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東アジア・ニュースレター ― 海外メディアからみた東アジアと日本 ― 第101回

2019/04/22

連載 東アジア・ニュースレター  
― 海外メディアからみた東アジアと日本 ―


第101回

前田 高昭 : 金融 翻訳 ジャーナリスト      
バベル翻訳大学院プロフェッサー
 

 
 

 中国は「中所得国の罠」にはまらず、現体制を維持しつつ高所得国の仲間入りを果たせるだろうか、とメディアが論じる。結論を出すのは不可能だが、中国が一党支配を維持しながら、高所得国となれば、世界に多方面で甚大な影響を及ぼすと指摘、実現を困難にする要因と実現を可能とする要因を詳細に分析している。


 
 台湾
では、来年1月に総統選が予定されており、与党、民主進歩党の総統候補を決める党内予備選に蔡英文・現総統と頼清徳・前行政院長(首相に相当)が共に届け出たことから、両候補が真っ向から激突する見通しとなった。メディアは、このため蔡総統の再選が危うくなったと述べ、また頼氏が蔡総統以上に独立指向が強いとされているため、中国を刺激しそうだと論評する。

 韓国では通貨、ウォンが今年に入り対米ドルで2.5%下落するなど低迷し、アジア通貨の中で最悪のパフォーマンスを示した。原因として、韓国経済をけん引する輸出の減少、海外投資家による配当金の償還や韓国債券の売却に伴うドル需要の増加、大型ソブリン・ファンドによる韓国債券の指標からの除去などが指摘されている。

 朝鮮では、こう着状態に陥っている米朝関係について金正恩・朝鮮労働党委員長が最高人民会議での演説で、トランプ米大統領との3回目の首脳会議について応じる用意があると表明した。ただし金委員長は、事態打開の期限を年末までと区切り、首脳会談に固執するわけではないと述べ、しかも米国側の譲歩を前提とし、かつ「前回ほどの好機はないだろう」とコメントするなど、内容は否定的なトーンが強い。その意味で、予断を許さない発言として受け止められるが、3回目の米朝サミットに向けて、事態が動き出したことは間違いないとみられる。
 
 東南アジア関係では、フィリピンで経済を牽引する外国直接投資(FDI)の流入が鈍化し、経済への悪影響が懸念されている。FDI伸び悩みの主因としては、インフレ面の隘路や朝令暮改の政策、外資の保有比率規制、経済成長の減速などが挙げられているが、それに内容が不透明な政府の税制改革案が加わったと報じられている。

 インドの中央銀行、インド準備銀行が今年2回目となる政策金利の引き下げを実施した。メディアは、当局は2回連続の利下げで今月に行われる選挙に先立って信用拡大を刺激しようとしていると報じる。準備銀行は、新総裁の下でこれまでの引き締め政策から緩和政策へと大きく転換した。ラグラムラジャン氏とその後のパテル両前総裁はいずれもタカ派の政策をとり、モディ政権と対立、更迭されており、新総裁の下での政策転換は選挙を意識した政治的動機が感じられると指摘され、インフレ再発も懸念されている。

 主要紙社説・論説欄では、アジアの世紀が始まろうとするなか、新しい天皇と元号の下で、新時代を迎えようとする日本に関する論調を観察した。

                § § § § § § § § § § 


北東アジア


中 国

 中所得国の罠と中国
 中国は以前から「中所得国の罠」にはまるのではないかと懸念され、真剣に議論されてきた。
49日付フィナンシャル・タイムズ記事「Xi Jinping’s China seeks to be rich and communist (富裕な共産党国家を目指す習主席)」が、この問題を正面から取り上げ論じているので、概略を紹介する。筆者は同紙チーフ・エコノミック・コメンテーターのマーチン・ウルフ氏。

 記事は冒頭で、中国は共産党が支配する高所得の国になれるだろうか、と疑問を提起し、これに成功すれば、高所得国が全て民主国家である現在の世界を一変させ、経済、軍事だけでなく、政治と理念の分野でも世界のパワー・バランス再編につながるだろうと主張する。これは、まさに中国の習近平国家主席が期待していることだが、実際、そうなる確率はどの程度あるのか、と再び問題提起し、概略次のように論じる。

 共産主義国家は
1991年以降、数の上では減少しているが、中国は特異な例外的国家ではない。例えば、ベトナムは40年間にわたって驚異的な経済成長を遂げたが、依然として中所得国である。国際通貨基金(IMF)によれば、購買力平価で算出したベトナム国民一人当たりの国内総生産(GDP)は世界75位で、メキシコやタイを若干下回る。また政府の質についても、少なくとも世銀のガバナンス指標からみて、中国は特異な国ではない。「政府の効率性」は「報道の自由と説明責任」より評価が高く、前者はイタリーのランクに近く、後者はロシアのそれを下回っている。

 ただし、これは中所得国の間では全く例外的なことではない。かりに中国が、政府の説明責任が現水準のままで、一人当たりの
GDPで韓国のような高所得国の仲間入りを果たすと、全く新しい事態が出現することになる。中国は富裕国となる一方で、政治制度はほとんど変わっていないことになるからだ。習主席が、このことを確実に実現したいと努力しているのは、明らかである。これからの10年間、一人当たり実質GDPを年率4%で持続的に成長させれば、中国は高所得国グループの中間に位置することになり、経済は米国と欧州連合(EU)を合算した規模よりも大きくなる。これは新しい世界の実現である。

