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新訳『星の王子さま』の翻訳者、松村隆太郎さん

2014/08/10

8月10日号に登場の新人翻訳家は ―  松村隆太郎 さん。


毎月多くの翻訳書が出版され、新人翻訳家も多数誕生しています、これまでの出版経験を持つプロ翻訳家ばかりでなく、多様なチャンスを積極的に活用すること で、自己表現できる機会がひろがってきていることを感じます。編集部では、これらの新人翻訳家にスポットをあて、どんな方がデビューしているのかをご紹介 し、インタビューによって翻訳出版の動機や、その背景も探っていきます。

連載108回目の8月10日号では、新訳『星の王子さま』の翻訳者、松村隆太郎さんをご紹介します。

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編集:
はじめにプロフィールと最近の活動についてお聞かせください。
 
 

松村:
長いあいだ建築関係の仕事に携わっています。業務でフランス語、英語と接することは少なからずありましたが、出版に繋がるような形で翻訳に取り組んだことはありません。従って、プロフィールについては今回、『星の王子さま』の翻訳者紹介欄に記載されている内容をもって代えさせてください:
京都大学建築学科卒業後、40年近い商社勤務を経て現在マンション開発にたずさわっている。建築士、インテリアプランナー。商社時代、20歳代後半に不動産開発事業でベルギーに駐在し業務の必要に迫られ、生まれて初めてフランス語を学ぶ。好きなもの:ルネッサンス絵画、ゴシック建築、ルーヴル、蝶、ワイン、パスタ。夢:フランスの人気マンガ「アステリクスの冒険」の全巻翻訳。京都出身。
 
 

編集:
ご紹介いただきありがとうございます。建築がご専門とのことですが、商社にお勤めの際にフランス語を学ばれた背景や、翻訳を学び、翻訳家を目指そうと思ったきっかけを、それぞれ教えてくださいますか?
 
 

松村:
ベルギーに駐在し、ヨーロッパ文化とフランス語に触れたことが出発点です。初めてのフランス語は若かったことと、いい先生(ベルギーの歌手ジャック・ブレルの息女:フランス・ブレルさん)に恵まれたこともあり比較的吸収は速かったように思います。ただそれは建築、不動産、インテリアといった分野の言葉や業務に偏ったまま、仕事をこなしているだけであることは自覚していました。
 
そこで、もう少し文化や歴史にも目を向けようといろいろと試みたのですが、その一環として語学の勉強も兼ねて読みだした「アステリクスの冒険」の面白さに引きずり込まれ、いつの日かこの面白さを伝えられないかと思ったのが翻訳に興味を抱いたきっかけです。
 

編集:
なるほど。ベルギーでの出会いが、後に松村さんが翻訳に興味をお持ちになるきっかけになったと言っても過言ではありませんね。商社、しかも海外駐在となれば、ご多忙であったとお察しします。その中で、スキルアップのために日々努力を重ねていらしたことは素晴らしいですね! 
 
そのようにして語学に磨きをかけてこられた松村さんが『星の王子さま』を出版されたのは、どんな理由や思いがあったのでしょうか。
 

松村:
もともと『星の王子さま』が好きだったから翻訳してみようということではありません。学生の頃、日本語で読んで、なんとなくもの悲しく、不思議な話だという印象があるのみでした。昨年、たまたま所属しているALFI(仏検1級合格者の会)という団体から『星の王子さま』の翻訳プロジェクトがあることを紹介されました。興味を抱き、主催するバベルの翻訳オーディションを受け、合格して、共訳という形で作業を進めました。
 
翻訳を終えた今、大好きな本のひとつになったことは言うまでもありません。
 
 

編集:
そうだったのですか~。でも、弊社のプロジェクトを紹介され、興味をお持ちになってオーディションを受け、翻訳者として選ばれた、という一連のプロセスも、きっと何かのご縁ですね! そして全ての作業が終了し、あとは出版を待つばかりとなった今、松村さんがこの本を好きになったということは喜ばしい限りです~。
 
では、『星の王子さま』の内容を紹介していただき、翻訳された感想、楽しかったこと、苦労したことをお聞かせください。
 
 

