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東アジア・ニュースレター ― 海外メディアからみた東アジアと日本 ― 第109回

2020/01/22

東アジア・ニュースレター
――海外メディアからみた東アジアと日本――
第109回







前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト
           バベル翻訳大学院プロフェッサー 
 
 
 中国経済が2020年に直面する課題について主要メディアは、米中貿易戦争人口動態と並び、金融、債務、ディグローバリゼーションなどの問題を挙げる。特に過剰債務がもたらす金融システムへの悪影響について懸念を示し、20年には米中貿易戦争に伴う貿易リスクは後退し、代わって債務リスクが高まり、特にミンスキー・モーメントという信用危機の発生に危惧を表明、金融システムの維持が課題となると警告する。

 台湾総統選挙が実施され、現職の蔡英文氏が対立候補の国民党の韓国瑜(ハン・グオユー)高雄市長に大差をつけて勝利、同時に行われた立法院(国会)選挙でも与党の民主進歩党が過半数を維持して勝利した。勝因として、香港騒乱と中国政府の対応が台湾市民の反発と警戒心を呼び起こし、中国が約束する「1国2制度」への信頼感が失われたことが指摘されている。

 韓国国会は、政治家や政府高官らの不正を捜査する「高位公職者犯罪捜査処(高捜処)」設置法案を可決した。これは文在寅(ムン・ジェイン)大統領が最初に掲げた公約で、公訴権を独占している検察をけん制する狙いがある。ただし最大野党の自由韓国党は、新機関自体にも反政府勢力の取り締まりに悪用される懸念があるとして反対していた。

 北朝鮮に対するトランプ米政権の政策はここ数か月間、膠着状態に陥っており、トランプ大統領の賭けは失敗に終わったとの見方が強まっているとメディアが報じる。大統領選を意識して交渉を推進した結果、金委員長を優位に立たせたとメディアは指摘、さらに北朝鮮側は弾劾手続きや大統領再選という厳しい政治的責任に直面しているトランプ氏はもはや交渉の相手として相応しくないと見做すに至ったと伝える。

 インド非イスラム系移民にのみ国籍を付与する国籍法改正案が可決され、これに反対する大規模抗議デモが各地で発生、モディ政権の政治基盤を揺るがしている。またモディ政権の行き着く先は、立憲民主主義に取って代わるヒンズー・ナショナリズム支配体制であるとして、メディアは民主主義と非宗教主義の国家としてのインドの基盤が崩壊すると警告を発している。

主要紙社説・論説欄では、日本の現状と日本が抱える2020年の課題に関するメディアの論調を取り上げた。

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北東アジア


中 国

☆ 2020年の中国経済について
 2020年の中国経済について12月30日付ウォール・ストリート・ジャーナルは、主として株式投資家を対象とした「ハード・オン・ザ・ストリート」コラムで、中国では貿易リスクは後退し、債務リスクが高まり、金融システムの維持が課題となると指摘する。記事は、まず中国の業界動向について、自動車や電子機器など中国経済の主要分野は19年末の時点で既に好転しており、自動車業界は11月の自動車生産が昨年6月以来、初めて前年同期比でプラスとなり、スマートフォンや半導体の世界販売も再び増加し、中国の電子機器メーカーの利益もここ数カ月、大きく回復していると述べる。さらに中国は今月、貿易問題で米国と合意。電子機器メーカーの業績改善のおかげで既に始まっていた労働市場の回復が確実になると予想する。

 しかし不動産業界は住宅市場と共に利益の伸びが急激に鈍っており、それが鉄鋼など建設に依存する業種に集中する国有メーカーを圧迫しているとし、不動産業界と国有セクターはインフラ業界と並び、中国で債務負担が最も大きいセクターだと指摘、10月までの1年間の国有製造業者の総資産利益率(ROA)は16年以降で最も低い3.7%にとどまり、6%近い銀行の平均貸出金利を大きく下回っていると懸念を表明する。記事はまた、多額の債務を抱えた不動産開発業者は影の銀行(シャドーバンキング)の取り締まりで資金が調達できなくなり、完成前の住宅を販売するプリセールへの依存度を高めていると述べ、不動産市場が冷え込めば、そうした資金源が干上がり始める恐れがあると警告する。

 そのうえで記事は、2020年の最大のリスクは、米国との貿易戦争をなんとか引き分けに持ち込んだ政府が「任務完了」を宣言して、弱体化した国有企業や地方政府、不動産開発業者が妥当な金利で債務の借り換えができるようにするための積極的な行動を怠ることだとし、過去の金融緩和サイクルと比べて、銀行の平均貸出金利はわずかに下がっただけで、与信の伸びは再び勢いを失い始めていると指摘する。この他にも記事は、大手銀行からの借り入れに頼る多くの小規模銀行の資本不足や高い借り入れコストに苦しむ小規模民間企業の問題を挙げ、19年が貿易一色の1年だったとすれば、20年は今にも崩れそうな中国の金融システムを維持する1年になろうと予言する。
 
 こうした中国の金融システムを懸念する論調をさらに推し進め、中国経済の現状を分析しているのが、12月29日付フィナンシャル・タイムズの「China’s impending Minsky moment (信用危機の時が迫る中国)」と題する論説記事である。筆者はシティバンクの元会長のウィリアム・R・ローデス(William R Rhodes)氏である。記事は、借金まみれの経済成長は経済に危険な不均衡を生み出したと述べ、中国政府は問題がさらに深刻になる前に即刻、行動を起こすべきだと檄を飛ばす。中国人民銀行の周小川総裁(当時)は2年前、第19期共産党大会での記者会見で、あまりも数多くの景気循環を後押しする要因と過度の楽観論が矛盾を蓄積させ、信用危機の発生により中央銀行が銀行の救済に迫られる、いわゆるミンスキー・モーメント(Minsky Moment)につながる危険が起きていると警告を発したと述べ、概略次のように論じる。

 ミンスキー・モーメントが中国経済を直撃するリスクは依然としてある。米国の経済学者、ハイマン・ミンスキー氏が、行き過ぎた金融が危機につながると警告したリスクである。現在、中国の国内総生産(GDP)に対する債務比率は300%を超え、引き続き危険なまでに上昇軌道を描いている。中国当局はそうした状況とリスクを認識しているが、必要な対策を十分に取らないままでいる。当局は増大する国内債務を抑制すると、経済成長を押さえ込んでしまうと危惧しているのだ。しかし、対応の遅れが今後の行動をいっそう困難かつ高価なものにするのを理解していない。
 
 しかも2つの恐ろしい要因によって問題の解決がいっそう複雑になっている。第1は米中貿易戦争である。米ホワイトハウスは「第1段階」の合意に達したと宣言しているものの、中国当局は米中貿易関係の見通しを予想できないでいる。この第1段階の合意とは、最も深刻な問題を回避しつつ、双方が勝利宣言できるような取引に思える。最も複雑で重要な問題とは、知的財産権、第1段階の合意の執行、中国国有企業への補助金の抑制である。これらの諸問題に関して今後の交渉で生産的な結論が得られないと、トランプ米大統領は再び新たな関税を幅広い品目に課すかもしれない。

