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東アジア・ニュースレター ― 海外メディアからみた東アジアと日本 ― 第112回

2020/04/22

東アジア・ニュースレター
――海外メディアからみた東アジアと日本――
第112回







前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト
           バベル翻訳大学院プロフェッサー 
 
 
 中国が、他の諸都市に先んじて都市封鎖の解除などコロナ危機からの出口戦略に着手した。ただし政府は、危機再発を恐れて薄氷を踏むように対策を進め、また街の人々も慎重に行動しており、経済や社会生活の回復の足取りは極めて鈍いとメディアは伝える。経済政策も、投資プロジェクトなどの大型刺激策は回避し、家計に対する直接の支援金(それも商品券)などが検討されている。失業対策の優先度が高くなり、供給の増強よりも需要の創出が課題になっていると報じられている。

  台湾は、国際機関から閉め出され、新型コロナウイルスの脅威に対して自身の創意工夫による局面の打開に迫られているが、重症急性呼吸器症候群(SARS)の教訓を生かし多様な施策を次々と打ち出した。例えば、SARS沈静化後に台湾疾病対策センターでの医師の増員や陰圧室の病院内設置、ウイルス検査を担う感染症研究所の新設、トップを閣僚級とした中央感染症指揮センターの創設、感染症流行の際の公民権制限や隔離措置の違反者に罰金を可能とする法的根拠の整備などである。メディアはまた、台湾の世界保健機関への加盟もしくはオブザーバー参加を認めるべきだと主張している。

 韓国では中東呼吸器症候群(MERS)流行を教訓に検査ネットワークを整備し、今年1月末の新型コロナウイルス感染拡大時に始動、医師、医療スタッフ、検査機関、政治の指導者が、この数年の間に定められた手順に従って動き、効果を上げた。現在、1日に最大2万人の検査が可能で、これはバイオテクノロジー企業の活用とドライブスルー型の検査場の導入などイノベーションの成果でもあるとされる。

 北朝鮮はコロナウイルス流行に関して、その脆弱な医療体制を考慮して、比較的早い時期に思い切った対策を打ち出し、感染者は今のところゼロと発表している。しかしメディアによれば、感染者の検査が進まないなか、実態として既にかなりの数の感染者死者が出ており、その事実は社会の混乱を避けるため秘匿されている。西側諸国が支援を申し出ると、北朝鮮としては珍しくそれに飛びついたのは、そうした事情があるとみられている。

 東南アジア諸国でも新型コロナウイルス感染者が増加し、遅ればせながら厳しい対策に乗り出した。患者の急増は3月初旬、クアラルンプール近郊で開かれたイスラム教徒の国際的集会で感染した信者の多くが、インドネシア、マレーシア、シンガポール、ブルネイなどにウイルスを持ち込んだためとされる。これら諸国の中でシンガポールベトナムがいち早く適切な対応に乗り出し、その他の諸国も遅ればせながら対処に動き始めている。注目される対策として、大規模検査力を備えた研究所の創設、ルール違反に対する厳しい罰則、感染者の強制隔離と医学生や退職医師、看護婦の強制動員、休校や公共施設の閉鎖、集会回避などを含む公民権制限の早期実施などが挙げられている。

 インドでもコロナウイルス感染拡大防止のため、政府は外出禁止令などの対策を打ち出し、それに伴い経済への悪影響が懸念されている。このため中央銀行は急遽、過去最低となる水準にまで政策金利を引き下げ、金融市場に流動性を注入、さらに借入金の3か月間の返済猶予を認めるなどの金融政策を打ち出し、政府も貧困層向けの救済策などの財政政策を発動している。ただし外出禁止令その他のウイルス拡大防止策が、弾圧や検閲を伴い一方的に過ぎるとの批判もある。

 主要紙社説・論説欄では、2020年の日本その4として、新型コロナウイルスの感染が爆発寸前にあるとするメディアの報道や論調を取り上げた。

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北東アジア


中 国


☆ 新型コロナウイルス感染の現状と対策について
 3月31日付ワシントン・ポストは、「As Wuhan reopens, China revs engine to move past coronavirus. But it’s stuck in second gear (武漢再開でコロナウイルス突破のエンジンを吹かす中国、第2ギアで行き詰まる)」と題する記事で、武漢は1月23日から70日間封鎖されていたが、中国指導部はウイルスとの戦いに勝利したとして、武漢のある湖北省の封鎖を漸次、解除し始め、それが3月31日、武漢にも及んできたと報じる。ただし生活は未だ正常に復しておらず、ウイルス拡散を防ぐため何らかの行動制限が必要とされているとの専門家の意見を紹介する。

 他方、経済への影響について記事は、習近平国家主席は明らかに懸念しており、輸出基地である寧波の港湾や浙江省の工場を訪れ、政府は企業の可及的速やかな回復を支援すると約束したと伝える。また大半のエコノミストは第1四半期経済の大幅な落ち込みを予想するが、党指導部は週末の政治局会議で、経済への支援強化を表明し、今年通年の成長率として6%の目標を再確認していると伝える。

 住民の生活振りについて記事は次のように報じる。1100万人の武漢住民の外出は、雇い主からの再就業免許証保持者と彼らの携帯電話上に政府発行の健康証明が緑色に点灯している場合にのみ認められる。ショッピングモールは今週オープンしたが、エスカレーターでは1.5メートルの間隔を取る必要があり、顧客が試着した衣類は消毒しなければならない。地下鉄ではマスク着用と2席空けて座ることが義務づけられている。武漢以外でも、カラオケやネット喫茶、映画館などが一時的にオープンしたが、すぐに閉鎖された。専門家は、当局が新たな感染を恐れているためとみている。さらに封鎖解除と逆行する動きとして、外国人の入国禁止と中国国籍者のための国内向け航空便の制限措置も実施され、到着便は正常時の2%以下に落ち込んでいる。

 こうした状況について専門家は、出口戦略は今後、どこの国でも直面する問題だが、公衆衛生リスクと経済リスクの計測が難しいと語り、内外で需要が不足しているため、生産を急いでも過剰設備を生み出すだけであり、中国指導部は経済再開の遅れについて衛生上の理由を挙げているが、実際は製品が売れないためなのだ、と指摘する。

