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東アジア・ニュースレター ― 海外メディアからみた東アジアと日本 ― 第110回

2020/02/22

東アジア・ニュースレター
――海外メディアからみた東アジアと日本――
第110回







前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト
           バベル翻訳大学院プロフェッサー 
 
 
 中国政府は米中貿易戦争の交渉材料のひとつとして、懸案であった資本市場の開放を加速させている。当局は米国からの市場自由化の圧力と米中貿易合意を受けて、外国銀行に対して参加する合弁事業すべてに100%の持ち分取得の申請を、年末とされていた期限を前倒しして今年4月より可能とした。ただし国内市場の競争は激甚であり、海外投資銀行が全額出資の現地証券会社を設立しても、すぐに採算の取れる見込みは厳しいとメディアは示唆する。

 台湾の総統選では現職の蔡英文総統が大勝したが、そうした選挙結果が民進、国民の両党に大きな課題を残したとメディアは論評する。即ち、大敗した国民党に対中政策の見直しという大きな問題を提起した一方、圧勝した民進党と蔡総統にも民主主義をめぐる中国との対立激化の可能性に加え、米中貿易戦争の拡大による台湾への悪影響や台湾の対米輸出へのトランプ関税発生リスクなど対米関係での課題が起きたと指摘する。

 
韓国と米国両政府が昨年来、防衛分担費に関する交渉を続けている。米政府は韓国の年間負担金を現在の5倍増額を主張している。メディアは、トランプ米政権は在韓米軍の駐留費だけでなく、広く核の傘を含む朝鮮半島全体の防衛費に関連する費用の分担を韓国に要求していると分析、そうしたトランプ大統領の交渉姿勢は、防衛を理由とした、一種のゆすり、たかり行為であり、同盟関係を金銭的な利益を求める取引として捉える、戦略的には自虐的な行為だと厳しく批判する。

 北朝鮮外相が更迭され、新外相に軍出身で対外強硬派として知られる李善権氏が任命された。メディアは、米国務省高官は新外相が強硬姿勢を示しても、トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩委員長は共に交渉の進展を願っていることに鑑み、米朝対話は再開し、非核化交渉は続くだろうと語ったと報じる。ただし新人事は北朝鮮の政権内部で混乱が続くことを意味していると論評する。

 東南アジア関係では、マレーシアとフィリピン中銀が政策金利をそれぞれ0.25%引き下げた。両国に限らず新興国や途上国市場では、物価が比較的安定するなか、中銀が経済成長を確保するために利下げに動いている。背景として、世界的な不確実性の高まりによる経済の下振れリスクなどが挙げられている。利下げ要因のひとつであった米連邦準備理事会の緩和サイクルは終わり、また多くの新興国でインフレが勢いを増しているとの指摘もあるが、利下げの流れは変わっていないとみられる。

 インドでは、経済成長が減速するなか、インフレが進行し、経済はスタグネーションからスタグフレーションに落ち込む危険に直面しているとメディアが警告する。インド準備銀行(中央銀行)はインフレ押さえ込みのためのインフレ目標の枠組みを考案し対応しているが、成果は見通せていない。

 主要紙社説・論説欄では、「日本の今(ジャパン・ナウ)」その2として、日本が、いわゆる日本化に耐えている状況を分析した記事を紹介した。

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北東アジア


中 国

☆ 米中貿易合意と資本市場開放の動き

 20年1月24日付フィナンシャル・タイムズは「Can global investment banks make it big in China? (グローバルな投資銀行は中国で大きくなれるか)」と題するビジネス・ファイナンス欄の記事で、市場開放は進められているが、競争が恐ろしいほど激しいと中国での資本取引の難しさについて、概略次のように報じる。

 金融規制当局は過去25年間、グローバルな投資銀行に中国市場を完全に開放すべきかどうかについて言い争ってきた。論争は今も続いているが、当局はようやく今月には入り、国内の証券会社130社が束になってもJPモルガン・チェース一行に太刀打ちできないと北京でのフォーラムで語った。ところがその数日後、中国人民銀行(中央銀行)がこれに矛盾する声明を発した。即ち、「中国金融機関は外国のライバルと完全に太刀打ちできる」と主張したのである。

 中国は、こうした議論の少なくとも一部は2020年内に決着をつけるべきだろう。それは世界トップクラスの投資銀行が最近の規制緩和を受けて、地場証券業務について完全経営権の獲得に動き出そうとしているためである。中国当局は先週、米国からの市場自由化の圧力と米中貿易合意を受けて、外国銀行に対して参加する合弁事業すべてに100%の持ち分取得の申請を年末とされていた期限を前倒しして今年4月より可能としたのだ。

 他方、グローバル投資銀行は国内と海外華僑との取引は我らの牙城と意気軒昂な地場ライバルとの競争にさらされている。中国の株式、債券市場やM&Aアドバイザリー業務での投資銀行業務の収入総額は2016年の78億ドルから19年には59億ドルに減少しているが、このうち海外投資銀行のシェアは16年の9%、金額にして7億2800万ドルから昨年はわずか4%の同2億6600万ドルに縮小した。

 中国に対する市場開放圧力はこの20ヶ月間に緊急度が急激に増し、これに伴い中国政府は様々な海外からの参入障壁を撤廃していった。18年4月、証券業務規制当局は、外国投資家は証券業務の合弁事業について過半数の持ち分取得を認めると発表した。従来は49%に制限されていた。これが突破口となって当局は先週、持ち分の全面保有を認めるに至った。

