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東アジア・ニュースレター ― 海外メディアからみた東アジアと日本 ― 第113回

2020/05/22

東アジア・ニュースレター
――海外メディアからみた東アジアと日本――
第113回







前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト
           バベル翻訳大学院プロフェッサー 

 
 
 中国指導部は、今回のような経済危機の再来を予測して、その世界の政治経済に与える影響について中国なりの中長期的戦略を描いて周到に準備していたとメディアが伝える。報告書をまとめたのが米中貿易交渉で中国チームを率いた経済担当副首相の劉鶴氏である。こうした初期段階の準備によって、中国は危機対応を有利に進めているとみられると指摘する。ただし、劉副首相は報告書で過剰な拡張的外交と不必要な軍事的関与を差し控えるよう提言している。指導部がそうした劉氏の提言をどのように生かしていくかを注視する必要がある。

 メディアはまた、中国のコロナウイルス対応をめぐるトランプ米大統領の脅し人民元安の圧力となっていると伝える。現在の元は、米大統領選を控えて攻撃的姿勢を強めるホワイトハウスの犠牲者との見方を示し、対ドルで7.50元にまで下落する可能性を示唆。同時に新興国通貨の追随下落と新興国経済の不安定化に懸念を表明する。ただし元安は必ずしも中国の輸出を伸張させず、また大幅な元安非友好的措置と見做されるために人民銀行はこれを避けるとみられており、人民銀行の采配が注目される。

 台湾ではコロナウイルス新規感染者が発生していない状況が続いている。しかし当局は、国境封鎖の解除に極めて慎重で、十分に安全な治療薬やワクチンが開発され、利用可能とならなければ外国人の入国禁止令を継続すると述べ、行動制限などの解除についてもスポーツや文化的イベント部分的かつ小規模での再開を許容する程度に止めている。

 韓国国政選挙が実施され、文政権と与党はコロナ危機対策を評価されて大勝した。しかし同危機で打撃を受けた経済の建て直しのために、文政権は当初目指した政治的遺産、すなわち財閥改革と南北和解という目標を後退させざるを得なくなったとメディアは指摘する。特に輸出依存型の経済の損傷は甚大で国民は政府の景気刺激策にもかかわらず先行きに悲観的だと述べ、IMFも今年の韓国経済がマイナス成長に陥ると予測。北朝鮮との和解も米朝関係に左右されるとして進展が見込めないと予想する。

 北朝鮮金委員長がしばらく公の場に姿を表わさず健康に異変が起きたとの憶測が広まっていたが、国営メディアが肥料工場の竣工式への出席を伝え、噂は払拭された。コロナへの警戒感から平壌を一時離れたのが実情と報じられている。米朝関係も米大統領選を控えて進展は期待できず、膠着状態に陥るとみられている。ただし北朝鮮が感染者も死者もいないと主張するコロナウイルスが実は深刻な状況にあるとすれば、対話のテーブルに付く可能性が出てくるかもしれない。

 東南アジア関係では、ASEAN諸国外国直接投資(FDI)の投資先として世界で比重を増し、特に中国の競争力が後退するなかでベトナムとシンガポールが脚光を浴びている。前者は金融サービスと製造業、後者ではフィンテックとテクノロジー分野で注目されている。情報通信技術(ICT)への投資も活発で、中国、インド、香港などが投資先として見直されている。また再生可能エネルギー、ホテル・観光、不動産などの伝統的部門でもASEAN諸国が健闘している。

 インドでも6週間前にコロナウイルスの感染拡大防止のためにモディ首相が全土にわたって厳しい都市封鎖を実施した。国民に自宅待機を命じ、学校、オフィス、鉄道、航空などを閉鎖し、州境すら封鎖した。人々も忠実に従い、感染拡大防止に成功した。だが最近厳しい都市封鎖を緩め始めると、直ちに感染者数と死者数が増加し始めた。封鎖解除の前に感染の実態を知るために検査の徹底が必要だと政府タスク・フォースの責任者は語る。まさに現在の日本が参考とすべき状況である。

 主要紙社説・論説欄では、コロナウイルス流行の世界に与える影響を政治、経済の観点から取り上げた。危機が世界で専制主義を強め、民主主義の死を招くのではないかと危惧し、経済では30年代の大恐慌を上回る不況に陥ると懸念されている。

            § § § § § § § § § § 

北東アジア


中 国

☆ 経済危機に備えてきた指導部

 5月5日付ワシントン・ポストは、中国指導部にとって今回のコロナ危機は単なる経済危機の一つではなく、この10年間以上にわたって、それに備えて国を鍛えてきた危機だと伝える。記事によれば、中国の政策当局は長らく次に予想される危機がもたらす経済への影響を計測してきた。次の危機とは、数十年間続いた経済成長を終焉させるような危機である。世界がパンデミック救済に日々忙殺されるなか、中国は機を逃さず、太平洋地域での影響拡大や香港の支配権強化など広範な戦略を展開している。それは初期段階の周到な準備のおかげではないかと指摘する。以下は同記事の概略である。

 こうした中国政府の意識を反映する公式の政策報告書がある。後に経済を差配する副首相となった劉鶴(リウ・ホー)による1930年代の米大恐慌に関する2013年の報告書である。米国の大恐慌から第2次世界大戦にいたるまでの危機による長期的な政治的経済的影響を分析している。それによると、危機的出来事は共産党の国内支配に対する重要な試練になるとともに、中国と西側諸国との勢力均衡を一新する可能性があるとされる。同氏は、危機後に再配分されるのは1国の富だけでなく、全ての国家間の力関係だと論じている。

