型コロナウイルスの世界的大流行 ―中国その他のアジア諸国と日本の現状と対応

2020/04/07

英文メディアで読む 第83回
新型コロナウイルスの世界的大流行
― 中国その他のアジア諸国と日本の現状と対応 ―
 






 
前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト
       バベル翻訳大学院プロフェッサー  
 
 新型コロナウイルスが世界で猛威を振るっている。国際保健機関(WHO)も3月11日、世界的大流行(pandemic)になったと宣言した。これに先立ってWHOは、同感染症をCOVID19と命名していた。以下に、中国とその他のアジア諸国及び日本のCOVID19に関する現状と対応について、主要英文メディアの報道や論調を観察する。なお内容の要約は後述の注を参照願いたい。

トップダウン型統治機構の脆さを露呈した感染拡大:メディアはまず、コロナウイルスの感染拡大を許した中国指導部を厳しく批判する。1月27日付ウォール・ストリート・ジャーナルは社説「A Made-in-China Contagion(日本版記事:【社説】新型肺炎の拡大、中国統治機構の脆さ露呈)」で、今回のウイルス拡散は、武漢市の華南海鮮卸売市場(Wuhan’s Huanan Seafood Wholesale Market)で11月か12月に始まったと考えられているとの見方を紹介し、地元当局者は人から人への感染を示唆する証拠があったにもかかわらず、ウイルスの感染拡大リスクを過小評価していたと述べ、この流行は中国のトップダウン型統治機構の脆弱性(vulnerabilities)を浮き彫りにしたと批判する。

感染症の流行に備えてこなかった不可思議:1月29日付ニューヨーク・タイムズは「Is the World Ready for the Coronavirus?(世界はコロナウイルスへの備えができているか)」と題する社説で、中国は、2002年のサーズ(SARS。重症急性呼吸器症候群)流行に際してWHOへの通知が発生から凡そ3ヶ月間も要したが、そうした体験から幾ばくかの教訓を学び、今回は最初の発病探知から1ヶ月以内にWHOに伝達し、封じ込めにも迅速に動いたと評する。

重要情報を留保し、科学者集団との共有を拒否した中国:ただし社説は、とはいえ総合的に見て中国の対応には問題があったと次のように論評する。ここは原文を読んで翻訳してみよう。

Officials appear to have withheld crucial information including that the virus was spreading between humans and that cases were not confined to the elderly or to people who visited the market believed to be at the outbreak’s epicenter for weeks. They have also rebuffed initial offers of help from the C.D.C. and failed to share samples of the virus with the scientific community.

「当局者は、ウイルスが人と人の間で伝染し、感染例は高齢者や流行の発生源となったと考えられる武漢市場を訪問した者に限られないなどを含む重要情報を数週間、差し控えたようだ。米疾病対策センターからの当初の支援申し出も拒否し、またウイルスのサンプルを科学者集団と共有しようとしなかった」

市民の当局に対する信頼が重要:また社説は検疫(quarantine)の限界を指摘すると共に、大きな問題として、疾病管理対策(control measures)に対する市民の信頼(public trust)の重要性を挙げる。当局が市民を守るために善意をもって指示を発しても、市民が当局を信頼していなければ、その指示に従わないと述べ、中国では武漢その他の地域で当局に対する信頼が低かったとし、市民の一部は、当局はウイルス撲滅(defeating the virus)よりも言論封じ込めに関心があると疑っていたと指摘する。

コロナウイルス危機は個人の自由を犠牲にする社会契約への挑戦:2月9日付フィナンシャル・タイムズは社説「Coronavirus crisis challenges basis of China’s social contract(コロナウイルス危機、中国の社会契約原理に挑戦)」で、新型ウイルスの流行は個人の自由を犠牲にする中国の社会契約原理への挑戦であり、流行を隠蔽した当局の行為は、政権の実効性と正統性に対する疑問を提起したと指摘、裕福になった国民は物質だけでなく尊厳に飢えており、異なる発展段階には、異なる統治が必要だと主張する。
 
