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東アジア・ニュースレター ― 海外メディアからみた東アジアと日本 ― 第119回

2020/11/24

東アジア・ニュースレター
――海外メディアからみた東アジアと日本――
第119回







前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト
           バベル翻訳大学院プロフェッサー 

 
 
 中国で第19期中央委員会第5会全体会議(5中全会)が開かれ、2025年までの第14期5カ年計画の草案などが話し合われた。習政権は米国とのデカップリング脱グローバリゼーションを展望し、次の5カ年計画を策定すると共に超長期の計画を内外に宣言した。核となる政策は、内需の育成テクノロジー分野での大躍進による自足であり、さらに2050年における中国の最富裕国と技術最先進国入りを目標に掲げた。ただしメディアは、計画には詳細が欠けており、かつ過剰債務の克服と対米摩擦への対処などの難題が待ち受けていると指摘する。目標は遠大だが前途は多難である。

 台湾関係では、トランプ米政権が最初の任期が終わる時期に矢継ぎ早に台湾防衛支援のための武器売却を承認した。10月21日に空対地ミサイル、次いで26日に対艦ミサイルシステムなどそれぞれ総額18億ドルと28億ドルの武器売却を承認した。トランプ大統領の再選戦略である中国叩きの一つともみられるが、台湾は米大統領選挙でバイデン候補が勝利した場合、同候補が副大統領を務めたオバマ政権時代の対中融和政策が復活するのを懸念している。

 韓国では景気後退に歯止めがかかったとメディアが報じる。経済が早期回復に向かっている要因として、コロナウイルスの迅速な感染拡大防止に成功したことに加えて、輸出重点型、とりわけサービス重点型の輸出国であることが寄与したとされる。中国についても似たようなことが報じられている。

 北朝鮮国境を閉鎖し、外交官を退去させる、あるいは軟禁するなど、かつてないほど孤立を深めているとメディアが伝える。対米外交の停滞によって経済制裁の緩和あるいは撤廃の希望を失い、加えてコロナ禍によって厳格な国境閉鎖に迫られて、再び核とミサイルの開発深化の道を突き進み、この間、北朝鮮の体制維持に利益を持つ中ロ密かに支援を続けていると伝える。孤立を深める北朝鮮が次の一手として、何を打ち出してくるかが注目される。

 東南アジア関係では、菅義偉首相が就任後初の外遊でベトナムとインドネシアを訪問した。メディアは、金融面で言えばアジアにおいて中国に対する実質的な挑戦者は日本だと述べ、日本が金融力をもって強権姿勢を高める中国に対抗することに期待を示す。日本のそうした力を支える存在として、08年の世界的金融危機で余り打撃を受けなかった健全な邦銀国際協力機構(JICA)の存在を挙げ、日本政府の「自由で開かれたインド太平洋」政策を支援していると指摘する。

 インド米新政権との今後の関係についてメディアは、先ず米現政権と新政権との外交方針の違い、次いで副大統領にインド系米国人のカマラ・ハリス氏が就任することを挙げて問題点を指摘する。第1は、モディ首相が進める国内イスラム教徒の排斥などの人権問題でバイデン、ハリス両氏はインドの世俗主義と多民族的、多宗教民主主義の伝統と矛盾すると批判する。第2はカシミール紛争でバイデン、ハリス両氏はインド政府に対して説明責任トランプ以上に求めると示唆する。第3は対中関係で米現政権は中国を念頭にインドと軍事関係を強化しているが新政権でも不変と予測する。
 
 主要紙社説・論説欄では、東アジアでは沈静化するコロナ禍が米欧など西側諸国では再び拡大しており、これを東西の分断として取り上げるメディアの論調を紹介した。

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北東アジア

中 国


☆ 内需で経済再生を図る習政権
 中国で第19期中央委員会第5会全体会議が開かれ、10月29日に閉幕した。このいわゆる5中全会では、2025年までの第14期5カ年計画の草案などが話し合われた。10月29日付フィナンシャル・タイムズは、習近平政権は経済再生のために内需に目を向け、米国が圧倒的な力を持つテクノロジー分野では「自足」に注力し、コア・テクノロジーで「大躍進」を果たすと宣言したと報じる。2025年は習主席が前例のない第3期の任期に入り、その中間点となる時期だと記事は指摘し、指導部はより長期の目標として2050年までに世界の最富裕国とテクノロジー分野での最先進国の仲間入りを果たすと宣言していると報じる。

 ただし記事は、5カ年計画の詳細はほとんど示されておらず、来年初めに開かれる全国人民代表大会(全人代)までは完全には明らかにされないかもしれないと述べる。国内債務水準の引き下げや米国との貿易戦争の対処に努めてきた習政権は、今経済の「自給自足」達成に注力しており、パンデミックを封じ込め、経済成長は「予想以上に良好だった」と述べる一方で、中央委員会では「不安定性と不確実性」が高まる「国際環境はますます複雑になっている」と警告したと報じる。

 今年1月、習氏とトランプ氏は「第1段階」の合意で貿易戦争を一時的に中断したが、米国はファーウェイのような中国企業に対して米重要技術を認めないなど別の面で圧力をかけ続けている。これに対し、習政権は外国技術への依存を終わらせることが重要だと強調していると述べ、習主席はまた、世界との緊密な統合よりも内需と技術革新の強化の重要性を優先する新しい「双循環」の経済戦略を打ち出したと伝える。

