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2020年の日本 ―数々の挑戦が待ち受ける日本の今

2020/01/07

英文メディアで読む 第80回
 2020年の日本

 ―数々の挑戦が待ち受ける日本の今

         
               

 前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト。バベル翻訳大学院プロフェッサ


 
 
2019年も押し詰まった1211日、ウォール・ストリート・ジャーナルは同紙日本版創刊10周年にあたり201017付の記事を再掲載すると述べて、「Japan as Number Three日本版記事:【社説】ジャパン・アズ・ナンバースリーと題する社説を改めて紹介した。2010年は、日本が国内総生産(GDP)で中国に追い抜かれて世界第  位に後退した年である。



 ジャパン・アズ・ナンバースリー:社説は概略次のように論じる。中国は企業家精神に富んだ国entrepreneurial placeになったが、日本はそれと反対方向に動き、平均所得が米国で最も貧しいミシシッピ州よりも少ない、経済規模で中国に世界第位の国家に凋落した。しかも日本では、人口の高齢化が進んでいる。日本のスタグネーションは世界の悲劇でもあり、日本の政治家は持続的な成長を目指す経済政策に回帰すべきだ。他方、中国経済が躍進するなか、米国は経済規模で中国を凌駕している。日本と同じ政策の過ちを犯し、日本の運命(Japan's fate )をたどることを米国は避けねばならない。

人口動態の危険水域に入る日本:それでは今の日本についてメディアは、どう見ているのであろうか。以下に、直近の報道や論調をいくつか観察する。先ず上記社説が懸念した高齢化問題に関する論調からみていく。20191227日付のフィナンシャル・タイムズ記事は、日本が久しい以前から恐れられていた人口動態の危険な一線をいよいよ越えようとしていると警告する。「Ageing Japan set to cross critical demographic line高齢化する日本、人口動態の危険な一線に接近)」と題する記事は、日本はまもなく一分間に一人の割合で住民人口indigenous population)が減少すると予想される状況に陥ると報じる。過去数十年間にわたる出生と死亡の割合からみて避けられないことだったが、こうした流れを止めようとする安倍政権の努力にもかかわらず、予想より早く時期が到来したと指摘する。 

人口動態を反映して低下する失業率:さらに既に人口の分の以上が65才の日本は世界最速で高齢化する国家であり、こうした人口動態(demographics)が経済全般に看取されていると述べ、11月の雇用数字によれば、失業率は2.2パーセントと10月より0.25パーセント・ポイント低下したと報じ、これは日本の労働力減少(contracting workforce)と慢性的に逼迫する労働市場を反映していると指摘する。 

初めて年間50万人を超える人口減:次いで人口減の実情について次のように伝える。厚生労働省の最新見通しによれば、201910月までの数字から予想すると19年通年の出生数は864000人と前年実績より4000人減少し、90万人を割り込むのは統計を取り始めた1899年以来初めてとなる。また厚労省の新しい見積もりによれば、19年の死亡数は戦後初となる138万人に達する。こうした出生数と死亡数の差によって、日本の住民人口は初めて年間50万人を超えて減少し始めた。 

雇用政策の見直しに迫られる日本企業:また記事は、人口減によって雇用政策の見直しに迫られている日本企業が増えていると次のように報じる。ここは原文を読んで翻訳してみよう。 

The declining population is forcing an increasing number of Japanese companies to reconsider their strategies as they find it increasingly difficult to secure staff in a job market where there are 157 jobs for every 100 jobseekers and the total number of people in work has expanded for 83 straight months. 

「人口減によって戦略の見直しに迫られている日本企業が増えている。それは雇用市場での職員確保が困難を増しているからだ。求職者100に対して求人数は157に達しており、就業者数は83ヶ月間連続で増大している」 

こう述べた記事は、日本全体の就業者数は約6762万人で、厚労省幹部はメディアに対して、雇用状況は「着実に改善している」と語っているが、小売とレストラン業界が最も打撃を受け、24時間サービスを提供していたコンビニや石油スタンドなどは営業時間を縮小していると報じる。 

オートメーションが生き残りの問題:さらに記事は、今月初めに東京で開かれた2019国際ロボット展(the IREX robot trade fair)で出展者(exhibitors)は、日本の中小メーカーはオートメーション(automation )が労働力減少を補填する「生き残りの問題」だと述べ、展覧会に対してこれまでにない関心を示したと語ったと伝える。 

