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東アジア・ニュースレター ― 海外メディアからみた東アジアと日本 ― 第108回

2019/12/23

連載 東アジア・ニュースレター  
― 海外メディアからみた東アジアと日本 ―


第108回

前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト      
バベル翻訳大学院プロフェッサー

 
 

 
 中国人民銀行は金融緩和政策の推進強化を一段と鮮明にしてきた。本レター9月号で伝えたように同行は既に今年8月、政策金利として新指標金利「ローンプライムレート(最優遇貸出金利、LPR)」の一年物をこれまでの貸出基準金利より低く設定して、実質的に銀行向け貸出金利を引き下げた。このLPR9月も4.25%から4.2%へ、さらに11月に第3弾として4.20%から4.15%と引き下げた。一連の利下げの狙いは景気てこ入れにあり、一部のエコノミストは、中国は明らかに利下げサイクルに入ったと語っているとメデイアは伝える。

 台湾呉外相がメデイアのインタビューで、台湾の外交的孤立はいずれ解消されるとの楽観的な見解を示している。背景として、中国の独断的な外交に国際社会の反発が高まり、中国に対抗する民主主義国家のモデルとして台湾が注目されていることを挙げ、台湾を中国の省と表記し、台湾の国旗をサイトに表示しない企業などに見直しを働きかけて成果を上げたとも伝える。台湾統一が中国の習近平国家主席の下で緊急性を増してきているとの危機感や来年初に迫る総統選へ中国が介入する懸念も表明している。

 韓国は目下、来年の在韓米軍駐留経費の負担問題で米国との厳しい交渉に迫られている。トランプ米政権は韓国側の負担額を現在の5倍に増額することを要求している。メディアは、トランプ大統領の政策は一方的かつ近視眼的であり、特に北東アジアにおける米国の信頼感を損なっていると厳しく批判する。

 北朝鮮による一連のミサイル発射実験芝居気たっぷりの脅しには、国際社会の関心を引きたいという意図が込められているとメディアが指摘する。トランプ米大統領は、非核化交渉に進展があったと主張するが幻想にすぎず、むしろ事態を悪化させたと批判、一連のミサイル実験の背後にある北朝鮮の真意を読み取り、真剣に対処すべきだと米国と国際社会に訴える。

 東南アジア関係では、インドネシア政府シがンガポールやマレーシアを範例としてソブリン・ウエルス・ファンドの創設に乗り出した。ただし、シンガポールのような潤沢な資金やノウハウを持ち合わせていないなどのハンディキャップを負っており、ファンドも100億ドル程度の小規模と想定されてはいるものの未定とされているなど、計画の実現性は未だ見通せていない。ただし現在、経済は好調であり、こうしたファンド立ち上げの好機とみられる。

 インド経済は見た目よりも遙かに悪い可能性があると報じられた。メディアは、公式統計によると、成長は6年ぶりの低水準に減速しているが、実際の景気はもっと悪化している可能性が高いと伝え、背景としてノンバンクが債務不履行に陥り、あるいは政府の圧力による撤退するなどから信用危機に見舞われたことを挙げる。他方、中銀はインフレ懸念を理由として、金利据え置きを決定した。9月までの3ヶ月間のインフレ率は3.5%程度で推移していたが、中銀は食品価格の上昇に懸念を抱いている。今年度の経済成長率については5.0から6.1%とみている。

主要紙社説・論説欄では香港情勢の現況に関する最新のメディアの論調を観察した。

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北東アジア


中 国

 金融緩和を鮮明にする人民銀行
 今年第3四半期の経済成長率が30年ぶりの水準に減速し、経済の低迷が深まるなか、当局は金融緩和政策の強化に動いている。中国人民銀行(中央銀行)1120日、銀行貸し出しの新たな指標金利とされるローンプライムレートを小幅だが再び引き下げた。同日付ロイター通信は、人民銀行が銀行の最優遇貸出金利であるローンプライムレート(LPR)1年物を4.20%から4.15%に引き下げたと報じ、これは市場の予想通りの利下げであり、借り入れコストを押し下げ、需要鈍化や貿易摩擦で打撃を受ける経済を支援するためだと伝える。記事によれば、1年物の引き下げは8月に同指標金利が導入されてから3度目となる。なお5年物も8月の導入以降初めて4.85%から4.80%に引き下げた。5年物LPRは住宅ローン金利の指標とされる。

 また記事は、人民銀行は1118日、7日物リバースレポの金利を2.55%から2.50%に引き下げたほか、2週間前には1年物中期貸出ファシリティー(MLF)金利も5ベーシスポイント(BP)引き下げていると述べ、ファウンダー・セキュリティーズのチーフエコノミストは、1年物LPRの引き下げは今月実施された他の2つの銀行間金利の引き下げに続く措置で、借り入れコストを押し下げて景気を支援する人民銀行の意向を反映しているとの見方を示したと伝える。さらにキャピタル・エコノミクスの中国担当エコノミストは「最近の金融緩和による景気支援効果はそれほど期待できないうえ、経済の逆風も強まっており、人民銀行は今後数カ月で、より積極的な金利引き下げに動くだろう」と指摘していると報じる。

 なお5年物LPRの引き下げについて記事は、OCBC銀行のグレーターチャイナ調査責任者が、中国の全般的な緩和環境を反映していると述べ、「住宅市場に関する政策転換ではない」との見方を示していると報じ、人民銀が公表した第3四半期金融政策報告で、不動産市場の政策に関する文言がやや修正されたことから、同セクターの規制が幾分緩和されるのではとの憶測が浮上していたとコメントする。

