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東アジア・ニュースレター ― 海外メディアからみた東アジアと日本 ― 第122回

2021/02/22

東アジア・ニュースレター
――海外メディアからみた東アジアと日本――
第122回







前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト
           バベル翻訳大学院プロフェッサー 

 
 
 中国関係では、米バイデン新政権対中政策に関連して、メディアは厳しい対中姿勢と西側同盟国との結束の必要性を訴える。バイデン新大統領は民主主義国サミットを掲げるが、中国の習近平国家主席も似たような考え方を持ち、世界のリーダーシップを握るため伝統的な米同盟諸国を中国経済圏に取り込もうとするなど米国より一歩先んじて動いていると懸念を表わす。また中国市場への魅力、米の国際連携への思い入れに対する不安感などのために、同盟諸国が対中共同戦線への参加を渋る可能性も指摘する。さらにバイデン政権の具体的課題として関税戦争終結の方策、習氏の長期戦略への対処を挙げる。いずれも長期戦を覚悟しなければならない課題となろう。

 台湾と断交後も米国経済文化的な関係を維持し、かつ国内法によって台湾救援の権利を留保してきたが、メディアは、これらは非公式なもので中国を刺激しないようにいわばイチジクの葉で隠されてきたと述べる。しかしトランプ政権時のポンペオ国務長官は、退陣間際に米台当局者間の接触に関するすべての制約を「無効」と宣言し、このイチジクの葉を引き裂いたと指摘。しかもこの宣言はバイデン新政権と台湾に対する罠ともなっているとの見方を紹介する。

 韓国政府は、軍改革を静かに着実に進めている。背景として少子高齢化による徴兵制の行き詰まりリベラル化する社会への対応という国内要因と韓国を取り巻く国際環境の変化という地政学的要因が挙げられている。さらに韓国軍が有事指揮権を米側から取り戻すために軍の能力向上が必要という要因も指摘されている。改革の内容は兵員や部隊数の削減、徴兵期間の短縮、軍事衛星の打ち上げなどで伸び率がかなり急ピッチの国防費の増強が注目される。文大統領は北朝鮮問題の平和的解決や米国との強固な同盟関係を強調するが軍事力の維持強化にもまい進している実態が明らかになった。

 北朝鮮金正恩総書記は、米新大統領を挑発するのを好むのでバイデン政権はこれに備える必要があるとメディアが警告する。加えて北朝鮮はこれまでに空恐ろしいほどの核やミサイス兵器を製造し、その生産力を強化したと指摘。過去4代の米政権が経済圧力交渉組み合わせを通じて非核化を説得してきたが、この戦略はもはや現実的ではないとの専門家意見を伝える。要因として、金総書記は交渉の代償として核保有国の指導者としての認知と米韓軍事同盟の弱体化を望んでいることを挙げる。

 東南アジア関係では、ASEAN諸国バイデン新政権による東南アジアの安定と繁栄に向けた米国のコミットメント復活に大きな期待を寄せているとメディアが伝える。しかし、同時にパンデミックや景気対策、民主制度の毀損などの問題に気を取られている米国が本当にアジア回帰を果たせるかという疑問から逃れられないと報じる。ただし米新政権は中国の拡大に対抗するため、日米豪印の「クワッド(4カ国戦略対話)」だけでなく、トランプ氏が無視したASEAN諸国ともっと深く関わりたいと考えているとも伝えている。こうしたバイデン政権の今後の努力に期待したい。

 インド外国直接投資額累積で5000億ドルを突破した。ただメディアは、案件は小規模で守勢的なものが多く、さらにモディ政権が経済ナショナリスト政権でモディ首相も内向きの姿勢に向かっていると指摘する。また規制や政策変更が頻繁で外国企業にとって不確実性を生み出し、税法改正の遡及適用など外国企業に対する不平等な経営環境があると述べ、農業改革への反対運動が改革の後戻りを誘発し、外国企業の警戒感を呼び起こすことに懸念を示し、外国直接投資の先行きに疑問を呈している。
 主要紙社説・論説欄では、米国のバイデン新政権発足に関する主要メディアの論調を観察し、その要約を紹介した。

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北東アジア

中 国

米新政権と対中政策
 ジョー・バイデン米大統領の就任は、米国や他の西側同盟国にとって今日の、そしておそらく21世紀の地政学的問題に関する政策をリセットする重要な機会となろうと1月24日付フィナンシャル・タイムズが「Joe Biden and US allies need a joint approach to China (バイデンと米同盟国は共同で中国に対処すべし)」と題する社説で主張し、概略次のように論じる。

 香港、新疆自治区、インドそして台湾、豪州などに対する中国の行動を見ると中国政府は西側の影響力と民主主義の価値観に対する挑戦となることが明白となった。戦略的には、南シナ海の支配権に対する野心を露わにし、インド太平洋地域全般にわたって軍事的影響力を拡大している。人民解放軍は洗練さを増し、2049年までにはグローバルな戦争に勝利できる力を蓄えている。こうした事実にもかかわらず中国には魅力がある。世界の経済成長に最大のシェアをもって貢献し、貿易国として世界最大の地位を維持している。その協力は、特に気候変動が人類の生活を脅かすなか、世界共同体の将来にとっても欠かせない。

 しかし中国の世界貿易機関(WTO)加盟前の政策である「建設的な関与」も考えが甘かったことが証明されている。西側との貿易が何らかの形で中国の政治や社会に自由主義を教え込むだろうという誤った希望を生んだのだ。しかし、中国との関係にはもっと現実的な見方を取り入れる必要がある。バイデン氏は、トランプ政権は混乱を極めていたが中国政府に対する厳しい対応の有用性を理解していたことを認識すべきなのだ。

 ただし、バイデン氏はまた同盟国を結束できなかったことがトランプ氏の致命的欠陥だったことを明確に理解すべきだ。EUが20年末に中国と投資協定に合意したのは、トランプ時代における米国の影響力の衰退を映し出している。協定はバイデン・チームが先延ばしを訴えていたにもかかわらず合意されたのだ。有効に中国に対抗するためには、西側には優先と団結の心構えが必要である。中国政府は長い間に西側の首尾一貫しない姿勢を嗅ぎ分けることに熟達してきた。例えば、西側は中国の人権記録を批判してきたがそれを追求する具体的な罰則の計画がない。中国はまた、西側との結びつきが最も弱い国に商業上の魅力を提供し、西側の結束を簡単に崩す術を見つけ出している。

 以上のように社説は、バイデン米新政権に対して西側の挑戦者として台頭する中国には、従来の建設的関与に代わり、現実的な見方で対応すべきだと論じ、厳しい対中姿勢と西側同盟国との結束の必要性を訴える。

 こうした見方に対して1月8日付ウォール・ストリート・ジャーナルは「Biden Plans to Build a Grand Alliance to Counter China. It Won’t Be Easy. (日本版記事:バイデン氏が構想の対中国大連合、前途は多難)」と題する記事で、次期米大統領は不公正な競争を行う共産党政府に圧力をかけるべく、民主主義諸国の結束強化を画策しているが、問題は中国の習国家主席も同様に考えていることだと述べ、概略次のように論じる。

 バイデン次期米大統領は、中国に広範な圧力をかけるための西側民主主義諸国連合の結成を目指し、大統領の座に就く。トランプ大統領の単独主義アプローチと明確に決別するものだが、中国の習近平国家主席もこれまでに似たような考え方を示してきており、世界のリーダーシップを握るため公然と競争をしかけるなど米国より一歩先んじている。近年、習氏は米国の伝統的な同盟諸国を中国経済圏に取り込もうと積極的に動き回っている。このためバイデン氏は自身の政策目標の中で中国の位置付けをさらに高めることを強いられている。こうしたバイデン氏の対中政策の中核となるのは、「民主主義国のサミット(サミット・オブ・デモクラシーズ)」と呼ぶものだ。この計画は、核拡散を抑止するためにオバマ大統領が2012年に開催した核安全保障サミットをモデルとしている。オバマ氏のサミットの参加者には中国の指導者が含まれていたが、バイデン氏のサミットは習氏やその他の独裁主義的な指導者を排除する計画だ。バイデン氏の上級アドバイザーらによれば、これは、中国政府の独裁的統治と明確に対比される代替組織の創設を目指す。米国はまた、先進通信技術、人工知能(AI)など特定の問題を扱うもっと小規模な民主主義諸国のグループの結成も目指すだろう。