 UBSは18年12月、北京にあるUBS証券の持ち分を51%に増やし、過半数持ち分取得の最初の外銀となった。野村證券も19年9月、51%の持ち分を持つ合弁の証券会社を設立した。JPモルガンもこれに続き、さらにモルガン・スタンレーやクレジット・スイス、ゴールドマン・サックスなどもこうした合弁企業の設立を準備中である。持ち分を51%にすると、中国における収入をグローバル収入に合算できるようになり、株主への配分が可能となる。それによって投資家に対する収益配分を向上できるが、専門家は中国で可能なことはまだ多くあり、こうした規制当局の承認は中国市場へのアクセスをめぐる当局との戦いの始まりに過ぎないと指摘している。

 即ち、海外の銀行は中国の国内市場でわずかな部分を占めているに過ぎず、中国国際金融股份有限公司(CICC)や中国の投資銀行業務で先頭を行く中信証券(シティック・セキュリティーズ)のような地場投資銀行が苦手とする分野に焦点を絞らなければならない。14年から19年にかけて平均収入でドイツ銀行とUBSが最も成功した海外投資銀行として位置付けられたが、その順位はドイツ銀行が株式市場で17位、UBSが債券市場で21位だった。海外投資銀行にとって唯一M&Aアドバイザリー業務が明るいスポットで、UBS、ゴールドマン、モルガン・スタンレーがトップ6にランクインした。

 このように中国国内の競争が厳しいため、グローバル投資銀行はその強みを生かすことに集中してきた。UBSは昨年12月、CICCと組んで中国郵政儲蓄銀行(Postal Savings Bank of China)による総額47億ドルの新規株式公開(IPO)を引き受けている。モルガン・スタンレーは中国建設銀行と共に1995年、CICCの前身を設立している。ゴールドマン・サックスも中国に持ち分33%(その後、規制緩和を受けて51%へ引き上げた)の証券合弁、高盛高華証券(Goldman Sachs Gao Hu)を保有している。UBSは2000年央に北京証券を救済して証券合弁を保有した。 

 多くの投資銀行にとって、熟達したスタッフ不足が一つの課題となっている。このため、例えば、モルガン・スタンレーは米国内の優秀なスタッフを中国に出向させている。日本の野村は80年代から中国に進出しているが、証券合弁の認可を得たのは昨年のことである。証券部門は、本社と似たような方法でウエルス・マネジメント業務構築に活用する計画だと野村ホールディングス・中国委員会の責任者は語っている。

 以上のように中国政府は米中貿易戦争の交渉材料のひとつとして、懸案であった資本市場の開放を加速させた。しかし国内市場の競争は激甚であり、海外投資銀行が全額出資の現地証券会社を設立しても、すぐに採算の取れる見込みは厳しいとメディアは示唆する。しかし、それでも海外投資銀行の中国市場への全面的進出は長年の願望であり、突破口が開かれた今、外銀の進出は止まらないと思われる。その中にあって野村グループの動向が海外メディアの関心を引いているのが注目される。



台 湾

☆ 総統選後の台湾について

 前号で1月11日に投開票された総統選の結果に関する主要メディアの論調を取り上げた。選挙では現職の蔡英文総統と与党が大勝したが、今回はそうした選挙結果が今後の台湾にどのような影響を及ぼすかについてメディアの論調を観察した。

 まず1月16日付エコノミスト誌が「What next for Taiwan after Tsai Ing-wen’s emphatic victory? (蔡英文の圧勝で台湾はどうなるか)」と題する記事の冒頭で、昨年の秋、中国が人民共和国建国70周年を祝う準備を進めるなか、習近平国家主席のスローガンが北京中に掲げられ、そこには「初志を忘れず、使命を貫徹しよう」と書かれていたと報じ、使命とは国家の再生についてであり、中国共産党が主張するように、それには、祖国の紛れもない一部として台湾を正当な場所に戻すことが含まれていたと述べる。

 次いで記事は、上記の習主席のスローガンに対する台湾市民の回答が1月11日の総統選だったと述べ、1年前、地方統一選挙で民主党が大敗した後、蔡総統は総統候補として党の指名を勝ち取ることさえ不確かとなったが、その蔡氏の劇的な復活は、習氏と香港の彼の手下、林鄭行政長官のおかげだと指摘する。19年初頭、習氏は台湾に関する演説で、香港支配の公式として用いられている「一国二制度」は台湾ためのモデルだったことを明らかにしたが、これに対し蔡氏が、恒久的な力の脅威の下におかれても、台湾人はこのモデルを拒絶すると主張すると、その支持率は上昇し始めたと報じる。

 そのうえで記事は、現在の蔡総統について、今のところ同氏の人気度は高いと述べ、外交の巧みさで習主席の上を行くと評する。オーストラリア、ヨーロッパ、日本との関係を静かに強化し、とりわけ、台湾の独立をむやみに主張せず、状況を不安定化させないことを明確にして、究極の安全保障保証国であるアメリカの支援を強固にし、それは昨年、数十機のF-16戦闘機の購入という形で報われたと述べる。

 また台湾は、アメリカの米中貿易戦争で利益を得ている希な存在でもあると指摘する。米関税の脅威が、それから逃れるため台湾ハイテク産業をして中国本土への巨額の投資の一部を台湾に「回帰」させる原動力となったと述べ、これは蔡総統の目指したことだと報じる。そして長年にわたる予想以下の低成長の後、台湾経済は今年、東アジアの中で良好な実績を上げるだろうと予測する。 

 その一方で記事は、米国が中国との完全な技術上の絶縁に固執すれば、台湾企業は米中の狭間で困難な立場に追い込まれるだろうと述べ、米戦闘機に部品を提供する世界最大の契約チップメーカーである台湾積体電路製造(TSMC)は、通信大手のファーウェイなどの中国企業から収益の5分の1を得ていると指摘する。また、対米輸出が拡大するにつれて、台湾はトランプ米大統領の「米国第一主義」の視界に入ってくるリスクがあると述べ、台湾が飼料添加物を理由に米国からの豚肉の輸入を禁止している例を挙げ、そうなると蔡総統の勝利の輝きが早々に失われていく可能性があると懸念を表明する。

