【翻訳者インタビュー・きたがわ しずえさん】絵本『3人の王子』
2018/10/22
連載209回目の10月22日号では、絵本『3人の王子』の翻訳者、きたがわ しずえさんの翻訳者インタビューをご紹介いたします。お楽しみ下さい。

編集:
はじめにプロフィールと最近の活動についてお聞かせください。
北川さん:
オギャーァと産声をあげた時から、書籍、ピアノの美しい音色の中で育ちました。
父親は戦前から書店を営み、12歳違いの姉は音楽家を志していました。私は姉の影響もあり、そのまま音楽大学に進学し、卒業後は35年間音楽講師を勤めました。
私の幼少期は、たくさんの文学作品に囲まれていたにもかかわらず、絵本と漫画ばかり読んでいて、時間がなくなった今、学生時代にたっぷり読書をしておけばよかったなぁと、後悔の日々です。
しかし、絵本は「読み聞かせの会」「室内楽と絵本のコラボ」でも繋がっていたことに気づきました。今は魅力あふれる絵本のとりこです。(笑)
現在はバベル翻訳専門職大学院で翻訳を学びながら、世界中の絵本をリサーチし、子ども達に伝えたい素晴らしい作品を探したり、「マジソン郡の橋」の原書を左側、右側に翻訳本を置き、どうしたらこんなにもドンピシャな語彙を絡み合わせて、流れるような文章が書けるのか感心しながら、見比べて楽しんでいます。(笑)
編集:
なるほどですね。お父様は戦前から書店を営んでいたのですね。そう考えると、絵本のとりこになったのも頷けます。また、幸せな環境で翻訳生活をされているということも分かりますね。早速ですが、北川さんが翻訳を学び、翻訳家を目指そうと思ったきっかけなどありましたら、お聞かせください。
北川さん:
幼児の生徒さんにはピアノのレッスンの後、ごほうびに絵本の読み聞かせをしますが、父母も交え、生徒は楽しみにしています。また子供中心のコンサートでは、絵本を読み進めながら、楽器で動物の鳴き声を表現したり、ストーリにあわせた楽曲を選んで、ピアノや弦楽器、管楽器で演奏して、音色(おんしょく)や緩急、強弱を駆使して想像の世界に導きます。楽器つきで(特にハープの希望が多い)「読み聞かせの会」をたのまれたりすることもあり、絵本との繋がりは強くなっています。孫が産まれてからは益々熱くなり、原書を訳してみるようにもなりました。そして自分で納得のいく翻訳文を書こうと、バベル翻訳専門職大学院で学ぶ事にしたのです。過去にも翻訳コンクールには参加したことはありますが、絵本翻訳のルールは別だということを、バベルで学ぶようになってから知りました。大学受験のときも英文科は選択肢に、はいっていたぐらい、学生時代から英語は好きでしたね。
私は持病があり、若くもないですから、いつまで頑張れるかわかりませんが、
翻訳しているときは夢中で、病のことは忘れていられます。
2018年ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑(ほんじょたすく)博士は、6つのCが大切だとおっしゃっています。好奇心(curiosity)、挑戦(challenge)、勇気(courage)、集中力(concentration)、確信(confidence)、継続(continuation)、これは、何歳になってからでも、あてはまる言葉です。もしも、孫の子供が、そして、その後に続く子供たちが、私が翻訳した絵本を読んで何かを感じ取ってくれたら、素敵なことだと思っています。今私は、最後の夢の実現に向かって進んでいるのかもしれません。
編集:
夢の実現って素敵ですね。ちなみに私達にとっても、北川さんの実現を見続けていくことが夢の実現といえます。
北川さんの過去の翻訳作品として『ベイリーはくぶつかんに いく』『28DAYS』『スタンとメイベル音楽隊』がありますが、今回『3人の王子』を出版されたのは、どんな理由や思いがあったのでしょうか。
北川さん:
私は冨田麗子先生主催の翻訳グループで勉強を継続しております。その中で取り上げていただいた作品の中に、イラストレーターの かわこうせい(Cosei Kawa)さんの原書で、『Rifka Takes a Bow』がありました。
イラストがとても美しく、私の好きな画家、シャガールの色とタッチにとてもよく似ていて、頭の片隅に記憶しておきました。
そして今回再び、かわこうせい さんの作品『3人の王子』(原作名;The Three Princes)にめぐり会ったのです。
ストーリーは子供たちにもわかる、「愛」と「おもいやり」がテーマです。
子供たちが成長して、尊敬される大人になってほしいとの願いを込めて翻訳いたしました。
編集:
きっと、北川さんの願いは子供たちに伝わるとおもいます。『3人の王子』の内容の紹介と、翻訳された感想、楽しかったこと、苦労したことをお聞かせくださいますか。
北川さん:
背丈も顔もそっくりの3人の王子たち。父親でさえ見分けがつかず、おしゃれなラマン王子には赤いルビー、冗談好きなサルマンには青いサファイア、スポーツ万能のエミールには緑のエメラルドの指輪を与えて区別しています。
そんな3人は、となりの国の美しいハリマ姫に心をうばわれます。
ハリマ姫も王子の1人に恋をしますが、3人の悪ふざけで、愛している王子がだれなのか、わからなくなってしまいます。
そこで、姫の父親である皇帝は、いちばん素晴らしい「魔法の品」を持ち帰った王子と姫を結婚させるといいます。3人は旅に出て魔法の品を見つけるのですが、旅の途中で姫が重い病気であることを知ります。
王子たちの魔法の品はどれも、姫の病を救うことになるのですが、ハリマ姫の聡明な洞察力で、3人の性格と自分に対する愛の深さを見抜いてしまいます。
翻訳で悩んだところは、この物語のテーマである、「姫」「愛」「恋」「結婚」などの漢字は小学低学年で習いませんが、あえて漢字をつかうか、ひらがなにするかでした。結果、漢字を採用してルビを入れました。ひらがなにすると締りがない文章になるからです。
それから訳文の推敲を重ねているとA4サイズ4枚から3枚まで絞りこみができ、余分な脂肪をごっそり落とすことができました。原書は中学生でも訳せる程度の簡単な英単語ですが、意味はわかっても、文章にすると難しいのです。単語が簡単だと、よけいその傾向があります。
英文とイラストが合わないものは、絵を優先して訳しました。また3人は性格が違うわけですから、言葉づかいも3様にしようと、エミール王子は目上の人に対して敬語を使うようにしましたが、ラマン王子とサルマン王子の違いをはっきり出すことができませんでした。セリフの量に起因していると思います。
編集:
翻訳をされていると、色々な訳文が浮かんでくると思います。
使いたい言葉や文があっても、どこかで区切りを着けなければいけない難しさがあったと思いますが、今回、作品が出来上がって絵本を手にしたときのお気持ちはいかがでしたか。
北川さん:
10世紀以降の中東の国。(原書にでてくるThe sultanやByzantiumの名称から推測)舞台は宮廷。話し方や、語尾はどんなだったかは、アラビアンナイトの話や、この時代を舞台にした絵本を参考に、自分なりに想像して訳文しました。訳者によって、いろいろ違うと思います。
仕上がった作品は、日本語がすっきり収まっていて、フォントサイズもバランスが良いように思います。またイラストの色がきれいに出ていて満足しています。
編集:
最後にこれからの抱負や翻訳してみたい作品のことなどをお聞かせくだい。
北川さん:
2017年に出版された『28DAYS運命をかえた黒人たち・すべては夢のために』のような皆さんに知られていない隠れた歴史、または世界の子供のホームレス事情、ナチス政権時代のゲットーの子供たち、電車のリサイクル問題など、子供たちに知ってもらいたいノンフィクションをご紹介したいです。難しいですが、1年ぐらいかけて、ていねいに勉強してみたいです。
編集:
本日は素敵なお話をありがとうございました。