 こうした中国が経済的に大きな打撃を受けるなか、中国政府の景気対策に向けた動きは鈍い。4月9日付ニューヨーク・タイムズ記事「While the World Spends on Coronavirus Bailouts, China Holds Back (コロナウイルス救済で世界は支出を増やすが、中国は抑制)」で、中国政府は雇用と融資を守ろうとしているが、その努力は不十分だと概略次のように報じる。

 日米欧などの世界各国はコロナウイルスの影響と戦うために財布の紐を緩めようとしているが、中国は違うようだ。中国は、08年の世界的金融危機に際して、5000億ドル近い公共支出の大盤振る舞いによって世界経済の回復を支援したことで知られるが、今回は比較的抑制的である。企業による従業員の確保を支援し、国有銀行に対して融資を促しているが、政府自らの大型プロジェクトへの支出や金融システムが資金で溢れるのを差し控えている。比較すると奇妙なことに、共産党国家の中国は概ね人々に直接現金を渡すことを差し控えているのに対し、トランプ米大統領は超富裕層の成人を除く全ての国民に1200ドルの小切手を渡すことを含む包括的法案に署名しているのである。

 中国はもっと何とかすべきだと主張する人が増えている。有名なエコノミストたちは、中国政府に対して消費者に支出を再開させるよう呼びかけている。すでに、少なくとも7つの地方の省と市が消費者を力づけるため商品引換券を配布している。影響力を持つ政府のアドバイザー、ジャスティン・イーフ・リン(林毅夫)は先週、経済成長を再点灯するために、すぐに使わなければ無駄になる商品引換券を全国で配布するよう呼びかけた。同氏は、現金だと使われない可能性があり、需要に直接転換されないかもしれず、商品引換券の方が現金より効果的だと語る。その狙いは、中国で増大する大学卒の従業員や工場労働者を支援することにある。彼らは過去において経済を大いに力づけてきが、急成長する経済の中で育ち、職を失うことは予想していない。高等学校で勉学に励み、一流大学を卒業したが、今は失職して月々の家賃や食料品の支払いにも窮しているのだ。

 また3月26日付エコノミスト誌も「The post-virus economy (ウイルス後の経済)」と題する記事で、人々は仕事に戻っているが、正常に復してはいない、と次のように伝える。記事は、中国指導部は2月末頃から経済再始動を宣言していたが、世界各地でウイルスが猛威を振るっているなかでは容易ではないと述べ、それでも、証券規制当局は上場企業の98%は正常に復し、ガスパイプライン設置、空港拡大工事などの大型投資案件が89%進行し始めたと計画委員会は述べていると報じる。

 但し目標数値の操作やコロナウイルスの再発防止策の必要性が製造業の回復を複雑化しているとし、それでも供給サイドでは、頼もしい結果となっていると述べ、台湾のフォックスコン、独の自動車部品製造のレンツェ、などの大企業は完全操業に復帰していると報じる。

 その一方で、需要の回復は困難な状況にあるとし、要因として、政府が統御できないグローバルな需要の伸びとウイルスに対する国民の不安の2つを挙げる。ただし中国経済の輸出依存度は08年の金融危機当時より低下していることが救いとなっているが、今や経済の中核になっている国内消費が削減されていると報じる。人々は収入を絶たれ、また外出が解禁されたとはいえ依然として人混みを避け、店舗やレストランは閑散とし、小売は激減しており、アップルストアも顧客数を厳格に制限し、地下鉄の混雑も大都市で3分の2程度に落ち込んでいると述べ、消費の回復には人々が信頼感を取り戻さなければならないが、そうなっていないと指摘する。

 さらに記事は、中国政府が過去のような景気刺激策に打って出ない理由について、経済を支えているのは国有企業であり、例えば、大手航空企業について米欧のように政府が改めて支援姿勢を示す必要がなく、社債の市場価格も米欧のように急減していないと述べ、また当局は、景気対策による債務の増加や景気回復に伴うコロナウイルスの再発を警戒していると指摘する。ただし当局の関心事は失業率であり、2月に6.2%と記録的な水準に低下しとし、しかも、これには帰省中の移住労働者が含まれていないと述べ、3月に失業者に対する金融支援を行うと発表したと伝える。

 以上のように今回のコロナウイルス・パンデミックの震源となった中国は、他の諸都市に先んじて都市封鎖の解除など危機からの出口戦略に着手した。ただし政府は、危機再発を恐れて薄氷を踏むように対策を進め、また街の人々も慎重に行動しており、経済や社会生活の回復の足取りは極めて鈍いとメディアは伝える。経済政策も、投資プロジェクトなどの大型刺激策は避けて、家計に対する直接の支援金(それも商品券)などが検討されている。注目されるのは、失業対策の優先度が高くなり、供給の増強よりも需要の創出が課題になることであろう。出口戦略は今後、どの国も直面する問題だが、公衆衛生リスクと経済リスクの計測が難しいという指摘は、肝に銘じておく必要があろう。

台 湾

☆ 自身の創意工夫によって局面を打開する台湾

 3月16日付フィナンシャル・タイムズ記事「Containing coronavirus、the lessons from Asia (コロナウイルスの封じ込め、アジアからの教訓)」は台湾について、SARSによって73人が死亡した教訓が他地域と比較にならないほど大きな違いを生み出したと指摘する。台湾は中国の圧力によって国際機関から孤立しているため、自身の創意工夫によって局面の打開に迫れていると述べ、SARSが沈静化して以後、台湾の疾病対策センターは、十数人の医師の増員や1000以上の陰圧室の病院内設置、ウイルス検査を担う感染症研究所の新設などを実行して態勢を強化した。特に検査能力は現在、1日当たり2400人の検査が可能となっており、しかもこの能力はスタッフ増員によって簡単に増強でき、また医療品の流通システムも構築し、例えば現在、4千枚の外科用マスクの在庫を保有している。

