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香港「1国2制度」の危機 ― 習近平体制に挑戦する抗議デモ

2019/07/08

英文メディアで読む 第74回
 香港「1国2制度」の危機

― 習近平体制に挑戦する抗議デモ 

         
               

     前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト。バベル翻訳大学院プロフェッサ-


  
 
 
香港で逃亡犯条例(extradition bill)改正案に抗議して市民が大規模なデモを展開している。デモは改正案の廃案と香港政府トップの辞任を要求し、100万人を超す規模に膨れ上がっていると報じられている。以下に、この問題に関する主要メディアの報道と論調を観察する。



デモの規模は返還後最大で若者が中心:先ず、デモの背景と意義について6月13日付エコノミスト誌の「
People v power The rule of law in Hong Kong(ピープル対権力、香港における法の支配)」と題する社説からみていく。社説は、香港デモの特質として3つを挙げる。第1に、香港返還後で最大となるデモの規模の大きさ、第2に、デモ参加者の大半が英領時代を知らない若者であることを挙げ、彼らはまさしく香港の将来が危うくなっていると懸念していると伝える。

香港市民にとって深刻な意味を持つ改正案:そして第3に、今般の条例改正案が香港市民にとって、きわめて深刻な意味合い(
implications)を含んでいることを挙げる。この意味合いについて早速、原文を読んで翻訳してみよう。

With the threat of extradition, anyone in Hong Kong becomes subject to the vagaries of the Chinese legal system, in which the rule of law ranks below the rule of the party. Dissidents taking on Beijing may be sent to face harsh treatment in the Chinese courts. Businesspeople risk a well-connected Chinese competitor finding a way to drag them into an easily manipulated jurisdiction.  

「引き渡しの恐れに伴い、香港の人々は誰もが、法の支配が党の支配の下にある中国の気まぐれな司法制度の下におかれる。中国政府に挑戦する反体制派は、中国に送られて法廷で厳しい裁きを受けるかもしれない。ビジネスマンには、中国当局と強いコネのあるライバルが手を打って、容易に操れる司法の場へ彼らを引きずり込むリスクが生じる」

法の支配を蔑視する習近平:こう述べた社説は、さらに香港のおかれた立場について次のように指摘する。従って、一党支配国家(
one-party state)と自由なグローバル・コマースの間をつなぐ脆弱な橋である香港に破滅をもたらす可能性がある。多くの企業が、巨大な中国市場との結びつきや、西側と同じ透明な規則がある香港に地域本部を設置している。中国本土(mainland China)のおかげで香港の商品輸出は世界第8位、株式市場は世界第4位の規模にある。巨大な銀行システムは西側と途切れなくつながり、通貨は米ドルと固定している。こうした香港が単なる中国の1都市となれば、打撃を受けるのは香港市民だけで終わらない。習主席は就任直後から、中国の司法制度は党の支配下にあるべきだと主張、独立派弁護士や市民活動家を弾圧し、党を批判する香港在住の書店経営者を拉致する、などの事例が示すように、習氏の発するメッセージは明らかで、本土内で法の支配を軽視するだけでなく、本土外でも蔑視しているのだ。

政治犯も引き渡し対象に含まれかねない改正案:香港当局は、改正案には引き渡し対象の犯罪を絞り込む安全条項(
safeguards)があると主張しているが、抗議側はこれを否定しており、それは正しい。理論的には犯罪人引き渡し(extradition)は、政治犯には適用されるべきではない。重い判決を受ける重罪にのみ適用されるべきである。しかし中国共産党には、政治関連とは思われない犯罪で党批判者を罰してきた長い歴史がある。香港政府は改正案が適用されるホワイトカラー犯罪の数を減らしたと語る。しかし恐喝(blackmail)や詐欺(fraud)は依然として適用対象である。また最上位にある中国司法当局からの引き渡し要請だけが考慮されると語っているが、決定は香港の行政長官が握っている。現在の林鄭行政長官は、香港の親中派によって選ばれ、本土の共産党の要請に応えている。地方裁判所も異なる判決を下せる余地はほとんどない。