 次いで記事は大敗した国民党について、苦境にあるのは中国と、その台湾内の伝統的な支持勢力であり、中国が脅迫や偽情報で選挙に影響を与えようとしたことが裏目に出ていると指摘、さらに悪いことに、大敗した国民党が疲弊させる内部紛争を始め、若手党員は古手の党員が統一という考えに余りに固執したと非難していると述べ、彼らは「92年コンセンサス」の廃棄すら求めていると報じる。

 上記の「92年コンセンサス」とは、中華人民共和国と中華民国(台湾)の当局間で「1つの中国」の原則について1992年に中国と台湾が確認したとされる共通認識で、九二共識と呼ばれる。台湾側は「中国」が何を指すのかはそれぞれが解釈するとし、中国と当時の台湾の馬英九政権はこれを「コンセンサス(共通認識)」として位置づけた。

 上記のように論じた記事は最後に、新進気鋭の若手は「グローバルな反中の波」がうねるなか、親中的とみられている国民党は代価を払っていると非難し、両岸関係よりも対米関係を優先させるべき時が来たと主張していると述べ、そうした過激な動きは習主席と側近らを驚かすだろうが、香港問題と同様に習主席は対策を用意していないようだと批判する。

 以上のように記事は、蔡総統の人気は依然として高いと述べ、その巧みな外交力を挙げ、米中貿易紛争も台湾にとって有利に働いていると指摘する。ただし米中摩擦が拡大すれば、台湾にも被害が及ぶこと、また台湾自体の対米輸出にもリスクが発生する可能性があると主張する。注目すべきは、国民党が党内の若手からの突き上げにあって、親中路線の転換に迫られていると伝えていることであろう。今回の敗北で国民党内に激震が走ったことは容易に想像でき、今後の同党の動きが大いに注目される。

 1月21日付フィナンシャル・タイムズも「Beijing and Taipei headed for collision over democracy (民主主義をめぐり衝突に向かう中台両政府)」と題する記事で、総統選で大敗した国民党の内部では、強大な中国に対する政策をいかに有権者に好まれるように見直すか、という議論が熱を帯びていると報じる。また圧勝した民進党の蔡総統は、中国政府に対して台湾の現実を直視するよう呼びかけているが、中国は蔡総統が呼び起した台湾の現実を認めるどころか、非現実的になった目標をさらに頑迷に追求しようとしていると伝え、中国は台湾の民主主義というDNAを拒否する姿勢を示しており、中国と台湾は衝突への道を走っていると評する。

 記事は、タスマニア大学の両岸関係専門家のコメントとして、「中国共産党にとって究極の優先事項は、党の正統性とその主張の正しさであり、これには柔軟性が欠如し、外部からみると自滅的に思えるが、共産党国家の論理として理に適っているのだ」と伝える。ただし記事は、台湾への見方に変化が起きている節があるとも伝える。習主席が最近、ミャンマーを訪問した際、ミャンマー側が声明文に「台湾は中華人民共和国の不可分の領土の一部であると考える」と書き込んだことに触れ、中国は長らく外国政府に対して台湾を独立国家として扱わないことを保証するよう要求していたが、これまでのところ中国政府は外国との折衝で、台湾を「中国の領土」と見做すという、ある程度の曖昧さを残す表現を許容していると指摘する。

 また中国は憲法で台湾を領土の一部と規定しているが、政府の重要書類はそうした記載がないと指摘、こうしたこともあり中国という言葉について中台間に若干の解釈の余地が生まれ、「92年コンセンサス」につながったと述べる。ただし習主席は「1国2制度」の推進を改めて主張して、この灰色解釈の余地を毀損したと付言し、同時に中国は台湾を中国の一部と呼ぶことで、中国との統一を理論的な選択肢として受け入れている台湾唯一の主要な政治勢力、国民党に致命的な打撃を与えたとみられ、総統選での同党の敗北につながったと分析する。

 記事は最後に、今のところ、北京は様子を見ているだけかもしれないが、それさえも台湾には心配なシグナルを送っていると述べ、中国がこうしたフィクションを主張すれば、台湾と衝突する道を進むことになると指摘する。
上述のようにフィナンシャル・タイムズも、総統選で大敗した国民党の内部では、中国に対する政策をいかに有権者に好まれるように見直すか、という議論が熱を帯びていると報じ、同時に中国は台湾の民主主義というDNAを拒否し、習主席が「1国2制度」による台湾統一の推進を改めて主張しているため、中国と台湾は民主主義をめぐって衝突への道をまっしぐらに走っていると評する。

 以上、総統選は、大敗した国民党に対中政策の見直しという大きな問題を提起した一方で、圧勝した民進党と蔡総統にも、民主主義をめぐる中国との対立激化の可能性に加え、米中貿易戦争の拡大による台湾への悪影響や台湾の対米輸出へのトランプ関税発生リスクなど対米関係での課題が指摘されており、今回の選挙は民進、国民の両党に大きな課題を残したといえよう。



韓 国

☆ 防衛分担金の増額を要求する米政府

 昨年11月号で、トランプ米大統領が韓国に交渉団を派遣し、在韓米軍2万8500人の駐留費に対する現在の韓国側年間負担金9億2300万ドルを50億ドルに増額するよう求めたが、韓国側代表団が国内できわめて不評なこの要求に否定的姿勢を示すと米代表団は突然、退席したとお伝えした。

