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東アジア・ニュースレター ― 海外メディアからみた東アジアと日本 ― 第104回

2019/08/22

連載 東アジア・ニュースレター  
― 海外メディアからみた東アジアと日本 ―


第104回

前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト      
バベル翻訳大学院プロフェッサー
 

 
 中国と米国の貿易戦争が通貨戦争へとエスカレートした。米財務省は8月5日、中国を為替操作国に指定した。メディアはトランプ政権の為替操作国指定を批判するが、同時に中国経済も追い込まれていると指摘する。米国は、FRBによる利下げなど金融政策で動く余地があるが、不動産分野で問題を抱える中国は、関税の脅威に対処するために金融緩和や財政出動を打ち出すのがむずかしく、通貨安で対応していると指摘する。


 台湾最大野党、国民党は次期総統候補を選ぶ予備選で、有力視されていた鴻海精密工業の郭台銘会長ではなく、高雄市長の韓国瑜氏を正式総統候補に選出、同氏が来年1月の総統選で与党、民進党の蔡英文現総統に挑戦することになった。韓氏は、郭氏よりも中国寄りの姿勢を鮮明にしており、こうした姿勢が独立指向を強める蔡総統との選挙戦で、どのような影響を与えるか、また敗れた郭氏が無所属で立候補するとの噂もあり、総統選の行方は混沌としている。

 韓国銀行が政策金利の引き下げを発表した。引き下げは3年ぶりで、引き下げ幅は0.25%。背景に、日本のハイテク製品の韓国向け輸出制限や中国経済の減速などに伴う韓国経済の先行き不安感があり、低迷する経済を浮揚させるため韓国銀行に利下げを求める圧力が高まっていた。また国会が補正予算を政争のために可決できないという財政対策の遅れも背景にあるとメディアは伝える。
 

 北朝鮮関係では、次期米大統領選に立候補した民主党有力候補者北朝鮮政策に関する調査結果をメディアが報じる。20人を超える立候補者の中から有力7人について世論調査での支持率のほぼ順位に従って見解を紹介している。いずれも外交的解決同盟諸国との協調を唱え、金委員長との会談も辞さないとする候補者もみられた。直接会談の表明はトランプ氏に対抗する発言と思われるが、トランプ外交の上を行くと思われる新味のある政策表明はみられなかった。

 東南アジアなどアジア・太平洋地域で、政策金利の引き下げに動く中銀が増加している。タイ、インド、ニュージーランドの中銀が87日、次いで8日にはフィリピン中銀が政策金利の引き下げを決定、メディアは、世界の緩和サイクルが加速しそうだと論評する。共通の背景としてマイナス金利の採用など超金融緩和に動いていた米欧の金融当局が再び金融緩和に向かっていること、米中貿易戦争によるグローバルな景気低迷のため輸出依存度の高い経済圏で経済成長が鈍化していることなどが指摘されている。

 インドは、中国における製造コスト上昇や米中貿易戦争の余波によって中国に代わり対米輸出を増やすという機会を活用できていないとメディアが指摘する。ベトナムなどの東南アジア諸国はそうした恩恵を全面的に享受しているが、インドが活用できない理由としてメディアは、インフラの隘路を挙げる。
 
 主要紙社説・論説欄
は休載します。


           § § § § § § § § § § 

北東アジア


中 国

 通貨戦争にエスカレートする米中紛争
 米財務省は8月5日、中国を為替操作国に指定した。中国の為替操作国指定は1994年以来で、同省は過去10年間にわたって中国が為替操作国に該当するかどうかについて検討してきていた。他方、この決定に先立って人民元は、心理的節目とされていた1ドル=7元を割り込んでいた。こうした一連の動きについて、主要英文メディアは概略次のように報じ、論じている。まず、まとめを、次いで詳細をお伝えする。

 まとめ:メディアは先ず、トランプ政権による為替操作国指定の引き金を引いた人民元安について、中国は米国が発動した第4弾の関税制裁に対抗して通貨を兵器化し、貿易戦争を長引かせるという決意を示したとし、人民元安は貿易戦争がエスカレートした論理的結果だと論評、中国は人民元の管理の手綱を緩めて、元安を放置するだろうとの多くのエコノミストの見方を紹介する。その一方、人民元が心理的節目を割り込んだのは、経済成長率の鈍化という経済基調に沿った措置、もしくは中国の対米貿易の減少と中国経済の成長鈍化に伴う世界的な人民元の需要低下を中国政府と市場が認識したことの表れであり、中国輸出企業にとっては朗報となるとの見方も示す。ただし中国は人民元への信認低下を警戒して大幅な低水準へ誘導しないだろうみる。

