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東アジア・ニュースレター ― 海外メディアからみた東アジアと日本 ― 第106回

2019/10/23

連載 東アジア・ニュースレター  
― 海外メディアからみた東アジアと日本 ―


第106回

前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト      
バベル翻訳大学院プロフェッサー

 
 

 
 中国建国70周年を迎えたが、これまでの歩みに対するメディアの見方は厳しい。台頭する経済大国には責任が伴うと指摘し、超大国に似つかわしくない行動をとっていると批判、さらに国際秩序の再構築を目指していると警告する。そうした指摘や批判の対象となった分野は、環境、貿易慣行、人権、領土紛争など極めて幅広い。また地域として南シナ海、新疆ウイグル自治区、香港が挙げられている。

 
 台湾が南太平洋で中国から激しい外交攻勢を受け、ソロモン諸島とキリバスとの国交を立て続けに失った。これに対し米上院外交委員会が9月に「台北法」を可決した。
同法案は米国務長官に対し、外国政府に台湾との関係強化を働きかけることを指示し、台湾との関係を弱める国への経済・軍事支援を控えるよう促している。今後、いかなる効果を発揮するかが注目されている。


 韓国が景気対策のため財政出動を決定した。メディアは、景気が一段と悪化する前に財政政策に動いた韓国政府を、健全財政を建前として財政出動を頑なに拒否するドイツと対比し、他国のモデルになると評価する。しかも韓国は健全財政を20年間も守ってきたと指摘、ドイツを上回る実績だと賞賛する。

 北朝鮮核問題に関する米朝実務者協議8ヶ月ぶりに開催されたが、数時間も立たないうちに決裂した。協議結果について米朝の発表内容が矛盾したのを受けてディアは、両者間に相変わらず距離があると指摘、米国が楽観論に固執する間、北朝鮮は核兵器を積み増していると懸念を表明し、そうなった一因は、シンガポールにおける最初の米朝サミットでの凍結交渉の失敗にあるとし、トランプ米大統領の首脳会談優先外交の欠陥だと批判する。

 東南アジア関係では、マレーシア政府は、オーストラリアのレアアース資源開発会社ライナスが所有する処理施設の操業免許の延長を認める決定を下した。この問題をめぐり環境保全の観点からの反対論があり、また閣僚間で意見の対立が起きていたが、政府は、低炭素のハイテク関連産業に不可欠とされるレアアースはマレーシアにとって重要資源であり、環境関連の反対論よりもレアアースの戦略性を重視する決定を下したとメディアは報じる。

 インド銀行業界では国有銀行が相変わらず幅をきかし、政府はそうした国有銀行の支配管理を緩めようとしていない。経済は低迷し、インド準備銀行は金融緩和に動き、政府も法人税の減税などを打ち出しているが、銀行行政は、ようやく国有銀行の合併集約に動き出すにとどまっている。専門家は基本的問題の解決にはいたらないと指摘し、国有銀行の民営化民間部門の参入促進などの施策が必要だと主張している、とメディアは伝える。

主要紙社説・論説欄では、前号に引き続き欧州中銀による量的緩和政策の再開に関するメディアの論調を取り上げた。

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北東アジア


中 国

☆ 建国70周年を迎えた中国
 
中国は101日に建国70周年を迎えた。同日付ロサンゼルス・タイムズは社説「At 70, communist China is a rising but irresponsible global superpower (70才を迎えた中国、無責任でグローバルな超大国に浮上)」の冒頭で、毛沢東が中華人民共和国の樹立を宣言してから70年が経った今も、眠れる龍とみなされていた国は謎のままであり、現在も急速に台頭し、富と貧困、民間企業と共産主義、前向きな起業家精神と後ろ向きの残忍な抑圧が奇妙に組み合わさった国家だと評する。次いで毛沢東から改革開放に至る歴史を振り返り、国家を「開放」してからの40年間に自由市場経済の要素を加えた「中国の特徴を持つ社会主義」という考え方を生み出して大発展し、億万長者の数で世界第2位、物品輸出で世界最大の家となったと指摘する。

 しかし台頭する新中国には責任が伴っていると述べ、期待される行動として、気候変動のリスク削減への応分の分担、そのために自国内での化石燃料からの離脱や他国で石炭火力発電所を建設するという破壊的な慣行の停止、さらに寄生的な貿易慣行や弱小隣国との攻撃的な領土紛争の抑制などを挙げる。次いで、国内における新疆ウイグル自治区でのイスラム少数民族の拘束、拷問や習近平国家主席による反体制派やライバルの弾圧、粛正を挙げ、習主席が改革開放から離れ、経済グローバリズムの恩恵を宣伝する中で、国民を西側とインターネットから隔離しようとしている批判する。 

 次いで社説は、最も差し迫った危機は香港にあり、デモ隊は17週間にわたって警察と衝突していると述べ、抗議は中国政府が支持する逃亡犯条例への挑戦として始まったが、時間が経つにつれて参加者の要求はエスカレートして暴力が激化、「普遍的な参政権」や警察による残虐行為の調査、投獄されたデモ参加者への恩赦を要求するに至ったと報じ、こうした要求の背後には、返還から50年後の2047年に抑圧的な中国に完全に支配された香港がどうなるのか、という長期的な問題があると指摘する。

 社説は最期に、香港デモは中華人民共和国が誕生日を迎える101日に熱気が頂点に達すると予想され、今後数週間で終息する見込みはないと述べ、北京の中央政府が、いかに対処するか、すなわち、譲歩するのか、実力を行使するのか、それとも別の方法を考えるのか、が今後の中国に何を期待すべきか、についてヒントを与えてくれるだろうと述べる。