 台湾はまた、感染症管理のため政治から独立したユニークな態勢を整備した。感染症の専門家を台湾全土から招集し、中央感染症指揮センター(Central Epidemic Command Center)を創設、そのトップを閣僚級とした。医療専門家や政府高官は、これによって政争を排除して迅速な対策を打ち出すことが保証されたと語る。また法制を抜本的に見直し、感染症流行の際には公民権を制限できる法的根拠を整え、隔離措置の違反者には罰金を科せるようにした。

 上述のように孤立する台湾について、3月26日付エコノミスト誌は、「Let Taiwan into the World Health Organization (台湾を世界保健機関に加盟させよ)」と題する社説で、人口2400万の台湾は近隣諸国と比べて感染者数が少なく、25日現在でその数は235人、死者は2人と多くの人命を救っていると指摘、そのうえで新型コロナウイルスの戦いのチャンピオンである台湾が世界保健機関から閉め出されていると訴える。

 社説は台湾がWHOに加盟できないのは、中国のいじめ以外に理由はないと述べ、台湾はWHOの意思決定機関である世界保健総会(World Health Assembly)へのオブザーバーとしての出席すら認められていないと指摘、台湾が昨年、WHOに武漢の新型コロナウイルスが人と人の間で感染するかどうかを書簡で紹介した際、WHOは回答しなかったことがわかっていると伝える。また社説は、WHOは中国の対応を、最も野心的で素早く、大胆な封じ込めの努力と賞賛しているが、それは真実だが、WHOは台湾にも賛辞を送って然るべきだったと述べ、中国に対して非良心的なボイコットを止めるべきことを主張したら、更に良かっただろうと付言する。

 以上のように台湾政府は、WHO加盟ができないなど国際社会から孤立しているため、自身の創意工夫によって局面を打開せざるを得ない状況にあるが、SARS被害を教訓にして迅速、的確な対策を打ち出している。例えば、政治から独立し感染症管理態勢や感染症流行の際に公民権を制限できる法的根拠の整備、隔離措置の違反者に罰金を科せる法制の抜本的見直しなどである。またメディアが指摘するように、コロナ危機を契機として国際社会は台湾のWHO加盟もしくは、少なくともオブザーバー参加を認める方向に動くべきだろう。

韓 国

☆ 新型コロナウイルス対策に過去の教訓を生かす政府

 前号で文在寅政権の新型コロナウイルス対策に対する批判が韓国内で高まっていると伝えたが、3月16日付フィナンシャル・タイムズ記事「Containing coronavirus、the lessons from Asia (コロナウイルスの封じ込め、アジアからの教訓)」は、韓国は中国に次いでコロナウイルス流行の被害を受けたが、2015年のMERSの教訓を生かして迅速、的確に対応したと述べ、可能な限り多数の人々に対する検査の実施が対コロナ戦略の柱となったと報じる。

 3月19日付ウォール・ストリート・ジャーナルも「Inside the South Korean Labs Churning Out Coronavirus Tests (日本版記事:新型コロナ、韓国の大量検査を支える仕組みとは)」と題する記事で、同国が感染拡大を抑制し感染率を下げられた要因として、2015年のMERSの流行後に効率的な検査ネットワークを構築していたことを挙げる。
記事によれば、MERSの流行は約2カ月続き、186人が感染、38人が死亡した。韓国の検査ネットワークは、こうしたMERS流行の遺産を教訓に整備され、今年1月末の新型ウイルス感染拡大時に始動した。医師、医療スタッフ、検査機関、政治の指導者がそれぞれ役割を担い、この数年の間に定められた手順に従って動いたのである。同国がこれまでに行った検査数はイタリアの2倍の約30万件近くに上るが、確認された感染者数はイタリアの3分の1以下であり、米国は検査能力を拡大しているが、米疾病対策センター(CDC)の施設やその他の公衆衛生研究所で行われた検査の数は韓国の約10分の1にすぎない。

 現在、全国で633カ所の検査場と100を超える検査機関がある。その仕組みは統一されていて、検査機関は同じ検査機器を使用し、同じ訓練を行い、同じ情報に基づいて判断を下す。午前8時、国内の全ての検査機関が検査結果を共通のデータベースにアップロードし、全国の公立・私立の病院は患者の検査結果を見て、韓国疾病管理予防センターに報告する。病院は感染症学会の専門家が作成したオンライン上のディレクトリに検査の詳細をアップロードする。現在は1日に最大2万人の検査が可能となっている。新たな検査の承認までの期間も短縮された。この制度は16年に実施された。

 記事はまた、極めて重要なのは、国内のバイオテクノロジー企業が、中国が1月に公表した新型ウイルスの遺伝子コードを使った疾患モデルに基づく独自の検査開発が認められたことだと述べる。一番乗りの企業の検査キットが承認されたのは2月4日で、感染が急増する2週間前だった。同国の検査キット納入業者は現在5社で、使っている材料はそれぞれだが、同じ検査方法を採用している。

 さらにイノベーションも重要な役割を果たしたと報じる。政府はドライブスルー型の検査場を導入することで接触を最小限に抑え、検査の迅速化を図った。このアイデアは米国の一部の州でもすぐに採用された。一部の病院では、患者に電話ボックスのような閉鎖スペースに入ってもらい、医療スタッフがプラスチックのパネルに括りつけられた、腕の長さのゴム手袋を使って検体採取を行っている。18日にはWHOが画期的な検査戦略を開発したとして韓国を称賛した。

 記事は、韓国の人口は5200万人で、面積は米国インディアナ州と変わらないため、中国や米国と比べて感染者の追跡は容易だったと述べ、大邱(テグ)市にある秘密主義の新興宗教団体「新天地イエス教会」の施設で大規模なクラスター感染が発生すると、韓国政府はまず市内の1万人の信者と接触者を追跡し、症状に関わらず検査を行ったと報じる。保健専門家によると、感染者の早期特定は感染症管理に欠かせないという。韓国が1月20日に最初の患者を特定したとき、バイオテクノロジー企業は既に検査キットを開発しており、承認を待っていた。「米国は既に絶好の機会を逃した」と延世大学のリ氏は語り、「最初の患者の特定に時間がかかり過ぎた。その間に数千人が既に感染していただろう」と記事は最後に伝える。