 バイデン氏が米国は多国間協力によって中国に圧力を加える必要があると主張しているのは、そうでなければ中国政府は巨大な自国市場へのアクセスを優遇する措置を提供することで、特定の国を他の国と対立させることが可能になるからだ。しかし、バイデン氏は対中共同戦線への参加を同盟諸国に受け入れさせるのに苦労するかもしれない。それは、巨大な中国市場の魅力という障害があるためだ。最近、中国とEUが投資協定で合意したこともその一例だ。米国がこれまで4年間の独自路線を歩んできたため、現在米国の同盟諸国は、米国が国際連携を長期的に支持することを確信できずにいる。

 しかし米国の同盟国の間で中国の挑戦的な行動に批判が高まっていることは、バイデン氏の多国間主義的な手法にとって都合が良い可能性がある。中国政府による香港の締め付け強化や好戦的な外交により緊張は一層高まっている。少なくとも発言上では、バイデン・チームは人権問題を優先事項の一つにすることを明確にしている。サミットへの招待リストも議論の的になる可能性がある。台湾を含めれば、中国政府が激怒するだろう。政府が宗派主義的な傾向を強めているインドを含めれば、参加者の民主主義への誠意に関する疑問が生じる一方で、インドを排除すればどんな同盟を構築したとしても効果は弱まるだろう。

 他方、中国当局者によれば、中国の指導者たちはトランプ政権下で深刻化した米国との対立の緩和を目指すとみられる。短期的に対応すべき課題は貿易戦争だ。トランプ政権は貿易戦争において、中国の年間対米輸出の4分の3に当たる3700億ドルの中国産品に関税を課した。この措置は約1年前の米中貿易合意第1段階へとつながり、中国は米国産品の購入を劇的に拡大することに同意したが、これまでのところ購入規模は表明した水準を大幅に下回っている。米大企業で構成するビジネス・ラウンドテーブルやその他の経済団体など、歴史的に中国寄りの団体は中国政府による企業向け補助金問題、国有企業による搾取的な行為など、トランプ政権が解決できなかった問題について、中国側からの譲歩を引き出すためにバイデン政権が関税撤廃を利用するよう求めている。

 しかし、バイデン氏のアドバイザーらは同氏が関税をすぐに引き下げることはないと述べている。バイデン氏は、行動を起こす前に同関税が米経済に与えている影響を分析し、同盟諸国と対応を協議する計画だ。現在同関税に反対している複数の経済団体は、バイデン氏が中国側の譲歩内容について交渉すべきだとしている。ただし、中国政府は米国側の対応を待ちたいと考えているようだ。

 中国当局者によると、習氏は多国間主義的なアプローチの方が生産的だと考えている。中国は、WTOや国連など国際的な組織を通じて行う取り組みを強化してきた。習氏の考えを知るある当局者は、「ルールをコントロールできれば、ゲームをコントロールできる」と話した。昨年11月、中国は日本、韓国、オーストラリアを含む14カ国とともに地域貿易協定である東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に調印した。同協定の交渉にかかわったアジアの外交官によれば、中国当局者は、同協定が日本に代替市場を提供するものであり、それによって米国への影響力(レバレッジ)が拡大すると日本側当局者に語っていた。この外交官は、「現在中国は、RCEPを米国に対して行使できるレバレッジとみなしている」と指摘。その理由として米国が引き続き中国との経済関係を弱めようとしても同協定により中国と他の加盟国の貿易が拡大するとみられることを挙げた。

 最後に記事は、バイデン・習サミットの問題についてクリントン政権で米通商代表部(USTR)代表を務め、中国のWTO加盟交渉に参加したシャーリーン・バシェフスキー氏は、早期のバイデン・習会談の開催には警鐘を鳴らしていると述べ、同氏は「2国間・地域・地球規模の戦略的意味を考えると会談は複雑な作業だ。単なる写真撮影の場ではない」と指摘したと伝える。

 以上のようにウォール・ストリート・ジャーナル記事は、バイデン新大統領はオバマ大統領の核安全保障サミットをモデルとした民主主義国のサミットを掲げ、中国に広範な圧力をかけようとしているが、中国の習近平国家主席もこれまでに似たような考え方を示してきており、世界のリーダーシップを握るため公然と競争をしかけ、米国の伝統的な同盟諸国を中国経済圏に取り込もうと積極的に動くなど米国より一歩先んじていると懸念を表わす。またこの他の問題点として、同盟諸国が中国市場への魅力や米の国際連携への思い入れに対する不安感などのために対中共同戦線への参加を渋る可能性、そしてサミットの構成メンバーを挙げる。ただし、同盟国の間で中国の挑戦的な行動に批判が高まっていることは米政権にとって好材料となろうと述べ、サミットのメンバーについては、インド、台湾の取り扱いが問題だと指摘する。対中政策の具体的課題としては、短期的には関税戦争終結の方策、長期的には習氏の上述のような戦略への対処が挙げられている。いずれもバイデン政権として長期戦を覚悟しなければならない課題となろう。また記事が、中国は加盟したRCEPを米国に対して行使できるレバレッジとみなしているとの指摘も注目される。


台 湾

☆ トランプ前米政権が仕掛けた罠

 1月16日付エコノミスト誌記事は、「退陣する米政権幹部は台湾に罠を仕掛けたか」と問い掛ける。記事は冒頭で、米国は台湾とは正式な国交を持っていないが、中国と国交を開いた1979年に制定した台湾関係法によって台湾が外部から圧力を受けた際には支援する権利を留保しており、また引き続き経済、文化的な関係を維持しているが、それらは全て非公式とされていると指摘。そのうえで概略次のように論じる。

 非公式という表現はイチジクの葉だと台北にある事実上の米国大使館の元代表であるカーネギー国際平和基金のダグラス・パールは語る。イチジクの葉は時の経過とともに成長し、中国から不必要な不興を買う根拠を与えないように多くの事柄を覆い隠していた。実質的な在台米国大使館である台湾協会に星条旗が掲げられたのは、わずか10年前だった。台湾は現在も在ワシントンの大使館に相当する事務所の外には、国旗を掲げないようにしている。しかしこの間、両国の当局者の間に密接な対話が芽生え、非公式の境界は慎重ながら広がりをみせている。 

 トランプ政権は、このイチジクの葉を引き裂きたいと思っていたようだ。トランプ前大統領は就任時に台湾の蔡英文総統からお祝いの電話を受け取って波紋を呼び起こしたが、同氏自身は台湾についてあまり気にしていなかった。それでも同政権には民主的な台湾の熱烈な支持者が登用されていた。彼等の使命の一つは、中国の急所を突くことだった。米台の当局者による相互の訪問を妨げるルールを緩和したのは、その一つである。また2019年には、台湾協会のブレント・クリステンセン会長が台湾のジョセフ・ウー外相と同省で記者会見を開いた。さらに昨年には、クリステンセン会長の相方となる蕭美琴(シャウ・ビィキム)駐米台北経済文化代表処代表(駐米大使に相当)は、デビッド・スティルウェル国務次官補に鳴り物入りで訪問し、8月には、アレックス・アザール厚生長官が1979年以来の最高位となる米当局者として訪台している。

 そうしたなかで1月9日のマイク・ポンペオ国務長官の短い声明ほど、イチジクの葉を引き裂いたものはなかった。米国と台湾の当局者間の接触に関するすべての制約を「無効」と宣言したのである。中国共産党体制をなだめるための制約は、もはや存在しないと同長官は宣言した。スティルウェル国務次官補は、制約の廃棄は古いルール見直しの集大成になると指摘するが、共和と民主の両党のアジア専門家は、これは次期大統領ジョー・バイデンに仕掛けられた罠だと指摘する。つまり、バイデン氏はこの動きを受け入れて中国と出だしで躓くか、さもなければ、勇敢な小さな台湾のために立ち上がらなかったとの国内の批判にさらされることになる。

