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東アジア・ニュースレター ― 海外メディアからみた東アジアと日本 ― 第103回

2019/07/22

連載 東アジア・ニュースレター  
― 海外メディアからみた東アジアと日本 ―


第103回

前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト      
バベル翻訳大学院プロフェッサー
 

 
 中国習近平国家主席とトランプ米大統領は大阪で開催されたG20サミットの機会に会談し、相互にある程度の譲歩を行い、途絶していた貿易協議の再開に合意した。この合意に関連し、メディアは、貿易協議が再会しても双方の国内に、いわば抵抗勢力が存在しなお紆余曲折が予想される、あるいは、G20での米中貿易戦争の休戦条件は不確かで両国の意見相違に橋がかけられたとは到底言えないと懸念を表明する。その一方、過去における米国の対中関与政策の意義を改めて指摘し、中国との貿易を含む多方面における共同活動を進めるよう提言する。

 台湾に対する最近の米政策が、貿易紛争で高まる米中関係の緊張を激化させている。米政府は最近、台湾に対して22億ドル相当額の武器売却を認め、また蔡英文総統がカリブ海諸国訪問の途次、米国に数日間滞在することを認めた。中国政府は強く反発、特に武器取引の撤回を求め、米関連企業に経済制裁を課すと宣言した。

 韓国向け半導体関連品目の輸出について、日本政府が規制強化に乗り出した。メディアは、元徴用工の補償問題に関する韓国政府の決定に対する日本政府の報復措置、あるいはハイテク業界のナショナリスト的シフトを示す最新の兆し、などの見方を示す。同時に韓国企業への深刻な脅威となり、テクノロジー・サプライチェーンに混乱を引き起こすと懸念を表明する。韓国政府は早速、WTOへの提訴を含む外交戦略を総力を挙げて打ち出している。

 北朝鮮金正恩委員長
トランプ米大統領板門店電撃的に会談核協議の再開に合意した。メディアは、この協議はハノイ会談で北朝鮮が示した寧辺核施設の閉鎖に関する提案内容の拡大を目指すものになるとみられるが、トランプ政権内には外交で実績をあげている専門家チームが存在しており、今後、北朝鮮当局者とのきめ細かい交渉に任せるべきだと提言する。

 東南アジア関係では、ベトナム経済が米中貿易摩擦の恩恵を大きく享受している。今年第1四半期の成長率が年率6.82%、第2四半期が同6.71%と高い伸び率が続いている。ただし、その一方でコンピューターや電子機器、機械、機器を中心として数十億ドルに上る中国製品が迂回輸出によって米国に入ってきていると指摘されている。

 インド経済が回復に転じ、成長率で再び中国を追い抜くと報じられた。財務省が議会に提出した経済調査報告書によると、今年度(来年3月に終わる財政年度)の経済成長率は5年ぶりの低成長から7%程度拡大するという。ただしメディアは、統計データの信ぴょう性に疑問が提起されたとも報じている。

主要紙社説・論説欄では、香港「逃亡犯条例」改正案に関する主要メディアの論調を取り上げた。改正案に反対する市民による抗議デモが今も続いている。

                   § § § § § § § § § § 

北東アジア


中 国

☆ 20カ国・地域(G20)首脳会議と米中貿易摩擦
 6月28日から2日間にわたって20カ国・地域(G20)首脳会議が大阪で開催された。その機会にトランプ米大統領と中国の習近平国家主席が首脳会談を開き、米中貿易紛争について進展がみられることが期待された。フィナンシャル・タイムズは、G20サミットに先立つ6月26日付社説「Donald Trump and Xi Jinping should make political sacrifices(トランプと習は政治的な犠牲を払うべきだ)」で、この問題を取り上げた。社説は、日本で開催されるG20で貿易戦争の段階的縮小のチャンスは極小だと冒頭で述べ、米中両政府が本当に真剣な対話を望むのであれば、双方が犠牲を払う用意があることを実質的な形で示す必要があると主張、概略次のように論じる。

 米中首脳は約半年前にブエノスアイレスG20で貿易戦争の休戦を宣言して世界を驚かせたが、この間、米中両国間の雰囲気は悪化し、信頼関係はほとんど崩壊した。昨年12月の会合に続き、米中政府は詳細を煮詰める交渉を真剣に開始したが、提案された内容は理想とはほど遠く、グローバルな貿易システムをルールに基づく自由な貿易よりもパワーポリティックスに基づく管理された貿易へ移行させ、紛争も中立の第3者を通じてではなく、共同委員会を通じる方式で強者による弱者のいじめを許容するような内容だった。しかし、この提案も5月には崩壊した。恐らく中国の交渉チームが譲歩し過ぎたために土壇場で幾つかの提案を引っ込めたことが原因だろう。

 この間、トランプ大統領は交渉がきわめて微妙な段階にあるなかで脅迫的言辞を繰り返し、中国のハイテク大手企業、ファーウェイ(華為技術有限公司)を輸出ブラックリストに載せて米市場と米企業との関係を断絶させるという劇的な手段で貿易戦争を新たな段階へ拡大させた。こうしたトランプ氏の行動をみると、同氏はグローバル・デジタル経済を分断し、ハイテク供給網による歓迎されざる影響を追い払いたいと考えているようだ。このような方法で米国を中国経済から切り離すことを真剣に考えているのであれば、実質的な2国間交渉での進展は全く不可能だ。

 こう論じた社説は、トランプ氏と習氏が真剣な話し合いの再開を本当に望むのであれば、彼らは実質的な姿勢を示す必要があり、それには政治的犠牲を払う用意があることを示すべきだと主張、少なくとも米中はこの2年間に引き上げた関税を幾分でも元に戻すべきだと提言する。そして両者が共に攻撃的姿勢を引っ込める気がないのであれば、全世界の政府、企業、消費者は、米中貿易戦争は終結の見通しが全くないと観念し、それなりの準備を整えるべきだと強調する。

 以上のような米中両首脳に政治的妥協を迫る論調があるなか、両首脳は相互にある程度の譲歩を行い、貿易協議再開の合意に漕ぎ着ける。これについて7月1日付ウォール・ストリート・ジャーナルは、トランプ氏は3000億ドル相当の中国産品への追加関税の適用を棚上げ、すなわち制裁関税第4弾の見送りと華為技術(ファーウェイ)に対する若干の譲歩に同意し、見返りに中国側は、米国の農産物の輸入拡大に同意したと伝える。特に重要な交渉材料はファーウェイに関する米側の譲歩で、米国の国家安全保障に影響のない部品に限って購入を許可する内容となっており、米政策当局者は米安保にとって極めて重要というのは、ブロードバンド通信網にファーウェイが及ぼす脅威だとコメントしていると報じる。