 第2は、抗議活動が続く香港情勢は間違いなく中国経済に影響を与えることである。香港から中国本土に向かう投資の流れが減速するとみられ、さらに重大な懸念として、香港所在の外国金融機関の長期的戦略に与える影響がある。貿易戦争と香港情勢は既に中国経済にある程度影響を及ぼしており、成長率は6%以下に落ち込んでいる。

 こう論じた記事は、金融問題に戻り、高水準の債務は市や州などの地方政府による多額の借り入れに起因し、それが住宅、インフラへの過剰投資を生み出していると述べ、国有企業も巨額の借り入れを続けており、雇用と国内総生産を持続不可能な形で増大させていると指摘する。記事はさらに中国当局は「影の銀行」部門や大手商業銀行における債務不履行融資の増加という問題にも適切に対応していないとし、迅速に動かないと投資信頼感の喪失につながりかねず、習主席は20年か21年にまさにミンスキー・モーメントに遭遇するかもしれないと警告する。

 記事は最後に、ボルカー元FRB議長の例を挙げて、経済の長期にわたる持続的安定のためには経済成長の急減速が必要な時があると述べ、習主席も中国経済の長期にわたる繁栄のためには健全な金融部門が不可欠であり、地方政府や国有企業による不健全な借り入れ意欲を抑制する必要があることを認め、今はそうした知恵と勇気を示すべき時だと強調する。

 こうした2020年の中国経済について、主として金融や債務の問題から強い危機感を示す見方に対して、もっと楽観的な論調もある。1月6日付フィナンシャル・タイムズの「China will outperform expectations in 2020 (予想を上回る成果が期待される2020年の中国)」と題する論説記事である。筆者は、スタンダード・チャータード銀行のグローバル・チーフ・エコノミスト、デービッド・マン氏である。記事は、中国経済には長期的な課題が存在するが、短期のリスク・バランスについては前向きにとらえていると述べ、概略次のように論じる。

 中国は構造的な成長減速に直面しているが、2020年の中国経済の結果について我々は市場予想よりも楽観的だ。スタンダード・チャータード銀行としては、6.1%の成長率を展望し、年央にかけては依然として力強いトレンドである5.5%へと減速するとみている。

 楽観的にみる主因は3つある。デレバレッジから再レバレッジへのシフトに伴う影響のタイムラグ、財政刺激策の強化による景気浮揚、米中貿易戦争に関する話題の改善期待である。こうした支援要因に、企業の在庫サイクルの底打ち感、国内生産者価格のインフレ、グローバルなエレクトロニクス・サイクルなどがさらに加わるかもしれない。

 また、19年における前回のデレバレッジの巻き戻しと当局の成長支援姿勢への回帰が20年には実を結びそうだ。中国のマネーサプライ指標のひとつである「社会融資総量」(“total social financing”)と経済成長との間には緊密な相関関係がある。我は19年においては、米中貿易戦争よりも18年のデレバレッジの方が経済成長の足を引っ張ったとみている。

 20年の財政政策は緩和のままで推移するだろう。財政赤字はGDPの6.5%と見積もっている。これは19年と同様である。違いは、19年に焦点が当てられた減税よりも20年には公共投資に力点が置かれることだろう。19年の減税は、米中貿易戦争による信頼感喪失によって効果は限定的となった。20年には直接的な支出を通じて財政政策が経済により大きな影響を与えるだろう。

 貿易戦争は米中の長期的関係を毀損させたが、20年には一服するかもしれない。第1に、トランプ氏には大統領選を見据えて貿易関係を進展させる誘因がある。第2に、中国にも10年から20年までに倍増させるというGDP目標がある。しかし我々は、中国が直面する長期的課題にもしっかりと目を向けている。それは債務、人口動態、そしてディ(脱)グローバリゼーションだ。

 債務問題では、中国の非金融部門債務の対GDP比率は過去10年間で115%に急増し、成長が減速するなか、その返済について懸念が深まっている。急激な成長減速は債務不履行に拍車をかける恐れがあるために、当局が経済成長に神経を尖らせている理由ともなっている。債務不履行は18年と19年に増加し、これを経済弱体化の兆しと見る筋もあるが、我々は、それは過去のモラルハザードを逆転させる前向きな効果があったと信じている。過去において貸し手は借入人の信用状態にさほど注意を払わなかったからだ。

 人口動態については、過去の配当金が成長の足かせへと変貌する事態に至っている。これは台湾、香港、韓国など北東アジアでみられる現象だ。対策としては、移民増や定年延長、あるいは投資の増加と生産性の向上などが考えられる。また中国の場合、毎年800万人に上る大卒者が、こうした人口動態上の足かせを解消する役割を担うだろう。

 以上のように論じ記事は、強い中国経済はドイツやインドネシアなど世界各国にとって輸出需要増を意味し、これは19年には若干欠けていたことだが、グローバル経済にとって最重要問題だと述べ、中国は現在、世界輸出の増加の3分の1以上を占める最も重要なけん引車であり、その役割は見通す限りの将来にわたって続くだろうと強調する。そしてマイナスのショックがなければ、20年には貿易戦争をめぐる心理は改善するだろうと主張する。ただし、今後も続くディグローバリゼーション、債務、人口動態の問題は、21年以降に心配すべきことだと最後に指摘する。

 以上、記事は20年の中国経済が抱える諸問題として、債務問題の他に米中貿易戦争の帰趨、ディグローバリゼーション、そして人口動態を挙げ、20年に限ってはいるが、いずれも楽観的な見方で締めくくっている。特にデレバレッジの成長への負の影響に懸念を示す一方で、財政政策の効果に期待していることに注目したい。20年の中国経済の抱える諸問題は、上記の一連の論説記事がほぼ列挙しているとおりであり、20年には米中貿易戦争に伴う貿易リスクは後退し、代わって債務リスクが高まり、金融システムの維持が課題となると言えるが、債務問題と関連して国有企業改革の行方や金融資本市場の自由化、さらには人民元の国際化といった問題も注視する必要があると思われる。



台 湾

☆ 総統選で蔡英文・現総統が圧勝
 1月11日に実施された総統選挙で現職の蔡英文氏が地滑り的勝利を収めた。蔡氏の得票率は57%に達し、対立候補の国民党の韓国瑜(ハン・グオユー)高雄市長に20ポイント近い大差をつけた。得票数は817万票と96年に始まった総統直接選挙で最多となった。与党の民主進歩党は、同時に行われた立法院(国会)選挙でも過半数を維持した。
 ウォール・ストリート・ジャーナルは、選挙に先立つ1月9日付社説「Taiwan’s Hong Kong Election (日本版記事:【社説】香港デモが後押しする台湾の総統選)」で、選挙の意義について、概略次のとおり論じていた。