 中国は今年第1四半期のGDPが6.8%減となった。これは毛沢東が1976年に死亡して以来初めてのマイナス成長である。最近の数週間、習近平国家主席は貧困救済と先端的技術への投資を進める一方で、建設運動というニューディールまがいの政策を導入、コロナで打撃を受けた工場や個人消費のてこ入れを試みている。習氏は12年に就任して以来、経済成長の終りに備えて政治的準備にいち早く着手していた。テレビ、ラジオを戦時のようなプロパガンダで溢れさせて、国家のために犠牲となる個人を賞賛し、その一方で、反政府主義者による活動の芽を摘んだのである。カリフォルニア大学ロサンゼルス校の中国経済史研究家リチャード・フォン・グラーン氏は、習氏の政治操縦策は、経済の奇跡はいずれ消滅していくという認識が出発点となっていると語る。

 2010年、指導部は米国の大恐慌を研究するために、上述の劉鶴が率いるチームを組成した。これには人民銀行や銀行監督当局のメンバーが含まれていた。このプロジェクトチームは3年後に数百頁に及ぶ分析と提言を発表した。この初期段階での準備のおかげで、中国は危機対応を有利に進められたのかもしれない。世界がパンデミック救済に日々忙殺されるなか、中国は広範な戦略的動きを開始し、太平洋地域における影響圏を徐々に拡大、香港に対する支配権の強化を宣言した。トランプ米政権が国内に注力し、伝統的な国際的役割を後退させたことも、中国の拡張を容易にした。

 しかし中国政府には、国内で当初の予想よりも深刻な経済的課題に直面する可能性が出てきた。コロナ流行で反中感情が草の根で盛り上がるなか、トランプ米政権とその他諸国が、この機会に自国の製造業を中国から取り戻そうとしているからである。日本は先月、中国での生産の国内回帰のためにコロナ景気対策予算の一部活用を宣言し、米国でもマーシャ・ブラックストーン共和党議員(テキサス州選出)その他の議員らが米医薬品業界向けに同様のインセンティブを与えようとしている。中国は、08年の世界的金融危機に際して、全国を現金と安価な信用で溢れかえらせたが、今回はインフラ建設を通して危機を乗り切るとしている。習主席は最近、住宅は住むためのもので、投機のためではないと警告している。

 他方、大恐慌からの教訓について劉副首相は2013年の報告書で、米政府による当時の対応は、台頭する大衆迎合主義に圧倒されたとし、最悪の結果に備えよ、と書いている。とはいえ劉氏は、危機の最中における過剰な外交上の拡張行動と不必要な軍事的関与は思いとどまるよう助言し、戦後の米国によるグローバルな支配は、それに先立つ数十年間の孤立主義に起因すると指摘している。

 最近における中国の支配は揺るぎないとしても、過去100年間における歴史は、中国を政治的に追い詰めた経済危機の歴史であった。大恐慌の間、窮乏化した日本は資源に富む満州を侵略し、20年間にわたる流血と経済的破壊を引き起こした。また中国共産党は1989年に最も深刻な政治的危機に遭遇した。数万人の大学生と労働者が天安門広場に群がったのだ。この事件は概ね民主化運動として記憶されているが、フォン・グラーン氏は、デモの原因は経済的困窮以外の何物でもなかったと指摘する。当時の最高指導者とされる鄧小平は、デモを軍事力で弾圧する歴史的命令を下したが、早期の経済改革という国民の要求には譲歩した。この譲歩はその後、中国政府が政治活動の休止と引き換えに経済成長を提供するという取引となった。

 こう論じた記事は最後に、劉氏は2013年の報告書で経済危機後のグローバルな権力構造が、どのように変わったかを示すチャートを作成し、第1に米国が大恐慌後に世界経済を支配し、第2に2008年の世界経済崩壊後は、新興国経済圏が力を増したと指摘したが、「2020年」後についてはブランクとしたと伝える。

 以上のように習近平総書記率いる中国共産党は、今回のような経済危機の再来を予測して、そうした危機が世界の政治経済に与える影響について中国なりのグランドデザインを描いて周到に準備していたとみられる。その戦略を描いた中心人物が、現在の経済担当副首相、劉鶴氏である。米中貿易交渉で中国チームを率いて名を馳せた人物である。記事は、こうした初期段階の準備によって、中国は危機対応を有利に進めたかもしれないと指摘する。だが、中国は危機後の対応を開始したばかりである。正念場はこれから訪れる。記事によれば、劉副首相は報告書で、過剰な拡張的外交と不必要な軍事的関与を差し控えるよう提言している。そうした劉氏の采配振りと、指導部が同氏の提言をどのように生かしていくかをじっくりと注視したい。

☆ コロナ危機と人民元
 5月13日付フィナンシャル・タイムズは、中国のコロナウイルスへの対応をめぐるトランプ米大統領の脅しが、人民元に対する圧力となって元安につながり、それが他の新興国経済に波紋を引き起こしていると報じる。記事によれば、元は4月末以降、対米ドルで0.5%下落した。これは、トランプ大統領がコロナウイルスは武漢の研究所から流出したと「確信している」と、証拠を示さずに主張したことに起因している。同大統領は中国を罰するために貿易関税の賦課を示唆しており、これが人民元に対する下落圧力として積み上がったと投資家筋は語る。また、これにより両大国間の貿易交渉も停滞して、その他の新興国市場の安定への脅威となり、新興国通貨も元に追随して下落している。

 市場関係者は、元は今後数ヶ月間で08年の世界的金融危機以来の最低水準となる7.30元まで低下する可能性があると述べる。元は既に7.09元と今年に入り2%近く下落している。元が対ドルで7元を割り込んだのは、米中関係が最悪となった昨年の夏で、これに対してトランプ政権は直ちに中国を為替操作国として認定した。