 こうした米中合意に関連して記事は、今後の焦点として、譲歩を許さない双方の国内強硬派とファーウェイ問題が障害になると報じる。記事は、両首脳は課題の多い貿易交渉を再び軌道に戻すことに何とか成功したが、国内強硬派をなだめる難しい仕事が残っていると指摘、中国の場合は、共産党幹部と国営企業幹部、米国の場合は、過剰譲歩を懸念する米共和党の一部議員と民主党議員、それにトランプ氏が指名した政府高官の一部、米中関税合戦で打撃を受けている産業界や農業州の支持者を挙げる。
記事はまた、米国が譲歩したというファーウェイの問題に触れ、次のように伝える。トランプ氏の考えを知る複数の関係者によれば、同氏はおおむねファーウェイを交渉の切り札かつ米企業のライバルだとみており、中国との覇権争いに関わるとは考えていない。しかし、中国が5月初旬に合意から後退した後、ジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)が大統領と国家安全保障当局者に働きかけ、ファーウェイをブラックリスト、即ち企業が米政府の承認なしに米国産技術を提供することを禁じる「エンティティーリスト」に加えた。

 他方、中国政府にとっては、米国の同社に対する圧力の緩和は、より幅広い合意の前提条件である。習氏の一部アドバイザーの見立てでは、米国がファーウェイをエンティティーリストに入れたこと、ファーウェイの次世代移動通信システム(5G)向け機器を採用しないよう他国に働きかけたこと、そしてファーウェイ幹部の米国への身柄引き渡し要求きは、いずれも中国の台頭を阻止しようとしていることの証拠とみている。関係者らによると、党指導部の二十数名が参加した5月13日の会合では、外国企業の中国市場参入を支持することで知られる韓正副首相が、米国との合意案を批判し、中国政府が政策変更を約束したとしても関税を撤廃しないと米国が主張していることに不満を示した。また関係者らによると、北京における最近の議論では、通信など国家資本が支配する大企業や国営企業を監督する当局者が、欧米式のやり方は中国では機能しないと反対している。さらに人民日報系の環球時報は英語のツイートでこう述べた。「米国は大きな譲歩をしたのか? 米企業がファーウェイに部品を販売することは、1カ月半前までの状態に戻ったにすぎない。新たな関税がないことは、半月前の状態に戻っただけだ。実際のところ中国はより多くの米国産品を購入し、改革のコストを支払うことになるだろう。一部の米国人はまだ満足しないのか?」

 上述のように記事は、G20での米中合意に基づき貿易協議が再会しても双方に、いわば抵抗勢力が存在し、なお紆余曲折が予想されると指摘するが、71日付ブルームバーグは「The U.S. and China Don’t Need to Be Enemies (敵対しては困る米国と中国)」と題する社説で、米中関係は平和で生産的であることが世界に不可欠だと訴える。G20での米中貿易戦争の休戦条件は不確かで両国の意見相違に橋がかけられたとは到底言えないと主張、概略次のように論じる。

 最も印象的なのは、トランプ大統領の政策が米国内で受ける幅広い支持であり、同氏を徹底的に批判する者すら中国については正しいと考えているとみられることだ。まさしく新たな冷戦が始まったようだ。しかし、こうした好戦的な考えは重大な過ちである。生産的な米中関係は未だ可能であり、それには計り知れない価値がある。グローバルな安定と繁栄がかかっていると言っても過言ではない。大統領と側近たち、そして共和、民主の両党議員は共に立ち止まり、何が危機に瀕しているかに思いをいたすべきだ。中国が自由化に失敗し、習の下で正反対に専制的支配を強めているのは事実だ。失望すべきことだが、経済的関与が昔も今も、間違っていたことにはならない。なぜならば,それに代わるものがないからである。

 上記のように論じた社説は、中国のグローバル市場へのアクセスを否定すれば、成長が減速し、数億人を貧困状態に放置するという倫理的に許されない事態になり、西側モデルとして勧められないと主張する。

 また中国関与政策を進めた8人の米大統領の中には、所得の増加が政治の民主化に結びつくと期待したものもいるが、主たる目標は中国をルールに基づくグローバルな秩序に統合し、安定に対する脅威を最小限にすることにあったとし、そうした目標は失敗というよりも成功したと言えると指摘、対中経済関与から利益を得ること、中国の協調本能を刺激すること、必要であれば中国の行動を抑止し封じ込めること、という米国の伝統的な対中政策は今も生きていると主張する。

 さらに社説は、米中は貿易問題を超えてグローバルな問題について想像以上に利益を共有していると指摘、気候変動、核拡散、観光、金融の安定、伝染病、北朝鮮やアフガニスタンなどの地域安保問題を挙げ、米中の協力なくして解決できないと強調する。そのうえで社説は、貿易に関する意見相違は早急に対応する必要があると述べ、ただし中国が国家主導の経済モデルを即刻、しかもトランプの指令の下で放棄すると考えるのは非常識だと批判、また2国間で貿易に割当制を設けるという合意は最悪で、むしろ何もしない方がよいと主張する。このほかに社説は、同盟諸国との緊密な協働も、中国の行動を変える有効な手段だと述べ、世界貿易機関(WTO)や環太平洋経済連携協定(TTP)の活用を挙げ、関税賦課は米国の利益にならないと強調する。

 社説は最後に、中国が将来、米国と同盟国にとって敵性国家になる可能性があるのは疑いがないが、既にそうなっているかのように遇するのは、そうした悲惨な結果を確実にするだけだと警告する。ただし中国は旧ソ連と違って、その国家資本主義は韓国や台湾がそうであったように西側と生産的に共存できる体制であり、中国の他国に干渉する行動には対抗する必要はあるが、それは中国として非自由主義的体制の活動余地を確保する意図によるもので、世界秩序の転覆を狙ってはいないと指摘する。 

 ただし、米国のアジアにおける戦略的地位の保持は不可欠だとし、そのために増大する中国の力の抑止とアジア地域における米軍の防衛に的を絞ったシステムへの投資や地域の同盟諸国との協調強化が必要だとし、そうした共同戦線結成の最善の方法は、米国の価値観を先導することだと提言する。米国は現在、悪しき指導の下で、分断され、政治的に機能不全の状態にあり、自由、文化的活性度、テクノロジー洗練度などで大きく劣っており、こうした問題に早急に対処する必要があると提言する。そして貿易は一種の最も価値ある共同行為であり、中国が協調してくれば、それを評価しパートナーとして受け入れるべきだと主張する。

 以上のように中国の習近平国家主席とトランプ米大統領は大阪で開催されたG20サミットの機会に会談し、メディアが期待していたように、相互にある程度の譲歩を行い、途絶していた貿易協議の再開に合意した。この合意に関連し、メディアは、貿易協議が再会しても双方の国内に、いわば抵抗勢力が存在しなお紆余曲折が予想される、あるいは、G20での米中貿易戦争の休戦条件は不確かで両国の意見相違に橋がかけられたとは到底言えないと懸念を表明する。その一方、米国の対中関与政策の意義を改めて指摘し、中国との貿易を含む多方面の共同行為を進めるよう提言する。特に対中関与政策の主たる目標は中国の民主化よりも、むしろ中国をルールに基づくグローバルな秩序に統合し、安定に対する脅威を最小限にすることにあったとの主張が注目される。

