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悪化する日韓関係  ― 日本政府に集中する批判、米韓政府にも厳しい目

2019/09/07

英文メディアで読む 第76回
 悪化する日韓関係

―日本政府に集中する批判、米韓政府にも厳しい目  

         
               

 前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト。バベル翻訳大学院プロフェッサ-



 韓国の大法院(最高裁)は昨年10月、日本製鉄などの日本企業に対して元徴用工に補償するよう命じ、その資産の差し押さえを認める判決を下した。日本政府は日韓請求権協定に違反するとして撤回を要求、協定に基づく協議やそれで解決できない場合の仲裁委員会の設置を求めたが、韓国政府は応じず、日本企業に実害が生じる可能性が出てきた。両国間の溝が深まるなか、日本政府は7月4日、半導体製造に必要な3種類の化学品の韓国向け輸出を制限する措置を発動(注1)、軍事転用の恐れが低い製品を自由に輸出できるホワイト国から韓国を除くことも決定した(注2)。韓国も同様措置で対抗し、8月23日には両国間で軍事情報の共有を約する軍事情報包括保護協定の廃棄を発表、関係悪化は経済、貿易から安全保障分野にまで拡大した。こうした日韓関係について主要英文メディアも幅広く報道し、論評している。以下に概略と次いで詳細をお伝えする。

概略:メディアは一連の動きを、ハイテク業界と日韓関係にナショナリズムの波が襲来、あるいは、アジアでの歴史問題の人質に取られたグローバルなハイテク産業、さらには、トランプ米大統領の経済パートナー虐待モデルが拡散する兆候などと論評、日韓貿易紛争がグローバルなサプライチェーンに及ぼす影響にも懸念を示す。


 日本政府については、元徴用工問題に関する韓国の判決に激怒し、報復として輸出制限を発動したのは明らかだと指摘、また韓国による化学物質の北朝鮮への流出容認という日本の言い分は信じ難いと一蹴し、政治的紛争に商業上の武器を持ち込んだと批判する。また米中貿易戦争によってグローバルなサプライチェーンが攻撃にさらされている地政学的文脈からみて、日本の決定は無鉄砲な自傷行為で、経済的に先見性に欠け、近視眼的であり、米中の弱い者いじめ戦術とも共鳴し、安倍氏がグローバルな貿易秩序を強化したと賞賛されていただけに特に偽善的だと非難する。

 ただし、日韓の立場には互いに相応の理由があるのも真実だとして、元徴用工問題で文在寅大統領は第3国の裁定を求める安倍氏の呼びかけを拒否し、代わりに裁判所の裁定を支払う共同基金の積み立てを提案しているが、元従軍慰安婦の補償のために設立した基金を廃止したことで、共同基金構想を自ら損なったと指摘する。

 また韓国政府による日韓軍事情報包括保護協定の廃棄については、隣国の脅威にさらされている韓国の文政権は、直面するリスクの軽減が最優先の目標のはずだが、それとは正反対の決定をしたと批判、根源は日本の植民地支配と強制労働問題にあるが、事態をこじらせた責任は、紛争停止に向け早期に動くべきだった米政府にもあるとし、トランプ大統領は人気取りのため「安全保障」を悪用し、関税を引き上げ、グローバルな貿易システムやWTOルールを破壊するよう他国を誘導していると非難、日韓政府は、こうした米政府の助けを借りるまでもなく、関係修復を急ぐべきだと主張する。

 今後の対応について、まだ事態は沈静化できるとし、世界貿易機関(WTO)による解決の余地に期待を示すと共に双方に妥協を求め、日本には輸出管理強化に関する対話開始とその撤廃、追加対策の見送り、韓国には強制労働問題に関する仲裁への同意を挙げ、紛争を始めた安倍氏が最初に動くべきだと主張する。軍事情報協定については、韓国政府は廃棄の決定を翻すべきであり、それには元徴用工など根源にある歴史問題の解決が欠かせず、そのために米国は外交圧力を強化すべきだと主張する。

