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東アジア・ニュースレター ― 海外メディアからみた東アジアと日本 ― 第125回

2021/05/22

東アジア・ニュースレター
――海外メディアからみた東アジアと日本――
第125回








前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト
バベル翻訳大学院プロフェッサー 

 
 
 中国人口危機の真只中にあり、家族計画抜本的な変革が必要だとメディアが主張し、習政権の対応が注目されている。一人の女性の生涯出産率(合計特殊出生率)は1.3と予想され、高齢化社会が目前に迫っていると警告する。少子高齢化対策に障害となる問題として、中国社会で根強く続く高い男子出生率、教育の高度化に伴い急増する学卒者の雇用問題地域の経済格差の拡大と東北部などの貧困地域で進む少子化の動きなどを挙げる。人口危機を回避するためにベビーブームを必要としているが、小さな対策では十分ではないと指摘する。

 台湾関係では、米政府の長年の政策、「戦略的あいまいさ」転換を求める意見が米国内で浮上している。軍事活動を積極化し防衛能力を増す中国に対して、米政府は強いメッセージを発する必要があるとの主張に対し、中国を好戦的にして米国の利益を損なう行動に向かわせると懸念する見方が対立している。特に台湾再統一を後回しせずに実行する必要性について語る習主席、もしくは自信過剰になるかもしれない脅威を真剣に受け止めるべきだと指摘されている。中国、とりわけ軍を自信過剰にさせないために米政府は「戦略的あいまいさ」から脱却すべき時に来ているのではないか。習と軍の力関係も注視していく必要がある。

 韓国経済は民間消費が停滞するなか、輸出主導の経済成長を続けており、これには為替操作をめぐる米国との衝突、住宅市場の過熱とそれに伴う家計債務の増加という2つのリスクがあるとメディアが警告する。為替政策をめぐる衝突については、米財務省が最新の半期為替報告書で韓国を中国、日本など他の10カ国とともに通貨政策の「監視対象」に指定しており、韓国としても気の許せない問題となっている。家計債務問題は以前から韓国経済の一つのアキレス腱として問題視され、最近では不動産、特に住宅市場の過熱が政治問題化している。政府として早急な対応に迫られている。

 北朝鮮関係では、バイデン米政権が北朝鮮に関する新政策を打ち出した。詳細は未だ不明だが、トランプ前大統領の一発勝負のサミット外交とオバマ元大統領の危機に対して一定の距離を置く政策とのバランスを取り、「外交に対する調整された実用的なアプローチ」を目指しているとされる。北朝鮮外務省の当局者は、バイデン大統領の議会での発言から分かるように、米現政権の北朝鮮に対する敵対的政策はほとんど変わらないことが明らかだと批判する。これはバイデン大統領が4月に議会合同会議でイランと北朝鮮の核開発を「アメリカの安全保障と世界の安全保障に対する深刻な脅威」と述べたことを指しており、北朝鮮の新政策への反応については、今しばらく時間をかけて見極める必要があると思われる。

 東南アジア関係では、インドネシア中央銀行がコロナウイルス流行のために落ち込む経済のテコ入れのために政策金利史上最低に引き下げ、今回もこの水準で据え置いた。輸出入や製造業が伸びるなか、経済の半分を占める消費が低迷しているために今年の成長率見通しは引き下げざるを得ない状況にある。他方、先進国経済が改善するに伴い資金がインドネシアなどの新興国市場から逃げ出し、このため通貨ルピアも下落基調にあり、中央銀行が景気刺激のために金利を引き下げようとしても通貨安を招くために引き下げに動けない。中央銀行はコロナ禍通貨安への対応という難しい状況に置かれている。

 インドでコロナウイルス感染症が大流行し、危機的状態にある。メディアは初期の対応は大胆だったが、時期尚早ロックダウンを解除して感染が全国的に広がり、変異株が現れ、連邦政府の対応が小出しで遅く、今日の大流行を招いたと批判する。対策として、中央がコントロールする新たなロックダウンが必要だが、連邦政府は経済と貧困層への悪影響を恐れて十分に動いていないと指摘。代替策として生活資金の給付移動制限の組み合わせを提案する。 