 以上のようにメディアは今回のコロナウイルス発生に伴う韓国政府の対応を詳細に伝える。特に検査態勢を整備して感染者を徹底的にあぶり出し、隔離して感染拡大を防止した施策が注目される。コロナウイルス流行後に今後の対応を整備する立場にある日本としても、大いに参考にすべきであろう。

北 朝 鮮

☆ コロナウイルス流行の現状について

 北朝鮮はコロナウイルス感染者がゼロだと発表しているが、本当だろうか。3月31日付ニューヨーク・タイムズは、こう疑問を呈し、過去数十年間にわたる孤立と経済制裁によって公衆衛生システムは荒廃しており、流行に立ち向かう力があるかが懸念されていると報じる。記事によれば、北朝鮮はコロナウイルスに対して最も大胆な行動に打って出ている。1月には、大半の国々よりも早く国境を閉鎖し、対外貿易の9割を占める中国との取引を断絶した。繁盛する闇市場を支えている密輸業者を取り締まり、平壌における外交官全員に検疫を課した。また全体主義の北朝鮮は人の移動規制が可能で、これがウイルス押さえ込みに拍車をかけたとされる。

 ただしハーバード・メディカル・スクールの講師で北朝鮮の医療制度の改善を支援してきた朴博士は、コロナウイルス感染者が急増したら、どうなるかは一目瞭然で、あっという間に医療制度は崩壊すると語る。また多くの関係者が、コロナ感染者がゼロという北朝鮮の主張を疑っているが、朴博士は、検査設備がないために感染者を一例も検出できなのだと述べる。つまり、感染者はいるが、それを探知する方法が分からないのであり、したがって北朝鮮は、(感染者を)未確認だというべきなのだ、と付言する。

 また北朝鮮は社会秩序を守るために流行を隠していると批判する者がいることについて、在ソウル脱北者協会の事務局長、徐氏は、北朝鮮に感染者が一人もいないというのは、真っ赤な嘘であり、在北朝鮮の通報者によれば、3月中旬に北朝鮮東部の清津市に住む3人家族と老夫婦2人が死亡したと語る。同氏は、政府は国民が治療方法のない感染症で死亡すると知って起きる社会の混乱を、何としてでも回避したいのだと補足する。

 金正恩委員長は、北朝鮮の脆弱な医療制度に対するコロナウイルスの脅威を熟知しており、米政府が2月13日、コロナ関連の人道支援を申し出た際に、関係筋によると、北朝鮮は珍しく診療キッドなどの支援を早速要請したという。朝鮮労働党機関紙の労働新聞も、北朝鮮は既に1万人を隔離していると伝えており、また韓国の人権活動家、金牧師によると、同氏の北朝鮮内協力者から密かに送られてきたビデオには、消毒所という看板のある家、あるいは検疫中と表示された家、背中に消毒液らしきものを背負った職員の姿などが写っており、同氏の協力者も国内移動の制限を受けているという。

 記事は、さらに次のように伝える。ソウルにあるウエブサイトのデイリーNKは先月、北朝鮮内部の情報提供者からの情報として、軍人200人が死亡し、23人が感染したと報じた。しかし今回のコロナウイルス流行に際して、北朝鮮は異例に素早く行動し、かつ人々を拘束できる権限があることから、壊滅的な流行は押さえ込んでいるかもしれない、とソウルで活動する人権運動家のユン氏は語っている。北朝鮮医療制度の専門家も、感染者がいるだろうが、国民は危機に際して政府の命令に従うように訓練されており、韓国やイタリア、米国のような大規模な流行になっていないと思われ、また中国から検査キッドなどを入手しているだろうと語る。

 記事は最後に、ロシアや中国が救援に乗り出し、検査キッドや診療用具などを送付し、国連も赤十字などの支援団体が人工呼吸器などの医療器具を北朝鮮に送れるよう経済制裁を緩和し始めたと伝える。

 以上のように、鎖国状態にある北朝鮮については、他のことと同様にコロナウイルスの感染状況に関しても判断が難しい。上記記事も、感染状況について幾つかの見方を紹介するにとどまり、明確な結論は出していない。限られた情報を基にして憶測するほかはないといえる。そうした前提条件の下で推定可能なこととして、北朝鮮は脆弱な医療体制を考慮して、比較的早い時期に思い切った対策を打ち出したこと、感染者の検査はできていないが、実態として既にかなりの数の感染者と死者が出ていること、しかしその事実は社会の混乱を避けるため秘匿されていること、したがって北朝鮮としては珍しく西側諸国からの支援申し出に飛びついたとみられること、などが看取できる。コロナ感染が拡大し社会不安が広がれば、金体制を揺るがしかねない可能性も否定できないと思われ、引き続き事態を注視したい。

東南アジアほか

感染が拡大する東南アジア諸国

 東南アジア諸国の状況について3月18日付けニューヨーク・タイムズは、対応の遅れていた東南アジア諸国も、おそまきながらコロナウイルスが地球上に容赦なく蔓延している現状を認識し、厳しい対策に乗り出したと伝える。例えば、インドネシアではブディ運輸相が検査の結果、陽性であることが判明するなどウイルスの脅威が高まり、ジョコ大統領が国民に対して、自宅での仕事や学習、祈りを行うよう呼びかけたと報じる。

 記事によれば、インドネシアでは検査率は高まっているものの、100万人に8.5人の割合にとどまり、世界最低の水準にある。陽性患者が初めて確認されたのは3月2日だったが、今や172人に達した。インドネシア若者科学者フォーラムと呼ばれる科学者団体は大統領に書簡を送り、即刻対策を打ち出すよう圧力をかけている。同団体は感染者が3月初めからねずみ算式に急増していると指摘、科学者は、対応の遅れは、その後のウイルス拡散防止を困難にし、イタリアやイランと同様もしくは悪化した流行状態に陥ると警告していると伝える。