 トランプ米政権による為替操作国認定自体については、トランプ大統領は元安を好ましくないと言うが、それは自身の関税政策が生み出したものだとし、
中国を公式に為替操作国と認定することで対立を深刻化させたと批判する。また米財務省の為替操作国の認定には一定の基準があるが、中国がそれに該当しているとは思えず、認定そのものに操作の余地があるとも批判する。さらに為替の圧力が引き金となってドルやその他の通貨建ての債務にデフォルトの波が起これば、中国経済は打撃を受け、ポスト毛沢東時代で初のリセッション(景気後退)が起きる恐れがあると警告する。

 中国経済の現状についてメディアは、中国経済は健全で底力があり、中国政府は人民元安の容認により長引く貿易戦争への準備を整えたことを発信し、経済成長を安定させ、貿易戦争で米国と対決し、住宅市場での行き過ぎは抑制する、という方針で臨もうとしていると述べるが、こうしたこと全てを同時に実行に移すことは難しくなっていると指摘する。
 
 次にメディアの報道や論調を具体的にみていく。
6日付フィナンシャル・タイムズは「China shows its strength by allowing the renminbi to slide(底力を発揮する中国、人民元安を容認)」と題する社説で、中国経済は減速しているものの、米国との貿易紛争によく耐えていると述べ、1ドル=7元の相場水準を突破した元安の経済への影響は限定されるだろうと論じる。

 社説は、米中貿易戦争は様相を新たにしたと述べ、それは人民元のためだと指摘、人民元が目安とされていた1ドル=7元を割り込み10年来の安値に下落したが、それは中国経済の致命的な弱さや金融政策の基本的転換を意味せず、米国が発動した第4弾の関税制裁に対抗して、通貨を兵器化し、貿易戦争を長引かせるという中国政府の明確なサインだと述べる。

 さらに社説は、中国人民銀行(中央銀行)は声明文で、元安の理由として保護主義と関税を挙げるとともに、元を基本的に妥当でバランスのとれた水準で安定的に維持する経験、自信そして能力を持っていると強調したが、これは全く妥当と思われると述べ、通貨安は貿易戦争がエスカレートした論理的結果だと主張する。また中国の貿易黒字は拡大を続け、経常黒字も減少から増加に転じており、とりわけ外貨準備は3兆ドル程度で安定し、元に対する圧力は存在しないと指摘、中国経済は、貿易は低下しているが、消費志向経済への循環が経済成長低下の圧力を弱めていると論じる。

 次いで社説は、経済成長の緩やかな減速は中国において継続する所得水準の収斂とも合致していると述べる。さらに中国が輸出増のために通貨安を意図しているのであれば、もっと大幅な元安が必要になるとし、元は通貨バスケット対比ではほとんど動いていないと指摘する。ただし元の心理的節目突破は世界の通貨、株式市場などに大きな影響を与えたことは事実だとし、貿易戦争による不確実性が長引けば、グローバル経済への打撃は大きくなると述べ、また大幅な通貨安が持続すれば、世界経済全体を不安定化させると指摘し、中国は米国だけでなく、他の貿易相手国に与える影響にも配慮すべきだと強調する。

 上述のようにフィナンシャル・タイムズは、中国経済は健全で底力があり、人民元安は貿易戦争がエスカレートした論理的結果だと主張、中国は米国が発動した第4弾の関税制裁に対抗して、通貨を兵器化し、貿易戦争を長引かせるという決意を示したと論評する。6日付フィナンシャル・タイムズは「China shows its strength by allowing the renminbi to slide(底力を発揮する中国、人民元安を容認)」と題する社説で、中国経済は減速しているものの、米国との貿易紛争によく耐えていると述べ、1ドル=7元の相場水準を突破した元安の経済への影響は限定されるだろうと論じる。

 
87日付ニューヨーク・タイムズは、中国は貿易戦争が荒れ狂う限り通貨安を続けるとのメッセージを発信したと報じる。記事は、中国人民銀行は8日、人民元の基準値を前日の1ドル=6.9996元から7.0039元に設定したと述べ、こうした元の切り下げは、トランプ関税によって上昇する中国の生産コストを相殺する効果があるためトランプ政権の怒りをさらに買いそうだと指摘する。また中国の動きは、さらなる通貨安を示唆し、対ドル相場が7.5元から8元へ下落する可能性があるために、今後数週間にわたって人民銀行の日々の基準値に注目が集まるだろうと述べ、トランプ政権は中国を為替操作国に指定したが、多くのエコノミストは、中国は人民元の管理を引き続き弱めていくだろうとみていると伝える。

