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欧州中央銀行による超金融緩和政策の再開―渦巻く賛否両論と財政出動を迫る声

2019/10/07

英文メディアで読む 第77回
欧州中央銀行による超金融緩和政策の再開

 ―渦巻く賛否両論と財政出動を迫る声

         
               

 前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト。バベル翻訳大学院プロフェッサ-



 欧州中央銀行(以下、ECB)は9月12日、欧州経済の景気後退入りを回避するため、量的緩和政策を再開すると発表した。これによりECBは、毎月200億ユーロ程度の資産購入を無期限で実施し、民間銀行がECBに預け入れる準備預金の金利をマイナス0.4パーセントからマイナス0.5パーセントに引き下げ、銀行の企業向け融資に対する支援策の一部も再調整する。以下に主要メディアの論調と報道を紹介する。先ず概略を、次いで詳細をお伝えする。



概略:9月12日付フィナンシャル・タイムズ社説は、ドラギ総裁は今回の金融緩和政策の実効性を市場に納得させる必要があると主張、鍵は新たに導入したマイナス金利の階層システム(注1)にあると述べ、これが金融安定への懸念と銀行株価への圧力、政治によるマイナス金利反対を和らげると指摘する。また超金融緩和政策の復活と継続によってユーロ圏経済は成長減速やインフレから守られると述べ、グローバルな背景が悪化するなか、やり過ぎは、小出しよりも代償が大きいと考えられ、今回の施策に失望すべきでないと説く。金利に関するフォワードガイダンスも閾値の数字追加で強化されたとし、インフレ予想も、ドラギ総裁がインフレ目標と若干の行き過ぎの容認を再確認したことで低位定着が防止されたと指摘する。

 さらにフィナンシャル・タイムズは9月17日付社説で、今回のECB政策に対する反発は的外れだと断じ、特に超低金利にしびれを切らす大衆へのアピールやラガルドECB次期総裁への警告を狙ったと思われるオランダ、ドイツ、オーストリア中銀総裁の発言に触れて、ECB理事会メンバーは大衆迎合的なスローガンを支持するとみられる言動を控えるべきだと厳しく批判する。またユーロ圏経済は順調で刺激策は時期尚早との批判派の主張は、独りよがりの見方だと一蹴し、今年の経済見通しの度重なる下方修正、2パーセントのインフレ目標未達、米中貿易戦争、合意なきブレグジットのリスクなどを挙げ、ECBが慎重過ぎるぐらい慎重になるのは、当然だと擁護する。

 他方、ウォール・ストリート・ジャーナル社説は、欧州では金融政策が唯一の経済的手段となっていると述べ、ドラギ総裁は出口戦略のないまま、元の金融政策に戻ってしまったと懸念を表明する。またマイナス金利の階層化は、将来の利下げに向けて政治的環境を整える意味があると指摘するが、マイナス金利自体はインフレ目標達成にも、景気回復にも効果があまりないと述べ、景気が回復しなければ、ラガルド氏はどのようにして金利をプラス圏に戻すのかと懸念を深める。量的緩和策の復活についても、ECBが将来ソブリン・デフォルトに巻き込まれた場合、どのように対応すべきか、という問題をラガルド氏に丸投げしたと批判する。

 こうした論調を踏まえるかのように、ブルームバーグ社説は、ECBは最新の金融刺激策で限界に突き当たり、政府による大型財政刺激策が早急に求められていると主張、その仕事はドイツのメルケル首相に突き付けられたと指摘する。マイナス金利は、過去において銀行による大量融資を生み出さず、その深堀りはむしろ融資減少をもたらす可能性があると主張、債券購入は、独や北欧諸国の銀行筋は政府債務の隠れたファイナンスと見做し容認できないと述べていると批判する。またガーディアン社説も、欧州が直面する政治面でのポピュリズムの攻勢やユーロ圏経済の主たる問題である信用需要の不足に対処するために、財政政策の力を借りる必要があると強調する。

政策の実効性について市場を納得させる必要あり:次に各メディアの論調の詳細を観察する。9月11日付フィナンシャル・タイムズは社説「
Draghi must deliver his parting shot of stimulus (ドラギ氏、退任を前にして発表した景気刺激策に実効性をもたせる必要あり)」で、ドラギ総裁はこの金融緩和政策に効果があることを市場に納得させなければならないと主張する。社説は、総裁としての8年間の任期で今回が最も重要な理事会として位置付けられると述べ、超金融緩和政策(ultra-loose monetary policy)が今後何年間も続き、それによってユーロ圏経済が成長減速やインフレから守られることを示したからだと指摘する。ただし市場の期待は高かったが、ECB理事会は必ずしも包括的緩和策(comprehensive easing)の必要性については一枚岩ではなかったとコメントする。