 患者の急増は3月初旬、マレーシアの首都、クアラルンプール近郊で開かれたイスラム教徒の国際的集会に起因している。そこで感染した信者の多くがインドネシア、マレーシア、シンガポール、ブルネイなどにウイルスを持ち込んでいる。マレーシアでの感染増はこの集会と関連している。新たな感染者125人のうち95人が集会と関係があり、今や673人に増加している。事態の急変を受けてWHOは、感染拡大を防ぐためにあらゆる努力を尽くすよう東南アジア諸国に対して積極的な対策を要求している。フィリピンでは、人口の凡そ半数に達する6千万人が閉鎖状態におかれた。マレーシアでは大規模集会は今月一杯禁止され、学校、企業、礼拝場は閉ざされ、国を離れることが禁止されている。タイでは、ソンクラーン(Songkran)と呼ばれる4月の正月行事が延期された。

 こうした東南アジア諸国の中にあって、シンガポールとベトナムの対応が評価されている。3月16日付フィナンシャル・タイムズは、シンガポールは570万人の都市国家には226人の感染者が出ているが、半数は完全に回復、重篤者は13人で集中治療を受けているが、未だ一人も死者を出していないと報じる。専門家は、死者がいないのは感染者の大半が65才以下であるためと思われる、と語っている。シンガポール国立大学の感染症のフィッシャー教授は、イタリアのように医療体制が限界に達すると、死者の数は急増するだろうと語り、幸い患者の多くは若者で、加えて我々の集中治療室も強力だと付け加える。デューク・シンガポール国立大学医科大学院感染症プログラム副所長のOoi Eng Eong氏は、人工呼吸器その他の医療支援機器は必要とする患者に全て供給できているので、医療体制は崩壊していないと語る。

 さらに記事は、米欧はシンガポールから学べるとのアナリストのコメントを紹介し、ルール違反に対する厳しい罰則がシンガポール政府からの明確なメッセ―ジだと伝える。こうしたシンガポール政府の対応は、33人の死者を出した03年のSARS流行が大きく影響していると述べ、武漢からの情報が出始めると直ちに大規模検査力を備えた研究所の創設などの準備を整えたと報じる。

 他方、ベトナムは中国と似たような方法で、コロナ対策を推進して注目されている。3月24日付フィナンシャル・タイムズは、ベトナム政府が低コストのコロナウイルス対策を打ち出して賞賛されていると伝える。記事によれば、コロナウイルスが中国国境で猛威を振るうなか、グエン・スアン・フック首相は旧正月のさなかに開かれた政府会議で同感染症に対して宣戦布告した。それ以後、ベトナムは、資源は限られているものの断固たる指導者の下で、コロナ封じ込めのモデルとなった。富裕な韓国でコロナ対策の核となった大規模な検査に乗り出すような施策ではなく、感染者の隔離と2次、3次の接触者の追跡に焦点を当てている。ベトナム緊急オペレーションセンターのシーニァ・アドバイザー、フー氏は、大規模検査は結構だが、それぞれの国の資源によると語り、感染症と接触するとみられる人々、あるいはパンデミック地域からの入国者の数を知り、それらの人々に検査を実施するのが重要だと指摘する。

 さらに記事は、ベトナム政府は強制隔離と医学生や退職医師、看護婦の強制動員を実施していると報じる。ニューサウス・ウェールズ・キャンベラ大学のセイヤー名誉教授は、ベトナムは動員社会だと述べ、一党国家で大規模な公共治安部隊、軍隊を擁し、党と政府がトップダウンで自然災害などにも的確に対処していると語る。この週末、ハノイでは全ての入国者に14日間の隔離を義務づけられ、全ての外国フライトが取り消された。フー氏は、コロナウイルス流行と戦うためには、社会を動員して全力を尽くす必要があると述べ、感染例を早期に発見し、隔離するのが重要だと強調する。

 これまでのところベトナムでは、感染者123人で死者ゼロと報じられている。3月20日現在で1万5637人を検査している。他の東南アジア諸国と同様、ベトナムも検査は限定されており、実態は報告数を遙かに上回っているかもしれないが、ベトナムの対応は果断である。2月1日に中国よりの全フライトを停止し、ハノイ、ホーチミン両市の学校を休校とし、大半の都市に対して旧正月後も閉鎖を続けるよう指示している。2月23日には、武漢からの帰国労働者の多い北部の省の大規模住宅地に封鎖を命じた。WHOは、ベトナムの先見性と一貫性ある対応を賞賛している。

 上記のように報じた記事は、ベトナムの成功は、ひとつには医療と軍の関係者、監視員と検査員の動員、全土にわたる情報員網にあると述べ、これは米欧にはまねのできないことだと指摘する。ただし国営メディアは状況を逐一報じ、保健省もコロナウイルス関連ニュースを定期的に伝え、透明性を維持しているようだと述べ、世論調査機関によれば、国民は感染症の兆候に通じており、政府の努力を支持していると報じる。

 以上のように対応の遅れていた東南アジア諸国も、厳しい対策に乗り出した。この中でシンガポールとベトナムがいち早く適切な対応に乗り出し、その他の諸国も遅ればせながら対処に動き始めている。注目される対策として、大規模検査力を備えた研究所の創設、ルール違反に対する厳しい罰則、感染者の強制隔離と医学生や退職医師、看護婦の強制動員、休校や公共施設の閉鎖、集会回避などを含む公民権制限の早期実施などが挙げられている。日本が今後、感染症対策の強化に取り組んでいく上で参考になる施策といえよう。

インド

☆ インド準備銀行、政策金利を過去最低水準に引き下げ

 中央銀行であるインド準備銀行は3月27日、金融政策委員会を開いて政策金利のレポ金利を75BP引き下げて4.4%とした。利下げは予想外で、これにより金利は過去最低の水準となった。同日付フィナンシャル・タイムズによれば、準備銀行が急遽利下げに踏み切ったのは、モディ首相が3月24日、3週間の外出禁止令と必要不可欠以外のサービスの禁止を発令したためで、こうした措置による経済、社会的な影響と戦うためとされる。準備銀行のシャクテイカンタ・ダス総裁は、兵器庫から数多くの武器を動員する時が来たと語っている。準備銀行はまた、金融システムに3.7兆ルピー(490億ドル)を注入し、商業銀行その他の金融機関が借入人に3ヶ月間の返済猶予を認めることを許容すると発表している。