 さらに悪いことにバラク・オバマの中国と台湾に関する政策責任者で現在ジョージタウン大学に勤務するエヴァン・メディロスは、ポンペオ氏の動きは台湾にとっても罠になると考えている。中国はここ数年、台湾に対して軍事的姿勢と外交的孤立を伴ういじめを強めてきた。今、中国に逆らうと台湾に対して航空出撃を増やしたり、台湾の残りの外交同盟国に離反を促したりするかもしれない。本当に台湾のことを気にするならば、メディロス氏は、台湾をこれ以上の軍事的圧力にさらさないようにすべきだと主張する。しかし台湾指導者の多くは、このリスクを喜んで取ろうとしているように見える。ソーシャルメディア上で、蕭氏と頼清徳(ウィリアム・ライ)副総統はポンペオ氏の宣言を歓迎している。過去において両氏は、台湾の中国からの正式独立宣言を口にしている。独立の大義を進めるために「彼らは茨の道に飛び込むのを辞さないだろう」とあるアジア通は語る。

 ただし、これとは対照的に蔡英文総統は慎重で、ポンペオ氏の決定についてコメントを控えている。少なくとも、蔡総統の盟友である立法院(国会に相当)外交・国防委員会の王定宇委員長は、台湾はバイデン氏に政権移行を完了する余裕を与えるべきで、中国の習近平国家主席にとっても敏感な時期だと述べ、台湾はアメリカの信頼できるパートナーとなり、トラブルメーカーになりたくない、と語る。これは、つまり必要に応じてイチジクの葉を付けると言う意味である。

 以上のように記事は、米国は台湾と断交後も経済、文化的な関係を維持し、かつ国内法によって台湾救援の権利を留保してきたが、これらは非公式なもので、中国を刺激しないようにいわばイチジクの葉で隠されてきたと述べる。しかし退陣するトランプ政権のポンペオ国務長官は、米台当局者間の接触に関するすべての制約を「無効」と宣言し、このイチジクの葉を引き裂いたと指摘、。しかもこの宣言は、バイデン新政権と台湾の双方に対する罠ともなっているとの見方を紹介する。ただし記事は最後に、蔡英文総統はこの宣言を活用することに慎重だと伝えている。その意味でバイデン政権の罠に対する今後の対応が注目される。


韓 国

☆ 軍の改革を進める政府

 2月6日付エコノミスト誌は、孤立を深め将来を危惧する韓国がそれに備えようと軍の改革に着手していると伝える。記事は冒頭で、韓国は兵士の数が減り、同盟が弱体化するなか敵は強化されており、このため軍の改革を急速に進めていると概略次のように報じる。

 近年の韓国軍の目に見える変化の一つに兵士に対する行動制限の緩和があるが、他にも多くの変化がある。政府は軍隊をもっと小規模で効率的にして、国が直面する脅威の変化に対処できるようにしたいと考えている。同時に、政治家は守らなければならない社会がますますリベラルになるなか、軍をそうした社会にもっと調和させたいと望んでいる。

 改革を推し進める一因は人口動態にある。韓国では世界最速で高齢化が進んでおり、昨年は記録を取り始めて以来、最初となる人口減少に遭遇している。そのため徴兵制によって組織される大規模な軍隊は持続不可能となったとソウル大学のシーン・ソンホ教授は語る。このため空海軍の増員や先端的兵器の増強などの軍の編成見直しに迫られている。

 加えて、韓国自体が警戒を強化すべき地政学的環境に置かれており、近代的な軍事力の重要性が高まっているとみられている。こうした状況の韓国を安保関係者は「クジラの群れの中のエビ」と好んで呼ぶ。中国も敵対的態度をみせてきている。2017年に韓国が主に北朝鮮に対する防衛として米国の対ミサイルシステムの配備を受け入れた後、中国は痛みを伴う経済的ボイコットで韓国を処罰した。日本との関係は、第2次世界大戦下での日本軍による強制労働者と従軍慰安婦に対する日本の責任問題に関する論議で損なわれている。北朝鮮とは依然としてテクニカルな戦争状態にあり、さらに同国は核兵器や伝統的兵器の増強を続けている。

 特に懸念されるのは、米国との同盟のダイナミクスの変化である。トランプ前大統領は、在韓米軍2万8500人の維持費用の多くを負担することを要求し続け、完全撤退を口にすらした。19年には、1961年から韓国と毎年行われていた合同演習を中止した。新大統領になっても、韓国が多くの責任を引き受け、情報収集、作戦計画、海空軍などの分野での能力開発を期待すると思われる。ただし、米国の目的はある程度同盟での発言権を強めたいと考えている韓国政府の目標と一致するところもある。現在、韓国軍の全指揮権は半島有事の際には米国に渡される。この取り決めは、朝鮮戦争中の同盟の起源にまでさかのぼるが、2000年代初頭、中道左派政権の盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領は指揮権を取り戻す能力の構築をしようと試みた。盧大統領の首席補佐官だった文在寅が率いる現在の政府は、来年の文氏の任期の終わりまでに指揮権の移管を完了させようとしているが、軍隊の能力がこの期限内に必要な程度にまで改善される可能性は低いとみられている。

 他の面の改革はこれより速く進んでいる。部隊数は18年の60万人から昨年末には55万5000人に減少した。今年末までに50万人を下回るはずで削減の大部分は陸軍で行われた。強制兵役は18ヶ月に短縮されている。徴集兵の賃金は急激に上昇している。また政府は、兵士と社会の間のギャップを埋めるために軍のために働く女性と民間人を増やす意向である。さらに昨年夏には、軍事用通信衛星を打ち上げた。米国との取り決めで衛星には固定燃料の使用が認められ、北朝鮮に対する抑止力向上につながっている。国防費は19年に8.2%、20年に7.4%上昇し、今年は5%増を見込んでいる。 

 こう報じた記事は最後に、文政権は北朝鮮との和平や米国との同盟関係は基本的に変化しないと主張しているが、こうした楽観的な発言の裏で楽観論が崩れた場合に備えて精細な緊急事態対策を静かに進めていると指摘する。 

 以上のように政府は、軍改革を静かにしかし着実に進めている。背景として、少子高齢化による徴兵制の行き詰まり、リベラル化する社会への対応という国内要因と韓国を取り巻く国際環境の変化という地政学的要因が挙げられ、後者では特に対米同盟関係の変化が指摘されている。この他にも韓国軍の指揮権を米側から取り戻すために軍の能力向上が必要という要因もある。改革の具体的内容は、兵員や部隊数の削減、徴兵期間の短縮、軍事衛星の打ち上げ、軍関係職員に女性や民間人の採用などである。そして注目されるのは伸び率がかなり急ピッチの国防費の増強である。文大統領は北朝鮮問題の平和的解決を全面に打ち出し、また米国との強固な同盟関係を強調するが、記事が指摘するように軍事力の維持強化にもまい進している実態が明らかになった。


北 朝 鮮

☆ 米新政権は北朝鮮の挑発に備えよ

 金正恩総書記は米新大統領を挑発するのを好むので、バイデン政権はこれに備える必要があると1月22日付ワシントン・ポストが社説「Kim Jong Un likes to provoke new U.S. presidents. (米新大統領を挑発するのが好きな金正恩)」で助言する。社説は、したがってバイデン・チームはこうした事態に備えるべきだと主張し、概略次のように論じる。

 北朝鮮が潜水艦発射弾道ミサイルの挑発的な実験を準備しているかもしれないとの報道は、バイデン新政権で外交政策を担当する経験豊かな外交官たちを驚かしはしなかっただろう。しかし金正恩政権は、父親と同様に核弾頭や長距離ミサイルの実験で新しい米大統領に挨拶した歴史がある。オバマ政権の場合、結果は両国関係の深い凍結であった。トランプ大統領の対応は戦争の脅威であり、その後は首脳会談のとん挫だった。