 以上のようにロサンゼルス・タイムズ社説は、眠れる龍とみなされていた中国は今も謎に包まれたままだが、「中国の特徴を持つ社会主義」という考え方で大発展したと述べ、その一方で、台頭する新中国には責任が伴っていると指摘、気候変動のリスク削減や貿易慣行の見直し、領土紛争の抑制、新疆ウイグル自治区でのイスラム少数民族や反体制派の弾圧停止を求める。最も差し迫った危機は香港にあると述べ、デモ参加者の要求はエスカレートして暴力が激化、こうした動きの背後には、返還から50年後の2047年に中国の完全支配下に入った香港がどうなるのか、という長期的な問題があり、中国政府の対応が、今後の中国に何を期待すべきか、のヒントになると指摘する。

 930日付ウォール・ストリート・ジャーナルは「Communist China Turns 70 (日本版記事:【社説】中国建国70周年に寄せて)」と題する社説で、政治と経済のさらなる統制に向かえば破滅を招くと副題で警告する。社説は、改革開放以来の経済発展と天安門事件に至る歴史を簡単に振り返り、天安門事件の後、政治的自由を容認する進化の可能性を看取させる時期が合ったが、期待は胡錦濤時代に打ち砕かれ始め、習近平国家主席が力を得るにつれ拍車がかかったと述べる。

 また国内では経済改革が停滞していると指摘、それは党が金融支配を続け、国有企業の改革を拒否しているためだと主張する。中国の輸出主導型経済モデルは、外国企業への情報窃盗やハゲタカ的行為に頼っているところが大きいと批判、そうした脆弱さがトランプ米大統領の政策で露呈したと述べ、また中国は、海外に安全資産を求める国民による資本逃避を止めるため、通貨規制を課さざるを得なくなっていると指摘する。

 さらに社説は、中国国内で政府による管理が厳しさを増していると述べ、検閲システム「金盾(グレート・ファイアウォール)」の構築、インターネット検閲要員の大量雇用、新疆ウイグル自治区でのイスラム教文化と宗教排除の動きを挙げる。特に人工知能と顔認識を使った国民監視は、ジョージ・オーウェルが描いた監視国家の悪夢を思い起こさせると批判する。

 また中国による弱体な近隣国に対するいじめ、すなわち、南シナ海諸島の違法占拠や事実上の軍事基地化、「一帯一路」計画のソフトパワーを通じて仕掛ける過剰な債務という罠などを挙げる。さらに米国が民主主義の混乱と文化的衰退で後退するなか、中国国民は、過去2世紀にわたる国内闘争や列強による侵略を経て21世紀を支配するのは中国だ、と信じるようになったと述べる。

 以上、ウォール・ストリート・ジャーナル社説は、党が政治と経済のさらなる統制に向かえば破滅を招くと警告、経済については改革の停滞を指摘、原因は国有企業改革の拒否にあるとし、輸出主導型経済モデルは外国企業への不正行為に頼っており、その脆弱性がトランプ米大統領の政策で露呈したと指摘する。政治については、国内における検閲の強化や新疆ウイグル自治区でのイスラム教徒の弾圧、人工知能と顔認識を使った国民監視の強化、対外的には、南シナ海諸島の違法占拠と軍事基地化や「一帯一路」計画を通じて仕掛ける過剰債務の罠などを挙げて、建国70年を迎えた中国を厳しく批判する。

 930日付英ガーディアンは社説「The Guardian view on the People’s Republic of China at 70: whose history? (70年を迎えた中華人民共和国、その歴史は誰のものか)」で、北京中心部における大規模軍事パレードに触れ、歴史の記念行事というよりも政治的出来事だったとし、西側は人民解放軍による新型ミサイルやステルス、無人車両が行進する有様を注意深く見守るだろうと報じ、70年間にわたる共産党の支配は大いなる進歩をもたらしたが、代償は恐ろしいものだったと述べる。さらに習近平主席は、毛沢東以来の指導者のうち誰よりも歴史の重要性を理解しており、権力掌握後間もなく同僚らに向かって、「歴史的ニヒリズム」は西側の民主主義と党の支配に対する実存的な脅威として同等だと警告したと報じる。

 次いで、中国は先輩のソ連よりも長生きし、かつ西側諸国の経済を上回ったが、今は新たな課題に直面していると指摘する。この70年間の発展によって所得や長寿、識字率の向上がもたらされ、貧困や文盲を追放したが、毛沢東の大躍進政策による飢餓や文化大革命による迫害、一人っ子政策、新疆ウイグル自治区でのイスラム教徒の弾圧などで被害を受けたと述べ、国民の多くが怒り、皮肉り、失望していると警告、さらに次のように述べる。

 天安門事件以来、共産党は国家教育と歴史の建設を旧に倍して強化し、歴史の中心的役割は階級闘争ではなく、「国家の屈辱」に終止符を打つこととされた。この筋書きは、家族崩壊、目を覆うような腐敗、格差、環境破壊などの壮大な経済成長のコストに続いて、経済が減速し始め、米国との対立が大きくなるにつれて、ますます重要になった。 一方、香港での動きは、国民の誰もが党と国家の支配に感謝しているわけではないことを示している。17週間に及ぶ抗議運動と当局の対応が、中国政府の期待を裏切って、台湾の蔡英文・現政権への追い風となっている。

 社説は最後に、このような状況下で、党は歴史的メッセージをこれまで以上に強く発信しており、過去とは異なっているが、今はそれが独特の響きを轟かせていると述べ、「人民の指導者」は、抑圧の強化やイデオロギーの復活の音頭を取り、闘争という概念を呼び起こそうとしていると懸念を表明、中国は国際秩序の再構築を改めて目指しており、習氏はすでに30年後の共和国の100周年を見据えていると指摘する。

 
上記のようにガーディアン社説は、鋭い歴史感覚をもつ習主席は就任以来、国家教育と歴史の建設に着手し、経済発展に伴う代償と弊害に対する国民の怒りや失望が高まるなか、建国70周年の機会をとらえて国内では弾圧や抑圧の一段の強化とイデオロギーの復活を試みており、対外的には30年後の共和国の100周年を見据えて国際秩序の再構築を目指していると述べ、それが多方面に反響を呼び起こすと警告する。