 インドでは、確認されたウイルス感染者数が3月27日現在で691人に達しており、モディ首相の措置は感染拡大阻止のために必要とみられているが、定職を持たない数億人の市民の間に不安感を生み出した。彼らの多くは収入を失い、飢餓に直面するからである。経済はコロナウイルス流行以前に既に最悪の不況に陥っていた。

 こうした状況で準備銀行は対策を一段と強化したのだ、とキャピタル・エコノミクスのインド上席エコノミスト、シャ氏は述べ、ただし経済がより悪性の状況に陥って劇的に減速するのを防ぐには、財政出動の追加が必要だと警告する。これとは別に財務省は3月23日、貧困層の国民を支援する220億ドルの包括的救済案を発表していた。これには穀物や豆類の無料配布や現金の直接送金などが含まれていた。

 他方、米格付機関のムーディーズ・インベスターズ・サービスは24日、インド経済の2020年度経済成長率見通しを5%から2.5%へ引き下げた。同機関は引き下げの理由として、総じてインドその他の途上国市場は社会安全網に欠け、企業と家計を適切に支援する力が弱体というリスクがあり、その他の内在する脆弱性によって、コロナ関連の衝撃の影響が増幅するとみられることを挙げた。またキャピタル・エコノミクスも今年の国内総生産(GDP)伸び率が1%へ減速すると見込んでいる。

 以上のようにインドでもコロナウイルス感染拡大防止のため、政府は外出禁止令などの対策を打ち出し、経済への打撃が懸念されている。このため準備銀行は急遽、過去最低となる水準にまで政策金利を引き下げ、金融市場にも流動性を注入、さらに3か月間の融資返済猶予を認めるなどの金融政策を打ち出し、政府も貧困層向けの救済策などの財政政策を発動した。

 なお4月12日付ワシントン・ポストは「The world’s largest democracy should set a pandemic-response example (世界最大の民主主義国家、インドはコロナ大流行への対策のモデルを示すべし)」と題する社説で、3週間の外出禁止令は事前の猶予時間が4時間しかなく、しかも空路、鉄道、道路などを閉鎖する措置の直後だったと指摘し、このため数百万人の貧しい移住労働者が移動手段をなくして街頭に溢れ、あるいは徒歩で里帰りをせざるを得なくなり、しかも郷里に帰っても外出禁止令や隔離を強行する警察官によって収容所に送り込まれており、現在、700万人程度が2700のキャンプに収容されていると非難する。

 また220億ドルの貧困層向けの救済資金も、全国の労働者4億7000万人のうち80%と見込まれる非正式雇用の労働者は対象外とされていると指摘する。さらに封鎖措置の有効性を判断するのは現段階では時期尚早であり、感染者数と死者数は急増し続けており、10日現在で7347人の感染者と229人の死者が報じられていると述べる。

 また記事によれば、モディ首相は封鎖に先立って有力メディアの指導者らと会い、勇気づけられる前向きの報道をするよう圧力をかけて同意を得ている。出稼ぎ労働者らの苦難が報じられ始めると、モディ政権は、感染症の流行に関しては公式報道を伝えることを命じる最高裁の判決を確保する一方で、ヒンズーナショナリストのモディ首相は、感染症拡大の責任をインド内イスラム教徒になすりつけようとするテレビ・キャスターを制止しようとはしなかったと批判する。社説は最後に、人口で世界最大の民主主義の国家、インドは緊急事態に際して弾圧や検閲に訴えることなく対処する標本を示すべきだと主張している。

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主要紙の社説・論説から
シリ-ズ「日本の今」―「2020年の日本」その4
 
新型コロナウイルス、感染爆発寸前の日本

 前号に続きシリ-ズ「日本の今」の「2020年の日本」その4として、新型コロナウイルスが爆発的感染の瀬戸際にある日本の現状を取り上げる。3月24日付ワシントン・ポストは、日本は世界でコロナウイルスが大流行するなかで、不可思議ともいえる離れ島だと述べ、日本は流行初期では検査を制限し、また呼吸器感染症の流行に理想的な冷え込んだ天候であるにもかかわらず、韓国や欧州、米国に起きたような爆発的感染を回避していると指摘する。次いで29日付同紙は、「Japan uses targeted coronavirus testing; South Korea goes big. The U.S. faces a choice (検査の対象を絞る日本と広範な検査を実施する韓国、選択に迫られる米国)」と題する記事で、検査対象を絞り込んで対応している日本と、徹底した検査態勢の下でコロナ危機に対処している韓国とを対比して概略次のように報じる。

 韓国は、迅速に広範なコロナウイルス検査を可能として世界から賞賛を浴びた。既に39万4000人以上を検査し、9583人の感染者を見つけ出した。日本は、人口が韓国の倍以上だが、2万8000人程度の人々に対して4万8000件余りの検査を実施し、1724人の感染例を発見している。日本政府のガイドラインによると、高齢者でない患者は4日以上の発熱が続かない限り、医師の診断を受けることすら勧奨されていない。また医師の勧奨がなければ検査を受けられない。その結果、日本の公式数字は感染者の実数を大きく下回っている可能性がある。

 しかし、この方法の支持者は、医療制度の限られた資源を重篤者に絞ることが可能となり、死亡率を比較的低位に保てると語る。また検査を求める人で混雑する待合室は潜在的に危険な場所だと指摘し、さらに不正確な検査は有害無益だと主張、中国から輸入した検査キッドの正確度が30%に過ぎないことが分かり、その使用を停止したスペインの例を挙げる。