外国人子弟の日本語教育で苦戦する日本の学校:他方、日本政府はこうした労働力減少を解決する柱のつとして、外国人労働者の誘致を試みている。その関連で1212日付エコノミスト誌は、外国人子弟の教育問題で苦戦する日本社会の有様を報じている。「Muddled masses  Japanese schools are struggling with foreign pupils(混乱を巻き起こす移民たち、外国人生徒と苦闘する日本の学校)」と題する記事は、冒頭で豊橋市にある中学校が設けている「未来」と呼ばれる教育プロジェクトを紹介する。これは来日した外国人子弟を地元の中学校に編入するに先立ち、10週間かけて集中的に日本語教育を施すために同市が2018年に導入したプロジェクトである。 

ブルーカラー労働者を導入する新ビザ制度:記事は、日本には現在、学齢期(school age)の外国人子弟が124000人登録されており、これは全体のパーセントにすぎないものの、14年から30パーセントも増加していると報じる。19月、労働者不足に直面している業界にブルーカラー労働者を誘い込むことを目的として新ビザ(特定技能)制度が施行され、子弟同伴の外国人労働者の増加が見込まれていると述べ、製造業の多い豊橋市でも工場で働くブラジル人やフィリピン人労働者が増加し、地元の学校に通う彼らの子弟も年前の1352人から1976人へ増加したと伝える。 

増大する日本語の補修教育需要:次いで、日本全体で日本語の補修教育(remedial)を必要とする外国人の数が増加していると述べ、政府調査によれば、その数は16年より16パーセント増の1000人に達し、学校側が苦戦している次のように伝える。
 
教師が不足し(in short supply)、このためボランティアが全体の半数以上を占めている。しかし高齢者が多く、長く働けない。また外国人子弟が必要な日本語教育を受けられるかどうかは、住む場所によって左右されている。豊橋市の場合は、90年代初めから相当規模のブラジル人社会が誕生し、市の職員が書類の書き方や学校制度などについてガイダンスを施すなど支援している。また同市は「未来」プロジェクトに加え、小学校でも外国人生徒が分のを占めているため、通訳や200時間の日本語速習講座(crash coursesを用意している。だが外国人労働者の少ない地域では、自分で全てをしなければならない場合が多い。地方自治体のほぼ割は入学手続案内を行っていない。案内する場合でも日本語で行っているのが実情である。 

後れている日本語教育の受け入れ体制:日本語の支援を受けない生徒は日々を無駄に過ごし、自信を失って中途退学する結果となる。外国人子弟の分の近くは全く通学できないでいる。日本の法律では、外国人居住者の子弟は公立学校に無料で通学できるが、日本人子弟と違って通学の義務がない。日本政府の取り組みは、地方任せで後れていた。しかし今年月、日本語教育に関する中央と地方政府の責任を規定する法律、日本語教育推進法が成立し、企業も外国人従業員と家族に対する日本語教育が義務付けられた。 

永住移民を拒否する政府:上記のように報じた記事は最期に、日本は外国人を社会の貴重な一員としてではなく、労働力の1つとしてしかみていないとの識者意見を紹介すると共に、安倍首相は、新ビザ計画によって来日する外国人労働者が増えるが、彼らは永住する移民(permanent immigrants)ではないと繰り返し主張していると批判する。 

活発にリストラを進める日本企業その一方で、メディアは日本の明るい面にも目を向ける。1222日付フィナンシャル・タイムズは、「Japan posts record number of M&A deals as restructuring booms日本企業、リストラブームのなか、M&A取引記録を更新)」と題する記事で、日本企業が活発にリストラ(restructuring)を推進していると伝え、日本企業の積極的リストラ策によって国内での買収・合併(M&A)取引額が12年ぶりに記録を更新し、その勢いは来年も続く予想だと概略次のように伝える。 

記録を更新するM&A取引調査会社グループ、レコフ(Recof)によれば、日本企業は今年これまでに2840件以上の取引を既に実行し、18年の2814件を上回った。投資額も60兆円以上というリーマンショック発生前の07年以来の金額に達している。こうした国内M&Aを動かす企業群には、巨額の子会社ポートフォリオを再構築するコングロマリットconglomerates)と、後継者危機(succession crisis)を解決するためにM&Aを使用する高齢の創業者を持つ企業のつのグループがある。具体的には、例えば日立による日立化成の昭和電工への売却と画像診断事業の富士フイルムへの売却、またオムロンによる車載電装事業の日本電産への1000億円での売却例がある。これによりオムロンは、ヘルスケアおよびファクトリーオートメーション事業に注力し、日立については、コーポレートガバナンスの問題を解決するために上場子会社を売却する長期的な取り組みの一環で、08年に22あった上場子会社が最新の取引の後、3つのみとなった。 