 以上、中国の建国70周年をめぐる主要メディアの論調を観察したが、これまでの中国の歩みに対する見方はいずれも厳しい。台頭する経済大国には責任が伴うと指摘し、超大国に相応しくない行動をとっていると批判、さらに国際秩序の再構築を目指していると警告する。そうした指摘や批判の対象となった分野は、環境、貿易慣行、人権、領土紛争など極めて幅広い。また地域として南シナ海、新疆ウイグル自治区、香港などが挙げられている。特に香港は現在、重大な局面にあって中国指導部の対応が正念場を迎えており、注視する必要がある。古希を祝う中国は、同時に建国以来の大きな危機を迎えたと言えよう。



台 湾

☆ 台湾の外交を支援する米議会
 南太平洋で中国が台湾を外交面で追い込んでいる。9月にはソロモン諸島とキリバスが台湾と断交し、中国と国交を樹立した。10月7日付ウォール・ストリート・ジャーナル社説「Senators Answer Beijing’s Bullying (日本版記事:【社説】中国の台湾いじめ、対抗する米上院)」は、こうした中国の動きについて、南太平洋一帯の国々をいじめたり、賄賂を贈ったりして台湾との外交関係を断絶させていると報じ、さらに外交面で追い詰められている台湾を米国の議員らが注視していると伝える。

 記事によれば、上院外交委員会は2週間前、台湾を防衛する「台北法」法案を上院本会議に上程することを全員一致で決定した。同法案の狙いは台湾を孤立させないことにあり、米国が台湾と自由貿易協定を結ぶことや、中国の妨害が激しさを増しているなか、台湾がより多くの国際機関に加盟するよう支援することを目指している。同法案は米国務長官に対し、外国政府に台湾との関係強化を働きかけるよう指示し、台湾との関係を弱める国への経済・軍事支援を控えるよう促している。

 また記事は、米議会がこうした行動を取る理由について、中国は台湾を外交面で窮地に追い込み、香港自治への対応と同様、最終的に主権を侵害しようとしており、こうした中国を向こうに回し、忠実な民主主義の盟友である台湾を支援することが米国の国益にかなうからだと説明する。さらに太平洋での政治的均衡は米国の国家安全保障にとって重要であり、19世紀以来、アジアでの開かれた経済秩序は米国の海軍力によって補強されてきたと述べ、太平洋諸国が中国政府と手を結ぶなか、太平洋における米国の軍事的地位は圧力にさらされており、米国とオーストラリアなどの同盟国の部隊を脅す拠点を中国が得ることも考えられると懸念を表明する。

 また記事は、米国は、法律を守る世界大国としての中国との共存を望んでいるが、習近平国家主席の中国には、太平洋における米国主導の国際システムを覆し、経済的重商主義と中国の政治的支配を行き渡らせようと狙っている兆しが随所にみられると報じ、コリー・ガードナー上院議員(共和、コロラド州)が台北法の法案を提出したのは、トランプ政権が新型F16戦闘機66機を台湾に売却することを承認してから1カ月余り後のことだと伝える。

 記事は、F16戦闘機売却は、バラク・オバマ前大統領が中国の反発を恐れて承認を控えていた案件だが、中国の反応は抑えられており、トランプ氏の決定は議会で超党派の賛成を得ていると述べ、米国の外交政策に対する拒否権を中国政府に与えなかったトランプ氏は正しいと論評する。習氏は台湾が本土と「再統一」されなければならないと語り、定期的に脅しをかけ、侵攻訓練に似た軍事演習を行っているが、F16売却は中国による台湾占領の抑止に役立ちそうだと述べる。

 中国は、来年の台湾総統選にも介入しようとしているが、中国による今年の香港対応が逆効果になっているとみられ、むしろ再選を目指す蔡英文総統の追い風になり得るとコメントする。記事は最期に、台北法は中国の動きに対する有効な対応であり、アジア・太平洋の米同盟諸国の背後に米国の超党派連合がついていることを示すと指摘する。
 

 以上のように外交面で中国に追い詰められている台湾を擁護するために米上院が立ち上がり、「台北法」を成立させた。法案の背景や内容は上記社説が伝えるとおりだが、台湾の国営通信社「中央社」は926日付日本語サイト記事で、米上院外交委員会が925日、台湾の外交関係を安定させる目的で法案「台北法」(TAIPEI Act)を可決し、これを受け、総統府は26日、中国が外交圧力で台湾の孤立を図るなか、米国の温かい支持を感じ取ったとする感謝のコメントを発表したと報じている。また可決された法案について、事前に公開された内容では、各国との交渉を通じて台湾との国交維持や非政府間交流の強化を相手国の政府に働き掛けるよう米政府に求める内容が盛り込まれていると述べ、台湾との関係見直しを検討する国に対しては、外交関係のレベルの引き下げや停止、軍事的融資を含む支援縮小措置をとる権限を米国務省に与えることを提言していると伝える。同法案は上下両院の本会議を通過し、大統領が署名することで発効するが、今後、どのような効果を発揮するかを見守りたい。



韓 国

☆ 称賛される財政政策

 918日付フィナンシャル・タイムズは、「South Korea’s fiscal boost is a model for others (他国のモデルとなる韓国の財政景気対策)」と題する社説で、最近の韓国経済について、財政規律への強い執着と高齢化、日本と激しい紛争などによって経済的圧力にさらされ、経済成長は消滅、インフレ率は目標を大きく下回り、金融政策はすでに可能な限り役割を果たしている状況にあると述べ、そうしたなかで輸出主導型経済の韓国はどのように対応すべきかと疑問を提起している。さらに世界的な貿易システムの緊張から、韓国は地域の産業大国としてドイツと同じ課題に直面していると指摘し、しかしドイツとはひとつ重要な違いがあると主張する。
 

