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2020年の日本その2 ― 三重苦に襲われる日本経済

2020/03/07

英文メディアで読む 第82回
2020年の日本その2
― 三重苦に襲われる日本経済 ―
 






 
前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト
       バベル翻訳大学院プロフェッサー  
 
 主要メディアは日本化という厄介な問題と長年戦ってきた日本が、昨年10月の消費増税という重荷を背負わされるなか、新型コロナウイルスの脅威にさらされて、文字どおり三重苦に襲われていると伝え、不況入り寸前の状態にあると警告を発する。以下に本号1月号の「日本の今」でお伝えした「2020年の日本」その2として、主要英文メディアの報道や論調を観察する。

90年代から超低迷が続く日本経済:まず日本化の問題から観察していく。2月6日付フィナンシャル・タイムズはグローバル経済欄の記事「How Japan has coped with Japanification(日本は、どのように日本化に対処してきたか)」で、日本が日本化に耐えている状況を紹介している。記事は、日本化とは、90年代初めからの日本の状態をほぼ表わす、積極的な金融緩和にもかかわらず経済が超低迷している(ultra-sluggish)状態と定義する。ただし日本は、色あせた経済成長とインフレにもかかわらず、高い生活水準を維持して住むに心地よい国だと評し、日本がそうあり得た原因について、金融ジャーナリスト、ロバート・プリングルの近著「パワー・オブ・マネー(The Power of Money)」から得られた知見(lesson)として次の3つを挙げる。

日本を支える長寿企業、非物質と自然保護の精神:第1に、日本社会の特徴として長寿を挙げ、企業も景気の波をくぐり抜けた古参企業が多いと指摘する。日本企業が長寿である理由として、短期の収益ではなく、「サービスに対する無私の(selfless)献身、金銭的動機(pecuniary motives)の嫌悪、謙虚さ、完成と無限の忍耐の絶えざる(ceaseless)飽くなき(untiring)追求」を重視することにあると解説する。第2に、物質主義の米国人はお金を、彼らの理想と生活態度を実現する手段として考え、それが新しい経済モデルだけでなく、新しいタイプの個人を創出したが、日本では、「成功を金銭の尺度で余り計ろうとしない」ため、その一つの結果として、「お金は自分が保有し、それで何かをしようとできる自立した存在ではなくなる」ので、お金をめぐる内的葛藤や社会的紛争が少なくなると述べ、そうした日本的思考を非物質主義(Immaterialism)と表現する。第3に、物質主義の米国人は浪費(extravagance)を美徳とし、無駄遣いを礼賛、日常品はなんであれ頻繁に差し替え、そのため米国人は個人主義や民主主義を奨励するが、非物質主義の日本人は物質的な富(material wealth)を重視せず、浪費節減(wasting little)に向かい、社会の安定(stable society)を優先して個人を集団に従属させ、競争を阻止すると述べる。そうした日本文化を熟達した自然保護主義(Skilled conservationism)と表現する。   

若者にのしかかる重い負担:以上のように論じた記事は、安定した心地よい社会とみられる日本も、低失業率の中にあって隠れたホームレスが存在し、負担が若者たちに重くのしかかっていると指摘する。それについてはフィナンシャル・タイムズの元東京特派員、デービット・ピリングが非正規労働者(precariat)の増加に関する報道で的確に伝えていると次のように述べる。

急増する非正規労働者と拡大する富の格差:1990年代は非正規(casual)と分類された労働者が20パーセント弱だったが、現在は35パーセント以上が、パートタイム、非永続的(non-permanent)雇用者、契約社員、「派遣」(“dispatched”)社員など、人材斡旋会社(employment agencies)へ返送可能な包装品のような存在なのだ。こうした現象は先進諸国でよくみられるが、日本の単一民族で平等な社会というイメージを傷つけた。また労働者の非正規化(casualisation)は、富の格差を拡大させた。多くのパートタイムの1時間当たり賃金は10ドルに過ぎず、年金や医療のベネフィットもほとんどない。社会が不平等、不公正になったと感じる日本人が余りにも多くなっている。

防波堤は社会の道徳観:とはいえ、全体としては社会の道徳観(social mores)が依然として防波堤(bulwark)となっている。極右への傾斜はこれまでのところ、その根拠がみられない、とプリングルは書いている。1991年からおよそ30年経った今も、中道(the centre)が維持されている、と。