来年も続くと予想されるM&Aの勢い:こう報じた記事は最期に、銀行筋の情報として、大企業はビジネスの簡素化を迫る投資家からの圧力に直面しているので、この傾向が20年にまで続く可能性が高いと銀行筋は語っていると述べ、「CEOはポートフォリオを改造し(reshuffle)、成長分野(growth areas)に注力する必要があることを理解している」と在京のM&A関係のシニアバンカーが語っていると伝える。 

安倍内閣、史上最高の国防予算案を承認:さらにメディアは、台頭する中国や核開発を続ける北朝鮮などに囲まれた日本の国防問題にも目を向ける。1220日付ニューヨーク・タイムズ記事「Japan Cabinet Approves Record Defense Budget for Coming Year(日本の内閣、史上最高となる来年の国防予算案を承認)」で、安倍政権は米国のステルス・ジェット戦闘機の購入と国産戦闘機開発費を含む記録的な来年の国防予算案を承認したと伝える。予算額は前年比1.1パーセント増の3100億円(486億ドル)となり、国防費は安倍首相が就任した13年以来、一貫して増大、政府が中国や北朝鮮からの脅威に対して国防姿勢を強めるなか、年間で13パーセント増加したと報じる。 

巨費を投じて米国製戦闘機を購入:米戦闘機について記事は、短距離離陸、垂直着陸可能なロッキード・マーティン社製F35Bステルス・ジェット戦闘機機を793億円(2500万ドル)で購入することにしており、これは予算案の中で最も高価な買い物だが、日本は全体で42機を購入する計画だと述べ、この取引によって日本は米政府が問題視する対米貿易黒字を削減できるが、初期段階にある国産防衛産業の発展を後退させると懸念されてもいると指摘する。ただし日本はF35A3機を一機当たり937000万円で購入する計画で、これは完成品ではなく部品で購入、国内で組み立ててノウハウを蓄積する予定としていると報じる。 

同盟国の防衛にも活用できる自衛隊:記事は最期に、ストックホルム国際平和研究所によれば、日本は平和憲法にもかかわらず、国防費では世界トップ10に入っており、安倍首相は自衛隊の国際的役割の拡大と軍事力の強化を進め、米国との協調と兵器の互換性向上に努めてきたと述べ、15年には自衛隊が同盟国の防衛にも活用できるよう憲法を解釈し直したと指摘する。 

 最期に2020年の日本に対するメディアの提言をひとつ観察してみよう。1230付のフィナンシャル・タイムズは「Japan must look beyond the 2020 Olympics日本は2020年のオリンピック後を見据えなければならない)」と題する社説で日本の政局や経済の問題を取り上げ、安倍首相は五輪後に重大な決定を下さなければならないと概略次のように論じる。 

進路が不明確な第2オリンピック後1964年の東京オリンピックで日本は数十年にわたる復興努力の頂点(culmination)に達し、日本の誇り高い復活として国際的な脚光(international spotlight)を浴びた。訪日客は高速の新幹線に乗り、世界は衛星放送を通じて競技を観戦した。この年間、日本は復活(revival)のプロジェクトを再び安倍首相の下で開始し、90年代と2000年代に経済が弱体化し、方向感覚を失った遺産(legacy)を振り切ろうとしている。復活のプロジェクトは2020年東京オリンピックで頂点に達するが、この第のオリンピックは第回と同様に誇りと再生(renewal)をもたらす一方で、進むべき道(the path forward)は前回ほど明確ではない。 

安倍政権下で上向く日本、懸念は五輪後の政治と経済:安倍首相の下で、日本は上向いて(on the up)いる。経済は近年、景気対策(stimulus policies)によって格段に改善した。外交では安倍首相は活発に動き、日本の指導者として存在感を発揮し(visible)、トランプ米大統領との友好関係を構築、韓国とは紛争が続いているが、中国との関係は改善した。貿易協定を結び、企業統治やエネルギー市場、農業、労働慣行などについて画期的(transformationalとはいえないまでも重要な改善をみた。問題は、オリンピック後に何が起きるか、また政治と経済について何時、将来に関する重要な決定を下さなければならないか、である。懸念すべきは、高齢化と少子化が加速するなか、高揚する日本の勢いが失われていくことである。 

政治的決断のデッドラインは来年秋:政治的には、安倍首相は来年の秋に決断のデッドラインを迎える。自民党の指導者としての任期は2021年秋に、参議院議員の任期もほぼ同時期に終わる。安倍氏が首相の座を降りる気であれば、新指導者に有権者と対峙するための一年間の時間的猶予を与えるために、オリンピックの余韻が収まっていない来年秋に退陣するのが自然だろう。他方、安倍氏が再選を意図するのであれば、党則変更を推し進めるために、総選挙によって新たな信任(mandate)を得る必要がある。また政権を継続させるために、新た政策(agenda)を示す必要もある。 

