大きくする 標準 小さくする

最近の中国経済と政治情勢 ― 古希を迎えて曲がり角に立つ超大国

2019/11/07

英文メディアで読む 第78回
最近の中国経済と政治情勢

 ―古希を迎えて曲がり角に立つ超大国

         
               

 前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト。バベル翻訳大学院プロフェッサ-



 中国経済が急速に冷え込んでいる。10月18日付フィナンシャル・タイムズは「Slowing Chinese growth delivers blow to global economy(中国経済の成長鈍化、グローバル経済に打撃)」と題する記事で、中国国家統計局(National Bureau of Statistics)が第3四半期の経済状況について次のように発表したと報じる。早速、原文を読んで翻訳してみよう。



China’s economy grew at 6 per cent in the third quarter of 2019 compared with a year earlier, its slowest pace in about 30 years, delivering another blow to global growth and underlining many of the challenges facing President Xi Jinping. The country’s trade war with the US, slowing income growth and cooling manufacturing investment took a toll on the world’s second-largest economy between July and September, according to the figures released by the National Bureau of Statistics on Friday.


「中国経済は2019年第3四半期の成長率が前年同期比6パーセント増と、約30年間で最低の伸び率となり、グローバル経済の成長にさらなる打撃を与え、習近平国家主席が多くの課題に直面していることを明らかにした。国家統計局が金曜日に発表した数値によれば、中国と米国との貿易戦争、所得の伸びの鈍化と製造業による投資の冷え込みが7、9月間の世界第2位の経済に大きな打撃を与えた。」

二桁台成長率の維持は不可能:ただし記事は、経済成長率は1980年代後半の水準にまで落ち込んだが、経済規模は当時より遙かに大きく、90年代までの二桁台の成長率(double-digit rates)を維持するのは不可能だとコメントし、コメルツ銀行のシニア・エコノミストは、6パーセントは市場に対するストレステストだ、と語り、中国は6パーセントが禁断の底辺(untouchable bottom)ではないとのシグナルを発信しており、さらに若干低い成長率を受け入れる用意があるように思われる、と述べていると伝える。

世界経済の成長率も金融危機以後の最低へ:また記事は、国家統計局の発表に先立って、国際通貨基金(IMF)が今年の世界経済の成長率は世界的金融危機以後で最低となる3パーセントにまで低下するとの予想を発表したと報じ、米中貿易戦争やブレグジット、中東情勢などの不安定要因のため米欧で設備投資が控えられており、中国もこれに加わっているとのエコノミストの見方を紹介する。そのうえで、アナリストは固定資産投資の回復(rebound)を期待しているが、建設活動の伸びは第2四半期の年率5.5パーセントから第3四半期には同4.7パーセントへと大きく落ち込んだと伝える。

公式数字よりも悪い可能性がある中国経済:さらに記事は、中国の統計数字の正確性(veracity)について従来から疑問が付されており、実体は公式数字よりも悪い可能性があると指摘したうえで、習主席が直面する頭痛の種として真っ先に貿易戦争、次いで香港の政治的危機、豚コレラの大流行(outbreak of swinefever)を挙げる。このため中国の政治制度が急速に冷却する経済に耐えられるか、という論議が提起されていると報じる。 

上昇する失業率と不況に直面する産業界:さらに記事は、問題点として失業率の上昇、銀行の業態悪化、経済成長の恩恵を受けていない地方住民の前途への希望の後退などを挙げ、とりわけ社会の安定にとって重要な失業率に政府高官は注目していると伝える。最期に、輸出の落ち込みと共に内需(domestic demand)も弱くなっており、産業界は既に不況に陥っていると述べ、問題は政府が積極的な金融緩和なしに、いかに成長を支えるかにあるとのエコノミストの見解を紹介する。