 主要紙社説・論説欄では、4月にワシントンで開催された日米首脳会談に関する主要メディアの報道と論調を取り上げた。

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北東アジア


中 国

☆ 人口危機に見舞われる中国

 5月11日、中国政府は昨年実施された10年に一度の国勢調査の結果を発表した。同日付ニューヨーク・タイムズは、出生率の低下と人口の高齢化が進み、世界第2位の経済の労働人口が縮小していると報じ、次のように警告する。
 人口増加率は1960年代以降で最も低く、中国が人口危機の真只中にあることを示した。この結果を踏まえて政府は、家族計画のさらなる制限緩和に迫られるだろう。家族計画は何十年もの間、中国社会の最も家庭的な側面、すなわち結婚、出産、子育てを形作ってきた。しかし当局が家族計画を完全に自由にするのに極めて消極的だったために劇的な変化が必要となっている。
 それでは急速に高齢化する中国における出生率は今後どうなるだろうか。この問題に対する答は衝撃的だ。平均して中国女性は生涯でわずか1.3人の子供を産む予想されている。これは世界最低の出生率にランクされる。世界銀行のデータによると、これより低い出生率の国は2019年には韓国、シンガポール、マルタ、ウクライナ、スペインの5カ国にとどまる。中国における昨年の公式新生児数はわずか1200万人と、壊滅的な飢饉から抜け出した1961年以来の最少となった。
 専門家は、パンデミックが主因かもしれないと指摘したが、出生数は4年連続で減少している。数字が示すように、明らかに高齢化危機はすぐに解決される問題ではないのだ。高齢者の人口に占める比率が増える一方で、彼らを支える若年労働力は減少しており、年金基金と高齢者のための未発展の施設が圧迫されるのは確実である。現在60歳以上の成人は人口の18.7%を占めているが2010年には13.3%だったのだ。
 北京大学で人口統計学の専門家の梁建章は、政府がまもなく出生率の残りの制限を解除すると予想していると語る。5年前に一人っ子政策を終了し、家族が2人の子供を持つことを認めたが、それ以上の子供を持つ家庭は罰せられたり、給付金を拒否されたりしていた。今年発表された最新の5カ年計画は、出産に対するさらに「包括的な」政策を公約しており、一部の未婚女性やゲイカップルも体外受精のような生殖技術への権利とアクセスが拡大されると期待している。しかし、こうした公約にもかかわらず、当局は特定グループに大きな制限を課したりしている。新疆ウイグル自治区では、少数民族であるイスラム教徒支配の取り組みの一環として、当局は女性に出産を減らすよう強制している。
 ここ数十年間、中国では男性の数が多いことが最も根深い問題の一つだった。これは女性胎児の中絶や女子を捨て子にすることを家族に奨励していた一人っ子政策の産物である。ただし国勢調査のデータは、こうした慣行が後退し始めたことを示した。新生児の女性100に対して現在、男性は111.3であるが、10年前は118.1だった。人口統計学を研究する香港科学技術大学のスチュアート・ギーテル・バステン教授は、「男女間の役割や価値に関する見方の変化への対応を示す前向きの動きだ」と述べる。しかし男子の出生比率はまだ通常よりも高く、男子優先思考の残存を示唆していると付け加えた。
 さらに記事は、少子化対策に立ちはだかる問題として教育水準の高度化と雇用の問題ついて次のように報じる。中国は教育の普及向上で大きく前進した。2010年から20年にかけて、大学卒業生の数は10万人中8930人から1万5467人へと73%増加した。現在、人口の約15%を占める2億1800万人以上が大学教育を受けている。この比率はOECD諸国平均の39%よりは依然として遅れをとっているが、1997年に大学生と大学院生が350万人にも満たなかった国にとっては大きな成果である。
 それでも専門家は、学卒者の急増は新たな問題を提起すると指摘する。彼らを雇用する高給職が少ないのである。中国経済は依然としてブルーカラー労働に大きく依存している。国家統計局の寧局長は、火曜日の国勢調査に関する記者会見でこうしたギャップを認めた。ギーテル・バステン教授は、高等教育を受けた若者が安定した仕事を見つけられない限り、出生率はさらに低下するかもしれないと警告する。「学卒者が失業し、良い仕事に就くのが難しい状況のなかで、子供を増やしたいと思うだろうか」と疑問を提起する。
 記事はまた、富裕地域と貧困地域の格差拡大について次のように報じる。富裕な中心部が成長を続ける一方で、貧しい地域は発展が遅れている。2010年から20年にかけて、東北部居住者の割合は1.2%減少し、高度に発展した東部居住者のシェアは2.15%増加した。遼寧、吉林、黒竜江省を含む東北部は、しばしば中国のラストベルトと呼ばれ、かつて活気に満ちた産業の中心地であり、経済的資源の集積地だった。しかし近年、この地域が衰退するに伴い人口も減少している。他方、北京、上海、広東省、浙江省などの東部地域は活況を続けており、その一因は急速な都市化にあるとみられている。国勢調査によると、都市人口シェアは過去10年間で14.2%増加し、全体の64%近くに達している。
 専門家は、不利な経済状況によって東北部は、悪循環の罠に陥っていると述べる。人々は子供を持つことを望まないと同時により良い機会と公共的便益を求めて東北部から流出しているのである。「教育、年金、医療の地域差は非常に大きい」とカリフォルニア大学アーバイン校の社会学教授ワン・フェンは言う。北東部の過疎化が続くに伴い、格差はさらに顕著になるかもしれないと同教授は付け加える。
 以上のように記事は、中国が人口危機の真只中にあると指摘し、家族計画の抜本的な変革が必要だと論じる。今後の見通しについては、女性の合計特殊出生率は1.3と予想され、高齢化社会が目前に迫っていると警告する。さらに少子高齢化対策にとって障害となる問題として、中国社会で根強く続く高い男子出生率、教育の高度化に伴い急増する学卒者の雇用問題、地域の経済格差の拡大と東北部などの貧困地域で進む少子化の動きなどを挙げる。
 しかし、国勢調査の結果発表後の政策当局からの最初の公式コメントは、中国の人口はまだ成長しているという発言だったと5月11日付ワシントン・ポストは報じる。同紙は、中国当局は中国の人口が縮小に転じる転換点に達したのではないかという噂を拒絶したと述べ、ただし、それでも当局者は高齢化と根強い低出生率へ対処という迫り来る人口動態の課題を認めたと伝え、中国は人口危機を回避するためにベビーブームを必要としており、小さな対策では十分ではないと指摘する。今日の中国の内外に渡る強権的政策は、急成長を続ける経済が支えている。その経済に挑戦する人口危機に対して、習政権が小さな政策ではない、大胆な政策を打ち出せるのか大いに注目したい。