 
88日付ウォール・ストリート・ジャーナルは、トランプ米政権による為替操作国の認定は貿易協議や市場にどのような意味を持つのかと問題提起し、第1に、中国の輸出企業には朗報となると述べる。痛手を受けている中国の輸出業者にとっては、輸出品の価格低下につながるのであれば、たとえわずかでも人民元の切り下げは歓迎すべきことだとアナリストらは話しており、為替調整は、国外での社債発行を望む企業にも、返済コストの上昇を避けるため、再考を促す可能性があると伝える。

 ただし、アナリストによると、中国政府にとって現在の主なリスクは、米国の怒りを買うこともそうだが、人民元への信認が損なわれ、消費者と企業の間に人民元の先安観が醸成されることであり、そのためアナリストは一段の人民元安を予想する一方で、中国政府が大幅な低水準に誘導するとはみていないと報じる。

 記事は、人民元が
5日、1ドル=7元を割り込み、08年以来の安値を付けたが、これは経済基調にも同調していると述べ、中国の第2四半期経済成長率がほぼ四半世紀ぶりの低水準に落ち込み、人民元は5日のオフショア取引で約3%下落、投資家は人民元の交換レートに影響力を持つ中国の政策立案者が、米中貿易紛争の沈静化という望みを捨てたと結論付けたと伝える。

 上記のようにウォール・ストリート・ジャーナルは、人民元が心理的節目を割り込んだのは、経済成長率の鈍化という経済基調に沿った措置だが、輸出企業には朗報だと述べ、ただし人民元への信認低下を警戒して大幅な低水準へ誘導しないだろうとみている。
  
 同紙は別途、「
Trade War Becomes Currency War(日本版記事:米中対立、貿易戦争から通貨戦争に)」と題する6日付社説で、トランプ氏の貿易戦争は今や通貨戦争となり、そこから生じうる経済的打撃のレベルは新たな段階に引き上げられたと冒頭で述べ、人民元安は報復措置というよりは、中国の対米貿易の減少と中国経済の成長鈍化に伴う世界的な人民元の需要低下を中国政府と市場が認識したことの表れであり、トランプ氏は元安を好ましくないと言うが、それは自身の関税措置が生み出したものだとし、中国を公式に為替操作国と認定することで対立を深刻化させたと批判する。

 ただし社説は、元相場のあまりにも大幅な下落は、中国の債務者が外貨建て債務を返済するのが難しくなり、債務危機を引き起こす恐れがあるため、当局は大幅な元安を望まないはずだと指摘、国際金融協会(
IIF)によると、金融機関以外の中国企業のドル建て債務は国内総生産(GDP)の6%に相当する8000億ドルに上り、中国の銀行のドル建て債務は同5%相当の6700億ドルに達すると見込みだと報じる。為替の圧力が引き金となってドルやその他の通貨建ての債務にデフォルトの波が起これば、中国経済は打撃を受け、ポスト毛沢東時代で初のリセッション(景気後退)が起きる恐れがあると警告する。さらに社説は、元安は韓国のウォン安や日本の円高を招くなどの影響に触れ、外為市場は行き過ぎになる傾向があり、そうなれば予期せぬ犠牲者を生むと懸念を表明する。

 
8日付エコノミスト誌は「The guns of August, The trade war escalates, and the fog of war descends(8月の号砲でエスカレートする貿易戦争、立ち込める戦争の霧)」と題する記事で、米国が中国を為替操作国に認定したことで市場は卒倒し、平和な夏を求めた投資家の希望は露と消えたと報じる。記事は、中国は関税の脅威に対処するために人民元安を導いたと指摘、人民元安の容認により長引く貿易戦争への準備を整えたことを発信したと述べる。またトランプ大統領が発動した第4弾の関税の中国経済に与える影響について、2020年の経済成長率が少なくとも0.3%ポイント減少し、90年以降で初めて6%台を切る可能性があるとのUBS試算を伝える。

 記事はさらに、低迷する経済を後押しするために中国政府は既に減税やインフラ支出増、信用抑制策の緩和などの施策を打ち出しているが、過去の不況時に経済を浮揚させた不動産市場の拡大には消極的だとの市場関係者の見方を伝える。住宅市場は手が付けられないほど上昇し、開発業者は懸念を呼ぶ水準にまで負債を積み上げているからである。そのうえで記事は、要するに、中国政府は、経済成長を安定させ、貿易戦争で米国と対決し、住宅市場での行き過ぎは抑制する、という方針で臨もうとしているが、こうしたこと全てを同時に実行に移すことは難しくなっていると指摘する。