 先月、オバマ政権時代の国務省高官カート・キャンベルは、バイデン大統領の国家安全保障会議においてアジアコーディネーターに就任したばかりだが、こうした挑発の可能性を排除するために「北朝鮮をどうするかについて早期に決定する」必要があると警告した。しかし問題は何をすべきかである。バイデン氏の国務長官候補であるアントニー・ブリンケン氏が今週上院外交委員会で語ったように、北朝鮮は米国大陸に到達可能な大陸間弾道ミサイルを含む核弾頭やミサイルなどの兵器を着実に増強して、「歴代米政権を悩ませている」のである。

 こうした状況はすぐには変わりそうもない。金氏は今月の与党共産党の珍しい会議で核戦力の開発は「朝鮮民族史上最大の意義をもつ偉業」であると述べ、極超音速ミサイル、原子力潜水艦、複数の弾頭を持つICBMを含む多くの新兵器の完成を公約した。ただし、これらの野望をすべて実現するのは、深刻な経済危機に苦しんでいるうえ、パンデミックを避けるために国境を封鎖した北朝鮮にとって無理があるだろう。
 とはいえ、金政権の兵器庫はすでに空恐ろしいばかりだ。昨年夏、米陸軍は北朝鮮が20発から60発の核爆弾を保有し、毎年半ダース以上の核爆弾の生産能力を有している可能性があると報告している。トランプ前大統領の金氏に対する関与は派手であるが底の浅い試みで、過去3年間に核と大陸間ミサイル実験を抑制したが、弾頭の備蓄増は留まるところを知らなかった。

 一部の北朝鮮専門家は、過去4代の米政権が経済圧力と交渉の組み合わせを通じて非核化を説得してきたが、この戦略はもはや現実的ではないと言う。金氏は米国と交渉する意思があるが、核保有国の指導者としての立場でのみ行うことを望んでいる。理論的には、こうした協議が北朝鮮の核やミサイルの部分的な削減につながる可能性があり、これは無いよりもよいだろう。しかし、それにより金氏が求める代償は米韓軍事同盟の弱体化である。トランプ氏は文句なしに検討したことだが、バイデン氏が拒絶しなければならない。

 ブリンケン氏は上院に対し、新政権は「北朝鮮に対するアプローチと政策全体を見直し、我々がどのような選択肢を持っているかを検討する」と語った。しかし、キャンベル氏が指摘したようにオバマ政権の「長期にわたった勉学期間」は、政権の挑発的な行為によって中断された。おそらく、今後数週間のうちに金氏による派手なミサイル発射やその他の軍事的デモを避ける方法は何もない。あるとすれば、バイデン・チームはそれを早急に考え出す必要があろう。

 以上のように社説は、金正恩総書記の歴代米大統領の就任時に際して示した態度やベテラン外交官のカート・キャンベル氏のコメントなどを引用し、同総書記は新大統領を挑発するのを好むので、バイデン政権はこれに備える必要があると主張する。加えて北朝鮮はこの間、空恐ろしいほどの核やミサイス兵器を製造し、その生産力を強化したと述べ、過去4代の米政権が経済圧力と交渉の組み合わせを通じて非核化を説得してきたが、この戦略はもはや現実的ではないとの専門家意見を伝える。理由として、金総書記は交渉の代償として、核保有国の指導者として認知と米韓軍事同盟の弱体化を望んでいることを挙げる。だが社説は結局、具体策については全く言及しない。ただ早急に考え出す必要があると指摘するだけである。しかし、専門家がもはや現実的ではない主張する戦略から出発する他はないのが現実であろう。事実、バイデン氏が新大統領に選出されて3か月になるが、北朝鮮に核、ミサイル実験の動きは報じられていない。これは、記事が指摘するように深刻な経済危機に苦しんでいるうえ、パンデミックを避けるために国境を封鎖した北朝鮮には、そうした方向に動く余裕がなくなってきているためではないか、とも考えられる。制裁逃れがないように厳しい制裁措置を西側が厳格に続けていけば、対話への道が開けてくる可能性があるかもしれない。


東南アジアほか

☆ 米国の回帰に期待と疑念を抱く東南アジア

 トランプ米政権下で、アジアの安定と繁栄に向けた米国の能力に疑問を深めた東南アジア諸国は、バイデン新政権の誕生に安堵のため息を漏らしていると1月31日付エコノミスト誌は伝え、ただし米回帰を待つ東南アジアは疑念も抱いていると報じる。

 記事によれば、ある東南アジアの外交官は、トランプ政権によって東南アジア諸国は被害を受けたと不機嫌に語り、一因は、アジアを経済的成功へと導いた開放的な多国間貿易体制に対するトランプ氏の侮蔑的姿勢にあると指摘する。トランプ氏はWTOを悪者にしたうえに、12カ国の自由貿易協定である環太平洋パートナーシップ(TPP)から離脱した。事実上、米国は第2次世界大戦後初めてこの地域の経済的指導権を放棄したのである。
地域の安全保障に関してトランプ氏は、米国が友人や同盟国のために何ができるかではなく、彼らが米国のために何ができるかという疑問を提起した。政府が資金の出し惜しみをするならば、韓国と日本との軍事同盟を断ち切ると脅すことで両国に不安を抱かせるとともに、米国のアジアへのコミットメントが永久的でなく条件付きであることを示したのである。トランプ政権のマイク・ポンペオ国務長官も中国を声高にかつしばしばイデオロギー的に悪者扱いし、その動きに参加するよう迫り、東南アジア政府の警戒心をあおった。確かに大半のアジア諸国は、台湾に対する態度や南シナ海における根拠のない海洋権の主張など中国の高まる強権的姿勢に悩まされている。しかし中国の存在感は余りにも大きく、かつ関係は緊密であり、経済的な恩恵も大きく、そのため中国の悪者化は東南アジア諸国の選択肢にはなりえなかった。

 したがってジョー・バイデン政権の登場に安堵が広がっている。トランプ氏がシンクタンクや政府内の専門家による政策を軽視したのに対し、新大統領は専門家からなるチームを組成している。そうしたアジアの専門家たちは、東南アジアの首都でもよく知られており、特にそのなかには2012年のオバマ政権によるアジア「ピボット」宣言を企画したカート・キャンベルがいる。同氏はバイデン大統領の「インド・パシフィック」戦略の新しい指揮官になるだろう。「米政府が帰ってきた」と日本の内閣官房参与(外交)である宮家邦彦氏は語る。

 しかし、そうした安堵は懐疑によって薄められている。米国の政策が「アダムとイブが罪を犯す前の(神の)恩寵を受けている状態」に戻るわけではないと、かつてシンガポールのトップ外交官だったビラハリ・カウシカンは言う。バイデン氏のアプローチが権力行使に消極的だったオバマ氏の2期目に似ていると厄介だろうとカウシカン氏は指摘する。オバマ政権は南シナ海で習近平に越えてはならない一線を設定したが、中国がそれを越えたときに何もしなかった。また北朝鮮が核兵器を製造している間、北朝鮮に「戦略的忍耐」を促した。これに対し、少なくともトランプ氏のチームは、混乱していたとはいえ、権力の意味を理解していた。南シナ海における米海軍の「航行の自由」演習の強化を公に称賛する東南アジアの政策当局者はほとんどいない。しかし私的の場でも批判する者は誰もいない。

 バイデン政権に対して最も強い疑念を抱いているのは、おそらく日本であろう。日本は中国の現体制を今そこにある脅威とみなし、共和党との協力を好む傾向があるからだ。しかしアジアに関するバイデン政権の初期の発言は、宮家氏などに感銘を与えている。また米国とアジアが直面する挑戦に関するトランプ分析との類似性は顕著である。両政権の主な違いは、バイデン・チームが提案した対応にある。今週バイデン政権のジェン・サキ首席報道官は、中国との競争は「21世紀の決定的な特徴」であり続けると主張した。中国は「アメリカの労働者を傷つけ、技術的優位性を鈍らせ、国際機関における米国の同盟関係と影響力を脅かしている」と付け加えた。ロイド・オースティン新国防長官はさらに中国を米国にとって最大の脅威と定義し、アジアの友人たちにとっても同様だと暗に示唆した。

