編集:
はじめにプロフィールと最近の活動についてお聞かせください。
石川:
大学時代は美術・考古学を専攻する傍ら、語学関係のボランティア活動に参加していました。卒業後、外資系銀行に勤務し、出産退職しましたが、その後、元ボランティア仲間からの紹介で、障害・福祉・リハビリテーション関係の翻訳の仕事を始めました。もうそろそろ10年になります。
現在も、本業はそちらの方で、国連をはじめとする国際機関のプレスリリースや資料、会議の議事録や声明、宣言などと、最近では、世界保健機関が発表した障害に関する報告書の翻訳にもかかわっています。文芸翻訳は、障害のある方を中心に利用されているマルチメディアDAISY図書の『賢者の贈りもの』(2007年公益財団法人日本障害者リハビリテーション協会)が最初の作品で、今回の『白虎』は2作目になります。
編集:
国際機関の資料や議事録などの翻訳業務は大変そうですね。
翻訳を学び、翻訳家を目指そうと思ったきっかけはどんなことですか。
石川:
翻訳を正式に学んだことはありません。ただ、子供の頃から本を読むことと文章を書くことは好きでした。それから調べものも。翻訳には、英語力もさることながら、調査力と日本語力が重要です。特に実務翻訳では、テーマに関連する内容の調査は欠かせません。ときには英語だけでなく、フィンランド語やオランダ語、韓国語など、さまざまな言語の資料にも当たらなくてはなりません。とことん調べつくすという作業が苦にならないので、ここまで続けられたのだと思います。
仕事柄、知的障害や学習障害のある方、あるいはディスレクシアなどの読むことに障害のある方を対象とした文章を翻訳する機会も多く、読みやすく、わかりやすい文章にすることを常に心がけています。『白虎』も、中高生から大人までターゲット層が広いこと、また作品自体がとても長いことから、誰でもすっと楽に読めるような、読みやすい、わかりやすい翻訳にすることをめざしました。
実務翻訳と文芸翻訳では、やはり少し勝手が違いますね。実務の方は、事実を正確に理解し、わかりやすく伝える。文芸の方は、描かれている場面というか、映像を心の目で見て、理解するだけでなく、しっかりと鑑賞もしてから、その場面の背後にある世界も含めて、すべてをわかりやすく伝える。ですから翻訳者が違えば、フィルターが違うわけで、同じ作品でもまた違った世界が生み出されるのではないでしょうか。特にこれは、『賢者の贈りもの』を訳すにあたって、これまで出版されてきたさまざまな翻訳者の手による作品を読み直したときに実感しました。
編集:
おっしゃるとおり、翻訳の内容や分野が違えば、翻訳方法も違いますね。
『白虎』を出版されたのは、はどんな理由や思いがあったのでしょうか。
編集:
幼い頃から、兄の影響で香港映画をよく見ていました。その後今に至るまで、香港・中国・台湾の映画を見続け、武術映画や恋愛もの、サスペンスやファンタジー、社会派のドキュメンタリーなど、いろいろ楽しんでいます。
初めて『白虎』を読んだとき、目の前に物語が映像になって浮かびました。まさに大好きな香港映画の世界だったのです。不思議なことですが、『白虎』を英語で読んでいる最中に、音声多重放送のように、セリフが日本語でも浮かんできました。これは、ぜひ翻訳しなければ!と思い、企画書を作ってある出版社に持ち込みましたが、断られました。でも、2巻、3巻と読み進めるうちに、やはり日本の皆さんにこの作品を読んでいただきたい、この興奮を皆さんとわかちあいたいという気持ちが膨らんでいきました。そんなときに、Co-PUB出版のことを知ったのです。
編集:
物語の映像が浮かび、セリフが日本語でも浮かんできたとはスゴイですね!
