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東アジア・ニュースレター ― 海外メディアからみた東アジアと日本 ― 第115回

2020/07/22

東アジア・ニュースレター
――海外メディアからみた東アジアと日本――
第115回







前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト
           バベル翻訳大学院プロフェッサー 

 
 
  中国関係では、コロナ危機から急速に回復する中国は、またもや成長の時代を再スタートし、勝利に向かっていると主張する論文を紹介した。米欧などの西側諸国と中国の体制の違いが、中国経済の再生力の源泉となっており、国家の干渉は力を生み出していると主張、国有の企業体は非効率だと指摘する西側論者の見方に真っ向から反論している。

 台湾中央銀行が史上最低水準にある政策金利を据え置いた。背景に、政府がコロナ危機を巧みに乗り切り、かつ大型の経済対策を打ち出して経済成長率を何とかプラスに維持するとみられることがある。しかし失業率は高水準で個人消費の伸びは期待できず、加えて通貨高輸出競争力への影響が懸念されている。この状況では、中央銀行は通常、政策金利の引き下げを考えるはずであり、現に民間エコノミストは1%への利下げを予想していた。今後の動きを注視する必要がある。

 韓国の文政権がコロナ危機後に非接触型経済を構築しようとしている。この計画には遠隔勤務の徹底や村落をつなぐ高速ネット、学生へのパソコン普及などが織り込まれている。特に韓国が強みを持つ分野に参入してくる中国を念頭に置いて、競争力強化の機会として活用しようとしている。また自国内生産回帰のためのインセンティブの導入や人工知能分野でスペシャリスト軍団の育成なども計画しており、民間部門もリモートワーク関連業務などで流れに加わろうとしている。コロナ対策で世界の先頭を走った韓国は、ポスト・コロナの経済でも「非接触」をキーワードとして世界の最先端に立とうとしている。

 北朝鮮関係では、韓国に脱出した兵士が暴露する朝鮮人民軍内部における腐敗の実情をメディアが伝える。腐敗の背景として、資金を兵士の待遇改善ではなく、核兵器とミサイルの開発に注ぎ込むという金体制による戦略的決定があると指摘、その実情が、増え続ける脱北者の体験談からも明らかになってきたと報じる。報道内容から、北朝鮮の徹底した思想教育と資金はすべて核とミサイルの開発に注ぎ込む実態が改めて確認できる。

 東南アジア関係では、インドネシア経済がコロナウイルスによって打撃を受け、経済成長の大幅鈍化が見込まれている。政府は今年の成長率見通しを0~1%へ引き下げ、最悪のシナリオではさらなる縮小もあり得ると警告している。このため政府は早期の経済再開に動き、中央銀行も、インフレ圧力が後退し、通貨ルピアも安定していることから、金融緩和政策を継続的に推進しようとしている。

 インド政府は、ヒマラヤでの中印軍事衝突を受けて、バイトダンス、アリババ、テンセントなど中国を代表するハイテク企業のアプリを禁止する報復措置に出た。中国企業は国内での成長鈍化、検閲強化などの問題を抱えて世界最後の巨大フロンティアとされるインド市場に進出、フェイスブックなどの先行する米ハイテク大手との競争を排しつつ、成長を遂げていた。インドは「ボイコット・チャイナ」と呼ばれる不買運動を展開し、ファーウェイ中興通訊(ZTE)などの中国企業の締め付けも強化するとみられ、中印関係は経済、安保、外交関係など多方面から注視する必要がある。

 主要紙社説・論説欄では、前号でコロナ禍の主として日本の政治、経済に及ぼす影響についてみてきたので、今回は日本の企業や社会生活に与える影響について焦点を当てて観察した。コロナ危機は、日本企業と社会に改めて様々な課題を提起した。メディアは、そうした日本に対して警告を発するだけでなく、解決に至る方策や方向性を幾つか示唆する。例えば、政策の不足を補う民間企業の対応を例示し、大きな方向性としてデジタル革命の必要性を提起する。

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北東アジア


中 国

☆ 急回復する経済―弾けないバブル

 6月23日付ブルームバーグは同誌主任エコノミスト、トム・オーリンクの論説を掲載し、米経済が収縮を続けるなか、コロナウイルスから急速に回復する中国は、またもや成長する時代に向かっており、中国が勝利していると論じる。長文であり、以下に概略を紹介する。

 米国では日々数千人のコロナ感染者が発生し、経済は6%も縮小しようとしている。これに対し経済が急回復する中国は、世界最大の経済大国として米国に取って代わろうとしており、影響力はグローバルに増大している。しかし中国を懐疑的にみる者は、二桁台の成長は見事だが、実態は持続不可能なバブルであり、専制的な政治体制は経済を締め付け過ぎて、真の繁栄は難しいと指摘、銀行は不良債権にまみれ、産業界にゾンビ企業がまき散らされていると批判する。

 当初、コロナウイルスがこうした論点を裏付けたように思われた。コウモリからウイルスが伝染し広まったことで、原始的で発展の遅れた人々という偏見が確認された。コロナの警告を発した医師が死亡し、規制の中で外出する人々に家へ帰れとドローンが叫ぶ映像などは、監視国家の台頭への恐怖を煽った。また都市封鎖は中国経済を打ちのめした。工場は閉鎖され、国有企業の収益は急減し、建設ブームを主導した住宅販売も激減、税収入、土地売買など政府の主要歳入源も落ち込んだ。失業率は6%を越え、家計収入も縮小した。

 こうした否定的な物語の中で、中国経済にとって最大のガンとされたのは債務である。08年の世界的金融危機で始まった4兆元(5650億ドル)という巨額の景気対策は、強力すぎると同時に、余りにも長々と続いた。この間、債務が急速に増大し、国内総生産比で08年の140%から19年には260%に上昇した。国際通貨基金やウォール街のエコノミスト、そして中国共産党の幹部までもバブルの危険を警告した。最大の債務者は、国有企業、不動産開発業者、地方政府で、コロナが経済を揺るがすなか、一様に収入の急減に見舞われた。