台 湾

☆ 「戦略的あいまいさ」にこだわる米政府

 米政府は何十年もの間、台湾防衛に関して「戦略的あいまいさ」という政策を保持してきた。これには台湾が独立を宣言し、中国が台湾占領のために軍事行動を起こすのを阻止する狙いがあった。しかし一部の専門家は、米国の台湾防衛の意志を中国政府に対して明確にするために「戦略的明確さ」へ移行するよう求めている。これに対して米政府は、公式に台湾防衛を宣言するのを避けていると5月5日付フィナンシャル・タイムズが伝える。
 記事によれば、一部のアナリストは、積極的な軍事活動と防衛能力を増す中国に対しては、米政府からの強いメッセージが必要になっていると主張する。しかしホワイトハウスにおけるアジア問題の権威カート・キャンベルは、中国の攻撃から台湾を守ると宣言することには、「重大な欠点」があると語る。すなわち戦略的「あいまいさ」から「明快さ」への転換は中国を好戦的にするという「望ましくない結果」をもたらすだろうと懸念を表明する。また中国は台湾問題で「一線」を越えることについて米国に警告しており、こうした対応は望ましくない結果を引き起こす可能性があると反論する意見もある。最近アヴリル・ヘインズ国家情報長官は、中国は米政府の政策転換を「事態を深く」不安定化させると述べており、「これにより中国は米国が軍事力を含む中国の台頭を抑止しようとしているという認識を強固にし、おそらく世界中の米国の利益を損なう行動に積極的に打って出るだろう」と警告する。
 他方、変更を支持する外交問題評議会のデイヴィッド・サックス研究員は、「戦略的あいまいさ」は、中国が台湾を攻撃する軍事力を持たない時期に生まれた政策で、重大な欠点がある」と主張する。「米国の政策は、抑止力が侵食され、中国の成長能力に適応しなければならない現実を認識して立案されるべきだ。香港における中国の行動は、西側の批判と制裁が中国の振る舞いを形作るのに不十分なことを示す。戦略的な明快さは、台湾の将来に関する問題に対する我々の真剣な姿勢を中国に伝えるだろう」と述べる。
 世界は台湾をめぐる紛争の可能性に備えるべきかとの質問に対し、キャンベルは中国の軍事活動は台湾への「圧力を増す」試みだと述べてリスクを重くみなかった。しかしシンクタンクのフーバー研究所のエリザベス・エコノミーは「習近平の演説のすべてを読み行動を追跡すると、言動の間にかなり強い相関関係があることが分かる」と語る。「習は台湾再統一を後回しせずに実行する必要性について語り、武力行使を放棄していない。彼が自信過剰になるか、軍が自信過剰になるかもしれない脅威を非常に真剣に受け止める必要がある」と述べる。
 ブルッキングス研究所の中国専門家ライアン・ハスは、キャンベルの意見は重要だと語る。台湾ほど言葉の厳密さが意味を持つ問題は他にまずないからだと指摘。「キャンベルが、長年の政策に繰り返し言及したのは、着実さと断固とした姿勢が台湾問題に対処するための政策であり続けることを示す。彼のコメントは、米国当局者による自由気ままな将来の台湾政策に歯止めをかけるものであるべきだ」とハスは説く。
 以上のように、米政府の長年の台湾政策である「戦略的あいまいさ」を転換させる時期にきているとの意見が米国内で台頭している。転換論者は、軍事活動を積極化し防衛能力を増す中国に対して、米政府は強いメッセージを発する必要があると主張し、現状維持論者は中国を好戦的にし、世界中の米国の利益を損なう行動に打って出ると懸念を示す。特に習主席が台湾再統一を後回しせずに実行する必要性について語っており、彼が自信過剰になるか、軍が自信過剰になるかもしれない脅威を真剣に受け止めるべきだとの指摘が見過ごせない。中国、とりわけ軍を自信過剰にさせないために、米政府は戦略的あいまいさから脱却すべき時に来ているのではないか。同時に習と軍の力関係も十分注視していく必要がある。


韓 国

☆ 輸出依存経済に2つのリスク

 5月5日付ウォール・ストリート・ジャーナルは、韓国経済について、台湾と同様にいびつな経済回復を遂げており、これには2つのリスクがあると指摘。輸出の成長を過度に重視するマクロ経済政策を進めると、経済が脆弱になるのが不可避だと警告する。記事は先週、韓国経済は予想を上回る経済成長率を遂げたことが明らかになったと述べ、今年第1四半期のモノの輸出は、新型コロナウイルスの感染拡大が起きる前の19年第4四半期と比べて4.4%増加したが、民間消費は同じ基準でマイナス5.5%と低迷が続いていると指摘する。
 次いで、こうした不均衡はさまざまな問題を引き起こしかねず、結局のところ、外国為替市場の問題に行き着くと指摘する。台湾も韓国も自国通貨が高くなりすぎて輸出競争力を阻害されるのを嫌っているが、このまま行けば2つのリスクが浮上するとし、第一に外貨準備が膨れ上がり為替操作をめぐって米国と衝突することになるとし、今すぐそれが起きないとしても米財務省がいつまでも黙ってはないだろうと警告する。第二にもっと複雑かつ長期的に一段と憂慮されるリスクがあるとし、中央銀行が最も避けたいのは金利を引き上げ、それぞれの通貨の上昇を後押しすることだが、金利を非常に低く維持し、財政政策ではなく金融政策を軸にして需要を下支えするのは、住宅市場と結びついた金融の脆弱性を悪化させる可能性が高いと危惧を表明する。
 さらに記事は、家計債務の問題について次のように警告する。国際金融協会(IIF)によると、韓国の家計債務は20年末時点で国内総生産比102.8%と先進諸国と比べても高い水準にある。韓国は、こうした高い債務比率がもたらし得る波乱効果を認識しており、住宅市場を鎮静化しようと繰り返し試みてきた。だが、政府債務を回避し、輸出の成長を過度に    重視するマクロ経済政策を進めすぎると脆弱性が積み上がることは必至だ。
 なお、住宅市場と結びついた金融の脆弱性の問題について同紙は、3月15日付記事でも韓国では住宅価格の高騰と家計債務の急増が国の成長可能性に対する深刻な脅威となっていると報じていた。記事は、韓国の家計債務の収入に対する返済比率は12.8%と米国の7.6%やドイツの6.1%を大きく上回り、非金融企業の債務額も対GDP比で110%と、アジア金融危機後の99年に記録した過去最高をほんのわずかに下回る高水準にあると伝える。昨年また政府は、住宅の転売に課すキャピタルゲイン税を引き上げるなどの規制強化を行ったものの、住宅価格の高騰や負債の増加に歯止めをかけられなかったと述べ、今後4年間で83万6000戸超の住宅を建設するという野心的計画もあるが、価格効果が表れるには時間がかかるだろうと指摘する。
 以上のようにウォール・ストリート・ジャーナルは、民間消費が停滞するなかで輸出主導の経済成長を続ける韓国経済について2つのリスクがあると指摘し、為替操作をめぐる米国との衝突、住宅市場の過熱とそれに伴う家計債務の増加を挙げている。第1の為替政策をめぐる米国との衝突の問題については、4月16日付ロイター通信は、米財務省が同日、貿易相手国の通貨政策を分析した半期為替報告書を公表(これが最新となる)、韓国を中国、日本など他の10カ国とともに通貨政策の「監視対象」に指定したと報じており、韓国としても気の許せない問題となっている。第2の家計債務問題は以前から韓国経済の一つのアキレス腱として問題視され、最近では不動産、特に住宅市場の過熱が政治問題化している。いずれも政府として真剣な対応に迫られており、注視していきたい。


