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【新連載】第1回 はじめに【概要】

2021/07/07

新連載
翻訳者のキャリアアップのための コンテンツ・メイキングの方法

第1回  はじめに【概要】


バベル翻訳専門職大学院教授

【概要】
翻訳は、ある言語で書かれた作品を別の言語で書き直す作業です。書くことは、翻訳者の行為において大前提となります。翻訳経験を積み重ねる時を経るにつれ、翻訳者が自らの知識や経験、想いなどについて書きはじめることがあります。「自分の歌を唄い」はじめる瞬間です。カラオケだけだったところに、自作自演の歌が唄えるようになるのです。翻訳で培ったスキルを踏み台にして、自分の歌を唄う新たなキャリアアップを図るために、本連載では、コンテンツ・メイキングの方法について伝授していきます。今回からはじめる連載は、やがて講座化も考えていますが、翻訳者、翻訳家志望である皆様への新たな職域の提案です。お楽しみください。


【講義テーマ】
現時点で次のようなテーマを用意しております。連載を進めていくにつれ、方向性に微調整が入るかもしれず、その点をあらかじめご了承ください。

1. 翻訳者とキャリアアップ
2. コンテンツとは何か
3. テーマ、ターゲットを設定する
4. リバース・サマライゼーションとは
5. 縦に膨らませる テーマとサブテーマ
6. 横に膨らませる 改行とパラグラフ
7. 奥に膨らませる サンプルとストーリー
8. ライティングの実践
9. 発表の場を確立する
10. 英辞郎の例
11. 提案型から発掘型出版へ

それでは、各テーマについて簡単にご説明していきます。


1.翻訳者とキャリアアップ
 
幅広く関心を持つというのもわかりますが、翻訳者が自立していくためには、やはり専門性を極める必要があります。専門性を極めるとは、「この分野のことなら、〇〇に訊け」と言われるような人材になることです。ここまでくればしめたものですが、その域にまで達することはそう簡単にはありません。
 そこでおすすめなのは、専門性を伸ばすための発信です。しかも、翻訳を通しての発信ではなく、翻訳で得た知識を踏み台にして、別のチャネルでの発信を心がけましょう。別のチャネルと言っても、翻訳で培ってきたスキルは「書くこと」に尽きます。書くことを通してのキャリアアップを図っていきましょう。


2.コンテンツとは何か

 「創造されたものすべて」と一言で簡単に定義しておきましょう。というのも、定義が最終的な目標でもありませんし、定義をご理解いただければそれで終わり、という話でもありません。むしろ、大雑把な定義をしておくことで、余白の中で想像力が掻き立てられる、ということさえあります。
 一方、誤解があるといけませんので説明しておきますと、本講座での関心は「書くこと」にあります。コンテンツを創造する手法として様々なモードが考えられる中、翻訳者のキャリアアップにターゲットを当てていくのであれば、やはり書くことを通してのコンテンツ製作を中心課題として取り上げていきたいと考えています。


3.テーマ、ターゲットを設定する
 
テーマについては、願わくば選ぶ必要がないほどに専門性を高めておいていただきたいです。ただ、貴重な経験をしたとか、これまで稀有な生活を送ってきたなど、貴重価値そのものもテーマになり得ますので柔軟にお考えください。
 ターゲットの設定は、コンテンツをどのような形でアウトプットするか(フォーム)とも関連します。ですが、本連載では「(文字を)書くこと」によるキャリアアップを想定していますので、動画制作、楽曲制作などについては各自の方法で取り組んでください。


4.リバース・サマライゼーションとは

 小説作品が主になりますが、翻訳プロセスに欠かせない作業の一つにシノプシス作成があります。わかりやすく言い換えてしまえば、作品内容のサマリー(要約)をすることです。厳密に言えばサマリーの方法にもたくさんあるのでしょうが、舐めるようにして全体の流れをつかむ方法と、作品の名場面を切り取る方法に大別されます。そのどちらも重要になる一方で、本連載の目的からすると、全体の流れをつかむためのサマライゼーションの方法が参考になります。
 と申しますのも、コンテンツ・メイキングの方法は、このサマライゼーションにリバースエンジニアリングをかけたものに他ならないからです。その具体的な方法について、以降3回に分けて考えていきます。縦、横、奥の3方向に膨らませる。これがそのエッセンスとなります。


5.縦に膨らませる テーマとサブテーマ

 章立てを決めていく。そう考えるとわかりやすいでしょう。フィクション、ノンフィクションに大別すると、フィクションの場合、全体の流れがストーリー展開として、実際の映し方はプロットとして表現されます。フィクションについては、本連載の対象外とします。ノンフィクションの場合には、部構成にするか、章構成でいくか、特に構成を気にしないかなど、基本の型があります。それぞれの構成について長所・短所を紹介します。
 構成が決まれば、各章の洗い出し作業に移ります。この作業自体は、縦方向に膨らませるイメージがあります。リストを下方向へ付け足していく感じです。ある程度の単位でリストがたまるとサブテーマとして独立させます。リストが増えると、元々考えた構成とのずれが生じることもあるでしょうから、全体構成を見直すことになります。行きつ戻りつを繰り返して章立てを決めていきます。完成形のサンプルとして、冒頭にあげた【講義テーマ】をご覧ください。