インフレ目標の継続、財政政策による成長促進が肝要:経済的には安倍首相は過去の縮小的な政策に戻らないことを明確にしなければならない。日本銀行はパーセントのインフレ目標を掲げているが、更なる緩和政策は害あって益なしと判断したために、目標達成のロートマップがなくなった。

経済について上記のように論じた社説は次のように提言する。ここは原文を読んで翻訳してみよう。 

The answer is not to abandon the inflation target but rather to make more active use of fiscal policy to support growth. Mr Abe has taken welcome steps in that direction with a recent stimulus package.

「答えは、インフレ目標を断念するのではなく、財政政策をもっと活用して成長を促進することにある。安倍氏は最近の景気対策によって、そうした歓迎すべき方向に踏み出した」

上記のように論じた社説は、日本は東京オリンピックで意欲的な金メダル獲得数を打ち出しているが、長い年月の経済的沈滞( 
economic gloomを経て、2020年には野心を持って世界を迎え入れる日本の姿を目にしたいとしめくくる。 

まとめ:ここで、これまで観察したメディアの論調をまとめてみよう。メディアはまず、10年前に経済規模で世界のナンバースリーとなった日本に言及、スタグネーションに陥り相対的に凋落した日本は世界の悲劇でもあるとして、持続的成長政策に回帰するよう強く促す。次いで現在の日本は人口動態の危険水域に入ったと警告、高齢化を反映して労働市場は逼迫し、失業率も低下、企業は雇用政策の見直しや生き残りのためにオートメーション導入に迫られていると指摘する。日本政府は解決策のつとして、外国人労働者の誘致を試み、このため外国人子弟の教育が大きな問題となり、日本語教育が追い付いていないと述べ、その一方で政府は永住する移民の受け入れは考えていないと言明していると批判する。

他方、日本の明るい面にも目を向け、日本企業が活発にリストラを進めたために、国内でのM&A取引額が12年ぶりに記録を更新、勢いは、経営者がポートフォリオ改造と成長分野への集中が必要なことを理解しているため、2020年も続くと伝える。次いで日本の国防問題に目を向け、安倍内閣は米戦闘機の購入と国産戦闘機開発費を含む記録的な来年度国防予算案を承認し、自衛隊の国際的役割拡大にも積極的だと報じる。最期に2020年の日本に対して、第東京オリンピックは第回と同様、日本に誇りと再生をもたらすが、その後の進路が不明確だとし、安倍政権下で日本は上向いているが、五輪後の政治と経済が懸念だと指摘、政治的には、安倍首相は来年秋までに去就を決断する必要があると述べ、経済的には、インフレ目標の継続、財政政策による成長促進が肝要だと主張、2020年に長い経済的沈滞を経た日本が野心をもってオリンピックを挙行することに期待を示す。 

結び:冒頭のウォール・ストリート・ジャーナル社説が提起した問題に対して、日本は、どう対応してきたのか。経済的には、日本はこの年間、安倍首相の経済政策、いわゆうアベノミクスの下で再生に努力してきた。これは最期のフィナンシャル・タイムズ社説が指摘しているとおりである。しかしメディアは、この他にも幾つかの課題を提起する。すなわち、少子高齢化への対応、特に外国人労働者の誘致とその子弟の日本語教育問題、移民の受け入れやオートメーション推進の必要性、多額の予算計上に迫られている国防問題などである。さらにオリンピック後には、政治分野で安倍首相の去就と後継問題、経済で成長政策とデフレ問題への対応が依然として必要だと指摘する。こうしたメディアが挙げる問題の他にも、自衛隊の国際的役割拡大という課題と共に、世界の飢餓、貧困、開発途上国に対する支援などの国際貢献も求められるだろう。日本は10年前に世界第位の経済に後退した。2020年は、五輪開催という輝かしい年であると共に、ジャパン・アズ・ナンバースリーと称される国際社会の中での日本の地位をいかに向上させ、またそれに相応しい役割を果たすか、という挑戦に直面する年になるだろう。以上、新年に当たり日本の今を、いわば、そのとして観察した。今後も折にふれ日本の今をシリーズとして取り上げたい。


 (プロフィール)
前田 高昭 :金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。訳書に『チャイナCEO』他。『東アジアニュースレター』配信中。 

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