ハイテク業界にナショナリスト的シフトを示す兆し:次に主要メディアの報道や論調の詳細をみていく。まず7月4日付ウォール・ストリート・ジャーナルは、ナショナリズムの波がハイテク業界と日韓に襲ってきたと報じる。記事は、日本が韓国への半導体材料などの輸出規制に踏み切ったのを受け、韓国は内製化を進めており、これはハイテク業界のナショナリスト的シフトを示す最新の兆しだと指摘、韓国は7月3日、ハイテク部品の生産に使う素材や装置に対する年間1兆ウォン(約920億円)の投資を検討していることを明らかにしたと伝える。

半導体サプライチェーンでの韓国自立には数年かかる:さらに記事は、日本の規制で影響を受けるとみられるメモリーチップ世界大手のサムスン電子およびSKハイニックスにとって、韓国政府の投資は即効薬にはならないだろうが、長期的には、主要素材の代替調達先を両社に提供するかもしれないと述べ、業界専門家は、日本が主要技術で先んじていることから、韓国が半導体生産のサプライチェーンで自立するには数年かかるとの見方を示したと報じる。


トランプ・モデルの拡散を示す日韓紛争:7月18日付エコノミスト誌は、History wars A trade dispute between Japan and South Korea has Trumpian echoes(歴史戦争、トランプと共鳴する日韓貿易紛争)」と題する社説で、グローバルなハイテク産業がアジアで歴史問題の人質に取られたと指摘、日韓の争い(brawl)はトランプ氏が引き起こした混乱と同程度の打撃を及し、その経済パートナーを虐待(abusing)するモデルが拡散する兆候も示していると評する。

グローバルなサプライチェーンに及ぶ被害:社説は、日韓の緊張は日本が韓国を植民地化した1世紀前に遡ると述べ、元徴用工問題について日本は1965年の日韓請求権協定によって解決されたと信じていたために、この判決に激怒したincensedと報じる。日本は韓国向け輸出を制限した化学物質の90パーセントを生産し、そのうち4億ドル近くを韓国に輸出、韓国はそれらから電子製品に不可欠な半導体を製造しており、韓国は半導体で世界を支配するメーカーであるため、化学物質を絶たれると被害はグローバルなサプライチェーンに及ぶだろうと懸念を表明する。

経済的に先見性に欠け、近視眼的な日本の決定:また社説は、日本がさらに軍事使用関連の850品目の韓国向け輸出に個別認可制の導入を検討していると述べ、日韓貿易が年間800億ドルと英仏間を超える規模にあり、両国は瀬戸際戦術を止めるべきだと主張、日本の決定は経済的に先見性に欠け、近視眼的だと批判する。社説は、日本自身が、そうした制限の逆の立場におかれたことがあり、それをわきまえて然るべきだとし、中国が2011年に希少金属の対日輸出を制限した際、日本は自身の鉱山への投資によって対応し、中国の市場シェアは低下したと述べ、韓国政府も既に国内での化学物質製造の育成計画を論議していると指摘する。


地政学的文脈から見ても無鉄砲な日本の自傷行為:さらに社説は、韓国企業は認可を得れば、化学物質を購入できると日本は説明しているが、禁輸の脅威は一度発動されると、払いのけるのが難しくなると述べ、視野を広げて、地政学的文脈geopolitical contextからみても、日韓企業が米国の関税回避のために中国に代わる生産拠点を懸命に探し回るなど、グローバルなサプライチェーンが攻撃にさらされている現状では、日本の行為は自傷的self-harmで無鉄砲だと批判する。

頼りにならない米政府と信じ難い日本の輸出制限根拠:関係修復は最終的には日韓にかかっているとし、米国は外交で権益が弱まり役に立たなくなっており、加えてトランプ氏は安全保障を持ち出して政治的紛争で貿易を武器化することを日常茶飯事にしているとコメントする。日本のメディアは、韓国が敏感な化学物質を北朝鮮に出荷するのを容認していると示唆するが、信じ難いことだと述べ、しかしこれが輸出制限を擁護する主たる根拠だと指摘する。

未だ沈静化できる事態:記事は最期に、商業的被害commercial damageは今のところ限定されており事態は沈静化(defuse)できると述べ、日本は輸出制限が好ましくないことに気づいており、他の貿易相手からの圧力に屈しやすいと指摘、両国は世界貿易機関(WTO)で論議しようとしているので、グローバルな貿易システムが緊張を和らげられるか、あるいは、サプライチェーンが兵器化され、貿易が政治の延長になる新たな御し難い(mean)秩序に取って代わられてしまうのか、のテストになろうと述べる。