 米国と中国共産党の地政学的争いの行方は、その一定部分が南アジアと東アジアの諸国・地域の対応にかかっている。香港の自由を抑圧しようとする中国の行動は、中国の地域覇権がどのような姿になるのかを予見させるものだ。台湾の総統選挙では特にこれが大きな争点になっている。11日の投票で、台湾の事実上の独立が多くの市民の支持によって再確認されれば、近隣地域での中国に対する嫌悪感の証明となり、米国のインド太平洋戦略への後押しとなる。
 
 次いで社説は、台湾選挙と関連する米国の立場について次のように論じる。
 米議会が超党派で台湾を支持するのは、台湾を自由な社会に基づく国だとみているからだ。中国の指導者たちは、中華民族による民主主義が花開く様子を見せつけられることを容認できない。アジアにおける米国の国家安全保障戦略は、台湾が強く、独立した存在であることにかかっている。台湾は繁栄するハイテク産業の拠点であり、中国の支配の下で存在することを米国は望まない。そして台湾は太平洋西部地域で戦略上の重要な地点に位置している。

 台湾の選挙で民進党が勝利を収めることは、太平洋諸国・地域の独立に関する米国の主張の正当性を証明し、中国の帝国主義的野心に対抗するため、民主主義の側に立つ米国と台湾が関係を強化する機会を提供することになる。その手始めは自由貿易協定(FTA)に関する交渉だろう。

 さらに12日付フィナンシャル・タイムズは「Taiwan election result is a challenge for China (総統選、中国に挑戦する結果へ)」と題する社説で、台湾総統選で有権者は、台湾の主権と民主主義の擁護を選挙公約の中心に据えて中国政府を怒らせた現総統の蔡英文氏を再選させ、中国に対して回答したと述べ、事実上の独立の立場にある台湾を統一しようと努めている中国の習近平国家主席にとって、まさしく歓迎せざる新年の贈り物になったと指摘する。

 社説は蔡総統が勝利した理由について、1年前は問題を抱えていた蔡総統に、香港での民衆の蜂起が強力な説得力のある選挙テーマを与えたと述べ、中国が当初、台湾統一のモデルとした香港との関係、すなわち「1国2制度」の原則が明確に失敗し、香港は台湾にとってモデルどころか恐ろしい警告となったという主張が可能になったからだと指摘する。そのうえで社説は、台湾での選挙は平和的な大集会で終わり、こうした台湾における平和的な民主主義と香港における街頭での騒乱や中国本土政府による弾圧とのコントラストは強烈だと述べ、これが蔡英文総統の勝利につながったと強調する。

 また社説は、中国政府はこの機会に今回の失敗の責任が自らにあることを反省すべきであり、中国政府の圧力戦術が台湾の反発を招いたのは明らかだと主張する。中国は長らく台湾が正式に独立に動けば軍事力の行使を辞さないと述べ、近年、強大な軍事力を背景にして脅しを強化し、脅威が現実味を増していたが、それは台湾を屈服させるどころか、中国の関与を跳ね返す台湾の決意を強めさせたと指摘する。

 中国政府は歴史的に台湾を服従させようとしてきたが、今なお方針を変えようとしないと批判、そのため台湾政府と世界の民主主義国家は対策を考えざるを得なくなっているとし、蔡総統は、独立派とみられているが、実際は、台湾が繁栄し民主主義国家として主権が守られている限り、正式な独立に動いて中国を徒に刺激する必要はないと考える現状維持派であり、世界は、どのように台湾を支援するかを考えるべきだと主張、中国に対して台湾侵攻による事態の解決を試みれば、世界の孤児になることを明確に伝える(underlining)べきだと提言する。これは脅迫ではなく、事実として西側はもはや中国と交易できなくなるということだと付言する。

 さらに社説は、世界は中国による台湾の孤立island’s isolationを防止するよう努めるべきだと主張する。そうした軍事、道義的moral負担が現在、米国に偏っているが、勇気づけられる動きも出ていると述べ、チェコの首都、プラハが最近、中国の圧力に抗して北京とではなく台北と姉妹都市となったtwinning itself with例を紹介する。社説は最後に、中国が専制主義を強めるなか、台湾はこの種の道義的支えに値する存在だと訴え、台湾の繁栄は全世界の民主主義の大義にとって重要だと主張する。

 他方、ウォール・ストリート・ジャーナルも選挙後の1月13日付で再度、社説「Two Portents of Freedom (日本版記事:【社説】台湾とイランに見る「自由」の兆し)」を発表、冒頭で台湾の総統選とイランでの反政府抗議デモの発生を、独裁支配に明確に反対する動きとして取り上げ、台湾について次のように論じる。

 台湾の有権者は11日、現職の蔡英文総統に圧倒的勝利をもたらし、中国共産党の支配者をはっきりと非難した。蔡氏は台湾の自治と民主的な自己決定への支持を強調することで過去最多の820万票を獲得、得票率は57%に達した。

 蔡氏率いる民主進歩党は2018年の地方選で大敗したが、昨年、香港で起きた民主化デモに台湾市民が共感し、蔡氏は評価を取り戻した。中国は香港に約束した「1国2制度」を尊重せず、台湾と中国本土の統一に向けて中国が差し出した同様の保証が偽りであることを証明した。

 トランプ米政権は、台湾と緊密な関係を求めることで選挙結果を生かすことができる。米国が台湾との自由貿易協定締結に取り組めば、台湾は中国からの一定の経済的独立を得られる。トランプ大統領が蔡氏に電話をかけて再選を祝ったり、米国政府関係者による台湾への渡航拡大を認めたりして象徴的な形で台湾を支持することも可能だろう。

 以上、今回の総統選に関する論調をウォール・ストリート・ジャーナルとフィナンシャル・タイムズの社説から観察した。いずれも蔡総統の圧勝の主たる要因として、香港での騒乱に対する中国政府の対応が台湾市民の反発と警戒心を呼び起こしたことを挙げ、中国政府が香港に約束した「1国2制度」を踏みにじったことで、台湾に差し出した同様の保証が偽りであることが証明されたなどと指摘する。また台湾選挙の意義についても、アジアにおける米国の国家安全保障戦略は、台湾が強く、独立した存在であることにかかっているとし、民進党の勝利は民主主義の側に立つ米国と台湾が関係を強化する機会を提供すると主張する。さらに台湾の繁栄は全世界の民主主義の大義にとって重要であり、台湾の孤立を防止すべきだと訴え、中国に対して、台湾侵攻による事態の解決を試みれば、世界の孤児になることを明確に伝えるべきだと提言する。こうした指摘や提言は貴重であり、特に台湾民主主義の支援は当然、隣国の日本に真っ先に期待される役割であり、真剣に受け止めていく必要があろう。