 こうした状況をトランプ政権内の一部は一つの勝機とみた。ウイルバー・ロス商務長官は、感染症流行は雇用の北米地域への回帰を加速する、と語った。しかし中国政府は2月1日、行動に出た。一週間以上にわたって金融市場を閉鎖し、旧正月の休日を延期して14億人を家に閉じ込めた。人民銀行と銀行、保険、外為関係の政府監督機関は共同声明を発し、市場の安定を宣言すると共に中小企業向け信用を強化した。さらに人民銀行は1.7兆元を市場に注入し、金利を引き下げ、混迷する市場の沈静化に努めた。

 対策は奏功した。株価も迅速に回復し、投資家信頼感にとって重要な人民元も対ドルで7元余りに戻り、指標となる7日物レポ金利も低位安定に推移し、銀行が資金繰りに窮することもなかった。金融システムが安定したため、経済政策はビジネスと家計のギャップを埋めることに的を絞り、都市封鎖による債務不履行や失業の増加という下方スパイラルの発生を防止した。銀行融資を緩め、小規模企業には返済猶予の恩恵を施した。財政政策は企業の負担軽減にシフトし、税や社会保険料の支払い猶予を通じてキャッシュフローを解放した。

 国有企業やハイテク大企業なども活発に動いた。国有企業は長年の経験から危機対応の訓練を積んでいる。労働者を解雇せず、投資のふたを閉じず、資金を動かし続けた。テンセントやアリババなどのハイテク巨人は、その支払いやメッセージ関連アプリが中国経済のデジタル武器庫となり、拡張機能(アドオン)を創造して政府を支援した。アリババは支払いネットワークをテコにして零細企業や露天商らに特別融資を提供、都市封鎖を乗り切るのを支援した。とはいえ、成果は完全とは到底いえなかった。2020年の成長率見通しは2.1%と改革開放以来で最低となる。しかし体制を揺るがす危機は回避できた。

 次に、中国がいかに懐疑論者に挑戦したか、を見てみよう。それは筆者の近著、「中国、決して破裂しないバブル」にある通り、何気ない光景の中に潜む体制の強靭さにある。それは銀行、国有企業に対する盤石な資金支援であり、国による介入である。国家の干渉は銀行や企業を弱体化させる以上に、それを強化している。加えて巨大な規模が生み出す競争力がある。先ず銀行から観察していこう。中国の金融システムの危うさについては多大な記述が費やされているが、08年の世界的金融危機で4兆元の景気対策が打ち出されて以来、銀行の資産は4倍に膨れ上がった。

 銀行にとって、より質の悪い問題は、モラルハザードである。銀行は、懐の深い政府が不良債権の防波堤になってくれると思い込んでいる。内モンゴル自治区を拠点とする包商銀行が2019年、中国で20年ぶりの破綻銀行となった。国有企業や地方政府の債務不履行が増加し、コロナ危機以前に膨大な債務が破綻の運命にあったといえる。しかし破綻の運命といっても、それは今日のことではない。危機の理論から重大な論点が欠落している。すなわち金融のメルトダウンは、不良債権があまりに多いために発生するのではなく、それが起きるのは、銀行が資金不足に陥る場合だということである。アジア金融危機で韓国の銀行が破綻したのは、頼りにしていた外貨金融が干上がったためである。リーマン・ブラザースが倒産したのは、金融市場が同社に対する資金を打ち切ったからである。

 中国では、貯蓄率が高く、資金流出規制が厳格で、資金不足が問題となる可能性は低い。銀行は国内貯蓄からの資金流入を頼りにでき、安定的な長期資金源として確保している。やみくもの融資拡大は、国有銀行やゾンビ企業が跋扈するのと同様に問題ではあるが、銀行に対する資金供給が適切に行われる限り、危機の引き金は引かれない。 

 次にビジネスの在り方に関する問題がある。米国流の自由主義と中国流の国家中心主義を比較すると、政府とビジネスの関係の違いが際立つ。米国では放任主義が経済ダイナミズムの中核的要因となっているが、中国では大銀行、テレコム、航空、製造業などの企業が国有であり、私営企業ですら、共産党が影響力を保持している。米国では考えられないことだ。ただし、こうした政策はコストを伴う。すなわち、収益に対する関心の欠如である。北京近郊の電力会社の幹部は、わが社は国有なので、利益を気にしない、と語る。このため国有企業の生産性は低く、資産収益率は私営企業の水準のわずかな一部分程度だ。

 しかし利点もある。企業に対する支配力を通じて、政策当局は景気循環の上下の変動を管理する強力な手段を手に入れている。このことはコロナショックに際して、いかんなく発揮された。国有企業は従業員を解雇せず、失業の悪循環を防いだ。ハイテク大企業も、公衆衛生への対応や信用刺激などで支援した。危機に際して政府とビジネスは解決に向けて力強く共に行動したのである。

 こうしたこと全ての背景には、中国の規模の利益がある。アダム・スミスは遠く1776年に遡り、中国では、その膨大な数の人口がグローバルな経済戦争において発揮する優位性を内蔵していることを認識していた。中国が、他国で使われた異なる種類の機械全てを製造する術を独習できていたら、中国は自国より小さな競争相手を大幅に飛び越えていただろう、とスミスは書いている。中国は、改革開放と2001年の世界貿易機関加盟後に、まさに豊富な独習機会を得たのである。中国の産業政策当局者は、国の資源を新技術習得のために配分し、その新技術を自国の巨大市場の規模に拡大することで中国企業に競争力を付与した。分野は繊維から金属、そして今や超高速列車、太陽パネル、そして原子力発電などに及ぶ。