 1118日付フィナンシャル・タイムズも上記の7日物リバースレポ金利の2.55%から2.50%への引き下げについて、中国政府が減速する経済への懸念を高めているなか、人民銀行が4年ぶりに短期貸出金利を引き下げ、新たな金融緩和の始まりを告げたと報じる。記事は、エコノミストは政策当局が新たな金融緩和のサイクルに入ったことを示すと述べていると伝え、マッコーリー・グループの拡大中華経済圏の責任者、フー氏は、現在の政策金利の水準如何にかかわらず、中国は明らかに利下げサイクルに入っており、今後も利下げが続くだろう、と語っていると報じる。ただし同氏は、利下げは実質成長の刺激に不可欠な要素である信用需要を喚起する効果を余り発揮しないだろうと警告しており、12年や15年の利下げと同様に信用需要の刺激効果に限界がある、と語っていると補足する。

 次いで記事は、今年に入り信用獲得は相変わらず困難なままで推移し、国内経済は陰鬱な環境が続いてきたと述べ、人民銀行は低迷する信用需要の伸び率とインフレ昂進という2つの脅威に挟まれていると指摘、とりわけインフレ要因として豚インフルエンザが消費者物価を押上げ、共産党の評価を揺るがしたと述べ、さらに次のように報じる。

 10月の暗い経済指標に応えて、政策当局は金融政策のスタンスをタカ派からハト派へと次第に移していった。115日、一年物融資ファシリティー金利を5BP引き下げた。これは2016年ぶりのことである。15日には、2000億元(290億ドル)の一年物融資を銀行システムに注入した。これは18日の利下げと共に、当局の景気支援努力のひとつとみられている。JPモルガン・アセットマネジメントのグローバル・マーケット・ストラテジストは、最近のこうした動きをみると、人民銀行は先週の弱い経済統計を受けて現時点では成長を優先しようとしているようだ、と語るが、ソシエテジェネラルの大中華圏担当エコノミストは、来年の第1四半期までは積極的緩和策は差し控えられそうだ、と語っている。

 
以上のように中国
人民銀行は金融緩和政策の推進強化を一段と鮮明にしてきた。本レター9月号で伝えたように同行は既に今年8月、政策金利の一つであった貸出基準金利を新たな指標金利である「ローンプライムレート(最優遇貸出金利、LPR)」で置き換え、一年物LPRをこれまでの貸出基準金利より低く設定して、実質的に銀行向け貸出金利を引き下げた。このLPRは毎月見直されるとされており、8月に続き9月も4.25%から4.2%に引き下げられていた。10月は据え置かれたので、今回11月のLPR引き下げは第3弾となる。一連の利下げの狙いは、景気てこ入れであるが、今回のLPRの引き下げも小幅にとどまったとしても、フィナンシャル・タイムズが伝えるように、他の市場金利の引き下げと共に、2000億元(290億ドル)の資金を銀行システムに注入している。エコノミストは今後も緩和策が打ち出されるとみており、当面、こうした金融緩和策の効果に注目したい。



台 湾

 
呉外相、中国の外交攻勢について語る
 中国は目下、台湾を国際的に孤立させようと積極的に外交攻勢をかけている。125日付ウォール・ストリート・ジャーナルはこの問題を取り上げ、台湾の呉ショウ燮外交部長(外相)とのインタビュー記事を掲載している。記事によれば、呉外相は、中国政府の独断的な外交に国際社会の反発が高まっており、中国に対抗する民主主義国家のモデルとして注目が集まることで台湾の外交的孤立はいずれ解消される、との認識を示した。記事はさらに概略以下のように報じる。

 中国は、民主的な自治が行われている台湾を自国の一部だと主張しているが、台湾の外交トップである呉氏は、中国共産党の圧力に対処する台湾のやり方に欧米諸国が注目していると指摘、自国利益のために外国政府の支持を得ようとする中国の行動について、「台湾は何十年にもわたりこのような工作の影響を受けている」と述べた。特にここ数カ月間、欧米諸国は中国政府のやり方を目の当たりにしてきており、「台湾と関わりをもち、これまでの経験について台湾と話し合い、台湾から学ぼうとしている」と語った。

 また台湾政府は、中国の圧力を受けて台湾を中国の省と表記したり、台湾の国旗をサイトに表示しなくなったりした企業に対して、そうした判断を見直すよう強力に働きかけているという。これまでに同様の処置を取った企業の分31は、台湾を「国や地域」の1つとして表記するなど妥協案を見いだすよう説得できたと呉氏は述べている。

 上記のように報じた記事は、台湾を支配しようとする中国の長い試みは、習近平国家主席の下でいっそう緊急性を増してきたと述べ、それは台湾統一が、習主席が唱える「偉大な中国を取り戻す夢」の重要な要素であるためだと指摘する。来年1月の総統選挙が近づくなか、中国政府は12制度を否定する蔡英文総統の地盤を切り崩そうとしているが、台湾政府幹部は、中国は有権者が蔡政権に投票しないよう不利な情報を流す偽情報キャンペーンを展開していると非難していると伝える。

 記事は最期に、呉外相は、事態は台湾に有利に動いていると主張、米国、日本それに幾つかの欧州諸国が台湾との関係緊密化を図ろうとしており、台湾のために発言しているからだと述べていると報じる。また米国と台湾は、アジア太平洋地域における企業統治や政府の公共政策に関連して台湾の参加を支援するプログラムを組成しているが、日本とオーストラリア、スウェーデンはこの米台政策プログラムのパートナーとなったと報じる。