韓 国

☆ 政治家・政府高官の不正捜査機関設置法案を制定
 国会は本会議12月30日、政治家や政府高官らの不正を捜査する「高位公職者犯罪捜査処(高捜処)」設置法案を最大野党「自由韓国党」を除く与野党の賛成多数で可決した。高捜処の設置は文在寅(ムン・ジェイン)大統領が最初に掲げた公約で、公訴権を独占している検察をけん制できる実質的な「制度的装置」が設けられたという点で、その象徴性と意義が大きいと評価されていると同日付聯合ニュースが伝える。
 
 設置法案によると、高捜処の捜査対象は大統領、国会議員、大法院長(最高裁長官)および大法官(最高裁判事)、憲法裁判所長および憲法裁判官、首相と首相秘書室の政務職公務員、中央選挙管理委員会の政務職公務員、判事、検事、高位の警察官などで、警察官、検事、判事については、高捜処が直接起訴し、公判を維持できるとされている。

 同日付フィナンシャル・タイムズは、汚職取締機関の設置は、検察制度に対する国民の不信感が高まるなか、その改革は文在寅大統領が掲げた最大の選挙公約だったと論評し、概略次のように報じる。

 高位高官を捜査する法案は野党が抵抗するなかで成立した。検察制度は保守前政権によって反対派を標的とする政治手段として利用され、政治腐敗の中核を占めていたとの批判にさらされていた。最近の調査によると、検察の国家権力を抑制しようとする同法案を国民の約3分の2が支持している。しかし、最大野党の自由韓国党は最近の数日間、投票を議事進行妨害で阻止しようとしている。月曜日には新組織は権限を悪用する懸念があると主張し、投票をボイコットした。これに対し与党は、今度は捜査と検察権限の均衡を見直す別法案について票決することを計画している。
 
 上記のような曲折を経て、法案は最終的に可決されるが、記事は、新法案は4月の重要な議会選挙の数ヶ月前に承認されたが、任期の中間にある文大統領は、低迷する経済の再生や北朝鮮との交渉停滞など幾つかの課題に直面していると指摘、同大統領の支持率は昨年秋、2017年の就任以来の最低にまで落ち込んだが、最近の週では経済が回復の兆しを見せ始めたことから、支持率も復調していると報じる。経済については、11月の工業生産が前月より0.4%上昇したと述べ、洪財務相は、これは「前向きな」兆候で、経済は底を打ったかもしれないと語ったと伝える。

 以上のように文大統領は、最大の選挙公約とされる汚職取締機関の設置に漕ぎ着けた。成立までに紆余曲折があったのは上記報道のとおりだが、設置法案を推進すると目されていた大統領の再側近で前法務大臣だった曹国氏が、身辺の汚職疑惑で就任まもなく退任に追い込まれたのが、記事は触れていないが、最大の曲折だったと言えよう。新機関は現在の政治権力と癒着した検察の権力抑制が目的とされているが、最大野党の自由韓国党が反対理由として挙げたように、新機関そのものにも反政府勢力の取り締まりに悪用される懸念がつきまとう。その意味で、新機関設置に賛成する国民は文政権とは同床異夢になる可能性がある。



北 朝 鮮

☆ 失敗に終わったトランプ米大統領の賭け
 トランプ米大統領が推進してきた北朝鮮関与政策はここ数か月間、動きが止まり膠着状態に陥っている。そうしたなか、トランプ大統領の賭けは失敗に終わったとの見方が米メディアの中で強まっている。1月3日付ワシントン・ポストは、トランプ大統領は米国の30年間にわたる対北朝鮮戦略を覆したが、ギャンブルは報われなかったと述べ、概略次のように論じる。

 トランプ大統領の金正恩委員長と直接関与するとの決断は、米国が30年間にわたって核計画を封じ込められなかったという北朝鮮政策の失敗を踏まえて、外交交渉を下位レベルではなく独裁政権の指導者から始めることで覆せるという賭けを前提としていた。しかし最初の首脳会談の19ヵ月後、交渉は過去の努力と同様に行き詰まって崩壊した。
 
 こうした膠着状態に失望した金政権は、両首脳がすぐにも4度目の会談が開けるというトランプ提案を公然と拒否している。また金委員長は今週、まもなく「新しい戦略兵器」(アナリストは長距離弾道ミサイルとみている)を発表すると新たに警告している。国務省の元アジア政策担当官であるエヴァンス・リビアは、第1回の米朝首脳会談は事実上何も生み出していないと述べ、我々は現在、北朝鮮政権の最高指導部が核の道を可及的速やかに進むと決意していることを再確認しており、首脳会談後も結局、事態は何も変わっていないことを示していると指摘する。こうした状況のなか、米国内でトランプ大統領に対して戦略の失敗を認め、方針を変更するように圧力が高まっている。

 上記のように報じた記事は、さらにトランプ大統領にとって、朝鮮半島の緊張の高まりは、大統領が選挙の年に外交政策の勝利として北朝鮮戦略を推進しようとしてきたため、金が主導権を強めたことを示していると述べ、その一方で、19年後半における一連の短距離弾道ミサイル試験と新年の長い演説を通じて、若い独裁者、金は18年に経済への戦略的シフトを発表したにもかかわらず、国防力優先を明らかに継続していると指摘する。こうした情勢を踏まえて、元安全保障担当の大統領補佐官、ジョン・ボルトンと共和、民主両党の上院議員らは先週、トランプの政策に誤りがあり、新経済制裁や金委員長との新たな暫定合意の追求などの追加的対策を講じるよう要請したと報じる。

 こうした方針変更を迫る圧力に対してトランプ氏はこれまでのところ、自分の進路を変えることを拒否し、金氏との個人的な関係は前向きであり、北朝鮮の指導者にその信頼に違反しないように訴えていると伝える。さらに記事は、アナリストは金委員長が核および弾道ミサイルの実験について2年間のモラトリアムを維持したとしても、弾劾手続きや大統領再選という厳しい政治的責任に悩まされているトランプ大統領と交渉することの意味が、北朝鮮からみて減少しているようにみえると語っていると伝える。これについてカーネギー国際平和基金の外交政策専門家は、現時点でトランプ大統領との関与は北朝鮮にとって時間の無駄と見做される理由が沢山ある、と指摘していると報じる。

 以上のように報じた記事は、多くの米議員と外交政策アナリストは、北朝鮮は核計画の開発を続けているが、米政権は韓国との共同軍事演習を休止し、国際的な経済制裁の体制も弱まるなど、米国にとって状況は2年前よりも悪化していると語っていると伝え、北朝鮮問題に関する元米国情報当局者でブルッキングス研究所のアナリストのチョン・パク氏は、結果を見ると、北朝鮮指導部がトランプ氏と関与していても、核開発計画からの政策転換を真剣に考えていないのは確かだと語っている。同氏は、米国と北朝鮮は、戦略目標において根本的に対立しており、大量の書簡や電話が取り交わされ、首脳会談が開かれても、その事実は確固として揺るがないと指摘していると報じる。