経済への影響を懸念する指導部:3月31日付ワシントン・ポストは、「As Wuhan reopens, China revs engine to move past coronavirus. But it’s stuck in second gear(武漢再開でコロナウイルス突破のエンジンを吹かす中国、第2ギアで行き詰まる)」と題する記事で、武漢は1月23日から70日間封鎖されていたが、中国指導部はウイルスとの戦いに勝利したとして、武漢のある湖北省の封鎖を漸次、解除し始め、それが3月31日、武漢にも及んできたと報じる。ただし生活は未だ正常に復していないと述べ、ウイルス拡散を防ぐため何らかの行動制限(social distancing)措置が必要とされるとの専門家の意見を紹介する。他方、経済への影響について記事は、習近平国家主席は明らかに懸念しており、輸出基地である寧波(Ningbo)の港湾や浙江省(Zhejiang)の工場を訪れ、政府は企業の可及的速やかな回復を支援すると約束したと伝える。また大半のエコノミストは第1四半期経済の大幅な落ち込みを予想しているが、党指導部は週末の政治局会議で、経済への支援強化を表明し、今年通年の成長率として6パーセントの目標を再確認していると報じる。 

依然として制約が多い住民の生活:また住民の生活振りについて記事は次のように報じる。1100万人の武漢住民の外出は、雇い主からの再就業免許証保持者と彼らの携帯電話(cellphone)上に政府発行の健康証明が緑色に点灯している場合にのみ認められる。ショッピングモールは今週オープンしたが、エスカレーターでは1.5メートルの間隔を取る必要があり、顧客が試着した衣類は消毒しなければならない。地下鉄ではマスク着用と2席空けて座ることが義務づけられている。武漢以外でも、カラオケやネット喫茶、映画館などが一時的にオープンしたが、すぐに閉鎖された。専門家は、当局が新たな感染を恐れているためとみている。さらに封鎖解除と逆行する動きとして、外国人の入国禁止と中国国籍者のための国内向け航空便の制限措置も実施され、到着便は正常時の2パーセント以下に落ち込んでいる。

難しい出口戦略:こうした状況について専門家は、出口戦略(exit strategy)は今後、どこの国でも直面する問題だが、公衆衛生リスクと経済リスクの計測が難しいと語り、内外で需要が不足しているため、生産を急いでも過剰設備を生み出すだけであり、中国指導部は経済再開の遅れについて衛生上の(sanitary)理由を挙げているが、実際は製品が売れないためなのだ、と指摘する。

韓国のコロナ対策の柱は効率的検査ネットワーク:一方、他のアジア諸国の状況についてメディアは概略次のように報じる。韓国について3月23日付ウォール・ストリート・ジャーナルは「Inside the South Korean Labs Churning Out Coronavirus Tests(日本版記事:新型コロナ、韓国の大量検査を支える仕組みとは)」と題する記事で、韓国は2015年の中東呼吸器症候群(Middle East respiratory syndrome、以下、MERS)の流行後に効率的な検査ネットワークを構築しており、このため感染拡大の抑制と感染率引き下げに成功したと伝える。記事によれば、MERSの流行は約2カ月続き、186人が感染、38人が死亡した。韓国の検査ネットワークはMERS流行の遺産(legacy)を教訓に整備され、今年1月末の新型ウイルス感染拡大時に始動した。医師、医療スタッフ、検査機関、政治指導者がそれぞれ役割を担い、この数年の間に定められた手順に従って動いたのである。同国がこれまでに行った検査数はイタリアの2倍の約30万件近くに上るが、確認された感染者数(confirmed coronavirus cases)はイタリアの3分の1以下である。また米国での検査数は韓国の約10分の1にすぎない。