 他方、米国ではトランプ大統領が連邦準備理事会(FRB)に対して人民元安に対処するよう求めているが、為替問題は財務が所管しており、
FRBは傍観を決め込んでいるものの、その決定はドルに対して多大な影響力を持っており、貿易戦争による不確実性が経済に対する信認や支出に悪影響を及ぼすことがあれば、いずれにせよ利下げに動くだろうと指摘する。記事は最後に、米財務省の為替操作国の認定には一定の基準があるが、中国がそれに該当しているとは思えず、認定そのものに操作の余地があると論評する。

 以上のように、メディアはトランプ政権による中国の為替操作国指定を批判するが、同時に中国経済も追い込まれていると指摘する。米国は、
FRBによる利下げなど金融政策で動く余地があるが、不動産分野で問題を抱える中国は、関税の脅威に対処するために金融緩和や財政出動を打ち出すのがむずかしく、通貨安で対応していると言える。まさに元安はトランプ関税が必然的に生み出した産物であり、世界は貿易戦争に通貨戦争が加わる危険な局面に入ったと言えよう。

台 湾

 国民党、総統候補に高雄市長の韓氏を選出
 最大野党の国民党は7月15日、次期総統候補を決める予備選を実施した。同党の総裁候補としては鴻海精密工業の郭台銘会長と親中派とされる高雄市長の韓国瑜氏など5氏が立候補していたが、韓氏が有力視されていた郭氏を破り、同党の次期総統候補となった。同氏は来年1月の総統選で与党、民進党の蔡英文現総統と対決することになる。

 15日付フィナンシャル・タイムズは、敗れた郭氏は無所属で総統選に出馬する可能性があり、そうなると国民党陣営が分断され、民進党の蔡総統に有利に働くと報じる。記事によれば、5氏による激しい選挙戦の中で親中派のメディアから圧倒的な支持を得た韓市長が政治的スターとして頭角を現し、平均支持率44.8%を得て選出された。郭会長は27.7%だった。

 韓氏は弁護士出身で、僅か1年余りの政治歴で高雄市の市長選で勝利、政治家として有名になった。高雄市は台湾第2の都市で民進党の牙城だった。その彗星のようなデビューを後押ししたのは、中国本土に多額を投資する台湾実業家が経営する中天電視の傘下にあるケーブル放送のニュースチャンネル、中天新聞台(CTi News)や、中国本土に多数のユーザーを抱えるソーシアル・メディアらのキャンペーンだった。

 韓氏も郭氏も、蔡政権の経済運営を失敗だと批判、中台関係の緊張も蔡総統の責任だと非難した。ただし韓氏の対中政策は、郭氏と著しく異なり、台湾経済の潜在的な牽引車としての中国に焦点を当て、台湾を広域中華民族圏の一部との考えを強調する。これは中国政府が台湾の政治家に要求する考え方である。同氏はまた台湾農産物の市場を中国で開拓し、本土からの観光客を増やすと公約している。これに対し郭氏は、中国政府は中華民国の存在を認めなければならないと主張する。中華民国は1949年に中国共産党によって転覆されたが、その体制と憲法は台湾で存続していると同氏は指摘する。

 以上のように報じた記事は最後に、政治アナリストは、台湾市民の多数は事実上の独立を享受している現状の維持を希望していると述べており、郭氏は、その中華民族に対する力強い思いによって浮動票に訴える力があるとみられ、特に若者や知識層に対して韓氏よりも魅力ある存在とみられるとコメントする。


 以上のように
次期総統選で与党、民進党に挑戦する最大野党の国民党は、総裁予備選で事前に有力視されていた鴻海精密工業の郭台銘会長ではなく、高雄市長の韓国瑜氏を正式総統候補に選出した。韓氏は、記事が指摘するように、郭氏よりも中国寄りの姿勢を鮮明にしている。こうした姿勢が、中台関係の緊張が高まるなか、民進党の蔡総統との選挙戦で、どのような影響を与えるか。郭氏の無所属立候補も噂されており、引き続き事態の推移を注視したい。