銀行収益への打撃を緩和した新階層システム:ただし社説は、グローバルな背景(global backdrop)が悪化するなか、やり過ぎは、小出しよりも代償が大きいと考えられ、今回の施策に失望すべきでないと擁護する。今回の対策は16年3月以来となる緩和策の復活であり、マイナス金利は深堀りされた(drop deeper)が、新しい階層システム(tiered system)により銀行収益への打撃もある程度緩和されるだろうと述べる。社説は、ECBは今回の緩和策の実効性を市場に納得させなければならないが、鍵はマイナス金利による金利マージンの縮小を防止する、この階層システムにあると指摘、これが金融安定への懸念(financial stability concerns)と銀行株価への圧力、さらには預金者への損失転嫁を懸念する政治の(マイナス金利への)反対意見を和らげると主張する。

強化された金利のフォワードガイダンス:また金利に関するフォワードガイダンスも閾値(threshold)の数字が追加された(注2)ことで強化されたと述べ、ラガルド次期総裁に他の諸問題に集中する余裕を与えたとコメントする。さらに米連邦準備理事会(FRB)も利下げを開始していることに触れ、ECBが穏やかな緩和策、すなわち利下げだけで、資産購入なし、という政策を打ち出していれば、市場は失望し、ユーロ高と債券イールドの上昇という事態に遭遇しただろうと述べる。

インフレ予想の低位定着の防止に役立ったドラギ宣言:社説は最期にインフレ問題に触れ、ドラギ総裁は、2パーセントの低い方に近いというインフレ目標(inflation target of below, but close to 2 per cent)と行き過ぎ(overshoot)をある程度容認する用意があることを再度宣言したことで、インフレ予想の低位定着を防止するのに役立ったと指摘する。そしてユーロ圏には差し迫った危機はないが、先行きに甚大なリスクがあり、ドラギはこの最期の機会を活用して全力で対処すべきだと強調する。

ECB理事会は大衆迎合的スローガンに組みしてはならない:さらにフィナンシャル・タイムズは9月17日付の「Backlash against ECB stimulus is misplaced(ECB刺激策に対する反発は的外れ)」と題する社説で、ECB理事会(Governing council)は大衆迎合的な(populist)スローガンを支持するリスクを冒してはならないと主張、ドラギ総裁は過去8年間の任期中、頻繁に批判されてきたが、その正しさが証明されるのが常だったと述べ、ECBの金融刺激策を擁護する論調を概略次のように展開する。

疑問を提起されたECB政策:ECBが先週発表したマイナス金利の深堀りと資産購入再開(restart)を骨子とする金融緩和策に対して、直ちに激しい反発が起きた。ドイツのタブロイド日刊紙ビルドは、ドラギ総裁を吸血鬼のドラキュラ伯爵に喩えて、ドイツの貯蓄者の預金を吸い上げる「ドラギラ伯爵」と表現し、オランダの大衆紙テレグラフは,ドラギ総裁はユーロ圏諸国の怒りを無視する「独裁主義者」(“authoritarian”)ではないかと非難したが、ドラギ氏の8年間にわたる任期でよく聞かされてきたことだ。金利は史上最低の水準に引き下げられて貯蓄者の怒りを買い、あるいはまた、ECBは資産市場を歪曲し、ゾンビ企業を生き長らえさせたと非難されてきた。

無益で不要なECB批判:しかし今回は、従来と異なり多数の理事会の同僚がメディアの批判に加わった。オランダ中央銀行のクラース・クノット総裁は理事会の翌日に声明を発して「過剰」(“excessive”)だと述べ、ブンデスバンクのワイドマン総裁は「行き過ぎ」(“overshooting the mark”)、オーストリア国立銀行(中銀)のロバート・ホルツマン総裁は「おそらく、間違いだ」(“possible mistake”)とそれぞれ批判した。ただし、こうした公の批判と対照的に、フランス出身の2人の理事会メンバーは会合前には刺激策の必要性について疑問を呈したが、その後は理事会全体の決定を支持している。中銀にとって何が正しい行動か、という命題に関する議論(debate)は欠かせないが、理事会メンバーが会合後、24時間も経たないうちに批判的声明を発するのは無益(unhelpful)で不要だ。  
 

大衆迎合的スローガンの容認は差し控えるべし:こう論じた社説は、上記の中銀総裁らに向けて、改めて以下のように警告を発する。ここは原文を読んで翻訳してみよう。

Whether their dissenting comments were designed to appeal to domestic audiences fed up with low interest rates or to fire a warning shot ahead of Christine Lagarde taking over from Mr Draghi, central bankers should not play to the gallery. There is a legitimate space for informed criticism of ECB decisions, but governing council members should not be seen to endorse simplistic populist slogans. 