 またブルームバーグ社説が、米中は貿易のみならず環境問題など多方面で協調する余地があり、中国は旧ソ連と違い西側と生産的に共存できる体制にあり、また中国は世界秩序の転覆を狙ってはいないとの見方も新しい問題提起として意義があると言えよう。この他にも社説は、米国のアジアにおける戦略的地位の保持は不可欠であり、同盟諸国との緊密な連携が有効だと述べ、世界貿易機関(WTO)や環太平洋経済連携協定(TTP)の活用を挙げ、関税賦課は米国の利益にならないと強調している点も注目したい。社説は最後に、貿易は一種の最も価値ある共同行為であり、中国が協調してくれば、それを評価しパートナーとして受け入れるべきだと提言しているが、これは最終的にはトランプ政権が目指していることでもあると思われる。



台 湾

☆ 
最近の米台湾政策について
 蔡英文総統は711日、カリブ海諸国訪問の途次、米ニューヨークに立ち寄った。その数日前、米国務省は台湾に対して22億ドル相当額の武器売却を認めた。712日付ワシントン・ポストは、こうした最近の米政府の決定について中国政府は、トランプ米政権は台湾カードを使って、中国を屈服させようと無駄な努力をしていると非難し、また人民日報も社説で、貿易戦争とタイミングが偶然一致するかのような、これらの動きは米中関係にある不確実性をさらに増幅させると批判したと報じる。

 記事は、他の中国国営メディアもトランプ政権が蔡総統の訪米を許したことを厳しく批判しており、こうした中国側の反応は米政府の台湾包容政策に対して爆発している怒りの一部だとコメントする。さらに蔡総統の訪米について、カリブ海諸国訪問の往路でニューヨークに2泊、復路でコロラド州デンバーなどで2泊合計4泊を予定していると報じ、来年1月の総統選で再選を期す蔡氏としては、同氏の下の台湾は文字通りの民主国家の島国で、専制と攻撃性を増す中国本土に対する対抗力として、同氏に好意的なトランプ政権内の対中タカ派へアピールしようとしていると述べる。

 次いで記事は、トランプ政権の台湾包容政策は、紛争が激しさを増す米中関係の棘となっていると指摘、過去におけるトランプ政権の親台湾的動きに言及し、特に最近の武器輸出は米国務省の発表によれば、台湾が現在および将来の地域における脅威に対応するうえで役立つ兵器22億ドル、すなわち戦車108台とスティンガー地対空ミサイル250基を売却する内容であり、中国軍部が「厳重な抗議」を申し立てたと伝える。また中国国防部の呉謙(Wu Qian)報道官は、米政府は米中と両国軍部の関係にこれ以上、打撃を与えないように台湾とのあらゆる形態の軍事的接触を止めるべきだと語ったと報じる。

 記事は最後に、中国政府は最近、いささか脅迫めいた言辞を発信していると述べ、例えば、呉報道官は、中国は「外部勢力によるいかなる形態の干渉を抑止する」能力を備えていると語り、人民日報系の環球時報も、中国人民解放軍は、その名に「解放」を留保したままだと指摘したと報じる。

 以上のように米国の台湾政策に対して中国は一段と反発を強め、米中の対立がエスカレートする様相を深めている。特に中国側の注目すべき動きとして713日付ウォール・ストリート・ジャーナルが、中国は米政府が決定した台湾への武器売却を巡り、関連する米企業に制裁措置を講じると発表したと報じている。記事は、中国外務省は9日、米国に対し武器売却を即時撤回するように求め、さらに12日に武器売却は「中国の主権と国家の安全保証を害する」と述べ、国益を守るために制裁が必要だと主張したと伝え、武器売却は貿易協議を巡りきしみが目立つ米中関係をさらなる試練にさらすことになりそうだとコメントしている。同時に、こうした状況が来年1月に予定される台湾総統選へ与える影響について注視したい。



韓 国

☆ 日本政府、半導体関連部品の対韓輸出規制を強化
 日本政府は、74日から半導体やディスプレーパネル製造用の素材3品目の韓国向け輸出に政府の承認を義務付ける輸出規制措置を発表した。4日付ウォール・ストリート・ジャーナルは、審査には90日かかる可能性があると述べ、これまで韓国は、米国やオーストラリア、欧州の多くの国と同様にこのプロセスを免除されており、ハイテク業界のナショナリスト的シフトを示す最新の兆しだとコメントする。記事は、対象3品目とは、スマートフォンのディスプレーに使われるフッ化ポリイミド、半導体製造用フォトレジスト(感光材)と高純度フッ化水素で、高純度フッ化水素はシリコンの薄膜に回路を焼き付けて半導体を形成する際にエッチングガスとして使われると解説する。

 記事によれば、これを受けて韓国政府は当該製品の内製化を進めるために3日、ハイテク部品の生産に使う素材や装置に対する年間1兆ウォン(920億円)の投資を検討していることを明らかにした。また韓国の成允模・産業通商資源相は「政府は主要産業に欠かせない素材など多くの分野で輸入先を分散し、国内生産能力を強化するといった支援をする意向だ」と語った。
記事はさらに、日本政府は日本企業に元徴用工への賠償を命じた韓国裁判所の判決を挙げ、もはや韓国を信用できないと述べていると報じ、韓国は、第3国に出荷されれば核兵器や化学兵器に使われかねない工作機械や真空ポンプといった品目についても優遇を失う可能性があると伝える。日本の規制で影響を受けるとみられるメモリーチップ世界大手のサムスン電子およびSKハイニックスにとって、韓国政府の投資は即効薬にはならないだろうが、長期的には、主要素材の代替調達先を両社に提供するかもしれないとコメントする。 

 1日付フィナンシャル・タイムズは、日本は半導体の経済制裁で韓国に打撃を与えていると述べ、元徴用工への補償問題に関する日韓の紛争がエスカレートしたと報じる。記事は、日本の経済産業省は日本が圧倒的シェアを誇る3品目について韓国向け輸出規制を強化すると発表、同時に韓国をハイテク品目の輸出に認可を必要としない「ホワイトリスト」から除外することも検討していると報じる。こうした一連の経済制裁は、元徴用工の補償問題で韓国の裁判所が日本企業の資産を差し押さえることを容認するという韓国政府の決定に対する報復措置であり、アジアの隣国同士の対立が新たな段階に発展したことを物語ると述べる。韓国政府は世界貿易機関(WTO)への提訴を検討していると語っているが、日本政府は、一連の措置はWTOの輸出管理規則に則った措置であり、自由貿易の原則に反しないと説明していると伝える。