韓 国

☆ 韓国銀行、突如、利下げ
 韓国銀行が718日、突如、政策金利の引き下げを発表した。引き下げは3年ぶりで、引き下げ幅は0.25%。背景に、日本のハイテク製品の韓国向け輸出制限や中国経済の減速などに伴う韓国経済の先行き不安感があり、低迷する経済を浮揚させるため韓国銀行に利下げを求める圧力が高まっていたと同日付フィナンシャル・タイムズが報じる。記事によれば、直近の3ヶ月間で韓国経済は08年の世界的金融危機後で最悪となるマイナス成長を記録していた。韓国銀行の李柱烈(イ・チュウヨル)総裁は、経済環境は4月以降悪化しており、利下げは日本の貿易制限による悪影響を計算したものだ、と語っている。

 また韓国銀行は今年の経済成長見通しを2.5%から2.2%へ下方修正した。この修整後数値は、同じく2.5%から2.4%へ引き下げた政府見通しを下回っている。輸出は半導体需要の落ち込みや米中貿易摩擦が続くなか、過去7ヶ月間下落している。特に全体の約4分の1を占める中国向け輸出が先月、105億ドルと24%も下落した。

 さらに記事は、財政対策が遅れたため金融緩和を求める声が高まっていたと報じ、国会は景気浮揚策として6.7兆ウオン(57億ドル)の補正予算を未だ政争のために可決できないでいると述べ、ただし洪楠基(ホン・ナムキ)副首相兼企画財政部長官は今月初、経済環境が激変するなか、「金融と財政のポリシー・ミックス」が必要だと語っていたと伝える。

 今後の動きについて記事は、エコノミストは今年後半にさらなる利下げがあると予想していると伝え、キャピタル・エコノミクスのエコノミストが、金融緩和策とテクノロジー分野の回復が経済成長を後押しするだろうが、グローバルな経済成長の弱さが輸出の足を引っ張り、韓国経済は低迷が続くと思われるとコメントしており、またS&Pグローバル・レーティングも、日韓の貿易問題が韓国経済にマイナスの影響を与える可能性があると述べている、と報じる。記事は最期に、今年のインフレ見通しとして韓銀は0.7%とインフレ目標の2%より遙かに低い水準を挙げていると報じる。

  以上のように韓国銀行は政策金利の引き下げに踏み切った。米連邦準備理事会の利下げに続き、このところインドやニュージーランド、豪州などの中銀も一斉に同様の動きをみせているが、韓国銀行の場合は、特に自国経済が厳しい環境におかれていることを踏まえて緩和に向けて舵を切ったといえよう。エコノミストは、さらなる利下げを予想しており、財政政策の動向と合せて注視していく必要がある。



北 朝 鮮

 米民主党大統領候補の北朝鮮政策について
 8月5日付ニューヨーク・タイムズは、「Can the Democrats Do Better Than Trump on North Korea?(民主党は北朝鮮政策でトランプの上を行けるか)」と題するキャロル・ジャコモ同紙編集委員の論説記事を掲載、野党である民主党の大統領候補の北朝鮮政策を探っている。参考になるので概略を紹介する。

 記事は冒頭で、トランプ大統領は過去2年間、北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長と3度会談しているが、この間、北朝鮮は1ダース程の核兵器用核分裂性物質を生産した可能性があると言われており、トランプ氏が公約する北朝鮮の完全非核化とはほど遠い状況にあると批判する。その一方で、2020年の大統領選への民主党候補者に対しても、オバマ前大統領が離任直前に米国にとって最も緊急な安全保障上の脅威は北朝鮮だと警告したのにもかかわらず、北朝鮮政策をほとんど口にしていないと指摘、リアル・クリア・ポリティクスの世論調査で2%以上の支持率を獲得した候補者7人に対して北朝鮮政策を聞き取り調査したと報じる。その結果について、全員とも外交的解決と同盟国との緊密な協調を強調したと以下のように報じる。

 バーニー・サンダース上院議員は、北朝鮮は短期的には核兵器を放棄しそうもないが、将来的には説得に応じて放棄する可能性があり、段階的プロセスによる「提案を試してみる必要がある」と述べ、若干の時間がかかるだろうと語った。また北朝鮮を核兵器国として受け入れ管理することになる可能性を排除しないとし述べ、ただし、そうした現実を受け入れると、他の諸国も核兵器開発に動き、核兵器制限に向けた国際的努力を崩壊させるかもしれないと警告した、と伝える。