 話しはこれで終わらない。中国の一人当たりの国内総生産は、米国の3分の1にすぎない。つまり追い付くための成長余地をたっぷり残しているのだ。電気自動車や産業ロボット、人工知能などのハイテク分野に注力するに伴い、年間成長率は2025年まで5%近くで推移し、20年代の成長率はこれを大きく下回らない水準で終える可能性がある。グローバルな米企業は中国との関係に入れ込んでおり、トランプの貿易戦争はこうした流れを変えそうにない。

 上記のように論じた記事は最後に、銀行の破綻は続くかもしれないが、政府が背後で支えると市場が信じる限り、市場は順調に機能し、そして中国が成長を続ける限り、安全網を提供する政府の能力に疑問は生じないだろうと強調する。

 以上のように、ブルームバーグ誌主任エコノミスト、トム・オーリンクの論説は、中国経済についての懐疑論者の論点を紹介し、逐次それに反論する。そうした論点とは、高成長は持続不可能なバブル、経済を締め付ける専制的政治体制、膨大な不良債権とゾンビ企業の存在などである。コロナ危機については、経済は確かに被害を受けたが、政府と人民銀行が迅速に対策を打ち出して金融システムの安定、人民元の防衛、資本市場の回復などに成功、国有企業や民間のハイテク企業も信用システムの安定や雇用の確保に協力したと指摘する。ただし成功はしたものの、成長が大きく落ち込むなど経済が甚大な被害を受けたことを認める。

 そのうえで、中国経済を懐疑的に見る論者に反論していく。銀行の破綻は通常、資金不足に起因し、貯蓄率が高く、資金流出規制が厳格な中国では起きにくく、また政府とビジネスの関係も自由主義の米国と国家中心主義の中国で全く異なり、国家の干渉が経済の強さに結びついていると主張する。中国の政策当局は景気循環の変動を管理する強力な手段を手に入れており、そのことはコロナ危機に際して十分に発揮されたと述べる。そして中国の規模の利益と新技術の独習力に言及し、中国企業の競争力強化に触れ、さらに一人当たりの国内総生産の低さが今後の成長余力となり、20年代にも5%台の成長率を維持すると予想する。そして経済成長が続く限り、政府の信用力も衰えず、政府の後押しを信じる市場は安定を維持すると主張する。

 以上、一言で総括すれば、米欧などの西側諸国と中国の体制の違いが、中国経済の再生力の源泉となっていると主張している。国家の干渉は弱さではなく、力を生み出すとの指摘が、それを明示している。これは国有の企業体は非効率だと指摘する西側論者の主張に真っ向から反論するものである。更なる分析が必要なテーマであるが、一つの見方として注目しておきたい。



台 湾

☆ 金利を引き下げない中央銀行
 世界ではコロナウイルスが流行し、国内では個人消費が低迷するなか、台湾では中央銀行が、こうした悪化する経済的影響への高まる懸念に挑戦するがごとく、政策金利を据え置いた、と6月18日付ブルーバーグが伝える。

 記事によれば、金融当局は木曜日の理事会で、政策金利を1.125%という史上最低の低水準に据え置いた。エコノミストの予想による中央値は、12.5BP引き下げの1%だった。好調な米国と中国向けの輸出やコロナウイルスの早期封じ込めが、これまでのところ、台湾経済を日韓その他の域内諸国などで見られるようなコロナウイルスによる甚大な後遺症から守ったのである。世界が不況に陥った場合でも、台湾中央銀行は今年も台湾経済が前年よりもペースは鈍化するとしても、プラス経済を維持すると信じている。国内総生産(GDP)は今年、1.5%増の見通しである。これは3月時点での中央銀行予想だった1.9%を下回った。

 台湾は概ねコロナウイルスを何とか押さえ込んだ。感染拡大地域からの旅行客を制限する迅速な行動と厳格な感染者追跡などが、感染者と死者をそれぞれ500人と7人に抑制できたのだ。それでもエコノミストの一部は、失業率がこの6年間余りで最高となる4.1%に達するなか、個人消費が2四半期連続で落ち込むと予想する。

 台湾企業が資金を台湾に持ち帰るに伴い、経済が強化され、金利も比較的高水準に保たれ、台湾は新興国市場向けの投資家にとって一種の避難所となっていった。その結果、台湾ドルが上昇し、輸出競争力に潜在的な影響を及ぼし、通貨高が政策当局にとって喫緊の課題となったのである。

 台湾ドルは1米ドル=29.655NTドルと18年4月以来の高値で終えている。今年に入り対米ドルで1.4.%高と日本円に次ぐ上昇となったのだ。中央銀行は先週全般にわたって複数の機会に市場介入し、通貨高への懸念を発信している。台北のトレーダーによると、中央銀行は先週木曜日以降、市場が終わる時間帯で繰り返し活発に動いている。

 なお同日付ロイター通信によると、中央銀行は3月に政策金利を過去最低水準となる1.125%に引き下げており、(今回の金利据え置きについて)楊金龍総裁は記者団に対し「利下げの効果は見られた。消費は徐々に回復する。しばらくは様子を見たい」と述べ、将来的な追加利下げの可能性を示唆したという。またコアインフレ率見通しも0.36%に下方修正したが、下半期には物価情勢は安定化するとし、台湾経済がデフレに陥る公算は小さいとした。さらに今後の景気見通しについて次のように報じる。

 台湾は新型コロナによる打撃をおおむね免れたが、雇用市場と個人消費に悪影響が及んだため、政府は1兆0500億台湾ドル(354億ドル)の経済対策を打ち出した。楊総裁は、こうした一連の景気支援策が押し上げ要因となり、消費は第3、4四半期に上向くと予想。台湾の経済成長は下半期に上半期より強くなり、成長の軌跡はスポーツ用品メーカー、ナイキのロゴマーク「スウッシュ」に似た形になるとの見方を示した。
 ただし、台湾の経済成長見通しは民間銀行の予想より大幅に楽観的で、ドイツ銀行は今年の台湾経済がマイナス成長に陥るとの見方を示している。