 この問題に関連してマイケル・ポンペオ米国務長官とマーク・エスパー米国防長官が連名で、1月19日付ウォール・ストリート・ジャーナルに「韓国は同盟国、扶養家族ではない」と題する記事を寄稿したので概要を紹介する。

 記事は先ず、米政府が防衛分担金の増額を求める背景について、米国と韓国は現在、極めて大きく複雑な戦略的課題に直面しており、両国とも現状維持の状態を続けることはできなくなっているとし、新たな防衛費分担金特別協定(SMA)をめぐる両国の協議は、こうした文脈に沿って進められていると指摘、長期にわたる米国のコミットメントとプレゼンスにより、韓国は活気ある民主主義と世界12位の経済を構築することができたと主張する。

 その一方で、韓国の米韓同盟に対する貢献や協力について、韓国は過去数十年間にわたり、米韓同盟に大きく貢献してきたと評価し、戦闘機を近代化し、潜水艦や弾道ミサイルに対する防衛力を高め、文在寅(ムン・ジェイン)政権は19年の国防予算を前年比8.2%増とし、24年まで毎年7.1%増額する意向を示していると述べ、さらに韓国軍は米軍主導の有志連合を支持し、アフガニスタン、イラク、ペルシャ湾といった場所に展開、また軍の近代化へのコミットメントを反映した軍事装備品調達の意向も示していると謝意を表明する。

 そのうえで、米韓両国は強力な対抗策とチームとしての取り組みを必要とする前例のない脅威の時代に直面しており、韓国は世界の経済大国として、また朝鮮半島の平和維持における対等なパートナーとして、自国防衛に一層貢献できる国であり、またそうすべきだと主張、現在、米軍の朝鮮半島駐留に関連する最も直接的な費用のうち、韓国が負担している比率は3分の1にすぎないと述べる。しかも、こうした費用が増えているのに伴い、韓国側の負担比率は下がっており、加えて、これらの狭義のコストは、全体像の一部でしかないと指摘、高度な技術を必要とする今の時代、韓国の防衛に対する米国の貢献は、米国の「兵士駐留」コストを大きく上回っており、見た目以上に米国の納税者にとって大きな負担となっていると論じる。

 そこで記事は米側の本音を展開する。即ち、現行SMAは韓国を防衛するコストの一部しか対象にしていないとし、米政府はもっと多くをカバーすべきと考えていると述べ、負担共有の協定を改善すれば、両国ともに恩恵を受けるだろうと主張、しかも韓国の費用負担分の90%超は、在韓米軍で働く韓国人職員の給与のほか、現地での建設契約、米軍のプレゼンスを維持するために韓国内で購入されるその他のサービスなどの形で韓国経済に還元されていると指摘する。
 記事は最後に、米国は相互利益と公平さをもたらす協定で合意する方針を引き続き堅持し、その合意は、はるか将来に向け、同盟関係と共同防衛力の強化をもたらすだろうと述べ、防衛費用の負担拡大を韓国が引き受ければ、米韓関係は今後も間違いなく、朝鮮半島や北東アジア、そして世界の平和と繁栄の要であり続けるだろうと強調する。

 以上のとおり記事はまず、米国のコミットメントとプレゼンスにより、韓国は活気ある民主主義と世界12位の経済を構築できたと主張、米韓同盟への韓国の貢献や協力を評価する姿勢を示すものの、米軍の朝鮮半島駐留に関連する最も直接的な費用のうち、韓国が負担している比率は3分の1にすぎないと指摘し、しかも、こうした費用が増えている現状、韓国の防衛に対する米国の貢献は、米国の「兵士駐留」コストを大きく上回っているとし、米政府はもっと多くをカバーすべきと考えていると主張する。ここで特に注目されるのは、「兵士駐留」コストを「狭義のコスト」と表現し、全体像の一部でしかないと指摘、韓国の防衛に米国が負担している「高度な技術」に関連する費用の一部を韓国も負担すべきだと主張している点である。つまり、「高度な技術」とは、例えば、韓国や日本が共に保護されている米国の核の傘を指しているとみられることである。

 この問題について1月6日付ブルームバーグ誌が「Trump Tries His Protection Racket on South Korea (韓国に防衛のゆすりを仕掛けるトランプ)」と題する論説記事を掲載している。論文は、こうしたトランプ大統領の交渉姿勢について、2つの理解の仕方があると論じる。第1は、いわゆる圧力戦術である。戦略的にみて現状に満足している無気力な同盟国に活を入れ、共同防衛に向け、例えば、資金や軍事力の向上などで貢献させる戦術である。これはマクマスター元米大統領補佐官(国家安全保障担当)が同盟関係を管理する「タフ・ラブ(“tough love”)」と名付けた理論に基づくと論文は解説する。短期的には摩擦が生じるが、共同防衛力における長期的な改善に対する代償としては小さいと述べ、同盟を緊張させる目的は、それによって危機到来時に同盟の機能を向上させることにあると付言する。

 第2は、トランプの手法を義理にも寛大とはいえない理解の仕方をすれば、同盟関係の「防衛ゆすり」論とも呼べるかもしれないと述べる。米国の狙いは共同防衛力の増大よりも被防衛国から資金を搾り取り、一方的な経済的利益の獲得を目指すことにあるとする。この場合、同盟の長期的な活力や団結という目標は、グローバルな軍事力の結果として米政府が徴収する収入よりも重要度で劣るのだと指摘する。