支援の手を差し伸べるべき英米政府:こう論じた社説は、世界は支援の手を差し伸べることが可能だと述べ、英国は中英共同宣言の当事者として格別の責任があるとし、改正案が間違っていることを明確かつ声高に宣言すべきだと主張、中国と貿易戦争状態にある米国については、政治家の一部が改正案によって米国が香港に許容している特恵的地位が危険にさらされると警告しているが、香港における米国の利益に打撃を与え、香港の前途を台無しにするかもしれないとして、慎重であるべきだと主張、代わりに中国政府への圧力継続と米国による香港への犯罪人引渡しに際して個別案件毎の吟味を強化すると脅しをかけるのがよい、と助言する。

「2制度」が後退する「1国2制度」:さらに社説は、抗議は英領時代以来の暴力的騒動に発展し、中国政府は外国の陰謀(
foreign plot)だと非難するなど状況は危機的だと懸念を表明、林鄭長官は頑固だが、再考しても遅くはないと主張する。また台湾が香港の改正案の下での犯罪人引き渡しは受け入れないと語っていると述べ、改正案は、林鄭長官が望んでいた目的を達成しないだろうと指摘、衝撃が比較的少ない解決策として、香港外で罪を犯した者を香港の法廷で裁く方法を示唆する。最後に、香港が22年前に中国の支配下に入った際、2制度の方の発展が期待されていたが、今回の抗議デモが明らかにしたように、ことは計画通りに進んでいないと指摘する。

 6月14日付ウォール・ストリート・ジャーナルは、「
Why Hong Kong Matters(日本版記事:【社説】香港デモ、世界にとって重要なわけ)」と題する社説で、中国は自由のショーケース(showcase of freedom)、香港をのみ込もうとしており、トランプ米大統領は非難の声を上げるべきだと主張する。

共産党支配の本質を教える抗議デモ:社説は、大規模な抗議デモを行っている若者は、自分たちの苦境(
plight)に目を向けさせることで世界の役に立っていると述べ、習近平国家主席率いる中国共産党の支配の本質をわれわれに教えてくれるからだと指摘する。社説は、犯罪容疑者を中国本土に引き渡せるようにする「逃亡犯条例」改正案が成立すれば、中国政府を批判する者は誰でも本土に移送され、ほぼ確実に有罪判決(conviction)を受けて処罰されることをデモ参加者は知っていると述べ、法案そのものが1997年の香港返還後50年間は1国2制度を維持するという約束に違反していると厳しく批判する。

香港は中国人による自由自治の模範:そのうえで、中国ではここ10年間、特に習の時代になってから、共産党は国内政治や国民の私生活の大部分に容赦ない支配(
unbending control)を強めてきたと指摘、100万人に上るウイグル族の再教育施設への収容、反体制派(dissenters)を擁護する弁護士の逮捕、地下教会のキリスト教徒に対する嫌がらせ、さらに来年までに顔認識監視技術(facial recognition surveillance)を利用し、行動の善悪に基づく市民の「社会信用」(social credit)スコアをつけ始める予定などを挙げ、自由な香港を徐々に窒息させることはこの潮流の一環であり、習体制の国際社会に対する誓約を放棄する意図を示すと主張、香港は自由港(entrepot)として、また法的な安全地帯として、中国の経済的台頭を支援してきたが、それでもなお中国は香港を恐れているとし、それは中国人が自由に自治を行うことを示す模範となっているからだと指摘する。

トランプ米大統領も非難の声を上げるべきだ:社説は最後に、香港人が街頭で示した強い怒りは、中国の恣意(しい)的な(
arbitrary)正義から間もなく逃れられなくなる人々の絶望を表していると次のように訴える。世界はこうした人々に関心を向ける義務がある。米国務省と一部の議員はすでに声を上げている。しかし米国が香港に多額の投資をしているにもかかわらず、トランプ氏は今のところ沈黙を守ったままだ。香港の真実を語ることは、対中貿易交渉を危険にさらさない。習氏は自らの利益を考えて取引をする。むしろ中国が英国や香港との約束を反故にしたと非難することで、有利な取引ができる可能性が高まるかもしれない。習氏は全世界で民主的自治政府(democratic self–government)の領域を狭めることによって中国の影響力を拡大したい考えだろう。米大統領の責務はそれを押し返し、自由の範囲を拡大することだ。