 習氏は17年10月、2期目の任期の初めに中国は35年までに「適度な繁栄」を達成し、50年までに世界で最も豊かで最も技術的に進歩した社会の仲間入りをすると語った。数ヶ月後、全人代は習主席の任期について2期とする制限を撤廃し、習氏による終身支配の可能性を認めた。

 こう報じた記事は最後に、当局は第14期5カ年計画の成長率目標を公式に示すかどうかについて確認を避けていると述べ、次のように伝える。
当局は、党が第14次5カ年計画の正式な経済成長率目標を発表するかどうかについて明確にしなかった。しかし大半のアナリストは年間平均成長率が5%程度になると予想している。これは直近の5カ年計画の目標である6.5~7.5%からは低下している。中国政府は2010年に野心的な成長率目標をコミットし、これを実現するために多額の債務をもたらす投資が必要になった。習氏が主導した16年から20年までの最初の5カ年計画では、それまでの投資によって生み出された過剰設備と高水準の債務削減に焦点が当てられていた。マッコーリーのチーフ・チャイナ・エコノミストのラリー・フー氏は「高すぎる成長目標を設定すると、政府は将来の景気後退の中で再び債務の増加に迫られるかもしれない」と述べ、「米国とのデカップリングや脱グローバリゼーションによって、中国の外需が打撃を受け、さらに圧力が加わる可能性があることから、中国政府は新しい5か年計画で内需をもたらす新分野の発見に熱意を燃やしている」と語る。

 以上のように、習政権は今回の5中全会において米国とのデカップリングと脱グローバリゼーションを展望し、次の5カ年計画を策定すると共に、それに止まらず超長期の計画を内外に宣言した。核となる政策は、内需の育成とテクノロジー分野での大躍進による自足であり、習主席の視線は、2050年における中国の最富裕国と技術最先進国入りに向けられている。ただしメディアが指摘するように、計画には目標達成のための詳細が欠けており、かつ過剰債務の克服と対米摩擦への対処などの難題が待ち受けている。目標は遠大だが前途は多難である。


台 湾

☆ 台湾への武器売却を加速するトランプ米政権
 トランプ米政権が台湾への武器売却を加速させている。米政府は10月21日に空対地ミサイル、次いで26日に対艦ミサイルシステムなどそれぞれ総額18億ドルと28億ドルの武器売却を承認し、議会に通知した。トランプ米大統領は大統領に就任してから約4年間の在任中に台湾に対して9回の武器売却を承認している。10月23日付ウォール・ストリート・ジャーナルは18億ドルの武器売却について社説「Strengthening Taiwan’s Defense (日本版記事:【社説】台湾の防衛力強化はなぜ必要か)」で、こうした米政府の決定は、中国が非合法な香港への統制を進め、台湾に対する威嚇を強めていることを考えると、このタイミングは正しいと論じる。

 社説によれば、売却計画には中国軍が台湾に侵攻してきた場合、台湾が自衛するのに役立つ空対地ミサイル(SLAM-ER)や高機動ロケット砲(HIMARS)が含まれている。さらに台湾のF16戦闘機の視界を改善し、地上軍との連携を可能にする通信システムが含まれる。

 こうした米政府の動きについて、中国外務省の趙立堅報道官は売却が実行されれば、「中米関係および台湾海峡両岸の平和と安定」が損なわれると非難したが、真の問題は中国の台湾に対する脅威がエスカレートしていることだ。先月、中国軍は台湾海峡の近くで軍事演習を実施した。国営メディアの環球時報はこれらの演習を「台湾奪取のリハーサル」だとした。中国の戦闘機は今年になって台湾の周辺や空域内を繰り返し飛行しており、9月16日以降22回を数える。

 社説はさらに、現在の売却案には含まれないもののトランプ政権は米軍無人機「MQ-9リーパー」や対艦ミサイル「ハープーン」の売却も検討していると述べ、先週、中国の習近平国家主席は広東省の軍基地を視察した際、「戦争への備えに全精力を注ぎ、高い警戒態勢を維持する」よう指示したと伝える。社説は最後に、武器売却は台湾の防衛にとって何より必要だが同時に米国の支援を示す重要なシグナルでもあると指摘。11月3日に実施される大統領選挙に際して、誰が勝利するにせよ、次期米大統領は中国が弱みを突いて攻撃を仕掛けないよう一段と対策を講じる必要があると提言する。

 上述の対艦ミサイル「ハープーン」の売却に関して10月27日付ロイター通信は、26日に米国防総省が国務省がボーイング製対艦ミサイル「ハープーン」を搭載した沿岸防衛システム100基の台湾への売却を承認したことを明らかにしたと伝える。国務省が今回議会に売却を正式通知したのは、対艦ミサイル「ハープーンブロック2」400発を搭載した最大100基のハープーン沿岸防衛システム(HCDS)で、議会は正式通知後30日以内に売却に反対できるが、台湾の防衛には超党派の幅広い支持があるため反対はないとみられると報じる。他方、26日に中国外務省の趙立堅報道官はロッキード・マーチン、ボーイングの防衛部門ボーイング・ディフェンス、レイセオン・テクノロジーズを含む米国の関連企業に制裁を科す方針を示したと報じ、中国政府の台湾に対する方針について懸念が強まる中、トランプ政権は11月3日の大統領選を前に中国への圧力を強めているとコメントする。

 以上のようにトランプ政権は、最初の任期が終わる時期に矢継ぎ早に台湾防衛支援のために武器売却を決断した。これはトランプ大統領が再選戦略の一環として推進する中国叩きの一つともみられるが台湾としては心強い限りであろう。こうした状況のなか、10月31日付ワシントン・ポストは、台湾の蔡英文総統と側近が米大統領選挙でバイデン候補が勝利した場合、バイデン候補が副大統領を務めたオバマ政権時代の対中融和政策が復活するのではないかと懸念していると伝えている。バイデン新政権の対台と対中政策を改めて注視していきたい。