統一されている検査の仕組み:現在、全国で633カ所の検査場(test sites)と100を超える検査機関(laboratories)がある。検査機関は同じ検査機器を使用し、同じ訓練を行い、同じ情報に基づいて判断を下す。午前8時、国内の全ての検査機関が検査結果を共通のデータベースにアップロードし、全国の公立・私立の病院は患者の検査結果を見て、韓国疾病管理予防センター(Korea Centers for Disease Control and Prevention)に報告する。現在は1日に最大2万人の検査が可能となっている。国内のバイオテクノロジー企業が、中国が1月に公表した新型ウイルスの遺伝子コードを使った疾患モデルに基づく独自の検査開発を進め、感染が急増する2週間前に検査キットを開発し承認を得ていたという。ドライブスルー型の検査場の導入などイノベーションも重要な役割を果たした。WHOは18日、画期的な検査戦略を開発したとして韓国を称賛したと報じる。

最も先見的に動いた香港:3月16日付フィナンシャル・タイムズ記事「Containing coronavirus、the lessons from Asia(コロナウイルスの封じ込め、アジアからの教訓)」は香港について、政府の対応が最も先見的(proactive)だったと述べ、感染者が20人以下の時点で、学校の休校、大半の公共施設の閉鎖、集会回避の勧奨などを実施したと報じる。また警察に通常は複雑な犯罪捜査に使われる「スーパーコンピュータ」を配置し、不特定多数に感染させる潜在的スーパーキャリアや市内の感染源となるホットスポットを追跡させた。保健当局はまた感染患者が居住する、もしくは居住していたマンションに関する情報を定期的に更新して伝え、居住者は専門家の助言に従って、手洗いとマスク着用を励行している。
 
自身の創意工夫によって局面を打開する台湾:台湾は中国の圧力によって国際機関から孤立しているため、自身の創意工夫によって局面の打開に迫られているが、サーズによって73人が死亡した教訓を生かし対応していると伝える。サーズ沈静化後、台湾の疾病対策センターは、医師の増員や1000以上の陰圧室(negative pressure rooms)の病院内設置、ウイルス検査を担う感染症研究所の新設など態勢を強化した。検査能力は現在、1日当たり2400人の検査が可能で、医療品の流通システムも構築、例えば外科用マスクは現在、4千枚の在庫がある。また感染症の専門家を招集し、中央感染症指揮センター(Central Epidemic Command Center)を創設、トップを閣僚級とした。さらに感染症流行の際には公民権を制限できる法的根拠を整え、隔離措置の違反者には罰金を科せるようにした。 

感染が拡大する東南アジア:他方、3月18日付けニューヨーク・タイムズは、対応の遅れていた東南アジア諸国も、おそまきながら厳しい対策に乗り出したと伝える。インドネシアではブディ運輸相が検査の結果、陽性であることが判明するなどウイルスの脅威が高まり、ジョコ大統領が国民に対して、自宅での仕事や学習、祈りを行うよう呼びかけたと報じる。記事によれば、患者の急増は3月初旬、マレーシアの首都、クアラルンプール近郊で開かれたイスラム教徒の国際的集会に起因している。そこで感染した信者の多くがインドネシア、マレーシア、シンガポール、ブルネイなどにウイルスを持ち込んでいる。マレーシアでは大規模集会は今月一杯禁止され、学校、企業、礼拝場は閉ざされ、国を離れることが禁止されている。フィリピンでは、人口の凡そ半数に達する6千万人が閉鎖状態(under lockdown)におかれた。タイでは、ソンクラーン(Songkran)と呼ばれる4月の正月行事が延期された。

医療体制が完備し死者なしのシンガポール:こうした東南アジア諸国の中にあって、シンガポールとベトナムの対応が評価されている。3月16日付フィナンシャル・タイムズは、570万人のシンガポールでの感染者は226人で半数は完全に回復、重篤者は13人だが、未だ一人も死者(a single death)を出していないと報じる。シンガポール国立大学の感染症の教授は、幸い患者の多くは若者で、我々の集中治療室(intensive care units)も強力だと語り、デューク・シンガポール国立大学医科大学院感染症プログラム副所長は、人工呼吸器(ventilator)その他の医療支援機器は必要とする患者に全て供給できていると語る。03年のサーズ流行で33人の死者を出したシンガポールは、武漢から情報が伝わると直ちに大規模検査力を備えた研究所を創設し準備を整えた。