 両国とも財政緩和の余裕は十分あるにもかかわらず、韓国だけが教科書的な教えを破り、低迷する経済を後押しするために大胆な拡張的予算を組んだと述べ、今週金曜日に気候変動に取り組む方法について大掛かりな発表をする予定のドイツは、韓国の指導者が経済の新しい現実に適応できるスピードに注目するだろうと述べ、さらに次のように論じる。

 財政規律に対する韓国政府の長年のコミットメントは、ドイツ政府すらも赤面させるかもしれない。韓国の全体的予算は20年以上も黒字を維持している。金融危機の間の緩みは、予算を赤字にするほどの規模ではなかった。これほど長い健全財政の記録を持つ主要経済は他にない。ドイツは2014年から一貫して黒字を続けているが、01年から10年までの10年間のうちで7年間は、国民所得の3%を超える赤字を計上した。

 現在、両国は似たような問題に直面している。産業の得意分野はドイツが自動車、韓国がスマートフォンや半導体だが、どちらのセクターも、ドライバーが電気自動車に目を向け、スマホ・ユーザーは新しいモデルを見つけようとして見つけ出せないという、構造的転換に直面している。両国はまた、米中間の貿易戦争の大きな影響を受け、同時に韓国は日本との局所的な紛争、ドイツはブレグジットをめぐる混乱の影響に共にさらされている。

 両国とも不況を避けるかもしれないが、景気は確かに減速に向かっている。消費者信頼感の低下と投資の落ち込みにより、エコノミストは韓国について過去10年間で最低の成長率を予測している。ドイツも輸出受注の落ち込みと建設セクターの停滞のため、成長のペースはこの6年間で最も低迷すると予想されている。

 こうした経済見通しの悪化を受けてドイツは拡大的な姿勢をちらつかせ始めたが、まだコミットするには至っていない。オラフ・ショルツ財務相は先週、経済危機が起これば、我々の健全な財政のおかげで何十億もの資金で対処できるだろう、と語ったが、1%の支出増加計画は、他国の計画と比較して依然として魅力に欠ける。

 韓国政府内では財政保守主義は決定的な終わりを迎えている。韓国は雇用創出や社会福祉、研究開発への支出の増額を計画している。支出は8月に可決された補正予算に続いて、税収の低迷にもかかわらず、さらに8%増加している。このため政府借入は過去最高に達すると予想されており、社会保障基金を含む来年の全体的な財政赤字は、2018年における国民所得の2.8%という黒字からの大転換を記録することになるとみられる。

 財政緩和は、金融政策よりも実体経済への波及に時間がかかるが、そのために重要性が劣ることにはならない。企業や消費者の信頼感は、新たな受注源を求める企業に対して意味のある影響を与えると思われる。インフレと経済成長に対する期待は改善する可能性がある。経済見通しが更に悪化する前に、韓国政府が迅速に行動するのは正しい。グローバルな背景が変わっているのであり、ドイツ政府は韓国政府の変化への意欲も学ぶべきだ。

 以上のように社説は、景気が一段と悪化する前に財政出動に動いた韓国政府を、他国のモデルになると評価する。他国とは、特に健全財政を金科玉条として財政による景気対策を拒否するドイツを指している。しかも韓国は健全財政を20年間も守ってきたと述べ、ドイツを上回る実績だと賞賛する。なお社説は、本体では触れていないが、副題で、今回の支出の一部は日本からの輸入への依存を減らすための公約だと述べている。注目すべきコメントと言えよう。



北 朝 鮮

☆ またもや失敗に終わった米朝協議
 北朝鮮核問題に関する米朝高官協議が105日、8ヶ月ぶりにスウェーデンのストックホルムで開催されたが、数時間も立たないうちに決裂した。同日付ニューヨーク・タイムズ記事は、トランプ主導外交の最近時における挫折だと伝える。記事は、韓国聯合ニュースによると、北朝鮮の交渉団代表である金明吉(キム・ミョンギル)は、交渉は我々の期待に応えられず決裂したと語り、米国は「手ぶらで」到着し、「古い姿勢と態度を捨てなかった」と付け加えたという。

 記事によれば、これに対し米国務省は慎重な言い回しの声明で、待望の協議が失敗したとは言わず、北朝鮮からの「早期のコメント」は「今日の8時間半にわたる議論の内容や精神を反映していない」と反論し、「米国は創造的なアイデアをもたらし、良い議論をした」と述べたが、議論の具体的内容については言及しなかった。また国務省は、交渉進展の障害となったとみられたくないために、米代表団は、非核化だけでなく、朝鮮戦争の正式終結に向けたコミットメントを含む会談の他の諸問題に関する新提案を予め話し合ったと述べたが、これに関する北朝鮮交渉チームの反応については触れなかった。

 上記のように報じた記事は、こうした米側のバラ色の説明にもかかわらず、今回の交渉が宙に浮いたような結果となったのは明らかだと述べ、米側は2週間以内に再交渉すると述べているものの、北朝鮮はそうした発表をしていないと伝える。さらに、土曜日の協議結果は驚くことではないとし、トランプ氏の頻繁な楽観的発言にもかかわらず、北朝鮮はミサイル実験を加速し、核燃料の備蓄を積み増していたと指摘する。


 さらに記事は、米ニュース解説サイト「ヴォックス」(Vox)が、米国交渉団は北朝鮮が主要な原子力発電所を閉鎖し、ある種の燃料生産を停止することの見返りに、北朝鮮の石炭と繊維に対する国連制裁の3年間の停止を求めることを示唆したと伝える。そのうえで記事は、一部の政権関係者によると、今回の新協議の目的のひとつは、北朝鮮の核活動の一時的な凍結に至る新提案を試みること、すなわち、協議が長引く間、北朝鮮の核能力を増加させないことにあったと報じ、18年6月のシンガポールにおける最初の米朝サミットでの凍結交渉の失敗が、トランプ大統領の交渉アプローチの重大な欠陥だと多くの専門家が考えていると伝える。