 以上のように呉外相は、中国の独断的な外交に国際社会の反発が高まるなか、中国に対抗する民主主義国家のモデルとして台湾に注目が集まり、外交的孤立はいずれ解消されると楽観的な見解を示す。また台湾を中国の省と表記し、台湾の国旗をサイトに表示しない企業などに判断の見直しを強力に働きかけて成果を上げているとも伝える。その一方、台湾統一が習近平国家主席の下でいっそう緊急性を増してきているとの危機感や来年初に迫る総統選へ中国が介入する懸念も表明する。そのうえで、呉外相は米、豪、欧州諸国などともに日本の支援に強い期待を示している。日本としても、その期待に積極的に応える必要があるのは言を俟たないだろう。


韓 国

☆ 在韓米軍駐留費でトランプ政権と対立する文政権

 韓国政府は11月23日、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を終了させない方針を日本政府に伝達した。一般の予想に反する決定だったが、その背景に、韓国が米国との厳しい交渉に迫られている2020年の在韓米軍駐留経費の負担問題があると指摘されている。11月18日からソウルで開かれた協議では、米国が交渉を途中で打ち切り、物別れに終わった経緯がある。米側は韓国の負担を現在の5倍増やすよう要求しており、韓国としてはGSOMIAと駐留経費の両問題ともに米側の要求を拒絶できる立場になかったとみられている。

 1123日付ワシントン・ポストは、この問題を社説「American steadfastness is in doubt in South Korea thanks to Trump’s policies (韓国が米国の確固たる決意を疑問視、トランプの政策が原因)」で取り上げ、太平洋にある古い同盟国、韓国と米国との意見相違が深まっていると冒頭で述べ、原因は、伝統的な同盟国を支援するのは米国にとって悪い取引であり、恩義を感じない支援国は有り金をはたく必要があるとのトランプ大統領の見解にあると指摘する。

 先週、トランプ大統領は韓国に交渉団を派遣し、在韓米軍28500人の駐留費に対する現在の韓国側年間負担金92300万ドルを50億ドルと報じられている金額に増額するよう求めた。韓国側代表団が国内できわめて不評なこの要求に否定的姿勢を示すと米代表団は突然、退席した。在ソウル報道各社によると、トランプ氏は圧力をかけるために4000人の米軍を引き上げることを検討しているという。エスパー米国防長官は、これを否定しているが、トランプ氏自身が過去において引き上げに言及したことがあると社説は伝える。

 また社説は、韓国はこの間、中国とのホットラインを増やし、「両国間の交流と国防における協調を促進する」と宣言、手始めに韓国から国防相を訪中させるとしていると報じ、これは中韓同盟の始まりというよりは、対米交渉で米国に圧力をかける韓国側の戦術とみられるが、同時に頼れなくなっている米国に対するヘッジと見做さなければならないとコメントする。

 これは疑いもなく、懸念すべきことだと社説は述べ、在韓米軍のおかげで北東アジアにおいて新たな戦争が回避され、韓国は民主国家として成長し、世界11位の経済大国となったと指摘する。ただし、この韓国の富にトランプ氏は最も注目していると述べ、同大統領は過去数年間、富裕国に米軍を駐留させる費用の問題に苛立ちを示しており、とりわけ韓国の場合には対米貿易で多額の黒字(昨年は179億ドル)を計上してきたことがあると付言する。

 こう論じた社説は、韓国は現在、1日当たりの駐留費の40%を支払っており、米国が要求する増額に応じる能力があるのは疑いないが、2018年の支払額は前年比8%増に止まっていたと報じると共に、トランプ大統領は、韓国がソウルから40マイルにある場所に建設した新米軍基地の建築費108億ドルの90%を支払った事実を全く計算に入れていないと指摘、また韓国の若者男子は徴兵義務を負わされていると述べ、トランプ氏はアジアにおける前線基地である韓国が安全保障面でそれなりの支出をしていることを理解していないようだと批判する。

 さらに社説は、トランプ氏は民主主義の同盟国、韓国に要求をつきているが、全体主義の北朝鮮には、最近では米韓軍事演習を延期し、ツイッターで北朝鮮の独裁者、金正恩委員長に首脳会談を示唆するなど嘆願者の姿勢で臨んでいると批判する。さらにバイデン米元副大統領へ子供っぽい侮辱を加えたうえで、金氏には、近い将来お会いしましょう、というメッセージを送ったが、これを金委員長は鼻であしらったと指摘する。

 そのうえで社説は、トランプ大統領の近視眼的政策は、就任前に約束した韓国に対する「確固として強固な」支援とは似ても似つかないものだと非難し、北東アジアでは至る所で米国の確固たる姿勢と影響力に疑問がもたれている、と懸念を表明する。

 以上のように社説は、トランプ大統領の対韓政策は一方的かつ近視眼的であり、特に北東アジアにおける米国の信頼感を損なっていると厳しく批判する。米韓協議は年内に集中的に行われる見込みだが、日本も来年の在日米軍駐留経費で同じ問題を抱えている。そうした観点からも米韓協議の行方に注目する必要がある。



北 朝 鮮

☆ 事態を悪化させたトランプ外交
 128日付英ガーディアンは「The Guardian view on North Korea: a brewing nuclear crisis (核危機を煽る北朝鮮)」と題する社説で、北朝鮮政府による米国政府との休戦は恐ろしい結末を迎える可能性があると不気味な予告をすると共に、それを避けるために国際的な努力、とりわけ米国による努力が必要になると概略次のように論じる。

