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『スリードッグライフ』 の翻訳者、向谷 裕子 (むかいだに ゆうこ)さん

2011/09/10

9月10日号に登場の新人翻訳家は ―  向谷 裕子  (むかいだに ゆうこ) さん。


毎月多くの翻訳書が出版され、新人翻訳家も多数誕生しています、これまでの出版経験を持つプロ翻訳家ばかりでなく、多様なチャンスを積極的に活用することで、自己表現できる機会がひろがってきていることを感じます。編集部では、これらの新人翻訳家にスポットをあて、どんな方がデビューしているのかをご紹介し、インタビューによって翻訳出版の動機や、その背景も探っていきます。


連載38回目の9月10日号では、 
『スリードッグライフの翻訳者向谷 裕子  (むかいだに ゆうこ) 
さんをご紹介します。







  書籍名:  スリードッグライフ (共訳)
   著:        アビゲイル・トーマス
   出 版:   バベルプレス
 

編集:
 今回は『スリードッグライフ』の翻訳向谷裕子さんにお話をお聞きします。向谷さんよろしくお願いいたします。 
 はじめにプロフィールについてお聞かせください。 


向谷:  
 大学は文学や語学とは関係のない分野で、卒業後は音楽講師をしていました。結婚後に主人の仕事でアメリカのミシガン州に二度赴任しましたが、その間に英語学校や大学で英語や英語圏の文化なども少し勉強しました。翻訳に関しては、バベルの通信講座やバベル翻訳大学院(USA)で学びまして、卒業後すぐに『スリードッグライフ』の共訳に参加しました。 


編集: 
 翻訳に興味をもたれたのはどんなきっかけからでしょうか。 


向谷: 
 翻訳を職業として考えるにはいろいろとハードルもあるわけですが、翻訳そのものに関しては、特にきっかけというものもなく、自分の性癖にあった作業だという思いがなんとなくありました。  

 読書家といえるほど多読はしませんが、本を読むことは昔から好きでした。でも、日本語・英語に拘わらず読む速度は人に比べてとても遅いです。すぐに頭に染み込まないというのもありますが、そこにある文から逐一あれこれ考えを巡らせながら読み進める癖があるようで、その分、読み終えるまでには、作品に対する思い入れなり反発なりはかなり強くなっています。「読解」が重要になる翻訳という作業は、この本を読むときのやり方の究極をすればいいわけで、幸せ感を感じます。  

 「文章で表現する」という作業も私の場合はとても遅くて、翻訳ではない普段の何気ない文章でも、自分の書いたものを「読解」というフィードバックに何度も通して進めていて、この愚鈍な癖というか、私にとってはこれしかできなくて、こうしなければ文にさえならないというやり方なんですが、それが文芸翻訳などの場合には合っているという気がしています。  

 そんなふうで元々翻訳には興味がありましたが、一度目のアメリカ赴任では学校の先生など、人とのとてもいい出会いに恵まれたもので、帰国後にアメリカ文化に触れていたいという郷愁が強くて、それもあってバベルの通信講座を受講しだしたのが始まりだったと思います。 


編集: 
 翻訳は本当に奥が深いですね。向谷さんのじっくり取り組まれる性格は、文芸翻訳家にとても向いていますね。『スリードックライフ』を訳したいと思われたのはどんな理由や思いがあったのでしょうか。 


向谷: 
 バベル翻訳大学院の修了作品で初めて一冊の本を通して訳して、文芸翻訳の楽しさを存分に味わいました。そしてまた何か訳してみたいと思っていたときにちょうど、『スリードッグライフ』の共訳の募集がありました。たしか「上質な小説を訳したい方に」というような文が添えられていたと思います。それに惹かれて全体の内容を全く知らないまま課題文の個所だけを訳して応募しました。 
 作品全体を読んだのは共訳に参加できることが決まってからだったのですが、内容が深く、しかも共感できるもので、ほんとうに幸せな出会いだったと思います。 


編集: 
 上質がきめてだったのですね。『スリードッグライフ』はとても素敵な作品ですものね。翻訳された感想、ワークショップのことや楽しかったこと、苦労したことなど聞かせてください。 


向谷: 
 他の2名の方との共訳で、柴田裕之先生に監修をしていただきながら進みましたが、とてもいい経験になりました。 
 掲示板でわからないことを質問したり、意見の交換をしたり、ほかの方とのやりとりで作品の理解も深まりますし、訳文についても勉強になることが多かったです。  

 ただ、3人の文にはやはりそれぞれの色があって、もちろん柴田先生に手を加えていただいて均されていくわけなんですが、それにも限度があるというくらいに、文にはそれを書いた人の味が隅々にまで滲み出ているものなのだということを強く感じました。 
 掲示板で意見交換をすることによって作品の理解を掘りさげたり訳を練りあげたりする醍醐味を味わいましたし、やりとりをするなかで、翻訳者に共通の心理というか、普編的な意味での性癖のようなものを知ることができたのも面白い体験でした。  