家計に大きな圧迫要因となった消費増税:こうした日本経済が昨年第4四半期についにマイナス成長に陥った、というニュースが世界を駆け巡る。2月17日付ウォール・ストリート・ジャーナルは社説「 Japan’s VAT Blunder(日本版記事:【社説】日本の消費税の大失態)」の冒頭で、昨年10~12月の国内総生産(GDP)伸び率は年率換算で6.3パーセントのマイナスとなったと報じ、その最大の要因は消費支出(consumer spending)が年率11.5パーセントも落ち込んだためだと述べ、これは多くの人々が警告していたとおり、89年の消費税(consumption-tax)導入後、97年と2014年の2回の税率引き上げの際と似たような状況となったと指摘する。社説は、マイナス成長の一部は、消費者が増税前に買いだめ(ramping up consumption)をして、先回りしようとした結果だが、消費増税のショックが和らいでも、大きな救い(reprieve)は期待できないと述べ、労働市場が逼迫しているにもかかわらず、賃金の伸びは停滞していることを挙げ、厚生労働省の推定によると、インフレ調整後の給与は12年から18年までに3.5パーセント減り、家計所得(household incomes)にとって消費増税は大きな圧迫要因になっていると報じる。

タイミングが最悪だった増税:そのうえで社説は、増税のタイミングは、その後に中国で新型コロナウイルスの流行(coronavirus outbreak)が起きただけに最悪だったとし、安倍首相は日本経済が最も回復力(resilience)を必要としている時に、経済を締め付けてしまったと批判、国際通貨基金(IMF)は、日本は消費税率を今後10年間で15パーセントへ、2050年までに20パーセントへと引き上げるべきだと提言しているが、IMFの専門家らは、日本を増税に耐え得るだけの十分に「強靱(きょうじん)」な経済にするためには、ケインズ政策に基づく財政支出の拡大を行うことがまず必要だと主張していると指摘する。

失敗した安倍氏の経済政策:社説は最後に、安倍氏は政権に復帰した際、優れた構想の実現に着手し、日本経済を活性化する(unleash)ために政策面での大規模な改革を推進することを公約に掲げており、その通りに実行していれば、おそらく現在の賃金はもっと大幅に伸びていただろうし、経済は中国を中心とする感染症(epidemic)などの衝撃にも今よりうまく持ちこたえられ、経済成長が歳入を拡大させていたはずだと指摘、安倍氏の経済政策の失敗に伴うコストを日本が回避するには手遅れだが、他国政府は、日本の指導者たちが受け入れを拒否している教訓から学ぶことができると主張する。

消費増税によって水泡に帰したアベノミクス:2月18日付フィナンシャル・タイムズも社説「Japan’s problem is not enough Abenomics(日本の問題は不十分なアベノミクス)」で、消費増税によって、せっかくの財政刺激策が水泡に帰したと厳しく批判する。社説は、金融緩和(monetary easing)、財政出動(fiscal stimulus)、構造改革(structural reform)の3本柱からなるアベノミクスに触れ、安倍首相がこの処方箋(prescription)、なかでも財政出動を堅持していたら、首相在任中(premiership)の2回目となるテクニカル不況の脅威にさらされなかっただろうと指摘する。安倍政権は、昨年第4四半期の大幅マイナス成長は台風や例年にない天候のためだと説明しているが理不尽だと論評、アベノミクスは過去10年間、日本経済をむしばんできた問題に対処するという意義があったが、増税や支出削減という早まった施策が回復の首を絞め、高齢化が進行するなか、潜在成長率(potential growth)を弱めたと主張する。

有意義な3本の柱:そのうえで社説は、アベノミクスの全ての対策が共同して経済を新たな均衡に押上げる必要があると述べ、具体的な施策として、円安を導く金融刺激策(monetary stimulus)、需要を喚起する財政刺激策(fiscal stimulus)、成長機会や企業の投資を生む貿易協定のような構造的施策(structural measures)を挙げる。この組み合わせは決して容易ではないが意義があり、2013年の円安は爆発的な楽観論を生み出したと述べ、安倍首相の任期中に日本経済は、低水準だが心理は前向きな(low but positive)インフレや、岩盤のような低失業率など過去よりも良好な成果を上げたと指摘する。

企業の巨額貯蓄を取り崩す施策が必要:社説は、それだけに安倍首相が幾度も政権内の財政タカ派に屈したのは不幸なことだと指摘し、次のように提言する。ここは原文を読んで翻訳してみよう。

Japan has plenty of savings; what it lacks is consumption. If Mr Abe felt he had to raise taxes it would have made more sense to target the former, perhaps by reducing the depreciation allowances permitted to corporations that are making record profits.