北 朝 鮮

☆ 対北朝鮮政策を見直す米バイデン政権

 米ホワイトハウスのジェン・プサキ報道官は金曜日、政権は朝鮮半島の完全な非核化を目標に、米国の対北朝鮮政策の見直しを完了したと述べ、「過去4政権の努力がこの目的を達成していないことを明確に理解している」と語ったと5月2日付ワシントン・ポストが伝える。
 ただし記事は、4月29日にバイデン大統領が議会合同会議での演説でイランと北朝鮮の核開発を「アメリカの安全保障と世界の安全保障に対する深刻な脅威」と呼び、「外交と厳しい抑止力」を通じて対応すると公約したことに関連し、北朝鮮は怒りの反応を示していたと報じる。北朝鮮外務省で米国を担当するクォン・ジョングン(Kwon Jong Gun)局長は、バイデン大統領のコメントは「耐え難い」と述べ、声明の中で「半世紀以上も実施している北朝鮮に対する敵対的政策を続けるという意図を明確に反映している」と非難したと伝える。
 さらに記事は新しい北朝鮮政策について、この計画に詳しい米当局者はワシントン・ポスト紙に対して、新政策はトランプ大統領の一発勝負のサミット外交とオバマ大統領の危機に対して一定の距離を置く政策とのバランスを取ることを目指し、「外交に対する調整された実用的なアプローチ」を提案するもので、米国に対する脅威を排除することを目標にしていると語ったと報じる。
 これに対して北朝鮮のクォン局長は怒りの声明を発し、バイデン大統領の議会におけるコメントから現政権の北朝鮮に対する見方はほとんど変わらないことが明らかになっていると述べる。米外交は、韓国との合同軍事演習など、北朝鮮に対する敵対的行為を隠蔽するための「偽りの看板」であり、アメリカ政府の抑止の話は核兵器で北朝鮮を脅かす方法に過ぎないと批判。それは、北朝鮮が米国に対抗するために自国の「強力な抑止力」を構築する必要があることを明確にしたと同氏は言う。「米国は、冷戦志向の認識と視点から時代遅れの政策を引き続き保持して朝鮮民主主義人民共和国と米国の関係を捉えていると、近い将来制御不能な危機に直面するだろう。米国のわが国に対する新政策の基調が明らかになった今、我々は対応する措置を取らざるを得ず、そのうちに米国は非常に重大な状況に置かれるだろう」
以上のようにバイデン米新政権は、北朝鮮に関する新政策を打ち出した。詳細は未だ明らかにされていないが、記事はトランプ大統領の一発勝負の指導者間外交とオバマ大統領の危機に対して一定の距離を置く政策とのバランスを取り、「外交に対する調整された実用的なアプローチ」を目指していると伝える。問題は北朝鮮の反応だが、外務省当局者は怒りの声明を発し、バイデン大統領の議会での発言から分かるように米現政権の北朝鮮に対する敵対的な見方はほとんど変わらないことを明らかにしていると批判していると報じられている。ただし記事が指摘するように、こうした北朝鮮当局者の反発は、4月にバイデン大統領が議会合同会議でイランと北朝鮮の核開発を「アメリカの安全保障と世界の安全保障に対する深刻な脅威」と演説したことに関連している。北朝鮮側の新政策への反応は、今しばらく時間をかけて見極める必要があると思われる。


東南アジアほか

インドネシア

☆ 中銀、政策金利を史上最低水準で据え置く

 4月20日付ブルームバーグは、インドネシア中央銀行が政策金利を史上最低水準に据え置き、国内総生産の成長率見通しを引き下げたと次のように報じる。4月20日、バンク・インドネシア(中央銀行)は政策金利の7日物リバース・リパーチェス金利を過去最低の3.5%に据え置いた。ペリー・ワルジヨ総裁と役員会は、東南アジアで最悪のコロナウイルス流行の中で2020年初から政策金利を150BP引き下げている。
 また中央銀行は今年の国内総生産(GDP)成長率について、現在のところ4.1%から5.1%拡大すると予測していると語り、前回の4.3%から5.3%の見通しを引き下げた。当局者は、東南アジア最大の経済大国のインドネシアが今四半期には7%成長すると予想しているが、これまでのところ回復は一時的である。輸出入の伸びはここ数年ぶりの高水準にあり、製造業は拡大しているが小売売上高やコアインフレなどの需要指標は依然として低迷している。消費がインドネシア経済の半分以上を占めるなか、政府はラマダン中のオンライン購入の送料を負担するなど支援方法を模索すると共に7月までにバリ島などの主要観光地を再開しようとしている。
 先進国の景気回復が定着するに伴い、投資家はインドネシアのような新興国市場から逃げ出し、新興国資産に対する需要を減退させている。ルピアは中央銀行の介入が繰り返されているにもかかわらず、今年これまでのところアジアで最もパフォーマンスの悪い通貨の一つとなり、対米ドルで3.2%下落した。世界のファンドは今年4月中旬時点で、インドネシア政府証券をネット12億ドル売却した。
 こうした通貨の乱高下が、経済を支えようとするインドネシア中央銀行の努力を複雑にしている。経済は過去20年以上で最悪だった昨年以降も足がかりを求めている。インフレ率は引き続き目標を下回っており、経済は第1四半期にはさらに縮小すると予想されているが、米利回りの上昇によりインドネシアの金融当局はさらに金利を引き下げる余地が限られている。ルピアは利下げ決定後1ドル当たり0.3%上昇して14.498ルピアとなった。ルピアは以前1ドル当たり14.483ルピアと0.5%も上昇し、3月30日以来の最高値を付けていた。ベンチマーク株価指数は若干落ち込み0.2%下落して終えている。
 以上のようにインドネシア中央銀行は、コロナウイルス流行のために落ち込む経済をテコ入れするために政策金利を史上最低に引き下げ、今回もこの水準で据え置いた。しかし輸出入や製造業が伸びるなか、経済の半分を占める消費が低迷しているために今年の成長率見通しは引き下げざるを得ない状況にある。他方、先進国経済が改善するに伴い、資金がインドネシアなどの新興国市場から逃げ出し、このため通貨ルピアも下落基調にあり、中央銀行は景気刺激のために金利を引き下げようとしてもこれが通貨安を招くために引き下げに動けない。中央銀行はコロナ禍と通貨安への対応という難しい状況に置かれている。