 6月16日付フィナンシャル・タイムズは社説「
The Hong Kong people have spoken truth to power(香港の人々、権力に向かって真実を語る)」で、当局は審議を停止している逃亡犯条例改正案を廃案とすべきだと主張する一方で、抗議デモは行政長官の辞任を求めているが、中国政府がより強硬派(hardliner)の人物を後任に据えるリスクがあると警告し、さらに次のように論じる。

廃案とすべき無分別で欠陥が明らかな改正案:香港人(
Hong Kongers)の7人に一人が参加したデモの後、当局は無分別な(ill-considered)改正案を引っ込めた。林鄭(キャリー・ラム、Carrie Lam)行政長官の判断は賢明だったが、全面的に廃案とすべきだ。同時に、彼女と中国政府は、97年の中英共同宣言に盛り込まれた権利を守るために示した香港市民の決意の今後に思いを馳せるべきだ。改正案は明らかに欠陥があり、濫用される懸念があった。香港人は勿論、香港を通過する人物すらも重大な犯罪を疑われたら中国本土に引き渡されることを初めて容認する内容だった。つまり、共産党が支配する中国の司法制度が香港に及ぶことになり、反政府派が、でっち上げの容疑(trumped-up charges)で本土に引き渡されかねなかったのだ。

金融センターとしての香港を脅かす改正案:条例はまた、金融センターとしての香港にとって厳しい意味を持っていた。本土企業(
mainland companies)と争う金融センターのビジネスマンは、本土企業の言いなりになる(biddable)中国の法廷に立たされる可能性があったからだ。外国企業の地域本部(regional headquarters)を惹き付けた香港の確立した司法制度が、損なわれかねなかったのである。

脅威にさらされた「1国2制度」:もっと基本的なことは、香港人が、この条例を香港基本法によって保証された自由が損なわれてきた一連の行動の最近時の事例として認識したことである。これは、まさに中国の習近平国家主席が、本土で専制的な体制を強化したことに対応する。「1国2制度」の根本が脅威にさらされたとみられたのである。

 6月17日付ニューヨーク・タイムズは社説「
Beijing Is Treading Lightly in Hong Kong, for Now(中国政府、香港で今のところ軽やかに歩む)」で、市民の自由(civil liberties)の弾圧は、全世界が見守るなかで困難を増すと警告し、次のように論じる。

習主席にジレンマを提起した抗議デモ:香港中心部を埋め尽くした大群衆は、アジア最強の人物、中国の習近平国家主席に決定的なジレンマを提起した。ピープルパワーの前に屈するか、それとも自由世界の非難(
censure)を浴び、中国にとって不可欠なグローバルなビジネス・ハブを損なうリスクを冒しても、香港を何としてでも従わせるか、という2者択一のジレンマである。こうした緊張は香港返還後の22年間、「1国2制度」という政策に内在してきた問題である。中国を支配する共産党は、ほとんど当初から香港自治を少しずつ削り取ろうとしてきた。これに対し740万人の香港市民の大多数は、平和的だが力強い抗議活動をもって断固として対応してきた。毎年、返還記念日である7月1日には、香港自治を守る街頭行進が行われ、特に2014年には本土支配を強化しようとする香港の選挙制度改定に抗議し、シティ・センターを79日間も占拠する雨傘運動に発展した。

当局からの和解提案を拒否した市民:逃亡犯条例の改正に反対して始まった現在の抗議活動は、こうした対決を新次元に引き上げた。抗議デモの規模は飛躍的に増大し、そこには返還前の香港を全く知らない若者が多数含まれている。さらに、驚くべきことに、彼らは条例改正案の審議停止と林鄭行政長官による謝罪という当局からの和解提案(
olive branch)を拒否すると宣言したのである。

中央政府の無条件降伏を要求するデモ:香港の人々からみれば、これは当局が単に戦術的に後退したにすぎなかった。香港市民の要求は、法案の全面的廃止と警察活動に対する調査、そしてデモが犯罪と見做される可能性のある「暴動」ではなかったことの公式認知であったからだ。事実上、彼らは無条件降伏を要求している。しかし、それは習氏のシナリオ(
playbook)には存在しない。中国の政治は秘密に閉ざされており、習氏が個人的に香港での対決に何処まで関与しているのかは不明だが、林鄭行政長官の後退宣言を事前に承認していたことに疑問の余地はまずない。また対決が習氏に重大な挑戦を突きつけているのには、疑問の余地がまったくない。