打ち砕かれた政治的自由への期待:こうした厳しい経済情勢のなか、中国は10月1日に建国70周年を迎える。9月30日付ウォール・ストリート・ジャーナルは「Communist China Turns 70(日本版記事:【社説】中国建国70周年に寄せて)」と題する社説で、政治と経済のさらなる統制に向かえば反動(backlash)を招くと副題で警告する。社説は、改革開放以来の経済発展と天安門事件に至る歴史を簡単に振り返り、天安門事件の後、政治的自由を容認する可能性を看取させる時期があったが、期待は胡錦濤(Hu Jintao時代に打ち砕かれ始め、習近平国家主席が力を得るにつれ拍車がかかったと述べる。

改革を拒否する脆弱な輸出依存型経済モデル:また国内では経済改革が停滞しているが、それは党が金融の政治的支配(political control over finance)を続け、国有企業の改革を拒否しているためだと主張する。中国の輸出依存型経済モデルは、外国企業の情報窃盗やハゲタカ的行為(predatory behavior)に頼っているところが大きいと批判、そうした脆弱さがトランプ米大統領の政策で露呈したと述べ、また中国は、海外に資産の安全避難先(safe haven)を求める国民による資本逃避を止めるため、通貨規制(currency controls)を課さざるを得なくなっていると指摘する。
 
国内では監視国家の悪夢を再現:さらに社説は、中国国内で政府による管理が厳しさを増していると述べ、検閲システム「金盾(グレート・ファイアウォール)」の構築、インターネット検閲要員の大量雇用、新疆ウイグル自治区でのイスラム教文化と宗教排除の動きを挙げる。特に人工知能と顔認識(facial recognition)を使った国民監視は、ジョージ・オーウェルが描いた監視国家の悪夢を思い起こさせると非難する。
 
弱小隣国へのいじめと過剰債務の罠:社説はさらに中国による弱体な近隣国に対するいじめ(bullying、すなわち、南シナ海諸島の違法占拠や事実上の軍事基地化、「一帯一路」計画(Belt and Road initiativeのソフトパワーを通じて仕掛ける過剰な債務という罠(catch of excessive debtなどを批判し、米国が民主主義の混乱と文化的衰退で後退するなか、中国国民は、過去2世紀にわたる国内闘争や列強による侵略を経て21世紀を支配するのは中国だ、と信じるようになったと述べる。社説は最期に、米国は興隆する中国と共存する必要があるが、中国が国際規範に反すれば押し戻すべきだと主張、今後を大きく左右するのは中国共産党の行動だと強調する。

依然として謎に包まれた眠れる龍:こうした中国の政治経済の現状について、10月1日付ロサンゼルス・タイムズは社説「 At 70, communist China is a rising but irresponsible global superpower(70才を迎えた中国、無責任でグローバルな超大国として台頭)」の冒頭で、毛沢東(Mao Tse-tung)が中華人民共和国の樹立を宣言してから70年が経った今も、眠れる龍とみなされていた国は謎(conundrum)に包まれたままであり、現在も、富と貧困、民間企業と共産主義、前向きな起業家精神と後ろ向きの残忍な抑圧が奇妙に組み合わされた、急速に台頭する国家だと評する。

責任が伴う中国の台頭:次いで記事は、毛沢東から改革開放に至る歴史を振り返り、国家を「開放」してからの40年間に自由市場経済の要素を加えた「中国の特色ある社会主義」(“socialism with Chinese characteristics”)という考え方を生み出して大発展し、億万長者の数で世界第2位、物品輸出で世界最大の家となったと指摘する。しかし台頭する中国には責任が伴っていると述べ、期待される行動として、気候変動のリスク削減への応分の分担、そのために自国内での化石燃料(fossil fuels)からの離脱、寄生的な(parasitic)貿易慣行や弱小隣国との攻撃的な領土紛争の抑制を求め、さらに新疆ウイグル自治区でのイスラム少数民族の弾圧や習近平国家主席による反体制派やライバルの粛正を挙げ、習主席が改革開放から離れ、国民を西側とインターネットから隔離しようとしていると非難する。