韓 国

☆ 回復に向かう経済
 10月28日付ウォール・ストリート・ジャーナル記事は、韓国では第3四半期(7~9月期)の国内総生産(GDP)が前四半期比1.9%増となり、景気後退に歯止めがかかったと報じ、これは韓国が新型コロナウイルスを抑え込んだことが寄与したことに加え、中国同様、コロナ以前の経済構造もまた鍵となったと指摘する。すなわち記事によれば、新型コロナの影響を克服できた真の決め手は、ウイルスの早期収束と現行の輸出重点型経済モデルの恩恵がもたらした複合効果である。韓国ではGDPの伸びに対する輸出の貢献度は5.5%ポイントと少なくとも1960年以降で最高となり、この好調な輸出がなければ設備投資の不振により、韓国では景気後退が続いていたとみられる。民間支出は前四半期比で0.1%減少している。

 記事はさらに、貿易依存度が大半の国々より高い韓国経済にとって、輸出増加効果は桁外れに大きいと述べ、2019年に輸出額の対GDP比が約40%と中国の18.4%、米国の11.7%を大きく上回ったと報じる。また輸出急増の品目内訳をみると、北米や西欧が韓国の好調を再現するのが難しい理由が明白になると述べ、韓国の9月の3大輸出品目(電気機器、工作機械および暖房器具、自動車および関連部品)はすべて前年比10%超の伸びをみせており、いずれも前年の伸び率を大きく上回ったと指摘する。

 次いで記事は欧州経済の現状について次のように伝える。欧州最大の輸出国であるドイツは、コロナウイルスの抑え込みでは韓国や中国ほど成功していないが、欧州基準では健闘している。ドイツの7~9月期GDPは今月末まで公表されないが、国際通貨基金(IMF)の予想では、今年のドイツ経済は6%縮小するとみられている。フランスと英国の予想縮小率はそれより大きい9.8%、イタリアとスペインは二桁台の落ち込みとなる見通しである。

 こうした欧州経済の現状に対して、韓国で輸出が拡大している一因は、今年の世界的な経済停滞の中でも引き続き需要がある品目を製造していることだと述べ、韓国でもサービス輸出は23.4%減と大きく落ち込んだままだが、物品輸出は前年比0.6%減にとどまっていると指摘。欧米諸国が韓国と同様にウイルスの感染拡大をうまく抑制できていたとしても、サービス重点型の輸出国は韓国のような結果を出せないだろうと述べる。今後の韓国経済については、IMFは2021年の経済成長率を2.8%と予想しているが、これは韓国経済が2020年初めの経済規模に戻るために現時点で必要とみられている成長率とほぼ一致していると述べ、韓国が今年中にもコロナ前の経済規模に戻る可能性を示唆する。

 記事は最後に中国、台湾、ベトナムも韓国の例が当てはまると述べ、コロナ押さえ込みが経済回復の前提となるとしても、物品重点型の輸出国というコロナ前の経済構造が同じように重要になっていると強調する。
 以上のように韓国経済の早期回復は、コロナウイルスの迅速な感染防止に成功したことがあるが、同時に輸出重点型、とりわけ物品重点型の輸出国であることが寄与したと指摘する。一つの分析として興味深い。なお後述の主要紙社説論説欄で紹介しているように、中国についても似たようなことが指摘されている。中国経済の既存構造が対面接触に依存するサービス部門よりも対面距離を保っての操業が容易である工場運営のシェアが高いことで優位になっていると指摘されている。


北 朝 鮮

☆ 孤立を深める金体制
 10月10日、北朝鮮は朝鮮労働党創設75周年を迎えた。10月24日にこれを祝賀する軍事パレードが平壌で開催された。パレードは夜明け前の午前零時に壮大な花火の打ち上げと共に始まった。同日付エコノミスト誌は、こうした夜間パレード開催は北朝鮮の独裁体制がコロナウイルス後にいかに益々孤立状態に陥っているかを示唆していると伝え、北朝鮮は国境を閉鎖し、外交官を閉じ込めるなど、かってないほど孤立を深めていると述べ、進歩がみられるのはミサイルだけだと次のように報じ、かつ論評する。

 北朝鮮の国境は今年1月末から閉鎖され、国連制裁によって既に大幅に削減されている。公式の対外貿易は今はほとんど停止されている。対米、対韓外交はベトナムでの米朝首脳会談の失敗後、停滞状態にある。外国の外交官やNGO関係者は大半が平壌から追放され、残る少数の人々は自宅に軟禁されている。孤立状態を示す格好な例として、記念日祝賀の模様を観察してみよう。金政権は18年9月には、経済をテーマとする花で覆われたフロートを見物してもらうために外国人ジャーナリストや平壌に駐在する外交官など多数の要人を招待したが、今回のパレードでは花は少なく、兵器が増え、独立した取材はなかった。

 首都の外へ眼を転じると、国境閉鎖はいっそう不吉な様相をみせる。コロナ対策の一環として政府は8月末、密輸業者が国境を越えるのを防ぐために、中国との国境沿いにおいて射殺命令を出し、数人が射殺されたと伝えられている。この措置はまた、先月、北朝鮮の国境警備隊が韓国の当局関係者を殺害した恐ろしい事件とも関連しているかもしれない。