 以上のように政府がコロナ危機を巧みに乗り切り、かつ大型の経済対策を打ち出し、経済成長率を何とかプラスに維持するなか、中央銀行は今回、史上最低水準にある政策金利を据え置いた。しかし失業率は高水準で推移し、個人消費の伸びは期待できず、加えて通貨高で輸出競争力への影響が懸念されている。この状況では、中央銀行は通常、政策金利の引き下げが適切な処方箋と考えるはずである。現にエコノミストは1%への利下げを予想していた。引き続き中央銀行の今後の動きを注視したい。



韓 国

☆ コロナ危機後の経済は非接触型へ
 韓国がコロナ後の経済を「非接触」と呼ぶ型に再編しようと国を挙げて取り組んでいる、と6月11日付ブルームバーグが報じる。記事によれば、これは消費者科学の研究グループが2017年に発展させたアイデアで、非接触とは人々がオンラインで活動し合う将来を展望し、企業は人間を機械に置き換えて賃金の上昇や労働力の高齢化に備えようとした計画である。新型コロナウイルスが流行すると、この将来が現実となった。非接触が文在寅大統領の打ち出した76兆ウォン(620億ドル)の「ニューディール」政策の中核をなしている。

 政府は今年の経済成長率を0.1%と予想しているが、韓国銀行(中央銀行)や民間エコノミストは90年代のアジア通貨危機以来のマイナス成長になると見込んでいる。今月発表された文大統領の政策報告書は、非接触という言葉を47回使用し、55万人の新規雇用創出を謳っている。このため16万社の企業向けの遠隔勤務システムや1300の農水村落をつなぐための高速インターネット・インフラ、24万人の学生向けのパソコンなどのための投資を計画している。報告書はまたロボット、ドローン、自動運転車、その他の対面接触の必要性を削減する技術への投資も呼びかけている。

 各国政府が経済再生のために財政支出を増やしているなか、韓国政府は刺激策を活用して、特に中国を競争相手として念頭に置き競争力を強化させようとしている。韓国では、政策当局と財界指導者はグローバルサプライチェーンにおける地位向上のために協調してきた歴史がある。その場合、燃料効率のよい小型車や低マージンの半導体など他国が撤収した分野を占有していくことが多い。

 最近では中国が、韓国が強みを持つ分野、例えば、テレビ、半導体、携帯電話、造船業などに強引に参入してきている。また中国指導部は、人工知能や再生エネルギーなどの先端分野の支配を狙う計画の一環として寛大なインセンティブを用意している。こうした中国の野心は、中国と米国その他の諸国との間に緊張を生み出しているが、文大統領の計画にも、韓国企業に自国内生産に回帰するインセンティブを用意するなどの輸出市場としての中国への依存度を低下させる政策が含まれている。また人工知能分野で10万人のスペシャリスト軍団を育成するなどのナショナリズム意識の高揚を狙った計画もある。

 また国際ロボティクス連盟(IFR)によれば、韓国は既に製造業におけるロボット数で世界第2位にランクされている。設置数は労働者1万人当たり774で、ドイツは338,米国は217である。(日本は327でドイツに続いて第4位。首位は831のシンガポール)文大統領の最低賃金を時間当たり1万ウォンとする計画によって、ファストフード・レストランやコンビニの経営者は一斉にオートメーション化投資に動いている。ハンバーガーの最大手、ロッテリアは自動注文キオスクを半数以上の店舗に設置し、小売のEマート24やコレア・セブンはここ数年、レジなし店舗を試験的に導入している。

 文大統領は、4月の総選挙での与党の圧勝で政治的経済的資産を手に入れ、そのニューディール政策向けの資金を確保する第3次補正予算の通過を目前にしている。また政権は既に24兆ウォン程度の予算外支出について議会の承認を取得している。韓国は今年、国内総生産(GDP)の4%に相当する財政赤字を記録すると予想されているが、これは世界的金融危機以後、初めてのことである。韓国銀行は既に政策金利を0.5%と史上最低に引き下げ、さらに文政策を支援するために数兆ウォンの国債を買い取る態勢にある。

 民間部門も計画に加わろうとしている。現在、国内最大の財閥子会社が運営する「非接触」と名付けられた投資ファンドが存在する。サムスン・アセット・マネジメントを運営するチョン・デ・ホ氏は、非接触ファンドは世界の基本的な変化の方向を総括したものだ、と述べ、コロナウイルスはリモートワールドと呼ばれるものへのシフトを加速していると語る。チョン氏が注目する会社の一つに、ソウルにあるRサポート社がある。韓国と日本におけるリモートワーク関連ソフトウエア市場で最大のシェアを占めている企業である。今年に入り同社のサービスは44倍も急増したという。

 同社を創業したスー・ヒョン・ス氏は、コロナウイルスは非接触社会への移行を否応なく迫り、事態が正常に復したとしても、それ以前と同じではなく、また政府が十分に支援するとしても、非接触が布石となって様々なテクノロジービジネスが産業の主流となろう、と語る。

 以上のように文政権は、コロナ危機後に非接触型経済の構築を展望している。計画には遠隔勤務の徹底や村落をつなぐ高速ネット、学生へのパソコン普及などが織り込まれており、特に韓国が強みを持つ分野に参入してくる中国を念頭に置いて競争力強化の機会として活用しようとしている。また自国内生産回帰のためのインセンティブの用意や人工知能分野でスペシャリスト軍団の育成なども計画しており、民間部門もリモートワーク関連業務などで、こうした流れに加わろうとしていると報じる。コロナ対策で世界の先頭を走った韓国は、ポスト・コロナの経済でも「非接触」をキーワードとして世界の最先端に立とうとしている。