絶望的な日韓貿易戦争:7月22日付ブルームバーグ社説「Abe’s Trade War With South Korea Is Hopeless希望なき安倍首相の韓国との貿易戦争)」で、政治的紛争に商業上の武器(commercial weapons)を持ち込むべきでなかったとし、今は妥協する必要があると主張、概略次のように論じる。 
 参院選の勝利で多大な政治的影響力を得た安倍首相は、真っ先に韓国に仕掛けた馬鹿げた貿易戦争から日本を救い出すべきだ。安倍政権は今月初、半導体やスマホ・ディスプレイの生産に不可欠な化学物質の対韓輸出を制限した。これにより緊密につながるサプライチェーンと関連品目が、それぞれ崩壊と価格上昇の脅威にさらされた。

輸出制限は韓国判決への報復措置、ホワイトリスト除外で混乱拡大:日本政府関係者は、ハイテク製品が非合法に北朝鮮に輸出されるのを防止する措置と主張しているが、植民地時代の強制労働者(laborers forced to work for Japanese companies during the colonial period)に補償を命じた韓国法廷の判決に対する報復を意図していることは明らかだ。今や、双方がそれぞれの立場で罠に落ち込んでいる。日本は国交を回復した1965年の条約で、韓国に対し5億ドルを援助資金や低利融資で供与し、全ての補償請求を「完全かつ最終的に」解決したと強く主張する。韓国は、第3国による裁定を求める安倍氏の呼びかけを拒否し、代わりに裁判所の裁定(court awards)を支払うために共同基金の積み立てを提案している。仲介役の米国の動きは鈍く、日本が韓国を今週中にも輸出管理のホワイトリストから除外することで紛争は拡大しそうだ。そうなると現在の制限措置よりもはるかに幅広い混乱が生じ、韓国内で投資と雇用が縮小する可能性がある。

日韓の立場には互いに相応の理由あり:両国が、お互いに不当な扱いを受けたと感じる(aggrieved)のには、相応の理由があるのは間違いない。文在寅大統領は、前任者が元「従軍慰安婦」( “comfort women” )の補償問題を解決しようとした協定を廃止したことで、共同基金を推す主張を損なってしまった。その決定は、いくら謝罪や補償をしても十分ということはない、という日本でよくきかれる話(narrative, common in Japan)をいっそう煽るだけとなった。

安倍首相の行動は弱い者いじめ戦術と共鳴し、かつ偽善的:こう述べた記事は、安倍首相について以下のように厳しく批判する。ここは原文を読んで翻訳してみよう。


Abe, for his part, is abusing trade measures to resolve a political dispute. His move echoes the bullying tactics favored by China and U.S. President Donald Trump. It’s especially hypocritical for a leader who had, till now, won well-deserved plaudits for strengthening the global trading order.

「安倍氏はといえば、貿易対策を乱用し、政治的紛争を解決しようとしている。同氏の動きは、中国とドナルド・トランプ米大統領が好む弱い者いじめ戦術と共鳴している。これまでグローバルな貿易秩序を強化しているとして、十分それに値する賛辞を獲得していた指導者であるだけに、とりわけ偽善的なのだ」

安倍氏の評価のみならず、安保関係を損なうリスク:さらに社説は、打撃は安倍氏の評価reputation)にとどまらず、日本のサプライヤーが市場シェアと信用を失うと指摘、また日本が韓国をホワイトリストから外せば、韓国が報復に出るのは疑いなく、すでに日本製品不買運動(boycotts )も進行中で、高まる緊張は安保関係(security ties)を損なうリスクがあると懸念を表明する。さらに、安倍氏が限定的とはいえ貿易協定の締結を求めるトランプ米政権との関係を不必要に複雑にしかねない、と警告する。

双方に妥協が必要、最初に動くべきは安倍首相:社説は最期に、双方の妥協が必要なことは明白だとし、次ぎのような解決策を提案する。ここも原文を読んで翻訳してみよう。


Japan should lift the new export controls and resist adding more, while South Korea should agree to arbitration over the forced-labor issue. Having started this fight, and having safely survived the elections, Abe should make the first move.