 北朝鮮はしばしば、ジェームズ・ボンドの敵役を演じようとしているようだ。たとえば、今年末を交渉の期限だと大見えを切って宣言したうえで、「クリスマスの贈り物を何にするか(専門家はミサイル実験と予想する)は米国次第」と悪戯っぽい脅しをかけている。おどろおどろした脅迫を好み、それに挑発をちらつかせるのだ。今月8日には黄海沿岸の衛星発射施設で「きわめて重要な」実験をすると宣言した。聖なる白頭山で白馬にまたがる金委員長の一連の写真は、国営メディアが言う通り、確かに「世界を再びあっと言わせる偉大な作戦」の前触れなのだろう。

 こうした芝居気たっぷりの演出には意図がある。北朝鮮は国際社会の関心を引きたいのである。そして、その意図を真剣に受け止めるべきなのだ。北朝鮮は10月、経済制裁に緩和の兆しがないことに怒り、交渉の席を立った。米政府は米国が軍事力を行使する可能性を人々に思い起こさせ、再び金委員長を「ロケット・マン」と呼び、「あらゆるものを失う」と警告した。

 こうした一連の出来事は予測できる事の一つとして誤解するのは簡単である。また、こうした事は過去においても起きたというのは、一部当たっているに過ぎない。トランプ氏は「炎と怒り」という脅しをかけ、その後、微笑外交に転じたが、これは単に基本問題の解決に失敗しただけでなく、悪い事態を一層悪くした。同氏は、北朝鮮が反対しない「朝鮮半島の多面的非核化」と、北朝鮮が決して認めない「朝鮮半島の完全かつ一方的非核化」との間には全く差異がないかのように振る舞って、非核化交渉に進展があったと主張したのだ。これは解決ではなく、進展は幻想に過ぎないのである。

 上記のように論じた社説は、北朝鮮は他の大統領よりもトランプ氏と取引したいのだと述べ、このため切迫感のようなもの生まれ、米国が行動を起こす可能性について懸念を持たなくなったように思われると指摘、その背景として、トランプ氏にすり寄る自身の姿勢、短距離ミサイル実験へのトランプ氏の関心の欠如、そして同氏が他の分野でも示している言動の不一致に対する配慮の低さを挙げ、北朝鮮は核兵器の開発を継続し、性能を高めてきたと述べる。

 そのうえで社説は、北朝鮮は米国に譲歩を求め、挑発による紛争は望んでいないものの、誤解と判断の過ちのリスクは厳に存在すると主張、北朝鮮の軍トップは、米国との休戦は偶発的出来事によって何時でも全面的な軍事的対立に発展し得る、と警告しているが、これが新たな脅迫であるのは言を俟たないとしても、悲しいかな、それが真実なのだと強調する。

 以上のようにガーディアン社説は、北朝鮮による一連のミサイル実験の背景について鋭い分析に基づく興味ある見解を提示する。トランプ大統領の主張する交渉の進展とは幻想にすぎず、その北朝鮮政策は事態をむしろ悪化させたと厳しく批判し、一連のミサイル実験の背後にある北朝鮮の真意を読み取り、真剣に対処すべきだと米国に訴えている。外交をディールとして捉えるトランプ流の交渉術の限界を指摘、基本に帰るべきだと主張しているといえよう。



東南アジアほか


インドネシア

☆ ソブリン・ウエルス・ファンド創設の構想
 インドネシア政府はソブリン・ウエルス・ファンド(SWF)の創設を計画している。12月3日付フィナンシャル・タイムズによれば、このSWF構想はシンガポールの国有投資機関、テマセク・ホールディングスもしくはマレーシアの政府系ファンド、カザナ・ナショナルをモデルとし、新規起業を対象とするとしている。ファンドの規模や資金源については未定とされているが、以前の政府声明によれば、100億ドルまでの規模が想定されているという。

 インドネシア政府は、シンガポールの国家主導による投資の成功モデルの取り込みだけでなく、芽吹き始めた技術関連起業を国内に確実に広めることにも熱意を燃やしており、本計画も関係筋によれば、財務省、投資省、国有企業省の3つの省が後押している。シンガポールの場合、政府の経済開発庁と投資機関であるエンタープライズ・シンガポール及びテマセクが新規起業に投資、国内投資各社も支援して、国内市場だけでなく、東南アジアやインドも対象市場としている。また米加州にある世界最大級のベンチャーキャピタル、セコイア・キャピタル(Sequoia Capital)などの国際ベンチャーキャピタルと並行して投資することで、テマセクの出資は政治的よりも商業的動機によるものと外国政府は見ていると報じる。

 記事によれば、インドネシア政府は、シンガポールに進出しているインドネシア企業との取引を開拓するために同地にオフィスを設けることも検討していると在ジャカルタの投資会社のトップが語っている。ただしインドネシア政府は、シンガポールと違って、政治の介入を受けずに純粋に商業的投資を行うために必要とされる潤沢な資金やノウハウを持ち合わせていないと別の民間筋の経営者は述べており、テマセクの場合、今年3月末で純投資ポートフォリオが3130億シンガポール・ドル(2287億米ドル)に達している。

 記事はまた、テマセクのような独立性や企業統治を許容するかについて疑問を呈しているとも付言し、政府は既に経済に介入しすぎており、既得権益層が政治権力と結びついて余りにも力を持ちすぎているとの地場投資会社のコメントも伝える。

 さらに記事は、インドネシアには活発な起業市場が存在しているが、これはベンチャーキャピタル・ファンドがジャカルタやシンガポールにあるためで、リッポ・グループやシナールマスなどの既存財閥やBCAのような銀行もベンチャーキャピタル・ファンドを保有していると述べ、政府も積極的に支援する姿勢を示しているとして、ルフット・ビンサル・パンジャイタン海洋担当調整大臣がSWF問題についてアラブ首長国連邦(UAE)と話し合っていると報じる。パンジャイタン大臣は、アブダビに出張した際、インドネシアの新設SWCはUAEなどの海外の投資基金からも資金提供を受け、50億ドルから100億ドルを集められる潜在力があると述べ、インフラその他の投資に運用すると語ったと伝える。

