【著者インタビュー・渡部良子さん】絵本『黒い川と瑠璃の羽根』
2019/02/22
連載217回目の2月22日号では、絵本『黒い川と瑠璃の羽根』の作者、渡部良子さんの活動をご紹介します!

このコーナーでは、これまでたくさんの翻訳家にスポットをあて、
どんな方がバベルの翻訳ワークショップからデビューしているのかをご紹介し、
インタビューによって翻訳出版の動機や、その背景も探ってきました。
また、原作の作者やイラストレーターからもメッセージも紹介してきました。今号では
絵本『黒い川と瑠璃の羽根』の作者、渡部良子さんのさまざまな活動をおうかがいしました。
是非、読者の皆さまも一緒に追体験をしていただければと思います。お楽しみください。
<プロフィール>
渡部良子(わたなべ りょうこ)
福島県郡山市出身、横浜市在住。
趣味の絵本翻訳をきっかけに子育て時期にやっていたお話づくりを再開。
東日本大震災後の故郷への思いをベースに書いた本作が
BRM絵本作家オーディション最優秀賞を受賞。三姉妹の母。
編集:
はじめにプロフィールと最近の活動についてお聞かせください。
渡部さん:
福島県郡山市出身、横浜市在住です。3人の娘と2人の孫がいます。
大学卒業後、外資系OLを経て結婚し、その後も地域の国際交流ボランティアをするなど、
ライフワークとして英語を続けてきましたが、その中でも日本語の表現力が問われる絵本翻訳に
強く惹かれて冨田麗子先生の絵本翻訳を受講したきっかけに、子育て時期にやっていたお話しづくりを再開しました。
以前は動物を主人公にしたストーリー作りをしていましたが、初めて人間を主人公にした最新作での今回の受賞となりました。
現在も絵本翻訳を学びながら、3歳の孫も楽しめるようなストーリー作りをしています。
編集:
なるほどですね。冨田先生の絵本翻訳の講座がきっかけでお話しづくりを再開されたのですね。絵本翻訳早速ですが、渡部さんが絵本作家を目指そうと思ったきっかけなどありましたら、お聞かせください。
渡部さん:
学生時代から創作は好きでしたが、子供向けの話を作るようになったのは3人の娘たちに読んで聞かせるためでした。
子育てが一段落した頃から絵本翻訳を学び、絵本の魅力のとりこになりました。
幼い読者向けの絵本には、楽しさだけでなく学びや教訓など、多くの要素が散りばめられています。
本来子供向けである絵本の中には、大人も学ぶべき内容や、考えさせられる深いテーマを持つものも少なくありません。
ストーリーの根底に作者のメッセージがしっかりと流れているからこそ幼い心にも届く絵本。
そんな心に届くストーリーをいつか自分も書いて見たいと思うようになりました。
編集:
なるほどですね。子供向けのお話しを作るようになったのは3人のお嬢さんたちに読んで聞かせるためだったのですね。ちなみに、『黒い川と瑠璃の羽根』(渡部 良子 (著), 竹井 夏絵 (絵),バベルプレス)が処女作だったんですね。絵本出版おめでとうございます。この作品をどのように創作されたか教えてください。
渡部さん:
ありがとうございます。この物語は東日本大震災後の故郷への思いがベースになっています。8年前の3月11日、あの東日本大地震がありました。私の故郷福島県郡山市も放射能の被害を受けました。特産の美味しい果物も新鮮な野菜も汚染された作物として扱われ、暮らしの安全も脅かされました。ありがたくない意味で福島をFUKUSHIMA と書き換えられたりもしました。
故郷のそんな変わりように、とても心が痛みました。そして便利さが当たり前の生活の中で忘れかけていた自然の恐ろしさを、痛いほど思い知らされました。そんな自然と一緒に生きていく人間の勇気を書いたのがこの物語です。色々な思いを込めて書きました。物語の中には、普段の暮らしを通して自分が見たり感じたりしたものも織り交ぜてあります。そんな部分も感じながら読んでいただければと思います。