 以上のようにトランプ大統領が始めた首脳レベルでの対北朝鮮関与政策は、結局、失敗に終わったと記事は多極的に分析して報じている。また大統領選を意識して交渉を急いだトランプ戦略が金委員長を優位に立たせ、交渉での主導権を強化させる結果を招いたとも指摘し、さらに北朝鮮にとって弾劾手続きや大統領再選という厳しい政治的責任に直面しているトランプ氏はもはや交渉の相手として相応しくないとみられるに至ったと伝えている。しかしトランプ大統領自身は、今のところ政策の失敗を認めて、別の対策を打ち出そうとしていない。しかし北朝鮮が核やミサイル開発を独自に進めるなか、事態は放置できない状況にあるのは間違いない。トランプ政権として、何らかの新たな対策を打ち出さざるを得ない局面にある。



東南アジアほか


タイ

☆  バーツ高で変貌するタイ企業

 12月29日付フィナンシャル・タイムズによれば、今年のタイ経済は、通貨バーツが対ドルで7%も上昇したために輸出と観光業界が打撃を受け、成長が2014年以来の低水準に減速した。このためタイ企業は国内では経費削減に努める一方、バーツ高と国内経済の不振のために海外投資に積極的となっている。アナリストは、これは長期的な流れで、今後加速すると予想している。

 例えば、大手財閥グループの小売部門、セントラル・グループは、ドイツで最も知名度の高い百貨店、カウフハウス・デス・ヴェステンス(カーデーヴェー)などに外貨資産を保有しているが、強いバーツが一因となって引き続き海外進出を目指していると同社関係者は語っている。11月にはさらに3つの海外投資案件を発表した。投資先は大阪、ウイーン、トリノで投資総額は200億バーツ(6億6200万ドル)である。

 また今月、バンコク銀行は同行として最大の海外買収案件を公表した。案件の総額は810億バーツで、インドネシアのPT Bank Permataをスタンダード・チャータード銀行と地方財閥のアストラ・インターナショナルから買い取る計画である。バンコク銀行経営者は、この取引は成長率が5%と活況を呈するインドネシア経済に触発されたと語っている。因みに、今年のタイ経済は昨年と同レベルの2.5%以下に落ち込んでいる。

 またタイで外食チェーンやホテルを運営する米系企業、マイナー・インターナショナル(Minor International略称MINT)は2018年、最大の海外投資案件を実施した。スペインのNHオテレス・グループを25億ポンドで買収したのである。このためMINTのホテルネットワークの規模は3倍に拡大した。同社幹部は、バーツ高がタイの輸出と観光分野を直撃し、タイは他市場と比べて競争力を失ったと語る。

 強いバーツは、1997年の通貨暴落で知られている国にとって予想外の出来事である。97年の通貨危機は急成長していたタイ経済を破壊し、アジアにおける広範な危機の火付け役となった。現在はその正反対のことが起きている。しかしタイの短中期的な経済見通しは暗い。成長は東南アジアで最も遅く、人口は急速に高齢化し、地域の「病人」とみられている。ただし経済のファンダメンタルズ、特に経常収支が黒字であることで、投資家はタイを安全な国とみなしている。多額の経常収支黒字によりタイの外貨準備は2000億ドルを超える記録的な水準に膨らんでおり、投資家はタイの国債を避難資産として購入している。しかし投機家は現在、バーツを押し上げることで経済の減速に貢献しており、そもそもタイにおける資金滞留をもたらしたファンダメンタルズを危険にさらすことにもなっている。

 上記のように報じた記事は、東南アジアにはタイより多額の経常黒字を抱えている国もあるが、タイの投資家は自国への投資に偏重しているため、例えばシンガポールのように公的基金を通じて、経常黒字を海外資産へ「リサイクル」する動きがほとんどみられないとの専門家の見解を紹介する。

 同時に記事はバーツ高に対するタイ政策当局の動きについて、中央銀行は政策金利を2回にわたり合計50ベーシス・ポイント引き下げ、最近では11月に1.25%という記録的な低水準にまで下げたと伝える。その他にも、輸出者による輸出収益のドル保有額の増加や、タイ人による海外投資の容易化などの措置も実施されている。

 とはいえタイは、米国から通貨操作国のレッテルを貼られることを恐れて、外国為替市場に積極的に介入することに消極的だった。クレジット・スイスは最近の調査報告書で、タイは「悪循環」に陥っていると指摘している。即ち、強いバーツが経済を弱め、そのために輸入が減少して経常収支の黒字が拡大、それがまたバーツ高を引き起こす、という悪循環である。そして同行は、「残念ながら、強いバーツは必ずしも市場にとって良いとは限らない」と結論づけた。

 さらにバーツ高が進めば、タイ企業の海外市場への進出を触発する可能性がある。中央銀行のデータはタイ企業の海外進出は緩やかな上昇傾向を示しており、アウトバウンドの対外直接投資は18年には970億ドル近くに達し、今年の第3四半期には740億ドルに達している。アナリストは、企業を海外に押し出す要因は通貨高だけではないが、企業の最高経営責任者(CEO)のマインドを海外に集中させる重要な要因かもしれないと述べる。 バンコクのタマサート・ビジネス・スクールの国際ビジネスのパビダ・パナノン准教授は、「バーツの強さは投資を加速させるかもしれないが、通貨だけでは決定要因とはならず、むしろ誘導要因だ」と語った。

 以上、記事は通貨高がタイ企業のビジネス戦略に大きな転換をもたらしている状況を詳細に報じる。同時に当局が対応に手間取って経済の弱体化を招き、それがまたバーツ高を助長するという悪循環も伝える。米国政府の動きが懸念されるかもしれないが、ここはタイ当局が積極的に市場介入すべき時であろう。またタイ企業による積極的な海外M&Aも、十分な調査と戦略的検討を経て行うべきことも言を俟たないだろう。



インド

☆ モディ政権に最大の試練、国籍法改正で抗議デモ拡大

 モディ政権が押し進めるヒンズー教至上主義の政策を巡り、国内全土に抗議デモが拡大していると12月19日付ウォールウォール・ストリート・ジャーナルが伝える。記事は、モディ首相は5月の総選挙で圧勝し2期目をスタートして以降、政策を強引に進め、勝利から数カ月以内にイスラム法が認める離婚の慣習を禁止し、国内で唯一イスラム教徒が多数派を占めるジャム・カシミール州の自治権を剥奪したと報じる。

 記事によれば、こうした措置は野党側からの反発を招いていたが、先週、非イスラム教徒の移民にのみ国籍を付与する改正案が議会で可決されるまで、大規模な抗議デモは行われていなかった。在米ワシントンのシンクタンク、「ウィルソン・センター」のアジア・プログラム副ディレクターは、「こうした抗議活動はモディ首相にとって最大の政治的試練になるかもしれない」と述べ、「モディ氏は依然として非常に人気があるリーダーだが、長いハネムーン期間はほとんど終わった」と語っている。