 以上のようにインドネシア政府はシンガポールやマレーシアを範例としてソブリン・ウエルス・ファンドの創設に乗り出した。ただしシンガポールのような潤沢な資金やノウハウを持ち合わせていないなどのハンディキャップを負っており、ファンドも100億ドル程度の小規模と想定されてはいるものの未定とされているなど、計画の実現性は未だ見通せていない。ただし記事では触れていないが、インドネシア経済は、内需を牽引役として概ね安定成長を続けており、先行も、堅調な個人消費や民間投資の持ち直し、さらに上記記事も報じているようにインフラ投資も活発に推移するとみられていることから順調に推移していくと見込まれている。その意味で、今がSWC計画の実現に乗り出す好機とも思われる。



インド

☆ 見た目よりも悪い経済
 インドの経済病は見た目よりも遙かに悪い、と1119日付ウォール・ストリート・ジャーナルが報じる。記事は、公式統計の数値によると、成長は6年ぶりの低水準に減速しているが、実際の景気はもっと悪化している可能性が高いと伝え、背景としてノンバンクが債務不履行に陥り、あるいは政府の圧力による撤退するなどから信用危機に見舞われたことを挙げる。さらに米シンクタンク「世界開発センター(CDG)」のエコノミストが先月、複数の指標がインド経済は既に景気後退入りしている可能性があることを示しており、国内総生産(GDP)統計とのかい離が拡大していると指摘したと報じる。その後も新たに発表された複数の経済指標が悪化していると述べ、具体的に、9月の非石油輸入は前年同月比12.3%減、鉱工業生産は同期間に4.3%減、物品税の税収は2.7%減となったと伝える。

 そのうえで記事は概略次のように伝える。インドの公式成長率が他の代替的指標より楽観的に見えるのは、これが初めてではない。インドのアルビンド・スブラマニアン元首席経済顧問は6月発表した分析で、12年度から17年度の成長率が年率平均7%程度となっていたのは、2.5ポイントほど過大評価されたものだと指摘している。GDP数値が正確だったとしても、インドの所得水準の低さと比較的速いペースの人口増加率を踏まえれば、5%程度というのは懸念を禁じ得ないほど低い成長率である。大勢の若者が労働市場に流入することで経済が活発化するという、同国のいわゆる「人口ボーナス」に照らせば、成長率はもっと高くなるはずだ。また現在のインドと中国の成長率を比較するのは的外れである。中国で1人当たりGDPが現在のインドほどだった頃、年間成長率は2桁台を記録していたからだ。

 こうした背景から、インドが今月に入り東アジア地域包括的経済連携(RCEP)からの撤退を決めたことは、ある程度の説明がつく。参加していれば、比較的高水準にある同国の関税が引き下げられるはずだった。成長速度を読み誤れば、経済ガバナンスの失策を増やすリスクになる。国内経済の実際の強度を正面から見つめなければ、前進は一段と難しくなるだろう。

 以上のように、インド経済の悪化は以前から伝えられているが、今回は成長率の数値自体が実体と乖離しており、経済は見た目よりも遙かに悪い可能性があると報じられた。今後、インド経済をみていくうえで留意しなければならない問題点である。なお、こうした状況のなか、インド準備銀行(中央銀行)125日、政府や財界からの利下げを求める大合唱にもかかわらず、インフレ懸念を理由として、金利据え置きの決定を下した。政策金利は今年に入り5回引き下げられ、現在、5.15%9年ぶりの低水準にある。同日付ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、準備銀行は消費者物価上昇率を4%程度としており、9月までの3ヶ月間のインフレ率は3.5%程度で推移していたが、準備銀行は食品価格の上昇に懸念を抱いている。経済成長率については、来年3月に終わる今年度の成長率を5.0から6.1%とみており、ダス総裁は記者会見で、必要があれば追加的な金融緩和を行う用意があると語っており、今後の対応に注目したい。

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主要紙の社説・論説から

香港情勢の現況について
 香港では6ヶ月前、逃亡犯条例に反対して始まった抗議デモが、今や普遍的な参政権や警察による暴力行為の調査、投獄されたデモ参加者への恩赦などを要求する、いわゆる「5大要求」デモへと拡大した。当局の取り締まりが激化するなか、それに抗するようにデモを主導する民主派への支持が市民の間で急激に高まっている。以下に、香港情勢に関する主要メディアの報道や論調を紹介する。

 1128日付ワシントン・ポストは社説「Hong Kong made its voice heard loud and clear. Will Beijing listen? (はっきりと声を張り上げた香港、その大声に中国政府は耳を傾けるか)」で、香港にとって問題は、当初から街頭での民主派の声を聞き入れるのを拒否した中国指導部にあったと述べ、中央政府指導部とそれに従属する香港の指導者、林鄭行政長官(キャリー・ラム)は頑なで心を閉ざしていたと批判、中国政府報道官は抗議デモ参加者を暴徒、テロリスト、犯罪人などと呼んだが、実際には彼らは、政府に絶望した香港人であり、1124日の選挙で声を張り上げて口を開いたのだと述べ、中国は聞き入れなければならないと主張する。

 次いで社説は、デモは当初、逃亡犯条例への反対運動として始まったが、当局は同条例の撤回に手間取り、その間、デモ参加者の要求はエスカレートしたが、当局は聞く耳を持たず、区議会選挙が近づくにつれ、中国指導部と香港政府は沈黙する大多数の有権者は政府を支持すると確信していると表明していたが、選挙結果は正反対だったと指摘する。