 ただし元はこの週末、落ち着いた動きを示した。米政権高官が、米中間の第1段階の貿易合意が未だ有効であると語ったためである。しかしアナリストは、トランプ大統領が11月の大統領選を控えて、コロナウイルスの感染爆発の責任を中国に押し付けるために、新たな懲罰的対中関税の誘惑に駆られるかもしれないと考えている。キャピタル・エコノミクスのアジア主任エコノミストは、大統領選を前にして米国はタカ派的姿勢を強めていくとみられ、元は攻撃的姿勢を強めるホワイトハウスの犠牲者になると語る。同氏は、来月辺りにかけて元は徐々に切り下げられると見込み、さらに7.50元を下回るような大幅な下落が起きると、新興国市場で通貨と株式がグローバルに売られ、コロナウイルスによって苦しむ新興国経済の危機を深めることになり得ると指摘する。

 また記事は人民銀行の動きに触れ、オフショア元よりも厳格に規制された重要なオンショア元相場について人民銀行は強い影響力を持ち、毎日その上下に2%以内で動く中心相場を設定していると報じ、ドイツ銀行のアジア主任マクロ・ストラテジストは、人民銀行はこれまでのところ、この上下の変動バンドの管理に当たり、元の価値を低めることを示唆するようなやり方を控えていると語っていると伝える。また別の関係筋は、それが中国当局は通貨を武器として使用する政策的試みをしないと市場に確信させている、と述べていると報じ、さらに元安になっても不健康な世界経済は中国製品への需要を生み出さないとのコメントも伝える。

 記事は最後に、つまるところ、元は人民銀行の望むところに位置しており、人民銀行は若干の元安を容認するとしても、大幅な元安認めないだろうと述べ、それを認めると多くの国は非友好的な方法と見做すだろうと指摘、今の中国は友人を必要としていると付言する。

 以上のように記事は、中国のコロナウイルス対策をめぐるトランプ米大統領の脅しが、人民元への圧力となって元安につながり、それが他の新興国経済に波紋を引き起こしていると伝える。事実、元は今年に入り下落幅を拡大してきている。まさに現在の元は、米大統領選を控えて中国に対して攻撃的姿勢を強めるホワイトハウスの犠牲者となっている様子がみてとれる。また元は対ドルで7.50元にまで下落する可能性が示唆されているが、問題は、それに追随して他の新興国通貨が下落し、新興国経済と通貨の安定が脅かされることであろう。大幅な元安が非友好的措置と見做され、しかも元安は必ずしも中国の輸出伸張に結びつかないことから人民銀行は、これを避けるとみられるが、その動向に注目していきたい。



台 湾

☆ 国境閉鎖を続ける政府

 新型コロナウイルスの感染拡大の防止に成功した台湾で、当局はワクチンが開発されるまでは外国人の入国を認めないと語っている、と5月6日付フィナンシャル・タイムズが伝える。記事によれば、陳時中(チェン・シーヂョン)衛生福利部長(保健相に相当)は、重要な経済活動であるが、オンラインで実行できない業務に従事する外国人については、入国を徐々に認めることを検討しているが、感染防止のために執行中の外国国籍者の入国禁止令を広く解除することについては議論すら行っていない、と言明した。

 記事は、台湾は早期にウイルス封じ込めに成功し、感染者は439人、死者は6人にとどまり、コロナ対策で世界のモデルになったと述べ、そうした台湾が封鎖解除に慎重な姿勢を示したことは、出口戦略に直面している欧州各国、米、豪、ニュージーランドなどの諸国の置かれた困難な状況を鮮烈に思い起こさせると指摘する。記事は、改めて台湾の取った措置について触れ、海外からの旅行客の早期監視、国境閉鎖、接触者の徹底的追跡と緻密な隔離措置などを列挙し、米欧のような都市封鎖を回避しながらウイルス封じ込めに成功したと評価する。

 しかし陳保健相は、こうした成功が一因で台湾にとって外国人の入国を認めるという、事態の正常化がとりわけ困難になったと語る。同氏は入国禁止令を解除するには、十分に安全なワクチンもしくは治療薬が利用可能となる必要があると述べ、今までのところ候補となっているワクチンは、そうした条件を満たすほど安全ではなく、今後引き続き問題視されるだろうと語る。その理由について同氏は、感染率や死亡率が高い国では、どんなワクチンであれ使用を考えるかもしれないが、それが低い台湾では選択肢に入らないのだ、と説明する。

 こう報じた記事は、台湾内での感染がほとんど止まり、この24日間、新規の感染者は発生していないため、保健当局は一部の制限を緩和する動きに出ていると伝える。具体的には、3月以来停止されていたある種のスポーツや文化的イベントについて、多少再開を認め始めたのである。ただし通常より小規模だと報じる。

 以上のように台湾当局は、国境封鎖の解除に極めて慎重であり、十分に安全な治療薬やワクチンが開発され、利用可能とならなければ外国人の入国禁止令を維持すると述べている。また国内で感染者が発生しない状況が続いているが、行動制限などの解除には依然として慎重で、スポーツや文化的イベントの部分的かつ小規模での再開を許容する程度に止めている。こうした台湾の対処方針は、出口戦略を考えている日本を含む他の諸国にとって、感染拡大防止策と同様に参考にすべきモデルとなると言えよう。



韓 国

☆ 選挙で大勝した文在寅大統領の課題

 4月15日に投開票された国会議員選挙で、与党は圧勝し、過半数の議席を獲得した。しかし4月16日付フィナンシャル・タイムズは、文大統領の経済改革を実行し、北朝鮮との永続的な平和を達成するという希望は後退していると伝える。記事は、与党は大勝したが、財閥よりもコロナウイルス問題に集中する必要があると述べ、概略次のように論じる。

 300議席を争った選挙は、文政権のコロナ危機への対応に関する国民の信任投票とみられていた。与党の地滑り的勝利によって文大統領は、16年ぶりとなる過半数の議席を手に入れ、2017年に就任して以降、議事進行を妨げてきた議会での隘路を取り除くことができ、その任期後半における信任を強化した。