 同時に記事は、規制によって韓国の最重要企業であるサムスンやSKハイニックスなどに深刻な脅威を与え、またテクノロジー・サプライチェーンに混乱を引き起こすとソウル所在のエレクトロニクス企業の役員はコメントしていると報じる。

 以上のように今回の
半導体関連品目の対韓輸出規制の強化について、メディアは元徴用工の補償問題に関する韓国政府の決定に対する報復措置、あるいはハイテク業界のナショナリスト的シフトを示す最新の兆しと言った見方を示している。同時に、韓国企業への深刻な脅威となり、またテクノロジー・サプライチェーンに混乱を引き起こすと懸念を表明する。他方、韓国政府は早速、WTOへの提訴を含む外交上の打開策を打ち出すなど国際世論を味方につける戦略を展開しようとしている。

 一方、日本は今のところ輸出規制強化の問題を日韓間に横たわる歴史問題などの外交課題と関連づけておらず、経済産業省の所管事項に限る技術的な説明に終始している。しかし韓国は総力を挙げて日本批判の外交活動を展開している。日本はこの際、むしろ日韓間の諸懸案に関する韓国政府の対応について全面的に問題提起し、韓国と国際社会に向き合うべきではないのか。本件は、そのための貴重できわめて重大な機会であり、外務省を巻き込んだ全面的な外交戦略を展開すべきだと思われる。 



北 朝 鮮

☆ 米朝首脳、板門店で会談

 トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は6月30日、南北朝鮮を隔てる軍事境界線にある板門店で電撃的に会談した。会談は友好的雰囲気で行われ、両首脳は新たな協議の開始に合意した。7月2日付ウォール・ストリート・ジャーナルは、この協議で事態を進展させるためには、シンガポールとハノイでの両首脳の会談では見られなかったような柔軟性を双方が示す必要があると述べる。記事はイランとの交渉と比較し、トランプ大統領は対北朝鮮交渉では多くの手段を持っているとして、首脳間の直接のつながり、国連の制裁、国際的な連携による広範な支持などを挙げるが、既に核兵器を保有する北朝鮮の問題は、保有を思いとどまらせようとしているイランの問題よりもずっと難しいと指摘する。

 記事は、具体的に次のような問題がいずれも未解決だと述べる。すなわち、朝鮮半島非核化の意味に関する共通の定義、非核化に取り組むペースと範囲についての合意、非核化に向けた行動と制裁緩和や公式の外交関係樹立との関連付け、を挙げる。特に記事は、「北朝鮮が米国の譲歩の見返りに核兵器を手放すことを決断した兆候がほとんどみられない」とのスティーブン・ビーガン北朝鮮担当特別代表のコメントや、金委員長は非核化の準備ができていないとの米国防情報局(DIA)の分析、オバマ政権でアジア担当国務次官補を務めていたダニエル・ラッセル氏の「ドナルド・トランプ氏の劇場型で極めて個人的な金氏とのサミット外交は、2020年大統領選まで北朝鮮の核実験凍結を延長させようとする政治戦略と合致する。トランプ氏のアプローチは北朝鮮が継続している核兵器と大陸間弾道ミサイル(ICBM)の生産を阻止していない」との見方などを伝える。

 記事は、「ハノイ会談で米政府は核戦力排除に向けた第1歩として全大量破壊兵器プログラムの凍結の説得を期待していた」との米政府高官の言と、これに対して「凍結を受け入れれば、北朝鮮を核兵器保有国として受け入れることになる」との元高官の反論を紹介し、米朝協議がハノイ会談終了時点の状態からの再開を目指すのであれば、協議はハノイ会談で北朝鮮が示した寧辺核施設の閉鎖に関する提案内容の拡大を目指すものになろうと述べる。

 他方、7月2日付ブルームバーグは「Take the Spotlight Off North Korea (北朝鮮にスポットライトを当てるなかれ)」と題する社説で、永続的取り決めを達成するためにトランプ氏は身を引き、実務当局に任せて重要な詳細を煮詰めるべきだと主張する。 
社説は、米朝を隔てている大問題は解決不能のまま残っていると述べ、北朝鮮は可及的速やかな制裁解除を要求し、米国は、制裁解除には核とミサイルの全面廃棄が必要だと主張していると指摘、トランプ政権は若干軟化するかもしれないとの報道があるが、これが正しいとすれば、トランプ政権は段階的廃棄というアプローチを目指して、既知の核製造施設の解体から始めて北朝鮮の核兵器規模を凍結しようとしていると述べ、さらに次のように論じる。

 こうした戦略の成否は、苦痛に満ちた交渉に基づく詳細にかかっている。すなわち、どの施設を対象とするか、プロセスの監視と検証をどうするか、見返りに米国は何を放棄するか、などの問題である。北朝鮮は以前に寧辺核施設の閉鎖可能性を提起したが、同施設は広大な区域にわたって幾つかの施設を含んでいる。これまで国際査察官の下で一部の活動停止も実施されていない。現時点での取引は寧辺だけでなく、その他の疑わしい核施設も含まれなければならないだろうし、しかも北朝鮮は、これまで認めたことがない立ち入った査察を受け入れる必要がある。

 また金委員長は核とミサイル計画の全容について説明し、同計画の全面的廃棄に関するスケジュールの詳細と、さらに「非核化」とは何を意味するかについても合意しなければならなくなろう。米国は、金委員長が正確に何を提案しているかを注意深く吟味し、譲歩の度合いを決めなければならない。平壌駐在事務所の設置や朝鮮戦争の終結宣言などのような象徴的な施策は、テーブルに載せてよいだろう。適切な安全条項があれば、米国は開城工業団地の再開のような若干の南北経済協力を許容してもよいかもしれない。ただし広範な制裁緩和は、北朝鮮による完璧で検証可能な譲歩と結びついていなければならない。

 経験や勘に頼るトランプ流には、こうした緩慢でいらいらする交渉スタイルは馴染まない。実際、見せ場を好む彼の弱点は米国の信用と交渉力に少なからぬ痛手を与えている。他方、血なまぐさい体制を率いる金委員長は、今や3度となる米朝首脳会談を重ねながら、実質的に何も放棄していない。それどころか世界で最も力を持つ指導者から友人かつ英明な人物として遇され、トランプにいつでも直接接触できることから、厳しい交渉を進める誘因を十分持ち合わせている。

 以上のように論じた社説は、そのうえでトランプ政権には真剣な外交能力を持つ専門家集団が存在すると指摘し、例えば、タリバンとの粘り強い交渉を通じて静かに、スポットライトを当てずにアフガニスタンからの米軍撤退を実現していると述べ、彼らの能力は実証済みだと強調、トランプ大統領は、そうした政権内の然るべき人材に交渉の取りまとめを任せれば、彼が熱望する北朝鮮と大ヒットとなる取引を実現できる可能性を高められると提言する。