 しかし、これはありそうな話だろうか。過去
20年間をみると、然るべき経済規模の国で、低所得国から高所得国へ上り詰めたのは韓国だけなのだ。これを達成するために一党支配の中国は、政治面で高水準の統治実績、経済面で高所得の繁栄をそれぞれ実現できる能力があることを証明しなければならない。しかも、その当時には裕福で、都市に住み、教育水準が高く、注文が多くなっている国民の要求にめげずに、また旧ソ連を崩壊させたような共産党内のエリートの分裂が起きないようにしつつ、実現しなければならないのだ。

 では何故、中国がこれに失敗するかもしれないのか。それは「中所得国の罠」にはまる可能性があるからだ。中国については、既に経済成長が大幅に誇張されていると取りざたされ、人口の高齢化や環境汚染、それにより強まるとも指摘されている経済の国家支配と、さらに投資収益の低下によって、
08年以前よりも遙かに低下している経済成長が高所得国よりも若干高い程度の水準に落ち込むかもしれないとみられるからである。

 この間、社会の変化によって共産国家の正統性が損なわれる可能性もある。また長期的には、体制に内在する腐敗を抑えきれないことも考えられ、さらには時代遅れのマルクス主義を根本におく体制の正統性も持続困難となるかもしれない。過去において、そうした時代遅れの思想が大躍進政策や文化革命という悲劇を引き起こしている。

 とはいえ、中国の共産主義は成功を持続させそうなのだ。それは、何故か。一つの答えは、一党独裁国家は驚くほど柔軟性に富み、現実的でもあるということだ。文化革命から、「改革開放」への変わり身の早さは離れ業だった。共産党はまた「天命」という古典的概念も利用している。中国の絶対的な官僚制も、一つの回答になる。もう一つ重要なことは、共産党は中国を貧困と被害者の立場から解放し、繁栄と力をもたらしたという主張である。共産党は常に国家の視点を枠組みとしている。ロンドン大学キングス・カレッジの中国専門家、ケリー・ブラウンの言によれば、「共産党は国家的使命の貯蔵所」なのである。ナショナリズムとの結婚が共産党の正統性の源泉となっている。

 また共産党には別の資質がある。その第
1は、国民を教育と起業家精神に駆り立てることである。これは中国の経済的繁栄の可能性を大いに高めている。第2
は、近代技術を、実質的に国民一人一人を包括的に監視する体制に転換する能力である。その一方で、最近の高所得国における経済的、政治的失敗を指摘する能力がある。そうした失敗とは世界的金融危機であり、生産性の伸びの低下やトランプ米大統領のような無能な指導者の選出、そしてブレグジットのようなお先真っ暗な大義の主張である。

 民主主義という選択は、巨大な数の中国国民にとって、以前より魅力を失っているに違いない。国内の政治的安定のリスクと引き換えに現代版の民主主義を求めるのは、とりわけ西側が中国の進歩を支えたプラグマティックな力量を拒絶していることから、無謀なことにみえるだろう。

 中国は、高所得の繁栄と政府の効率性を保持し、かつ一党支配を維持しつつ、巨大なシンガポールに変貌するだろうか。それとも政治制度や経済的進歩、あるいはその双方が共に、崩壊してしまうのか。習主席は中国を世界ナンバーワンの国にした人物として歴史に名を残すのか、それともソビエット体制を修復不可能な荒廃に追い込んだ中国版のレオニード・ブレジネフになるのか。その結末を知るのは不可能なことである。それは中国国民だけが決める問題だ。わかっているのは、我々にとっても重要な問題であるということだ。西側はこの間、自らの心の奥をのぞき込み、破綻の危機にある民主主義の修復に努めるべきだ。

 以上のように記事は、中国が一党支配体制を維持しながら、高所得国の仲間入りを果たせば、世界に対して多方面で甚大な影響を及ぼすと指摘する一方で、実現を困難にする要因と実現を可能とする要因を挙げて、結論を知るのは不可能だと述べる。前者の要因として、高所得国となる過程で国民がディマンディングとなること、党の維持を不可能とするような党内分裂の発生、時代遅れのマルクス主義とそうした体制の正統性の持続困難、そして経済面では、人口の高齢化や環境汚染、強まる経済の国家支配、投資収益の低下の進行を挙げ、中所得国の罠にはまる可能性を指摘する。

 後者の要因として、一党独裁国家にしては柔軟性に富み、現実的であること、「天命」という古典的概念や絶対的な官僚制の活用、ナショナリズムとの融合、国民の教育や起業家精神の助長、近代技術を応用した国民監視体制の確立、西側民主主義の劣化などを挙げ、罠にはまらない可能性もあると指摘する。


 
一般に「中所得国」とは、世界銀行の定義によれば、「先進国」と「発展途上国」の中間にあって、
1人当たりの国民総所得が約1000~13000米ドル程度の国とされている。中所得国の罠は、自国経済が中所得国のレベルで停滞し、高所得国入りができない状況に陥ることを意味し、自国の労働力などを基にして経済成長し、中所得国の仲間入りを果たした後、人件費の上昇や後発新興国の追い上げ、先進国の先端イノベーションの格差などにより競争力を失い、経済成長が停滞する現象を指すとされる。

 上記記事は中国について、中所得国が罠にはまる一般的要因の他に、中国独自の政治、経済的要因をいくつか挙げ、中国が罠に陥る可能性を指摘しているのが注目される。ただし、中国は「中国製造
2025」など先端技術分野で先進諸国に追いつき追い越す戦略を展開し、既に5Gなど一部の分野で先進諸国を追い越しているとの見方もある。これに対して米国を筆頭にして先進諸国が一斉に中国に対する警戒心を強めており、これが中国の罠からの脱出を妨げる要因となる可能性も否定できない。そうした観点からも米中貿易戦争の帰趨を注視していく必要があろう。