「日本には多大な貯蓄がある。つまり不足しているのは消費だ。安倍首相が消費税を引き上げざるを得ないと思っていたのであれば、前者を標的にする方が理に適っていただろう。おそらく企業に許容している減価償却引当金を削減してみることだった。企業は記録的な収益を上げているからである」

不徹底なアベノミクスが問題:社説は最後に、コロナウイルスの流行で日本経済の背景backdropが暗くなったが、安倍氏が短期的に取るべき合理的な行動は、増税の逆転(reversal)は政治的に不可能なので、それを除けば、さらなる財政刺激策があるのみ、と主張し、過去7年間にわたって常に問題だったのはアベノミクスではなく、アベノミクスが不十分だったことだ、と再度強調する。

ミスショットだった消費増税:2月20日付エコノミスト誌も「Japan’s GDP shrinks dramatically after a tax rise and a typhoon(日本の国内総生産、増税と台風のために劇的に縮小)」と題する記事で、消費増税は自ら招いた過ち(unforced error)だと主張し、さらにコロナウイルスが日本経済を複雑にするかもしれないとコメントする。記事は、アベノミクスの功罪について論議があるが、議論の余地のない教訓が2つあると述べ、見上げるような政府債務にもかかわらず、債券市場は極めて平静なこと、これに対し家計は消費税の引き上げに恐ろしく敏感なことを挙げ、昨年10月1日の消費税引き上げ後に日本経済は年率6.3パーセント縮小したと指摘、増税はミスショットだったと主張する。その理由として記事は、政府には追加歳入の必要がなく、GDPの2.4倍に近い債務があるとはいえ、金利がゼロ程度に定着している途方もなく安価な借金であり、日本銀行は長期金利を低位に保つために国債を必要な程度買い入れられると述べ、こうした低金利による借入刺激策は民間消費が極めて弱いなか、インフレを日銀目標の2パーセントに引き上げるために必要だと主張する。

浸水船に底荷を積み込んだ消費増税:次いで記事は、消費増税は企業や政府に2重に(doubly)奇妙な努力を強いていると述べ、企業は意欲の減退した(inhibited)消費者向けに製品の販売にいっそう心がけ、日本政府は国債の発行数を減らし、入札を約している顧客に売り込んでいるとし、これは浸水している船に底荷(ballast)を積み増すようなことだと批判する。

政府による優遇措置の効果を打ち消した台風:さらに記事は、消費増税の影響を排除するために政府が講じた措置、例えば、消費増税から飲食料品や新聞代の除外、保育(child care)や就学前幼児教育(education for pre-school kids)の無償化、コンビニなどでのキャッシュレス購入(cashless purchases)に対する優遇措置などに言及し、それらは一定の効果を上げたかもしれないが、10月に襲った台風がその効果を相殺したと述べ、このため企業は設備投資を前回の消費増税時よりも縮小したと指摘する。

経済の回復見通しを脅かす新型コロナウイルス:加えて新たなCOVID-19(新型コロナウイルス感染症を意味するcoronavirus disease 2019の略称。世界保健機構が命名)のために経済の回復見通しが脅かされていると指摘する。記事は、日本はCOVID-19のために中国で寸断された製造業サプライチェーンに組み込まれていること、東京五輪というやる気と支出(spirits and spending)を高める慶事も危うくなったことを挙げ、日本は財政(Fiscal)、気象(meteorological)、ウイルス(viral)などで挫折に直面しているとし、このため政策当局は台風対策として1200億ドルの財政出動を用意したが、支出は1年間にわたり、かつ追加支出額としてもそれほど多額ではないと指摘する。

解決策の一案はマイナス金利の深化:他方、日銀も考えあぐねている(out of ideas)ようだと述べ、インフレは目標未達のままであり、金利の階層構造方式(tiered system。対象残高を、基礎、マクロ加算、政策目標の3つに分け、それぞれプラス金利、ゼロ、マイナス金利とする方式)の下でマイナス金利を導入したが、貯蓄者、銀行、保険会社の間で不評だと指摘する。そのうえで対策として、英コンサルタント会社、オックスフォード・エコノミクスのステファン・アングリック氏の提案を紹介する。すなわち、市中銀行の採算改善のために日銀は準備預金に付利する金利を引き上げる一方、貸出を刺激するために残りの金利は引き下げるという案である。これは金利階層システムを深化させるが、過去においてスイス中銀がマイナス金利を0.75パーセントまで引き下げた際に役立ったと付言する。