 また記事は、ハノイ・サミットで金委員長は、経済制裁の終了と引き換えに、寧辺にある主要原子力生産施設の閉鎖を提案し、トランプ氏は、この取引を受け入れようとしたが、当時のボルトン大統領補佐官とポンペオ国務長官が、それでは寧辺以外の核施設の存在と30から60の核兵器の保有を北朝鮮に認めたことになると非難されると説得した経緯があると伝える。

 105日付英エコノミスト誌も、希望に満ちた米朝協議はまたもや失望に終わったと報じる。記事は米朝交渉の現状を、スイッチが入ったり切れたりする外交と評し、米国が楽観論に固執する間、北朝鮮はせっせと核兵器を増やしていると危惧する。今回の協議結果については、北朝鮮は米国が「時代遅れの視点と態度」を放棄しなかったと主張し、しかも不吉なことに、北朝鮮の核交渉責任者は、北朝鮮が長距離ミサイル発射実験に対して自ら課したモラトリアムを年末以降も守るかどうかは、アメリカの行動に完全に依存していると強調したと伝える。これに対し、米国務省は数時間後に穏健な声明を発表し、詳細を明かさずに、両者は「良い議論」を交わし、米国はいくつかの「創造的なアイデア」を交渉のテーブルに持ち込んだと主張、数週間のうちに再び会合を開くだろうと述べたと報じる。

 さらに記事は、米朝の発表内容が矛盾するのは、両者間に相変わらず距離があることを示唆していると述べ、北朝鮮は「変化した」アメリカの態度を期待して新しい協議に入った一方、アメリカは、北朝鮮が何らかの譲歩を受ける前に、非核化に向けてどのような措置を取らなければならないかについて話し合いたいと考えていたと指摘する。

 記事は最期に、最近における北朝鮮による一連のミサイル発射実験に触れ、北朝鮮の脅威の明らかなエスカレーションだと述べ、実務レベルの協議はまだ再開されるかもしれないが、北朝鮮との突破口を先取りするどころか、トランプ氏の首脳会談主導の外交は、単に非難の一時的中断を提供しただけだということが、ますます明らかになっていると批判を強める。

 以上のようにメディアは先ず、今回の米朝協議の結果について米朝の発表内容が矛盾するのは、両者間に相変わらず距離があることを示唆していると指摘、交渉は宙に浮いたような結果となったのは明らかだと述べ、米朝交渉の現状を、スイッチが入ったり切れたりする外交と評する。さらに米国が楽観論に固執する間、北朝鮮は核兵器を増やしていると懸念を表明、そうなった一因は、シンガポールにおける最初の米朝サミットでの凍結交渉の失敗にあるとし、トランプ米大統領の首脳会談優先外交の欠陥だと批判する。また米政権関係者によると、今回の協議の目的のひとつは、北朝鮮の核活動の一時的な凍結に至る新提案を試すこと、すなわち、協議が長引く間、北朝鮮の核能力を増加させないことにあったと報じているのも注目される。特に、北朝鮮が長距離ミサイル発射実験に対して自ら課したモラトリアムを守るかどうかは、アメリカの行動に完全に依存していると強調しているのも見逃せない発言であり、今後とも続くと予想される北朝鮮の核ミサイル力の強化を、いかに食い止め、その解体に向けた交渉を正しい軌道に乗せていくかが当面の最優先課題と言えよう。



東南アジアほか


マレーシア

 レアアース資源生産を優先する政府
 数ヶ月にわたる論争の後、政府は8月、オーストラリアのレアアース(希土類元素)資源開発を行うライナス・コーポレーション・リミテッド社(本社:豪州ニューサウスウェールズ州シドニー、Lynas Corporation Limited。以下、ライナス)が所有する処理施設の操業免許は、現在の3年間から6か月間の延長に止めると発表した。しかしライナスの閉鎖を望むマレーシアの草の根の組織でさえ、同社はおそらくそれを超えて、少なくとも4年後の免税期間が終了するまで存続するだろうとの悲観的な見解を示している、と107日付フィナンシャル・タイムズ記事は伝える。

 記事によれば、ライナスは2012年以来、西オーストラリアの鉱山からマレーシア東海岸のクアンタンの工場に希土類を出荷していたが、コミュニティグループは、工場が稼働を開始するずっと前から、希土類生産の副産物である放射性物質が公衆衛生のリスクになると主張していた。このため政府はライセンス延長に当たり、企業が環境問題への懸念に対処することを条件としていた。それには、放射性廃棄物を生成するクラッキングおよびリーチング施設を4年以内にマレーシアから撤去すること、現在クアンタンのサイトに保管されている約60万トンの放射性残渣を処理するための恒久的な処分施設の建設、またはそれを利用する他国の探索が含まれている。

 ライナスは、中国を除き世界最大のレアアースのメーカーで、米中の緊張が高まったことで、その強みがにわかに注目を浴びたのである。中国は17のレアアースについて世界推定埋蔵量のほぼ40%を保有している。レアアースは、その特性により風力タービン、スマートフォン、電気自動車の製造に使用される磁石など、幅広い民間産業向けの用途が可能とされ、軍事機器にも使用されている。

 こう報じた記事は、ライナスの操業免許の延長は、論争はあったものの、マレーシア政府が許可する可能性は十分推測されていたと述べ、それは発表のタイミングが雄弁に物語っていると伝える。5月中旬、米中貿易戦争が激化した直後、習近平国家主席は江西省の希土類工場を鳴り物入りで訪問し、また中国の国家発展改革委員会は、その輸出が交渉材料になる可能性を示唆していたと述べ、これは論争の的となっている尖閣諸島(中国では釣魚島)に対する日本との緊張の中で、中国がレアアースの輸出割当を削減した2010年の動きと呼応していると指摘する。そして習氏のツアーのわずか10日後、マハティール・モハマド首相は日本訪問時に免許が延長されると語ったと報じる。