 しかしアナリストは、韓国を呑み込んでいる経済的危機によって、文大統領の最も重要な政治的遺産が脅かされていると警告する。政治的遺産とされるものの一つは、財閥改革である。一族が企業を所有する財閥は、長く韓国経済を支配してきた。もう一つは、北朝鮮の支配者、金正恩委員長との和解である。文大統領の陣営に属していた改革派の元議員は、文政権は任期後半において大胆な改革に取り組むと確信していたが、今や全てが完全に変わってしまったと述べ、当初公約した改革を守ろうとする十分な時間も意欲もなくなり、状況がすっかり変わってしまったと語る。

 北朝鮮との関係緊密化は、大体の韓国国民が支持している。しかしアナリストは、金委員長に核兵器の廃棄を説得するのは、南北より米朝関係にかかっている、と指摘する。その米朝関係は19年2月のハノイ首脳会談以来、暗礁に乗り上げたままである。ソウルにある延世大学のアジア専門家、ジョン・デルリ氏は、今年11月の米大統領選の結果に左右されるとし、北朝鮮はトランプと取引できるかどうか様子見しており、それは予想が難しいのだと述べ、トランプが第2期に何をするか、民主党候補のジョン・バイデンが何をするかが問題だと語る。

記事は、次いで文政権の国政選挙における圧勝の理由について、コロナ危機対策を的確に進めたことを挙げ、さらに次のように論じる。

 文政権は今後、危機によって打撃を受けた経済問題の一つ一つにいっそう注力していくと思われる。コロナウイルスが1月に中国で大流行して以来、サムスン電子や現代自動車などを含む技術産業や製造業が広範に破壊されて、韓国の輸出依存型経済は大打撃を受けた。またグローバルな消費需要の急減にも直面した。こうしたことから、多くの国民は政府による記録的な景気刺激策にもかかわらず、先行きについて悲観的である。ソウル市場の衣料品販売業者は、コロナウイルスのため顧客は減り、売り上げは落ち込み続けており、仕事を与えるのが政府の最優先の課題だと述べ、同じくレストランの経営者の一人は、低利の融資を受けられるというが、これ以上の負債は負いたくないと語り、政府は早く我々のような業者を助けてほしい、と訴えている。

 こう報じた記事は最後に、国際通貨基金(IMF)は、韓国経済の今年の成長率について、以前の予想2.2%増から1.2%のマイナス成長へ下方修正したと伝える。

 以上のようにフィナンシャル・タイムズは、文政権と与党はコロナ危機対策を評価されて国政選挙で大勝したが、同危機により深刻なダメージを受けた経済の建て直しのために、文大統領が就任当初に目指した政治的遺産、すなわち財閥改革と北朝鮮との和平実現という目標は後退させざるを得なくなったと指摘する。特に、輸出依存型の経済の損傷は甚大で、国民は政府の景気対策にもかかわらず、先行きに悲観的だと述べ、IMFも今年の韓国経済がマイナス成長に陥ると予測していると報じる。また北朝鮮との和解も、米朝関係に左右されるとして進展が見込めないと予想する。文政権は総選挙では過半数の議席を獲得したが、当面は第2波のコロナ襲来に備えつつ、経済の再建に追われることになるとみられる。



北 朝 鮮

☆ 公式の場に姿を現わした金委員長

 5月1日付ワシントン・ポストによれば、金正恩・朝鮮労働党委員長が、3週間ぶりに公の場に姿を表わした、と北朝鮮の国営メディアが報じた。同委員長は、長らく公の場に姿を表わさなかったために、病気や死亡説などの噂が流れていたが、今般、新しい肥料工場、順川リン酸肥料工場の竣工を祝う公式の行事に出席したという。肥料工場訪問を伝えたのは、国営ラジオとこれを一面に掲載した公式機関紙の労働新聞である。労働新聞によれば、竣工式には多数の参列者が列席し、金委員長が祝賀式場に姿を現わすと全員が万雷のように万歳を叫び、金委員長の指揮の下で、自助による繁栄という偉大な大義の達成に向けて全人民の大行進を行い、社会主義者の朝鮮の力と威厳を顕示したと報じる。

 また記事は、金委員長が公式の場に姿を表わさなかった理由として、4月中旬に側近の一人が新型コロナウイルス感染症に罹ったため、朝鮮半島東海岸中部の元山湾に面し、国際観光都市として知られる元山市に一時疎開したためとみられていると報じる。また今回の肥料工場訪問は、今年に入って初めてとなる経済施設の視察であり、食料安保や肥料の対中依存度の低下という観点から同工場の重要性を示している、との韓国専門家の見方を伝える。

 こうした金委員長の動静が今後の米朝関係へ与える影響について、5月5日付ウォール・ストリート・ジャーナルは、停滞している米朝非核化協議や北朝鮮の兵器実験のパターンが大きく変わる可能性は低く、米朝関係は大統領選まで膠着状態が続くとの見解を示す。

 記事は、米朝協議は3度の首脳会談を開催して以降、進展がなく、北朝鮮は今年に入り、兵器実験を複数回にわたり実施していると述べ、他方、トランプ米大統領には新型コロナウイルス流行への対応や再選に向けた選挙活動などの国内問題が山積していると指摘、「協議の時代は終わったのも同然で、11月以前に首脳会談が行われる見込みは極めて薄い」との保守系シンクタンク、ヘリテージ財団アジア研究センターのシニア政策アナリスト、オリビア・エノス氏のコメントを伝える。

 ただし記事は、米大統領選で民主党のジョー・バイデン前副大統領が優勢になってくると、トランプ大統領が外交政策で得点稼ぎをしようと北朝鮮に接触を図る、もしくは正恩氏が米政権交代を前に制裁解除に向けた合意を急ぐといったケースがあり得ると述べ、アメリカカトリック大学の北朝鮮専門家、アンドリュー・ヨ氏は「タイミング的には、北朝鮮に有利であることは明らかだ」とのコメントを伝える。