 共訳者のおひとりは他にもいくつか共訳作品を経験していらして、その方からすべて終わってから聞かせていただいたことなんですが、共訳ワークショップの進め方はその都度違っていて、今回は監修の柴田先生がとてもきめ細かく訳文をみてくださったこと、また作品完成までに共訳者との関わりを大きくとってくださっていたとのことで、とても有難い幸運な経験をさせていただいたのだということがわかりました。


編集:
 おっしゃるとおり、共訳はチームワークで完成させることに一番の苦労があるので、相手を受け入れるということも、求められますよね。柴田先生の心配りもとてもきめ細かく、この作品の内容に合った良いチームでした。出来上がった本を手にしたときのお気持ちはいかがでしたか。 

向谷: 
 装丁がかわいらしくて、心を込めて仕上げてくださったんだなあととても感激しました。 
 中身については、いまだに距離を置いて読むことができなくて、まだ全体を通して読みなおしたことはありません。読み始めると、神経をすり減らして校正をしていたときの気分になって、疲れてしまうんです。 
 訳文の違いや表現の仕方もワークショップのメンバーの方々と話し合えたこと、大変いい勉強になりました。この物語が著者の周りの自然や環境、日常の暮らしの中の出来事など正確に訳さないといけないこと。聖書に従って物語が綴られている事で、どちらも調べて、調べて間違いのないように描写して訳さなければならなかったことなど、苦労もし、勉強にもなり、私にとっては実りの多い翻訳作業でした。 


編集: 
 そうだったんですか。もうそろそろ開放されたいですね(笑)。『スリードッグライフ』の内容をご紹介いただき、どんな方に読んでもらいたいかをお聞かせください。 


向谷: 
 夫が事故で記憶障害を負い、そのために様々な困難や喪失感にとらわれた女性が、身の周りの出来事や状況を洞察しながら、気持ちの落ち着きどころを見つけていく過程を綴ったエッセイです。高齢化社会に生きる私たちには身につまされる状況から始まりますが、読み進めるうちに、読者もいっしょにほのぼのと癒されていく感覚になると思います。無駄な思い、習慣、価値観をどんどんそぎ落としていき、物事をシンプルにとらえ、ほんとうに大切な「今」を味わうという生き方にたどりつくことで、気持ちが救われていきます。 

 この情報社会の今、いらない物や余計な価値観をどっと背負わされて窒息しそうになっている私たちなら誰でも、読んで共感させられるものがあるのではないでしょうか。特に震災をきっかけに、みんながこれまでの価値観を見つめ直すようになっていますし。 


編集: 
 今年は震災をきっかけに、かなりみんなの意識が変わりつつありますね。今こそ多くの人に読んでもらいたい作品ですね。
三匹の犬たちがアビーを癒していくところは、ほのぼのとしていいですね。最後に、これからの抱負や翻訳してみたい作品のことなどをお聞かせください。 

向谷: 
 どんな作品でも翻訳するのには楽しさを感じます。ただ、翻訳大学院で修了作品として文芸物をひとつ選ばなければならないときには難しかったです。日本のテレビ番組にも、こんなの放送しなければいいのに、と思うようなものがたくさんありますが、図書館で借りて乱読した本は、こんな世界観はわざわざ日本に紹介したくない、と思うものばかりで。アメリカは家庭崩壊が本当に進んでいるなあと感じました。  

 けっきょく選んだのは、リズ・ジェンセンというイギリスの女性作家のものなんですが、癖のある登場人物たちに癖のある言動をとらせながら、作者の愛情が感じられて、作品の世界観に好感を持ちました。人間洞察の深い作者の作品には、作品全体にどこかお人好しな空気が感じられる気がします。同じ作者の『Ark Baby』や『Paper Eater』も訳してみたいと思いました。 


編集: 
 本日は、向谷さんの翻訳に対する思いなど、たくさんお話を聞かせていただきありがとうございました。 今後のご活躍を心からお祈りしています。

 

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『スリードッグライフ』
愛情と葛藤と…あまりに正直に綴られる心情に圧倒される
美しい回想録

 

著者アビーは、1998 年、『ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス』誌に出した個人広告で知り合ったレポーターのリッチ(世界一素晴らし男性と直感!)と結婚し、充実した毎日を送っていましたが、二人の幸せな生活は、2000 年、犬の散歩中にリッチが交通事故に遭い、脳に重大な損傷を負ったことで一変します。一時間前のことも、事故のことも覚えていない、今この瞬間を生きるリッチ。人格まで変わっていく彼との生活、そして自分の生活をどうしたらいいのか。最初は一匹だったのが二匹、三匹と増えていく犬たちとのほのぼのとした交流がアビーを癒していきます。さまざまな思い出を織り交ぜながら、事故からの五年間を赤裸々に綴った珠玉の回想作品ですスティーブン・キングが、「これまでに読んだ中で最高の回想録!」と推薦文を寄せた原著 "A Three Dog Life" は、LA タイムズとワシントンポスト誌で、2006 年の最優秀作品の一冊に選ばれています。

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