 こうした記事の危惧は的中する。12月25日付ワシントン・ポストは、インドの首都デリーでの抗議デモと、アッサム州の州都グワーハーティーでは全アッサム学生同盟(the All Assam Students’ Union)が主催する抗議デモに、それぞれ数千人が参加したと報じ、さらに2週間前に改正案が成立してから全国で23人が殺害されたと伝える。この他にも、多数の群衆が参加するデモがウッタールプラデシュやカルタナカの各州で行われたと報じる。

 記事によれば、モディ首相は、国籍法改正はインド国内の避難民向けの人道目的のためだと語り、法案を擁護している。改正案は、バングラデシュやパキスタン、アフガニスタンなどからインドに違法に入国してきたヒンズー、キリストなどの宗教上の少数派が迫害を受けたことを証明できれば、インド国籍を受けられるように改正したものだが、問題は、イスラム教徒が除外されていることにある。学生運動の指導者の一人は、インドの非宗教憲法が脅威にさらされているとニューデリーで語っている記事は伝える。

 こうした抗議デモに関連して12月17日付英ガーディアンは「The Guardian view on Modi’s citizenship law: dangerous for all (全ての人々に危険、モディの国籍法)」と題する社説で、同法案は他国の迫害を逃れてインドに来た人々を支援する目的とされるが、国内の地域社会の分断を深めていると批判する。

 社説は冒頭で、この数日間、全土で起きている抗議デモに対して警察は残酷に対処していると批判、また抗議はモディ首相に対する最大の反対を示すもので、それにはもっともな理由があると述べ、法案はモディ氏のヒンズー国家主義者的プロジェクトであり、インドの多元性や非宗教主義という国家基盤そのものへの脅威となると非難する。それは平和と団結と兄弟愛を説くモディ首相の言とは全く異なると述べ、イスラム教徒は「真の」インド人ではないことを発信し、彼らに与えられた憲法上の保護を無視していると厳しく批判する。

 さらに社説は、モディ首相の政治家としての異常なまでの成功は、その身に染みこんだイデオロギー的本能と徹底した日和見主義を反映しているもので、昨年5月に会議派を打ち負かして5年の任期を獲得、今や前途に障害はほとんどなくなった指摘する。そのうえで、その前途の行き着く先は疑いなく、インドの立憲民主主義に取って代わるヒンズー・ナショナリズムが支配する体制であり、改正案はそうした方向への大きな第一歩だと警告する専門家の意見を紹介する。

 以上のように社説は、昨年5月の選挙で圧勝したモディ首相が、国内の不法イスラム教徒の排除を狙った法改正によって大規模抗議デモを引き起こし、その盤石とみられていた政治基盤が揺らぎ始めたと報じる。同時にモディ首相の行き着く先は、立憲民主主義に取って代わるヒンズー・ナショナリズムが支配する体制であるとして、民主主義と非宗教主義の国家としてのインドの基盤が崩壊すると危機感をあらわにしている。モディ政権は、日本が唱える開かれたインド太平洋構想で中核を占める国の親日政権であり、日本としてもインド政局の行方を十分注視する必要がある。

                   § § § § § § § § § § 

主要紙の社説・論説から

2020年の日本について

 2019年も押し詰まった12月11日、ウォール・ストリート・ジャーナルは同紙日本版創刊10周年にあたり2010年8月17日付の記事を再掲載すると述べて、「Japan as Number Three (日本版記事:【社説】ジャパン・アズ・ナンバースリー)」
と題する社説を改めて紹介した。2010年は、日本が国内総生産(GDP)で中国に追い抜かれて世界第3位に後退した年である。社説は概略次のように論じる。

 中国は企業家精神に富んだ国になったが、日本はそれと反対方向に動き経済規模で中国に追い抜かれ、平均所得が米国で最も貧しいミシシッピ州よりも少ない、世界第3位の経済の国家に凋落した。しかも日本では、人口の高齢化が進んでいる。日本のスタグネーションは世界の悲劇でもあり、日本の政治家は持続的な成長を目指す経済政策に回帰すべきだ。他方、中国経済が躍進するなか、米国は経済規模で中国を凌駕している。日本と同じ政策の過ちを犯し、日本の運命をたどることを米国は避けねばならない。

 それでは今の日本についてメディアは、どうみているのであろうか。以下に、直近の報道や論調をいくつか観察する。先ず上記社説が懸念した高齢化問題に関する論調からみていく。2019年12月27日付のフィナンシャル・タイムズ記事は、日本が久しい以前から恐れられていた人口動態の危険な一線をいよいよ越えようとしていると警告する。「Ageing Japan set to cross critical demographic line (高齢化する日本、人口動態の危険な一線に接近)」と題する記事は、日本はまもなく一分間に一人の割合で住民人口が減少すると予想される状況に陥ると報じる。過去数十年間にわたる出生と死亡の割合からみて避けられないことだったが、こうした流れを止めようとする安倍政権の努力にもかかわらず、予想より早く時期が到来したと指摘する。

 さらに既に人口の4分の1以上が65才の日本は世界最速で高齢化する国家であり、こうした人口動態が経済全般に看取されていると述べ、11月の雇用数字によれば、失業率は2.2%と10月より0.25%・ポイント低下したと報じ、これは日本の労働力減少と慢性的に逼迫する労働市場を反映していると指摘する。次いで人口減の実情について次のように伝える。

 厚生労働省の最新見通しによれば、2019年10月までの数字から予想すると19年通年の出生数は86万4000人と前年実績より5万4000人減少し、90万人を割り込むのは統計を取り始めた1899年以来初めてとなる。厚労省の新しい見積もりによれば、19年の死亡数は戦後初となる138万人に達する。こうした出生数と死亡数の差によって、日本の住民人口は初めて年間50万人を超えて減少し始めた。こうした人口減によって雇用政策の見直しに迫られている日本企業が増えている。求職者100に対して求人数は157に達しており、就業者数は83ヶ月間連続で増大している。

 こう述べた記事は、日本全体の就業者数は約6762万人で、厚労省幹部はメディアに対して、雇用状況は「着実に改善している」と語っているが、小売とレストラン業界が最も打撃を受け、24時間サービスを提供していたコンビニや石油スタンドなどは営業時間を縮小していると報じる。また今月初めに東京で開かれた2019国際ロボット展で出展者は、日本の中小メーカーはオートメーションが労働力減少を補填する「生き残りの問題」だと述べ、展覧会に対してこれまでにない関心を示したと語ったと伝える。

 他方、日本政府はこうした労働力減少を解決する柱の1つとして、外国人労働者の誘致を試みている。その関連で12月12日付エコノミスト誌は、外国人子弟の教育問題で苦戦する日本社会の有様を報じている。「Muddled masses Japanese schools are struggling with foreign pupils (混乱を巻き起こす移民たち、外国人生徒と苦闘する日本の学校)」と題する記事は、冒頭で豊橋市にある中学校が設けている「未来」と呼ばれる教育プロジェクトを紹介する。これは来日した外国人子弟を地元の中学校に編入するに先立ち、10週間かけて集中的に日本語教育を施すために同市が2018年に導入したプロジェクトである。