 インディアナ州サウスベンドの市長、ピート・ブティジェッジ氏は、北朝鮮が具体的かつ検証可能な措置によって非核化に向かうプレセスの概略を述べた。すなわち、核兵器用物質の製造休止、核とミサイル実験の停止そして製造施設や実験場の解体と最終的には核兵器そのものの破壊にいたる過程である。見返りに米国は、経済制裁の段階的緩和を認め、南北朝鮮の和平を促進し、北朝鮮との国交を正常化する、としている。さらに北朝鮮への関与を実証するために同氏が金委員長と会談し、交渉条件を決定する枠組み合意を締結するが、トランプ氏のように金委員長に対し「不当なお世辞を浴びせることはしない」と語る。

 マサチューセッツ州選出の上院議員、エリザベス・ウォーレン氏は、北朝鮮の核兵器庫拡大や他国への核兵器移転を防止するために取り敢えず検証可能な合意に注力し、実体のある核とミサイル削減と人権濫用問題への対応は、その後にすると語る。実体のある交渉を進めるために重要であれば、金委員長と会談すると述べる。

 ニュージャージー州選出の上院議員、コリー・ブッカー氏は、北朝鮮との交渉に当たる米外交官に対する権限を強化すると述べる一方、現在の米朝関係には首脳会談にメリットがある兆候がみられない、と語る。さらに首脳会談が考えられるとすれば、まず北朝鮮が寧辺核施設などの解体や朝鮮戦争の正式終結と米兵遺骨の返還に合意するなどの条件を満たすべきだと主張する。

 元副大統領、ジョー・バイデン氏、カリフォルニア州選出の上院議員、カマラ・ハリス氏及びベト・オルーク元下院議員の3氏からの回答は、上述の談話と余り変わるところはなかったと報じる。記事は、選挙は未だ初期段階にあり、候補者らは有権者の前で政策や立ち位置を表明する状況に追い込まれていないため、余り熟考していないと述べ、また当面、北朝鮮の脅威が一般の意識から後退していると指摘する。ただし記事はバイデン氏が7月に北朝鮮の非核化にむけて、交渉当局への権限強化と同盟国や中国との持続的な協調的な活動の展開を公約したことに触れ、現時点でこれを補強する発言がなかったことに失望感を示す。

 記事は最期に、トランプ氏は今でも金委員長との友好関係によって同委員長の行動が穏健になったかのように振る舞っているが、北朝鮮はミサイル実験を繰り返しており、金委員長は外交にしびれを切らしたか、そもそも当初から核兵器計画を全く放棄する気がなかったのかもしれないと指摘、金委員長は交渉のテーブルに戻る期限を今年末としているが、その時点で米国は大統領選真っ盛りで、今以上に北朝鮮との交渉どころではなくなっているかもしれないと警告する。

 以上のように記事は、次期米大統領選に立候補した民主党の有力候補者の北朝鮮に対する政策姿勢を調査し、その結果をまとめている。民主党の立候補表明者は20人を超えており、その中での有力7人について世論調査での支持率のほぼ順位に従って見解を紹介している。記事が指摘するように、いずれも外交的解決と同盟諸国との協調を唱えているが、金委員長との直接会談を表明する候補者もみられる。これは明らかにトランプ氏に対抗する発言と思われるが、その他にトランプ氏の外交政策の上を行くと思われる政策の表明は、残念ながらみられない。



東南アジアほか


利下げに動くアジア、太平洋地域の中銀
 アジア太平洋地域の中央銀行が一斉に利下げに動いている。タイ、インド、ニュージーランドの中銀が87日、次いで8日にはフィリピン中銀が政策金利の引き下げを決定した。こうした動きについて88日付ウォール・ストリート・ジャーナルは、世界の緩和サイクルが加速しそうだと論評する。記事は、急成長する東南アジアは世界的なサプライチェーン(供給網)の拠点となり、米中両国との貿易に依存しているため、米中貿易戦争が東南アジア市場を直撃していると述べる。

 記事によれば、利下げに踏み切った3カ国のうち、インドとニュージーランドの中銀は今年に入り多くの国に先駆けて金融緩和に着手しており、7月下旬に利下げに踏み切った米連邦準備制度理事会(FRB)に先行していたが、タイ中銀は18年終盤の利上げから一転、今年初の利下げを実施したと伝える。また欧州中央銀行(ECB)7月、9月の理事会で新たな緩和策を検討する方針を示唆しており、アジア・太平洋地域の中銀が動くことで、世界の緩和サイクルは従来の想定よりも大規模化かつ長期化するかもしれないとコメントする。