インド

☆ インドのコロナ危機は世界の問題

 5月7日付ブルームバーグは、インドでは新たに41万人余りの感染が報告され、1日当たりの最多を更新し、国内各地で病床が逼迫、火葬場では対応が追い付かない状況となっていると報じる。しかも政府発表のコロナ死者数は実際の数よりも少ない可能性があると専門家らは指摘していると述べ、モディ首相はこれまで全土のロックダウン(都市封鎖)に消極的で、各州が独自の制限措置を行うことで感染拡大を抑えようとしていると伝える。
 こうしたインドで起きたコロナ危機は、世界のどの国にも起こり得る問題だとニューヨーク・タイムズは5月6日付論説記事で警告する。記事の筆者は2019年に世界の貧困緩和対策でノーベル経済学賞を受賞したバネルジー博士とデュフロ博士の両氏である。記事によれば、インドはウイルス襲来時、唐突にシャットダウンを断行し、その後、あまりに早急に再開に動いた。20年3月、まだ多くの感染者が出ていない状況のなか、4時間の予告で封鎖を実行し、このため何百万人もの人々、その多くは出稼ぎ労働者が食料と避難所なしで立ち往生した。こうした経済被害に直面した政府は、パンデミックが本格化する前に封鎖を解いたのである。3月と4月に死者が再び増加し始めたがインド各州はその事実に目を閉ざし、ひたすら消えて無くなるのを望むだけだった。
 当然のことながら、州政府は行動を起こさざるを得なくなるまで引き伸ばした。結局、インドでのウイルス第一波は原因不明なまま終息したが、その間、コロナウイルスは全国に蔓延し、新しい変異株が現れた。しかも連邦政府が責任を以て問題の処理に当たろうとしなかったために変異株の動きを真に追跡するものはいなかった。このため、小出しで遅すぎるという対応が今の大流行を生み出した。政府は現在、騒ぎ立て始めているがそれでも国家的戦略という考えを受け入れるのには消極的なようだ。
 しかしインドが現在、中央が調整する新しいロックダウンを必要としていることは明らかだ。すでに十分な規模の感染が発生している地域(感染症は地域的にはまだ国土の4分の1未満に集中している)を対象とし、必要な場所をカバーするために徐々に広げていくのだ。依然として当局の対応が遅い一因は、ロックダウンの再開に伴って経済と特に貧しい人々がどうなるかについて危惧していることがある。連邦政府が対応を早められるとすれば、ロックダウンされた場所で何であれ政府発行の身分証明を持つ者に生活を維持する現金の給付を約束することであろう。これは地区間の移動に関する制限と組み合わせる必要があり、それを行う時が今なのだ。
 ワクチン接種も同様である。連邦政府の立場は、予防接種はすべての人に開かれているが、個人または州のどちらかがそれを支払う必要がある。その結果、余裕のある人は予防接種を受け、余裕のない人々の分を支払う州もあろうが、そうでなければ自己負担となる。したがって誰もが無料の予防接種を受けられるようにするために十分な行政力と人材をつぎ込めば、パニック状態のインドとひいては世界を守ることになろう。しかし世界はインドを超えて事態を見据え、タイミングの判断で同じ過ち犯すのを避ける必要がある。私たちは、ウイルスがどれだけ速く移動できるかに気づけなかった第一波の失敗を繰り返す余裕はない。また米国とヨーロッパの予防接種キャンペーンの進展によって、国家が誤った安心感に陥ってはならない。
 上記のように論じた記事は最後に次のように提言する。インドで最初に発見された変異ウイルス(B.1.617)は、現在インドをはるかに超えて広がっている。インドでは、予防接種を受けた人の中に再感染している人もいるようである。西側で入手可能な「より良い」ワクチンが私たちを必ず救うと考えるのは愚かだ。リーダーや科学者は、ブースターショット(効果を高める追加注射)、新ワクチン、マスク、封鎖解除の延長を含む変異株と戦う方策について理解を深める必要がある。
 以上のようにインドは初期の対応は大胆だったが、時期尚早にロックダウンを解除し、この間に感染が全国的に広がり、変異株が現れ、これに対する連邦政府の対応が小出しで遅く今日の大流行を招いたとメディアは報じる。対策として、中央がコントロールする新たなロックダウンが必要だが、連邦政府は経済と貧困層への悪影響を恐れて十分に動いていないと指摘。代替策として生活資金の給付と移動制限の組み合わせを提案している。ワクチンについても接種を進める一方で、変異株への有効性に疑問を呈しているのが注目される。

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主要紙の社説・論説から

日米首脳会談と岐路に立つ日米同盟


 4月16日、菅義偉首相は外国指導者として初めてワシントンを訪問し、バイデン大統領と対面で会談した。今回は、この首脳会談前後における主要メディアの報道と論調を観察した。以下はその要約と概括である。

要約:菅首相のワシントン訪問に先立つ4月14日付ニューヨーク・タイムズ記事は、ホワイトハウスに招かれた最初の外国指導者である菅首相は、アジア地域の安定に脅威を及ぼす中国に全面的に対峙するよう迫られそうだと述べ、東アジア国際安全保障の専門家は「我々はアジアが脅威の焦点になっている全く新しい時代にあり、日本はその脅威の最前線におり、日米同盟は岐路に立っており、増大する中国の脅威と国際秩序に対する中国の政策にどのように対応したいのかを決めなければならないと語っていると伝える。さらに両首脳が話し合うと予想される議題として、コロナウイルスの大流行、貿易、半導体などの部品のサプライチェーンの確保の重要性、北朝鮮の核の脅威、気候変動に関する共通目標などを挙げが、今回のサミットでは、世界とアジア太平洋について大きな話をすべきだとの元駐米大使の藤崎一郎氏の言も伝える。
 そのうえで記事は、日本は自由で開かれたインド太平洋地域の維持の必要性などの曖昧で大雑把な表現を好み、中国やその最も敏感な利益への言及を避ける根深い本能があるが、日本は軍事紛争が起きた場合に取るべき行動について明示するよう迫られていると述べ、そのリスクは尖閣諸島よりも台湾海峡の方が大きいと警告する。先月、オースティン米国防長官とブリンケン米国務長官が東京を訪問した際に共同声明で「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調したが、菅・バイデン会談後の共同声明で同様の表現が盛り込まれれば、1969年の佐藤・ニクソン首脳会談以来のことになると指摘する。
 さらに記事は想定される議題として人権やミャンマーのクーデターを挙げ、バイデン政権は、新疆ウイグル地区でのイスラム教徒弾圧をジェノサイドと呼び、中国当局に制裁を科し、ミャンマーの将軍にも制裁を加えているが、中国と膨大な貿易を行い、ミャンマーに投資している日本は経済制裁などの直接的な行動に慎重だと批判する。また気候変動に関しては、海外の石炭プロジェクトの財政支援を止めるよう日本を説得しようとするかもしれないと述べる。
記事は最後に、菅氏は実りあるワシントン訪問が政治的に脆弱な国内の立ち位置を強化することを望んでいると思われると述べ、国民は菅政権のパンデミック管理とワクチン投与の遅れに不満を持ち、また大多数は今夏の東京五輪開催の決定に反対していると指摘、今回の訪米の成否は、菅氏がバイデン氏と信頼関係を築くかどうかにかかっているだろうと主張する。