 「総裁らの反対意見の意図が、低金利にうんざりした国内大衆へのアピール、あるいはクリスティーヌ・ラガルドがドラギ氏を引き継ぐ前に発した警告であったとしても、中央銀行総裁は大衆受けを狙うようなことをすべきではない。ECBの決定に対する知識経験に基づく批判はもっともなことだが、理事会メンバーは、安易な大衆迎合的なスローガンを容認するとみられる行動は差し控えるべきだ」
 

慎重過ぎるぐらい慎重になるのは当然:社説はさらに、批判派は、ユーロ圏経済は設備がフル稼働し、賃金も上昇、経済は全く悪くないと指摘し、ECBが刺激策を打ち出すのは時期尚早だと主張するが、独りよがりの(complacent)見方だと述べ、今年の経済見通しについてECBは何度も下方修正し、インフレもECB目標の2パーセントを下回っていること、さらに米中貿易戦争や合意なきブレグジットのリスクなどを挙げ、ECBが慎重過ぎるぐらい慎重になる(erring on the side of caution)のは、当然だと強調する。

金融政策に頼る欧州経済:こうした見方に対して9月12日付ウォール・ストリート・ジャーナルは「Draghi Leaves With No Exit (日本版記事:【社説】出口戦略なしに退任するドラギ氏)」と題する社説で、近頃の欧州では、金融政策が唯一の経済的手段となっていると述べ、ECBのドラギ総裁は今年秋に在任期間を終える頃には、マイナス金利と量的緩和の解消に向かっていたと考えていたはずだが、出口戦略なしで元の金融政策に戻ってしまったと批判する。 

将来の利下げのために政治的環境を整えるマイナス金利の階層化:そうしたなか、ECBが打ち出したマイナス金利の深堀りについて社説は、ECBは銀行がECBに預ける準備金にかかる金利を「階層化」し(“tier”)、一部をマイナス金利の対象外にするとも発表したが、これはドイツ欧州北部の各国が、ECBが毎年マイナス金利から得ている約75億ユーロの大半を、準備金の多い自国の銀行が支払っていると不満を訴えていたことに応えるもので、将来の利下げのために必要な政治的環境(political condition)を整えるものだと指摘、これはドラギ氏の後任であるクリスティーヌ・ラガルド氏を助けるはずだと述べる。

効果が期待できないマイナス金利:マイナス金利について、ECB専任理事兼首席エコノミストのフィリップ・レーン氏は最近の演説で、ECBのマイナス金利がユーロ圏のインフレ率に及ぼした影響は多分年間でわずか0.1パーセント程度だったと認めたと述べ、マイナス金利は日本でもそれほど効果をもたらしていない指摘、欧州の景気が回復しなければ、ラガルド氏はどのように金利をプラス圏に戻すのかと懸念を示す。

量的緩和策にはソブリン・デフォルトのリスクあり:さらに社説は、ラガルド次期総裁にとって迫りくる問題として、量的緩和が続くなか、ECBは(ユーロ圏の)各国政府債務をますます多く購入する見通しであることを挙げる。ECBは1機関の債券購入限度を33パーセントに設定しており、ドラギ総裁はこの購入限度までかなりの余地があるとの見解を明らかにしたが、ECBが将来ソブリン・デフォルトに巻き込まれた場合、どのように対応すべきか、という問題をラガルド氏に丸投げしたと批判する。

評価に値するドラギ総裁の遺産:ただし社説は最期に、ドラギ総裁の最も重要なレガシー(遺産)として、ユーロ圏の枠組みが依然としてしっかりしている(intact)ことを挙げ、通貨ユーロとユーロ圏加盟国が経験した困難を考えると、これは驚くべき業績だと論評する。