 3月26日付エコノミスト誌は「Blowing out the flame Covid-19 forces Japan to delay the Olympics (聖火を吹き消すコロナウイルス、五輪の延期に迫られた日本)」と題する記事で、専門家は日本がウイルスについて余りに無頓着だと心配していると冒頭で述べる。記事は、新型コロナウイルスについて年代記が書かれる際には、日本の安倍首相が東京五輪の予定どおりの開催に執拗に拘ったことに間違いなく一章が割かれるだろうと指摘し、世界的大流行となった感染症が駆け巡るなかで、同首相が日本自体はウイルスを押さえ込んでおり、五輪の延期や中止は考えられないと主張していたと報じる。

 ただし安倍首相は、コロナ危機の初期対応について国内で批判を受けているとして、武漢でのコロナ発生にもかかわらず中国人観光客を歓迎し続け、感染者を乗せたクルーズ船の対応に手間取ったことなどの例を挙げる。とはいえ日本はこれまでのところ、他の主要国と比較してウイルスの感染スピードが遅い例外的な国だとも述べ、他の東アジア諸国と同様に日本は、SARSや鳥インフルエンザなどの過去の感染症から封じ込めの大切さについて学んでいると指摘、それは感染クラスターの特定と伝染経路の追跡という手間のかかる作業だとの専門家の意見を紹介する。
同時に、日本政府は検査対象を明確な症状を示すか、陽性者と接触した人のみとしているため、広く国民の間に感染が拡散するリスクを冒していると語る者もいる。安倍首相はタスクフォースや専門家パネルを設置しているが、責任者がいないとの批判や、現状に満足し、検査を限定している環境では、コロナウイルスの感染が爆発しかねないとの懸念が提起されていると伝える。

 さらに記事は、こうした事態はすぐに変わるかもしれないと述べ、小池都知事が今週、拡散を封じ込められなければ、1300万人の都民は封鎖に直面するかもしれないと警告、感染経路の特定が難しくなり、これから3週間が重大局面だと語り、週末は自宅で過ごすよう要請したと報じる。記事は最後に、小池知事のコメントは現状に満足する都民を覚醒させて然るべきだと述べ、安倍首相も現状に甘んじる余裕はないはずだと警告する。この感染症への対応を誤ると、来年の五輪にすら間に合わない結果になる恐れがあり、そうなると来年秋に党総裁の任期が到来する安倍首相は五輪を逸することになりかねないと指摘する。

 3月26日付フィナンシャル・タイムズも「Tokyo at risk of ‘explosive spike’ in coronavirus cases (新型コロナウイルス、感染爆発の危険にさらされる東京)」と題する記事で、東京での新感染者が記録的な増加をみせた後、小池百合子都知事が住民に対して在宅勤務を求めると共に、今週末に自宅待機を要請したと伝える。

 こうした状況のなか、政府は3月28日、特措法に基づきオーバーシュート(感染爆発)を見据えた対策を盛り込んだ「基本的対処方針」を決定したが、緊急事態の宣言は見送り、結局、4月に入りようやく同宣言を発動する。これについて4月7日付ワシントン・ポストは「Japan opts for emergency but ‘no lockdown,’ keeping its eye on the economy (日本、緊急事態を宣言、「都市封鎖」は選択せず経済を重視)」と題する記事で、安倍首相が同日、東京その他の大きく影響を受けた6つの府県を対象にして約1か月間の緊急事態を宣言し、不要不急の外出を控えるよう求めたが、海外のように都市封鎖はしないと述べ、経済活動を可能な限り維持すると語ったと伝える。記事はまた、安倍首相が国内総生産のおよそ20%に相当する前例のない包括的経済救済策を発表したと報じ、今後、人と人との接触を70から80%削減すれば、感染拡大は2週間でピークに達し、以後、低下していくだろうと語ったと伝える。

 同時に記事は、緊急事態宣言が遅すぎたとの専門家の意見も紹介する。ロンドン大学キングス・カレッジ(KCL)のインスティテュート・フォー・ポピュレーション・ヘルスの渋谷所長は、東京は既に感染爆発の段階に入っており、医療体制の崩壊を防ぐ唯一の方法は、可及的速やかに都市封鎖をすることだ、と語っていると報じる。

 ただし安倍首相は東京における感染リスクは、都市封鎖を実施している海外諸都市と比べて、それほど高くない、と主張していると述べ、その一方で同首相が企業に対して可能な企業は在宅勤務を導入すること、あるいは少なくとも勤務時間をずらすことで対人接触を減らすよう要請していると伝える。記事は緊急事態が宣言されても、東京都では医療機関、スーパー、コンビニ、ホテル、工場、公衆浴場、そしてレストランも時間短縮を要請されているが、いずれも営業を認められていると指摘し、多くの専門家は、小出しで手遅れ、だと批判していると伝える。

  日本医療学会は6日前、医療機関が危機的状況にあるとして政府に緊急事態宣言を行うよう促し、日本集中治療医学会(the Japanese Society of Intensive Care Medicine)も同日、集中治療病床数は10万人当たりで5つとイタリアの半分のレベルだと述べ、死者数の急増が目前に迫っていると警鐘を鳴らしたと記事は述べ、この難局に対処する日本の態勢や支配層について次のように分析する。

 与党の自民党は財界とのつながりが極めて強い。また安倍首相は、低迷する日本経済の再生という長年の努力を懸命に守ろうとしている。それで安倍首相は2月末、時期尚早という専門家パネルの意見にもかかわらず、学校休止に向けて迅速に動いたが、経済に打撃を与える動きには遅いのである。日本は誤った安全感覚に陥っている。その一因は、ウイルスに対する広範な検査の欠落、初期における感染症封じ込めの成功にある。この成功は、感染の追跡とクラスターの隔離を基本としている。また日本を例外と見做す見方もあった。広範なマスクの使用、良好な公衆衛生水準、そして人と人の物理的接触の欠如がウイルス封じ込めに役立っているとの考えである。

 上記のように論じた記事は、政府は企業部門へのライフライン提供に重点を置き過ぎているとの専門家の意見や、政府の専門家パネルには必要な幅広い人材に欠け、早い時期に警告を発する率直な発言をする学者を排除している、との批判を最後に伝える。