北 朝 鮮

☆ 脱北兵が語る朝鮮人民軍の内情
 7月6日付ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、脱北者の一人が語る朝鮮人民軍の腐敗にまみれた内情を詳細に伝える。この脱北者は、南北軍事境界線沿いの非武装地帯(DMZ)に派遣された元エリート新兵、ロ・チョルミン氏だ。ただし同氏は他のエリート兵士と違い、厚遇や迅速な昇進、訓練の免除を手に入れる金がなく、その違いが最終的に韓国への亡命につながったと報じる。記事は、金正恩氏の権力は軍に支えられているが、その軍内部で米国やアジア諸国の軍事専門家らは以前から腐敗が進行していると推測していたと述べ、背景には、貴重な資金を兵士の待遇改善ではなく、核兵器とミサイルの開発に注ぎ込むという戦略的決定があるとみられ、腐敗の実情が、増え続ける脱北者の体験談からも明らかになってきたと報じる。

 記事によれば、韓国に脱出した人々はこれまでに3万3000人ほどに上り、専業主婦や商売人のほか、数人の外交官もいる。多くは中国経由のルートを使っている。WSJが確認した韓国政府の内部資料によれば、警備の厳しい非武装地帯(DMZ)を越えて亡命した北朝鮮軍関係者は、1996年以降でわずか20人しかいない。WSJがロ氏から聞いた話は、独自に確認できていないが、情報当局や他の脱北者、研究者らの幅広い認識を裏付け、さらに理解を深める内容とされる。

 記事は上記のように強調したうえで、概略次のように報じる。
 北朝鮮は世界最大級の常備軍を維持しており、現役の兵士は120万人前後に上る。政府は国内総生産(GDP)の約4分の1に相当する額を軍事費に投入している。これは米国務省が軍事費を推計する170カ国の中で最高の比率で、米国の国防費はGDPの約3%だ。脱北者の話によると、そのカネのほとんどは前線の部隊まで届かない。

 ロ氏はDMZを挟んで韓国と米国の兵士のすぐ反対側で勤務についた。DMZいう花形の勤務地では、豊富な食料と組織化されたリーダーシップがあり、集中的な訓練が受けられると思っていた。ところが、兵士たちは武器の誤発射で死亡し、上官は彼の食料を盗んだ。ロ氏は数カ月で40キロほどにまでやせ細り、野生のキノコを食べて飢えをしのいだ。幅広く行き渡っていたのは、たばこだけだった。ある時、司令官に「昇進したくないのか」と尋ねられ、その際、ロ氏には払えないほどの金銭を要求されたという。

 ロ氏はある「栄光の」1日を覚えている。金正恩氏が、黒の高級車に乗って基地を訪問してきたのだ。周囲にはボディーガードが付き添っていた。ロ氏は、金氏が通り過ぎるのを遠くから見て息が止まりそうになった。その存在感に圧倒され、味のない食事を取りながらすすり泣いた。金氏を直接見る勇気もなく、頭がズキズキするのを感じた。金氏が去ると、仲間の兵士とともに立ち上がり、「金将軍、万歳!」と大きな声で叫んだ。市民は幼い頃から、北朝鮮の指導者が、建国者である金日成氏と直接つながりを持つ「白頭山血統」から選ばれなければならないと教わる。ロ氏によると、金一族以外の人が国を支配することは考えられないという。「それは金一族に対してのみ感じる敬意だ」

 エリート家系の兵士たちが配置されているDMZ付近では、軍の腐敗がまん延している。上官たちは配給米を近隣の市場で売却し、兵士たちには安価なとうもろこしのおかゆを出していた。高位者の親を持つ兵士らは賄賂用として現金を持ち歩いていた。部隊の司令官に米ドルで毎月最大150ドルの賄賂を渡し、極寒の中での歩哨を逃れていた。賄賂を使えば、追加の食料購入や暖かい衣類を入手でき、家族に毎週電話することもできた。

 賄賂で速やかな昇進が可能になり、軍事訓練も回避できた。ロ氏は打ちのめされたような気分だった。他の兵士が追加の睡眠時間を得たり、地元の市場に菓子パンを買いに行ったりするのを目の当たりにした。自身は家族に1度も電話できず、大半の時間を監視所で過ごした。時には任務のため野原に出掛けた。2時間以内にカマキリの卵を100個持ち帰るという達成不可能な任務だった。上官たちは漢方用のカマキリの卵を市場で売っていた。

 こう報じた記事は、ロ氏の脱北時の状況を次のように伝える。
 2017年12月のある朝、DMZの監視所に着く少し前、わくわくするような、しかし危険な考えが頭をよぎった。北朝鮮国旗の下を初めて敬礼せずに通り過ぎた。小銃の銃床で軽く突くように金属製のフェンスを押し上げ、その隙間に潜り込んだ。そして走りだした。肩に小銃を担ぎ、90発の弾丸と2個の手りゅう弾を持ち、胸の高さまである水の中を歩いて進んだ。地雷地帯に踏み込まないよう願いながら自由に向かって霧の中を走っていたとき、北朝鮮の宣伝スローガンが頭に浮かんだ。「どのような誘惑に際しても、われわれは国を守る」というものだった。このスローガンは繰り返し唱えていたため記憶の中に埋め込まれていた。自分の犯した裏切り行為の重大さを思うと、背筋が凍った。