 また記事は、北朝鮮が核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験を控えている現在の状況について、亜洲大学校(ソウル)の政治学教授、金興圭氏によると、専門家は、北朝鮮は今年、短・中距離の兵器実験は継続するとしても、(核や長距離ミサイルの発射のような)大型実験を行う可能性は低いとみているとし、それはトランプ氏が11月の大統領選を控え、譲歩する余地が乏しいと認識しているためだと報じる。

 こう論じた記事は、北朝鮮との対話が復活する可能性は、経済制裁の緩和よりも、新型コロナの脅威によって左右されるかもしれないと指摘する。米国と韓国は、コロナ問題で支援を申し出ており、北朝鮮の感染状況が人道危機まで悪化すれば、北朝鮮は対話へと再び舵を切る必要が出てくるからである。北朝鮮は2月16日の故金正日(キム・ジョンイル)氏の誕生日を含む、2つの大型祝賀行事を中止しており、金委員長が1日に出席した肥料工場でのイベントの写真では、正恩氏と側近らはマスクを着用していなかったが、数百人の出席者はマスク姿だったと指摘する。

 以上のように結局、金委員長の健康に異変はなく、同氏はコロナへの警戒感から平壌を一時離れていたのが実情であるようだ。また米大統領選を控えて、米朝関係も進展は期待できず、膠着状態に陥るとみるのが妥当といえよう。ただしコロナウイルスの感染が深刻な状況にあるとすれば、北朝鮮が対話のテーブルに付く可能性も否定できない。感染拡大との報道が散見されるなか、その確率はかなり高いように思われる。



東南アジアほか


☆ 急増する外国直接投資(FDI)
 5月11日付フィナンシャル・タイムズは、アジアの投資家は中国を飛び越えて直接投資の機会を探っており、そうした底流となっている動きを裏付けているのが、ベトナムとシンガポールだと報じる。記事は、アジア太平洋地域内の国境をまたいで活動する投資家はこの10年間、投資の重点を中国から移していると述べ、例えば、08年以来、50もの超高層ビルが出現したベトナム経済の中心地、ホーチミン市内の変貌振りをみるだけで、資金の一部がどこへ流れたかがわかると指摘する。

 そうした投資は専ら外国投資家が推進しており、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)によれば、アジア太平洋地域への外国直接投資(foreign direct investment、以下、FDI)は2018年のグローバルな投資額の約半分を占めたと述べる。

 記事はまた、オセアニアを除く域内間のFDIも、この10年間で急増しているが、コロナウイルスはこうした流れを押しとどめそうだと報じる。それは多国籍企業によるクロスボーダー取引の拡大に必要な資金が、コロナウイルスのために減少しているからだと指摘、さらに概略次のように伝える。

 ただし投資家は依然として、根底にある流れを十分に検討することによって利益が得られるだろう。一つには、ASEAN対中国という長期的な資金移転の問題がある。フィナンシャル・タイムズのデータベースFDI Marketsによれば、オセアニアを除くアジア太平洋地域への外国投資は劇的に変化している。このデータベースは、多数のグリーンフィールド投資という、空地に投資して新規の雇用と設備を生み出す投資プロジェクトを資料として用いて、投資の傾向を調査している。こうした投資は長期のコミットメントと長年にわたる設備投資を必要とするからである。それによると、とりわけ中国が同地域に対する重要な投資国となっている。

 中国の域内投資に占める比率は、15年程前は4.7%であった。それが今や20%近くに跳ね上がり、外国直接投資額で日本に続いて2位に上昇している。シンガポールのコンサルタント会社、アジアビズ・ストラテジー(AsiaBiz Strategy)のヨー最高経営責任者(CEO)は、同時に中国向け域内投資はこの20年間、大半の分野で減少したと語る。ASEAN諸国では、生産コストが低下し、労働生産性が改善しているが、中国は通貨高によって輸出コストが上昇し、競争力が落ちてきているとみる投資家がいると指摘する。また賃金でも中国は、インド、ベトナム、インドネシアと比べて高くなっており、域内FDIに占めるASEAN諸国のシェアは、2019年には47%に急増し、同地域への主たる投資先となったと語る。
 
 特にベトナムは、ASEANを対象とする域内投資家にとって好ましい投資先となっている。これに続くのが、インドネシア、タイ、シンガポールであるが、ベトナムは、ASEANで海外からの投資が最も盛んな金融サービスの他に、繊維や自動車部品などの製造業が強みとなっている。この2年間で製造業が前例のない額の中国マネーを受け入れている。これは米中関税戦争が一因である。

 域内FDIは、インドネシアやタイでは重工業と製造業が標的となっているが、ASEAN全体としては、サービス部門への投資が増加している。その最も恩恵を受けているのが、シンガポールで、域内企業が本社を設ける主な場所ともなっている。香港が政情不安に陥る前に、シンガポールの金融サービス部門へのFDIは香港を上回ろうとしていた。これには、とりわけファンド運用とベンチャー企業に関するシンガポールの実用的な規制が貢献している。イノベーションにおいても、米調査会社ピッチブックによれば、2019年にはシンガポールのスタートアップ企業が世界のベンチャー企業から70億ドル以上の資金を吸収した。シンガポールのライバルである香港は、シンガポールがフィンテクとテクノロジー投資先として好まれているのに対し、いささか輝きを失っている、と業界関係者は語る。

 域内FDIの最大の成長分野は、情報通信技術(ICT)で、その主な投資先は中国、インド、香港、シンガポールである。中国はこの5年間、インドのICT部門への投資を増やしている。特に、この部門の研究開発プロジェクトは既に重要な投資対象となっていた。再生可能エネルギー、ホテル・観光、不動産部門への域内FDIも急増し、中国とベトナムが最大の海外プロジェクト投資額を記録している。総じて、アジア太平洋の小国への域内投資がこの10年で堅調に伸びており、カンボジア、ラオス、スリランカへの投資が際立っている。地域の大国ながら域内FDI市場としては限定的だった日本にすら、中国や韓国、シンガポール、香港からの投資が増えている。