 北朝鮮の国境閉鎖の決定は、地方の一般人と首都のエリートの双方に多大な経済的苦痛を引き起こしたとみられる。住民が小規模な密輸で収入を補う中国に近い国境地域では、10世帯の家計調査によると今年はこれまでに支出を約3分の1に削減したと韓国のウェブサイトのデイリーNKが報じている。洪水や台風による被害によって農村部はさらに悲惨になり、平壌ではパニック買いの中で店舗は主食を配給制にしている。

 金正恩委員長は今月初めに国民を「生活の困難から」解放する努力が不十分だったと芝居染みた謝罪をして涙を流したが、その悔い改めた態度は国民からうつろな笑いを引き起こした可能性が高い。彼らは最近裁判前の刑務所での殴打、強姦、飢餓についてヒューマン・ライツ・ウォッチの調査員に語っている。

 しかし中国による非公式の援助のおかげで、崩壊する事態にまで悪化する可能性は低いとソウルにある国民大学のアンドレイ・ランコフは考えている。米中関係が非常に悪化しているので「北朝鮮の安定維持は、中国にとってかつてなく重要になっている」と同氏は語り、そうした中国の援助の一例として燃料供給を挙げる。国連に報告された貿易データによると、8月にすでに制裁によって上限に達している石油輸入はゼロに近い値に落ちた。しかし国内の燃料価格は上昇していない。国境閉鎖にもかかわらず、物資は依然として中国とおそらくロシアからの非公式ルート経由で入っていることを示している。

上記のように報じた記事は最後に、国境閉鎖の影響を受けていない分野の一つとして金委員長の兵器庫を挙げ、相変わらず進歩発展を遂げており、最近のパレードでは世界最大と考えられる新道路移動式大陸間弾道ミサイル(扱いにくく、テスト未済かもしれないが)に加えて、いくつかの新兵器が展示されたと述べ、金委員長は2018年と19年に外交攻勢に打って出たにもかかわらず、明らかに食器を満たすよりも派手な武器を大切にしていると指摘する。
 以上のように、一度は外交攻勢に打って出た北朝鮮は対米外交の停滞によって経済制裁の緩和あるいは撤廃の希望を失い、加えてコロナ禍によって厳格な国境閉鎖に迫られ、再び核とミサイルの開発深化の道を選び孤立を深めている。この間、北朝鮮の体制維持に利益を持つ中ロが密かに支援を続けていると記事は指摘する。問題は孤立を深める北朝鮮が次の一手として、何を打ち出してくるかであろう。他方、米国では大統領選が実質的に終わり来年新大統領が就任する。今後の米朝関係の動向がその鍵を握っていると言えるかもしれない。


東南アジアほか

☆ 菅首相、就任後初の外遊で東南アジアを訪問
 菅義偉首相は10月19日から20日にかけて、就任後初の外遊でベトナムとインドネシアを訪問した。10月23日付ウォール・ストリート・ジャーナルは、アジアにおける地政学的な影響力をめぐる論議では、米中摩擦が中心となっているが、金融面で言えば中国にとって実際の挑戦者は日本だと述べ、今回の菅首相による両国訪問の背景には、東南アジアを舞台として日中が競う「アジア投融資外交」があるとし、日本政府にとって投融資に基づく影響力の連鎖の重要性が浮き彫りとなったと指摘する。

 記事は、具体例としてベトナムの二大都市における交通インフラの整備を挙げ、地政学的に重要な問題ではないように思えるかもしれないが、近年アジアにおける影響力を巡る争いがホーチミンとハノイの地下深くで繰り広げられていると指摘する。この2つの都市の地下鉄システムは日中企業がそれぞれ建設を進めており、日中の影響力を巡る競争が、多額の貯蓄と海外への投資意欲を持つ両国の実態と重なる様子を象徴していると報じる。

 さらに、日中の力関係は不均衡に見えるかもしれないが、邦銀は世界最大の国際的な貸し手であり、外交政策を支える国際活動の促進という点では強みを持つとし、アジアにおける金融影響力に関しては、日本は中国に対する唯一のまともな競争国だと指摘する。その融資の多くは国際協力機構(JICA)を通じて行われており、JICAは公式の開発援助を提供すると同時に、現地パートナーや日本企業との大規模な投資プロジェクトの調整を支援し、前回の年次報告書におけるJICAの5つの優先事項の第一は、日本政府の「自由で開かれたインド太平洋」政策の推進にあったと述べる。

 また国際決済銀行(BIS)によるとASEAN有力国であるタイ、ベトナム、フィリピン、インドネシア、マレーシアに対する邦銀の融資総額は、過去10年間で301%増の1921億1900万ドルに上り、中国の銀行に関し直接比較できる統計はないが、邦銀は現在東南アジアの5つの発展途上国に向けた融資が仏、英、米の銀行を合わせた総額を上回ると報じる。中国の役割については、今年初めに戦略国際問題研究所(CSIS)がアジア地域で実施した調査によると、政策立案者をはじめとする有力者の間では、おおむね有益だと考える人と、おおむね有害だと考える人の間でほぼバランスが取れており、見方が交錯していると伝える。

 上記のように報じた記事は最後に、日本の進むべき道は明らかと思われると述べ、海外でより高い投資収益を求める飽くなき欲求と比較的無傷で08~09年を通過した国内銀行の健全性という組み合わせは、アジアにおける金融面の影響力を中国と競う上で唯一のまともな競争相手となる足がかりになっていると指摘する。

