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【連載最終回】第11回 提案するということ

2022/05/07

連載最終回
翻訳者のキャリアアップのための コンテンツ・メイキングの方法

第11回 提案するということ


バベル翻訳専門職大学院教授

 現代は誰もが自分の言いたいことを世界に向けて一瞬にして発表できる時代です。インターネットがそれを可能にしてくれました。ですので、一昔前の「提案型」に戻る必要はないのでは、と思われる方もいらっしゃるでしょう。しかし、ネット配信は誰の目も通らずに配信が可能になってしまうため、情報が玉石混交の状態でその質が問われることがあります。
 そこで、今回は、少々古めかしいかもしれない「提案型」を再考することで、どのような工夫を凝らせば、魅力的な提案となるのかを考えていきます。もちろん、魅力的な提案のための工夫は、自分の考えを他者に対して、ネット配信をも含めた発表する際の注意点としても役立ちます。


提案型から発掘型出版へ
 メジャーからインディーズへ、そして今むしろインディーズから、たった一人の個人の発掘が金を生む時代になってきています。出版と言わず、あらゆる業界において、発信の力を持った個人を発掘して、声かけをする方式のビジネスが成り立つようになりました。これがインターネットの力であり、その代名詞ともなりつつあるYouTubeのおかげでもあります。YouTuberとして名声を上げ、インスタのインフルエンサーになって市場に影響を与える。メジャー経由で売れっ子になった方もいますが、インディーズや個人として情報発信して顧客を獲得し、メジャーデビューを果たす物語が語れる時代となりました。小学生の将来の夢はYouTuberになることだとか。ぜひ発掘される日を夢見て、今日からみなさんもコンテンツ・メイキングに励んでください。
 

一歩下がって提案型を再考する
 ご自分が発掘されるのを待っているのは時間のかかるもので、たとえ時間をかけて待っていても、必ず発掘されるものでもありません。となると、こちら側から勝負に出なければならず、以前のパラダイムとも言える「提案型」のコツを知っておく必要がありそうです。


波に乗るために時勢を知る
 昔話をしても仕方ないかもしれませんが、自慢ではなく経験談として少しお付き合いください。私はこれまで共著を含めるとおよそ50冊近い書籍を出していますが、自分の中のピークが2000年前後の頃だったと記憶しています。これはちょうど新書の創刊ブームの時で、本が売れなくなって、新書が雑誌感覚で読まれ始め、出版社がこぞって新書を創刊し始めたのです。今では、書店へ行くと、汚らしいまでに新書のバリエーションが増え、どうしようもない状態になっているのが涙ぐましいほどです。
 それまでには10冊程度の本を出していた私の元に、当時の私にはとっては、次から次へと、という具合に、新書系での出版話が舞い込んできました。お断りするほど裕福ではありませんでしたので、書けるものは書く、というスタンスで提案にはすぐ様、返事を出しました。その結果、筑摩新書から2冊、講談社ブルーバックスから2冊、PHPから1冊、光文社から1冊といった感じで、よくも短時間にそれだけ書けたな、と自分でも不思議なくらいの執筆ペースで出版させていただいたのです。
 新書の創刊ブームという大波に見事乗れていたのです。出版界が冬の時代だとすでに言われていたので、新書の創刊ブームで出版界を盛り立てようと、各出版社が協働していたのかもしれません。兎にも角にも、新書という雑誌感覚で出さなければならない書籍形態です。提案を受けてから即執筆開始という感じで、即戦力が求められてもいて、それに応えられるだけの体力を持ち合わせていたことだけは確かです。
 

待っていてはくれない
 前回のテーマは「発表の場を確立する」でした。そのなかでは、基本的に提案を待ち続けているような場をご紹介しました。公募ガイド、ブログ、co-pubなど、そのどれもが基本的に、書いて応募してくるのを待ち構えている状態にあります。
 ところが、今回のテーマでの対象は、基本的に待っていてはくれません。先ほどご紹介した新書の創刊ブームなどの時流に乗れれば話は別ですが、長引く出版界の不況でどこも提案を首を長くして待ってくれはしません。素人に書かせて売れないリスクを背負うよりは、有名作家に書いてもらって固定客に買ってもらう方がよほど安心です。その有名作家の作品ですら、初版〇千部の時代です。満腹状態のネコに、さらにエサを与えるようなもの。どうしたら、満腹のネコにエサを食べてもらえるのでしょうか。
 
1. 食べそうなエサを洗い出す
2. 他の誰が何を食べているか
3. おいしそうに味付けする
4. お腹が減るように運動させる


食べそうなエサを洗い出す
 ネコなら魚が好きと思い込んでいる方は大間違いです。魚嫌いのネコだっています。提案をする相手だって同じこと。普通感覚でご丁寧に何でも受け付けるわけではありません。まずは、相手の好みを調べること。相手がどのようなエサを好むかをぜひ調べてください。


他の誰が何を食べているか
 どうしても競争相手の情報は知りたいものです。他の誰がどのようなエサを食べているかを調べ抜いて教えてあげるぐらいのサービスはしてあげましょう。「おっ、こいつなかなか調べてるな」と感心されるのは、損にはなりません。


おいしそうに味付けする
 相手の好みを調べ、他の誰が何を食べているかを知らせたら、次に、相手がまだ食べたことがない内容で、かつ食いついてきそうな内容に味付けします。すでに手をつけているものは論外です。食いついてきそうな、つまり、これまでに発表したことがない内容でなければいけません。「これとこれとこれは出されてますが、これについてはいかがでしょう」が言えれば最高です。


お腹が減るように運動させる
 これまでのことをやってきたのだから、私の提案書を読んでいただけませんか。そして、相手のお腹が減るように運動させる。まあ、うまくいけば、提案書を読んでくれるでしょうし、最悪、皆さんのことを覚えてくれるでしょう。

ここで何が言いたいのかというと、待っていてはダメよ、ということです。ブログに毎日書くのもいいでしょう。ただ、スターブロガーになれる方は一握りです。ブログに書いてもあまり読んでくれないのなら、それをまとめて提案してみることです。


YouTuberの軌跡
 今をときめくスターYouTuberでも、昔に立ち返ってみれば、意外や意外、そうでもなかったことに気づかされることがあります。それもそのはず、YouTubeへアップした1本目の動画でバズるなどという幸運に恵まれる人など滅多にいないからです。
 動画の撮り方が素晴らしい、照明や機材も高性能のものを使っているであろうスターYouTuberの初期の動画をぜひご覧ください。素人感丸出しの若き姿を楽しむことができますよ。もし、皆さんの今が、素人感丸出しの若き姿であったとすれば、地道な努力で、明日は皆さんがスターのコンテンツ・メイカーになる日もそう遠くはないかも、です。

以上で連載終了です。


【プロフィール】
小坂貴志(こさか・たかし)
神田外語大学教授。青山学院大学文学部卒業後、日本アイ・ビー・エム株式会社入社。アメリカコロラド州デンバー大学スピーチ・コミュニケーション研究科修士課程修了、同博士課程単位取得終了満期退学。その間、J.D.Edwards World Source Companyでテクニカル・トランスレーターとして勤務。その後、Monterey Institute of International StudiesにてAssistant Professor、立教大学経営学部特任准教授などを経て、現在に至る。最新の著書として『入社1年目のビジネス英語大全』(出口朋美との共著、ジャパンタイムズ社、2021年)があり、これまでに数多くの著作を発表している。