 しかし、新政権の当局者は前任者との違いを強調する。一つは経済的、外交的関与の拡大である。サキ氏らはトランプ政権で欠けていた連立、パートナー、同盟国との協力に繰り返し言及し、中国との対話前にアジアの他の諸国と協議する計画としている。トランプ氏が無視した10カ国の東南アジア・クラブ、すなわちASEANともっと深く関わりたいと考えている。中国の拡大に対抗するため、米国は米豪印日の「クワッド(4カ国戦略対話)」だけでなく、東南アジアの同盟国の軍事力強化を試みようとしている。

 上記のように論じた記事は最後に、アジアの安定を再び確約する米新政権の決意は、アジアにおける地位低下に関する米国の受け止め方を明示しているが、米国のそうした決意にもかかわらず、アジアの各首都では一つの疑問が執拗に提起されていると述べ、それは、米国は今後何年間もパンデミックの規模とその結果として生じる経済の不具合、そして民主制度への痛めつけなどの問題に足を取られるのだろうかという疑問であり、宮家氏が指摘するように、オバマ政権時代の専門家は戻ってくるかもしれないが米国はどうなるのだろうかと問題提起する。

 以上のように記事は、ASEAN諸国がバイデン新政権の登場によって東南アジアの安定と繁栄に向けた米国のコミットメントが復活することに大きな期待を寄せていると伝える。しかし同時にASEANは、パンデミックや景気対策、民主制度の毀損などの問題に気を取られている米国が本当にアジア回帰を果たせるのかという疑問から逃れられないと報じる。ただし記事は、新政権は中国の拡大に対抗するため、日米豪印の「クワッド(4カ国戦略対話)」だけでなく、東南アジアの同盟国の軍事力強化などを含め、トランプ氏が無視したASEAN諸国ともっと深く関わりたいと考えているとも伝えている。こうしたバイデン政権の今後の努力に期待したい。


インド

☆ 予断を許さない投資環境

 1月20日付フィナンシャル・タイムズは「India’s risky investment climate (リスクのあるインドの投資環境)」と題する社説で、インドは外資誘致の機会に恵まれているが、投資家は国内での不平等な競争を警戒していると評する。社説は冒頭で、昨年インドの外国直接投資が累積ベースで記念すべき一里塚となる5000億ドルを突破したと伝え、これは政府にとって歓迎すべきニュースの一つで、海外のインドに対する関心が衰えていないことを示しているが、前途は数字が示すほど楽観的ではないと指摘。最近のインドの投資環境について概略次のように論評する。

 経済はパンデミックの被害を受けて不況に陥ったが、加えてモディ首相が経済開放の道を追求するどころか内向き姿勢に転じる兆しをみせている。従って、外国直接投資に勢いがあるようにみられる背景について、仔細に点検するのが当然といえよう。インドではアマゾンやウォルマートのような外国企業が足場を築いてきたが規制環境があまりにも頻繁に変わり、国際投資家に間違ったシグナルを送ってきた。昨年シリコンバレーの資金が大量に流入してきたが、大部分はムケシュ・アンバニのリライアンス・インダストリーズの通信・デジタルサービス・アームであるジオ・プラットフォームという単一の企業に集中していた。同社はフェイスブックやグーグルなどから100億ドル以上の資金を集めたのである。

 外国企業は対印投資を続けているかもしれないが、合弁事業への投資か強力なインド起業家が所有する企業の少数株の取得のために行う例が圧倒的に多い。例えば、最近ジェームズ・マードックは、メディアベンチャーのウダイ・シャンカールとの関係を復活した。そうした資金は小規模なものがほとんどで、インド市場に本格的にコミットするというよりも防衛的な動きが多いと思われるのである。

 モディ政権には、長くまとわりついている一つの懸念がある。それは与党のインド人民党が政権を握った際に企業経営者が期待したような企業寄りの政権ではなく、よくても外国企業に対して曖昧な姿勢を取るのではないかという懸念である。そして同政権は、本質的に経済ナショナリスト政府であることが分かってきている。規制は予測不可能なままであり、最近の輸入関税の引き上げを含む頻繁な政策変更は不確実性を生み出している。

 こうした国際投資家が置かれている不安定な状況は、法の支配に対するインド政府の首尾一貫しない態度によってさらに悪化している。特にボーダフォンとケアンエナジーとの2つの法人税関連の紛争は国際仲裁にまで持ち込まれている。この問題は2012年、前政権による税法変更の遡及適用という決定に由来する。これにより政府は、原資産がインドにある場合、何年も前に行われた取引に対して徴税権限を得たが、9月にボーダフォンに対して、そして12月にケアンに対して敗訴した。

 政府はその後、ボーダフォン判決に異議を唱え、各社はケアンのケースでも同様な動きを予想している。しかし政府は判決を受け入れ、税法の遡及適用もしないことを明らかにすべき時にある。どちらの政府決定もインド政府による投資家の公正な取り扱い順守のメッセージを力強く発信することになろう。

 こう論じた社説は最後に、最近大いに紛糾している農業改革問題に関連して、モディ首相は世論の強い支持を得ており、政府が国内大衆には弱気のようにみえるといった政府への批判的意見は無視してよいはずだと述べ、農業部門近代化のための政府の最近の提案に対する反発は、広く自由化へのインセンティブを減らすリスクがあり、残念なことだと懸念を示す。そのうえで欧米企業が中国から事業を多様化しようとする中、インドには製造業投資の代替目的地となるユニークな機会があると指摘。中国の例のように輸出指向の製造業は経済成長の重要な要因であり、インドには、ビジネスのために開かれていることを示す貴重な機会があると強調する。

 上述のように社説は、外国直接投資が増えているように見えるが、投資先が通信・デジタルサービスなどに片寄りがあり、案件も合弁事業関連など小規模で守勢的なものが多いと述べ、さらにモディ政権が経済ナショナリスト政権でモディ首相も内向きの姿勢に向かっていると指摘する。また規制や政策変更が頻繁で外国企業にとって不確実性を生み出していると述べ、特に税法改正の遡及適用の例を挙げて、外国企業に対する不平等な経営環境を指摘。さらに農業改革への反対運動が改革の後戻りを誘発するのではないかと懸念を示す。以上のように、政府の政権運営の方向性と農業改革への反対運動などの国内の動きが外国企業の警戒感を呼び起こすと社説が懸念を示し、外国直接投資の先行きに疑問を呈していることに注目したい。

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主要紙の社説・論説から

バイデン米政権の誕生-キーワードは団結、礼譲、中道


 1月20日、米民主党のジョー・バイデン氏が米国の第46代大統領に就任した。主要メディアは一斉に新政権のあり方や政策について論じている。以下は、そうした論調を各メディアの社説から観察したものの要約である。

要約:1月19日付フィナンシャル・タイムズ社説は、バイデン氏が就任前に1.9兆ドルの財政救済策(fiscal relief)を提案したことを迅速で大胆な行動と評価する。その米国救済プランは、個々の国民に3度目となる小切手の送付、最低賃金の引き上げ、医療給付の拡大、そして学校再開のためだけに400億ドルを配分するなどの野心的な目標を設定し、さらに短期的な救済と不平等な経済の構造改革、公衆衛生の救済を一括して実現しようとしていると伝える。ただし前途に障害が待ち構えているとして、議会や民主党内保守派の存在を挙げ、とはいえ財政面でのてこ入れ不足による景気の失墜だけは避けるべきだと主張し、保守勢力からの反対を考慮して財政刺激策を縮小し、08年の経済危機からの回復を損なったバラク・オバマ政権の例を反面教師として挙げる。そのうえで、100年に一度のパンデミックに見舞われた世界では中途半端な対応は不自然であり、大盤振る舞いの財政計画がコモンセンスとして受け入れられると論じ、バイデン氏はプラグマティストとしての気概を示すべきだと提言する。