まさに、石川さんに「これを翻訳してください!」という原書からのメッセージだったのかもしれませんね。
本の内容を紹介していただき、翻訳された感想、楽しかったこと、苦労したことをお聞かせください。
石川:
中国の神々と悪霊とが香港を舞台に繰り広げる闘いで、それに巻き込まれていくオーストラリア人女性、エマ。たび重なる襲撃から、愛する人を守りたいと武術の修行を始め、その腕を上げていくものの、自分の中に未知の部分があることにエマは気づく…。
こんな感じでしょうか? 作者はオーストラリア人なのですが、舞台は現代の香港です。でも、作者自身、中国人と結婚し、香港で長く暮らした経験があるので、中国の文化や神話についてとても深く理解していて、それが生かされています。また、作者は日本の漫画やアニメもずいぶんよく知っていらっしゃるようで、ところどころに日本語や日本生まれのキャラクターが登場しますよ。
原作は500ページを超える作品で、当初日本語訳も900ページ近くになってしまいました。やむなく一部を削りましたが、それは心理的にもつらい、時間のかかる大変な作業でした。監訳者の西沢先生には、いろいろとアドバイスをいただき、本当にお世話になりました。心から感謝しています。
でも、翻訳中は、頭の中で自分が選んだキャスト達に演じてもらいながら作業していたので、とても楽しかったです。読者の皆さんには、ぜひ、誰にどの人物を演じてほしいか、ご意見をお寄せいただきたいものです。
編集:
一生懸命、調べものをされた上で翻訳した文章を削る作業は、確かに惜しい気持ちでいっぱいだったことだと想像します。伝えきれなかった微妙な表現のニュアンスなどもあったことだと思います。読み手に分かりやすく伝えるということも大切ですから、さまざまな葛藤があったのではないでしょうか。
出来上がった本を手にしたときのお気持ちはいかがでしたか。
石川:
最初の出会いから6年で日本語版を手にすることができ、しかもオリジナルと同じ表紙にしてほしいという希望をかなえていただき、編集部の皆様には感謝の気持ちでいっぱいです。この作品は、まず表紙に魅力があると思うんですね。香港独特の世界が凝縮されていて、あの世界が好きな人なら、思わず手に取ってしまうでしょう。オリジナルと日本語訳とを並べてみて、ああ本当に出版されたんだな、と実感しました。
実は本が届いた日、こんなことがありました。定期テスト中だった次女が、軽い気持ちで読み始めたところ止まらなくなってしまったんです。ほかの本なら「もうやめてさっさと勉強しなさい」と言うのですが、このときばかりは叱るに叱れず、「どこまで読んだ? おもしろい?」と聞いてしまいました。幸い気に入ってくれたようで、ホッとしました。
編集:
それは面白いエピソードですねぇ~(笑)。お嬢様が読むのを止めることができなかったということは、本当に面白かったのでしょうね!
最後にこれからの抱負や翻訳してみたい作品のことなどをお聞かせくだい。
編集:
やはり続編の翻訳が夢ですね。この作品は全部で9巻になる予定で、今オーストラリアでは6巻まで出版されています。番外編の漫画も出版される予定です。これからどんどんエマの秘密も明らかにされていき、物語も展開していきますし、魅力的なキャラクターも次から次へと登場します。ぜひ2巻以降にも翻訳の道が開けるよう、読者の皆さんからもリクエストの声をあげていただければ嬉しいです。
また、本業の方も、引き続き励んでいきたいと思います。読書の楽しみを、一人でも多くの方に届けられるよう、障害のある方にも読みやすい、わかりやすい内容と形態の作品が増えていくよう、私にできる形でお手伝いさせていただきたいと思っています。
編集:
本業をされている中での、続編の翻訳作業は大変だと思いますが、ぜひ夢が叶うといいですね!弊社もまたお手伝いをさせて頂ければ幸いです。
応援いたしておりますので、ぜひがんばってください!
本日は、ありがとうございました。
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『玄天 第一巻 白虎』
香港で暮らすオーストラリア人エマは、裕福な中国人ジョン・チェンの娘シモーネのベビーシッターとして、チェン家に住み込みます。
シモーネには誘拐される危険があり、ボディーガードのレオが常に付き添っていますが、たび重なる襲撃に見舞われます。チェン家をめぐる不可解な出来事。
そしてついに、ジョンの正体が明かされ、エマの運命も思いがけない方向へと動いていき・・・。
アクションシーンに見られる中国武術の描写には、自らも武術を学んだ経験のある作者の実体験が生かされ、四神をはじめとする個性あふれる東洋の神々の姿も精彩を放っています。
日本の文化やアニメにも造詣が深い作者が紡ぐ物語は、若い世代をはじめ、大人の女性、さらには純粋な武術愛好家、そして香港や中国を愛する人々をも魅了するでしょう。
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