 4月15日付ブルームバーグ記事は、「アジアで指導力を発揮すべき日本」と題する社説で、バイデン大統領が菅義偉首相を最初の公式ゲストに選んだ理由として、日本は長い間、米国がアジアで戦略上の成功を収めるための要で米国は5万5000人という世界最多の軍隊(troops)を日本に配備していると指摘。日本はまた米国債の最大の保有者にして第4位の貿易相手国で、日本企業は重要なテクノロジーサプライチェーンの主要プレーヤーであり、インドとオーストラリアを加えたクワッド(The Quad)メンバーと共に中国の地域的野心をチェックする米国の取り組みの中心となると伝える。
 さらに日本は菅の前任である安倍晋三の下で、米国と他のアジア諸国とのかけがえのない架け橋にもなってきたと述べ、クワッドや「自由で開かれたインド太平洋」の概念は共に安倍のアイデアだったと指摘。日本は東南アジアの多くの国にとって、米中両国よりも貿易・安全保障のパートナーとして信頼されており、防衛問題に関する日本の協力は公然と歓迎していると報じる。菅政権もすでに中国政府の怒りを買うリスクを取りながら、新疆と香港における中国の行動と台湾を脅迫する試みを批判し、オーストラリアと正式な防衛協定を結び、ミャンマーの軍政に対しては新たな援助を停止したと述べる。
 しかし、もう少し大胆さが必要だと述べ、次のような項目への協力を求める。米国の環太平洋経済連携協定(TPP)再加入の障害への対処や中国加入のための取引基準の引き下げ圧力への抵抗、中国とのデカップリングに動く米国の自滅的保護主義の防止、日米資源のアジア諸国の最も懸念する問題(ワクチン生産の増加、コロナ危機後の回復、長期的なインフラプロジェクト)への集中、重要資源の中国依存懸念を米企業と共有する日本企業のアジア全域での強靭なサプライチェーン確立への貢献、さらに軍事面では新長距離対艦巡航ミサイルの開発や地上ミサイル防衛への協力、台湾有事の際の自衛隊の支援態勢に関する対話への関与、また人権問題への率直なアプローチ、特にミャンマー軍事政権への圧力増大を挙げ、日本は地域のリーダーとして、さらに貴重な存在となり得ると提言する。

 4月16日付ワシントン・ポスト記事も、バイデン大統領が最初の対面会談の外国指導者として日本の菅首相を選んだのは、自己主張を強める中国とその他の世界的な課題に対処するための同盟強化のためであり、両首脳はトランプ時代の政治的混乱や米国と民主主義全体が衰退しているという中国の習近平国家主席からのメッセージに対抗しようとしていると指摘する。首脳会談のテーマとしては、北朝鮮の核開発を含む他の地域安全保障、半導体不足とサプライチェーンの問題を挙げ、台湾について公的支援声明を菅に迫るなど厳しい要求を突きつけるかもしれないと予想。中国も菅首相の訪米に先立って王毅外相が中日関係は「主要国間のいわゆる対立に関与しない」ことに留意するよう日本側に警告したと報じる。

 次に上記のように論じ、報じられた首脳会談の結果に関するメディアの報道や論調をみていく。4月20日付ウォール・ストリート・ジャーナルは社説で、日本の菅義偉首相は米国のアジア戦略に明確な支持示したが、課題はソフトパワーの協力にあると論じる。社説は先ず菅氏が、「東シナ海や南シナ海における力による現状変更の試みや他者に対する威圧に反対する」という米アジア戦略の主要テーマに歩み寄り、台湾海峡と新疆ウイグル自治区の状況に言及したと述べ、米側も歓迎したと報じる。日本にとっても菅氏はバイデン大統領が執務室で会談する最初の外国首脳となり、対日関係重視の姿勢を示し、米国が日本国内で受けが悪かったり、日中関係を険悪化させたりしかねない言質を求めなかったのが良かったと指摘する。
 ただし菅氏は台湾と新疆ウイグル自治区に関するコメントには含みを持たせていたと述べ、台湾については、これまでのコンセンサスの再確認と表現し、新疆ウイグル自治区については日本の立場や取り組みについて説明したとの表現にとどめ、共同声明でも「ジェノサイド(民族大量虐殺)」という言葉を使わなかったと指摘する。日本は地理、経済、歴史の全てで中国と繋がっており、軍事力や領有権で主張を強める中国には断固たる対応が必要だと理解しているものの、産業界も国民も過度に対立したくないと考えている述べ、日本のコンセンサスは変わりつつあるが、戦後の伝統である慎重な外交は一晩にして変わらず、なお米国の数歩後ろにとどまるのを望んでいると分析する。
 さらに社説は米側の問題として、オバマ、トランプ両政権の下で米政策が揺れ動き、日本はひどく痛めつけられ、バイデン政権の中国政策に十分な確信を持ちえていないと述べる。具体的には、中国の南シナ海での人工島造成に対するオバマ氏の軟弱な対応やトランプ政権による環太平洋連携協定(TPP)からの離脱、最近では菅氏訪米中のケリー大統領特使による気候に関する中国との重要取引の推進やバイデン政権によるインフレ調整後の国防予算の小幅な削減提案などを挙げ、菅氏にとって最も賢明な道は、米政府の気分を害さずに中国に過度な衝撃を与えないことであり、まさにこれを達成したようだと指摘する。
 社説は最後に、米国と特定国の間の最も重要な国際関係は日本との同盟だと述べ、米国にとって日本は経済力、技術力、地理的位置からみて中国と対峙する有効な連合体構築に不可欠であり、日本は米国の力強く安定したサポートがなければ、中国の前庭で独立した大国として存続できないという事実が米国と日本を結び付けているが、民主主義国家間の同盟は現実的政治だけで成り立たないと主張。人的交流、さまざまな社会的分野での相互理解、運命共同体の認識など同盟の持つソフトパワーの面で日本は、英国やイスラエルなどの他の同盟国と米国との間の結びつきよりも著しく弱いと指摘する。そのうえで、日本で学んだり日本語能力試験(JLPT)に参加したりする米国人学生の少なさ、人口当たりで日本の約2倍の学生を米国留学に送り出している中国、アジアの学生を対象とした英語能力試験で日本の学生の順位を下回ったのはラオスとタジキスタンだけだったなどの事実、さらに日本について深い知識を持つ米国の学者、シンクタンクの研究者、ジャーナリストはほとんどいないことを挙げ、日米同盟は引き続き米国外交の基盤になるとみられるなか、両国関係の支えとなる社会・文化面の関係を築くことが喫緊の課題だと強調する。