次回もお会いできるのを楽しみにしていますね。
北川さん:
こちらこそお世話になりました。
【記事で紹介された作品】

編集:
はじめにプロフィールと最近の活動についてお聞かせください。
北川さん:
オギャーァと産声をあげた時から、書籍、ピアノの美しい音色の中で育ちました。
父親は戦前から書店を営み、12歳違いの姉は音楽家を志していました。私は姉の影響もあり、そのまま音楽大学に進学し、卒業後は35年間音楽講師を勤めました。
私の幼少期は、たくさんの文学作品に囲まれていたにもかかわらず、絵本と漫画ばかり読んでいて、時間がなくなった今、学生時代にたっぷり読書をしておけばよかったなぁと、後悔の日々です。
しかし、絵本は「読み聞かせの会」「室内楽と絵本のコラボ」でも繋がっていたことに気づきました。今は魅力あふれる絵本のとりこです。(笑)
現在はバベル翻訳専門職大学院で翻訳を学びながら、世界中の絵本をリサーチし、子ども達に伝えたい素晴らしい作品を探したり、「マジソン郡の橋」の原書を左側、右側に翻訳本を置き、どうしたらこんなにもドンピシャな語彙を絡み合わせて、流れるような文章が書けるのか感心しながら、見比べて楽しんでいます。(笑)
編集:
なるほどですね。お父様は戦前から書店を営んでいたのですね。そう考えると、絵本のとりこになったのも頷けます。また、幸せな環境で翻訳生活をされているということも分かりますね。早速ですが、北川さんが翻訳を学び、翻訳家を目指そうと思ったきっかけなどありましたら、お聞かせください。
北川さん:
幼児の生徒さんにはピアノのレッスンの後、ごほうびに絵本の読み聞かせをしますが、父母も交え、生徒は楽しみにしています。また子供中心のコンサートでは、絵本を読み進めながら、楽器で動物の鳴き声を表現したり、ストーリにあわせた楽曲を選んで、ピアノや弦楽器、管楽器で演奏して、音色(おんしょく)や緩急、強弱を駆使して想像の世界に導きます。楽器つきで(特にハープの希望が多い)「読み聞かせの会」をたのまれたりすることもあり、絵本との繋がりは強くなっています。孫が産まれてからは益々熱くなり、原書を訳してみるようにもなりました。そして自分で納得のいく翻訳文を書こうと、バベル翻訳専門職大学院で学ぶ事にしたのです。過去にも翻訳コンクールには参加したことはありますが、絵本翻訳のルールは別だということを、バベルで学ぶようになってから知りました。大学受験のときも英文科は選択肢に、はいっていたぐらい、学生時代から英語は好きでしたね。
私は持病があり、若くもないですから、いつまで頑張れるかわかりませんが、
翻訳しているときは夢中で、病のことは忘れていられます。
2018年ノーベル医学生理学賞を受賞した本庶佑(ほんじょたすく)博士は、6つのCが大切だとおっしゃっています。好奇心(curiosity)、挑戦(challenge)、勇気(courage)、集中力(concentration)、確信(confidence)、継続(continuation)、これは、何歳になってからでも、あてはまる言葉です。もしも、孫の子供が、そして、その後に続く子供たちが、私が翻訳した絵本を読んで何かを感じ取ってくれたら、素敵なことだと思っています。今私は、最後の夢の実現に向かって進んでいるのかもしれません。
編集:
夢の実現って素敵ですね。ちなみに私達にとっても、北川さんの実現を見続けていくことが夢の実現といえます。
北川さんの過去の翻訳作品として『ベイリーはくぶつかんに いく』『28DAYS』『スタンとメイベル音楽隊』がありますが、今回『3人の王子』を出版されたのは、どんな理由や思いがあったのでしょうか。
北川さん:
私は冨田麗子先生主催の翻訳グループで勉強を継続しております。その中で取り上げていただいた作品の中に、イラストレーターの かわこうせい(Cosei Kawa)さんの原書で、『Rifka Takes a Bow』がありました。