 さらに社説は、区議選での民主派の勢いを強調し、選挙ポスターにデモ参加者と同じ黒装束姿で登場した民主派候補者や、既存勢力が根を張る選挙区で3選中の現職を破った23歳の大学卒、クラウド募金で選挙運動を展開して親中政党の副党首を撃破した25歳の民主派候補などの例を紹介する。そして区議会は立法権を持たないが、70議席ある立法会(香港の議会)5議席を保有し、行政長官を選ぶ投票権を有するなど幅広い影響力を持っていると述べ、なにはともあれ、区議選には294万人の有権者が参加し、抗議デモと民主主義のために投票したと指摘する。

 社説は最後に、香港危機は、習近平国家主席と中国という専制的共産党国家が、いかに民主主義を受け入れず、理解もしていないかを如実に証明したと述べ、中国は香港市民が跪き、他の中国市民同様に、言論の自由もないまま、選挙で選ばれていない正当性に欠ける支配者によって統治され、国による治安上の監視に全面的に服従する忠実な市民であることを求めていると非難し、香港市民はこれを拒絶したのだと改めて指摘、中国指導部が過去においてそうであったように、市民の意思を拒否し、脅迫し、強制する姿勢で対処すれば、恐ろしい過ちを犯すことになると警告する。

ウォール・ストリート・ジャーナルは1114日付社説「China’s Hong Kong Crisis (日本版記事:【社説】香港危機、習近平国家主席は対応の誤り認めよ)」で、香港での抗議行動と暴力の激化について、これは香港市民が享受してきた自由を、専制主義的政府が奪い取ろうとした結果として生じたものであり、習主席は現在、1989年の(天安門事件につながった)民主化デモ以降では最大の、共産主義政権への挑戦に直面していると警告、習主席にとっての賢い選択肢は新たな抑圧的な法律を香港に押しつけるという間違いをしたことを認め、2047年まで自治を認めるという約束を順守することだと提言する。

 この間、114日付ロイター通信によれば、香港政府トップの林鄭行政長官は同日、緊急時に行政長官が公共の利益のために必要な規制を制定できる「緊急状況規則条例(緊急条例)」を適用し、デモ参加者がマスクなどで顔全体を覆うことを禁止する「覆面禁止法」を5日から導入すると表明した。これに反発し、同日午後には数万人が参加した抗議行動が起きるなど混乱が深まるなか、香港高等裁判所は19日、同法が香港基本法に違反するとして破棄する判決を下した。しかし、中国は同判決を認めない声明を発する。

 20日付フィナンシャル・タイムズは「Chinese stance on Hong Kong mask ban ruling reignites legal fears (香港の覆面禁止判決に関する中国の姿勢で司法をめぐる懸念が再燃)」と題する記事で、香港裁判所の決定に対する中国の非難が香港の司法自治に対する疑問を提起したと副題で述べ、概略次のように報じる。
香港の裁判所が違憲判決を下して24時間も経たないうちに、中国の議会、全国人民代表大会(全人代)は同判決を厳しく非難し、香港最高裁が覆面禁止法を再導入しなければ、全人代が自ら実行すると宣言した。新華社が伝えた声明で全人代は「香港の法律が香港基本法に合致するかどうかは全人代常務委員会だけが判断できる」と述べた。

 これに対し民主派弁護士団の一人は、ショックを受けたと反論し、香港基本法に関わる問題について香港裁判所の判断を覆せるという全人代の権限は、それ自体が問題であり、これによって香港の地位はさらに貶められたと語り、コモン・ローに基づく我々の法体系は本土から切り離された独立した制度で、「12制度」と香港自治の不可欠な原則のひとつだと主張した。香港基本法の制定に参加し、香港民主党の創設者であるマーティン・リーは、全人代の声明を「憂慮すべきこと」と評し、香港の裁判所から司法権を奪い全人代に取り戻そうとする危険きわまりない一歩だと批判、さらに香港の弁護士会、香港大律師公会も、全人代声明は法的に間違っていると主張する。
 
 こうしたなか、情勢は11月後半に入ると急展開する。まず機動隊が学生らの立てこもる香港理工大学を包囲し、突入する事件が発生、学生と機動隊との衝突がひとつの頂点に達する。1118日付英ガーディアンは社説「The Guardian view on Hong Kong: a city on the brink (崖っぷちに立つ香港)」で、機動隊が香港理工大学を包囲し催涙弾を打ち込んでいる状況について、香港は燃えている、と報じ、当局は危機をエスカレートし続けていると非難、「学生を救え」と行進する数万の人々もゴム弾と催涙弾を浴びていると伝える。香港の断固とした抗議デモは、中国本土における出来事への回答のひとつだと指摘し、新疆ウイグル自治区(Xinjiang)におけるウイグル族に対する弾圧などを挙げる。そのうえで外国の指導者は、自分らが監視していることを中国に思い起こさせる義務があると主張する。

 さらに米上院は19日、次いで下院は20日、香港の自治権や人権が十分に守られているかを毎年検証するよう国務長官に求めることなどを盛り込んだ「香港人権・民主主義法案」を可決する。また1124日に香港区議会議員選挙が実施され、民主派が地滑り的勝利を収める。26日付フィナンシャル・タイムズは社説「Hong Kong poll is a chance to embed democracy (香港選挙は民主主義を埋め込む好機)」で、区議選は街頭よりも投票箱を通すことの力を示したと指摘、中国政府が最も希望の持てる抗議収拾策は譲歩であって弾圧ではないと主張する。