台 湾

☆ 
蔡総統の再選に立ちはだかる前行政院長
 台湾では来年
1月に総統選が予定されている。蔡英文総統(62)は321日、与党、民主進歩党の総統候補を決める党内予備選に届け出でを提出した。すでに頼清徳前行政院長(首相に相当)(59)も届け出ていることから、両候補が真っ向から激突する見通しとなった。こうした状況について321日付エコノミスト誌は、蔡総統の再選が危うくなったと論評する。

 記事は冒頭で、蔡総統は台湾で初めての女性総統として先駆者の立場にあり、中国とも事を構えない姿勢で海外では歓迎されているが、国内ではそれほど人気がないと述べる。最近の世論調査でも支持率が
30%と低迷し、加えて首相として蔡総統に仕えた頼清徳氏が蔡氏に挑戦することを公に宣言したことで、見通しはますます疑わしくなったと伝える。また記事は、頼氏が台湾は中国とは別の国であることを正式に宣言すべきだとの考えを蔡氏よりも声高に支持しているために、総裁選をめぐる両氏の争いは中国を怒らせるかもしれないと指摘する。

 頼氏は今週、予備選の届け出に際して台湾は第
2の香港になりたくないと宣言し、蔡氏が台湾独立を確実にするために十分に努力していないと示唆したと報じる。さらに蔡氏の努力にもかかわらず、経済成長は鈍化し、賃金は過去数十年間、低迷しており、蔡氏の景気浮揚策があまり成果を上げていないことに有権者は失望していると述べ、与党、民進党は昨年11月の統一地方選挙で首都、台北で野党、国民党に敗北を喫したと指摘する。

 次いで記事は、蔡氏は地方選挙の不振の責任を取って民進党指導者の地位を辞任し、その数か月後、頼氏も蔡総統の慰留を退けて行政院長の職を辞任したと述べ、予備選はこの両者のテレビを通じる所信表明を経て、党が全選挙区にわたってサンプル世論調査を実施、最多支持率を得た候補者が指名を獲得し、結果は
417日に発表されると報じる。

 さらに蔡氏の支持者は党の分裂を危惧して必死に統一を呼びかけているが、それは頼氏の退陣を意味しているようだと指摘、最後に、蔡氏を支持する陳其邁副首相が、攻勢を強める中国によって党内の分裂が一段と危険性を高めていると述べ、
20年の選挙は台湾の存亡を決するものとなろうと語っていると伝える。

 以上のように記事は、既に地方統一選挙で敗北を味わった蔡英文総統が、以前に部下だった頼氏の挑戦を受け、再選が一段と難しくなったと伝える。ただし頼氏は蔡総統よりも独立指向が強いとされており、こうした情勢下での中国の今後の出方と、野党、国民党の対応に注目したい。




韓 国

☆ 低迷する通貨、ウォン
 通貨ウォンが低迷している。
48日付ブルームバーグは、ウォンは今年に入り対米ドルで2.5%下落したと報じ、これは韓国経済の成長エンジンである輸出が減少し、経済の先行きに懸念が深まったためだと伝える。また輸出の伸び鈍化の兆しは、韓国銀行による金融緩和政策に賭ける動きを煽り、ウォンに対する圧力となったと指摘する。

 記事によれば、ウォンは8日現在、外国投資家が対韓投資の配当金を本国に送金するため米ドルの需要が高まっていることから、
20179月以来の低水準に落ち込んでいる。さらに在ソウル外銀筋の情報によれば、内外のトレーダーは配当金の送金原資として米ドルの買い持ちに走っており、このためウォンは終値で1ドル=1,144.70ウォンと前日比0.8%下落している。

 また記事は、ウォンは今年に入ってからアジア各国通貨の中で最悪のパフォーマンスを示しており、その状況が
8日の下落によってますます深刻となったと述べ、要因として、海外投資家が5日に韓国上場債券をネットで17380万ドル売り越したことを挙げ、これは125日以来の売越額だったと伝える。

 ソウルにある新韓投資コープ(
Shinhan Investment Corp.)のエコノミスト、ハー・クン・ヒョン(Ha Keon-hyeong)氏は、投資家による配当金送金は通常、34月に集中すると述べ、需給要因による米ドルの対ウォン直物相場での高騰は、米ドルの売りカバーも若干誘っていると語る。

 上記のように報じた記事は最後に、ウォンに対する市場のセンチメントも落ち込んでいると述べ、これはノルウェーの
1兆ドル規模のソブリン・ファンドが、その指標から韓国を含む10の新興国市場の債券を外すことについて、ノルウェー政府から承認を受けたためだと上述のハー氏が語っていると伝える。

 以上のようにウォンは今年に入り下落を続け、アジア各国通貨の中で最悪のパフォーマンスを示した。原因として、韓国経済をけん引する輸出の減少、海外投資家による配当金の償還や韓国債券の売却に伴うドル需要の増加、大型ソブリン・ファンドによる韓国債券の指標からの除去などが挙げられている。このうち輸出の減少を除いては、季節的あるいは市場心理的要因という、いわば一過性の要因と言える。今後のウォン動向を予測するには、引き続き輸出の動きに注目する必要があるといえよう。




北 朝 鮮

☆ 
第3回米朝首脳会談に向けた動きについて
 こう着状態に陥っている米朝関係について、注目すべき動きがみられた。北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長がトランプ米大統領との
3回目の首脳会議については応じる用意があると表明したと報じられたのである。413日付ウォール・ストリート・ジャーナルによれば、金委員長が米国との非核化協議について、事態打開の期限を年末までとしたうえで、トランプ米大統領との3回目の首脳会議について応じる用意があると表明したと国営の朝鮮中央通信が13日に伝えたという。