 こう論じた論文は、トランプ政権のアドバイザーたちは押しなべて第1の同盟管理論を好み、推進しようとしてきたと述べ、とはいえ、トランプ自身は同盟関係を金融取引以外の何物でもないとみていると述べ、そう受け止めるのは、通常は信じがたいことだが、数十年前の声明文で、彼は米国の同盟諸国の対外脅威への対処能力よりも、同盟諸国との費用と支払額のバランスの方に焦点を当てていたと述べ、従ってトランプの韓国の扱いについても、それ以外に理解するのは難しいと断定する。また韓国に対して幾ばくかの負担額の引き上げを求めるのは妥当だとしても、トランプ政権が繰り返す馬鹿げた要求は、いかなる韓国の政権も政治的に受け入れが不可能なことだと強調する。

 論文は最後に、トランプは同盟国と十二分に過ぎる戦いをしてきたと述べ、特に韓国の名を挙げ、そうした戦いをした理由が概ね狭い、比較的取るに足らない金銭的な利益を求めてのことだったと批判、それは「タフ・ラブ」ではなく、戦略的な自虐行為だと強調する。

 以上のようにメディアは、トランプ政権は韓国に対して単に在韓米軍の駐留費だけの負担を求めているのではなく、広く核の傘を含む朝鮮半島全体の防衛費に関連する費用の負担を要求していると分析し、そうしたトランプ大統領の交渉姿勢は、防衛を理由とした、一種のゆすり、たかり行為であり、同盟関係を金銭的な利益を求める取引として捉える、戦略的には自虐的な行為だと厳しく批判している。しかしトランプ政権の主要閣僚は、メデイアに寄稿してまでも、こうしたトランプ大統領の意向を代弁し、主張している。韓国の次は日欧がターゲットとなるのは不可避と思われ、日本としても対応を考えておく必要があろう。



北 朝 鮮

☆ 米朝交渉の現状について

 米国と北朝鮮の非核化交渉が停滞するなか、北朝鮮は先月、対米外交に精通する李容浩(リ・ヨンホ)外相に代え、軍出身の李善権(リ・ソングォン)氏を後任として任命した。同氏は対韓国窓口機関、祖国平和統一委員会委員長も務めていた。1月24日付ロイター通信は、北朝鮮の朝鮮中央通信が24日、外務省が前日に大使館や国際機関の外交団を招いて開催した旧暦の新年の宴会で、李新外相が演説したと報じ、外相交代を確認したと述べ、ソウル外交筋は、北朝鮮が先週、外交関係のある国々に対し、李容浩氏に代わって軍出身の李善権氏が外相に就任したと通知したことを明らかにしていたと報じる。

 1月22日付ニューヨーク・タイムズは冒頭で、停滞する米朝関係について、米政権内の関係者が内々に、米朝交渉には進展がなく、北朝鮮が核兵器を放棄する兆しは全くないと語っていると報じるとともに、北朝鮮の新外相に軍出身で対外強硬派として知られる李善権氏が任命されたことは、北朝鮮の政権内部で紛争が続くことを意味していると論評する。

 その一方で記事は、米国務省高官は新外相が交渉で強硬姿勢を示しても、トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩委員長は共に交渉の進展を願っていることに鑑み、米朝対話は再開し、非核化交渉は続くだろうと語ったと報じる。また交渉は昨年、何度も挫折したが、米政権幹部はトランプ大統領の意向に沿って公式には交渉を継続する意向を表明していると述べ、ただし非公式には何人かの政権関係者は交渉の目途はたっておらず、核兵器放棄の兆しはみられないと認めているとコメントする。

 次いで記事は、北朝鮮内部の情勢に触れ、米朝交渉でポンペオ米国務長官の相方を務めていた金英哲(キム・ヨンチョル、朝鮮労働党中央委員会副委員長)氏がハノイでの第2回米朝サミット失敗の責任を取って解任され、李容浩前外相も昨年9月の国連総会に欠席していた事実と共に、新外相の李善権氏は軍の大佐として数年前に李英哲氏を補佐していたと報じ、さらに人民武力省(国防省)の金正官(キム・チョングヴァン)次官が同省の大臣に昇格した人事にも言及、こうした北朝鮮高官の頻繁な人事異動については分析がむずかしいと米CIAや国務省のアナリストはコメントしていると伝える。

 以上のように記事は米朝交渉の今後について、新外相に軍出身の強硬派が登用されとしても、米朝交渉は再開継続するとの米国務省筋の比較的楽観的な見方を伝えている。しかし外交経験に乏しい軍出身者を外相に起用するのはきわめて異例とみられており、金委員長の対米関係に関する厳しい姿勢を示す人事といえよう。記事は、新外相の就任によって政権内部の混乱が続くと報じているが、むしろ政権内では対米強硬派が勝利したとみる方が自然であろう。加えて記事は触れていないが、中国で発生した新型肺炎の蔓延防止のために北朝鮮は中朝国境を閉鎖し、両国間の交易も途絶していると報じられている。これが事実とすれば、北朝鮮経済に重大な影響が出てくるとみられ、これが今後の米朝関係に及ぼす影響にも注目する必要があろう。



東南アジアほか


マレーシア

☆ 中銀、予想外の利下げ

 マレーシア中央銀行は1月22日、予想外の利下げを発表したと同日付ブルームバーグが伝える。記事によれば、同中銀は翌日物の政策金利を従来の3%から0.25ポイント引き下げて2.75%とし、利下げの理由については、世界的な不確実性のなかで国内経済を支えるためだと説明した。利下げは、ブルームバーグがエコノミスト26人を対象に実施した調査では2人しか予想していなかった。中銀は、政策金利の調整は「物価安定の中で成長軌道の改善を確保するための予防的措置」だと電子メールで配布した声明でコメントしている。