イラストがとても美しく、私の好きな画家、シャガールの色とタッチにとてもよく似ていて、頭の片隅に記憶しておきました。
そして今回再び、かわこうせい さんの作品『3人の王子』(原作名;The Three Princes)にめぐり会ったのです。
ストーリーは子供たちにもわかる、「愛」と「おもいやり」がテーマです。
子供たちが成長して、尊敬される大人になってほしいとの願いを込めて翻訳いたしました。
編集:
きっと、北川さんの願いは子供たちに伝わるとおもいます。『3人の王子』の内容の紹介と、翻訳された感想、楽しかったこと、苦労したことをお聞かせくださいますか。
北川さん:
背丈も顔もそっくりの3人の王子たち。父親でさえ見分けがつかず、おしゃれなラマン王子には赤いルビー、冗談好きなサルマンには青いサファイア、スポーツ万能のエミールには緑のエメラルドの指輪を与えて区別しています。
そんな3人は、となりの国の美しいハリマ姫に心をうばわれます。
ハリマ姫も王子の1人に恋をしますが、3人の悪ふざけで、愛している王子がだれなのか、わからなくなってしまいます。
そこで、姫の父親である皇帝は、いちばん素晴らしい「魔法の品」を持ち帰った王子と姫を結婚させるといいます。3人は旅に出て魔法の品を見つけるのですが、旅の途中で姫が重い病気であることを知ります。
王子たちの魔法の品はどれも、姫の病を救うことになるのですが、ハリマ姫の聡明な洞察力で、3人の性格と自分に対する愛の深さを見抜いてしまいます。
翻訳で悩んだところは、この物語のテーマである、「姫」「愛」「恋」「結婚」などの漢字は小学低学年で習いませんが、あえて漢字をつかうか、ひらがなにするかでした。結果、漢字を採用してルビを入れました。ひらがなにすると締りがない文章になるからです。
それから訳文の推敲を重ねているとA4サイズ4枚から3枚まで絞りこみができ、余分な脂肪をごっそり落とすことができました。原書は中学生でも訳せる程度の簡単な英単語ですが、意味はわかっても、文章にすると難しいのです。単語が簡単だと、よけいその傾向があります。
英文とイラストが合わないものは、絵を優先して訳しました。また3人は性格が違うわけですから、言葉づかいも3様にしようと、エミール王子は目上の人に対して敬語を使うようにしましたが、ラマン王子とサルマン王子の違いをはっきり出すことができませんでした。セリフの量に起因していると思います。
編集:
翻訳をされていると、色々な訳文が浮かんでくると思います。
使いたい言葉や文があっても、どこかで区切りを着けなければいけない難しさがあったと思いますが、今回、作品が出来上がって絵本を手にしたときのお気持ちはいかがでしたか。
北川さん:
10世紀以降の中東の国。(原書にでてくるThe sultanやByzantiumの名称から推測)舞台は宮廷。話し方や、語尾はどんなだったかは、アラビアンナイトの話や、この時代を舞台にした絵本を参考に、自分なりに想像して訳文しました。訳者によって、いろいろ違うと思います。
仕上がった作品は、日本語がすっきり収まっていて、フォントサイズもバランスが良いように思います。またイラストの色がきれいに出ていて満足しています。
編集:
最後にこれからの抱負や翻訳してみたい作品のことなどをお聞かせくだい。
北川さん:
2017年に出版された『28DAYS運命をかえた黒人たち・すべては夢のために』のような皆さんに知られていない隠れた歴史、または世界の子供のホームレス事情、ナチス政権時代のゲットーの子供たち、電車のリサイクル問題など、子供たちに知ってもらいたいノンフィクションをご紹介したいです。難しいですが、1年ぐらいかけて、ていねいに勉強してみたいです。
編集:
本日は素敵なお話をありがとうございました。
次回もお会いできるのを楽しみにしていますね。
北川さん:
こちらこそお世話になりました。
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