 正恩氏は
12日の最高人民会議で、3回目の首脳会議に「固執する必要」はなく、制裁の緩和がどうしても必要というわけではないと発言し、米国が非核化協議へのアプローチを変えるべきだと指摘、米国に「年末まで」猶予を与えるとしているものの、「前回ほどの好機はないだろう」と述べたという。記事は、前回とは2月の首脳会議を指しているとみられるとコメントする。

 さらに記事は、トランプ氏との個人的な関係について、正恩氏は「素晴らしく」、「敵対的ではない」と述べ、他方、トランプ大統領は
11日、正恩氏との3回目の首脳会議開催について「ありうる」と語る一方で、北朝鮮が核兵器の放棄に同意するまでは米国主導の制裁を維持すると発言したと伝える。

 4月
12日付ニューヨーク・タイムズは、金委員長がトランプ米大統領との3回目の首脳会談に応じる用意があると述べたが、米国が相互に受け入れ可能で、合意できる条件を提示できれば、との前提を付していると伝える。金委員長は最高人民会議での演説で、2月のトランプ氏とのサミットの決裂は、金委員長の言では、米国の一方的な要求のためだと非難したと報じ、さらに次のように伝える。

 金委員長は以前にも語ったように、北朝鮮経済は厳しい経済制裁を耐え忍ぶことができると述べ、「制裁逃れを求めるあまりに米国との首脳会談に執着することはない」と発言した。また金委員長は、我々も勿論、対話や交渉を通じる問題解決が重要だと考えているが、要求を一方的に押し付ける米国流の対話は、我が方には当てはまらないし、そうした事に関心もない。米国の勇断を年末まで忍耐をもって待つが、前回ほどの好機を求めることが困難なのは明らかだ、と語った。

 以上のように、金委員長の最高人民会議での発言は、一見、
3回目の首脳会談に向けた前向きな内容のものに思えるが、事態打開の期限を年末までと区切り、首脳会談に固執するわけではないと述べ、しかも米国側の譲歩を前提とし、かつ「前回ほどの好機はないだろう」とコメントするなど、否定的なトーンが強いと言える。その意味で、予断を許さない発言として受け止める必要がある。ただし、こうした否定的トーンは、駆け引きの一環として当然でもあり、また米国に対する非妥協的姿勢の国内向けアピールという可能性もあり、それほど悲観的に受け止める必要はないかもしれない。いずれにせよ、3回目の米朝サミットに向けて、事態が動き出したことは間違いないと言えよう。



東南アジアほか


フィリピン

☆ 懸念される外国直接投資の低迷
 
2018年のフィリピン向け外国直接投資(Foreign direct investment、以下、FDI)が年率で4.4%減の98億ドルに落ち込んだ。これはロドリゴ・ドゥテルテ大統領が提案する税制改革に対して投資家が不安を募らせているからだと320日付フィナンシャル・タイムズは報じ、FDIの減少は2015年以来で、フィリピンのビジネス環境を損なう可能性があると懸念を表明する。

 記事によれば、ドゥテルテ大統領が就任した最初の2年間、フィリピン向け
FDIは記録的に増加した。18年のFDIは高水準だったといえるが、エコノミストは不安定な投資環境が続けば、外資をさらに失うことになると危惧している。フィリピン中銀は昨年のFDI目標値を17年の103億ドルという史上最高額を若干上回る104億ドルに設定していた。

 対内投資が近隣諸国に劣後するなか、フィリピンは外国からの投資が雇用の主たる源泉となっている。しかし、その
FDIでも後れを取っている。例えば、ベトナムには昨年、355億ドルのFDIが流入した。エコノミストは、フィリピンで投資の伸びが緩慢な一因は、インフレ面のボトルネックや朝令暮改の政策、外資の保有比率規制などにあると指摘する。

 外資の保有比率は、多くの産業で40%が上限とされており、メディアのように外資に全く解放されていない分野もある。昨年の新規投資は
23億ドルと31に落ち込んだが、外国企業によるフィリピン内既存設備向け追加投資によって投資の落ち込み防がれている。こうした投資は昨年、11.3%伸びて67億ドルに達した。マニラにあるINGバンクのエコノミストは、税制改革をめぐる不確かな状況に鑑み、静観の構えをみせる投資家がいるのかもしれない、と指摘する。

 下院は昨年、法人税率と財政インセンティブを見直す法案を承認した。それによって
ASEAN 10か国中で最高だった30%の法人税率は10年間で20%へと引き下げられることになった。またドゥテルテ政権は、ロボティクスや人工知能(AI)のような新産業向けにタックスホリデー(免税期間)などの新しい投資家優遇策を検討していた。しかし、これに伴う歳入減を補填するため、輸出と製造業者、医療観光、外注産業向けの優遇税制を削減する施策も検討している。このなかで外注産業は着実な外貨収入源であり、百万人の雇用を創出している。

 こうしたなか投資家の一部は、減速する経済成長に不安感を抱いている。
FDIは昨年前半までは堅調で、7月には161%の伸びを示していた。しかし2018年の経済成長は、高インフレと弱い消費のために政府目標を下回る6.2%3年ぶりの低水準に落ち込んだ。INGバンクのエコノミストは、経済の先行きに未だ楽観的な既存投資家が投資を継続するとみられることから、FDIは今年前半までは堅調に推移するかもしれないが、新規FDIの流入については、税制改革に関する不確実性の解消やインフラの質についての大幅な改善が必要となるかもしれないと語っている。

 以上のようにフィリピン経済を牽引する
FDIの流入が鈍化し、経済への悪影響が懸念されている。FDI伸び悩みの主因としては、インフレ面のボトルネックや朝令暮改の政策、外資の保有比率規制、経済成長の減速などが挙げられているが、それに内容が不透明な税制改革が加わったと記事は報じる。ドゥテルテ大統領は、人権を無視した犯罪取り締まりを強行するなど独裁的な政策で国際的批判を浴びているが、経済でも上記のような難問を抱えるに至った。当面、税制改革の行方を注視したい。
 