中国の今後の動きを占う香港の危機:社説は、最も差し迫った危機は香港にあり、デモ隊は17週間にわたって警察と衝突を続けていると述べ、抗議は台湾や中国への犯罪人引き渡しを認める逃亡犯条例への挑戦として始まったが、エスカレートして暴力が激化、要求は「普遍的な参政権」(“universal suffrage”)や警察による残虐行為の調査、投獄されたデモ参加者への恩赦要求にまで拡大したと報じる。こうした要求の背後には、返還50年後の2047年に抑圧的な(repressive)中国に完全に支配された香港がどうなるか、という長期的見地からの懸念があると指摘、北京の中央政府が、いかに対処するか、すなわち、譲歩するのか、実力を行使するのか、それとも別の方法を考えるのか、が今後の中国に何を期待すべきか、についてのヒントになるだろうと論じる。   

香港抗議デモは最大の反中民主化運動:上記の香港情勢について10月17日付フィナンシャル・タイムズは「Inside the battle for Hongkong(香港の戦いの内幕)」と題する記事で、若者主導の抗議運動によって香港は永遠に変化したと評し、次のように伝える。 
6月に始まった抗議活動は、天安門事件以後の最大の反体制(insurrection)の民主化運動(pro-democracy movement)で、真の敵(actual foe)が中国であるのは周知の事実であり、香港を最悪の政治危機に陥れた。香港情勢が中国の将来に持つ意味は計り知れない。香港に民主的将来を認めれば、中国は多様性の受け入れを認めたことになり、弾圧すれば、アジアの金融ハブと西側との関係を共に危険にさらす。

分離意識が深化、金融センターの地位が後退する香港:しかし確かなことが一つある。最強の独裁国家に対する若者主導の運動(youth-led movement)が、香港を既に永遠に変えてしまったのだ。事態が街頭デモから反体制運動に発展するに伴い、中国本土から分離した存在という明確なアイデンティティが次第に深まったのである。中国にとって香港は、国際金融センターや中国と世界をつなぐゲートウェイとして価値があるが、最近の抗議デモによって、こうした評価が傷つき、経済もビジネス信頼感(business confidence)の低下や観光客の急減、小売売上高の落ち込みによって、世界的金融危機以後で初めてとなる不況に直面している。

誰よりも歴史の重要性を認識する習主席:こうした内外に重大な問題を抱えるなか、建国70年周年を迎えた中国について9月30日付英ガーディアンは社説「The Guardian view on the People’s Republic of China at 70: whose history?(70年を迎えた中華人民共和国、その歴史は誰のものか)」で、70年間にわたる共産党の支配は大いなる進歩をもたらしたが、代償は恐ろしいものだったと述べ、習近平主席は、毛沢東以来の指導者のうち誰よりも歴史の重要性を理解しており、権力掌握後間もなく同僚らに向かって、「歴史的ニヒリズム」は西側の民主主義と党の支配に対する実存的な脅威(existential threat)として同等だと警告したと報じる。

国家教育と歴史建設を強化する習体制:次いで、中国は先輩のソ連よりも長生きし、かつ西側諸国の経済を上回ったが、今は新たな課題に直面していると述べ、毛沢東の大躍進政策による飢餓や文化大革命による迫害、一人っ子政策、新疆ウイグル自治区でのイスラム教徒の弾圧などを挙げ、国民の多くが怒り、皮肉り、失望していると指摘する。そのうえで天安門事件以来、共産党は国家教育と歴史の建設を旧に倍して強化し、歴史の中心的役割は階級闘争ではなく、「国家の屈辱」に終止符を打つこととされたと述べ、この筋書きは、家族崩壊、目を覆うような腐敗、格差、環境破壊などの壮大な経済成長のコストに続いて、経済が減速し始め、米国との対立が大きくなるにつれて、ますます重要になったと論じる。

建国100周年を見据える習主席:さらに記事は、17週間に及ぶ抗議運動で揺れる香港に触れ、このような状況下で、党は歴史的メッセージをこれまで以上に強く発信しており、過去とは異なっているが、今はそれが独特の響きを轟かせていると述べ、今後の中国の動きについて次のように警告を発する。ここも原文を読んで翻訳してみよう。

The “people’s leader” has overseen growing repression, a resurgence of ideology, and is increasingly invoking the idea of struggle. China is seeking to reshape the international order once more. Xi is already looking ahead to the republic’s centenary, 30 years hence.