 以上のように記事は、アジアにおける地政学的な影響力をめぐる論議では、米中摩擦が中心となっているが、金融面で言えば中国にとって実際の挑戦者は日本だと主張する。日本のそうした力を支える存在として、08年の世界的金融危機で余り打撃を受けなかった健全な邦銀と国際協力機構を挙げ、日本政府の「自由で開かれたインド太平洋」政策を支援していると指摘。日本が金融力をもって強権姿勢を高める中国に対抗することに期待を示している。菅首相の就任後初の外遊は、まさにそうした期待にも応えていると言えよう。


インド

☆ バイデン次期大統領の下での米印関係
 11月7日、米国の大統領選挙で民主党候補のジョー・バイデン氏が次期大統領になることが確認された。同日付米タイムは、バイデン氏は世界舞台における米国のリーダーシップに対する尊敬を回復し、同盟国との関係を修復すると宣言しているが、これは過去4年間、孤立主義的な外交政策を取り、過去数十年前に築かれた同盟関係を損なってきたドナルド・トランプ大統領とは全く対照的だと指摘する。

 他方、トランプ大統領はインドのナレンドラ・モディ首相を含め、海外で何人かの首脳と友情を築いてきたと述べ、中国の台頭に直面して米印両国も軍事的に緊密に結びついたと伝える。そのうえで、副大統領になるカマラ・ハリス氏がインド系米国人であることから、今後の米印関係に大きな影響を与えるだろうと述べ、その場合の問題点として人権、カシミール紛争、対中政策などを挙げて次のように論評する。

 カマラ・ハリス氏はインド系米国人として初めて副大統領に就任する。この事実は米印両国にとって圧力となる。副大統領職には、インドの米政治に対する関与とともに、米国のインド問題への対応を変える潜在力がある。経済が落ち込んでいるインドにとって両国関係は特に重要である。インド経済は2020度第1四半期に前年同期比23.9%減と過去数十年で最大の落ち込みを示し、新型コロナウイルスが主要経済に与えた影響として世界最大となった。

 こう述べた記事は、モディ首相が2019年に再選されて以来の政策について触れ、イスラム教徒が多数派を占めるカシミールの半自治的地位の取り消しや、近隣諸国からの不法移民に市民権を与える「インド市民権改正法(CAA)」でイスラム教徒を対象外にするなどのイスラム教徒を排除する一連の政策を推し進め、また反対意見を抑圧しようと最近ではアムネスティ・インターナショナルのインド支部に法的圧力をかけて閉鎖を余儀なくさせたなどと批判する。これに対してバイデンとハリス両氏は共にインドの人権侵害とモディの民族主義的リーダーシップに反対の声を上げていると述べ、イスラム系米国人コミュニティに対する政策の中でバイデン氏は、モディ政権の新しい市民権法と同じくバングラデシュから流入したイスラム教徒を排斥する意図のある住民登録簿制の導入を非難し、こうしたプロジェクトは「インドの長い世俗主義の伝統と多民族的、多宗教民主主義の維持」と矛盾すると呼びかけたと伝える。ただしバイデン氏は、米印関係の強化も宣言していると述べ、「米国とインドはあらゆる形態のテロに対して共に立ち向かい、また中国であれ他の国であれ、近隣諸国の脅威とならないように地域の平和と安定を促進するために協力する」と10月にインド系米新聞の論説コラムに寄稿していると伝える。

 さらにトランプ大統領とモディ首相との親密な関係について触れ、両人は共に右派政治家でトランプ大統領はインド系米国人をターゲットにしたトランプ再選キャンペーン広告でモディ首相を大きく取り上げ、今年2月にインドを訪問した際には、満員のクリケットスタジアムでモディを「私の本当の友人と呼ぶのを誇りに思う男」と演説したと報じる。他方、モディ首相はこうした関係をインドの世界的な存在感の向上に利用したと述べ、米印の戦略的関係が深まるに伴い、トランプ大統領はモディ支配下のインドで深刻となっている人権問題から目を背けたと指摘する。

 こうしたトランプ時代との対比でバイデン陣営の対応が注目されるが、記事はバイデン氏が米国とインドの安全保障関係をさらに強化することを約束していることから、インド政府の人権侵害に対してどれだけ強く押し戻すかについては大きな疑問符があると指摘。メアリー・ワシントン大学政治学国際問題科のスルパ・グプタ教授は、「米国は一定の限度を超えてインドの国内問題に介入しないだろう」と語っていると伝える。

 次いで記事はカシミール問題について概略次のように述べる。インド政府が19年8月にカシミールの紛争地域に軍隊を派遣し、州の憲法上義務付けられた自治を取り消すと発表したとき、トランプ政権からの反応はかなり控えめだった。インドは長い間、自国領土と主張するカシミールの状況は国内問題であり、外部勢力が調停する問題ではないと主張してきた。これに対し、バイデン、ハリス両氏は公の声明や政策文書でカシミールでの行動についてインドの説明責任をトランプ以上に求めることを示唆している。インド政府はカシミールのすべての人々の権利を回復するために必要な措置を講じるべきだとイスラム教徒米国人のためのアジェンダでバイデン氏は主張している。

 さらに中国に対する米印両国の対応について記事は概略次のように述べる。トランプ政権下で米国とインドは軍事協力緊密化のために3つの合意書に署名した。多くのアナリストは、これは中国からの脅威増大に対する共通の認識に基づくものと理解している。中印間の緊張は2020年にカシミール紛争地域で軍事衝突が起こり、双方に死傷者が出た事件で大幅にエスカレートした。時を同じくして、米国でも対中感情が国民のコンセンサスとして硬化していた。この状況は新大統領の下で劇的に変わるとは思われない。バイデンとトランプの両陣営が中国に対する敵対的な見解を共有しているからである。トランプ大統領の最初の任期の特徴は扇情的な言葉で同盟国を遠ざけたことにあるが、バイデン氏は中国政府からより良い慣行を引き出すためにコンセンサスベースの対応を取ると公約している。