 以上のように板門店における米朝首脳の会談で、核協議の再開に合意したが、メディアが指摘するように、この協議はハノイ会談で北朝鮮が示した寧辺核施設の閉鎖に関する提案内容の拡大を目指すものになると思われる。いずれにしても、ここからはトランプ・金の個人的外交プレーには頼れない。ブルームバーグ社説が述べるように、外交で実績を上げているトランプ政権内の専門家チームと北朝鮮当局者によるきめ細かい交渉に任せるほかはないだろう。



東南アジアほか


ベトナム

☆ 貿易紛争の恩恵を受ける経済
 第2四半期のベトナム経済が米中貿易戦争の恩恵を受け、予想を超えて拡大したと628日付フィナンシャル・タイムズが報じる。記事は、ベトナム統計総局によれば、第2四半期の国内総生産(GDP)伸び率が前年同期比6.71%と第1四半期の6.82%とほぼ同じ高水準を維持し、またブルームバーグエコノミストの予想6.61%増をも上回った。経済成長を最も牽引したのは輸出品の加工生産部門で、年率9.14%の伸び率を記録、同2.19%のサービス部門が続いた。

 アジア開発銀行は、貿易紛争が続けば、ベトナムは今後3年間にわたって毎年2%の成長率増の恩恵を累積ベースで受けると見積もっている。記事は、こうしたベトナムの受ける恩恵は、他のASEAN諸国が米中貿易紛争によって被害を受けているなかで際立っており、シンガポールとマレーシアが特に輸出の急減という大打撃を受けているとコメントする。

 他方、6月27日付ウォール・ストリート・ジャーナルは、数十億ドルに上る中国製品が迂回輸出によって米国に入ってきていることが、貿易データや当局者の話から分かったと報じる。記事によれば、迂回輸出とは、第3国で短期間に最小限の加工や変更を加えた中国製品について、産地を第3国と表示して米国に再輸出する行為である。ベトナムの貿易データによると、同国から今年1-5月に米国に輸出されたコンピューター・電子機器は71.6%増の18億ドル相当となり、伸び率は世界全体への輸出のおよそ5倍に達した。同じ製品区分で中国からの輸入は80.8%増の51億ドルと、伸びは世界全体の4倍だった。同じく、米国への機械・機器の輸出は前年比54.4%増の17億ドルに上り、世界全体の6.7%増を上回った。中国からの輸入は29.2%増の57億ドルと、世界全体からの輸入ペースのおよそ2倍となった。

 記事によれば、ベトナム商工省は「ベトナム製品と偽った貿易の不正行為は増えている」と指摘、「産地偽装は製品や消費者に直接的な影響が及ぶだけでなく、ベトナム製品の評判と競争力を大幅に損なう」と述べ、税関当局は地方支部に対し、検査や原産地証明書の照合を強化するよう指示した。トランプ政権は近年、商務省が迂回輸出と判断した鉄鋼や家具などの中国製品に対して、広範な関税に加え、制裁関税を課すなどの対策を講じている。こうした不正行為の抑制がどの程度の効果を発揮しているのかは不明だが、データや当局者の話からは、問題はまだ解消されていないことがうかがわれると記事は指摘する。

 以上みてきたように、ベトナム経済は米中貿易摩擦の恩恵を大きく享受している。このことは今年に入り第1四半期の成長率が年率6.82%増、第2四半期が同6.71%増と高い伸び率が続いていることが示している。その一方でコンピューターや電子機器、機械、機器を中心として数十億ドルに上る中国製品が迂回輸出によって米国に入ってきていると指摘されている。世銀は貿易紛争が続けば、ベトナム経済を押上げると予想しているが、それに伴い迂回輸出も増加するようであれば、米政府としてさらに厳しい対策を打ち出すとみられ、その動向を注視していく必要がある。



インド

☆ 回復に向かう経済
 低迷していた経済が回復に向かい、今年度(来年3月に終わる財政年度)の経済成長率は5年ぶりの低成長から7%程度拡大すると財務省が73日、議会に提出した経済調査報告書で述べたと4日付フィナンシャル・タイムズが報じる。

 記事によれば、報告書は、マクロ経済状態や政府による構造改革を受けて、経済は19年から20年にかけて7%の成長率を達成すると見込まれ、インドは再び中国を追い抜き、成長率で世界一という大事なタイトルを奪い返すだろうと述べている。また政治的安定や需要と投資の増加が成長をけん引すると補足説明するとともに、リスクとして、低降雨量、輸出不振、シャドーバンキング部門への圧力を挙げている。

 モディ首相は、先の総選挙で地滑り的勝利を収めて再選されたが、選挙中に掲げた力強い経済成長という公約の重圧の下におかれている。しかし、経済データに欠陥があるとの噂やインド準備銀行(中央銀行)幹部の相次ぐ辞任などによって、中銀の独立性という問題に関してモディ政権に対する批判が高まっていると記事は伝え、さらにキャピタル・エコノミクスの地場エコノミストは、経済成長は回復すると確信しているが、さほどの規模ではないとみているとのコメントも伝える。

 経済データの信憑性の問題について記事は、前政府経済顧問のアルビンド・スブラマニアン氏が国のデータに不一致があると述べ、2011-12年のインド国内総生産が平均2.5%ほど過大評価されていると指摘したと報じる。またモディ首相を批判していた準備銀行のビラル・アーチャーリャ副総裁が6月に辞任したことから、中銀の独立性が脅威にさらされているとの懸念が深まったと伝える。

 記事は最後に、ニルマラ・シタラマン財務相(女性)が就任後初の予算を提出予定であると述べ、同財務相は、財政赤字を抑え、借入をコントロールしながら、経済成長を推進するために努力していると報じる。

 以上のようにインドが経済成長率で再び中国を追い抜き、7%台の成長率を回復すると記事は伝える。ただし同時に、統計データの信ぴょう性が疑問視されているとも報じている。統計データの正確性については中国でも度々疑問が提起されていたが、今後、インドの統計数字も慎重にみていく必要がありそうだ。

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主要紙の社説・論説から

危機に瀕する香港の「12制度」
 香港で逃亡犯条例(extradition bill)改正案に抗議して市民が大規模なデモを展開している。デモは改正案の撤廃と香港政府トップである行政長官の辞任を要求し、最近では行政長官や議会選挙での普通選挙の実施までを求めていると報じられている。以下に、この問題に関する主要メディアの論調を観察する。先ず概略を要約し、次いで個別に論調をみていきたい。

要約:メディアは先ず、抗議デモの特質について、香港返還後で最大となる規模やデモ参加者の大半が若者だったことを挙げ、条例改正案が香港市民にとって、きわめて深刻な意味合いを持っていたと主張する。すなわち、反体制派には、中国に送られて法の支配を蔑視する習近平の下にある法廷で厳しい裁きを受け、金融センターのビジネスマンには、本土企業の言いなりになる中国の法廷に立たされるリスクがそれぞれ生じ、外国企業の地域本部を惹き付けた香港の司法制度が損なわれかねなかったと指摘する。