「日本は輸出管理を撤廃し、追加対策を見送るべきだ。同時に、韓国は強制労働問題に関する仲裁に同意すべきである。この紛争を始めて、選挙を無事に乗り切った安倍氏が最初に動くべきだ」

簡単に癒えない歴史問題、双方の創造的な解決努力が必要:社説は、米国の役割について、北朝鮮との和平交渉で米国の支援を絶対に必要としている文在寅大統領に対して、米国は迅速にそれに報いる(swiftly reciprocates)ことを確約するよう促す。さらに歴史問題について、かくも痛みが深い問題は簡単に癒えないことは当然であり、文氏も安倍氏も、彼らの仕事が緊張の抑制にあり、扇動ではないことに共に思いをいたすべきだと述べ、双方が創造的な解決を心して探るべきだと主張する。

韓国、日韓軍事情報包括保護協定を破棄:こうしたなか、韓国政府は8月に入り、日韓間で軍事機密情報の交換と保護を約す軍事情報包括保護協定を破棄することを決定した。これにより両国の対立は安全保障分野にも波及することになった。8月22日付ニューヨーク・タイムズは早速、社説「Japan, South Korea and a Rupture on the Pacific Rim(日本、韓国と環太平洋の断絶)」で、日韓政府の対応を批判、特に日本が打ち出した対韓輸出管理強化を非難するとともに、同盟国の対立の悪化を放置したとしてトランプ米政権を厳しく批判する。

根源は日本の植民地支配と強制労働問題:社説は、今回の韓国政府決定は全て日本による過去の植民地支配に遡る敵対意識によるとし、ここまでこじれさせた(putrefy)のは、トランプ大統領の貿易と同盟国に対する姿勢が大きく(in large measure)影響していると主張する。日本の植民地支配の具体例として性奴隷(sex slaves )と強制労働者(forced laborers)を挙げ、こうした敵対意識の一断面として、生き残り強制労働者に対する韓国の補償要求があると述べ、今回の紛争燃え上がり(flare-up)の契機は、韓国法廷が主要日本企業に対して金銭的賠償(monetary amends)を要求した判決にあると指摘する。

紛争停止に向け早期に動くべきだった米政府:韓国が補償の取り立てに動くと、日本は報復(retaliation)に出て3種類の化学物質の韓国向け輸出を制限し、これについて日本は韓国が軍事的に転用できる化学物質を適切に取り扱っていないと説明、さらに悪いことに8月2日、信頼できる貿易相手国のホワイトリストから韓国を除外すると発表、激怒した韓国は、日本製品の不買運動を含む反日運動に動き、続いて軍事情報の共有を破棄した、と経緯を説明する。社説は、こうした動きは日韓の経済、安保だけでなく、地域における米国の利益に打撃を与えると述べ、米政府はもっと早期に介入し、紛争を止めさせるべきだったが、トランプ米政権はほとんど関心を示さなかったと非難する。

人気取りのため「安全保障」を悪用するトランプ大統領:トランプ氏は人気取りのため「安全保障」を悪用し、敵味方双方の関税を引き上げ、グローバルな貿易システムやWTOルールを破壊するよう他国を誘導し、さらに同盟国を侮辱して環太平洋経済連携協定(TPP)を破棄し、金正恩委員長との首脳会談の栄光を守るために北朝鮮のミサイル実験を過小評価したと批判する。

日韓は米政府の動きとは別に関係修復を急ぐべし:そのうえで社説は最期に、次のように論じる。ここも原文を読んで翻訳してみよう。


Mr. Trump cannot be counted on to understand that the feud between two critical allies in a critical part of the world is bad for them and for the United States, and must stop. But Japan and South Korea should not need American help to see the folly of allowing the bad blood between them to damage their economies and security, and to aid their real foes.