 同日付ロイター通信によれば、中銀は民間支出や外需の改善、投資全般の回復を背景に景気が緩やかに持ち直すと予想、投資全般は、現在進行中のプロジェクトや新規のプロジェクトに支えられ、緩やかに回復していると述べる一方、声明で「経済成長に対する下振れリスクは残っている」と表明、「(下振れリスクには)様々な貿易交渉を巡る不透明感、地政学リスク、主要貿易相手国の予想を下回る成長、金融市場のボラティリティーの高まりのほか、商品関連セクターの低迷やプロジェクトの遅れといった国内要因も含まれる」との見解を示している。

 23日付フィナンシャル・タイムズは、「Emerging market rate cuts prompt rethink on outlook (新興国市場での利下げ、見通しの再考を促す)」と題する記事で、マレーシア中銀と共に南アフリカ中銀も同率の利下げを実施したことに触れ、こうした予想外の利下げは、政策当局が低迷する経済成長のテコ入れを狙って新興国市場全般で金融緩和の推進に動くとの観測を生み出したとコメントし、インフレが下振れするなか、金融緩和のプロセスは持続し、先進国市場と同じように2020年全般にわたって同様の流れが続くと専門家は予想していると伝える。

 記事は、中銀ニュース・ウエブサイトによれば、昨年は途上国の中銀58行が利下げをしたと報じ、今年については、経済成長が落ち着き、米連邦準備制度理事会(FRB)の緩和サイクルが終わりに近づいていることから、新興国市場での利下げは減速すると広く予測されていると述べる。ただし1月に入りアルゼンチン、トルコなど新興国中銀6行が利下げをしたと伝え、キャピタル・エコノミクスの新興国市場担当主任エコノミストは、さらに新興国市場の中銀数行による利下げが予想されるが、一般論としては、こうした利下げを支えた要因の幾つかは消滅しつつあると語り、そうした要因のひとつであったFRBの緩和サイクルは終わったが、多くの新興国でインフレが勢いを増していると述べ、中国における豚フィーバーと石油価格の上昇を挙げていると報じる。

 ただし記事は、新興国や途上国市場では依然として金融緩和政策の余地が多く残されているとの見方がエコノミストの間にあると伝える。オックスフォード・エコノミクスのエコノミストは、多くの新興国市場には生産とインフレ面での構造的弱体要因が存在し、低成長とマクロ経済上の変動性の低下が新興国と途上国の双方の特徴となっていると指摘していると報じる。

 以上のように新興国や途上国市場の中銀が、物価が比較的安定するなか、経済成長を確保するために利下げに動いている。背景として、世界的な不確実性の高まりによる経済の下振れリスクなどが挙げられている。利下げ要因のひとつであったFRBの緩和サイクルは終わり、また多くの新興国でインフレが勢いを増しているとの指摘もあるが、方向としては利下げの流れは変わっていないとみられる。なおフィリピン中央銀行も2月6日、政策金利の翌日物リバースレポレートを従来から0.25%引き下げて3.75%とした。これも上述のような見方を裏付ける動きといえよう。



インド

☆ スタグフレーションのリスクに直面する経済

 1月23日付エコノミスト誌は、インド経済が単なる景気低迷(スタグネーション)からインフレを併発するスタグフレーションに落ち込む危険に直面していると警告を発する。記事は冒頭で、市場における野菜類の値上がりを伝え、消費者物価が昨年12月に年率で7.3%増と14年7月以来の上昇率となったと伝え、こうしたインフレが他業界、例えば茶、医薬品、鉄道、航空、自動車、携帯などにも及んでいると報じる。

 そのうえで、こうした悲惨なインフレ状況が景気減速と戦う政府の努力を複雑にすると述べ、第3四半期の国内総生産が前年同期比でわずか4.5%増にとどまり、しかもその数字は政府が急遽、財政支出を増やさなければ3.1%に低下していたと付け加える。また2月1日に発表された予算では別の散財が予想されているが、そうした措置による需要の増加は、インド準備銀行(中央銀行)が早速、利上げなどのそれを打ち消す対応に動く可能性があると述べ、準備銀行としては、スタグフレーションの醜いシナリオを避けるためにスタグネーションを長引かせる道を選択するかもしれないと指摘する。

 ただし記事は今後のインフレ予想について、スタグフレーションは通常、インドの季節外れの雨などの供給の後退から始まり、こうした不運な出来事は、国内総生産の低下(すなわち、「スタグ」の部分)と物価上昇(「フレーション」部分)の両方を生み出すが、物価は供給不足を反映するところまで上昇すれば、原則としてそこで止まると指摘、一部のエコノミストは、インフレ率は早ければ2月に低下し始めると予想していると述べ、結局のところ、食料と燃料価格を除くコアインフレ率は4%を下回ったままになるとみていると伝える。

 次いで記事は、問題はインフレが消滅する前に、一般大衆がインフレの定着を信じ始め、それによりインフレが持続する可能性が高くなることだと問題提起する。インフレ目標を採用しているほとんどでの先進国は、総合インフレ率は通常、需要の強さをより反映するコアインフレ率に収斂するが、インドでは実情はその反対だと述べ、コアインフレが通常、人々のポケットの中身をより正確に反映する総合インフレ率へと収斂すると指摘する。

 さらに準備銀行が2015年に採択したインフレ目標の枠組みは、この傾向に対処するためとされていたと伝える。すなわち、準備銀行のインフレ目標である4%はムンバイその他の全国の市場で建つ価格よりも、将来のインフレに対する指標として優れていることを人々に納得させるのを意図していたと述べ、ただし同枠組みを導入した元総裁のラグラム・ラジャンは最近の講演で、この枠組みは「まだ完全に試されていない」と語り、それが現在進行中の厳しいテストに合格することを願っていると述べたと伝える。