インド

☆ 中銀、今年2回目の利下げを実行
 インド準備銀行(中央銀行)は
44日、今年2回目となる政策金利の引き下げを実施した。同時付けフィナンシャル・タイムズは、準備銀行は2回連続の利下げで今月に行われる選挙に先立って信用拡大を刺激しようとしている、と報じる。

 記事によれば、利下げは多くのアナリストが予想していたと語り、彼らは昨年
12月に就任したシャクティカンタ・ダス新総裁の下で準備銀行が成長重視に傾いているとみている。ダス総裁はモディ政権下で政府の要職を務めた経緯があり、選挙が近づくなか、準備銀行に対してより強力な景気刺激策を打ち出すよう働きかけていた。なお準備銀行は今年2月に25bpの利下げを実施している。

 記事は、地場イエス証券の調査部門長、アマール・アンバニ氏が、インフレが抑えられているなか、ダス総裁の下で経済成長を支えるとの準備銀行の強い意向が明確だ、と述べていると紹介し、インフレ動向について、
2月の小売物価上昇率2.57%と過去3か月間よりも高水準だったが、準備銀行の目標範囲である2-6%より低かったと報じる。 

 しかし記事は、インフレ・ファイターとしての準備銀行の信用は、新総裁の下で損なわれているとの見方が広がるなか、さらなる金融緩和策はインフレが強力に復活するリスクを高めていると論評、準備銀行の金利政策は
2016年以降、6人の委員からなる金融政策委員会によって決定されてきており、今回のように総裁単独で決めることはなかったと報じる。またパテル前総裁の最後の数か月間に準備銀行は合計50bpとなる2回利上げを実施し、原油価格高騰によるインフレ圧力を防止したと指摘する。

 記事はさらに、準備銀行はインフレの先行きについて、良好な収穫による食品価格のインフレ圧力の低下などを挙げて、今後半年間のインフレ見通しを引き下げ、今後の利下げの余地を残したとのキャピタル・エコノミクスのエコノミスト、シャー氏のコメントを伝えるが、さらに同氏は、これは間違いだと述べていると報じ、準備銀行の見方を批判する。なおインドは
411日から519日にかけて総選挙を実施し、モディ首相は再選を期して立候補していると説明する。

 以上のように準備銀行は、新総裁の下でこれまでの引き締め政策から緩和政策へと大きく転換した。ラグラムラジャン氏とその後のパテル両前総裁はいずれもタカ派の政策をとり、モディ政権と対立、更迭されたといえる。新総裁の下での政策転換は選挙を意識した政治的動機が感じられ、記事が批判するように、インフレが本当に抑え込まれているかどうかが懸念される。

                § § § § § § § § § § 

主要紙の社説・論説から

始動するアジアの世紀と新時代を迎える日本
 日本は新天皇と新元号の下で新しい時代を迎えようとしている。そうしたなか、
326日付フィナンシャル・タイムズは「The Asian century is set to begin (始動するアジアの世紀)」と題する記事で、アジアの時代の到来、すなわち、アジア大陸が世界の新しい中心地に変容しようとしていると論じる。ここでは、まずこのフィナンシャル・タイムズ記事を観察し、次いで、新時代を迎える日本に関する論調を紹介する。以下は、フィナンシャル・タイムズ記事の概略である。

 アジアは既に世界の人口の半分以上を占めている。国連資料によれば、世界の大都市
30のうち21はアジアに存在する。アジアはまた、来年には世界の中間層の半分を占めるとされる。中間層とは、2005年の購買力平価(purchasing power parity)で計算した一人当たりの1日の所得が10ドルから100ルに達する家計をいう。英調査会社、LMCオートモーティブによれば、2007以降、アジアの人々の乗用車とトラックの購買数は他の地域を上回っており、その自動車購買総数は2030年頃までにアジアを除く世界全体の規模に達すると予想されている。

 それではアジアの時代は実際には、何時ごろから始まるのか。本紙がデータを集計した結果では、アジア経済圏は、国連の貿易開発機関であるアンクタッド(
UNCTAD。国連貿易開発会議、United Nations Conference on Trade and Developmentの略称)の定義に従えば、その経済規模がアジアを除く全世界を超えるのは、19世紀以来となる2020年となる。つまり、アジアは2000年には世界の総生産の3分の1余りを占めるに過ぎなかったが、そのアジアの世紀が来年に始まるのである。なお経済規模の計算に際して本紙は、国際通貨基金(IMF)のデータによる国内総生産(GDP)を各国の購買力平価をベースに調整して行った。しかし市場レートを使っても、世界の総生産に占めるアジアの比率は2000年代初めの26%から38%に上昇している。

 アジアが他の世界を経済的に凌駕した背景には、何があるのか。大部分は、中国とインドの台頭で説明できる。購買力平価で計算した中国経済は今年、世界総生産の
19%を占め、2000年の7%から倍増し、今や米国より大きくなった。しかしアジアの時代に入る世界が目前に迫っているのは、この2つの大規模経済圏だけでなく、それより小さい中規模諸国の成長のおかげでもある。インドネシアは2020年までに購買力平価で世界第7位の経済大国になり、23年にはロシアを追い抜き、第6位となる途上にある。アジアで高成長を遂げている国の一つ、ベトナムは購買力平価で2000年以来、オランダやスイスなど17カ国を追い抜き、フィリピン経済は今や、オランダよりも大きく、バングラデシュは過去20年間で13カ国を追い抜いた。