香港は習氏の理念に直接挑戦する地域:こう論じた社説は、習氏は就任以来、着実に権力基盤を強化し、民主的な要求への譲歩には強硬に反対する姿勢を明らかにしてきたと指摘、一例として2012年に公表した「7つの禁句(
“seven unmentionables”)」を挙げ、これには「西側の立憲民主主義」(“Western constitutional democracy”)、人権、メディアの独立性、市民参加(civil participation)、市場寄りの自由主義(pro-market liberalism)および党の過去に関する虚無主義者的批判などが含まれていると述べる。これらは香港人が大切しているものであり、そのため香港は、習氏の理念に直接挑戦する地域となっていると指摘し、習氏は、民主主義や法の支配は見かけ倒しの西側の考え方で中国には無縁であり、反体制勢力とは、外国人によって操作された少数派と片付けていると述べる。

抗議デモに勝利を与えるのが最善策:そのうえで社説は、戦術的後退が通じなくなった現在、中国政府は幾つかの強硬手段を考えるだろうが、市民の権利を直接侵害する行為は困難かつ代償が高いと述べ、香港のビジネスセンターとしての長い歴史、巨大な中国市場へのアクセスの容易さ、グローバルな金融ハブとしての地位なども犠牲になると警告する。最期に、1984年の中英共同宣言によって香港は2047年まで、その生き方と自由が認められており、現在も続いている抗議は紛れもなく香港人は時計を逆戻りさせる試みにはなんであれ抵抗する姿勢を鮮明にしていると指摘、抗議デモに勝利を与えることが、大きな痛みを伴うかもしれないが、習氏にとって最善の利益になると力説する。

習近平の政策に挑戦する香港デモ:6月17日付ワシントン・ポストは「
Hong Kong’s protests challenge everything Xi Jinping stands for. How will he react? 習近平が標榜する全てに挑戦する香港デモ、習はどう対処するか)」と題する社説で、中国本土への犯罪人引渡を認める逃亡犯条例改正案に反対するデモは驚くべき盛り上がりを見せ、200万人と見積もられる人々が香港の象徴である開放と自由市場を守るために中心部に繰り出したと報じ、同時に、こうした抗議は、それがいかなる結果を生み出すか、中国共産党とその事実上の代理人である香港政府が、どう対応してくるのか、という心配を生み出したと述べ、さらに次のように論じる。

ピープルパワーを恐れる中国指導部:香港の中心部を埋め尽くす人々の群れを見て、習近平国家主席は背筋をぞっとさせたことは疑いない。党の卓越性を家父長的な指導力とする彼の政策は、独立的思考と行動を粉砕してきた。これは1989年の天安門における民主化デモを弾圧した残忍な暴力の直接的な遺産である。それは中国指導部の思考の主要部分に、しかも悪夢として残っている。彼らはピープルパワー(人民の力)を何よりも恐れている。中央本土の独裁者の政策に直截かつ堂々と反対する街頭に溢れんばかりの独立志向の香港市民の大群衆は、習主席が標榜する何事にも挑戦しているのだ。

開放され繁栄する香港から得るものが多い中国:こう論じた社説は、中国政府が香港返還後、「1国2制度」の体制の下で50年間約束した香港の自由を破棄しようと試みてきたと述べ、同時に天安門事件の記憶を拭い去ろうとしてきたと指摘する。そのうえで香港の林鄭行政長官は改正案の審議を停止し、謝罪したが、それでは不十分で改正案を撤廃すべきだとし、また習主席は、香港の抗議は中国人が民主主義を理解でき、かつ専制主義の拘束衣を着せられた生活を強いられるべきでないこと示す目に見える証拠であるのを悟るべきだと主張する。そして台湾の例を挙げ、中国としても、中央政府の惨めな囚人となった香港からよりも、開放され繁栄する香港から得るものの方が多いことを理解すべきだとし、そのために天安門事件の悪夢や自由に対する党の恐怖を振り払う必要があると強調する。