 なおライナスのプラントは、6月末までの12か月間に2万トン近くの希土類酸化物を大量生産し、これは昨年全体の世界の非中国産出量の41%に相当すると記事は伝える。また、この間の事情について、シンガポールの国際問題研究所の上級研究員オ・エイ・サンは、「希土類加工は世界的に新しい戦略的役割を担っている。マレーシアはそのようなゲームチェンジャーを手放す余裕はなく、そうしたレアアース生産の戦略的側面が再び強調されたため、6ヶ月後にライナスのライセンスを更新する可能性が高い」と語っていると報じる。

 以上のように、マレーシア政府は、環境関連の反対意見よりも、低炭素のハイテク関連産業に不可欠とされるレアアースの戦略的価値に着目する決定を下したと言えよう。マレーシア自体にとっても、今後の有力資源として重要であるが、いかに環境問題をクレアしていくかに注目したい。



インド

☆ 国有銀行の管理を緩めない政府
 この夏、インドはインディラ・ガンディ元首相が始めた銀行国有化から50年目を迎えた。14の大銀行と銀行システムにある預金の85%を一夜にして国の管理下においたのである。その大義名分は、銀行サービスを地方にもたらし、貧困撲滅活動に信用を供与するためとされた。

 9月23日付フィナンシャル・タイムズはこう報じて、さらに現在では、多くのエコノミストが銀行制度の国有化は時代遅れになったと述べ、インド経済が大きく落ち込み、銀行が1500億ドルもの不良債権を抱えるなか、如何にこの危機に対処し、成長加速に向けて銀行制度の足元を健全にすべきか、という議論が激しさを増していると概略次のように伝える。

 多くのエコノミストは、インドの銀行制度は銀行の不良債権を肩代わりする「バッド・バンク」の創設を含む包括的なクリーンアップ計画が必要になっていると指摘している。因みに不良債権は、銀行制度の総資産の9.3%、国有銀行の全ポートフォリオの12.6%を占めている。また商業銀行は新規貸出を推進するために新たな資本金を必要としている。さらに中央政府に対しては、金融資源の配分に関する権限を弱め、銀行セクターへの民間参加の拡大を求める声が高まっている。

 こうしたなか、昨年と今年7月に大手国有銀行、パンジャブ国立銀行(Punjab National Bank)に2件の詐欺事件が発生、国有銀行の時代遅れの技術と弱体なリスク管理が露呈し、公的分野の銀行の存在意義について元準備銀行(中銀)総裁のD.スバラオが疑問を呈した。同氏は、国有銀行は依然として銀行システムにおいて70%のシェアを維持しているが、業界専門家は、政治の影響下にある融資が何年も続いた結果、国有銀行は融資の意義について的確に判断できなくなり、それがまた深刻な信用リスクの回避を生み出し、雇用創出と経済成長を妨げてきたと指摘している。

 国有銀行は前政権時代に長期のインフラプロジェクトに融資を実行し、多くが不良債権化した。しかしモディ政権はこの問題に取り組もうとせず、経済成長が低迷しているにもかかわらず、成長が加速すれば、簡単に解決すると期待しているとアナリストは指摘している。不良債権は昨年、最大で銀行業界の総資産の11.6%に達した。ただし2016年の新破産法によって銀行は債務不履行を起こした企業の資産差し押さえが可能となり、これが不良債権の回収率を高めた。

 また91年以降に始まった自由化措置によって規制緩和が進められてきたが、政府は国有銀行に対する厳しい管理を緩めようとしていない。国有銀行の大規模な民営化は推奨されてはきたが、政治的サポートは得られなかった。これに対し、専門家は銀行部門を民間企業に開放することで市場に競争をもたらすような政治的に受け入れやすい方法を示唆している。こうした状況のなか、政府は8月30日、国有銀行10行を経営管理が向上した4つの少数行に合併集約するという野心的計画を公表した。ニルマラ・シタラマン財務相は、資本金で強化するだけでなく、完全に良好な企業統治を銀行に持ち込むと語っている。しかし合併が銀行の基本的欠陥への取り組みに役立つのか、あるいは、政府による銀行経営への介入に法的制約がまったくない、などの批判的見方が提起されている。

 上記のように報じた記事は最期に、成長や収益の落ち込みが予想されている現在の経済環境では、新たな不良債権の発生懸念が高まっていると述べ、ただし先週末に発表された200億ドルに達する法人税の包括的減税計画によって企業収益が改善し、沈黙していた投資が復活する可能性があり、それは銀行を後押しするだろうと指摘する。しかし総合的にみると、銀行の体質強化と復活への道のりは依然として長いと述べ、景気が減速する状況では、銀行業界は新たな圧力を受ける、との専門家の見方を伝える。

 以上みてきたように、インド銀行業界は相変わらず国有銀行が幅をきかし、そうした銀行を政府が依然として支配管理している。経済は低迷し、インド準備銀行は金融緩和政策に動き、政府も法人税の減税などを打ち出しているが、銀行行政では、ようやく国有銀行の合併集約に動き出すにとどまっている。専門家は、それでは基本的問題の解決にはいたらないと指摘し、国有銀行の民営化や民間部門の参入促進などの施策が必要だと主張している。モディ政権の今後の対応に注目したい。

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主要紙の社説・論説から

量的緩和策を再開した欧州中央銀行 その2
 前号で取り上げた欧州中央銀行(以下、ECB)の量的緩和策再開に関して、主要メディアは引き続き社説や論説を発表しているので、以下にそのいくつかを紹介する。

 フィナンシャル・タイムズは917日付の「Backlash against ECB stimulus is misplaced(ECB景気刺激策に対する反発は的外れ)」と題する社説で、ECB理事会は大衆迎合的な(ポピュリズム)スローガンを支持するリスクを冒してはならないと主張、ドラギ総裁は過去8年間の任期中、頻繁に批判されてきたが、その正しさが証明されるのが常だったと述べ、今回の景気刺激策を擁護する論調を概略次のように展開する。