 最近におけるアジアの台頭は、戦後日本の経済的発展から始まったが、これはアジアが人類史上、
19世紀までのほとんどの時代にわたって世界経済を支配してきた歴史への回帰といえる。イタリア・ボッコーニ大学で経済史を担当するアンドレア・コルリ教授は、17世紀頃の欧州は、GDPで世界の3分の2以上、人口で4分の3を占めた地球のこの地域を賞賛と羨望の眼で眺めていたと語る。その後、3世紀にわたってアジアの世界に占める地位は後退した。これは西側経済が、学者らが呼ぶ科学と啓蒙、産業革命によって力を得て飛躍したからである。

 しかし最近の数十年間で、こうした流れが逆転した。西側に追いついた最初のアジアの国である日本と韓国の劇的な台頭は、その後の中国の経済発展と比べれば影が薄くなった。中国は1970年代の終わりに鄧小平の指導の下で市場指向の改革を導入、国際通貨基金(
IMF)アジア太平洋チームがまとめた最近の地域経済見通しによれば、わずか数世代の間に、「貿易と外国直接投資、高貯蓄率、大規模な人的、物的資本への投資、そして健全なマクロ経済政策を通じるグローバル経済との統合という勝利の配合」によってアジアの経済的飛躍に貢献したのである。

 ただしアジアは未だ他地域よりも貧しい。だが、格差は縮小している。
IMF資料によれば、購買力平価でみた一人当たりのGDPは、中國は依然として米国の3分の1、欧州連合(EU)の44%程度で、インドはEU20%程度である。しかし米欧とインド、中国との一人当たりの所得格差は2000年以降、劇的に縮小した。2000年以降、中国の一人当たりのGDPはサハラ砂漠以南のアフリカの5倍近くに達している。この2つの地域は1990年台半ばには同じレベルにあった。どの物差しで測っても、アジアはグローバル経済の舞台で中心地に復帰しようとしているのだ。

 以上のように記事は、アジアの時代が来年にも到来すると述べ、それはアジアが世界の中心地となる一大転換点を示すと主張、ただしアジアは
17世紀頃までは世界経済センターだったので、そのことは歴史が一回りして元に戻ることを意味していると解説する。牽引するのは中国とインドだが、東南アジア諸国も大きな役割を果たすと述べ、様々な具体的データを使って検証する。例えば、一人当たりの国内総生産や世界の人口に占めるシェアの推移、世界の大都市30のうち21がアジアに存在すること、さらに来年には世界の中間層の半分を占めるとの予想、そして乗用車とトラックの購買数や自動車購買総数などである。

 日本については、戦後の経済発展が語られているが、その後の中国の大発展の前では影が薄くなったと指摘し、将来のアジアの時代を支える国家としての存在感は極めて希薄である。アジアが世界の経済センターとなる時代に、日本はいかなる存在であるべきか、という深刻な問題を提起していると言えよう。

 次に、その日本の現状に関する論調を観察しよう。
325日付フィナンシャル・タイムズは、日経アジアレビュー(Nikkei Asian Review)からの転載記事「A new emperor, a new era. A new Japan ?(新天皇、新時代、そして新日本か)」で、停滞が刻み込まれた時代の元号、平成の後、国民は「新規まき直し」(‘reset’)の希望を抱いていると報じる。記事は、まず昭和を戦争と復興で揺れた時代として、平成をバブル経済の発生と崩壊、その後の失われた20年の時代として振り返り、こうした苦難を経て国民は新時代に希望を託そうとしていると次のように論じる。

 従って新しい天皇の時代が転換点となるとの希望を抱く国民がいたとしても、さほど驚くことではないだろう。一部の人々は、1964年の東京夏期五輪が戦後日本を世界の舞台に登場させる契機となったが、
2020年のオリンピックが同じような変化をもたらすのではないかと楽観的に指摘している。日本は他の高齢化する国々に模範を示すことで、人口動態の問題を好機に変えられるだろうと考える人もいる。

 次いで記事は、昭和、平成を彩ったスマップの活動を国民的なアイドルの活躍と評し、そのスマップが今上天皇、明仁が退位の希望を表明した
6日後に解散を発表し、平成の終わりを伝えたと述べ、さらに平成は政治が混迷を深めた時代だと論じ、5つの政党から17人の首相が輩出したと指摘、平成はおおよそ「平和の達成」という意味だが、日本の外は、テロとの戦いなど余り平和ではなかったが、日本は戦争に巻き込まれなかったとコメントする。

 記事は、さらに平成の終わりと次の新しい時代について、次のように論じる。平成の初め世界は平和が続く時代に入ったと思われ、日本には熱狂的陶酔感が盛り上がっていた。再建を果たした日本は国家として世界の頂点に位置し、米国にとって文字どおりのライバルとして台頭していた。しかし
30年の後、それは遠い昔の話となった。平成は、新しい時代が先の見えない雲で覆われた不確実性の中で終わろうとしている。この春に元号が最終的に発表されるに際して、多くの日本国民は、それが「新規まき直し」と「希望」を象徴するものであることを望んでいる。

上記のように記事はやや悲観的な論調で終わっているが、さらに同紙は、「
Japan enters the Reiwa era as a model for others(令和の時代に入る日本は他国の模範)」と題する47日付社説で、概略次のように日本を称え、激励する。

 令和の公式英語名は、
“Beautiful Harmony”であり、日本は「平成」を、誇りを持って振り返り、「令和」を、希望を持って展望している。平成は経済統計だけでは語れず、日本はこの時代に平和を享受し、政権交代も体験、文化と技術力で名を馳せ、女性の社会進出が始まり、日本は開花した。令和の時代には新たな挑戦が始まる。日本は米中の狭間にあって自由と民主主義と並んで平和の追求にいっそう力を注ぐべきだ。また移民、高齢化の問題への取り組みが必要となる。日本は長らく外国に模範を求めてきたが、今や、自身が世界の模範となっている。