松村:
まず内容からお話しましょう。作者サン=テグジュペリは1900年リヨン生まれのフランス人で飛行士であるとともに、作家としても活躍し、『星の王子さま』は第二次世界大戦中、亡命先のアメリカで執筆され1943年に出版された作品です。
 
冒頭の献辞の中で「大人もみな、はじめは子供でした (でも、それを覚えている大人はほとんどいません)」、とあるようにこの物語では王子さまという子供の目を通して、人間が生きてゆくうえでの悩み、疑問、あるいは現実の大人の世界の滑稽さなどが次々と描き出されています。
 
住んでいた小さな星で世話をしていたバラの花とのささいな喧嘩から、思い立って旅に出た王子さまは巡った6つの星でそれぞれ奇妙な大人たちと出会います。7番目に降り立った地球ではサハラ砂漠のど真ん中に不時着して途方にくれながら機体を修理している飛行士に出会いそれまでの話を聞いてもらいますが、王子さまのいろいろな疑問に答えてくれるまでには至りません。
 
悩みを抱えたままの王子さまは、次に砂漠でキツネに出会い、「絆を作り出すということが大切」、「本質的なことは目に見えない」、「きみはきみのバラに責任がある」と教えられ、ついにふるさとに帰る決心をしました。そして砂漠の黄金の毒ヘビにかまれ、跡も残さずに小さな星に戻っていったのです。
 
尚、本作品が初出版された翌年1944年に、作者が操縦する偵察機は地中海上空で行方不明となりました。
 
 

編集:
 
『星の王子さま』のお話をよくご存じなくとも、題名は聞いたことがある、という方は多いのではないでしょうか。それほど有名なサン=テグジュペリの作品ですね。私も昔読んだことがありますが、哲学的で難解な印象しかありませんでした。
 
ですが、時を経て改めて読んでみますと、日々生活の中で忘れてしまっている、人生で大切なことを想起してくれる作品だなと感じ、以前よりも物語がすんなり胸に入ってきました。
 
 

松村:
感想として、苦労したところをひとつ。翻訳を開始するにあたっての決め事として、使用語彙・漢字は小学校高学年から大人までの読者を対象とすることとしていたのですが、時折悩みが生じました。例えば - La nuit tomba - という文章が出てきます。単語の直訳では「夜が落ちた」ですし、普通の日本語では「夜になった」、或いは「日が暮れた」といったところでしょうか。
 
因みに過去に出版された、いくつかの翻訳を確認してみるとそのような訳になっていました。ただ、その言葉に至る経緯と情景を思い浮かべると、それではちょっとあっさりしすぎているような気がしたので、私はフランス語と言葉的に一致し、また、それ以上に日本語としても美しいと思われる「夜の帳が降りた」と訳しました。
 
ところが「帳」では最近の大学生でも読めないだろうとの意見が出て最終的には、「夜のとばりが降りた」に調整しています。
 
今回の翻訳は、今という時代に即していることを追求していますが、その一方で美しい日本語で表現することも目指しています。これは、ほんの一例で、このような試行錯誤の集大成として全体の訳がまとまっています。「苦労したところ」と書きましたが、実は、これが楽しいところでもあるのです。
 
 

編集:
夜のとばりが降りる……詩情あふれる、日本的な美しい表現ですね~。あの場面にはぴったりだと思います。ただ機械的に日本語に置き換えるのではなく、物語世界の「におい」や「色」を察知して、自然な美しい日本語に訳すことは難しいですが、やりがいがあるでしょうね。
 
ただ、おっしゃる通り、読者対象を決めると、使用する語彙や漢字にある程度の制約がありますから、これだ!という訳出をしても、漢字とカナどちらを選ぶかで文の印象が変わってきますので、頭を悩ませるところなのですね~! 
 