「『人民の指導者』は、抑圧の強化やイデオロギー復活の音頭を取り、闘争という概念を呼び覚まそうと注力している。中国は国際秩序の再構築を改めて目指しているのだ。習はすでに今から30年後の共和国の100周年を見据えている。」

まとめ:以上のように、最近の経済状況を伝えたフィナンシャル・タイムズは中国経済が30年前の成長水準に戻り、産業界は既に不況入りしたと分析、急速に冷却する経済に政治制度が耐えられるかとの問題が提起されていると伝える。ウォール・ストリート・ジャーナルも、経済改革の停滞を指摘、原因は国有企業改革の拒否にあるとし、輸出依存型経済モデルは外国企業への不正行為に頼っており、その脆弱性がトランプ米大統領の政策で露呈したと主張する。また党が政治と経済のさらなる統制に向かえば反動を招くと警告、政治については、国内での検閲強化や新疆ウイグル自治区でのイスラム教徒の弾圧、人工知能と顔認識を使った国民監視の強化、対外的には、南シナ海諸島の違法占拠と軍事基地化や「一帯一路」計画を通じて仕掛ける過剰債務の罠などを挙げて、建国70年を迎えた中国の内外政策を批判する。

 ロサンゼルス・タイムズは、「中国の特色を持つ社会主義」という考え方で大発展した新中国には、超大国としての責任が伴っていると主張し、気候変動のリスク削減や貿易慣行の見直し、領土紛争の抑制、新疆ウイグル自治区でのイスラム少数民族や反体制派の弾圧停止を求め、最も差し迫った危機は香港にあると指摘、中国政府の対応が、今後の中国に何を期待すべきか、のヒントになると論じる。フィナンシャル・タイムズは、香港の抗議デモについて、最大の反中民主化運動であり、街頭デモが反体制運動に拡大するに伴い、香港は中国本土から分離した存在という明確なアイデンティティを深めたと論じ、中国にとって香港は、国際金融センターや中国と世界をつなぐゲートウェイとして価値があったが、抗議デモによって評価が傷ついたと論評する。
最期にガーディアンは、鋭い歴史感覚をもつ習主席は就任以来、国家教育と歴史の建設に着手し、建国70周年の機会をとらえて国内では弾圧や抑圧の一段の強化とイデオロギーの復活を試みていると指摘、対外的には30年後の共和国100周年を見据えて国際秩序の再構築を目指しており、それが多方面に反響を呼び起こすと警告を発する。

結び:以上、主要メディアは最近の中国の経済政治情勢について、いずれも厳しい見方を示す。経済は米中貿易戦争や改革の遅れによって30年前の成長水準に戻ったと指摘、こうした急速に冷却する経済に政治制度が耐えられるかと問題提起する。また台頭する経済大国には責任が伴うにもかかわらず、それに相応しくない行動をとり、国際秩序の再構築を目指していると批判する。こうした批判や警告の対象となった分野は、環境、貿易慣行、人権、領土紛争などと幅広い。また地域も南シナ海、新疆ウイグル自治区、香港と多地域にわたる。特に抗議デモが反体制運動に発展し、本土分離のアイデンティティを深める香港は、中国指導部にとって冷却する経済と共に、その対応が正念場を迎えていると言えよう。古希を祝う中国は再び重大な曲がり角を迎えた。



 (プロフィール)
前田 高昭 :金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。訳書に『チャイナCEO』他。『東アジアニュースレター』配信中。 

編集部宛メールフォーム

お名前:必須

Eメールアドレス:必須

Eメールアドレス(確認用):必須
(確認の為、同じものをもう一度入力してください)

記事タイトル:必須


メッセージ:必須

ファイル添付:

記事一覧