 次いで記事はロ氏の近況について報じる。
 脱北したロ氏はソウルの大学に入学した。週末には結婚式場のレストランで働いている。大学の授業は自宅からオンラインで受講しており、新型コロナウイルスへの感染の心配はないと感じている。ただ、新型コロナに対してほとんど防護手段を持たない北朝鮮の家族のことを心配している。自分が北朝鮮兵士なら今ごろどう扱われていたかと思うだけでぞっとする。「われわれは見殺しにされていただろう。われわれは消耗品だとみなされていた」。ロ氏は自分が脱北したことに罪の意識を抱えている。とりわけ家族に何が起こったのか分からないためだ。金体制は脱北者の家族を処罰することが多い。しかしロ氏は知り得ないことは考え過ぎないようにしている。苦痛が増すだけだからだ。

 以上のように記事から、北朝鮮の軍内部における腐敗の実情がよく理解できる。しかも基本的背景として、エリート層とされる軍自体も困窮していることがある。一般庶民の窮状は推察してあまりある。それにもかかわらず、脱北したロ氏ですら、金一族以外による国の支配など考えられないとし、それは金一族に対してのみ感じられる敬意だと信じ込んでいる。こうした報道内容から、北朝鮮の徹底した思想教育と資金はすべて核とミサイルの開発に注ぎ込む実態が改めて確認できる。



東南アジアほか


インドネシア

☆ 中央銀行、3カ月ぶりに政策金利を引き下げ
 インドネシア銀行(中央銀行)は18日、3カ月ぶりとなる政策金利の引き下げを発表し、政策金利である7日物リバースレポ金利をこれまでの4.5%から4.25%へ引き下げた。同日付ブルーブルームバーグ記事によれば、中央銀行は新型コロナウイルス感染拡大の影響を考慮し利下げに踏み切るとともに、国内総生産(GDP)成長率予想も引き下げた。ブルームバーグがエコノミスト22人を対象に実施した調査で15人が0.25ポイント利下げを予想し、残りは据え置きを見込んでいた。 

 中央銀行はまた、今年の経済成長率予想を、前回の2.3%から0.9~1.9%に引き下げた。ペリーワルジヨ中央銀行総裁は今回の利下げについて、この決定は経済の安定を維持し、国家経済の回復を促す政府の努力と歩調を合わせるもので、中央銀行としては、低インフレ圧力、経常収支の低赤字を含む対外収支の安定維持と経済成長支援の必要性から利下げの余地があると考えている、と語った。

 記事は、さらに次のように伝える。経済見通しの悪化によって政策立案者は、通貨のボラティリティに対する懸念よりも景気優先で動かざるを得なくなった。ただし通貨ルピアは利下げによる以前の下落を取り戻し、ジャカルタ時間の午後2時59分現在、1ドル当たり14,078ルピアとほぼ横ばいとなった。INGグループの上席エコノミストは、中央銀行はハト派的な利下げを開始し、ルピアが安定していることで、さらなる緩和への道が開かれたが、経済は通貨と同じように安定するとは限らない、と語る。中央銀行に先立って政府も今週、成長見通しを0~1%へ引き下げ、最悪のシナリオではさらに縮小することもあり得ると警告した。

 15日に発表された貿易データによると、5月の輸入は原材料や資本財の落ち込みにより前年同月比42%減となり、経済の健全性について改めて懸念が生まれた。輸出も29%減となった。ただし経常収支見通しは改善に向かい、ルピアも最近の数週間は回復し、先月には対ドルで5%以上も上昇、政策当局に利下げの余地を与えたが、中央銀行はなおルピアが割安とみている。

 今後の金融政策の見通しについて記事は、政府は早期の経済再開の希望を明確にしており、コロナウイルスによる死者や感染者が増加しているにもかかわらず、規制を緩和していると述べ、金融についても緩和政策を推進すると予想、バンク・ダナモンのエコノミストが、本日の利下げを勘案すると、実質金利は他の新興国市場と比べて、かなり薄くなっており、更なる緩和余地を活用する動きは要警戒だが、今年中にはもう一度25BPの利下げがあると予想する、とのコメントを紹介する。

 以上みてきたようにインドネシア経済も、コロナウイルスによって経済成長が大幅に鈍化、政府も成長見通しを0~1%へ引き下げ、最悪のシナリオではさらに縮小することもあり得ると警告している。このため政府は早期の経済再開に動き、中央銀行も、インフレ圧力が後退し、通貨ルピアも安定していることから、金融緩和政策を継続的に推進しようとしている。当面、中央銀行の動きに注目したい。



インド

☆ 中国製の主要アプリを禁止
 インドと中国がヒマラヤで軍事衝突し、両国間の緊張が高まるなか、インド政府は6月29日、サイバーセキュリティー上の懸念があるとして59の中国製アプリを禁止すると発表した。同日付ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、これには北京字節跳動科技(バイトダンス)が運営する人気動画投稿アプリ「TikTok (ティックトック)」やアリババグループのモバイル向けブラウザー「UCブラウザー」、テンセントホールディングスのソーシャルメディア(SNS)アプリ「微信(ウィーチャット)」が含まれる。

 インドがセキュリティ上の懸念を理由に多数の中国製アプリを禁止したことは、国内の成功事例を海外でも再現しようと狙っていた中国ハイテク企業にとって大きな痛手となると記事は述べ、デジタル分野で「世界最後の巨大フロンティア」とされるインド市場からほぼ締め出されかねないためだ、と指摘する。記事によれば、インドでは近年、こうした中国製アプリの利用が急速に広がっており、中国企業もインド市場に多大の経営資源をつぎ込んできた。インド市場はまだ、それほど多くの収益をもたらしていないものの、巨大な潜在力を秘めていると考えられており、海外進出の野望を抱く中国ハイテク大手は近年、インドで大きな躍進を遂げてきた。安価なスマートフォンや通信プランのおかげで初めてネットを利用できるようになった数億人のインド消費者は、中国企業にとって大きな魅力なのである。