余談ですが、今は、昔からよく使っている言葉でも「差別用語に当てはまる」とかで、何かと制限がかってくる時代ですから、いろいろな意味で翻訳者は苦労が多いことでしょう。そういった諸々の事柄も踏まえたうえで、試行錯誤を繰り返し、作品が出来上がると、苦労もしたけど楽しかった!と思えるのでしょうね。
 
さて、このように、様々なご苦労と楽しさ(笑)を経て、最終原稿を手に取った時のお気持ちはいかがでしたか。
 
 

松村:
全ての文章とその表現を細かく訳出し、特に、語彙、語調、ニュアンスに注意しながら作業を進めました。予想していた以上に大変な作業であったので、共訳者、監訳者との調整を経て、最終原稿がまとまり、挿絵、表紙デザインも決まったうえで一気に読み下すと、ところどころに試行錯誤の跡が散らばっています。「ようやく纏まった」という満足感に浸りました。
                  
 

編集:
本文だけではなく、表紙の選定や挿絵の配置確認などの編集作業にも携わってこられたのですね。他の翻訳者の皆さんと長い行程を経て出来上がった原稿にご満足いただけて、こちらもうれしい限りです。完成本を手に取る日が待ち遠しいですね!
 
それでは、最後の質問となりますが、松村さんのこれからの抱負や翻訳してみたい作品のことなどをお聞かせくだい。
 
 

松村:
翻訳を目指すきっかけとなったフランスの人気漫画「アステリクスの冒険」の翻訳です。
≪アステリクスの冒険≫は英語を含む数多くの言語に翻訳され、殆どのヨーロッパや中南米諸国の、
子供から大人まであらゆる年代の人々に愛されており世界でも最も人気のあるフランス生まれのコミックと言ってよいでしょう。
 

編集:
世界でも著名な漫画のようですね。差し支えなければ、どんなお話か少々内容を教えてください~。
 
 

松村:
舞台は紀元前50年の古代ローマ時代。ガリアは全てカエサルの率いるローマ帝国に征服されていました。しかし、それは厳密には正しくなく、ガリア北西部にある一つの小さな村だけはローマ軍に周囲を取り囲まれながらも、カエサルに屈せず依然として抵抗を続けていました。
 
ストーリー展開の面白さ、美しいデッサンに加え冒険の合間にはローマ軍や海賊との乱闘シーン、友情・同朋愛の精神、知的センスに富んだギャグ・風刺など溢れんばかりのユーモアが散りばめられており、読者はいつも主人公のアステリクスたちと共に新たな冒険への期待に胸を躍らせながら旅立つことができます。
 

編集:
いろいろな要素が詰まっていて面白そうですね! フランスでも「MANGA」が人気と聞いていましたが、日本の作品だけでなく、オリジナルにも読み応えのある作品があったとは存じませんでした。個人的には古代ローマの歴史も大好きなので、是非「アステリクスの冒険」を読んでみたいです。でも……私、フランス語はからっきしダメなので(苦笑)、是非松村さんが翻訳出版されることを期待しております! 
 
現在携わっていらっしゃるお仕事と同様、フランス語翻訳にも更なる磨きをかけて、近い将来、ご興味のある本を翻訳されますことを祈っております。本日はどうもありがとうございました。
 

 
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新訳 『星の王子さま』 

著者:サン=テグジュぺリ (Saint-Exupéry )

訳者:赤松輝美 岡田道子 グルジリア純希 シュルモリ国岡なつみ MAGOME Rina 松村隆太郎

監訳者:片木智年

 

本書は、フランス人作家・飛行士であるサン=テグジュぺリの代表作、

Le Petit Prince”の新訳です。

小さな星に住んでいた王子さまは、育てていたバラのわがままに愛想をつかして星を飛び出し、いろいろな惑星を巡っていました。そこで数々の風変わりな大人たちに出会います。

王子さまは最後に地球にたどり着きました。あるとき、不時着した砂漠で飛行機を修理している飛行士に会い、これまでの旅の話しを聞かせます。

そして、砂漠で出会ったキツネに「大切なことは、目に見えない」、「物事の本質を見ること」などを教えられた王子さまは、自分が育てたバラがかけがえのない存在であることに気づき、星へ帰る決心をするのでした。

子供のころの純粋さを忘れた大人たちへのメッセージが、優しく染み入る作品です。

Amazon (アマゾン) で、『星の王子さま』がご注文いただけます!

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他にも、『5セント玉に導かれて』、『モンタナの風に吹かれて』など、

今後もバベルのオンラインワークショップでの作品がアマゾンでご購入いただけます。

どうぞお楽しみにお待ちください~♪

 

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