感染者の隔離と接触者の追跡に焦点を絞るベトナム:一方、ベトナムは中国と似たような方法で、コロナ対策を推進して注目されている。ベトナムの感染者は123人で死者ゼロとされている。3月24日付フィナンシャル・タイムズ記事によれば、ベトナムは、大規模な検査(mass testing)に乗り出した富裕な韓国とは異なり、感染者の隔離(isolating infected people)と2次、3次の接触者(contact)の追跡に焦点を当てている。また政府は強制隔離(forced quarantines)の他に医学生や退職医師、看護婦の強制動員(conscription)を実施し、2月に入ると中国よりの全フライトを停止、ハノイ、ホーチミン両市の学校を休校とし、大半の都市に旧正月後も閉鎖を続けるよう指示している。武漢からの帰国労働者の多い北部では大規模住宅地に封鎖(seal off)を命じた。WHOは、ベトナムの先見性(proactiveness)と一貫性(consistency)ある対応を賞賛している。記事は、成功の一因は医療と軍の関係者、監視員と検査員の動員、全土にわたる情報員網(state’s network of informants)にあり、米欧では不可能だと指摘する。

感染爆発を回避している日本は離島:最後に日本の対応と現状に関する論調を観察する。3月24日付ワシントン・ポストは、日本は世界でコロナウイルスが大流行するなかで、不可思議ともいえる世界の離島(outlier)だと述べ、日本は流行初期では検査(testing)を制限し、また呼吸器感染症(respiratory infections)の流行に適した寒冷な天候でありながら、韓国や欧州、米国に起きたような爆発的感染を回避していると指摘する。次いで29日付同紙は、「Japan uses targeted coronavirus testing; South Korea goes big. The U.S. faces a choice. (検査の対象を絞る日本と広範に実施する韓国、選択に迫られる米国)」と題する記事で、韓国と対比して概略次のように報じる。

公式感染者数が実態を下回っている可能性:韓国は、迅速に広範な検査を可能として世界から賞賛を浴びた。既に39万4000人以上を検査し、9583人の感染者を見つけ出した。日本は、人口が韓国の倍以上だが、2万8000人程度の人々に検査を実施し、1724人の感染例を発見している。日本政府のガイドラインによると、高齢者でない患者は4日以上の発熱が続かない限り、医師の診断を受けることすら勧奨されていない。また医師の推奨(recommendation)がなければ検査を受けられない。その結果、日本の公式数字は感染者の実数を大きく下回っている可能性がある。しかしこの方法の支持者(proponents)は、限られた医療資源を重篤者に絞り、死亡率を比較的低位に保てると語る。また検査を求める人で混雑する待合室は潜在的に危険な場所であり、さらに不正確な検査は有害無益だと主張する。

ウイルスについて余りに無頓着な日本:3月26日付エコノミスト誌は「Blowing out the flame Covid-19 forces Japan to delay the Olympics(聖火を吹き消すコロナウイルス、五輪の延期に迫られた日本)」と題する記事で、専門家は日本がウイルスについて余りに無頓着(nonchalant)だと心配していると述べ、コロナウイルスが世界的に大流行するなかで、安倍首相が日本自体はウイルスを押さえ込んでおり、五輪の延期や中止は考えられないと主張していたと報じる。ただし同首相は初期対応について国内で批判を受けていると報じ、武漢でのコロナ発生にもかかわらず中国人観光客を受け入れ、感染者を乗せたクルーズ船の対応に手間取ったことなどを挙げる。ただし日本はこれまでのところ、他の主要国と比較してウイルスの感染スピードが遅い例外的な国だと述べ、サーズや鳥インフルエンザ(bird flu)などの過去の感染症から封じ込めの大切さについて学んでいると指摘する。