テクニカル不況の瀬戸際にある日本経済:こうした日本経済の現状について、2月23日付フィナンシャル・タイムズは市場欄記事「Will economic data heighten fears of a recession in Japan?(経済データで日本経済の景気後退懸念が高まるか)」で、昨年第4四半期の経済成長率が年率換算(annualised rate)で6.3パーセント縮小した(shrank)と発表され、日本経済は大きな打撃を受けたと述べ、この数字はエコノミストらの事前予想である3.7パーセント減に対して余りに落ち込みが大きく、彼らも10月の消費増税の消費に与える影響を過小評価していたことを認めざるを得なくなったと報じる。

注目される1月のデータ:そのうえで今週、1月に関する多くの経済データが発表され、それに伴い経済への打撃が続くかどうかが重要な問題になったと述べ、日本は今や、国内総生産(GDP)の2四半期連続マイナス成長で不況入りと定義されるテクニカル不況(technical recession)の瀬戸際にあると指摘し、何人かのエコノミストは既に2020年第1四半期の予想を引き下げているが、そうした見方が正しいかどうかは、来週に発表される小売(retail trade)や工業生産(industrial production)の統計数字が参考になろうとコメントする。

アジア地域に浸透する新型コロナウイルスへの恐怖、:さらに記事は、コロナウイスに対する漠然とした恐れ(vague fears)がアジア地域に幅広く浸透してきており、1月の数字に微妙な影を落としてきたと報じ、中国人旅行者は依然として大勢、日本に向かっていたが、2月までには大幅に減少し、1月の大手小売業者(large retailers)の売り上げは1桁台前半の下落(low single-digit decline)を記録すると予想されていると述べる。

まとめ:以上のようにメディアは、日本が長年戦ってきた日本化という問題に加え、消費増税の重荷と新型コロナウイルスという未知の脅威からなる三重苦に襲われていると伝える。日本化については、日本は長寿企業の存在や非物質と自然保護の伝統的精神によって高い生活水準と心地よい社会を維持し、社会的道徳観によって中道で安定した社会を堅持しているが、その裏で非正規労働者が増加し、富の格差が増大、負担は若者に重くのしかかっていると警告する。

 消費増税については、昨年第4四半期にマイナス成長に陥った主因であり、多額の公的債務にもかかわらず、債券市場は平静で借金は安価であるため増税は不要で、浸水する船に底荷を積み込むような行為だったと主張する。賃金が停滞するなか、家計にとって大きい圧迫要因となり、新型コロナウイルス流行と重なりタイミングも最悪で、本来は増税前にアベノミクスの財政出動による経済の強靱化が必要だったと論じ、安倍首相は、経済が最も回復力を必要としている時に締め付けるという失敗を犯し、アベノミクスも水泡に帰したと酷評、増税の影響排除の措置も、台風で相殺されたと指摘する。対策としてアベノミクスの徹底による経済の新たな均衡への押上げが必要だと主張、具体的にはマイナス金利の深化や企業に積み上がる減価償却引当金の削減を提案する。

 新型コロナウイルスについては、ミスショットだった消費増税に加えて、日本経済を複雑にする要因だと論じ、日本が組み込まれている中国での製造業サプライチェーンの寸断や危うくなった東京五輪を挙げ、日本経済は挫折に直面していると指摘、さらにコロナウイスに対する漠然とした恐れが日本を含むアジア地域に広く浸透し、今後発表される統計数字に微妙な影を落としてきているが、そうした数字が日本経済への打撃が続くかどうかを見極める上で、重要になってきたと論評する。 

結び:日本化と呼ばれる長い経済停滞にもかかわらず、豊かで安定してみえる日本社会。しかしメディアが鋭く批判するように、そこでは富の格差が拡大し、非正規労働を担う若者に重い負担がのしかかっている。そのうえ消費増税という過ちを自ら犯して経済回復の芽を絶ち、そこに未曾有の感染症が追い打ちをかけてきた。このままでは日本経済は2四半期、あるいはそれ以上の連続でマイナス成長に陥りかねず、不況入りが目前に迫っている。では、この難局にどう対処したらよいのか。短期的には、当面、新型コロナウイルスとの戦いに全力を傾注するほかはない。同時にテクニカル不況入りを避けるために、大胆な財政出動と何らかの金融緩和の強化策が避けられないだろう。まさにメディアが提案するように、積極的財政出動とマイナス金利の深堀を含む超金融緩和策の継続、自由貿易協定の推進などによる成長戦略の強化など、アベノミクスの深化ともいうべき政策が欠かせない。そうした政策論議には、与党だけでなく野党もまた積極的に参加し、具体的な政策を提示すべきだ。まさに超党派の政治的英知が今、日本に求められている。

 

前田 高昭
金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。
訳書に『チャイナCEO』他。
『東アジアニュースレター』も配信中。

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