 さらに記事は、こうした利下げ競争の背景について、多くの国がマイナス金利を採用するなど、世界的に金利が極めて低い水準に張り付いているため、中銀は金融市場や為替レートに影響を与えるために早い段階で積極的な行動を取らざるを得ない面があると指摘、オックスフォード・エコノミクスのエコノミストが、多くの中銀にとって残された弾は非常に限られており、極めて賢明に活用しなければならない、と述べ、中銀は非常時に備えて弾を温存するか、大きな効果を狙って早期に行動するかのいずれかを選ぶ必要があり、7日の3中銀は後者を選んだことを示唆していると語っていると伝える。

 なおタイ中銀は、エコノミスト11人中9人が据え置きを予想する中で、政策金利を1.75%から1.50%に引き下げを決定、インド準備銀行は政策金利を5.75%から5.40%に引き下げたが、35BPの引き下げ幅は投資家の予想以上で、政策金利は9年ぶりの低水準となったと記事は報じる。またフィリピン中銀は8日の金融政策委員会で政策金利の翌日物借入金利を年4.5%から4.25%に引き下げている。

 以上のように、アジア地域全域にわたって政策金利の引き下げに動く中銀が増加している。利下げには各国それぞれの事情があるが、マイナス金利を採用するなど超金融緩和に動いていた米欧の金融当局が再び金融緩和に向かっていることが共通の背景にあり、また米中貿易戦争によってグローバルに景気が低迷するなか、特に輸出依存の高い経済圏で経済成長が鈍化し、景気刺激策の必要に迫られているといえよう。当面は、こうした動きが続くと思われ、どのような余波もしくは悪影響を生み出すかを注視していく必要があると思われる。



インド

☆ 米中貿易戦争の恩恵を享受できない理由                   
 東南アジア諸国、特にベトナムなどが中国における製造コストの上昇や米中貿易戦争の余波によって、中国に代わり対米輸出を増やしているが、インドはそうした機会を活用できていない。この間の事情について7月24日付フィナンシャル・タイムズは、概略次のように報じる。

 中国での製造コストが上昇しているため、外国企業はサプライ・チェーンを多様化して中国への依存度を低下させようとしている。しかしインドは、その機会を全く活用できないでいる。そうした恩恵の最大の受益者はベトナムである。これは米国メーカーだけでなく韓国のような他の輸出国も、生産拠点をベトナムに移転させているためである。ANZシンガポールのアジア・ストラテジストは、米中紛争が長期化の様相を呈しているために、アジアのサプライ・チェーンを調整する動きが出ている、と語り、中国の対米輸出は2018年後半頃から縮小し、それに伴い他のアジア諸国、とりわけベトナムとカンボジアからの対米輸出が増加していると指摘する。

 インドのモディ首相は最初の任期で製造業を奨励するメイク・イン・インディア運動を展開したが、一般には効果を上げていないと考えられている。主因は、インフラの隘路にある。貨物車の多くは時速30キロ以下で走り、港湾が少なく、大規模な道路建設が近年、計画されているが、建設のスピードが遅く、ライバルの東南アジア諸国より依然として大きく劣後している。産業は小規模で、労働者の生産性も低賃金とはいえ十分でない。企業は大きくなると、必要とする量と規格の部品が調達できなくなり、インドでの生産を止め、組み立てだけに移行する先が出てくる。

 上記のように報じた記事は、中国は2016年から18年にかけてインドの若い起業家向けの投資を6億ドルから55億ドルと9倍近く伸ばしていると述べ、これに関連して
ヴィクティム・ミズーリ駐中国インド大使が最近、インドのスマホ市場で35%のシェアを確保している中国のスマホ・メーカー、シャオミ(Xiaomi)が、まずは組み立て工場でインドに進出すること、つまりハイテク分野よりも製造分野での対印投資を増やすことを希望すると話していると報じる。同氏は、インドは中国が付加価値の高い製造業チェーンから出発し、未熟練労働者向けの雇用を他国が競争できない規模で創出したことを学ぶべきだと語っていると伝える。
さらに記事は、ベトナムはその教訓から学んでいる、と香港拠点の投資会社プレミア・パートナーズ(Premia Partners)のレベッカ・チュウ氏が指摘していると述べ、ベトナムは20年前の中国と相似し、そうした追い風を受けていると語っていると伝える。因みに、プレミア・パートナーズは香港投資家向けにプレミア MSCIベトナム上場投信(ETF)を導入した。