 記事は、日本には現在、学齢期の外国人子弟が12万4000人登録されており、これは全体の1%にすぎないものの、14年から30%も増加していると報じる。19年4月、労働者不足に直面している業界にブルーカラー労働者を誘い込むことを目的として新ビザ(特定技能)制度が施行され、子弟同伴の外国人労働者の増加が見込まれていると述べ、製造業の多い豊橋市でも工場で働くブラジル人やフィリピン人労働者が増加し、地元の学校に通う彼らの子弟も5年前の1352人から1976人へ増加したと伝える。

 次いで、日本全体で日本語の補修教育を必要とする外国人の数が増加していると述べ、政府調査によれば、その数は16年より16%増の5万1000人に達し、学校側が苦戦している以下のように伝える。教師が不足し、このためボランティアが全体の半数以上を占めている。しかし高齢者が多く、長く働けない。また外国人子弟が必要な日本語教育を受けられるかどうかは、住む場所によって左右されている。豊橋市の場合は、90年代初めから相当規模のブラジル人社会が誕生し、市の職員が書類の書き方や学校制度などについてガイダンスを施すなど支援している。また同市は「未来」プロジェクトに加え、小学校でも外国人生徒が4分の1を占めているため、通訳や200時間の日本語速習講座を用意している。だが外国人労働者の少ない地域では、自分で全てをしなければならない場合が多い。地方自治体のほぼ4割は入学手続案内を行っていない。案内する場合でも日本語で行っているのが実情である。

 日本語の支援を受けない生徒は日々を無駄に過ごし、自信を失って中途退学する結果となる。外国人子弟の5分の1近くは全く通学できないでいる。日本の法律では、外国人居住者の子弟は公立学校に無料で通学できるが、日本人子弟と違って通学の義務がない。日本政府の取り組みは、地方任せで後れていた。しかし今年6月、日本語教育に関する中央と地方政府の責任を規定する法律、日本語教育推進法が成立し、企業も外国人従業員と家族に対する日本語教育が義務付けられた。

 上記のように報じた記事は最期に、日本は外国人を社会の貴重な一員としてではなく、労働力の1つとしてしかみていないとの識者意見を紹介すると共に、安倍首相は、新ビザ計画によって来日する外国人労働者が増えるが、彼らは永住する移民ではないと繰り返し主張していると批判する。

 その一方で、メディアは日本の明るい面にも目を向ける。12月22日付フィナンシャル・タイムズは、「Japan posts record number of M&A deals as restructuring booms (日本企業、リストラブームのなか、M&A取引記録を更新)」と題する記事で、日本企業が活発にリストラ(restructuring)を推進していると伝え、日本企業の積極的リストラ策によって国内での買収・合併(M&A)取引額が12年ぶりに記録を更新し、その勢いは来年も続く予想だと概略次のように伝える。

 調査会社グループ、レコフによれば、日本企業は今年これまでに2840件以上の取引を既に実行し、18年の2814件を上回った。投資額も60兆円以上というリーマンショック発生前の07年以来の金額に達している。こうした国内M&Aを動かす企業群には、巨額の子会社ポートフォリオを再構築するコングロマリットと、後継者危機を解決するためにM&Aを使用する高齢の創業者を持つ企業の2つのグループがある。具体的には、例えば日立による日立化成の昭和電工への売却と画像診断事業の富士フイルムへの売却、またオムロンによる車載電装事業の日本電産への1000億円での売却例がある。これによりオムロンは、ヘルスケアおよびファクトリーオートメーション事業に注力し、日立については、コーポレートガバナンスの問題を解決するために上場子会社を売却する長期的な取り組みの一環で、08年に22あった上場子会社が最新の取引の後、3つのみとなった。

 さらにメディアは、台頭する中国や核開発を続ける北朝鮮などに囲まれた日本の国防問題にも目を向ける。12月20日付ニューヨーク・タイムズ記事「Japan Cabinet Approves Record Defense Budget for Coming Year (日本の内閣、史上最高となる来年の国防予算案を承認)」は、安倍政権は米国のステルス・ジェット戦闘機の購入と国産戦闘機開発費を含む記録的な来年の国防予算案を承認したと伝える。予算額は前年比1.1%増の5兆3100億円(486億ドル)となり、国防費は安倍首相が就任した13年以来、一貫して増大、政府が中国や北朝鮮からの脅威に対して国防姿勢を強めるなか、7年間で13%増加したと報じる。

 ストックホルム国際平和研究所によれば、日本は現在、国防費で世界トップ10に入っており、安倍首相は自衛隊の国際的役割の拡大と軍事力の強化を進め、米国との協調と兵器の互換性向上に努めてきたと述べ、15年には自衛隊が同盟国の防衛にも活用できるよう憲法を解釈し直したと指摘する。

 最後に2020年の日本に対するメディアの提言をひとつ観察してみよう。12月30日付のフィナンシャル・タイムズは「Japan must look beyond the 2020 Olympics (日本は2020年のオリンピック後を見据えなければならない)」と題する社説で日本の政局や経済の問題を取り上げ、安倍首相は五輪後に重大な決定を下さなければならないと概略次のように論じる。

 1964年の東京オリンピックで日本は数十年にわたる復興努力の頂点に達し、日本の誇り高い復活として国際的な脚光を浴びた。訪日客は高速の新幹線に乗り、世界は衛星放送を通じて競技を観戦した。この8年間、日本は復活のプロジェクトを再び安倍首相の下で開始し、90年代と2000年代に経済が弱体化し、方向感覚を失った遺産を振り切ろうとしている。復活のプロジェクトは2020年東京オリンピックで頂点に達するが、この第2のオリンピックは第1回と同様に誇りと再生をもたらす一方で、進むべき道は前回ほど明確ではない。

 安倍首相の下で、日本は上向いている。経済は近年、景気対策によって格段に改善した。外交では安倍首相は活発に動き、日本の指導者として存在感を発揮し、トランプ米大統領との友好関係を構築、韓国とは紛争が続いているが、中国との関係は改善した。貿易協定を結び、企業統治やエネルギー市場、農業、労働慣行などについて画期的とはいえないまでも重要な改善をみた。問題はオリンピック後に何が起きるか、政治と経済について何時、将来に関する重要な決定を下さなければならないか、である。懸念すべきは、高齢化と少子化が加速するなか、高揚する日本の勢いが失われていくことである。

 政治的には、安倍首相は来年の秋に決断のデッドラインを迎える。自民党の指導者としての任期は2021年秋に、参議院議員の任期もほぼ同時期に終わる。安倍氏が首相の座を降りる気であれば、新指導者に有権者と対峙するための一年間の時間的猶予を与えるために、オリンピック直後の来年秋に退陣するのが自然だろう。他方、安倍氏が再選を意図するのであれば、党則変更を推し進めるために、総選挙によって新たな信任を得る必要がある。また政権を継続させるために、新た政策を示す必要もある。経済的には安倍首相は過去の縮小的な政策に戻らないことを明確にしなければならない。日本銀行は2%のインフレ目標を掲げているが、更なる緩和政策は害あって益なしと判断したために、目標達成のロートマップがなくなった。