 
327日付ブルームバーグビジネスウィーク(Bloomberg Businessweek)も「Why Japan Still Matter(なぜ日本は依然として重きをなす国か)」と題する特派員記事で、日本は台頭する超大国ではなくなったが、富める国が高齢化する将来の道を先導するなど、なお世界で重要な地位を占めていると概略次のように論じる。ビジネスウィーク誌の東京支局長時代から日本に長く勤務したブライアン・ブレムナー記者が東京を去るにあたり執筆した記事であり、日本礼賛の内容となっている。 

 平成の
30年は日本の悠久の歴史からみれば、一瞬のことにすぎないが、この間、経済大国としての日本は金融危機、デフレの脅威、爆発的な債務、そして強烈な中国の台頭で打撃を受けた。日本は80年代に西側経営者の心胆を振るえ上がらせたバブル経済の威光をなくしたが、世界第3位の経済を持つ豊かな国で、最良のインフラやロボット産業を保有、かつまた世界で最長寿の国のひとつであり、世界最大の債権国という金融超大国でもある。現在、先進諸国では自由な資本移動や自由貿易、開かれた国境などについて議論が多極化し、分裂するなか、日本は安定した島国のようにみえる。一般の日本国民は、米国のような所得格差と文化をめぐる戦いで真っ二つに分裂することもなく、英国のようにブレグジットにとらわれ、フランスのように黄色いベスト運動への対処に迫られてもいない。

 それでは何故、平成は、かくも荒々しく方向感覚に欠けた時代になったのか。それは高速のオートメーション化や急激に高齢化する社会、低迷する需要、頑固な債務などの厄介な課題に集中的に見舞われたからである。こうした挑戦に米欧、中国も程度の差こそあれ、これから数十年後に頭を悩ませることになろう。日本は今後、他国に教えることが多くなるかもしれないのだ。現に、米欧の中銀が
08年に導入したゼロ金利や「量的緩和」は、 日銀が20年前に先駆的に取り組んだ課題だった。

 次いで記事は、近代化と伝統文化の共存、危機に際しての社会の結束、都市部の貧困や地方過疎化など長期的な経済問題を抱えるも米国のような所得格差は生まれていないこと、などを指摘、経済の先行きについて日本の若者の目は、安倍首相と将来の政府が人類史上最大ともいうべき日本の人口激減に対して、いかにうまく対処するか、に向けられていると述べる。

 記事はこの問題について、日本は人工知能や機械の活用によって克服しようとしていると述べ、既に世界で最もロボット統合型の経済となり、産業ロボットの輸出国となっていると伝える。また機械の活用について、日常サービス業務を取り扱う機械に対し一大市場が国内で開かれようとしていると述べ、高齢労働者の支援や拡大する高齢者介護市場需要への対処、重労働補助、ロボット・レセプショニストの登場などとともに、東京五輪にはボット(bots、作業を自動化するプログラム)が派遣されるだろうと報じる。この他にも記事は、外人労働者の急増、それに伴うビザ政策の改変、特に未熟練労働者向けのビザ発給開始などに触れ、オートメーション化の支援を受けつつ、米独と比較すると遅れている生産性の向上に役立つだろうと報じる。

 また国内総生産(
GDP)の236%に達する巨額の公的債務(IMF統計による)は、大部分の国債を国内の公的及び民間金融機関が保有し、かつ超低金利が続く状況に鑑み、喫緊の問題ではないとし、中国の規制対象外の影の銀行による巨大国有企業や私営企業向け過剰融資によって引き起こされている信用問題と比べれば、リスクは少ないと主張する。さらに中国の債務問題について記事は、政府、家計、企業の債務は現在既にGDP259%に達し、2022年には327%に上昇するとブルームバーグ・エコノミクスは予想していると伝え、中国は数十年前に富裕国に達した日本と比較して弱体の立場で巨額債務問題に直面していると警告する。
次いで記事は、日本のアニメ文化、スポーツ選手の活躍、ノーベル受賞者の輩出などにも触れた後、平成は破綻した時代とはいえなかったのかもしれないと述べ、経済成長に関わるスコアカード分析では日本経済の実際の大きさが見失われていると指摘、日本は富み、効率のよい、重要な国であると評する。そして最後に、経済で後退しているとはいえ、日本文化の世界的影響は過去30年間でほぼ確実に拡大したと主張、新天皇、德仁、万歳、と結ぶ。 

 
41日付ワシントン・ポストは「New emperor on Japan’s Chrysanthemum Throne heralds new ‘Reiwa’ era and desire for harmony, revival(新「令和」時代と調和、再生への希求を告げる新天皇)」と題する東京支局長記事で「令和」について報じる。記事は、新元号に決まった「令和」は、めでたさと調和を意味するとともに、激動の時代における日本の希望を象徴していると報じ、この名称は、これまでの伝統を破り、7世紀に遡る日本最古の歌集である万葉集からの引用であり、漢書からではなかったと解説する。また「令」という漢字は法令や命令を意味するが、万葉集では、冒頭で述べたような意味で使われていると補足する。さらに記事は、万葉集は貴族だけでなく社会の下層の人たちや農民たちの作品を収めており、新元号が一体感を醸成することを希望していると安倍首相が語っていると伝える。