 以上のように記事は、経済成長が減速するなか、インフレが進行していると指摘、準備銀行はインフレ押さえ込みのためのインフレ目標の枠組みを考案し対応しているが、その成果は見通せず、経済はスタグネーションからスタグフレーションに落ち込む危険に直面していると警告する。なおインド経済の今年3月に終わる19年度の成長率見通しについて、2月3日付ウォール・ストリート・ジャーナルは「Modi Misses Again (またもや機会を逸したモディ首相)」と題する社説で、昨年第3四半期の成長率は4.5%にとどまり、政府は19年度通年の成長率を5%と見積もっていると報じ、これは過去10年間で最低で、かつ開発途上国としては異例に低い成長率だと述べ、加えて公式の経済データが政治的に操作され、信頼度が低下してと指摘、過大評価している可能性もあると伝える。また政府は来年度予算で地方公共事業や教育、健康医療、国防などの分野で新たな支出プロジェクトを発表したが、土地や労働市場の改革、国有銀行の民有化などの成長戦略に欠けており、マーケットの失望を買ったと批判している。

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主要紙の社説・論説から

「日本の今(ジャパン・ナウ)」その2―日本化に対処する日本

 2月6日付フィナンシャル・タイムズはグローバル経済欄で「How Japan has coped with Japanification(日本は、どのように日本化に対処しているか)」と題する記事を掲載し、日本が日本化に耐えている状況を分析しているので、概略を紹介する。

 エコノミストは、日本化という言葉を、積極的な金融緩和にもかかわらず経済が超低迷する状態の略語として用いる。これは90年代初めからの日本に若干似ている。しかしブレンダン氏は、色あせた経済成長とインフレにもかかわらず、日本は高い生活水準を維持して住むに心地よい国であり、それは世界で最も長寿の国のひとつであることに表れていると指摘する。では、このことは世界のマクロエコノミストが日本化を心配すべきでないことを意味するだろうか。答え、ノーだ。金融当局の心配事は、次に不況が訪れたときに武器弾薬に不足する状態となることである。低成長のてこ入れには、米政府は日本政府よりはるかに対処が難しい状況におかれる可能性がある。米国では、最富裕層にある人々の状況が早々と改善するなか、所得配分における中間層の所得が、拡大する不平等のために低迷していくという問題を抱えているからだ。日本にはそうした問題がない。

 それでは、ここで日本だけが何故、積極金融緩和策へ拒絶反応を示す経済に対応できたのだろうか、を考えてみよう。これについては金融ジャーナリスト、ロバート・プリングルの近著「パワー・オブ・マネー(The Power of Money)」から若干の教訓が得られる。70年代から定期的に訪日している著者は日本での体験に関する章を設けており、そこから日本が日本化をしのぐのに役立ったと思われる3つの事柄が見て取れる。

 第1に、日本には古参企業が極めて多いことだ。日本の社会には長寿という特質がある。通常、高齢化は経済では問題視されるが、景気の波に翻弄されているビジネスからみると、それがプラスとなる場合もある。同書によれば、200年以上続く企業5500社のうち、3000社以上が日本企業なのである。プリングルはこうした活力の理由として、日本企業が短期の収益重視ではなく、「サービスに対する無私の献身、金銭的動機の嫌悪、謙虚さ、完成と無限の忍耐の絶えざる飽くなき追求」を重視していることにあると指摘する。

 第2に、日本人の非物質論的思考を挙げる。プリングルは、米国流金銭観について次のように書いている。彼は、ジャズ時代、というマネーが欲望を満たすと共に不安の源泉となった時代から説き起こし、米国人はお金を、彼らの理想と生活態度を実現する手段として考え、それが新しい経済モデルだけでなく、新しいタイプの個人を創出したと説明している。それは力強い女性中心の買物客の出現である。また米国人は、マネーは想像力豊かに使えば、資本主義を燃え上がらせることを示して見せた。しかしジャズ時代は、商業、マーケティング、金融における楽観論と創造性に対して、新消費者社会と金銭中心主義の、人間の魂と社会福祉に与える影響に対する懐疑と不安が影を落とした時代であった。こうした意味でも、近代の典型となる時代でもあったのだ。

 他方、日本では、「成功を金銭の尺度で余り計ろうとしない」。その一つの結果が、「お金は自分が保有し、それで何かをしようとできる自立した存在ではなくなる」のである。そこには内的葛藤や社会的紛争は少なくなる。
第3に、日本では自然保護主義(conservationism)的見方が成熟していることだ。物質的富みを重視しないことから、日本文化は浪費節減に向かっていく。ところが米国人にとって浪費は美徳であり、無駄遣いを礼賛し、日常品はなんであれ頻繁に取り替える。米国人が個人主義や民主主義を奨励するのは、そのためである。しかし日本人は個人を集団に従属させ、競争を阻止する。狙いは社会の安定である。

 それでは、何故、危機が起きたのか。プリングルは、危機前の好景気を西側文化が日本の伝統を汚染した「ビールス」とみている。日本化はこうした伝統を弱め、その結果、文明歴史家のクリストファー・ハーディングは、日本は「我々全ての過去と将来において横たわっている類いの闘争の説得力あるケーススタディ」だと定義付けている。その状況は悲惨で、低失業率の中にあって隠れたホームレスが存在し、危機に際してよくみられるように、負担は若者たちに重くのしかかっている。それについてはフィナンシャル・タイムズの元東京特派員、デービット・ピリングが非正規労働者の増加に関する報道で見事に伝えている。すなわち、1990年代では非正規と分類された労働者は20%弱だったが、現在は35%以上が、パートタイム、非永続的雇用者、契約社員、「派遣」社員など、人材斡旋会社へ返送可能な包装品のような存在なのである。