 上記のように論じた社説は、答えはインフレ目標を断念するのではなく、財政政策をもっと活用して成長を促進することにあり、安倍氏は最近の景気対策によって、そうした歓迎すべき方向に踏み出したと述べ、日本は東京オリンピックで意欲的な金メダル獲得数を打ち出しているが、長い年月の経済的沈滞を経て、2020年には野心を持って世界を迎え入れる日本の姿を目にしたいとしめくくる。

 以上、日本の現状に関する主要メディアの報道と論調を幾つか観察した。メディアはまず、10年前に経済規模で世界のナンバースリーとなった日本に言及、スタグネーションに陥り相対的に凋落した日本は世界の悲劇でもあるとして、持続的成長政策に回帰するよう強く促す。次いで現在の日本は人口動態の危険水域に入ったと警告、高齢化を反映して労働市場は逼迫し、失業率も低下、企業は雇用政策の見直しや生き残りのためにオートメーション導入に迫られていると指摘する。日本政府は解決策の1つとして、外国人労働者の誘致を試み、このため外国人子弟の教育が大きな問題となり、日本語教育が追い付いていないと述べ、その一方で政府は永住する移民の受け入れは考えていないと言明していると批判する。

 他方、日本の明るい面にも目を向け、日本企業が活発にリストラを進めたために、国内でのM&A取引額が12年ぶりに記録を更新したと伝える。日本の国防問題に目を向け、安倍内閣は米戦闘機の購入と国産戦闘機開発費を含む記録的な来年度国防予算案を承認し、自衛隊の国際的役割拡大にも積極的だと報じる。最期に2020年の日本に対して、第2東京オリンピックは第1回と同様、日本に誇りと再生をもたらすが、その後の進路が不明確だとし、安倍政権下で日本は上向いているが、五輪後の政治と経済が懸念だと指摘、政治的には、安倍首相は来年秋までに去就を決断する必要があると述べ、経済的には、インフレ目標の継続、財政政策による成長促進が肝要だと主張、2020年には長い経済的沈滞を経た日本の野心的なオリンピック挙行に期待を示す。

 それでは冒頭のウォール・ストリート・ジャーナル社説が提起した問題に対して、日本はその後、どう対応してきたのか。経済的には、日本はこの8年間、安倍首相の経済政策、いわゆうアベノミクスの下で再生に努力してきた。これは最期のフィナンシャル・タイムズ社説が指摘しているとおりである。しかしメディアは、この他にも幾つかの課題を提起する。すなわち、少子高齢化への対応、特に外国人労働者の誘致とその子弟の日本語教育問題、移民の受け入れやオートメーション推進の必要性、多額の予算計上に迫られている国防問題などである。さらにオリンピック後には、政治分野で安倍首相の去就と後継問題、経済で成長政策とデフレ問題への対応が依然として必要だと指摘する。こうしたメディアが挙げる問題の他にも、自衛隊の国際的役割拡大という課題と共に、世界の飢餓、貧困、開発途上国に対する支援などの国際貢献も求められるだろう。日本は10年前に世界第3位の経済に後退した。2020年は、五輪開催という輝かしい年であると共に、ジャパン・アズ・ナンバースリーと称される国際社会の中での日本の地位をいかに向上させ、またそれに相応しい役割を果たすか、という挑戦に直面する年になるだろう。以上、新年に当たり日本の今を観察した。今後も折にふれ日本の今を取り上げたい。

              § § § § § § § § § § 

(主要トピックス)

2020年
1月 1日 日米貿易協定、発効。
      4日 中国国務院(政府)、駐香港特別行政区連絡弁公室(中連弁)の王志民主任(62)
         を解任、駱恵寧・前山西省党委員会書記(65)を後任に充てると発表。
   11日 台湾で総統選挙、実施。現職の蔡英文氏が圧勝。
         中国武漢市で原因不明のウイルス性肺炎が発生。
              新型のコロナウイルスが確認されたと当局発表。
    14日   米国政府、中国を為替操作国からの除外を決定。
    15日 米中両国、貿易交渉をめぐる第1段階の合意の正式文書に調印。
    16日 日韓両政府、輸出管理を巡る政策対話を3年半ぶりに開催。
    17日 香港の林鄭月娥行政長官、習近平国家主席と北京で会談。
    18日 韓国国会の文喜相(ムン・ヒサン)議長、元徴用工訴訟の解決をめざす
            「記憶・和解・未来財団法案」など2つの関連法案を提出。
    19日 インド各地で国籍法改正に反対するデモ、発生。
    20日 トランプ米大統領、貿易交渉で達した「第1段階の合意」に関して中国の
              習近平国家主席と電話協議。
              日本の経済産業省、韓国向け輸出管理を一部緩和。半導体材料3品目のうち
              レジスト(感光材)を特定企業間で最長3年間は1件ごとに許可をとる手間が
              省ける特定包括許可の対象とする。   
  23日   中国国務院、冷凍豚肉やオレンジジュースなど859品目の輸入関税を来年
              から引き下げると発表。米中の貿易協議第1段階の合意を受けた措置。
              日中韓首脳会談(中国の成都)安倍首相、中国の習近平国家主席と会談。
    24日   安倍晋三首相と韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領、1年3カ月ぶりに
              正式会談(成都)。協議継続方針で一致。
    25日   安倍首相、李克強首相と会談。
              李首相、サービス業の市場開放を進める試験区設置を表明。
    26日   インド、国籍法改正に抗議するデモが頻発。
    27日    韓国の憲法裁判所、従軍慰安婦問題を巡る15年12月の日韓合意は
               憲法違反と元慰安婦らが提訴した裁判で訴えを却下。
    28日    北朝鮮の朝鮮労働党、中央委員会総会を開催。
               金正恩委員長が国事全般について報告、と朝鮮中央通信が報道。
    30日  北朝鮮、党中央委総会、閉会。


主要資料は以下の通りで、原則、電子版を使用しています。(カッコ内は邦文名)THE WALL STREET JOURNAL(ウォール・ストリート・ジャーナル)、THE FINANCIAL TIMES(フィナンシャル・タイムズ)、THE NEWYORK TIMES(ニューヨーク・タイムズ)、THE LOS ANGELES TIMES (ロサンゼルス・タイムズ)、THE WASHINGTON POST(ワシントン・ポスト)、GUARDIAN (ガーディアン)、BLOOMBERG・BUSINESSWEEK (ブルームバーグ・ビジネスウィーク)、TIME (タイム)、THE ECONOMIST (エコノミスト)、REUTER (ロイター通信)など。なお、韓国聯合ニュースや中国人民日報の日本語版なども参考資料として参照し、各国統計数値など一部資料は本邦紙も利用。

 
前田 高昭
金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。
訳書に『チャイナCEO』他。
『東アジアニュースレター』も配信中。
 

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