限界に突き当たったECBの金融政策:こうしたウォール・ストリート・ジャーナルの批判を踏まえるかのように、9月13日付ブルームバーグは社説「
Draghi’s Last Gasp Won’t Be Enough(十分でなかったドラギ総裁の最期のあがき)」で、ECBは最新の金融刺激策で限界に突き当たり、政府の支援が必要になったと論じる。社説は、ドラギ総裁の施策は最後を飾る仕事といえそうもなく、金融政策が限界に達したことを思い出させ、政治家が迅速に大型財政刺激策を打ち出して役割を果たすことが求められたと主張、以後の仕事はドイツのメルケル首相に突き付けられたと指摘する。

不況入りが予想されるドイツ経済ユーロ圏経済の現状について社説は、インフレ率は目標とする2パーセントの僅か半分程度で推移し、ECBが予想する今年の経済成長率も1.1パーセント程度に過ぎず、ドイツは第2四半期に次いで今四半期もマイナス成長となり不況に落ち込むと予想されていると警告する。米中貿易戦争とブレグジットがさらに事態を悪化させるだろうと述べ、このためECBはマイナス金利を引き下げ、階層システムを導入、また債券購入を開始しようとしていると指摘する。

融資を減少させるマイナス金利、政府債務をファイナンスする債券購入:さらに社説は、マイナス金利は過去において銀行による大量融資を生み出さず、マイナス金利の深堀りはむしろ融資減少をもたらす可能性があるとし、加えて債券購入については、ドイツや北欧諸国の銀行筋は政府債務の隠れた(covert)ファイナンスと見做し容認できないと主張していると報じる。

 ドイツ政府による財政政策が役割を果たすべき時:そのうえで社説は、景気対策は財政政策による必要があると述べ、特に、財政に余裕があるドイツ政府の支出増が最も適切だと主張する。ここは原文を読んで翻訳してみよう。


Where stimulus is needed — as in Europe — it needs to come through fiscal policy. Governments with the space to act need to come to the aid of central banks by taxing less or spending more. In the euro zone, Germany is best placed: Its budget is in surplus, and it could borrow at negative rates, in effect getting paid to spend money.

 「景気刺激策を必要とする、例えば、欧州のような地域では、それは財政政策を通じて実現する必要がある。動く余地のある政府は減税もしくは支出増によって、中央銀行の支援に駆けつける必要があるのだ。ユーロ圏では、ドイツが最も相応しい立場にある。予算は黒字で、マイナス金利での借り入れが可能であり、実質的に、お金を使うことで支払いを受けるのだ」

 こう論じた社説は最期に、ドラギ総裁もECB理事会での数少ないコンセンサスとして、財政政策が役割を果たすべき時がきたことを挙げていると述べ、まさにその通りだ、と強調する。


ポピュリズムの脅威に財政政策で対処すべし:10月1日付英ガーディアンも社説「The Guardian view on eurozone populism: fight it with fiscal firepower(ユーロ圏のポピュリズムには、財政の火力で戦おう)」で、ポピュリズムの脅威に対処するために財政政策が必要だと訴えるドラギ総裁の後継者、クリスティーヌ・ラガルド現国際通貨基金(IMF)専務理事のコメントを引用し、ポピュリズムの動きを批判すると共に、その脅威に対処するために財政出動が必要だと概略次のとおり論じる。
 

低迷する信用需要の喚起が政府の役割:欧州の不況入りリスクが高まっているのは明らかだ。ユーロ圏製造業は、この7年間で最悪の打撃を受け、インフレは3年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ドラギ氏は数年間、金融政策を通じて低迷するユーロ圏経済のてこ入れに努力し、先月にはマイナス金利の引き下げと債券買い取りプログラムの再開を決定した。しかしユーロ圏の問題は、エコノミストが指摘するように、「信用の伸び(credit growth)の低迷と、それがファイナンスの供給コストよりも信用できる借り手(creditworthy borrower)からの借り入れ需要(demand)不足に起因すること」にある。これは政府が需要の喚起のために介入することで一部解決できる。ドラギ氏が、もはや金融政策だけでは持ちこたえられない(tenable)と語り、ユーロ圏の需要持続のために財政政策が主たる経済手段となるべきだ、と呼びかけたのが正しいのだ。

