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翻訳第二作! 『眠れる虎』の翻訳者・野崎詩織さん!

2018/01/10

翻訳第二作!
『眠れる虎』の翻訳者・野崎詩織さん!


 このコーナーでは、これまでたくさんの翻訳者にスポットを当て、
インタビューによって翻訳出版の動機や、その背景も探ってきました。

 連載190回目(1月10日号)では、『眠れる虎』の翻訳を手がけた野崎詩織さんのインタビューをお届けします。

今回2作目の翻訳作品の出版を実現した野崎さん。作品、作家にかける想い・愛情の深さが感じられるインタビューとなりました。
翻訳の喜びを追体験できるような内容です。ぜひお読みください!

編集部:
野崎さん、本日はよろしくお願いいたします。
前回の『夏の終わりに』出版時のインタビューからちょうど2年ぶりのご登場ですね。あれから何か変化はありましたか?

野崎詩織さん(以下、野崎さん):
こちらこそ、よろしくお願い致します。特に変わったことはありませんが、勤め先が、インターナショナルプリスクールから、キリスト教の保育園に変わったことですかね。


編集部:
今回『眠れる虎』という作品をお選びになったのには何か理由があったのですか?

野崎さん:
はい。主人の赴任先のデュッセルドルフで暮らしていた時に、ZDFがロザムンド・ピルチャーの作品をドラマ化したビデオを三つ取り寄せて大切に持ち帰ったのですが、そのうちの一つが前回訳した『夏の終わりに』で、もう一つが今回訳した『眠れる虎』でした。


編集部:
そうだったんですね!

野崎さん:
どちらもとても好きな作品で、日本に帰ってからも繰り返し繰り返し見ていました。『夏の終わりに』の作品を訳しながら、『眠れる虎』も趣味みたいにして、時間の空いた時に時々訳していました。

『夏の終わりに』が無事出版され、彼女の作品世界を沢山の人が読んで下さっている、という喜びから、『眠れる虎』の翻訳出版を決意しました。特に『眠れる虎』は、著者が比較的若い時に書いた作品ですが、まだ邦訳が出ていないということを知り、是非とも日本の読者の皆様に紹介したいと思いました。


編集部:
 前回はロザムンド・ピルチャーという作家との出逢いや作品世界への共感を語っていただきましたが、本作『眠れる虎』の翻訳に当たっては何を一番強くお感じになりましたか?

野崎さん:
やはり旅の文学というイメージでしょうか。
20歳の主人公セリーナが、どうしても父に会いたい、肉親を捜して自分のルーツに辿りつきたいという思いから、普段一人旅などしたことが無いのに、勇気をふりしぼって遠いスペインの島に赴き、そこで今まで味わったことの無い開放感や自由な暮らしを体験していく、というストーリーに共感する部分が大きかったです。


編集部:
ストーリーへの共感があったんですね。

野崎さん:
私自身も若い頃に単身ドイツに留学し、ヨーロッパの洗練された空気に触れて、かけがえのない時を過ごしたこととオーバーラップする部分がありました。また、『夏の終わりに』の出版をきっかけに、著者ロザムンド・ピルチャーさんにクリスマスやお誕生日の際にカードを送るようになったのですが、『眠れる虎』を訳している旨をお伝えしたところ、「是非、出版できるといいわね」と、お便りを頂いたことも大いに励みになりました。


編集部:
著者本人から言葉をもらえるのは嬉しいでしょうね!喜びもひとしおだと思います。

それでは、本の内容を紹介していただけますか?

野崎さん:
父を第二次世界大戦中、ノルマンディー上陸作戦の際に亡くし、出生と同時に母を亡くし、裕福な祖母に育てられた20歳のセリーナは、祖母の死後、その全財産を管理していた弁護士のロドニーと一か月後に結婚することになっていました。

ある日フィアンセのロドニーからプレゼントされた本の裏表紙に載った著者の写真に、セリーナの目は釘付けになりました。自ら操る船でスペインのバレアレス諸島の小さな島にたどり着いたイギリス人作家ジョージ・ダイヤーの顔写真は、会ったこともない、写真で見るだけであった自分の父の顔に生き写しだったのです。

一緒にバレアレス諸島に行って、父を探し出すのを手伝ってほしい、という願いを聞き入れてくれなかったフィアンセを残し、新緑のロンドンを後にしてセリーナは一人地中海の島へと赴きます。途中旅行用バッグは、航空会社の手違いで、違う便に載せられてしまったり、空港で財布を盗まれてしまったり、ようやくジョージ・ダイヤーのもとにたどり着いた時には、セリーナは無一文でした。