編集:
物語は、東日本大震災後の故郷への思いがベースになっていたのですね。
『黒い川と瑠璃の羽根』の内容の紹介と、作品作りで楽しかったこと、苦労したこと、読者へのメッセージをお聞かせくださいますか。
渡部さん:
舞台は豊かな自然に囲まれた山村。物語は村を流れる美しい川がどんどん黒く濁ってしまうところから始まります。川の濁りの影響で美しかった自然がどんどん壊れていき、村の暮らしもすさんでいきます。
それを山の神の怒りと考えた村人は山頂にある山の神の祠に供え物をすることにしましたが、その役目を買って出たのは意外にも気弱な青年カンスケでした。カンスケは厳しい祠への旅の途中、自分が役目を引き受けたことを悔やみますが、旅を続けるうちにカンスケの心に変化が起こり始めます。気弱なカンスケは果たして大事な役目を果たせるのでしょうか?そしてタイトルの瑠璃の羽根とは?主人公のカンスケは特別秀でたところのある人間ではありません。いつも自分に自信が持てない気弱な少年です。そんな弱い人間カンスケが恐ろしい自然を前にした時、それにどう立ち向かったのでしょうか。カンスケ目線で描いたイラストと共に、もし自分がカンスケだったら?と想像しながら読んでいただけたらと思います。
作品作りで楽しかったことは、イラストレーターの竹井さんやバベルプレスの編集担当の伴さんとのやりとりでした。いつも、私一人では考えもつかないようなアイデアと熱意に溢れていました。そしてイラストによって物語に少しずつ息が吹き込まれて行く過程を見るのは、本当にワクワクする楽しいものでした。
創作自体の楽しさについて言えば、何気なく見たり聞いたりしている日常のものが、突然物語のヒントになったりします。そんな偶然の出逢いがとても楽しく思えました。
作品作りで苦労したことは、自然描写での森林、川の色、遠くに見える稜線、そして登場人物の人物像など、私の頭の中にしかない風景を、イラストレーターの竹井さんがその目で見ているかのように伝えることでした。上手く伝わるまで繰り返しメールでやりとりをした結果、竹井さんはその豊かな感性と想像力で見事に表現して下さいました。福島の五色沼をイメージした川の色や稜線など、文章で伝えにくいものは、画像などを利用してイメージを共有しました。
また森林などの描写では雪が降る地域に合わせて針葉樹を多くしたり、村の現状を考慮したお供え物にしたりと物語を意識したイラスト作りを心がけました。
読者へのメッセージ
「黒い川と瑠璃の羽根」を読んで頂き、ありがとうございます。心より感謝いたします。
たくさんの思いを込めて書いた物語です。その思いが小さなかけらとなって読者の皆様
の心に届いたとしたら、とても幸せです。
編集:
素敵なお話しをありがとうございます。出来上がった絵本を手にしたときのお気持ちは
いかがでしたか。
渡部さん:
自作の絵本を作ることは長年の夢でしたので、手にしたときは本当に夢のようでした。
イメージ通りのイラストがついたページをめくるのは、どこかお気に入りの画集を開く
楽しさに似ていました。改めて完成までたくさんの方々のお力添えと思いに支えられて来たことを感じ、胸がいっぱいになりました。
編集:
最後にこれからの抱負や創作してみたい作品などがあればお聞かせください。
渡部さん:
子供の頃、「泣いた赤おに」や「むくどりの夢」などで知られる浜田広介さんの作品が
大好きでした。優しい語り口で読んだ後なぜか心が温まるような感じがしたからです。
出来れば今後は伝えたいテーマをベースに、読者が主人公に親しみを感じ読んだ後に心が温まるような、そんな作品を作っていきたいと思っています。
編集:
是非、これからも心温まる作品を作ってくださいね。渡部さんの活躍をお祈りしています。
本日はありがとうございました。
渡部さん:
こちらこそ、貴重な機会を頂きありがとうございました。

このコーナーでは、これまでたくさんの翻訳家にスポットをあて、
どんな方がバベルの翻訳ワークショップからデビューしているのかをご紹介し、
インタビューによって翻訳出版の動機や、その背景も探ってきました。
また、原作の作者やイラストレーターからもメッセージも紹介してきました。今号では
絵本『黒い川と瑠璃の羽根』の作者、渡部良子さんのさまざまな活動をおうかがいしました。
是非、読者の皆さまも一緒に追体験をしていただければと思います。お楽しみください。
<プロフィール>
渡部良子(わたなべ りょうこ)
福島県郡山市出身、横浜市在住。
趣味の絵本翻訳をきっかけに子育て時期にやっていたお話づくりを再開。
東日本大震災後の故郷への思いをベースに書いた本作が
BRM絵本作家オーディション最優秀賞を受賞。三姉妹の母。
編集:
はじめにプロフィールと最近の活動についてお聞かせください。
渡部さん:
福島県郡山市出身、横浜市在住です。3人の娘と2人の孫がいます。
大学卒業後、外資系OLを経て結婚し、その後も地域の国際交流ボランティアをするなど、
ライフワークとして英語を続けてきましたが、その中でも日本語の表現力が問われる絵本翻訳に
強く惹かれて冨田麗子先生の絵本翻訳を受講したきっかけに、子育て時期にやっていたお話しづくりを再開しました。
以前は動物を主人公にしたストーリー作りをしていましたが、初めて人間を主人公にした最新作での今回の受賞となりました。
現在も絵本翻訳を学びながら、3歳の孫も楽しめるようなストーリー作りをしています。
編集:
なるほどですね。冨田先生の絵本翻訳の講座がきっかけでお話しづくりを再開されたのですね。絵本翻訳早速ですが、渡部さんが絵本作家を目指そうと思ったきっかけなどありましたら、お聞かせください。
渡部さん:
学生時代から創作は好きでしたが、子供向けの話を作るようになったのは3人の娘たちに読んで聞かせるためでした。
子育てが一段落した頃から絵本翻訳を学び、絵本の魅力のとりこになりました。
幼い読者向けの絵本には、楽しさだけでなく学びや教訓など、多くの要素が散りばめられています。
本来子供向けである絵本の中には、大人も学ぶべき内容や、考えさせられる深いテーマを持つものも少なくありません。
ストーリーの根底に作者のメッセージがしっかりと流れているからこそ幼い心にも届く絵本。
そんな心に届くストーリーをいつか自分も書いて見たいと思うようになりました。
編集:
なるほどですね。子供向けのお話しを作るようになったのは3人のお嬢さんたちに読んで聞かせるためだったのですね。ちなみに、『黒い川と瑠璃の羽根』(渡部 良子 (著), 竹井 夏絵 (絵),バベルプレス)が処女作だったんですね。絵本出版おめでとうございます。この作品をどのように創作されたか教えてください。
渡部さん:
ありがとうございます。この物語は東日本大震災後の故郷への思いがベースになっています。8年前の3月11日、あの東日本大地震がありました。私の故郷福島県郡山市も放射能の被害を受けました。特産の美味しい果物も新鮮な野菜も汚染された作物として扱われ、暮らしの安全も脅かされました。ありがたくない意味で福島をFUKUSHIMA と書き換えられたりもしました。
故郷のそんな変わりように、とても心が痛みました。そして便利さが当たり前の生活の中で忘れかけていた自然の恐ろしさを、痛いほど思い知らされました。そんな自然と一緒に生きていく人間の勇気を書いたのがこの物語です。色々な思いを込めて書きました。物語の中には、普段の暮らしを通して自分が見たり感じたりしたものも織り交ぜてあります。そんな部分も感じながら読んでいただければと思います。
編集:
物語は、東日本大震災後の故郷への思いがベースになっていたのですね。