 記事はまた、こうした中国企業の積極的なインド進出の背景について、中国企業は国内で成長鈍化や検閲強化に直面しており、成長性に富み、新規ユーザーの潜在力が大きいインドは重要な市場となってきたと伝える。アナリストによると、成熟市場では、米アルファベット傘下のグーグルやユーチューブ、フェイスブックなどの主要アプリに市場を握られ、参入余地が乏しいとみられる一方で、ネット初体験のユーザーが多いインドでは、中国製アプリを前向きに受け入れる傾向が強いという。

 さらに米企業との競争について、米ポールソン研究所傘下のシンクタンク、マルコポーロが行った調査によると、中国製アプリは15~19年に、米国製アプリを押しのける格好でインド市場で足場を固めていき、19年には、インドで最もダウンロード回数が多い無料アプリのランキングで、TikTokを筆頭に、6つの中国製アプリがトップ10入りしたと報じる。米ハイテク大手も、初めてネットに触れるインドユーザーの取り込みに注力しており、4月には、フェイスブックが57億ドルを投じて、インド通信大手のジオ・プラットフォームズの株式を取得すると発表、改めてインド重視の姿勢を鮮明にしたと伝える。しかし、こうした米ハイテク大手が巨額の資金をインド市場につぎ込んでいるにもかかわらず、中国製アプリの一部は、インドのスマホユーザーにとって欠かせない存在に成長したと述べ、TikTok、UCブラウザー、ファイル共有アプリ「シェアイット(茄子快伝)」らが急成長していたと報じる。

 以上のようにインド政府は、ヒマラヤでの軍事衝突を受けて、バイトダンス、アリババ、テンセントなどの中国を代表するハイテク企業のアプリの禁止という思い切った報復措置に打って出た。こうした中国製アプリは、世界最後の巨大フロンティアとされるインド市場での利用が急速に進んでいたが、そこから閉め出される結果となった。中国企業は国内での成長鈍化、検閲強化などの問題を抱えてインドに進出、フェイスブックなどの先行する米ハイテク大手との競争を排しつつ、成長を遂げていた。インド政府は、中国製品の不買運動を呼びかける「ボイコット・チャイナ」を展開し、ファーウェイや中興通訊(ZTE)などの中国企業にも締め付けを強化する構えとみられ、引き続き中印関係については経済、安保、外交関係など多方面から動向を注視する必要があるといえよう。

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主要紙の社説・論説から

日本企業と社会に変革を迫る「究極の嵐」


 前号で、コロナ禍の主として日本の政治、経済に及ぼす影響についてみてきた。今回は日本の企業や社会生活に与える影響について焦点を当て、主要メディアの報道と論調を観察した。以下にそのまとめと結びをお伝えする。

まとめ:メディアはまず、政府対策の不足を補うために日本企業が独自にウイルス検査に乗り出していると報じる。ソフトバンクグループは、ビジネス再開に先立って不確実な状況を払拭すべく本社職員と家族、顧客らを対象に抗体とPCRを組み合わせた検査を実施したと述べ、追随する他社もあり、世界が経済を再開するなか、他のモデルになり得ると報じる。検査結果は、陽性率が低く、日本のコロナ対策が奏功したことを示したが、集団感染の可能性は遠のき、第2波感染の拡大リスクが浮き彫りになったと警告する。検査対策が不徹底と批判される日本政府は、医療を重症者に絞るために検査を限定したと反論、死者数も感染者数も少なく、世界から評価されて然るべき成果を上げたと主張していると報じる。

  他方、日本企業の一部はコロナ危機を「偽れる祝福」、「不幸に見えて実はありがたいもの」として捉え、バーチャルリアリティの技術による変革を迫る「究極の嵐」、すなわち外圧になると認識していると伝える。危機は、バーチャル会合やビデオ・コール、デジタル・ツールなどを駆使した変革を促し、家庭内人間関係に影響を及ぼし、生活空間の見直しなどを迫ると指摘する。富裕国の中で家事や育児に割く時間が少ないとされる日本男性は、家庭に閉じ込められて、家事分担の極端な夫婦間不平等という現実に直面する。夫婦間で一触即発のいさかいが始まり、「コロナ離婚」が流行語となったと伝える。多くの女性が重い家事負担のために昇進を妨げられ、しかも働く女性の約半数はパートタイムや契約社員だと指摘する。また緊急事態宣言下でも、多くの企業が古めかしいオフィス慣行に漬かって従業員の在宅勤務に消極的だったと批判、政府は企業に対して包括的な遠隔勤務制度を推進するよう大胆な方向性を打ち出すべきだと訴える。

 メディアはまた、コロナ禍が日本女性の伝統的な職場を奪おうとしていると報じる。対面勧誘を武器とする生保のセールスレディが、メッセージ・サービスやビデオ会議アプリ、スマホその他のオンライン・ツールを活用した新しい販売チャネルに取って代わられる脅威にさらされていると述べる。生保業界は転機を迎えており、その生き残りはデジタル革命への転換に意欲的かどうかにかかっていると指摘、今後はネット購入の顧客が増えると懸念する保険外交員の声を伝える。メディアはまた、日本でパワハラ防止法案が実施されるタイミングを捉え、日本の職場における特徴的現象の一つとして、ボスによるいじめの問題を取り上げる。最近、このパワハラが増加していると報じ、背景として、硬直的な階層制度、行動規範の世代間変化、年若の従業員を傷つける鍛錬、柔軟性に欠ける労働市場などを挙げる。ただし新法は、あいまいで効力に欠け、単なる警告に終わっているとの専門家の批判も伝える。