現状に安住する都民:同時に記事は、東京都の小池知事が今週、拡散を封じ込められなければ、都民は都市封鎖(lockdown)に直面するかもしれないと警告、感染経路(transmission routes)の特定が難しくなっており、これから3週間が重大局面だと語り、週末は自宅で過ごすよう要請したと報じる。記事は、小池知事のコメントは現状に満足する(complacent)都民を覚醒させて然るべきであり、安倍首相も現状に甘んじる余裕はないはずだと述べ、この感染症への対応を誤ると、来年の五輪にすら間に合わない結果になりかねないと警告する。

結び:今回の新型コロナウイルス危機は、極度のグロバリゼーションが生み出した極限の産物といえるかもしれない。経済のグローバル化で最大の恩恵を受けていた中国で発生し、グロバリゼーションの波にのって瞬く間に地球上に拡散、パンデミックと化した。しかもパンデミック化は、中国指導部の初期対応の遅れに起因するのは間違いない。グロバリゼーションの果実を貪欲に享受することに成功した中国の統治体制は、今回の危機で脆弱性を露呈した。問題はとりわけ、その秘密主義と隠蔽体質にある。これが国内での初期対応の遅れと感染の内外への急拡散を招いた。しかし中国はこれまでのところ、そうした責任を認める姿勢をみせていない。

 その一方で、この種の感染症は中国に限らず、世界どこでも発生する可能性がある。その意味で中国の責任を追及するだけでは、問題の解決にはならない。中国指導部は、そのことを念頭に置き、今回の初期対応の遅れを謙虚に反省し、その経験を今後再発が予想される感染症対策に役立たせるために誠実に貢献する必要があろう。

 他方、その他のアジア諸国のなかで韓国、香港、台湾が共に迅速、的確に対応したと評価されている。東南アジアではシンガポールとベトナムが適切に対処し、その他の東南アジア諸国も遅ればせながら動き始めている。こうしたアジア諸国の対策として注目されるのは、検査ネットワークの整備、休校や公共施設の閉鎖、集会回避などを含む公民権制限の早期実施、医療関係者の動員や専門機関の設置などの医療体制の強化などである。

 この間にあって日本は検査を絞りながら感染爆発を回避し、世界の不可思議な離れ島だと評され、ただし危機に無頓着なまま、現状に甘んじるのは許されないと警告されている。日本としても今後、早急な検査態勢の改善強化、接触者の追跡と検査検診の徹底、厳格な隔離ルールなどの対策に気を緩めずに、かつ迅速に取り組むべきだろう。サーズの震源であった香港は、感染者が20人以下の時点で、学校の休校、大半の公共施設の閉鎖などを実施している。

 日本はまた、専門家の意見を踏まえつつ、機を逸することなく緊急事態を発動し、感染爆発を防ぐ世界のモデルとなるべきだ。緊急かどうかの判断に政治的要素を持ち込ませないために、台湾のように専門家を招集し、トップを閣僚級とする指揮センターのような新機関の設置を今後検討すべきではないか。グローバル化の時代にあって日本は世界の離れ島ではありえない。ましてやウイルスには国境はない。しかも台湾のように国際機関から孤立していない。日本は離れ小島ではなく、最小の死者数や感染者数を目指すコロナ対策の中心地となり得るのだ。

(注)メディアはまず、新型コロナウイルスの感染急拡大について中国の責任を厳しく追及する。コロナウイルス危機はトップダウン型統治機構の脆弱性を浮き彫りにしたと述べ、中国は重要情報を留保し、科学者集団との共有を拒否したと批判、さらに検疫の限界を指摘し、大きな問題として、疾病管理対策に対する市民の信頼の重要性を挙げる。今回の危機は、中国の社会契約原理への挑戦であり、経済が急発展した中国では、異なる発展段階に即した異なる統治が必要だと主張する。