『黒い川と瑠璃の羽根』の内容の紹介と、作品作りで楽しかったこと、苦労したこと、読者へのメッセージをお聞かせくださいますか。
渡部さん:
舞台は豊かな自然に囲まれた山村。物語は村を流れる美しい川がどんどん黒く濁ってしまうところから始まります。川の濁りの影響で美しかった自然がどんどん壊れていき、村の暮らしもすさんでいきます。
それを山の神の怒りと考えた村人は山頂にある山の神の祠に供え物をすることにしましたが、その役目を買って出たのは意外にも気弱な青年カンスケでした。カンスケは厳しい祠への旅の途中、自分が役目を引き受けたことを悔やみますが、旅を続けるうちにカンスケの心に変化が起こり始めます。気弱なカンスケは果たして大事な役目を果たせるのでしょうか?そしてタイトルの瑠璃の羽根とは?主人公のカンスケは特別秀でたところのある人間ではありません。いつも自分に自信が持てない気弱な少年です。そんな弱い人間カンスケが恐ろしい自然を前にした時、それにどう立ち向かったのでしょうか。カンスケ目線で描いたイラストと共に、もし自分がカンスケだったら?と想像しながら読んでいただけたらと思います。
作品作りで楽しかったことは、イラストレーターの竹井さんやバベルプレスの編集担当の伴さんとのやりとりでした。いつも、私一人では考えもつかないようなアイデアと熱意に溢れていました。そしてイラストによって物語に少しずつ息が吹き込まれて行く過程を見るのは、本当にワクワクする楽しいものでした。
創作自体の楽しさについて言えば、何気なく見たり聞いたりしている日常のものが、突然物語のヒントになったりします。そんな偶然の出逢いがとても楽しく思えました。
作品作りで苦労したことは、自然描写での森林、川の色、遠くに見える稜線、そして登場人物の人物像など、私の頭の中にしかない風景を、イラストレーターの竹井さんがその目で見ているかのように伝えることでした。上手く伝わるまで繰り返しメールでやりとりをした結果、竹井さんはその豊かな感性と想像力で見事に表現して下さいました。福島の五色沼をイメージした川の色や稜線など、文章で伝えにくいものは、画像などを利用してイメージを共有しました。
また森林などの描写では雪が降る地域に合わせて針葉樹を多くしたり、村の現状を考慮したお供え物にしたりと物語を意識したイラスト作りを心がけました。
読者へのメッセージ
「黒い川と瑠璃の羽根」を読んで頂き、ありがとうございます。心より感謝いたします。
たくさんの思いを込めて書いた物語です。その思いが小さなかけらとなって読者の皆様
の心に届いたとしたら、とても幸せです。
編集:
素敵なお話しをありがとうございます。出来上がった絵本を手にしたときのお気持ちは
いかがでしたか。
渡部さん:
自作の絵本を作ることは長年の夢でしたので、手にしたときは本当に夢のようでした。
イメージ通りのイラストがついたページをめくるのは、どこかお気に入りの画集を開く
楽しさに似ていました。改めて完成までたくさんの方々のお力添えと思いに支えられて来たことを感じ、胸がいっぱいになりました。
編集:
最後にこれからの抱負や創作してみたい作品などがあればお聞かせください。
渡部さん:
子供の頃、「泣いた赤おに」や「むくどりの夢」などで知られる浜田広介さんの作品が
大好きでした。優しい語り口で読んだ後なぜか心が温まるような感じがしたからです。
出来れば今後は伝えたいテーマをベースに、読者が主人公に親しみを感じ読んだ後に心が温まるような、そんな作品を作っていきたいと思っています。
編集:
是非、これからも心温まる作品を作ってくださいね。渡部さんの活躍をお祈りしています。
本日はありがとうございました。
渡部さん:
こちらこそ、貴重な機会を頂きありがとうございました。
【記事で紹介された作品】
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