結び:以上のように、コロナ危機は日本の企業と社会の土台を揺るがすような影響を及ぼしている。メディアは、コロナ危機を「偽れる祝福」、バーチャル技術を活用した変革を促す「究極の嵐(パーフェクトストーム)」と評し、さらに家事分担の不平等が夫婦間に一触即発の論争を巻き起こし、「コロナ離婚」が流行語となった、などと刺激的に論評する。いずれも、一つの警告や提言として理解すべきであろう。家屋の狭隘な生活空間やデザインの見直しが必要になるとの指摘も、同様である。ただし見直しは、居住にとどまらず、オフィス空間についても避けられず、社会環境全般に影響が及ぶと予想される。働く女性が重い家事負担のために昇進を妨げられ、しかも約半数がパートタイムや契約社員との指摘も重い課題を突き付けている。デジタル化の進行で、生保のセールスレディが失職の危機にある現状も、業界に対応を迫っている。

 メディアはまた、日本企業が独自にウイルス検査に乗り出し、他のモデルになっていると報じ、その結果を踏まえ、日本では集団伝染の可能性は遠のき、第2波感染の拡大リスクが高まっていると警告する。パワハラ防止法施行の機会に日本の職場にはびこる上司のいじめ問題に言及し、新法はあいまいで効力に欠け、単なる警告に終わっているとの専門家の批判を伝える。これらもまた今後、留意すべき課題である。日本政府はこれまでのコロナ対策について、医療を重症者に絞るために検査を限定したと説明し、死者数も感染者数も少なく、グローバルな評価に値する対応だと主張しているが、そうした反論よりも第2波への具体策を、上述の女性の社会進出やパワハラ防止法に関連する問題と共に打ち出すのが、政府にとって喫緊の課題であろう。

 以上みてきたようにコロナ危機は、日本企業と社会に改めて様々な課題を提起した。メディアは、そうした日本に対して警告を発するだけでなく、解決に至る方策や方向性を幾つか示唆する。例えば、政策の不足を補う民間企業の対応を例示し、大きな方向性としてデジタル革命の必要性を提起する。コロナ後の世界には、危機前から予測された動きが加速すると共に、思いもよらなかった変革に伴う異風景が出現する予感が漂う。

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(主要トピックス)

2020年
6月15日 日本の河野防衛相、イージス・アショア計画の停止を突如、表明。
   16日 北朝鮮、南北共同連絡事務所を爆破と韓国統一省が発表。 
      インド北部ラダック地方で中印両軍が衝突、双方に死傷者。
      17日 ポンペオ米国務長官、ハワイで中国外交担当トップの楊潔篪
                 (ヤン・ジエチー)中国共産党政治局員と会談。
      18日 インドネシア中央銀行、政策金利を4.5%から4.2%に引き下げ。
      19日 日本とベトナム両政府、新型コロナ往来制限の相互緩和で一致。
      22日 EU首脳部、中国の習近平国家主席、李克強首相とオンラインで会談。
      25日 米上院、香港国家安全法巡り、対中制裁法案を可決。
              ポンペオ米国務長官、米国と欧州連合(EU)が中国問題に特化した
                 高官級対話を設けることで合意したと発表。
   27日 東南アジア諸国連合(ASEAN)、オンラインで首脳会議を開催。
                 議長声明で、南シナ海問題について深刻な懸念を表明。
   29日 インド政府、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」など主として
                 中国企業が提供する59のアプリの使用禁止を発表。
   30日 中国の全国人民代表大会(全人代)常務委員会、中国政府が香港で
                 統制を強める「香港国家安全維持法案」を可決。
7月  1日 台湾外交部、アフリカのソマリランド共和国と代表機関を
                 相互に設置すると発表。
        2日 米上院本会議、「香港自治法案」を可決。
               「香港国家安全維持法」関連の制裁措置を可能とする法案。
        4日 米空母2隻が南シナ海で軍事演習。中国軍も同海域で演習。
        5日 東京都知事選、投開票。現職の小池知事が圧勝。
        8日 ビーガン米国務副長官、訪問先のソウルで康京和(カン・ギョンファ)
                 外相や李度勲(イ・ドフン)朝鮮半島平和交渉本部長らと会談。
                 北朝鮮との対話継続方針を確認。
   10日 北朝鮮の金与正朝鮮労働党第1副部長、年内の対米首脳会談を
                 不必要として否定。米政府は首脳会談の用意ありと声明。
     シンガポール総選挙で与党が勝利。野党も議席増。
    13日 ポンペオ米国務長官、声明で「南シナ海の大半の地域にまたがる
                  中国の海洋権益に関する主張は完全に違法」と批判。
  14日 韓国政府、経済底上げのための経済対策を発表。デジタル化投資や
     雇用対策に5年間で114兆ウォン(約10兆円)の予算を投入。
     米国で香港自治法が成立、トランプ米大統領が署名。
                  香港の自治侵害に関与した中国を含む金融機関への制裁が可能となる。
  15日 中国外務省、声明を発表し、米国で成立した香港自治法に
                 「強烈な非難」を表明。

    
主要資料は以下の通りで、原則、電子版を使用しています。(カッコ内は邦文名)THE WALL STREET JOURNAL(ウォール・ストリート・ジャーナル)、THE FINANCIAL TIMES(フィナンシャル・タイムズ)、THE NEWYORK TIMES(ニューヨーク・タイムズ)、THE LOS ANGELES TIMES (ロサンゼルス・タイムズ)、THE WASHINGTON POST(ワシントン・ポスト)、GUARDIAN(ガーデイアン)、BLOOMBERG・BUSINESSWEEK(ブルームバーグ・ビジネスウイーク)、TIME (タイム)、THE ECONOMIST (エコノミスト)、REUTER(ロイター通信)など。なお、韓国聯合ニュースや中国人民日報の日本語版なども参考資料として参照し、各国統計数値など一部資料は本邦紙も利用。


 
前田 高昭
金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。
訳書に『チャイナCEO』他。
『東アジアニュースレター』も配信中。
 

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