 またバイデン氏は、米国とインドの軍事協力を強化することを約束しているものの最終的に中国への圧力を緩和すると決めた場合、インドは見捨てられた状態になる可能性がある。「米国の政策がトランプ時代よりも中国に対して少しでも緩和され、かつロシアの後を追うようなことになると、インドの立場は複雑になる」とチャタム・ハウスのアジア太平洋プログラムのアソシエイト・フェローのジェームズ・クラブツリーは言う。

 以上のように記事は、バイデン氏とトランプ大統領の外交方針の違いを先ず指摘し、次いで副大統領にインド系米国人のカマラ・ハリス氏が就任することを挙げ、今後の米印関係を展望して問題点を幾つか指摘する。第1にモディ首相が進める国内イスラム教徒の排斥などの人権問題である。バイデン、ハリス氏は共にインドの長い世俗主義の伝統と多民族的、多宗教民主主義の維持と矛盾すると批判していると伝える。第2にカシミール紛争についてバイデン、ハリス両氏は公の声明や政策文書でカシミールでの行動についてインドの説明責任をトランプ以上に求めることを示唆していると報じる。第3に中国との関係では、米印は中国を念頭に軍事関係を強化しているが、これは米新政権でも変わらないだろうと予測するが、米国が対中姿勢を緩和するようなことになるとインドの立場は複雑になるとの見方を示す。以上のように米印関係は米新政権にインド系副大統領が誕生するとしても紆余曲折が予想される。とはいえ、バイデン氏は米印関係の強化を明確にしており、最終的には米印関係が現在より悪化するとは考えにくいと言えよう。

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主要紙の社説・論説から

コロナウイルス禍の現状 ― 東西で深まる影響の明暗と分断

今回は第2波、3波と世界を襲っているコロナ禍の現状に関する主要メディアの論調を観察した。メディアは影響の明暗が東西で分かれ、米欧とアジア諸国、特に東アジアとの分断が深まり、世界を勝者と敗者に分裂させていると伝える。以下はその要約と結びである。

要約:メディアはコロナ禍の現状について、その影響の明暗が東西で分かれ、米欧と東アジアとの分断が深まり、世界は事実上分裂していると指摘する。ウォール・ストリート・ジャーナルはコロナウイルスが米欧で再び猛威を振るうなかアジアは普段の生活に戻っていると伝え、9月の新規感染者は中日韓、シンガポール、香港合算で1日当たり1000人以下だが米国1国で5万6000人に達し、欧州も第2波に襲われ、1日平均で8万8000人と以前より増加していると報じる。米欧はパンデミック疲労を募らせ、対面距離順守に緩みが出て、接触者追跡も効果を発揮していないと指摘する。

 他方、アジア諸国は全国的都市封鎖なしにウイルス抑制に成功したと述べ、要因として、積極的な接触者追跡、厳しい隔離プログラムと渡航規制、文化の違い、政府の首尾一貫した姿勢、SARSやMARSの経験によりマスク着用や政府の介入を西側より幅広く受け入れたことを挙げる。警戒心もアジアが高く、感染を恐れる回答の割合が韓国では80%、米国では58%、スペインでは45%だった。

積極的な接触者追跡の例として韓国を挙げ、監視機関がスマートフォンのデータ、クレジットカードの記録、監視カメラ(CCTV)映像をふるいにかけて、感染者の接触経路を追跡し、ここ数週間、感染経路の80%が韓国の保健当局によって把握されていると報じる。しかし西側ではプライバシー侵害に対する批判があり、欧州の一部で導入された自主追跡アプリは、広範に使用されるに至らなかった。また厳しい隔離規則が米欧との大きな違いを生み出したとし、アジアでは米欧のように自宅隔離ではなく、陽性者は軽症や無症状でも政府運営施設に収容され、ベトナム、香港、シンガポールでは濃厚接触者も隔離施設に収容を義務づけられている。だが欧米では、隔離規則の遵守は不徹底で、英国では発症者と同居者は14日間の在宅を勧奨されているが、最近の調査では参加者の約4分の3が過去24時間に外出したと答えている。多くの西側諸国は生活制限に疲れ果て、感染リスクを冒しても家族や友人と会うとしていると伝える。渡航制限についてもアジアが厳しく、訪問者は通常到着時に検査を受け、香港、韓国、ニュージーランドなどでは2週間の政府監視の隔離が必要とされている。アジア太平洋地域では、国や地域の6割が外国人観光客を完全に閉め出したままである。