「トランプ氏が、最重要地域における最重要同盟2カ国間の争いは、両国と米国のためにならず止めなければならない、ということを理解できるとは思えない。しかし日本と韓国は、米国がそうだからといって、両国間の憎しみが経済と安保に打撃を与え、彼らの真の敵を利するのを容認するという愚かな行為を座視すべきではない」

韓国が直面するリスクの軽減と正反対の決断:軍事情報共有の廃棄について8月28日付のブルームバーグも社説「South Korea and Japan Need to End Their Dangerous Feud(韓国と日本は危険な対立を終わらせよ)」で、核武装したロシア、中国そして北朝鮮に囲まれた韓国は隣国の脅威の中で生存しており、韓国政府の第1の目標は、自国が直面するリスクの軽減にあるはずだが、文政権は正反対のことをしたと批判する。

責任の一端日本にあり:さらに社説は、日本にも責任の一端がある(
partly to blame)と主張する。元徴用工問題の仲裁持ち込みを韓国政府が拒否したことに怒った安倍政権は、韓国向けの敏感な素材(sensitive materials)の輸出管理を強化したとし、政治的紛争(political dispute)のために貿易を武器として使用するのは基本的に間違いで、馬鹿げている(foolish)と主張する。

戦いの敗者は韓国:韓国に対しては、世論は激高し、韓国政府は同様の措置を打ち出したが、思いとどまるべきだったと述べ、文大統領は8月15日の光復節で、韓国は対話の用意があると宣言して賞賛されたが、軍事情報協定の廃棄は対話を困難にし、しかも戦いの勝者は軍事用衛星や北朝鮮の潜水艦発射ミサイルに対抗能力を持つ日本であり、負けるのは韓国だと指摘する。また中ロを利するだけで、北東アジアに駐在する8万の米軍を危険に陥れる可能性があると懸念を表わす。

決定の廃棄と対話の開始、米政府の介入強化が必要:そのうえで社説は、韓国は協定が期限を迎えるまでの3ヶ月間に廃棄の決定を翻し、日本は輸出管理紛争の解決に向けた対話を開始すべきだとし、日本政府の説明どおり強制労働と別問題であれば、解決可能だと指摘する。歴史問題にかかわる紛争の解決も必要で、この問題を正式に取り除かなければ、妥協は不可能だと述べ、日本が求める第3者による仲裁は法的に正しく、政治的には賢明だと主張する。そして米政府には、共同正犯(principals)である日韓両国に対話を求めてより強く(more forcefully)介入すべきだったと述べ、外交圧力を高めるよう求める。

結び:以上のようにメディアは、日韓米3か国の政府に厳しい目を向け、特に日本政府に批判を集中する。米政府に対しては、日韓関係をここまでこじらせた責任を指摘し、韓国政府には、従軍慰安婦基金の解散や強制労働問題に関する仲裁提案に応じない姿勢と軍事情報包括保護協定の廃棄を批判する。そのうえで日本政府が対韓輸出管理強化に動いたのは過ちだと厳しく批判する。日本が示唆する化学物質の北朝鮮への流出疑惑は信じ難く、ホワイトリスト外しも含めて、歴史問題に対する報復措置であるのは明らかだと主張、紛争を始めた安倍氏が解決に向けて最初に動くべきだと強調する。
メディアの日本政府に対する厳しい批判は、何に起因するのか。一言でいえば、日本政府の対外発信力の弱さや説得力の不足にあると思われる。所轄官庁の経産省は、日韓間の信頼関係が著しく損なわれ、かつ韓国の輸出管理に不適切な事案が発生したという2つの理由を提示し(注1、2)、菅官房長官は、両国の友好協力関係に反する韓国側の否定的な動き、旧朝鮮半島出身労働者の問題でG20大阪サミットまでに満足する解決策が示されなかったことを挙げ、信頼関係のもとに輸出管理に取り組むことが困難になったためと述べ、安全保障を目的に輸出管理を適切に実施するものであり、対抗措置ではないと説明している(注3)が、いずれも抽象的で分かりにくい。安倍首相は、韓国は国際法を順守すべきだと述べるにとどまっている。この間、外務省は輸出管理強化については特別なコメントを発表していない。要するに、日本政府の説明は抽象的で一貫性に欠け、説得力に不足しているのである。
他方、韓国は文大統領、首相、外相、与党首脳そして所轄官庁の産業通商資源省が一体となり、日本の措置は歴史問題に対する報復だと連日非難し、世界貿易機関への提訴や米政府への直訴を含む国際世論への働きかけを強化、対内的には、部品の内製化に向けた中長期的対策を発表、この間、国内では政権に呼応するかの如く、日本製品不買運動が拡大、文大統領は南北統一による対日戦略まで口にする。
 日本政府も今後、韓国大法院の判決を放置する韓国政府の対応を国際法違反として効果的に主張する一方で、それだけでなく、輸出管理強化やホワイトリスト除外という貿易上の措置は、国際法違反を犯す韓国に対する信認の喪失が根本原因であり、従って、韓国政府による国際法違反状態の是正が日本の貿易措置撤回の大前提になることを政府は今後、明確かつ一貫して主張し、韓国と国際社会に向かって機会あるごとに繰り返し発信すべきであろう。(2019年9月4日)