 以上のようにメディアは日本について、検査を制限しながら、広範な検査を実施する韓国と異なり感染爆発を回避し、世界の離島のようだと述べ、感染者の公式数字は実数を大きく下回っている可能性があると指摘する。その一方で、検査の制限は限られた医療資源を重篤者に絞り、死亡率を比較的低位に保てるという利点や不正確な検査は有害無益だとの主張も紹介、日本で感染スピードが遅い背景として、SARSや鳥インフルエンザなどの過去の感染症から封じ込めの大切さを学んだためとの見方も伝える。しかし日本はウイルスについて余りに無頓着だとも批判し、東京の都市封鎖の可能性を示唆して外出の自粛を促した小池都知事の発言に触れ、都民のみならず安倍首相も現状に満足する余裕はないはずだと警告する。

 注目すべきは、こうした日本の対応についての分析である。与党の自民党は財界との結びつきが極めて強く、安倍首相は経済の再生努力に傾き過ぎ、日本政治指導者は、誤った判断をしていると警告し、一因は、ウイルスに対する広範な検査の欠落、初期における感染症封じ込めの成功にあると指摘する。また日本を例外と見做す見方があると述べ、マスク使用、公衆衛生水準、少ない対人接触などの社会、文化的習慣を挙げ、政府の専門家パネルの構成も問題だと批判する。

 メディアが指摘するように安倍政権は、コロナウイルス対策の経済に与える打撃を恐れて金縛りになっていると言えよう。打撃の回避それ自体は理解できるが、経済への悪影響を最小化する最善策は、コロナの可及的速やかな封じ込めであるはずだ。その理解が前提にならなければならない。コロナが拡散すれば、それだけ経済への打撃は長期化し、被害は膨れあがる。政府が恐れて然るべきことは、小出しで遅すぎ、という批判ではないか。安倍政権の対策は本末を転倒していると言わざるを得ない。今、政府がなすべき最優先課題は、都市封鎖を含む思い切った対策を即刻打ち出すことだろう。それは今からでも遅くないのだ。

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(主要トピックス)


2020年
   3月16日 日本銀行、年間6兆円としている現行の上場投資信託(ETF)購入目標額
           の12兆円への倍増、コマーシャルペーパー(CP)・社債の購入、中小
           企業の資金繰り支援のための金融機関向けの資金供給の拡充を発表。
20日 タイ中央銀行、政策金利(翌日物レポ金利)を年1%から過去最低の0.75%
   に引き下げ。
21日 北朝鮮、今年で3回目となる飛翔(ひしょう)体を2発発射。
22日 国際オリンピック委員会(IOC)、新型コロナウイルスの感染拡大を受け
   東京五輪の延期を含めた検討に入ると発表。
24日 安倍首相、国際オリンピック委員会(IOC)会長と電話協議、
           東京五輪の21年夏までの延期を提案、IOC会長が承認。
           インドのモディ首相、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため
                      インド全土の封鎖を決定。
25日 タイのプラユット首相兼国防相、新型コロナウイルスの感染拡大を
           食い止めるため4月30日まで非常事態宣言を発令。
26日 小池都知事、新型コロナ感染者急増で外出自粛要請。
   「感染爆発の重大局面」と表明。
   41都道府県で1269人感染、都で新規41人。
29日 北朝鮮、再び短距離弾道ミサイル2発を日本海に向けて発射。
30日 日本政府、新型コロナウイルス蔓延を受けて米国、中国、韓国の全土
           からの入国を拒否する方針を固める。
           国際オリンピック委員会(IOC)と政府、東京都、大会組織委員会、
           新開催日程を21年7月23日~8月8日とする方針を発表。
      4月1日 台湾の蔡英文総統、新型コロナウイルスの感染が拡大する米欧諸国
        などにマスク1千万枚を提供すると表明。
2日 タイ政府、全土を対象に夜間外出禁止令を発出。
3日 シンガポール政府、生活に不可欠な業種を除く大半の民間企業の
    オフィス閉鎖を決定。
         中国人民銀行、預金準備率を1%引き下げ。農村銀行が対象。
7日 安倍首相、特別措置法に基づく緊急事態宣言を発令。
         東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡の7都府県が対象。
         8日から5月6日まで。7日までの国内感染者は計4349人、死者計98人。
         政府、緊急経済対策を決定、財政支出は過去最大の39兆円、
         事業規模は約108兆円、資金繰り支援に45兆円。
         タイ政府、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた第3弾の経済対策を
         閣議決定。 総額は1兆9000億バーツ(約6兆円)。
8日 中国、新型コロナウイルス感染症の震源となった湖北省武漢市の
       封鎖解除を宣言。
         10日 東京都の小池知事、新型コロナウイルス感染拡大防止のため娯楽施設や
       大学、
劇場などに5月6日まで休業を要請。要請に応じた事業者に50万円
       の「協力金」
給付方針も表明。
         12日 フィリピン中央銀行のジョクノ総裁、景気低迷への対応として3%を
                    下回る水準に政策金利を引き下げる用意があると表明。
         14日 日中韓、ASEAN首脳、テレビ会議。コロナ対策のための新基金の創設
                   で一致。


主要資料は以下の通りで、原則、電子版を使用しています。(カッコ内は邦文名)THE WALL STREET JOURNAL (ウォール・ストリート・ジャーナル)、THE FINANCIAL TIMES (フィナンシャル・タイムズ)、THE NEWYORK TIMES (ニューヨーク・タイムズ)、THE LOS ANGELES TIMES (ロサンゼルス・タイムズ)、THE WASHINGTON POST (ワシントン・ポスト)、GUARDIAN(ガーデイアン)、BLOOMBERG・BUSINESSWEEK (ブルームバーグ・ビジネスウイーク)、TIME (タイム)、THE ECONOMIST (エコノミスト)、REUTER (ロイター通信)など。なお、韓国聯合ニュースや中国人民日報の日本語版なども参考資料として参照し、各国統計数値など一部資料は本邦紙も利用。


 
前田 高昭
金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。
訳書に『チャイナCEO』他。
『東アジアニュースレター』も配信中。
 

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