 アジアは対応の成功によって、経済実績も向上し、例えば、国際通貨基金(IMF)は中国が2020年に世界の主要経済国の中で唯一1.9%のプラス成長となるとみていると述べる。フィナンシャル・タイムズも中国、台湾その他のアジア太平洋地域の諸国は目標に向かって経済を発展させているが、コロナが風土病と化している国々では、経済は極端な縮小に向かっていると指摘する。そのうえで、東アジアは世界経済全体に対して需要を供給する地域となり得るかと問題提起する。欧州経済は感染が大陸全体で再び増加するにつれて勢いを失ってきており、宿泊やレジャー施設、旅行の制限に努力していると述べ、これに対して台湾、韓国、中国に加えてニュージーランドやベトナムなどのアジア太平洋地域の国々は、再発に備えて厳しい統制を維持していると指摘。具体的には、早期の国境閉鎖、組織的な接触者追跡と隔離、対面距離の実施、大量検査あるいは厳格なロックダウンや市外移動規制などを挙げ、再発と感染拡大を効率的に抑制していると伝える。そのうえで経済問題について、アジアは消費資材の製造拠点へ移行することで打撃を回避、さらにマスクや防護服などの医療用品の供給者として恩恵を受けていると述べ、欧米が従業員を有給帰休させるなか、アジアが製品需要を満たしていると指摘する。

 ただしアジアが世界経済の救世主となり得るには問題点が2つあるとし、第1にアジアの成功は効率的なワクチンの発見有無にかかっているとし、ワクチンがなければアジアはウイルスに感染し易いままであり、ウイルス抑制も一時的な成功に終わり、国境規制などの永続化に迫られるだろうと主張する。第2にアジアは国内経済では前進しているが、その製品は国際的な需要に依存し、観光業封鎖の影響もあり、アジアが世界経済の回復を維持するための需要を創出できるかどうかは不確かだと指摘する。

 エコノミスト誌は、パンデミックは世界経済を勝者と敗者に分裂させているとし、そうした視点から中国と米欧のコロナへの対応を比較する。コロナ禍の経済規模への影響について、経済協力開発機構の予測として、来年末には米経済は2019年の規模に落ち込むが中国経済は10%拡大、欧州経済はパンデミック前の生産量で数年間低迷、人口動態の圧迫に苦しんでいる日本も同じ運命と報じる。世界50カ国の成長率も今年第2四半期に過去40年間で最も広範なバラツキを示すとのスイス大手銀行UBSの予想を伝える。こうした格差を生む主要要因として3つ挙げる。第1にコロナウイルスの蔓延で欧州は高コストの第2波と戦っており、米国もそうした事態に見舞われるだろうが中国では蔓延が終わっていると指摘する。第2に経済の既存構造を挙げ、対面接触に依存するサービス部門よりも対面距離を保っての工場運営の方が容易であり、中国では後者のシェアが大きいと指摘する。第3に政策対応を挙げ、米国は国内総生産の12%に相当する財政支出と短期金利の大幅引き下げなど、欧州よりも大規模な刺激策を導入したと述べる。

 またパンデミックは構造的変化と創造的破壊を引き起こしており、これに対する政策対応が重要だと述べ、欧州の対応は遅れているだけでなく、経済を調整ではなく硬直化させるリスクを孕んでいると指摘。有給の短時間労働制度、破産規則の停止、銀行による暗黙の支払い猶予、大がかりの国による裁量的支援などを挙げる。また危機前の仏独における世界的大企業を生むための産業政策に触れ、コロナ危機を政府と既存ビジネスとのなれ合い関係を促進する口実とするならば、欧州の長期的凋落を加速させると警告する。

 ただし中国についてもコロナ禍が経済体制に潜む長期的な欠陥を露呈させたと述べ、社会的安全網の欠落、それにより家計所得てこ入れ対策が不可能なこと、残酷なロックダウンを可能にした監視と国家統制システム、それによる幅広い意思決定と人やアイデアの自由な移動が妨害される可能性などを挙げる。米国については、弱点は共和、民主両党の妥協を拒否する有害で分裂した政治にあるとし、財政の崖に直面する可能性とハイテク主導経済や財政赤字に関する重要改革が不可能となったと指摘。とくに米国は政治をリセットする必要があると提言する。

 また東アジアのなかで東南アジアがコロナ禍によって未熟な政治構造を露呈したと批判する。エコノミスト誌は、コロナウイルスが独裁者や私腹を肥やす政治家の欠陥を明るみに出したと指摘する。タイでは若者たちが圧政を続ける政府の対陣や王室改革を求めてデモを展開しているが政府は国家非常事態を宣言し、参加者を逮捕していると批判する。政府はコロナ対策では成功しているが、経済は今年8%のマイナス成長となり、大卒者の多くが未だ職を得ていないと報じる。さらに世界銀行によれば、コロナウイルスは投資や人的資源、生産性、包括的成長に打撃を与えており、東アジア太平洋地域全域において貧困層が3800万人増加し、その最大の被害者はインドネシアとフィリピンの若者だと述べる。東南アジアはアジア通貨危機によって大きな経済的被害を受け、タイやインドネシアで民主化運動が盛り上がったが、そうした過去の変革が中途半端だったことを今回のコロナ禍が露呈させたと指摘し、カンボジア、マレーシア、インドネシア、フィリピンなどの現在の政情を挙げる。そのうえで、東南アジア全域で選挙は権力を定着させるか利権の場となっていると述べ、若者たちが立ち上がっても既存勢力とは対抗できないだろうと論じる。

結び:以上のようにメディアは、コロナ禍の影響が東西で明暗が分かれ、世界を勝者と敗者に分裂させていると指摘する。欧米で感染者数が再び増加するなか、東アジアでは感染が的確に押え込まれている状況では当然の指摘である。その要因についての分析も適切と言えよう。特に米欧がパンデミック疲労を募らせ、対面距離姿勢に緩みが出ており、接触者追跡も効果を発揮しなくなっているとの指摘は、アジアを含む世界にとって今後の一つの重要な警告として受け止める必要があろう。また積極的な接触者追跡、厳しい隔離規則や渡航制限の厳守などアジア諸国が感染拡大防止に成功したとされる諸要因は、引き続きアジア諸国のみならず西側を含む各国が順守していくべきだろう。