 ECBが先週発表したマイナス金利の深堀りと資産購入再開を骨子とする金融緩和策に対して、直ちに激しい反発が起きた。ドイツのタブロイド日刊紙ビルドは、ドラギ総裁を吸血鬼のドラキュラ伯爵に喩えて、ドイツの貯蓄者の預金を吸い上げる「ドラギラ伯爵」と表現し、オランダの大衆紙テレグラフは,ドラギ総裁はユーロ圏諸国の怒りを無視する「独裁主義者」ではないかと非難したが、ドラギ氏の8年間にわたる任期でよく聞かされてきたことだ。金利は史上最低の水準に引き下げられて貯蓄者の怒りを買い、あるいはまた、ECBは資産市場を歪曲し、ゾンビ企業を生き長らえさせたと非難されてきたのだ。

 しかし今回は、従来と異なり多数の理事会の同僚がメディアの批判に加わった。オランダ中央銀行のクラース・クノット総裁は理事会の翌日に声明を発して「過剰」だと述べ、ブンデスバンクのワイドマン総裁は「行き過ぎ」、オーストリア国立銀行(中銀)のロバート・ホルツマン総裁は「おそらく、間違いだ」とそれぞれ批判した。ただし、こうした公の批判と対照的に、フランス出身の2人の理事会メンバーは会合前には刺激策の必要性について疑問を呈したが、その後は理事会全体の決定を支持している。中銀にとって何が正しい行動か、という命題に関する議論は欠かせないが、理事会メンバーが会合後、24時間も経たないうちに批判的声明を発するのは無益で不要だ。
  

 こう論じた社説は、上記の中銀総裁らに向けて、改めて以下のように警告を発する。総裁らの反対意見の意図が、低金利にうんざりした国内大衆へのアピール、あるいはクリスティーヌ・ラガルドがドラギ氏を引き継ぐ前に発した警告であったとしても、中央銀行総裁は大衆受けを狙うようなことをすべきではない。ECBの決定に対して知識経験に基づく批判があるのはもっともだが、理事会メンバーは、安易な大衆迎合的なスローガンを容認するとみられる行動を差し控えるべきだ。

 さらに社説は、批判派はユーロ圏経済では設備がフル稼働し、賃金も上昇、経済は全く悪くないと指摘、ECB景気刺激策は時期尚早だと主張するが、これは独りよがりの見方だと述べ、今年の経済見通しについてECBは何度も下方修正し、インフレもECB目標の2%を下回っていること、さらに米中貿易戦争や合意なきブレグジットのリスクなどを挙げ、ECBが慎重過ぎるぐらい慎重になるのは、当然だと反論する。

 101日付英ガーディアンも社説「The Guardian view on eurozone populism: fight it with fiscal firepower(ユーロ圏のポピュリズムには、財政の火力で戦おう)」で、ポピュリズムの脅威に対処するために財政政策が必要だと訴えるドラギ総裁の後継者、クリスティーヌ・ラガルド現IMF専務理事のコメントを引用し、ポピュリズムの動きを批判すると共に、その脅威に対処するために財政出動が必要だと概略次のとおり論じる。

 ドイツの大衆紙ビルドは先月、退任するECBドラギ総裁をドイツ貯蓄者の銀行預金をマイナス金利で吸い上げる吸血鬼、「ドラギラ伯爵」としてセンセーショナルに報じた。同紙は翌日、ドイツ連邦銀行(中銀)総裁とのインタビュー記事を掲載し、「我々のマネーが危険にさらされている」とのメッセージを喧伝した。欧州最大の経済圏で、ECBが金融緩和を通じて貯蓄者を罰していると認識されているのは疑いなく、主だった政治家たちがポピュリストから攻撃されているのだ。しかし、最近発表された経済データによれば、ドラギ氏が正しく、ドイツの心情が間違っている。

 欧州の不況入りリスクが高まっているのは明らかだ。ユーロ圏製造業は、この7年間で最悪の打撃を受け、インフレは3年ぶりの低水準に落ち込んでいる。ドラギ氏は数年間、金融政策を通じて低迷するユーロ圏経済のてこ入れに努力し、先月にはマイナス金利をさらに引き下げ、債券買い取りプログラムの再開を決定した。しかしユーロ圏の問題は、エコノミストが指摘するように、「信用の伸びの低迷と、それがファイナンスの供給コストよりも信用できる借り手からの需要不足に起因する」ことにある。これは政府が需要喚起のために介入することで一部解決できる。ドラギ氏が、もはや金融政策だけでは持ちこたえられないと語り、ユーロ圏の需要持続のために財政政策が主たる経済手段となるべきだ、と呼びかけたのが正しいのだ。

 こう論じた社説は、さらにユーロ圏加盟19カ国の国内事情に触れて、失業率はドイツでは低いが、イタリーとスペインでは若者の3分の1が失業し、低金利が住宅価格の高騰を招くと懸念する国がある一方、高い借り入れコストで打撃を受けている周辺国があるとし、こうした加盟諸国の国内事情から欧州は需要喚起のための政府予算の活用を否定してきたと述べ、そのためにドラギ氏の呼びかけが挑発的になると指摘する。

 次いで社説は、ポピュリズムのEUに対する脅威に触れ、政府はもっと人々の不安感や混乱に対して寄り添うべきだと主張し、ドラギ氏の後任者ラガルドは財政政策で「ポピュリズムの脅威に対処する必要がある」と語り、EU内ではフランスのマクロンが2年前、「欧州の財政政策には制約があり過ぎ、我が国の失業者が代償を支払っている」と認めたが、これは評価に値すると述べる。マクロン氏は国内で痛みを伴う改革を実行しているが、ユーロ圏では財政力を活用した数千億ユーロ規模の刺激策というバズーカ砲の実施について合意を得ることに失敗し、ユーロ諸国が6月に合意したのは170億ユーロの豆鉄砲というべき刺激策だったと述べ、借金国に対するドイツ流の 煩わしい財政規則を緩めた方がよいと主張する。