 上記のように報じた記事は、コロナ後の投資戦略について次のように伝える。
 とはいえコロナウイルスが地域全体に影を落としている。ヨー氏は「企業の戦略立案者は過去3年間の戦略プランを全てご破算とし、新規まき直しを図ることになろう」と述べ、コロナ後の20年と21年は、FDIの伸びがそれぞれマイナス2ケタ、マイナス1ケタ台になるかもしれない、と語る。そのうえで記事は最後に、投資家にとっては、中長期的な戦略資産の見極めが不可欠となろうと主張する。

 以上のように記事は、世界の投資家も地域の投資家も中国を飛び越えて、アジア太平洋地域、特にASEAN諸国にこぞって注目し、近年、世界のFDIの半分近くを同地域が占めているとの調査結果を伝えている。背景の一つに米中貿易戦争があり、中国自身もASEAN向け投資を増やしていると指摘する。

 分野として重工業や製造業の他に、金融サービスやファンド運用、ベンチャー企業などの分野が注目されていると報じる。そうした状況の中で、主たる投資先としてベトナムとシンガポールが際立っているが、情報通信技術の分野では中国、インド、香港なども仲間入りし、さらに再生可能エネルギー、ホテル・観光、不動産部門や地域の小国への投資も増加していると報じていることも注目される。

 コロナウイルス後の状況については、投資家が中長期的戦略を見直しに迫られ、FDIの伸びがマイナスに落ち込むのは、やむを得ないだろう。ただし、ICTやフィンテク、ファンド運用などの先端分野で海外資金を取り入れて経済を発展させてきたASEANとしては、引き続き直接投資の導入に知恵をしぼっていくべきだろう。特に中国は、コロナ後を見据えて巻き返しを図ってくるとみられ、そうした中国との競争が一つの焦点になろう。



インド

☆ 都市封鎖の緩和に動く政府

 厳格な都市封鎖を続けていたインドが、それを緩め始めると、死者数が急増したと5月6日付ニューヨーク・タイムズが伝える。記事によれば、6週間前、モディ首相は全土にわたって厳しい都市封鎖を実施した。国民に対して自宅待機を命じ、学校、オフィス、鉄道、航空など全てを閉鎖し、州境すら封鎖した。インドが新型コロナウイルスの感染拡大の防止に成功している一因は、こうした都市封鎖の強行と、これに人々が忠実に従ったことにある。しかし、政府はここ数日間、きびしい都市封鎖を緩め始めたところ、倍増率(現在の死者数が倍増するに要する日数)が12日から9.5日に縮小し、1日当たりの死者数が4月中旬の数10人から100人以上に急増したのである。

 この数は米欧などと比較すると依然として低いが、首都デリーでは、先週までは人っ子一人いなかった労働者の住宅街が、人々で溢れているのが観察され、しかもマスクを付けてはいるものの、鼻や口から外している人が多い。酒税を必要とする政府は今週、リカーショップの開店を認めたが、店内は混雑してソ-シャル・ディスタンシング(対人隔離)が全く守られていない。最近はデリーの温度が摂氏38度近くまで上がっており、一部屋に場合によっては8人も住んでいる一般世帯では、人々は自宅待機の政府指令を守れず外に繰り出してしまい、集団となって密集している。従って、インドでは人口稠密な都市部がウイルスのホットスポットとなり、特に首都のデリーと商業の中心地であるムンバイという2千万の人口を抱える両都市が感染者の3分の1を占めることになる。しかもムンバイでは取り締まる警察官が、疲労困憊し夜間は出動していない。

 深刻に懸念されているのが、ムンバイ市のスラム街の一つであるダラビである。1マイル(1.6km)平方もない場所にある掘っ立て小屋や狭い路地などで、数百万人がひしめき合って生活しているのだ。少なくとも600人の住民が感染しているが、対人隔離はほとんどできない。人々は面と向き合って生活し、トイレは共同で使用している。

 当局は、感染拡大の防止に必要な医療資源に欠けるのではないか、と心配し始めている。ムンバイのあるマハラシュトラ州の主任監督官は、検査を行う研究所、病床、その他の施設は無症候もしくは軽症の患者で手一杯になっている、と語る。多くの国民は、インドの弱体な医療制度を信用していないために感染を恐れて、都市封鎖を決定した政府の指示に従った。しかし数週間が過ぎると、経済の損失も積み上がり、人々は必死になってきた。国民の多くは蓄えがなく、1日数ドルで生活している。数百万人が職を失い、移住労働者が果てしない列を作って遠路を徒歩で故郷の村落に向かっている。生きるために家族や農村に頼ろうとしているのだ。

 中央政府と多くの地方政府は今週、都市封鎖の緩和を求める圧力が高まるなか、封鎖の緩和に動いた。小規模な結婚式、バスの運行そして多くの業種に営業の再開を容認したのである。再開を認められた業種には、理髪、美容、ペットショップ、電機店などがある。この結果、感染が再び拡大しているが、一因は検査の増加もある。3月の2万件から、現在は百万件以上に達している。ただし陽性率(検査25件に対する陽性者の数)が1人と、米国の6人より低い。

 それでも公衆衛生の専門家で、政府のタスク・フォースのメンバーであるグプタ博士は、感染の全容を把握するために検査を飛躍的に増強する必要がある、と語っている。検査件数が急増しているのは、タミル・ナードゥやグジャラート州である。ウエストベンガル州は、死者数が通常の数を上回っているが、何もしていないと非難されている。パンジャブ州では、感染者数の倍増率が18日から4日へと大幅に上昇した。これはインドで最大の被害を受けているマハラシュトラ州から帰還した宗教巡礼者の間で感染が拡大したためである。