ドイツ流の 財政規則を緩めるべし:次いで社説は、ポピュリズムのEUに対する脅威に触れ、政府はもっと人々の不安感(angst)や混乱(dislocation)に対して寄り添うべきだと主張し、ドラギ氏の後任者ラガルドは財政政策で「ポピュリズムの脅威に対処する必要がある」と語り、EU内ではフランスのマクロンが2年前、「欧州の財政政策には制約があり過ぎ、我が国の失業者が代償を支払っている」と認めたが、これは評価に値すると述べる。マクロン氏は国内で痛みを伴う改革を実行しているが、ユーロ圏では財政力を活用した数千億ユーロ規模の刺激策というバズーカ砲(bazooka)の実施について合意を得ることに失敗し、ユーロ諸国が6月に合意したのは170億ユーロの豆鉄砲(peashooter)というべき刺激策だったと述べ、借金国に対するドイツ流の 煩わしい財政規則(fiscal rules)を緩めた方がよいと主張する。

結び:以上、今回のECBによる超金融緩和政策の再開について、主要メデイアの論調をみてきた。超金融緩和の復活と継続がユーロ圏経済を成長減速やインフレから守るという擁護論の主張は正しく、超低金利を非難した一部中銀総裁の発言を、大衆受けやラガルドECB次期総裁への警告を狙ったものとする批判は傾聴に値する。EUの現在の経済状態や現下の世界情勢からみて、ECBが慎重過ぎるぐらい慎重になるのは当然とする見方も正鵠を得ていよう。しかし、批判論が主張するように、金融政策が限界に達し、政府が大型財政刺激策を打ち出すべきタイミングにあり、とりわけドイツ政府が財政出動を決断すべき時期に来ているのは間違いない。またポピュリズムの脅威に対処するために財政政策が必要だとのラガルド次期総裁の提言は、「大衆迎合」に「大きな政府」で対抗しようとする提案として極めて注目に値する。

 ドラギ総裁は、確かに出口を示さないまま金融緩和政策の再開に踏み切った。しかし、マイナス金利の階層化やフォワードガイダンスに閾値導入などの新機軸も打ち出しており、それなりの効果が期待される。とはいえ、金融政策が唯一の経済的手段となっているとの批判や金融政策だけでは不十分との指摘は正当といえよう。当面、ドラギ総裁の最期の政策の実効性を見極めるとしても、加盟諸国の政府、特にドイツ政府による財政出動の動きと、経験豊かなラガルド新総裁の采配に注目したい。ラガルド氏は上述のように、ポピュリズムの脅威に対する財政政策の重要性を訴えている。これは国際通貨基金(IMF)専務理事を務めて財政政策の得失を熟知している同氏ならではの提言といえる。

注1:9月13日付ウォール・ストリート・ジャーナル記事は、次のように伝える。
 マイナス金利は銀行には痛みをもたらす。量的緩和策(QE)が今後再開されることを踏まえるとなおさらだ。QEが実施されると、銀行が中銀に預け入れる準備預金はこれまで以上に増えることになる。金利がマイナス圏にあると、準備預金は銀行にとっては負担だ。ABNアムロは、中銀預金金利がマイナス0.5%に引き下げられたことで、銀行のコストが年間90億ユーロ超に上ると推定している。コスト負担が増大すれば、銀行にとってはコストを相殺しようと、貸出金利を引き上げる動機が働く。そうなれば借り入れコストを引き下げて経済を支援しようとするECBの取り組みを損ないかねない。ECBはこれに対処するため、中銀預金金利を2段階の階層構造とした。所要準備と、所要準備の6倍の超過準備については、支払いを求められることはない。これを超える準備については、マイナス金利による手数料を支払う必要がある。ABNアムロの分析では、超過準備の預け入れコストはこれで、約56億ユーロにとどまるとみられている。 

注2:同じくウォール・ストリート・ジャーナル記事は、次のように伝える。
 一部のエコノミストによると、この日の最大のサプライズは、ECBのフォワードガイダンス変更で、超緩和政策の終了時期に関する文言だった。フォワードガイダンスとは、2008年以降、中銀当局者の発言の一部が、世界的に政策措置そのものだと受け止められるようになったもので、消費者や投資家のインフレ期待に働きかける狙いがある。ドラギ総裁は「今後、域内の物価圧力が高まっていく」ことを確実にするため、インフレ率が2%弱の目標水準に「しっかりと収れん」することを望むと語った。この発言には、低水準に張り付いているインフレ率を押し上げる狙いがあるようだ。
                                  



 (プロフィール)
前田 高昭 :金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。訳書に『チャイナCEO』他。『東アジアニュースレター』配信中。 

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