 1月20日付ブルームバーグは社説「A New President, and a New Start (新大統領と新たな出発)」で、政府の能力回復と憎しみの感情収拾を訴える。社説は、バイデン新政権は歴代政権でもの稀有な難局の中で発足したが、バイデン氏には広く協力を求める傾向があり、これはまさしく米国の修復に必要な条件だと述べ、周囲も夫々の役割を果たすならば、バイデン政権は2つの包括的な(overarching)目標を達成できると主張、第1に政府の基本的能力の回復、第2に米国を麻痺させ、分裂させる恐れのある憎悪の感情(rancor)を冷却させることだと指摘する。第1の有能な政府に関しては、バイデン氏の指名人事(nominations)が心強い(encouraging)と述べ、指名された人々は高く評価され、トップの地位に相応しい人材だと評価する。ただし優秀な役人も大統領が彼らの言に耳を傾けなければ、無用の長物(no use)となるとしてトランプ前大統領の虚栄心による有為の人材の無視、否定の例を挙げ、これが政策を骨抜きにし(blighted)、パンデミックが急増するにつれて何千人もの命を犠牲にしたと批判する。これに対しバイデン氏は良き助言を求め、それに耳を傾けると思われると期待を表明する。次いで新大統領のもっと厳しい試練として、コロナ救済、雇用、インフラ、教育、不平等、気候変動、移民改革などの諸問題を挙げ、こうした重要課題に迅速に取り組みながら、米国の政治的分断(political divide)を修復しなければならないと指摘する。そして米国は、この国と世界中の友人のために世界的地位(global standing)を回復する必要があり、こうした困難な仕事を不可能にするリスクを排除するためにバイデン氏は、トランプ前大統領に有罪判決を下し、再出馬の資格を失うよう議会と共に努力すべきだと主張する。最後に、民主党に対してコロナ救済パッケージのような優れた案件を成立させ得る法案に関する交渉を行うための余裕を新大統領に与えること、共和党には、民主党の大統領による提案はすべて反射的に反対せず、また愛国的な反乱者(insurrectionists)とみる支持者から距離を置くことを要求し、トランプを党の指導者に引き上げた盲目的な(purblind)戦術とあからさまなニヒリズムの混合物(blend)を捨て去れなければ、国内で過半数の支持を再び獲得することを期待すべきでなく、かつそれに値しないだろうと断じる。

 1月20日付ニューヨーク・タイムズは社説「Biden Bets on Unity(団結に賭けるバイデン)」でトランプ前政権時代に米国の抱える深刻な問題がさらに深まったと論じる。米社会は、今や以前よりも脆く、不平等で不健康になり、政治的に過激化(radicalized)しており、パンデミックは抑えられないまま、猛威を振るい(raging)、経済は無残な状態に、そして気候変動は危機的状況にあると指摘する。赤(共和)と青(民主)に別れた市民は、共有する共通箇所を見分けるどころか、目の前の現実に同意さえできない。バイデン氏は、就任演説でそうしたことすべてを認め、礼譲(comity)を求めたと述べる。次いで社説はトランプ時代の過去4年間を振り返り、それは疲労困憊と混乱そのものだったと批判し、トランプ前大統領も2017年、同じ演説台から任期をスタートさせ、都市の貧困や製造業の失われた雇用、麻薬、犯罪によって引き起こされた「アメリカの大虐殺」を断罪したが、4年後の今も、この国には未だそれらすべての病が蔓延しており、かつて国を結びつけた政治的伝統から益々切り離されていると指摘。バイデン氏は、中道は持ちこたえられると述べて選挙運動を導いたが、これは大きな賭け(wager)だと主張する。

 以上のように、メディアがバイデン演説に呼応して国民に団結を呼びかけるなか、1月20日付ウォール・ストリート・ジャーナルは社説「Joe Biden’s Unity Address(ジョー・バイデンの団結演説)」で、国を癒すためには一つの見方で団結する必要はないと主張する。社説は冒頭で、政党間の平和的な政権移行は根底にある米民主主義の強さを示しており、議事堂(the Capitol)での式典は、最近は全く見かけない愛国的感情を臆せずに抱かせたと強調。カマラ・ハリス新副大統領夫妻がペンス前副大統領夫妻をエスコートして議事堂を出る光景が感動的だったと述べ、これらの儀式は、アメリカの体制の基本的な強さ(institutional strength)について世界に対してメッセージを発信したと主張する。バイデン氏は就任演説で人々の心に訴える多くの言葉を発したとし、演説の全体的なテーマは「団結」で最良の言葉は「新たに始める」と「お互いに耳を傾けよう」という呼びかけだったと表明する。同時に、この団結の呼びかけには一つの見方での団結を迫る示唆に溢れていたと述べ、「私たちの歴史は、私たち全員が平等に創造されているというアメリカの理想と厳しい醜い現実との間の絶え間ない闘争だった。その現実とは、人種差別(racism)、移民排斥(nativism)、恐怖、悪魔化(demonization)という長い間、私たちを引き裂いてきたものだ」との発言に注目する。そのうえで、私たちの政治的な違いは、アメリカの理想を信じる人々と人種差別主義者(racists)や移民排斥主義者(nativists)との間の相違ではなく、分断はイデオロギーや政策に関する文化的、道徳的な謙譲さ(condescension)における相違、つまり妥協やトレードオフの問題だと述べ、ほとんどの政治的な違いは、真実か、虚偽か、という議論ではなく、自由と平等のような中核的原理の間の妥協、または良い目的を達成するための最良の手段をめぐるトレードオフに関する議論だと喝破する。そのうえで、バイデン氏が社会正義を追求し、生活のあらゆる不平等を人種差別に帰し、気候変動反対論者を地球について何も気にしない気候変動「否定論者(deniers)」だと決めつけるような動きになれば、団結どころか分断をもたらすと懸念を表明、要はバイデン氏の試練はその統治方法にあると主張する。

 1月21日付ワシントン・ポストはこうした難局の中で船出するバイデン政権に対し、超党派の団結を求めるならば外交分野で始めるのがよいと社説「Biden is looking for bipartisan unity. Foreign policy would be a good place to start. (超党派の団結を求めるバイデン、格好な手始めは外交政策)」で助言する。社説は、新政権の国家安全保障チームについての公聴会から判断すると、トランプ前大統領の不在の中で米国が直面する主要な脅威に関して実質的に超党派のコンセンサスが存在すると述べ、バイデン新政権で閣僚となるブリンケン国務長官、ヘインズ国家情報長官、ロイド・J・オースティン国防長官は共和党上院議員と幅広い分野で意見が一致していると指摘する。具体的には、中国のウイグル少数民族弾圧を大量虐殺とする見解、アフガニスタンでのタリバンとの米国の合意は「条件ベース」とする解釈、米国大使館をエルサレムのイスラエルに残す件、ロシアからドイツへのバルト海経由ガスパイプライン事業「ノルドストリーム2」の完工防止、サウジアラビアのイエメン介入に対する米国の支援終了などの問題、そして最重要事案として米国に対する中国の高まる挑戦への超党派のコンセンサスを挙げる。また米国が中ロその他の独裁国家(autocracies)に立ち向かう必要性と独裁者を甘やかす(coddling)のはそれにそぐわないという考えで超党派の合意が成立していると指摘する。ただしバイデン政権と共和党の最大の意見相違点はイラン政策だと警告する。