 上記のように報じた記事は最後に、現在の状態は氷山の一角に過ぎず、新たな感染者の増加はまだピークに達していないとグプタ博士は語り、検査を続けなければ、感染者の実態がわからず、それが問題だ、と警告していると伝える。
以上のように記事は、厳しい都市封鎖を解除し始めると、直ちに感染者数と死者数が増加し始めたインドの状況を伝える。また封鎖解除の前に、感染の実態を知るために検査の徹底が必要だとの専門家の意見を紹介する。経済再開を開始する日本にとって、大いに参考になる。特に検査の徹底が叫ばれているのは、日本にとって耳の痛い警告といえよう。

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主要紙の社説・論説から

コロナウイルス流行の世界の政治、経済に与える影響について


 前号で、日本を含むアジア地域におけるコロナウイルス流行の現状と対応を観察したが、今回はその世界の政治、経済に与える影響について、主要メディアの論調や報道を観察した。概略は次のとおりである。

 まず、コロナウイルス危機の世界の政治に与える影響について、メディアはコロナ対策が民主主義の死という別の危機を生み出し、独裁者にとって権力強化のためのクーデターを起こす機会になっていると警告する。インド、ブラジル、ヨルダン、タイなどの諸国は報道や言論の自由を制限し、イスラエル、韓国そして米国は、市民の行動を追跡するために人権を犠牲にして市民生活に介入し監視していると指摘、途方もない力を得て体制固めと反政府勢力抑圧に権力を振るう政治指導者がいるとして、任期なしの支配者となったハンガリーのオルバン首相やフィリピンのドウテルテ大統領、ルーマニア、チリ、ボリビア、イスラエルの指導者を挙げる。

 特にドウテルテ大統領は、国土の大半の封鎖、公共輸送機関の制限、自宅隔離、検問所、夜間外出禁止令などを実施し、非常時権限拡大法案によって巨額の資金も取得、報道の自由の締め付けを狙って虚偽情報に罰金を科していると批判する。こうした現象は民主主義が弱い国で加速していると述べ、支配者が新対策を執行する場合、司法や立法機関の監視の目を逃れるように仕組む兆候が見られるとし、汚職容疑の追求を逃れようとするイスラエルのネタニエフ首相を挙げる。支配者は今が無法行為をする好機として捉えていると指摘、中国の南シナ海における支配強化や香港の民主運動家弾圧と香港基本法を蹂躙する動きを挙げる。

 また世界84カ国が政府に例外的特権を授与する緊急事態法を発動していると述べ、ハンガリーは先進国クラブであるEUの加盟国でありながら、オルバン首相はトーゴやセルビア同様の独裁者になったと批判、インド、ロシア、アフリカや南米諸国で大規模集会の制限が抗議集会の禁止、ボリビアやギニアでは選挙日時の延期や前倒し実施が野党に不利な状況の創出、アゼルバイジャンでは都市封鎖が野党脅迫の、それぞれ手段となっていると指摘、感染者の探知と接触者の追跡、隔離が中国やロシアではハイテク・キットを使った全国民監視態勢の導入、ニセ情報の禁止が中東諸国などで政府批判の封じ込め、隔離ルール違反が反政府運動家の取り締まりに、それぞれ利用されており、貧困国への支援資金が租税回避地への大量資金流出につながっていると指摘する。タイのプラユット首相の、今は自由より健康が優先する、とのコメントを伝え、無節操な独裁者がパンデミックを利用し国民の犠牲において権力奪取を試みていると再度強調する。

 世界経済への影響についてメディアは、コロナ危機はこの数十年間で最大の不確実性を生み出したため、アナリストによるマクロ経済的見通しにかつてないバラツキが起きていると指摘、国際通貨基金(IMF)も最近、今年の世界経済成長率を1月時点での前年比3.3%増から同3%減へと大きく下方修正したと述べ、1930年代の大恐慌以来の最も深刻な不況になろうと報じる。主要国政府と中央銀行は異常なまでの対策に踏み込んでおり、米国では2兆ドルの景気対策を打ち出したと述べ、これは米当局が、1929年と2008年の経験から大規模かつ迅速な政策対応が不況入り回避に不可欠だという教訓を学んだためだと伝える。

 他方、パンデミックによる経済危機の最前線に立つ銀行で、不良政権が急増して経営が圧迫されるのではないかとの懸念についてメディアは、米銀の動きとして、3月のスーパーマーケットでのクレジットカード取引量の前年同月比での倍増や小規模融資先の支払い遅延、企業向け融資増を伝え、特に大手行の3月末融資残高が前年同月の残高3.8兆ドルから4兆ドルへと増大、金融市場における取引量も急増したと報じる。しかし最悪の事態はこれからであり、好調な市場取引は長続きしそうもなく、低金利は利息マージンを侵食、融資損失に備える貸倒引当金の積み上げが収益の足を引っ張ると指摘する。しかも銀行は、経済が急減速し、失業率が急上昇するなか、融資損失は増加するが、それが幾らになるかは分からないとしており、医療分野と同様、銀行も未知の領域に追い込まれていると指摘する。

 その一方で、最大の被害を受けた米国で経済活動再開を急ぐ動きがあり、トランプ米大統領は各州が封鎖を解除する方法についての指針を発表し州知事に強要しているが、経済再開は、さらに人々が死亡し、経済をいっそう傷つける可能性があり、勝利宣言は時期尚早だと主張、経済を安全に再開するには、検査の徹底以外にないと主張する。専門家は医療品に制約があると訴えており、新薬のニュースもあるが、治験が小規模であるなどの問題があり、奇跡の薬品と宣言するのは時期尚早だと警告する。また経済再開の公約に飛びつく株価の反騰は持続不可能だと警告する。さらに世界は現在、1930年代以来となるソブリン債務不履行の波に直面しており、富める国は新興国と中所得国を支援すべきだと主張、それは道義的理由の他に感染症と不況との戦いを容易にするからであり、1年間の債務支払い猶予を認めるべきだと提言する。最後に中国はアジアを救出する経済の牽引車として期待できないが、西側企業に愛国や共同体意識の復活がみられ、社会と株主の双方に役立つ存在になるかもしれないと期待を表明する。