 こう報じた記事は、その一方でインドは米中紛争の副作用をオーストラリア、日本、韓国、シンガポールなどの諸国ほど受けていないとも伝える。ただし、それはインドの外交力や経済力によるためではなく、むしろグローバルな競争力の欠如や低迷する経済、高コストの資金、リスク資本の不足を反映していると指摘、特にリスク資金はほとんどが外資に依存していると述べ、当局はようやく今月初、重い腰を上げて起業家向けの優遇税制を打ち出したと伝える。

 以上のように記事はインド経済の後進性を指摘し、東南アジア諸国のように米中貿易紛争やコスト上昇による生産拠点の中国からの移転という機会をインドは活用できていないと報じる。特にインフラ面の隘路は以前から指摘されたことであり、メイク・イン・インデイアを提唱するモディ政権の第2期での取り組みを注視したい。

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(主要トピックス)

2019
7月16日 タイで新政権、発足。プラユット首相以下の閣僚36人がワチラロンコン国王の前で宣誓、正式に就任。
17日 韓国の洪楠基(ホン・ナムギ)経済副首相兼企画財政相、日本の対韓輸出規制の強化に対応する総合対策を近く発表すると表明。
18日 韓国銀行(中央銀行)とインドネシア中央銀行、それぞれ政策金利の0.25%引き下げを発表。
20日 ボルトン米大統領補佐官、日本と韓国を訪問。
    21日 参議院選挙、投開票。自公陣営、過半数を制す。改憲勢力は3分の2の議席獲得には至らず。
    22日 中国、外資格付け機関の格付対象債券を拡大。
24日 中国、4年ぶりに国防白書を公表。尖閣諸島を固有の領土と明記。 
        中国国防省の呉謙報道官、記者会見で香港政府の要請があれば中国人民解放軍の現地部隊の出動が可能と表明。
    25日 北朝鮮、日本海に向けて2発の短距離弾道ミサイルを発射。
    26日 シンガポールの新野党「進歩シンガポール党」、リー政権の親族重用を批判。    
  8月 1日 トランプ米大統領、9月1日から3000億ドル分の中国製品に10%の追加関税を課す「対中制裁第4弾」を発動すると表明。
        台湾・台北市の柯文哲市長、新政党を立ち上げると表明。
     2日 中国政府、米政府の措置への報復措置を発表。
        日本政府、輸出管理を簡略化する優遇対象国から韓国を除外する政令改正を閣議決定。28日から施行。
     3日 東アジア地域包括的経済連携(RCEP)閣僚会合、開催(北京)。新たに電気通信サービス、金融サービスなどを加えて10分野まで合意。
        中国で「北戴河会議」開幕。
     5日 中国人民元、心理的節目の1ドル=7元を割り込む。オンショア(中
国本土)市場の取引で7.02まで下落。
     6日 北朝鮮、再び短距離ミサイルとみられる飛翔体2発を発射。
8日 中国人民銀行、人民元取引の対ドル基準値を1ドル7.0039元に設定。
        トランプ米政権、国防権限法に基づき華為技術(ファーウェイ)など中国企業5社製品の政府機関による調達禁止を発表。
    10日 北朝鮮、再び飛翔体2発を日本海に向けて発射。7月25日の第1回から数えて5回目。
   11日 韓国政府、日本を輸出管理の優遇対象国から外すと発表。
   13日 香港国際空港、抗議活動で全便欠航。
        米通商代表部(USTR)、対中制裁関税「第4弾」についてスマートフォンやノートパソコン、玩具など特定品目の発動を1215日に先送りすると発表。
    15日 天皇陛下、戦没者追悼式で「深い反省」を踏襲して表明。
        
韓国の文在寅大統領「日本が対話なら協力」すると光復節で表明。



主要資料は以下の通りで、 原則、電子版を使用しています。(カッコ内は邦文名)THE WALL STREET JOURNAL(ウォール・ストリート・ジャーナル)、THE FINANCIAL TIMES(フィナンシャル・タイムズ)、THE NEWYORK TIMES(ニューヨーク・タイムズ)、THE LOS ANGELES TIMES (ロサンゼルス・タイムズ)、THE WASHINGTON POST(ワシントン・ポスト)、GUARDIAN(ガーデイアン)、BLOOMBERG・BUSINESSWEEK(ブルームバーグ・ビジネスウイーク)、TIME (タイム)、THE ECONOMIST (エコノミスト)、 REUTER(ロイター通信)など。なお、韓国聯合ニュースや中国人民日報の日本語版なども参考資料として参照し、各国統計数値など一部資料は本邦紙も利用。        






 


前田 高昭
金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。
訳書に『チャイナCEO』他。
『東アジアニュースレター』配信中。 

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