 そのうえで社説は、欧州では2008年以降、政治的分断が拡大しており、その橋渡しには,欧州の結集と連帯を促進する欧州内の勢力均衡と思考の転換が必要だと述べ、政治家は経済のトラブルが続く現在の状況を好機として捉えなければならない、と提言する。

 以上のように917日付フィナンシャル・タイムズ社説は、今回のECB政策に対する反発は的外れだと断じ、特に超低金利にしびれを切らす大衆へのアピールやラガルドECB次期総裁への警告を狙ったと思われるオランダ、ドイツ、オーストリア中銀総裁の発言に触れて、ECB理事会メンバーは大衆迎合的なスローガンを支持するとみられる言動を控えるべきだと厳しく批判する。またユーロ圏経済は順調で刺激策は時期尚早との批判派の主張は、独りよがりの見方だと一蹴し、今年の経済見通しの度重なる下方修正、2%のインフレ目標未達、米中貿易戦争、合意なきブレグジットのリスクなどを挙げ、ECBが慎重過ぎるぐらい慎重になるのは、当然だと擁護する。

 またガーディアン社説も、最近発表された経済データによれば、欧州の不況入りリスクが高まっているのは明らかであり、景気刺激策を打ち出したドラギ氏が正しく、これに反対するドイツの心情が間違っていると主張する。欧州が直面する問題として政治面でのポピュリズムの攻勢と経済面では信用需要の不足を挙げ、これらの政治、経済問題に対処するために、ラガルド次期ECB総裁の訴えを引用して、財政政策の力を借りる必要があると強調する。

 確かに、ユーロ圏経済の不況入りリスクは一段と高まっており、今回のECBによる超金融緩和政策の再開は妥当であり、むしろメディアが指摘するように金融政策頼みだけでは不十分な局面にあるといえよう。その意味で、信用需要不足の観点とポピュリズムの脅威に対処するために財政出動の必要性を訴えるガーディアン社説には説得力がある。特に、社説が主張の根拠として挙げたラグルド次期ECB総裁の訴えは十分注目に値する。まさに国際通貨基金(IMF)専務理事を務めて財政政策の得失を熟知している同氏ならではの提言といえよう。

               § § § § § § § § § § 

(主要トピックス)

2019
916日 ソロモン諸島、台湾と断交、中国と国交樹立。
 
  18日 トランプ米大統領、日米限定的貿易協定の締結意向を議会に通知。
     韓国政府、日本を優遇対象国から除外すると発表。
 
  20日   中国人民銀行、政策金利である最優遇貸出金利(ローンプライムレート、LPR)の
          1年物を4.25%から4.2%に引き下げ。

  
21日 インド政府、景気対策として2兆2千億円規模の法人減税を発表。 
  
23日 トランプ米大統領、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領とニューヨークで会談、
         北朝鮮に対し武力を行使しないという従来の約束を改めて確認。

   
25日 訪米中の安倍首相、トランプ米大統領とニューヨークで会談、
         日米貿易協定の締結で合意。米国による自動車への追加関税の回避、米国産牛肉や
         豚肉への関税を環太平洋経済連携協定
(TPP)と同水準に下げることなどを確認。

      米上院外交委員会、台湾の外交関係安定化を目的とする法案「台北法」(TAIPEI Act)を可決。
   29日 「逃亡犯条例」改正案への反対をきっかけとする抗議活動が続く香港で
          大規模な事実上の反中デモ。

          台湾でも香港支援デモ、主催者発表で参加者は10万人に上る。

101日 中国国慶節。建国70周年記念日で軍事パレードを実施。
  
2日 北朝鮮の朝鮮中央通信、新型潜水艦発射弾道ミサイル「北極星3」の試験発射に成功と報道。  
   
4日 香港政府、「緊急状況規則条例」を発動、これにより「覆面禁止規則」を5日より施行。
   
5
日 米朝実務者協議、開催(スウェーデンのストックホルム)
         北朝鮮は米姿勢に変化なしとして「交渉は期待に沿わず、決裂した」との認識を表明。

   8日 日本政府、外為法改正案を策定。外資による安全保障上重要な日本企業への出資規制を
     強化。株式の
10%以上保有としている出資の事前審査を「1%以上」に厳格化。

  10日 米中閣僚級貿易協議、開催(ワシントン)
  11日 トランプ米大統領、貿易協議の中国代表、劉鶴副首相と会談。
  12日 台風19号襲来、列島に甚大な被害。企業活動に影響、臨時休業や工場停止 
       14日 韓国の曺国(チョ・グク)法相、家族を巡る不正疑惑の深まりで辞任。



 主要資料は以下の通りで、原則、電子版を使用しています。(カッコ内は邦文名)
THE WALL STREET JOURNAL(ウォール・ストリート・ジャーナル)、THE FINANCIAL TIMES(フィナンシャル・タイムズ)、THE NEWYORK TIMES(ニューヨーク・タイムズ)、THE LOS ANGELES TIMES (ロサンゼルス・タイムズ)、THE WASHINGTON POST(ワシントン・ポスト)、GUARDIAN(ガーデイアン)、BLOOMBERG・BUSINESSWEEK(ブルームバーグ・ビジネスウイーク)、TIME (タイム)、THE ECONOMIST (エコノミスト)、 REUTER(ロイター通信)など。なお、韓国聯合ニュースや中国人民日報の日本語版なども参考資料として参照し、各国統計数値など一部資料は本邦紙も利用。ou\            


前田 高昭
金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。
訳書に『チャイナCEO』他。
『東アジアニュースレター』配信中。 

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