 以上のようにメディアは、コロナ危機の政治的影響について、民主主義の死につながりかねないと悲鳴に近い懸念を示す。ハンガリーのようにEU加盟国の一角にも独裁化の動きがみられ、元々民主主義が弱い国や専制的な国家では、特にこの動きが顕著である。アジアに限っても、中国は論外としても、フィリピン、タイ、ベトナム、インドなど危惧される国があり、コロナ危機終息後の動向を十分注視していく必要がある。

 世界経済についても、コロナ危機が30年代の大恐慌を上回る深刻な影響を与えると懸念している。少なくとも今年の世界経済の成長率はマイナスとなるのは避けられず、企業倒産の増加に伴う不良債権増とそれによる銀行の業態悪化懸念も、予断を許さないだろう。一部の国にみられる経済活動再開の動きも、検査の徹底や治療薬、ワクチン開発などの状況を睨みながら、慎重に進める必要がある。とはいえ、感染拡大がピークを過ぎつつあるのは事実とみられ、当面は世界経済を牽引する米中と日欧の動向を注視していくことになろう。

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(主要トピックス)

2020年
      
4月16日   日本政府、緊急事態宣言を全国に拡大。
      日本政府と与党、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、
              国民1人あたり10万円の直接給付を決定。
         韓国総選挙で与党が圧勝、国会の過半数の議席を確保。
         中国、今年第1四半期の経済成長率が6.8%減と40年ぶりのマイナス
      を記録。
 17日     インド準備銀行(中央銀行)、1兆ルピー(約1兆4千億円)の追加支援策
      を発表。ノンバンクと農村経済を支援。
    19日   中国政府、海南省三沙市が管轄すると主張してきた
       西沙(英語名パラセル)諸島と南沙(同スプラトリー)諸島について
       三沙市に「西沙区」と「南沙区」を新設すると発表。
    20日   中国人民銀行、中小企業と農村部の支援のために政策金利の
                         貸出優遇金利(LPR)を0.2%引き下げ。
    22日  フィリピンのロクサン外相、中国による南シナ海諸島における
         行政区新設に抗議。米海軍第7艦隊と米豪両海軍、南シナ海で
                         合同演習を実施。
    24日   フィリピン政府、30日に期限を迎える北部ルソン島の外出・移動
                         制限 についてマニラ首都圏を中心に5月15日まで延長。
    27日   インド準備銀行(中央銀行)、投資信託向けに5000億ルピー
                         (約7000億円)の資金供給枠組みを発表。
    28日   ミャンマー政府、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて
                         経済対策を発表。企業向けの低利融資制度枠を最大で現在の5倍の
                         5000億チャット(約370億円)に拡大。
       29日  中国共産党、全国人民代表大会を5月22日に開催と発表。
                         米国、南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島付近と
       西沙(英語名パラセル)諸島の周辺海域に軍艦を派遣。
                       「航行の自由」作戦の一環。
    30日   インド政府、「国境を接する国」からの投資に認可が必要とする
                          外国直接投資(FDI)の規制強化を発表。
                          中国を狙い撃ちにした措置。
  5月1日       安倍首相、緊急事態宣言を全国で1ヶ月間、延長すると発表。
     2日    北朝鮮メディア、健康不安説が出ていた金委員長が1日に
                          肥料工場の竣工式に出席したと報道。
     4日    日欧加と慈善団体、銀行、オンラインで国際会議を開催。
                          新型コロナウイルスの治療薬やワクチンの研究開発のための
                          資金支援を約束。
        5日    マレーシア中央銀行、政策金利を年率2.5%から2%に引き下げ。
      8日    中国の劉鶴副首相、ライトハイザー米通商代表部代表や
                          ムニューシン米財務長官と電話協議。
                          貿易交渉を巡る米中「第1段階の合意」の前向き成果に向けて
                          双方で努力することで一致。
    10日     韓国の文在寅大統領、就任3周年の演説で新型コロナウイルスの
                         「第2波」に備えて防疫組織の強化を表明、国民に日常への復帰を
                           促す。
    12日     韓国政府、日本政府の対韓輸出厳格運用を以前の状態に戻すよう
                           要請。
    13日     インド政府、コロナ危機対策として28兆円規模の景気刺激策を
                            発表。
    14日     日本政府、東京都など特定警戒都道府県を除く39の県について
                           緊急事態宣言の解除を決定。



主要資料は以下の通りで、原則、電子版を使用しています。(カッコ内は邦文名)THE WALL STREET JOURNAL(ウォール・ストリート・ジャーナル)、THE FINANCIAL TIMES(フィナンシャル・タイムズ)、THE NEWYORK TIMES(ニューヨーク・タイムズ)、THE LOS ANGELES TIMES (ロサンゼルス・タイムズ)、THE WASHINGTON POST(ワシントン・ポスト)、GUARDIAN(ガーデイアン)、BLOOMBERG・BUSINESSWEEK(ブルームバーグ・ビジネスウイーク)、TIME (タイム)、THE ECONOMIST (エコノミスト)、 REUTER(ロイター通信)など。なお、韓国聯合ニュースや中国人民日報の日本語版なども参考資料として参照し、各国統計数値など一部資料は本邦紙も利用。

 
前田 高昭
金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。
訳書に『チャイナCEO』他。
『東アジアニュースレター』も配信中。
 

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