 1月23日付エコノミスト誌は、「Morning after in America (米国でのトランプ後の朝)」と題する社説の冒頭で、ウイルス終息が米国修復の第一歩で、そのための予防接種はきわめて手のかかる作戦だが、春から夏にかけて大きな違いをもたらし、米経済の回復に役立つと指摘する。経済的被害が限られたスペースに多くの人々を詰め込むような職場で働く労働者に集中しているが、連邦政府の景気刺激策のおかげで昨年の実質可処分所得(real disposable income)は、おそらく過去20年間で最も速いペースで上昇したとみられると述べる。バイデン政権はさらに1.9兆ドルの財政刺激策を予定しており、これにより支援予算額は、パンデミック危機前のGDPの27%に達し、議案が上院を通過できない可能性もあるが、バイデン氏の公約、すなわち、ワクチン配布用の資金増額、失業保険の延長、児童向け税額控除の拡大などの規模が縮小されても、大きな効果が見込めるだろうと期待を表明する。
 米国が直面する政治危機は、トランプへの忠誠を誓って組織されたようになった共和党、人種差別派への危険な甘やかし、真実でない事実(alternative facts)の流布などが引き起こしており、すぐには消え去らないとし、特にトランプ氏が2024年に再立候補することに警戒感を示す。その一方で、バイデン氏が一部の共和党議員と協力し、インフラや気候変動法案、コロナ関連の刺激策などを成立に導くことや連立を組む気のある新大統領の下で民主主義の精神がワシントンに復活することに期待を示す。またトランプ外交を引き継ぐバイデン氏は一連の非常に厳しいトレードオフに迫られるだろうと述べ、成功の最高のチャンスは、その根気強い中道主義(dogged centrism)に徹することにあり、それによってトランプ後の米国に朝が訪れると示唆。同時に西側同盟国に対して忍耐強くあるべきで、奇跡的な一夜の変革を期待すべきではないと注文をつける。

 次いで1月25日付ロサンゼルス・タイムズは、「Joe Biden’s battle for the soul of America has begun (ジョー・バイデン、アメリカの魂を求める戦いを開始)」と題する社説で、バイデン大統領は就任演説で米国が同時に直面する6つの危機、すなわち致命的なパンデミック、民主主義への脅威、経済的不平等、システミック(連鎖的)な人種差別、気候変動、世界における米国の役割の縮小を挙げたと述べ、しかもこれらの危機は、米国の政治、社会そして国家のアイデンティティを歪めている分極化(polarization)によって深刻化していると指摘する。一部の共和党議員や右寄りの(right-leaning)メディアは、就任直後のバイデン氏の言動に怒りを感じており、国の癒しが極めて困難な状態にあると危惧を表明する。社説は、米国市民の多くは、民主党の中核的綱領(tenets)、すなわち、マイノリティー優遇政策(affirmative action)、文化的多様性、性と生殖に関する権利(reproductive rights)、銃規制(gun control)などに疑念を持っており、彼らに同意しないとしても、耳を傾け、理解しようとしていることを示す方策を見つける必要があると指摘。手始めに、米国民の生活で最も必要とされる分野すなわち連帯感の向上、生きる目標や生き甲斐の意味の把握などで対応すべきだと述べる。国民は個人として社会における価値観を喪失し、同時に世界における米国の失われた地位の回復を願っているが、政策ではこうした憧れには対処できず、バイデン氏は時間をかけて行動と言葉を通してのみ、国民が相互の信頼を取り戻すようにできるだろうと主張する。

 さらに社説は、バイデン氏がウイルス問題に関する連邦政府のリーダーシップを強化していると述べ、具体例としてワクチン配布の改善、保護具の供給増、学校の安全な再開方法に関するガイダンスの提示などを挙げる。さらにパンデミックと戦うために議会に対して巨額の資金注入を求めており、これにはインフラ改善投資の実施と何百万人もの雇用創出、環境懸念への対処と生産性向上のための法案が含まれていると述べ、バイデンが上院の共和党議員を取り込んで早期に成立させることに期待を示す。最後に、トランプ時代に多くの国民に米国の民主主義の完全性(integrity)に対して疑いを抱かせたと指摘。バイデン氏は、投票率と有権者の選挙結果に対する信頼の両方を高める方法について、共和党と共通点を見つける必要があると提言する。

結び:メディアはまず、バイデン氏が就任前に1.9兆ドルの財政救済プランを提案したことを迅速で大胆な行動だと評する。家計や医療、教育への財政面からのテコ入れ策として確かに評価すべきだろう。ただし、共和党や与党保守派の出方への警戒感を滲ませ、コロナの時代では大盤振る舞いの財政計画がコモンセンスだと強調。出し惜しみによる景気失墜のリスクを指摘しているのは、理解できる警告といえよう。
 次いでバイデン新大統領の就任演説を踏まえ、ブルームバーグは政府の能力回復と憎しみの感情収拾を訴える。トランプ時代に政府機能が著しく毀損されたのは間違いなく、その修復が喫緊の課題であり、それが新大統領の指名した人事と、広く助言を求めて耳を傾ける新大統領の気質によって実現することに大いに期待したい。さらに重要課題として、コロナ救済、雇用、インフラ、教育、不平等、気候変動、移民改革、そして米国の政治的分断の修復と米国の世界的地位の回復が挙げられている。いずれも新政権にとって喫緊の課題である。

 ニューヨーク・タイムズもトランプ時代の過去4年間を振り返り、それは疲労困憊と混乱そのものだったと評し、米国の深刻な問題がさらに深まったと論じる。米社会は以前よりも脆く、政治的に過激化し、パンデミックのために経済は無残な状態にあると述べる。市民は赤(共和)と青(民主)に分かれ、目の前の現実に同意することさえできないという指摘は、米国の分断の深さを示して余りある。これに対してバイデン氏は、就任演説でそうしたことすべてを認め礼譲を求めている。国民が互いに歩み寄って、かつて国を結びつけた政治的伝統を取り戻そうと呼びかけ、中道は持ちこたえられると訴えているが、それは今のところ一つの期待であり、大きな賭けとしか言えないだろう。

 他方、保守系のウォール・ストリート・ジャーナルは、政治的分断と批判される状況のなかでも政党間で平和的な政権移行が行われたのは、根底にある米民主主義の強さを示し、就任式はアメリカの体制の基本的な強靭さを世界に発信したと論じる。特にバイデン氏の就任演説のテーマは「団結」であり、人々の心に訴える多くの言葉を発したと認める一方で、国を癒すためには一つの見方で団結する必要はないと主張しているのは、他のメディアと一線を画す論調である。私たちの政治的な違いは、アメリカの理想を信じる人々と人種差別主義者や移民排斥主義者との間の相違ではなく、分断はイデオロギーや政策に関する文化的、道徳的な謙譲さにおける相違、つまり妥協やトレードオフの問題だと主張している。具体的には、自由と平等のような中核的原理の間の妥協、または良い目的を達成するための最良の手段をめぐるトレードオフに関する議論だと指摘し、バイデン氏の社会正義追求の姿勢がかえって団結でなく分断をもたらすと懸念し、バイデン氏の試練はその統治方法にあると指摘しているのは一つの警告として留意しておく必要がある。
こうした超党派の団結を求めるバイデン新大統領に対して1月21日付ワシントン・ポストは、外交分野で始めるのがよいと具体的に助言する。社説は国務、国防、国家情報という主要閣僚が共和党上院議員と幅広い分野で意見が一致していると指摘。新政権の国家安全保障チームには、米国が直面する主要な脅威に関して実質的に超党派のコンセンサスが存在すると述べる。関連する地域や案件は、アフガニスタン、イスラエル、露独ガスパイプライン計画、中東など全世界にわたっているが、特に最重要問題として、中国の高まる挑戦への超党派のコンセンサスが挙げられ、かつ米国が中ロその他の独裁国家に立ち向かう必要性が指摘されていることに注目したい。

 1月23日付エコノミスト誌も冒頭で、ウイルス終息が米国修復の第一歩だと指摘し、1.9兆ドルの対策によるワクチン、失業保険、税額控除などの経済問題への対応に期待を表明、政治危機については、根源はすぐには消え去らないだろうが新大統領の下で民主主義の精神がワシントンに復活することに期待を示している。ここで注目されるのは、トランプ氏が2024年に再立候補することに警戒感を示すとともに、バイデン新大統領に対して中道主義の徹底を提言し、それが米国に明るい朝をもたらすと示唆していることである。