果たして、ジョージ・ダイヤーは、彼女の父だったのか否か……。美しい地中海に浮かぶ島で繰り広げられる人間ドラマ。恋あり涙あり、笑いあり、著者独自の作風で、自然と明るく開放的な太陽のもとへ誘われます。まるで自分のことのように、おおらかなスペインでの暮らしを追体験できるように描かれています。


編集部:
情景がありありと浮かび上がりますね。。。引き込まれてしまいました。

とても壮大な物語に、深いテーマがあると感じますが、野崎さんは本書のテーマは何だと思いますか?


野崎さん:
冒険というエッセンスを背景に、愛というテーマが語られていると感じました。

セリーナがロンドンから単身スペインの島にたどり着く旅。作家であるジョージ・ダイヤーが自分の船で数年間放浪し、マルセイユからスペインのバレアレス諸島の小さな島にたどり着いたという船の旅。そしてジョージの女友達のフランシスもまた、祖国アメリカからクルージングヨットで、この島にたどり着き移り住んでいます。

ここではないどこか、ある日どこかでエトランゼ、胸膨らませる期待と、少しの不安、そしてそれを克服した時の達成感が旅する人の心を魅了します。そんな非日常的な舞台で語られる愛。セリーナが追い求めた愛は、家族の愛、男女の愛……。自分を本当に幸せにしてくれる愛とは何なのか……。いずれもシンプルで、自分の気持ちに正直になった時に、遠いスペインの島で見つけていますね。日常と、非日常、この二つのコントラストが、翻訳している際にも私の心をとらえて離さない魅力でした。


編集部:
野崎さんの、この『眠れる虎』という作品に対する愛情が伝わって来ます。

翻訳中のエピソードなどありますか?


野崎さん:
読み進んでいくうちに、この『眠れる虎』の世界観が、フランク・シナトラの歌に出てくるような雰囲気がして、“ストレンジャーズ・イン・ザ・ナイト”(Strangers in The Night)や“優しく歌って“(Killing me softly)などの歌を聞きながら訳していました。

すると不思議なことに、話のクライマックスに近づくと、準主人公のジョージ・ダイヤーが、かなり重要な場面でフランク・シナトラの歌を口ずさむ、というシーンが出てきて、このシンクロニシティーというか偶然の一致にびっくりするやら嬉しいやらで。私のイメージしたフランク・シナトラの歌の雰囲気が、そのままこの『眠れる虎』の作品の背景に流れる通奏低音だったのだなと感じました。


編集部:
それはすごいですね!

野崎さん:
また、1950年代60年代の古き良き香りがして、主人公のジョージ・ダイヤーが、セリーナの旅を称して、「まさにジェット旅行だな、ロンドンで朝食を、ランチはスペインで、スーツケースはボンベイか」というセリフがあるのですが、この”Breakfast in Londonを、オードリー・ヘップバーン主演の映画「ティファニーで朝食を」をもじって、「ロンドンで朝食を」と訳しました。(翻訳の先生にはクエスチョンマークを付けられましたが……)実はこのオードリー・ヘップバーンの映画も、この小説を書くときに、ロザムンド・ピルチャーさんの頭の中にあったということが後になってわかりました。

ジョージ・ダイヤーが口ずさむフランク・シナトラの歌というのが、”I’ve Grown Accustomed To Her Face”(忘れられない彼女の顔)と言う歌で、オードリー・ヘップバーン主演の映画、「マイフェア・レディー」のラストシーンで、ヒンギスが歌い、主人公のイライザが寂しげにレコードに録音された自分の声を聴くヒンギスの姿に、彼の本当の心を知り、戻って来る、というラストシーンに出てくる歌だったのです。
オードリー・ヘップバーンの全盛期の映画の雰囲気とも相通じるものがあるな、としみじみと感じました。


編集部:
本当に不思議な。。。

野崎さん:
考えてみれば、ロザムンド・ピルチャーさんは、フランク・シナトラや、オードリー・ヘップバーンとほぼ同世代。彼らが流行歌や映画に出演し、全盛期だったころに青春時代を過ごされたのですものね。