 香港当局は、改正案は政治犯に適用されないと主張するが、メディは、中国には共産党批判者を政治的犯罪と思われない容疑で告発して罰してきた長い歴史があり、受け入れられない釈明だと反論する。また台湾が香港の改正案の下での犯罪人引き渡しは受け入れないとしていると述べ、解決策として、香港外で罪を犯した者を香港の法廷で裁く方法を示唆する。
さらに英国は香港返還時の中英共同宣言の当事者として格別の責任があり、改正案が間違っていることを明確かつ声高に宣言すべきだと主張するが、香港に許容する特恵的地位が危険にさらされると警告する米国に対しては、香港における米国の利益に打撃を与え、香港の前途を台無しにする可能性があるとして慎重対応を求める見方も提示する。

 こうした中国本土と香港間の緊張は返還後の22年間、「1国2制度」という政策に内在してきた問題だと述べ、デモの大群衆は、中国の習近平国家主席にピープルパワーの前に屈するか、それとも、中国にとって不可欠なグローバルなビジネスセハブを損なうリスクを冒しても、香港を何としてでも従わせるか、という2者択一のジレンマを提起したと指摘する。デモは無条件降伏を要求しており、それは習氏のシナリオには存在しないとしても、香港市民の権利を直接侵害する解決策は困難かつ代償が高いと述べ、抗議デモに勝利を与えることが、習氏にとって最善の利益になると強調、総じて、今回の抗議デモによって香港の「12制度」は、「2制度」よりも「1国」の方が進化していることが、改めて明確になったと指摘する。

 次に個別の論議を紹介する。先ず、デモの背景と意義について6月13日付エコノミスト誌の「People v power The rule of law in Hong Kong(ピープル対権力、香港における法の支配)」と題する社説からみていく。社説は、香港デモの特質として3つを挙げる。第1に、香港返還後で最大となるデモの規模の大きさ、第2に、デモ参加者の大半が英領時代を知らない若者であることを挙げ、彼らはまさしく香港の将来が危うくなっていると懸念していると伝える。そして第3に、今般の条例改正案が香港市民にとって、きわめて深刻な意味合いを含んでいることを挙げる。この意味合いについて社説は、「引き渡しの恐れに伴い、香港の人々は誰もが、法の支配が党の支配の下にある中国の気まぐれな司法制度の下におかれる。中国政府に挑戦する反体制派は、中国に送られて法廷で厳しい裁きを受けるかもしれない。ビジネスマンには、中国当局と強いコネのあるライバルが手を打って、容易に操れる司法の場へ彼らを引きずり込むリスクが生じる」と解説する。

 こう述べた社説は、さらに香港のおかれた立場について次のように指摘する。従って、一党支配国家と自由なグローバル・コマースの間をつなぐ脆弱な橋である香港に破滅をもたらす可能性がある。多くの企業が、巨大な中国市場との結びつきや、西側と同じ透明な規則がある香港に地域本部を設置している。中国本土のおかげで香港の商品輸出は世界第8位、株式市場は世界第4位の規模にある。巨大な銀行システムは西側と途切れなくつながり、通貨は米ドルと固定している。こうした香港が単なる中国の1都市となれば、打撃を受けるのは香港市民だけで終わらない。習主席は就任直後から、中国の司法制度は党の支配下にあるべきだと主張、独立派弁護士や市民活動家を弾圧し、党を批判する香港在住の書店経営者を拉致する、などの事例が示すように、習氏の発するメッセージは明らかで、本土内で法の支配を軽視するだけでなく、本土外でも蔑視しているのだ。

 また香港当局は、改正案には引き渡し対象の犯罪を絞り込む安全条項があると主張しているが、抗議側はこれを否定しており、それは正しい。理論的には犯罪人引き渡しは、政治犯には適用されるべきではない。重い判決を受ける重罪にのみ適用されるべきである。しかし中国共産党には、政治関連とは思われない犯罪で党批判者を罰してきた長い歴史がある。香港政府は改正案が適用されるホワイトカラー犯罪の数を減らしたと語る。しかし恐喝や詐欺は依然として適用対象である。また最上位にある中国司法当局からの引き渡し要請だけが考慮されると語っているが、決定は香港の行政長官が握っている。現在の林鄭行政長官は、香港の親中派によって選ばれ、本土の共産党の要請に応えている。地方裁判所も異なる判決を下せる余地はほとんどない。

 こう論じた社説は、世界は支援の手を差し伸べることが可能だと述べ、英国は中英共同宣言の当事者として格別の責任があるとし、改正案が間違っていることを明確かつ声高に宣言すべきだと主張、中国と貿易戦争状態にある米国については、政治家の一部が改正案によって米国が香港に許容している特恵的地位が危険にさらされると警告しているが、香港における米国の利益に打撃を与え、香港の前途を台無しにするかもしれないとして、慎重であるべきだと主張、代わりに中国政府への圧力継続と米国による香港への犯罪人引渡しに際して個別案件毎の吟味を強化すると脅しをかけるのがよい、と助言する。

 さらに社説は、抗議は英領時代以来の暴力的騒動に発展し、中国政府は外国の陰謀だと非難するなど状況は危機的だと懸念を表明、林鄭長官は頑固だが、再考しても遅くはないと主張する。また台湾が香港の改正案の下での犯罪人引き渡しは受け入れないと語っていると述べ、改正案は、林鄭長官が望んでいた目的を達成しないだろうと指摘、衝撃が比較的少ない解決策として、香港外で罪を犯した者を香港の法廷で裁く方法を示唆する。最後に、香港が22年前に中国の支配下に入った際、2制度の方の発展が期待されていたが、今回の抗議デモが明らかにしたように、ことは計画通りに進んでいないと指摘する。

 6月14日付ウォール・ストリート・ジャーナルは、「Why Hong Kong Matters(日本版記事:【社説】香港デモ、世界にとって重要なわけ)」と題する社説で、中国は自由のショーケース(showcase of freedom)、香港をのみ込もうとしており、トランプ米大統領は非難の声を上げるべきだと主張する。

 社説は、大規模な抗議デモを行っている若者は、自分たちの苦境に目を向けさせることで世界の役に立っていると述べ、習近平国家主席率いる中国共産党の支配の本質をわれわれに教えてくれるからだと指摘する。社説は、犯罪容疑者を中国本土に引き渡せるようにする「逃亡犯条例」改正案が成立すれば、中国政府を批判する者は誰でも本土に移送され、ほぼ確実に有罪判決を受けて処罰されることをデモ参加者は知っていると述べ、法案そのものが1997年の香港返還後50年間は1国2制度を維持するという約束に違反していると厳しく批判する。