 4月21日付フィナンシャル・タイムズも、米国の支援を受けて対中姿勢を硬化する日本と題する論説記事(筆者はダートマス大学政治学准教授でチャタム・ハウス研究員のジェニファー・リンド)で、会談後の共同声明で台湾海峡に言及したことに触れ、この声明文は菅のワシントン訪問前に米側から提案されており、米当局者は高まる中国の対台圧力への対応を望んでいたと報じ、日本政府がどこまで台湾の防衛に対して踏み込むかという疑問が提起されたと指摘する。
 記事は、日本政府は地域戦争に引き込まれることを長年懸念して、同盟国の米国と台湾について話し合うことを控えてきたと述べ、集団安全保障という考えに神経を尖らせ、また現在最大の貿易相手国である中国に敵対することを避けようとしてきたとし、菅氏の台湾について語る意欲は、こうした長年の行動規範からの顕著な逸脱となると評する。
 次いで記事は、菅がバイデン大統領就任後、初めてホワイトハウスを訪問した外国の指導者であることは、日本(そして中国)が米外交政策の中心にあることを示していると述べ、直後に米印日豪による中国に対抗するインド太平洋「クワッド」(“Quad”)の初の首脳会談が開催され、さらにバイデンは米国のアフガニスタンからの撤退を発表したことにより、米国はインド太平洋に集中できるようになったと指摘する。ただしクワッドが中国に立ち向かう軍事的意志と能力を持つかどうかは不明確であり、クワッド強化のために、国防政策と安全保障政策の調整や軍事面の相互運用性の向上を目指した演習の実施を提唱する意見があると述べ、中国の軍事力増強(特に大規模な海軍とミサイルの拡大)によってアジアの軍事バランスが変わっており、訪米中の菅氏の「同盟の抑止力と対応力を強化しなければならない」との言や、オースティン国防長官が米軍事態勢の見直しを命じたことにより米軍の船舶、兵員さらには長距離ミサイルが増加する可能性が出てきたことへ支持を表明する。
 記事は最後に、日本が「自国の国防能力を強化することを決意した」と述べたことに触れ、これは何十年もの間、米国が日本に対して促してきたことだが、日本は非友好的な隣人が裏庭に広大な軍隊を築き上げているのを目の当りにしながら、決定を留保してきたと指摘。台湾支援どころか、日本自身の防衛のために日本政府は防衛費を臆せずに増やし、そのためには日本の指導者は、気の進まない国民と率直な対話を交わさなければならず、国民は増大する脅威にどう対処するかを決断する必要があると主張する。

結び:以上が日米首脳会談に関するメディアの論調であるが、これを次の5つの視点から概括してみたい。
 第1は、日本が増大する中国の脅威の最前線にいるという指摘である。ただし、これは正確には目下、最前線に立っているのは台湾というべきだろう。メディアも軍事紛争のリスクは尖閣諸島より台湾海峡が高いと警告している。とはいえ、この脅威を前にして、日本は立ち位置をいっそう明確にする必要に迫られている。その意味で、日本と日米同盟は岐路に立たされている。こうした状況を踏まえて、日米両国は首脳会談後の共同声明で「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調したが、メディアはさらに台湾有事に際しての自衛隊の支援態勢を検討すべきだと問題を提起する。平和憲法を持つ日本にとって極めつけの難問と言えるが、許される範囲内での行動について具体的に検討しておくべきであろう。また台湾以前の問題として日本は自身の防衛のために防衛費を増やし、そのために指導者は国民と率直な対話を交わし、国民は増大する脅威にどう対処するかを決断すべきだ、とメディアは主張する。日本として真剣に受け止めるべき提言である。

 第2に、南シナ海において増大する中国の脅威への対処の問題である。日本は安倍前首相の下で米国とアジア諸国との架け橋となり、クワッドや「自由で開かれたインド太平洋」という政策を打ち出し、多くの東南アジア諸国にとって米中両国よりも貿易・安全保障のパートナーとして信頼されているとメディアは評価する。これは確かに今後も大事にすべき日本の資産と言える。クワッドについては、中国に立ち向かう軍事的意志と能力を持つかどうかは不明確だとメディアは懸念を示している。同時にメディアは、訪米中の菅氏が「同盟の抑止力と対応力を強化しなければならない」と語り、「自国の国防能力を強化することを決意した」と述べたと伝える。構想を主導した日本は当然腰砕けになってはならないだろう。

 第3に、メディアは中国での人権問題やミャンマーのクーデターを挙げ、バイデン政権は新疆ウイグル地区のイスラム教徒弾圧で中国制裁を科し、ミャンマーの将軍にも制裁を加えているが、膨大な対中貿易とミャンマー投資を抱える日本は経済制裁に慎重だと批判する。日本として何らかの対応が必要なことは明らかである。そうした具体的対策として、マグニツキー・スタイルの制裁法案が検討されていることに注目したい。
第4に、菅氏はワシントン訪問が脆弱な国内政治基盤の強化に繋がることを望んでいるようだと述べ、菅政権のパンデミック管理とワクチン投与の遅れに対する国民の不満や東京五輪開催の決定への大多数の反対などを挙げ、今回の訪米の成否は、菅氏がバイデン氏と信頼関係を築くかどうかにかかっていると指摘する。今後の両首脳の動向をこうした観点からも注目する必要がある。