 社説は、沈黙する香港市民の大多数は激しさを増す民主派の暴力的抗議に対して反対していると中国政府は主張していたが、区議選での民主派の圧倒的勝利は、結局、中国政府が主張する大多数は少数派であったことを示したと述べる。選挙結果は、西側において扇動的動きが、また中国において専制主義が増大する時代に民主主義の精神を力強く表現したと評し、過去6ヶ月間の混乱は外国人活動家が先導してきたとする中国政府の主張を粉砕したと強調する。

 そのうえで社説は、中央政府は香港が切望する自決に対して、どう対応するか、という深刻な挑戦に直面していると指摘、当局幹部は反射的に弾圧を押し進めることを考えるだろうが、これは混乱を招くだけであり、中国政府は「12制度」の精神に立ち返るべきだと主張する。


 1125日付ニューヨーク・タイムズも「Hong Kong Voted. Is Beijing Listening? (区議選を実施した香港、中国政府は結果に耳を傾けるか)」と題する社説で、香港市民は圧倒的に改革派候補に投票したと述べ、今はトランプ大統領が香港人権・民主主義法案に署名する絶好の機会だと強調、概略次のように論じる。

 6ヶ月に及ぶ抗議デモは、香港市民が民主主義に関する受け止め方について中国政府に対して十分に明確なメッセージを発していなかったが、区議選での民主派の圧倒的な勝利は、そうした疑問を払拭するだろう。選挙は、民主派勢力の草の根運動に対する市民の信任投票となった。選挙結果は疑う余地のないほど明白である。有権者の70%が投票し、民主派は452議席のうち389を獲得し、18区のうち17を制した。

 選挙結果の持つ実際の影響力はさほどではないかもしれないが、主たる意味合いは、中国共産党指導部はもはや抗議デモが外国から指図を受けたごろつきによる仕業だと信じ、主張できなくなったことである。習近平国家主席の下での中国指導部が、沈黙している香港市民の大半は暴力的抗議デモに反対していると考えているとしても、投票率と選挙結果は、市民の大半は相対的な自由を尊重し、中国政府に奪われることを見過ごすつもりはないことを明らかにしたのである。

 上記のように論じた社説は、市民からの明確な支持を得て抗議デモが勢いづくことは間違いないと述べ、林鄭行政長官は抗議の要求に沿うよう真剣に考えるべきであり、中国政府は民主主義が外国の陰謀ではないという事実を理解すべきだと主張、そのうえで、今はトランプ大統領が米上下両院を全会一致で通過した香港人権・民主主義法に署名する絶好の機会だと強調する。



1124日付ウォール・ストリート・ジャーナルも「Hong Kong’s Freedom Message (日本版記事:【社説】香港区議選、自由求めるメッセージ)」と題する社説で香港区議選の結果について、香港市民は経済的自由に加えて政治的自由をも求めていることを示したと指摘、トランプ氏は香港人権法案に署名すべきだと概略次のように主張する。

 今回の選挙は香港として初めて、半年に及ぶ反政府デモに評決を下すチャンスとなった。有権者の71%超が投票所を訪れ、サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)によると、これまでに民主派候補が201議席を獲得したのに対し、香港の体制派や親中派が得たのは28議席にとどまり、独立系候補も12人当選した。驚くべき結果だ。有権者にとっては一部デモ参加者の行き過ぎよりも、中国政府の命令に従う香港政府を巡る懸念の方が大きいようだ。

 有権者が突き付けた拒絶に対する中国と林鄭長官の反応は、香港が平静を取り戻し、デモを終結させられるかどうかを左右するだろう。今回の投票は、市民がうっぷんを晴らす手段として選挙が有効であることを物語っている。香港市民は、自治を求める姿勢を見せつける民主的な機会が他にもあれば、経済を混乱させはしないはずだ。容疑者の本土引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案への抗議に端を発するデモへの対応を、中国政府と林鄭長官は大きく誤った。香港と中国両政府は今回の投票を機に有権者の声を受け止めたと表明したうえで、警察による権力乱用の調査を求める市民の要求に応え、立法会と行政長官の選出では民主的な影響の受け入れを進めると約束するのが賢明だろう。

 上記のように論じた社説は、今回の区議選には、トランプ米大統領に香港の自由希求を支援するよう求める嘆願という側面があるが、香港に関して同氏はロナルド・レーガン元大統領のような明確な倫理観に基づいて発言してきていないと批判、同法案について署名するかどうかを決めていないと指摘する。さらに、通商交渉のさなかに習氏を侮辱したくないというトランプ大統領の現実的な意向は理解できるが、独裁者たちに対する同氏の美辞麗句には困惑すると述べ、習主席に送れる美辞麗句は、せいぜい香港の反体制派をつぶすために中国軍を送り込んでいないという程度だと付言する。

 そのうえで社説は、習氏は感情的な人物ではなく、通商協議では中国の国益に基づいて冷徹に判断を下し、自国経済のために協定が必要だと考えれば、トランプ氏が香港人権・民主主義法案に署名してもしなくても米国の要求に同意するだろうと述べ、香港の有権者が勇気を示した今、トランプ氏が同法案に拒否権を発動すれば、米国の価値観を裏切り、中国に対する弱さを見せることになると主張、同法案への署名を強く促す。
 
 香港人権・民主主義法案は、結局、トランプ大統領が1127日に署名し、成立する。しかし、これに対して中国政府は強く反発し、123日、米軍艦の香港寄港を禁止するなどの制裁措置を発表、米中関係を緊張させる新たな火種となった。