6.横に膨らませる 改行とパラグラフ
 今お読みいただいているのがまさに完成形のサンプルとなります。私は普段このように章ごとに概要は書きませんが、やはり、いきなり書くのではなく、まずは概要を書くことをおすすめします。
 フィクションですと改行が、ノンフィクションですとパラグラフ(段落)が情報単位としてとても大切になっていきます。ですので、一つの段落にどのような内容を盛り込むかを意識して情報を束ねていってください。
 書く方向は横縦のいずれも考えられますが、ワープロが世の中に登場して以来、横書きがかなりの主流を占めるようになりました。ただし、フィクションの場合ですと、アウトプットで縦書きを求められる傾向があるので、相変わらず縦書きが好みだという方が多いのではないでしょうか。一方、ノンフィクションですと、横書きかもしれません。
 なぜここで書く方向の話をしたかと言えば、章立て作成は縦に膨らませるイメージが、そして内容を書き込んでいく際のパラグラフには横に膨らませるイメージがあるからです。 


7.奥に膨らませる サンプルとストーリー

 縦横という平面での作業が済んだら、今度は頭を3Dにしていただいて、奥方向に膨らませていきます。縦横での作業に機械的なイメージを抱いた方は素晴らしいです。章立ての構成決めも、パラグラフごとの概要書きも雰囲気的には情報を盛り込んでいくだけのような印象が残るため、ある程度機械的なイメージが浮かんでも仕方ありません。
 もちろん、パラグラフを章に膨らませるのにも基本は情報を盛り込んでいくのですが、読んでもらう方に読みやすさとか、親しみやすさを感じてもらうには、サンプルやストーリーなどを通して情報を質的に豊かにしていく必要があります。


8.ライティングの実践

 翻訳で学んだことをライティングに生かす。それをしない手はありません。
 というのも、英日翻訳では、比較的論理的展開に優れている英語ライティングが起点言語となっているからです。皆さんは、英語ライティングの読み込みを重ねてきているでしょうから、論理的思考がすでに養われていることになります。
 日本語での作業では、起点言語の意味をうまく汲み取って、わかりやすい日本語に移し替えます。自然でわかりやすい文構成、文章展開を追い求めてきたために、目標言語ではリーダビリティーを高める訓練をすでに受けているのです。


9.発表の場を確立する
 すでにSNSで情報発信している方、これからという方、様々な状況の方がいるはずです。とにかく、今後と言わず、今日からぜひSNS発信してご自身の歌を唄いはじめてみてください。まずは自己満足で結構です。読者からの反応がなくても、「いいね」をすぐにもらえなくても、自分で書いてそれを世界に発信してみる。そこの作業を完結させることに集中してください。
 次に、発信作業を継続させること。単発で終わってしまってはいけません。そのため、ある程度、発信内容をストックさせてからはじめろ、という方がいますが、私は、思い立ったが吉日という格言を信じ、まずは発信してみることをおすすめします。それと並行して、これまで説明した作業をしていただくと、モチベーションのさらなるアップにもつながります。


10.英辞郎の例
 こぼれ話というわけではありませんが、翻訳者の作業がいかに翻訳以外のアウトプットにつながるかの例をご紹介していきます。本講座の狙いとしては、書いたものを出版することが最大の目標になってはいますが、それ以外にも翻訳で得られるものを流通可能な商品・サービスとしてアウトプットすることができます。
 わかりやすい例として、翻訳者の作業結果を地道に集め、辞書に作り上げたケースを取り上げます。そのほかにも色々と考えられるはずです。


11.提案型から発掘型出版へ
 
メジャーからインディーズへ、そして今むしろ個人の発掘が金を生む時代になってきています。出版と言わず、あらゆる業界において、発信の力を持った個人を発掘して声かけをする方式のビジネスが成り立つようになりました。YouTuberとして名声を上げ、インスタのインフルエンサーになって市場に影響を与える。メジャー経由で売れっ子になった方もいますが、インディーズや個人として情報発信して顧客を獲得しメジャーデビューを果たす夢物語が語れる時代となりました。ぜひ発掘される日を夢見て、今日からみなさんもコンテンツ・メイキングに励んでください。
 

【プロフィール】
小坂貴志(こさか・たかし)
神田外語大学教授。青山学院大学文学部卒業後、日本アイ・ビー・エム株式会社入社。アメリカコロラド州デンバー大学スピーチ・コミュニケーション研究科修士課程修了、同博士課程単位取得終了満期退学。その間、J.D.Edwards World Source Companyでテクニカル・トランスレーターとして勤務。その後、Monterey Institute of International StudiesにてAssistant Professor、立教大学経営学部特任准教授などを経て、現在に至る。最新の著書として『入社1年目のビジネス英語大全』(出口朋美との共著、ジャパンタイムズ社、2021年)があり、これまでに数多くの著作を発表している。

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