 第5に、メディアは民主主義国家間の同盟は現実的政治だけで成り立たないと主張し、人的交流、さまざまな社会的分野での相互理解、運命共同体の認識など同盟の持つソフトパワーの面で日本は、英国やイスラエルなどの他の同盟国と米国との間の結びつきよりも著しく弱いと指摘する。そのうえで日本や日本語を学ぶ米国人学生の少なさや人口当たりで日本の約2倍の米国留学生を送り出す中国、日本の学生の低い英語能力などを挙げ、さらに日本について深い知識を持つ米国の学者、シンクタンク研究者、ジャーナリストはほとんどいないと指摘する。耳に痛い率直かつ貴重な助言として謙虚に受け止め、日時を要する問題であるとしても即刻対応に動くべきだろう。

 以上の他にメディアは、米中間の貿易問題やアジア全域でのサプライチェーン確立など経済問題への日本による協力の必要性に言及する。いずれも日本と地域の安全保障と関連する重要課題であり、また日本として否応なしに巻き込まれる問題でもあり、積極的に関与していくべきだ。
 菅氏は米アジア戦略の主要テーマに歩み寄り、米国も日本国内で受けが悪かったり、日中関係を険悪化させたりしかねない言質を求めなかったとメディアは伝えるが、それが事実とすれば幸運だったと言えよう。今後、日本が留意しなければならない問題の一つは、メディアが指摘するように、菅氏訪米中にケリー大統領特使を中国に派遣したり、対中強硬姿勢をとりながら国防予算の削減を提案したりするなどの米側の動きであろう。その意味で、菅首相が台湾問題の発言に含みを持たせたのは賢明だったと言えるかもしれない。

             § § § § § § § § § § 


(主要トピックス)

2021年
4月16日 菅義偉首相とバイデン米大統領、ホワイトハウスで初会談。共同声明で
                 台湾海峡について「平和と安定の重要性を強調する」と宣言。
       ミャンマーの民主化指導者アウン・サン・スー・チー氏を支持する
                「連邦議会代表委員会」、「挙国一致内閣」の発足を発表。
   17日 訪中したケリー米大統領特使(気候変動問題担当)、気候変動問題で米中が
                 協力して対策を進めることで一致との共同声明を発表。
   18日 訪韓中のケリー米特使、福島原発処理水問題で日本の立場への支持を
                 表明。
   21日 韓国のソウル中央地裁、元従軍慰安婦らが日本政府を相手取り損害賠償を
                 求めた訴訟で国際法上の「主権免除の原則」を認め、訴えを却下。
         東南アジア諸国連合(ASEAN)、臨時首脳会議を開催。ミャンマー情勢の
                 沈静化に向け現地への特使派遣などの調整を進める。
   23日 バイデン米大統領が呼びかけた気候変動に関する首脳会議(サミット)、
                 閉幕。
      25日 日中韓の政府や企業、経済連携を進める「協力開発対話」を
                 中国山東省済南市で開催。
      27日   茂木敏充外相、2021年版外交青書に東シナ海などで一方的な現状変更を
                 試みる中国について「日本を含む地域と国際社会の安全保障上の強い
                 懸念」と初めて表記。
      28日 バイデン米大統領、上下両院合同会議での施政方針演説で「21世紀を
                  勝ち抜くため中国やその他の国と競争している」と表明。
     日本の参議院本会議、RCEP協定を可決、日本のRCEP加盟を正式に
     承認。 タイ、シンガポール、中国に続く措置。
   30日 インドで新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化。
                 米、豪などインド滞在者の入国を原則禁止するなど入国制限を強化。
       国連安全保障理事会、ミャンマー情勢について非公式会合を開催。
                 暴力行為の即時停止や国軍と民主派の対話開始などASEAN首脳会議が
                 打ち出した「5項目の合意」の即時導入を促す。
5月  1日   ミャンマー国軍クーデターの発生から3カ月、国軍による市民への
                 武力弾圧続く。
  3日 主要7カ国(G7)外相会合、開幕。北朝鮮の完全非核化で一致。
  5日 インド準備銀行(中央銀行)、新型コロナウイルスの感染急増を受けて
                 医療産業向けの約7400億円の緊急資金供給を発表。
      茂木敏充外相、韓国の鄭義溶(チョン・ウィヨン)外相と英ロンドン市内で
                会談。
      G7外相会合、閉会。共同声明に、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調
                する文言を盛り込む。
  8日 インドと欧州連合(EU)、テレビ会議形式で首脳会議を開催、
                 自由貿易協定(FTA)の交渉再開で合意。
                 ミヤンマーの軍事政権、民主派が発足させた「挙国一致政府(NUG)」と
               「国民防衛隊」をテロ対策法に基づくテロ組織に指定。
   10日 就任5年目を迎えた韓国の文在寅大統領、不可逆的な平和へ進む最後の
      機会だと演説、北朝鮮に対話を呼びかけ。
   11日 中国国家統計局、2020年に実施した国勢調査の結果を発表。出生数が
                 2割減となり高齢化が加速。
   13日 中国外務省の華春瑩報道局長、東シナ海で離島防衛を想定した
                 日米仏豪4カ国による共同訓練を記者会見で「油のムダ遣い」と批判。
   14日 シンガポール、台湾でも新型コロナウイルスの感染が拡大。
                 外食禁止など対策を強化。
      韓国の文在寅大統領、青瓦台(大統領府)で米国のヘインズ国家情報長官
                と会談、韓米間の懸案や朝鮮半島情勢などについて意見交換。
   15日 中国の無人探査機「天問1号」、火星着陸に成功。

主要資料は以下の通りで、原則、電子版を使用しています。(カッコ内は邦文名) THE WALL STREET JOURNAL (ウォール・ストリート・ジャーナル)、THE FINANCIAL TIMES (フィナンシャル・タイムズ)、THE NEWYORK TIMES (ニューヨーク・タイムズ)、THE LOS ANGELES TIMES (ロサンゼルス・タイムズ)、THE WASHINGTON POST (ワシントン・ポスト)、THE GUARDIAN (ガーディアン)、BLOOMBERG・BUSINESSWEEK (ブルームバーグ・ビジネスウイーク)、TIME (タイム)、THE ECONOMIST  (エコノミスト)、REUTER (ロイター通信)など。なお、韓国聯合ニュースや中国人民日報の日本語版なども参考資料として参照し、各国統計数値など一部資料は本邦紙も利用。

 
前田 高昭
金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。
訳書に『チャイナCEO』他。
『東アジアニュースレター』も配信中。
 

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