そんな楽しい発見もあったのですが、反面、苦労した点といえば、スペイン語で書かれた箇所が多くて……。おそらく旅の雰囲気を醸し出すために、現地の言葉を使ったのでしょうね。また、フランス語やラテン語で書かれた箇所もありました。初めは、ラテン語だ、ということにも気づかず、同じインターナショナルプリスクールに勤めていた、スペイン人の同僚に尋ねてみると、「これはラテン語よ!」ということで、偶然(?)ラテン語の素養のあったその同僚から教えてもらうことができました。

あとは、ひらがなで書くべきか、漢字で書くべきかでも悩みましたね。同じ言葉でも、最初の章ではひらがなだったのに、後に出て来た時には漢字だったりして、それを統一させるのが大変でした。また、文学作品ですから、全て統一すればいいというわけではなく、ちゃんと文章の意味を考えながら、そのシチュエーションにあった選択をしなくてはいけないと思い神経を使いました。


編集部:
共感や理解があっても、やはり迷われたり悩まれたりしたんですね。

野崎さんがそのようにして翻訳をなさる理由をお聞きしたいのですが、翻訳を通じて伝えたいことや成し遂げたいことはありますか?

野崎さん:
やはり人々の心を癒してくれるような作品を訳していきたいですね。普段、ストレスの多い社会の中で暮らしているわけですから。夢とロマンを届けられたら、と思います。

また、私は日々、保育園の子供たちと過ごしているのですが、その子供たちの未来を支えるような作品を訳していけたらとも思います。保育園で一緒に過ごす時期はほんの数年ですが、その後の子供たちを支える指針として、道しるべとして、この子たちが大きくなったとき、道に迷ったときに読んでほしいストーリーを訳していけたら、と思っています。

何を大切に生きて行ったらいいのか……道に迷ったときに開いてもらえるような、生きる希望を見出したり、人生の砂漠で出会うオアシスのような作品を訳していけたら、と思っています。


編集部:
「人生の砂漠で出会うオアシス」、、、素晴らしいと思います。それを感じ、言葉の壁を超えて描き出せるのが野崎さんなんですね。

最後にこれからの抱負や翻訳してみたい作品のことなどをお聞かせくだい。


野崎さん:
そうですね。具体的にはまだ何も決まっていませんが、ロザムンド・ピルチャーさんの自叙伝みたいなものが出たら、是非訳してみたいですね。英語圏のものだけにとどまらず、ドイツ語圏のものでも、いい作品との出会いがあれば紹介していきたいです。
 

編集部:
野崎さんの感性で選ばれる作品が読めるのを、本当に楽しみにしています!

本日はありがとうございました。

 

 

『眠れる虎』 
著者 フィオナ・イングラム
翻訳 植月祐貨、角岡博子、久原孝俊、鈴木元子、ひおさなえ
監訳 ジェニファー森


 イギリスに住む二十歳のセリーナ・ブルースは、生まれる前に父を戦争で失くし、 出生と同時に母を失くし、お金持ちのおばあ様と、乳母に育てられた。セリーナは、おばあ様の死後、その全財産を管理していた弁護士のロドニーと結婚することになっていた。

 結婚式を一か月後に控えたセリーナは、フィアンセのロドニーからある本をプレゼントされる。 それは、ジョージ・ダイヤーという作家が、スペインのある小さな島、 カラ・フェルテへ自ら操る船の旅でたどり着き、現地の人と親しくなり、 ボートハウスを改造して住み、独自のライフスタイルについて綴ったものだった。 本の裏表紙に載ったその作家の顔写真に、セリーナは衝撃を受けた。 というのもその顔は、会ったこともない、写真で見るだけであった死んだ父 (行方不明、推定戦死)の顔にそっくりだったのだから。

 セリーナはその顔写真を頼りに、スペインへと赴いた。 第二次大戦後間もなく、ロンドンとスペインの小さな島を舞台に、 心の傷を乗り越えて、不器用だが自分らしく生きようとする人々の姿が描かれている。 厳しいしきたりのもとにロンドンでおばあ様と暮らしてきた孤独な娘セリーナが、 父を求めて出向いた、遠くスペインの小さな島で、明るい太陽の日差しのもと、 色彩の豊かな暮らしを体験していく……。

  読者も、まるで自分のことのように自由でおおらかなスペインでの暮らしを追体験できるような、ピルチャー独自の作風に、自然と、明るく開放的な太陽のもとへと誘われる。 恋あり、涙あり、笑いあり、ピルチャー43歳の時に書かれた作品が、 長い時を経て、今ベールを脱ぐ、本邦初公開ピルチャー珠玉の一作です。




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