 上記の各論調を要約すると、メディアはバブル経済の崩壊や混迷する政治、そして大災害の襲来など苦難に満ちた平成を経て、日本国民は新時代にリセットの希望を託していると伝える。同時に、平成は先の見えない不確実性の中で終わろうとしているが、安定した島国、日本は依然として世界で重きをなす国だと述べ、世界第3位の経済、最良のインフラやロボット産業、世界最大の債権国にして最長寿国などの要因を挙げ、特に富める国が高齢化する将来の道を先導し、模範を示せると主張する。また若者の関心は、いかに政府が人口激減に対処するかに向けられているが、日本は人工知能と機械の活用によって克服しようとしていると述べ、巨額の公的債務も、大部分の国債を国内の公的及び民間金融機関が保有し、かつ超低金利が続く状況に鑑み、喫緊の問題ではないと指摘、影の銀行による過剰融資が引き起こしている中国の債務問題よりリスクは少ないと主張する。そのうえで平成は破綻した時代ではなかったとし、日本文化の世界に与える影響は確実に拡大していると述べ、万葉集を出典とする新元号は激動の時代における日本の希望を象徴している指摘する。 

 以上のように、メディアは昭和、平成の時代を詳細に振り返り、日本が新天皇と令和の時代をリセットの新時代としてとらえようとしていると論じる。しかし明治の時代まで遡ると、日本は帝国の興隆と崩壊を体験し、戦後は経済の興隆と崩壊に直面した。平成に遭遇した経済の崩壊は今なお日本の足を引っ張っている。一方、視野を広げると、アジアの世紀という新時代が来年にも迫ろうとしている。それは歴史の舞台が一回転する壮大な出来事である。そこで日本はいかなる役割を果たすべきか、また果たすことができるのか、が問われている。

 メディアは高齢化社会への対応に模範を示すことや世界に向けた日本文化の発信に言及しているが、これらはまさしく日本が世界に貢献できる分野であろう。同時に日本にとって喫緊の課題は経済力の強化である。経済は国力の中核となるからだ。昭和と平成は、バブル経済によって日本が世界に冠たる国家に再生したかにみえた後、それが無残に崩壊した時代である。その意味で令和は、明治から始まった近代日本の政治、外交、経済の二度にわたる興亡を体験した時代の教訓を冷静に振り返り、その体験を十分に生かして、今度こそ経済と文化が確固として繁栄する国家としてリセットする時代であるべきだろう。

 また令和には万葉の時代に遡る日本の心が宿っている。海外メデイアも、幸先の良い、めでたい意義があるとして前向きに受け入れている。広くグローバルに取り入れられる素地のある元号である。それはまた文化だけでなく、政治や外交の世界にも相通じる心である。令和は、そうした心を世界に向けて発進する時代でもあるべきだ。

             § § § § § § § § § § 

(主要トピックス)


2019
315日 中国の第13期全国人民代表大会(全人代)第2回会議、閉幕。外商投資法を可決。
  17日 フィリピン政府、国際刑事裁判所(オランダ・ハーグ、ICC)から脱退すると発表。
     18日 台湾与党、民進党の頼清徳・前行政院長(首相、59)、
      
20201月に見込まれる次期総統選に出馬の意向表明。
  
20日 台湾の蔡英文総統、国交のある南太平洋地域諸国の訪問に出発。
  
22日 北朝鮮、開城の南北共同連絡事務所から人員を突如、撤収。
  
24日 タイで総選挙(下院選、定数500)実施。
  
28日 タイの選挙管理委員会、総選挙で親軍政政党「国民国家の力党」が最多票を獲得した
      と発表。
中国でボアオ・アジアフォーラム年次総会、開幕。アジア経済の統合プロセス
             アジアの競争力、 アジアの金融の発展、新興エコノミーの発展の4つの問題について
      報告を発表。
4月
1日 日本政府、新元号は令和に決定と発表。
   
3日 韓国政府、南北非武装地帯(DMZ)周辺の3地域を「DMZ平和トゥルレキル」(仮称)
      として今月末から段階的に開放する計画を発表。
    
9日 日本政府、新紙幣の発行計画を公表。対象は1万円、5千円、千円券。
       北朝鮮の朝鮮労働党、政治局拡大会議を開催、
10日に中央委員会、11日に第14
              最高人民会議第1回会議の開催を決定。金正恩・朝鮮労働党委員長が出席。 
     
11日 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領、訪米。トランプ米大統領と首脳会談。
   
12日 北朝鮮、第14期最高人民会議第1回会議、閉幕。金正恩・朝鮮労働党委員長を
        国務委員長に再任。北朝鮮の金委員長、トランプ米大統領との
3回目の首脳会議に
               応じる用意ありと表明。

  14日 日中ハイレベル経済対話、開催。
       日中政府、日本産牛肉の対中輸出を可能とする動物衛生・検疫協定で合意。

  15日 訪中した河野外相、中国の李克強首相と会談。

以  上

主要資料は以下の通りで、原則、電子版を使用しています。(カッコ内は邦文名)
THE WALL STREET JOURNAL(ウォール・ストリート・ジャーナル)、THE FINANCIAL TIMES(フィナンシャル・タイムズ)、THE NEWYORK TIMES(ニューヨーク・タイムズ)、THE LOS ANGELES TIMES (ロサンゼルス・タイムズ)、THE WASHINGTON POST(ワシントン・ポスト)、GUARDIAN(ガーデイアン)、BLOOMBERG・BUSINESSWEEK(ブルームバーグビジネスウィーク)、TIME (タイム)、THE ECONOMIST (エコノミスト)、 REUTER(ロイター通信)など。なお、韓国聯合ニュースや中国人民日報の日本語版なども参考資料として参照し、各国統計数値など一部資料は本邦紙も利用。
 


前田 高昭
金融翻訳ジャーナリスト、社団法人 日本翻訳協会 会員、翻訳家。
訳書に『チャイナCEO』他。
『東アジアニュースレター』配信中。 

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