 1月25日付ロサンゼルス・タイムズは、バイデン大統領が就任演説で6つの危機を挙げ、これらの危機は分極化によって深刻化していると述べていると指摘する。6つの危機とは、致命的なパンデミック、民主主義への脅威、経済的不平等、システミック(連鎖的)な人種差別、気候変動、世界における米国の役割の縮小である。まさにバイデン新政権が直面する挑戦である。また米国市民の多くが民主党の中核的綱領に疑念を抱いており、これに耳を傾け、理解しようとしていることを示す方策を見つけるべきだとの指摘も新政権が早速取り組むべき課題を提起している。厄介な問題は、国民が個人として社会における価値観を喪失し、失われた世界における米国の地位回復を願っているが、政策ではこうした憧れには対処できないことであろう。社説は対策として、バイデン氏は時間をかけて行動と言葉を通してのみ、国民が相互の信頼を取り戻すようにできると提言する。ここでも同氏の統治方法が問われているのである。ひとつの救いは、バイデン氏がウイルス対策でリーダーシップを強化し、議会に対して巨額の資金注入を求め、インフラ改善投資と雇用創出、環境対策、生産性向上に取り組もうとしていることである。それには上院の共和党議員を取り込む必要があるが、それとともに国民が米国の民主主義の完全性(integrity)に対して抱いた疑いを共和党とともに解消する努力が期待される。

 以上を集約すると、バイデン新大統領は就任演説で6つの危機を提示し、メディアはそうした危機を米国の政治・外交、経済、社会の視点から論じている。経済の問題は、コロナウイルスの蔓延と結びついて深刻化しているが、バイデン氏は就任前に1.9兆ドルの財政救済プランを提案するなど積極的に動いている。懸念は、抑制的な財政政策による景気失速であるがコロナの時代では大盤振る舞いの財政計画がコモンセンスという考えで乗り切るほかはない。
社会問題としては、国民の間に広がる憎しみの感情の収拾や、個人の社会における価値観喪失への対応が肝要である。これに対してバイデン氏は、礼譲を呼びかけている。確かに国民が互いに歩み寄る努力が欠かせないが、それにはバイデン氏自らが国民の言い分に耳を傾ける姿勢が不可欠である。

 問題は何といっても政治・外交分野にある。政府の能力復活と政治的分断の修復、そして米国の世界的地位の回復という問題が待ち構える。しかも米国市民の多くが、民主党の中核的綱領に疑念を持っており、国民が米国の民主主義の完全性に対して抱いた疑念を解消しなければならない。バイデン氏は、国民が互いに歩み寄って、かつて国を結びつけた政治的伝統を取り戻そうと呼びかけ、中道は持ちこたえられると訴えている。まさしくバイデン氏が持ち味を生かして、分裂を深める国民に寄り沿っていくほかはないだろう。たとえそれが大きな賭けであるとしても。保守系メディアが指摘するように、政党間で平和的な政権移行が行われたのは、根底に米民主主義の強さと体制の基本的な強靭さがあるからであり、それを信じていくほかはない。そして確かに国を癒すためには一つの見方で団結する必要はないのだ。分断を癒すには、イデオロギーや政策に関する文化的、道徳的な見地からの妥協やトレードオフが欠かせない。そこで問われるのは、やはりバイデン氏の統治方法である。バイデン新大統領は、そのよく知られるブランドである中道主義を徹底することが有力な方策となろう。超党派の団結を求める試みは、外交分野で始めるのがよいとの提言もある。特に中国の高まる挑戦への超党派のコンセンサスがあると指摘されており、大いに活用すべき分野である。そうした努力が総合的な効果を発揮するとき米国に明るい朝が訪れるだろう。

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(主要トピックス)

2021年
2月 16日 米通商代表部(USTR)、ベトナムの為替慣行が米企業に不合理で制約を
     もたらすと結論。ただし懲罰的関税は見送り。
  17日 北朝鮮の最高人民会議(国会に相当)、先の朝鮮労働党大会で金正恩
     総書記が報告した国家経済発展5カ年計画に関する法令を採択。
  18日 韓国の文在寅大統領、記者会見で慰安婦問題の最終解決をうたう
                   2015年の日韓合意は「政府間の公式合意」と発言。
  20日 韓国政府、外相を更迭。康京和(カン・ギョンファ)外相の後任に
                   鄭義溶(チョン・ウィヨン)前国家安保室長を指名。
  23日 韓国外務省、日本政府への賠償命令が確定した元慰安婦訴訟について
                   慰安婦被害者らと相談、円満な解決に努力と表明。
  25日 ベトナム共産党第13回党大会、開幕。
                   国家運営方針、新指導部を決定へ。
  26日 中国の習近平国家主席、韓国の文在寅大統領と電話協議。
                   北朝鮮情勢を巡り南北と米朝の対話をそれぞれ支持すると表明。
  28日 菅義偉首相、米国のバイデン大統領と電話協議。
                   新型コロナウイルス対策や気候変動問題での緊密な協力で一致。
                   日米安全保障条約5条の尖閣諸島への適用についても改めて確認。
  29日 中国政府、電子部品産業の強化計画を発表。
                   国産化対象を半導体から電子部品に拡大。
  31日 ベトナム共産党の第13回党大会、閉幕。
                   グエン・フー・チョン書記長を再選。
2月 1日 ミヤンマーで国軍によるクーデター発生。アウン・サン・スー・チー
                   国家顧問兼外相、ウィン・ミン大統領など現指導部を拘束。
    2日 中国外交担当トップの楊潔篪(ヤン・ジエチー)共産党政治局員、
                   オンライン講演でバイデン米政権に対話の再開を呼びかけ。
       4日 韓国の文大統領、バイデン米大統領と電話会談。
                   日米韓3か国の協力関係の強化と日韓関係の改善の必要性で一致。
    5日    ブリンケン米国務長官と中国外交担当トップの楊潔篪(ヤン・ジエチー)
                  共産党政治局員、電話協議。米側は、台湾海峡を含むインド太平洋の
                  安定を脅かす試みについて同盟国とともに中国の責任を追及と説明。
                  米国政府と台湾当局、初の米台協議「経済対話」を開催。半導体を
     テーマとし、サプライチェーン(供給網)の再構築の協力で一致。
   8日 バイデン米大統領、インドのモディ首相と電話協議。
                  自由で開かれたインド太平洋の推進で一致。
    10日 バイデン米大統領、中国の習近平国家主席と初の電話協議。
                  台湾や香港、人権問題を提起。
     バイデン米大統領、国防総省に中国政策を立案するタスクフォースの
                   立ち上げを表明。
  11日 米国のバイデン政権、ミャンマーで起きた軍事クーデターを巡り
                   国軍幹部に対する制裁を発表。
  12日 ブリンケン米国務長官と韓国の鄭義溶(チョン・ウィヨン)外相、
                   電話協議、日米韓協力の継続の重要性で一致。
     北朝鮮の朝鮮労働党中央委員会総会、閉幕。金正恩総書記、電力不足で
                   炭鉱の生産が停止と指摘、経済計画部門の対応を強く批判。
  13日 ミャンマー国軍、裁判所許可なしで市民の逮捕や家宅捜索を制限する
                   法律条項の停止を発表。
  15日 日本外務省の船越アジア大洋州局長と韓国外務省の魯圭悳(ノ・ギュドク)
                   朝鮮半島平和交渉本部長、電話協議。北朝鮮問題の解決に向けた日韓、
                   日米韓3カ国の緊密連携を確認。


主要資料は以下の通りで、原則、電子版を使用しています。(カッコ内は邦文名) THE WALL STREET JOURNAL (ウォール・ストリート・ジャーナル)、THE FINANCIAL TIMES (フィナンシャル・タイムズ)、THE NEWYORK TIMES (ニューヨーク・タイムズ)、THE LOS ANGELES TIMES (ロサンゼルス・タイムズ)、THE WASHINGTON POST (ワシントン・ポスト)、GUARDIAN (ガーディアン)、BLOOMBERG・BUSINESSWEEK (ブルームバーグ・ビジネスウイーク)、TIME (タイム)、THE ECONOMIST (エコノミスト)、REUTER(ロイター通信)など。 

 
前田 高昭
金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。
訳書に『チャイナCEO』他。
『東アジアニュースレター』も配信中。
 

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