 そのうえで、中国ではここ10年間、特に習の時代になってから、共産党は国内政治や国民の私生活の大部分に容赦ない支配を強めてきたと指摘、100万人に上るウイグル族の再教育施設への収容、反体制派を擁護する弁護士の逮捕、地下教会のキリスト教徒に対する嫌がらせ、さらに来年までに顔認識監視技術を利用し、行動の善悪に基づく市民の「社会信用」スコアをつけ始める予定などを挙げ、自由な香港を徐々に窒息させることはこの潮流の一環であり、習体制の国際社会に対する誓約を放棄する意図を示すと主張、香港は自由港として、また法的な安全地帯として、中国の経済的台頭を支援してきたが、それでもなお中国は香港を恐れているとし、それは中国人が自由に自治を行うことを示す模範となっているからだと指摘する。

 社説は最後に、香港人が街頭で示した強い怒りは、中国の恣意(しい)的な正義から間もなく逃れられなくなる人々の絶望を表していると次のように訴える。世界はこうした人々に関心を向ける義務がある。米国務省と一部の議員はすでに声を上げている。しかし米国が香港に多額の投資をしているにもかかわらず、トランプ氏は今のところ沈黙を守ったままだ。香港の真実を語ることは、対中貿易交渉を危険にさらさない。習氏は自らの利益を考えて取引をする。むしろ中国が英国や香港との約束を反故にしたと非難することで、有利な取引ができる可能性が高まるかもしれない。習氏は全世界で民主的自治政府の領域を狭めることによって中国の影響力を拡大したい考えだろう。米大統領の責務はそれを押し返し、自由の範囲を拡大することだ。 

 6月16日付フィナンシャル・タイムズは社説「The Hong Kong people have spoken truth to power(香港の人々、権力に向かって真実を語る)」で、当局は審議を停止している逃亡犯条例改正案を廃案とすべきだと主張する一方で、抗議デモは行政長官の辞任を求めているが、中国政府がより強硬派の人物を後任に据えるリスクがあると警告し、さらに次のように論じる。

 香港人の7人に一人が参加したデモの後、当局は無分別な改正案を引っ込めた。林鄭(キャリー・ラム、Carrie Lam)行政長官の判断は賢明だったが、全面的に廃案とすべきだ。同時に、彼女と中国政府は、97年の中英共同宣言に盛り込まれた権利を守るために示した香港市民の決意の今後に思いを馳せるべきだ。改正案は明らかに欠陥があり、濫用される懸念があった。香港人は勿論、香港を通過する人物すらも重大な犯罪を疑われたら中国本土に引き渡されることを初めて容認する内容だった。つまり、共産党が支配する中国の司法制度が香港に及ぶことになり、反政府派が、でっち上げの容疑で本土に引き渡されかねなかったのだ。

 条例はまた、金融センターとしての香港にとって厳しい意味を持っていた。本土企業と争う金融センターのビジネスマンは、本土企業の言いなりになる中国の法廷に立たされる可能性があったからだ。外国企業の地域本部を惹き付けた香港の確立した司法制度が、損なわれかねなかったのである。

 最も基本的なことは、香港人が、この条例を香港基本法によって保証された自由が損なわれてきた一連の行動の最近時の事例として認識したことである。これは、まさに中国の習近平国家主席が、本土で専制的な体制を強化したことに対応する。「1国2制度」の根本が脅威にさらされたとみられたのである。

 6月17日付ニューヨーク・タイムズは社説「Beijing Is Treading Lightly in Hong Kong, for Now(中国政府、香港で今のところ軽やかに歩む)」で、市民の自由の弾圧は、全世界が見守るなかで困難を増すと警告し、次のように論じる。

 香港中心部を埋め尽くした大群衆は、アジア最強の人物、中国の習近平国家主席に決定的なジレンマを提起した。ピープルパワーの前に屈するか、それとも自由世界の非難を浴び、中国にとって不可欠なグローバルなビジネス・ハブを損なうリスクを冒しても、香港を何としてでも従わせるか、という2者択一のジレンマである。こうした緊張は香港返還後の22年間、「1国2制度」という政策に内在してきた問題である。中国を支配する共産党は、ほとんど当初から香港自治を少しずつ削り取ろうとしてきた。これに対し740万人の香港市民の大多数は、平和的だが力強い抗議活動をもって断固として対応してきた。毎年、返還記念日である7月1日には、香港自治を守る街頭行進が行われ、特に2014年には本土支配を強化しようとする香港の選挙制度改定に抗議し、シティ・センターを79日間も占拠する雨傘運動に発展した。

 逃亡犯条例の改正に反対して始まった現在の抗議活動は、こうした対決を新次元に引き上げた。抗議デモの規模は飛躍的に増大し、そこには返還前の香港を全く知らない若者が多数含まれている。さらに、驚くべきことに、彼らは条例改正案の審議停止と林鄭行政長官による謝罪という当局からの和解提案を拒否すると宣言したのである。

 香港の人々からみれば、これは当局が単に戦術的に後退したにすぎなかった。香港市民の要求は、法案の全面的廃止と警察活動に対する調査、そしてデモが犯罪と見做される可能性のある「暴動」ではなかったことの公式認知であったからだ。事実上、彼らは無条件降伏を要求している。しかし、それは習氏のシナリオには存在しない。中国の政治は秘密に閉ざされており、習氏が個人的に香港での対決に何処まで関与しているのかは不明だが、林鄭行政長官の後退宣言を事前に承認していたことに疑問の余地はまずない。また対決が習氏に重大な挑戦を突きつけているのには、疑問の余地がまったくない。

 こう論じた社説は、習氏は就任以来、着実に権力基盤を強化し、民主的な要求への譲歩には強硬に反対する姿勢を明らかにしてきたと指摘、一例として2012年に公表した「7つの禁句」を挙げ、これには「西側の立憲民主主義」、人権、メディアの独立性、市民参加、市場寄りの自由主義および党の過去に関する虚無主義者的批判などが含まれていると述べる。これらは香港人が大切しているものであり、そのため香港は、習氏の理念に直接挑戦する地域となっていると指摘し、習氏は、民主主義や法の支配は見かけ倒しの西側の考え方で中国には無縁であり、反体制勢力とは、外国人によって操作された少数派と片付けていると述べる。

 そのうえで社説は、戦術的後退が通じなくなった現在、中国政府は幾つかの強硬手段を考えるだろうが、市民の権利を直接侵害する行為は困難かつ代償が高いと述べ、香港のビジネスセンターとしての長い歴史、巨大な中国市場へのアクセスの容易さ、グローバルな金融ハブとしての地位なども犠牲になると警告する。最期に、1984年の中英共同宣言によって香港は2047年まで、その生き方と自由が認められており、現在も続いている抗議は紛れもなく香港人は時計を逆戻りさせる試みにはなんであれ抵抗する姿勢を鮮明にしていると指摘、抗議デモに勝利を与えることが、大きな痛みを伴うかもしれないが、習氏にとって最善の利益になると強調する。