香港の米国における特恵的地位を梃子として活用すべし:社説は最後に、香港が米国との経済関係で1992年法に基づく特恵的地位を享受している事実を挙げ、米政府と議会は香港がその地位を失うリスクがあることを梃子として使い、中国が香港に自由を許容することを促すべきだと主張する。

まとめ:メディアは先ず、抗議デモの特質について、香港返還後で最大となる規模やデモ参加者の大半が若者だったことを挙げ、条例改正案が香港市民にとって、きわめて深刻な意味合いを持っていたと主張する。すなわち、反体制派には、中国に送られて法の支配を蔑視する習近平の下にある法廷で厳しい裁きを受け、金融センターのビジネスマンには、本土企業の言いなりになる中国の法廷に立たされるリスクがそれぞれ生じ、外国企業の地域本部を惹き付けた香港の司法制度が損なわれかねなかったと指摘する。

 香港当局は、改正案は政治犯に適用されないと主張するが、メディは、中国には共産党批判者を政治的犯罪と思われない容疑で告発して罰してきた長い歴史があり、受け入れられない釈明だと反論する。また台湾が香港の改正案の下での犯罪人引き渡しは受け入れないとしていると述べ、解決策として、香港外で罪を犯した者を香港の法廷で裁く方法を示唆する。

 さらに英国は香港返還時の中英共同宣言の当事者として格別の責任があり、改正案が間違っていることを明確かつ声高に宣言すべきだと主張するが、香港に許容する特恵的地位が危険にさらされると警告する米国に対しては、香港における米国の利益に打撃を与え、香港の前途を台無しにする可能性があるとして慎重対応を求める見方も提示する。

 こうした中国本土と香港間の緊張は返還後の22年間、「1国2制度」という政策に内在してきた問題だと述べ、デモの大群衆は、中国の習近平国家主席にピープルパワーの前に屈するか、それとも、中国にとって不可欠なグローバルなビジネスセハブを損なうリスクを冒しても、香港を何としてでも従わせるか、という2者択一のジレンマを提起したと指摘する。デモは無条件降伏を要求しており、それは習氏のプレイブックには存在しないとしても、香港市民の権利を直接侵害する解決策は困難かつ代償が高いと述べ、抗議デモに勝利を与えることが、習氏にとって最善の利益になると強調、総じて、今回の抗議デモによって香港の「1国2制度」は、「2制度」よりも「1国」の方が進化していることが、改めて明確になったと指摘する。

結び:メディアが報じるように、今回のデモは未曾有の規模に拡大した。7月1日の香港返還22周年記念日には、若者の一部が暴徒化し立法会(議会)内に乱入する事件が起きるなど、事態の収拾目途は立っていない。デモが拡大、長期化している背景として、行政長官や立法会議員の普通選挙の実現など、香港市民が以前から望んでいる民主化プロセスが一向に進まず不満が鬱積していることが挙げられている。また6月に天安門事件30周年記念日の追悼集会が香港でも開かれ、これが専制体制を強化する習指導部への抗議デモとして盛り上がり、改正案反対デモと重なっていった側面もある。いずれにせよ、今回の抗議デモは習指導部に対する重大な挑戦であり、今後の習体制への影響が注目される。

 その観点から一つの鍵を握るのは、米英日など西側諸国の対応姿勢である。6月末に大阪で開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議が格好の場だったが、残念ながら、掘り下げた論議は見送られてしまった。再選問題で頭がいっぱいのトランプ大統領、ブレグジット(英国のEU離脱)問題で機能不全に陥っている英政権、EUのトップ人事で紛糾していた欧州首脳部、そして議長国として米中貿易摩擦など他の諸問題に追われた安倍首相と、いずれも関心を示さず、結局、うやむやのままで終わった。むしろ台湾で反中路線を強める蔡英文総統にとって追い風となり、同氏が与党の次期総裁候補として選出された動きが注目されている。引き続き香港と中国政局の動きや西側諸国の対応動向、台湾を含アジア地域情勢に与える影響などを注視する必要がある。


 


 (プロフィール)
前田 高昭 :金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。訳書に『チャイナCEO』他。『東アジアニュースレター』配信中。 

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