 他方、欧州経済が感染再拡大によって勢いを失っているなか、東アジア諸国は経済実績も向上してきているため、東アジアが世界経済の救世主となり得るかとの問題が提起された。これに対して、東アジア各国はその安全をワクチン開発にまたその製品を国際的需要にそれぞれ依存しているという2点から、否定的な結論が導かれている。確かにアジアは世界経済に織り込まれ、経済的に世界各国と相互に強い依存関係にある。しかし、ここで特に重要なのは中国経済の動向である。中国は感染を押え込み、経済の既存構造でも優位に立って急速に回復しており、世界経済の有力な牽引車の一つとなる期待が持てると言えよう。ただし中国については、社会的安全網の欠落や厳格な国家統制と監視システムがコロナ禍によって暴露された経済体制の欠陥として指摘されており、長期的に注視していく必要があろう。

 メディアはまた、世界50カ国の成長率も今年第2四半期に過去40年間で最も広範なバラツキを示すとの不気味な予想も伝える。さらにパンデミックは構造的変化と創造的破壊を引き起こしており、これに対する欧州の政策は、経済を硬直化させるリスクがあると警告し、米国についても共和、民主両党の妥協を拒否する有害で分裂した政治をリセットする必要があると指摘する。また世界銀行によれば、コロナウイルスは投資や人的資源、生産性、包括的成長に打撃を与え、東アジア太平洋地域において貧困層が3800万人増加し、最大の被害者はインドネシアとフィリピンの若者だと伝える。東南アジアでは、過去の変革が中途半端だったことがコロナ禍で露呈し、独裁者や私腹を肥やす政治家の欠陥が暴露されたと述べ、東南アジア全域で選挙が権力を定着させるか、利権の場となっていると指摘。若者らが立ち上がっても既存勢力と対抗するのは難しいだろうと論じる。こうした予想や指摘、警告は、いずれも今後の世界経済に対する潜在的なリスク要因のひとつとして注視していく必要があろう。

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(主要トピックス)

2020年
10月15日 タイ政府、非常事態宣言を受けて5人以上の集会を禁止。
  17日 中国の全人代常務委員会で輸出管理法が成立、戦略物資や
     ハイテク技術の輸出管理を強化、禁輸リストで米に対抗。
  18日 菅義偉首相、ベトナム、インドネシア訪問に出発。
  19日 菅首相、ベトナムのフック首相と会談。ビジネス目的の短期出張者の
                  往来再開、防衛装備品の輸出について合意。
     中国の今年7~9月国内総生産(GDP)、実質で前年同期比4.9%増。
     2四半期連続のプラス成長で他国に先駆けて経済正常化へ。
  20日 菅首相、インドネシア訪問。ジョコ・ウィドド大統領と会談。
     500億円の円借款供与を表明。
  23日 中国人民銀行法改正案、公表。デジタル人民元の発行を盛り込む。
  24日 中国、第19期中央委員会第5回全体会議(5中全会)、開幕。
  26日 日本、菅首相、所信表明演説で2050年までに
     カーボン・ニュートラルを宣言。
  27日 米印政府、機密情報共有協定に調印、中国をけん制。
  30日 ポンペオ米国務長官、東アジア訪問の旅でベトナムを訪問、
     フック首相と会談。インド太平洋地域における平和と繁栄の確保で
     協力を確認。
11月 1日 香港政府、民主派議員ら7人を逮捕、5月立法会の妨害容疑。
   3日 中国アリババ集団傘下の金融会社、アント・グループ、
                 上海と香港で計画していた大型上場の延期を突如発表。
  4日 タイの若者を中心とする反体制派、国会で提案された「和解委員会」
                 への参加を拒否すると発表。
     5日 インドネシア中央統計局、7~9月の実質国内総生産が前年同期比3.49%減
                 と発表。98年のアジア通貨危機以来の景気後退局面へ。
  8日 韓国国家情報院の朴智元(パク・チウォン)院長が来日、
                 二階自民党幹事長らと会談。菅首相とも面談。
   10日 ミャンマーで国会議員選挙、実施。
                 アウン・サン・スー・チー氏率いる国民民主連盟が勝利したと宣言。
   12日 菅首相、バイデン次期米大統領と電話会談。
   13日 中国の習近平国家主席、ジョー・バイデン、カマラ・ハリスの両氏に
                 米大統領、副大統領の当選に祝意を表明。
     15日 日中韓、ASEAN諸国首脳、オンライン会議で
                東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に調印。

主要資料は以下の通りで、原則、電子版を使用しています。(カッコ内は邦文名) THE WALL STREET JOURNAL (ウォール・ストリート・ジャーナル)、THE FINANCIAL TIMES (フィナンシャル・タイムズ)、THE NEWYORK TIMES (ニューヨーク・タイムズ)、THE LOS ANGELES TIMES (ロサンゼルス・タイムズ)、THE WASHINGTON POST (ワシントン・ポスト)、GUARDIAN (ガーディアン)、BLOOMBERG・BUSINESSWEEK (ブルームバーグ・ビジネスウィーク)、TIME (タイム)、THE ECONOMIST (エコノミスト)、REUTER (ロイター通信)など。なお、韓国聯合ニュースや中国人民日報の日本語版なども参考資料として参照し、各国統計数値など一部資料は本邦紙も利用。

 
前田 高昭
金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。
訳書に『チャイナCEO』他。
『東アジアニュースレター』も配信中。
 

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