 こうした現象は先進諸国ではよくみられることだが、日本の単一民族で平等な社会というイメージを傷つけた。また労働者の非正規化は、富の格差を拡大させた。パートタイムの多くの1時間当たり賃金は10ドルに過ぎず、年金や医療のベネフィットはほとんどない。社会が不平等、不公正になったと余りにも多くの日本人が感じている。とはいえ、全体としては社会の道徳観が依然として防波堤となっている。極右への傾斜はこれまでのところ、その根拠がみられない、とプリングルは書いている。1991年からおよそ30年経った今も、中道が維持されていると。

 以上のように記事は、主としてロバート・プリングルの近著「パワー・オブ・マネー」の内容を参考にしながら、それを紹介する形で、バブル崩壊後の日本経済の歩みを日本化への対処の過程として分析して伝える。日本がバブルの好景気を経て崩壊した要因として、西側文化による日本の伝統の汚染を挙げ、それでも日本が日本化と称される長期にわたる超低迷経済下で、なお高度な生活水準を維持し、心地よい生活環境を享受できている理由を、長寿企業の存在、非物質的考え方、節約精神の3つの観点から分析している。ただし労働力の非正規化によって若者たちが犠牲になり、悲惨な生活を余儀なくされていると厳しい批判の目も向けている。その一方で、日本社会の中道精神が極右への偏向の防波堤になっていると論評する。全体として、日本経済を精神論的側面から論じ過ぎている感が否めないが、労働力の非正規化は世界的潮流であるとしても、日本としても早急に何らかの対応策をとるべき問題であることは間違いない。

 なお「パワー・オブ・マネー」は、マネーに対する考え方や取り組みが如何に1900年以降の近代世界の形成に関わってきたかを論じた書物で、日本に関する箇所は、「What Can We Learn from Japanese Culture?」と題する章で約9頁を割いている。筆者のプリングル,ロバートは、雑誌Central Bankingの創始者で会長、また金融評論家、経済記事編集者、そして企業家であり、国際金融および資本市場の動向や国際通貨問題の報道、分析に専門的に取り組んできたと評されている。

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(主要トピックス)

2020年
1月17日 中国国家統計局、2019年の実質国内総生産(GDP)が前年比6.1%増と
                 発表。2年連続で減速し29年ぶりの低水準。
   18日 中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席、ミャンマーを訪問、首都で
                 アウン・サン・スー・チー国家顧問と会談。広域経済圏構想「一帯一路」
                の一部となる「中国・ミャンマー経済回廊」に関する共同声明を発表。
   21日 日本政府、安全保障上の懸念がある地域などを対象に外国人や外国企業
                 による国内での土地取得を制限する検討を開始。
   22日 中国の国家衛生健康委員会、新型肺炎による死者数が計9人、患者数は
                 440人となったと発表。
      マレーシア中銀、政策金利を3%から2.75%へ0.25ポイント引き下げ。
   23日 米財務省、対米外国投資委員会(CFIUS)の届け出を免除する
               「ホワイト国」リストを公表、日本は同リストから外れる。
   25日 中国政府、国内の旅行会社に対し内外の団体旅行の全面的中止を指示。
   27日 中国政府、春節(旧正月)連休の延長を決定。
                上海市、蘇州市は企業に休業の延長を通告。
   29日 日本政府、武漢に在住する邦人の帰国のためにチャーター機第1便を
      派遣。
   30日 オフショア人民元、今年に入り始めて1ドル=7元を下回る。
   31日 世界保健機関(WHO)、新型肺炎について「緊急事態」に該当すると
                 宣言。
      安倍首相、新型コロナウイルスによる肺炎について感染症法で定める
                指定感染症の政令施行を2月7日から1日に前倒しすると表明。
2月2日   中国人民銀行(中央銀行)、公開市場操作(オペ)で金融市場に1兆2千億元
                (約18兆7千億円)を供給すると発表。新型肺炎の拡大による金融市場や
                 経済への悪影響の緩和が狙い。
   5日 タイ中央銀行、政策金利を0.25%引き下げ。
   6日 中国政府、対米輸入品750億ドル相当の関税を14日からの引き下げを
    発表。米中第1段階合意に沿った措置。
    フィリピン中央銀行、金融政策会合で政策金利の翌日物リバース・
              レポレートを0.25%引き下げて3.75%とする。
 10日 中国人民銀行、新型コロナウイルス対策の特別再貸付資金の初回分を
    供給。
 13日 トランプ米政権、北朝鮮取引の隠匿や米企業秘密の窃取を理由として
    中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)を追起訴。
 14日 第1段階の米中貿易合意が発効。
 15日 新型コロナウイルス、中国本土の感染者数6万6000人超、死者は1500人 
              余りへ。湖北省の感染者、全土の約8割、死者数9割以上。
    ドイツ訪問中の茂木敏充外相、中国の王毅外相と会談。
               中国政府の新型肺炎の対応に全力で協力すると表明。


主要資料は以下の通りで、原則、電子版を使用しています。(カッコ内は邦文名)THE WALL STREET JOURNAL(ウォール・ストリート・ジャーナル)、THE FINANCIAL TIMES(フィナンシャル・タイムズ)、THE NEWYORK TIMES(ニューヨーク・タイムズ)、THE LOS ANGELES TIMES (ロサンゼルス・タイムズ)、THE WASHINGTON POST(ワシントン・ポスト)、GUARDIAN (ガーディアン)、BLOOMBERG・BUSINESSWEEK (ブルームバーグ・ビジネスウィーク)、TIME (タイム)、THE ECONOMIST (エコノミスト)、REUTER (ロイター通信)など。なお、韓国聯合ニュースや中国人民日報の日本語版なども参考資料として参照し、各国統計数値など一部資料は本邦紙も利用。

 
前田 高昭
金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。
訳書に『チャイナCEO』他。
『東アジアニュースレター』も配信中。
 

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