 他方、中国指導部はウイルスとの戦いに勝利したと宣言し、湖北省と武漢の封鎖を解除し始めたが、ウイルス拡散を防ぐため何らかの行動制限措置が必要とされ、生活は未だ正常に復していないと述べる。出口戦略は今後、どこの国でも直面する問題だが、公衆衛生リスクと経済リスクの計測が困難との専門家の指摘を伝える。
経済への影響については、習近平国家主席は明らかに懸念しており、企業の可及的速やかな回復を支援すると約束したと報じる。第1四半期の経済は大幅な落ち込みが予想されているが、党指導部は経済への支援強化を表明し、今年通年の成長率として6パーセントの目標を再確認していると伝える。

 韓国ではMERS流行を教訓に検査ネットワークを整備し、今年1月末の新型ウイルス感染拡大時に始動、医師、医療スタッフ、検査機関、政治の指導者が、この数年の間に定められた手順に従って動き、効果を上げた。現在、1日に最大2万人の検査が可能で、これはバイオテクノロジー企業の活用とドライブスルー型の検査場の導入などイノベーションの成果でもあるとされる。
 
 香港は、政府の対応が最も先見的だったとされ、学校の休校、公共施設の閉鎖、集会回避の勧奨などを早期に実施、「スーパーコンピュータ」を活用して潜在的スーパーキャリアや市内の感染源を追跡し、感染患者が居住する、もしくは居住していたマンションに関する情報を定期的に更新して伝える。

 台湾は、国際機関から閉め出され、自身の創意工夫による局面の打開に迫られているが、サーズ(重症急性呼吸器症候群)の教訓を生かし対応している。サーズ沈静化後、台湾の疾病対策センターは、医師の増員や陰圧室の病院内設置、ウイルス検査を担う感染症研究所の新設など態勢を強化した。専門家を招集して中央流行疫情指揮センターを創設、トップを閣僚級とし、政争に左右されにくい機関とした。感染症流行の際には公民権を制限できる法的根拠を整え、隔離措置の違反者には罰金を可能とした。

 対応の遅れていた東南アジア諸国も、厳しい対策に乗り出した。インドネシアでは、運輸相が陽性となるなどウイルスの脅威が高まり、ジョコ大統領が自宅での仕事や学習、祈りを国民に呼びかけた。患者の急増は3月初旬、クアラルンプール近郊で開かれたイスラム教徒の国際的集会で感染した信者の多くが、インドネシア、マレーシア、シンガポール、ブルネイなどにウイルスを持ち込んだためとされる。マレーシアでは大規模集会は今月一杯禁止され、学校、企業、礼拝場は閉ざされ、国を離れることが禁止された。フィリピンでは、人口の半数に達する6千万人が閉鎖状態におかれ、タイでは、ソンクラーンと呼ばれる4月の正月行事が延期された。

 こうしたなかでシンガポールとベトナムの対応が評価されている。両国とも未だ一人も死者を出していない。03年のサーズ流行で33人の死者を出したシンガポールは、武漢から情報が伝わると直ちに大規模検査力を備えた研究所の創設などの準備を整えた。ベトナムは、感染者の隔離と2次、3次の接触者の追跡に的を絞っている。強制隔離の他に医学生や退職医師、看護婦の強制動員を実施し、2月には中国からの全フライトを停止、ハノイ、ホーチミン両市の学校を休校とし、大半の都市に旧正月後も閉鎖を続けるよう指示した。

 他方、メディアは日本について、検査を制限しながら、広範な検査を実施する韓国と異なり感染爆発を回避し、世界の離島のようだと述べ、感染者の公式数字は実数を大きく下回っている可能性があると指摘する。その一方で、検査の制限は限られた医療資源を重篤者に絞り、死亡率を比較的低位に保てるという利点や不正確な検査は有害無益だとの主張も紹介、日本で感染スピードが遅い背景として、サーズや鳥インフルエンザなどの過去の感染症から封じ込めの大切さを学んだためとの見方も伝える。しかし日本はウイルスについて余りに無頓着だとも批判し、東京の都市封鎖の可能性を示唆して外出の自粛を促した小池都知事の発言に触れ、都民のみならず安倍首相も現状に満足する余裕はないはずだと警告する。                

 

前田 高昭
金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。
訳書に『チャイナCEO』他。
『東アジアニュースレター』も配信中。

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