 6月17日付ワシントン・ポストは「Hong Kong’s protests challenge everything Xi Jinping stands for. How will he react? 習近平が標榜する全てに挑戦する香港デモ、習はどう対処するか)」と題する社説で、中国本土への犯罪人引渡を認める逃亡犯条例改正案に反対するデモは驚くべき盛り上がりを見せ、200万人と見積もられる人々が香港の象徴である開放と自由市場を守るために中心部に繰り出したと報じ、同時に、こうした抗議は、それがいかなる結果を生み出すか、中国共産党とその事実上の代理人である香港政府が、どう対応してくるのか、という心配を生み出したと述べ、さらに次のように論じる。

 香港中心部を埋め尽くした人々の群れを見て、習近平国家主席は背筋をぞっとさせたことは疑いない。党の卓越性を家父長的な指導力とする彼の政策は、独立的思考と行動を粉砕してきた。これは1989年の天安門における民主化デモを弾圧した残忍な暴力の直接的な遺産である。それは中国指導部の思考の主要部分に、しかも悪夢として残っている。彼らはピープルパワー(人民の力)を何よりも恐れている。中央本土の独裁者の政策に直截かつ堂々と反対する街頭に溢れんばかりの独立志向の香港市民の大群衆は、習主席が標榜する何事にも挑戦しているのだ。

 こう論じた社説は、中国政府が香港返還後、「1国2制度」の体制の下で50年間約束した香港の自由を破棄しようと試みてきたと述べ、同時に天安門事件の記憶を拭い去ろうとしてきたと指摘する。そのうえで香港の林鄭行政長官は改正案の審議を停止し、謝罪したが、それでは不十分で改正案を撤廃すべきだとし、また習主席は、香港の抗議は中国人が民主主義を理解でき、かつ専制主義の拘束衣を着せられた生活を強いられるべきでないこと示す目に見える証拠であるのを悟るべきだと主張する。そして台湾の例を挙げ、中国としても、中央政府の惨めな囚人となった香港からよりも、開放され繁栄する香港から得るものの方が多いことを理解すべきだとし、そのために天安門事件の悪夢や自由に対する党の恐怖を振り払う必要があると強調する。

 社説は最後に、香港が米国との経済関係で1992年法に基づく特恵的地位を享受している事実を挙げ、米政府と議会は香港がその地位を失うリスクがあることを梃子として使い、中国が香港に自由を許容することを促すべきだと主張する。

結び:メディアが報じるように、今回のデモは未曾有の規模に拡大した。7月1日の香港返還22周年記念日には、若者の一部が暴徒化し立法会(議会)内に乱入する事件が起きるなど、事態の収拾目途は立っていない。デモが拡大、長期化している背景として、行政長官や立法会議員の普通選挙の実現など、香港市民が以前から望んでいる民主化プロセスが一向に進まず不満が鬱積していることが挙げられている。また6月に天安門事件30周年記念日の追悼集会が香港でも開かれ、これが専制体制を強化する習指導部への抗議デモとして盛り上がり、改正案反対デモと重なっていった側面もある。いずれにせよ、今回の抗議デモは習指導部に対する重大な挑戦であり、今後の習体制への影響が注目される。

 その観点から一つの鍵を握るのは、米英日など西側諸国の対応姿勢である。6月末に大阪で開かれた20カ国・地域(G20)首脳会議が格好の場だったが、残念ながら、掘り下げた論議は見送られてしまった。再選問題で頭がいっぱいのトランプ大統領、ブレグジット(英国のEU離脱)問題で機能不全に陥っている英政権、EUのトップ人事で紛糾していた欧州首脳部、そして議長国として米中貿易摩擦など他の諸問題に追われた安倍首相と、いずれも関心を示さず、結局、うやむやのままで終わった。むしろ台湾で反中路線を強める蔡英文総統にとって追い風となり、同氏が与党の次期総裁候補として選出された動きが注目されている。引き続き香港と中国政局の動きや西側諸国の対応動向、台湾を含アジア地域情勢に与える影響などを注視したい。

                 § § § § § § § § § § 

(主要トピックス)

2019
6月16日 香港で「逃亡犯条例」改正案の撤回を求めて200万人がデモ。
  19日 日本の外務省、元徴用工訴訟を巡る日韓間紛争解決のため仲裁にあたる第三国の選定を韓国政府に要求。
  20日 中国の習近平国家主席、北朝鮮を訪問。
  23日 東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議、独自の外交戦略「インド太平洋構想」を採択して閉幕(バンコク)。ASEANが「中心的かつ戦略的な役割を果たす」と宣言。
  27日 安倍首相、G20首脳会議のために訪日した中国の習近平国家主席、インドのモディ首相らと会談。
  28日 20カ国・地域(G20)首脳会談、開幕(大阪)。
      安倍首相、来日したトランプ米大統領と会談。
      G20に出席した米中首脳会談。
  29日 G20サミット、共同宣言を採択して閉幕。
  30日 訪韓したトランプ米大統領、北朝鮮の金正恩委員長と電撃的に会談。
7月 1日 香港返還22周年記念日に抗議デモ。一部、暴徒化して立法会を襲撃。
       日本政府、韓国向け輸出規制強化のため半導体材料の審査厳密化と安全保障上の友好国の指定も取り消すと発表。
   2日 中国の李克強首相、外資による金融事業出資規制の廃止を当初予定の21年から20年に前倒しする方針を表明。
   4日 香港当局、立法会乱入者を逮捕。抗議デモ関係者に対して強硬姿勢へ転換。
   7日 香港で再び「逃亡犯条例」改正案の完全撤回を求めるデモ。主催者側は23万人超が参加と発表。警察当局は5.6万人と見積もる。
   8日 米政府、台湾向けに戦車、地対空ミサイルなどの武器売却を承認。中国政府が反発。
  11日 ASEAN国防相会議、開催。南シナ海における行動規範の早期作成を訴える。
  12日 タイ政府、バーツ高対策として外国人口座残高の上限規制を引き下げ。
  15日 台湾の最大野党、国民党の次期総統候補に立候補していた鴻海(ホンハイ)精密工業の郭台銘(テリー・ゴウ)前董事長、予備選で敗退。


主要資料は以下の通りで、原則、電子版を使用しています。(カッコ内は邦文名)THE WALL STREET JOURNAL(ウォール・ストリート・ジャーナル)、THE FINANCIAL TIMES(フィナンシャル・タイムズ)、THE NEWYORK TIMES(ニューヨーク・タイムズ)、THE LOS ANGELES TIMES (ロサンゼルス・タイムズ)、THE WASHINGTON POST(ワシントン・ポスト)、GUARDIAN(ガーデイアン)、BLOOMBERG・BUSINESSWEEK(ブルームバーグ・ビジネスウイーク)、TIME (タイム)、THE ECONOMIST (エコノミスト)、 REUTER(ロイター通信)など。なお、韓国聯合ニュースや中国人民日報の日本語版なども参考資料として参照し、各国統計数値など一部資料は本邦紙も利用。           
 



                  

 


前田 高昭
金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。
訳書に『チャイナCEO』他。
『東アジアニュースレター』配信中。 

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