(注1)経済産業省は「大韓民国向け輸出管理の運用の見直しについて」と題する7月1日付ニュースリリースをホームページに掲載、次のように伝える。「経済産業省は、外国為替及び外国貿易法(以下、「外為法」)に基づく輸出管理を適切に実施する観点から、大韓民国向けの輸出について厳格な制度の運用を行います。輸出管理制度は、国際的な信頼関係を土台として構築されていますが、関係省庁で検討を行った結果、日韓間の信頼関係が著しく損なわれたと言わざるを得ない状況です。こうした中で、大韓民国との信頼関係の下に輸出管理に取り組むことが困難になっていることに加え、大韓民国に関連する輸出管理をめぐり不適切な事案が発生したこともあり、輸出管理を適切に実施する観点から、下記のとおり、厳格な制度の運用を行うこととします。」、「7月4日より、フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の大韓民国向け輸出及びこれらに関連する製造技術の移転(製造設備の輸出に伴うものも含む)について、包括輸出許可制度の対象から外し、個別に輸出許可申請を求め、輸出審査を行うこととします。」

(注2)経済産業省は「輸出貿易管理令の一部を改正する政令が閣議決定されました」と題する8月2日付ニュースリリースをホームページに掲載、次のように伝える。「大韓民国に関する輸出管理上の国カテゴリーを見直すため、輸出貿易管理令別表第3の国から大韓民国を削除するための政令改正が本日閣議決定されました。経済産業省としては、輸出先や品目にかかわらず、改めて、迂回輸出等に厳正に対処するとともに、輸出者に対して自主管理を促していきます。」 
また別表第3について、次のように補足する。「従来、輸出令別表第3及び輸出貿易管理令の運用について(昭和62年輸出注意事項62第11号・62貿局第322号。以下「運用通達」という。)い地域①については、実務上、いわゆる「ホワイト国」との名称が用いられてきました。◇今回、我が国の輸出管理制度について、国内外の実務者・関係者による理解を深める観点から、輸出管理上の国別カテゴリーの実務上の名称について、以下のように呼称するようにします。なお、法令上の扱いは運用通達上の国別区分に定めるとおりであり、変更はありません。」

https://www.meti.go.jp/press/2019/08/20190802001/20190802001b.PNG
 
(注3)7月2日付NHKは、次のように報じる。
日本政府が韓国に対する半導体の原材料などの輸出規制を強化すると発表したことについて、菅官房長官は記者会見で、信頼関係が損なわれる中で、安全保障を目的に適切な輸出管理をするための措置であり「徴用」をめぐる問題の対抗措置ではないと説明しました。太平洋戦争中の「徴用」をめぐる問題の解決に見通しがたたない中、日本政府は信頼関係が著しく損なわれたとして、韓国に対する半導体の原材料などの輸出規制を強化すると発表しました。
これについて菅官房長官は、閣議のあとの記者会見で「両国間で積み重ねてきた友好協力関係に反する韓国側の否定的な動きが相次いだうえに、旧朝鮮半島出身労働者の問題でG20大阪サミットまでに満足する解決策が示されなかったことから、信頼関係のもとに輸出管理に取り組むことが困難になったために見直しを行うことになったものだ」と述べました。
そして「安全保障を目的に輸出管理を適切に実施する観点から運用を見直すものであり、対抗措置ではない」と説明したうえで、引き続き韓国側に適切な対応を求めるとともに、日本企業への影響についても注視していく考えを示しました。

                                   


 


 (プロフィール)
前田 高昭 :金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。訳書に『チャイナCEO』他。『東アジアニュースレター』配信中。 

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