 以上みてきたように、11月に入ると香港情勢は急展開する。初旬には覆面禁止法が制定され、さらに学生が香港理工大に立てこもり、機動隊との衝突がひとつの頂点に達する。下旬には米議会が香港人権法案を可決するなか、24日に香港区議選が実施され、民主派が地滑り的勝利を収める。覆面禁止法については、香港高裁が香港基本法に反するとの判決を下すが、中国の全人代が同判決を真っ向から否定したことから、香港司法界が全人代の介入に反発する。こうした一連の動きについてメディアは、香港の司法自治への懸念が再燃したと指摘する。

 区議選での民主派の勝利についてメディアは、沈黙する香港市民が後押ししたためであり、市民は民主派運動への信認と政治的自由への希求を示したと述べ、同時に抗議デモが外国の陰謀でないこと、さらに市民の大半は相対的な自由を尊重し、中国政府に奪われたくないとの意思を明らかにしたと論じる。米議会による香港人権法制定の動きに関連してメディアは、区議選には、トランプ米大統領に香港の自由希求を支援するよう求める嘆願という側面があり、トランプ大統領が同法案に拒否権を発動すれば、米国の価値観を裏切ると主張、同法案への署名を強く促す。

 上述のように、抗議運動が天安門事件以来の最大の反体制・民主化運動に発展した香港では、過去1月間に状況が目まぐるしく変転し、中国指導部に深刻な問題を突き付けた。こうした香港情勢を収拾する方法は、これまで続けてきたような警察の力による弾圧か、12制度の原則に立ち返って香港自治を認めるか、のいずれしかないだろう。そして中国に残されているのは、後者の道のみである。理由の第1は、区議選が示したように、市民は民主化運動への支持を明確にしたことだ。情勢は一見すると、天安門事件の際と似ているが、時代と状況は基本的に異なる。第2に米国が議会、政府とも香港自治と「12制度」を監視する姿勢を明らかにしたことだ。そして国際社会も中国に譲歩を求めている。香港自治を認める公約の順守を迫るメディアの論調は、まさに国際社会の要求である。貿易問題その他で米国と対立する中国が、米国や国際社会との摩擦を激化させる余裕はないはずである。中国に開かれている道は、譲歩と妥協のみなのだ。


          § § § § § § § § § § 

(主要トピックス)

2019
11月16日 スリランカ大統領選で親中派の前大統領の弟、
     ゴタバヤ・ラジャパクサ元国防次官(70)が当選。

  17日 河野太郎防衛相、訪問先のバンコクでエスパー米国防長官や
     韓国の鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)国防相と会談。
     日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を巡り協議。

     日本政府、輸出管理を厳格化した半導体関連材料の液体フッ化水素の輸出
     を許可。韓国メディアが報道。

  18日 香港警察、多数のデモ隊が立てこもる香港理工大学に突入、600人を逮捕。
     香港高等法院(高裁に相当)、デモ参加者のマスク着用を禁じる
     「覆面禁止規則」は香港基本法に違反すると判決。

  20日 米議会上院、香港人権・民主主義法案を全会一致で可決。
  22日 韓国政府、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を終了させない方針を
     日本政府に伝達。

  24日 香港で区議会選挙を実施。民主派が圧勝。

     来日中のフランシスコ・ローマ教皇(法王)、被爆地の長崎、広島両市を
     訪問、平和と核廃絶を訴え。 

  27日 トランプ米大統領、「香港人権・民主主義法」に署名、同法が成立。
  28日 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)委員長「超大型多連装ロケット砲」の
     発射実験を視察。
     同日、日本海に向けて
2発の飛翔(ひしょう)体を発射。

12月 5日 中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)、米連邦通信委員会
     (FCC)による同社製品の排除方針決定を不当として米ニューオーリンズ
     の連邦高裁に提訴。
日本政府、26兆円規模の経済対策を決定。
   8日 香港で市民らによる大規模なデモ。主催者発表で80万人が参加。
          警察の暴力行為を調査する独立調査委員会の設置など「5大要求」を掲げる。
   10日 中国共産党の経済工作会議、閉幕。
          来年の経済成長率を6パーセント前後と決定したとの報道。

   12日 マレーシアのマハティール首相、アンワル副首相への禅定時期を来年11月
     開催のアジア太平洋経済協力会議以後とすると表明。

   13日 米中両国政府、貿易交渉で「第1段階の合意」に達したと発表。
          米国は対中制裁関税「第4弾」の発動を見送り、中国は米農産物の輸入拡大、
          金融市場の開放や知的財産権保護を打ち出す。

   14日 北朝鮮の国防科学院報道官、北西部東倉里(トンチャンリ)の「西海衛星
     発射場」で「重大な実験」を再び実施したとの談話を発表。

   15日 米国のビーガン北朝鮮担当特別代表、訪韓。
          文在寅(ムン・ジェイン)大統領らと会談、北朝鮮対応を協議。



主要資料は以下の通りで、原則、電子版を使用しています。(カッコ内は邦文名)THE WALL STREET JOURNAL(ウォール・ストリート・ジャーナル)、THE FINANCIAL TIMES(フィナンシャル・タイムズ)、THE NEWYORK TIMES(ニューヨーク・タイムズ)、THE LOS ANGELES TIMES (ロサンゼルス・タイムズ)、THE WASHINGTON POST(ワシントン・ポスト)、GUARDIAN(ガーデイアン)、BLOOMBERG・BUSINESSWEEK(ブルームバーグ・ビジネスウイーク)、TIME (タイム)、THE ECONOMIST (エコノミスト)、 REUTER(ロイター通信)など。なお、韓国聯合ニュースや中国人民日報の日本語版なども参考資料として参照し、各国統計数値など一部資料は本邦紙も利用。


 


前田 高昭
金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。
訳書に『チャイナCEO』他。
『東アジアニュースレター』も配信中。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         

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