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正確な翻訳を行うには-主述のねじれを防ぐ

2021/03/22

正確な翻訳を行うには
~主述のねじれを防ぐ


大城真理(おおしろまり)
(翻訳者、バベル翻訳専門職大学院修了生)

 
  
  「翻訳の観点から日本語を再考する」の特集連載記事を読んで、バベル翻訳専門職大学院での英日翻訳の課題で指摘されたことを思い出しました。それは、「主語と述語がねじれており、誤訳である。日本語として不自然」という指摘であり、その部分を確認すると、どうしてこのような誤訳や不自然さに気づかなかったのかと思うほどなのですが、1文1文を訳すことだけに集中するあまり、見落としてしまったのでした。

 この経験以来、見直しの際に、係り受けが正しく伝わるように主語と述語を配置しているのか、「てにをは」が不自然ではないかという視点からも確認するようになりました。そして、「正確な翻訳」を強く意識するようになりました。

 では、「正確な翻訳」とは、どのような翻訳でしょうか。どのような場合に主述のねじれが生じ、不正確または不自然な日本語になってしまうのでしょうか。ねじれ文を防ぐためには、また、実務においては、主述がねじれている原文に出会うこともありますが、戸惑うことなく訳出するため、どのような方法があるのか、考えてみましょう。

 バベル翻訳専門職大学院の『翻訳ビジネス起業 (法人化) 実務』では、「翻訳証明書」を作成します。翻訳証明書とは、翻訳物を提出する際に添付する書類で、その形式としては、宣誓供述書または宣誓書があり、翻訳者自身がサインします
 [1]。公文書などを翻訳したときは、翻訳証明を付けるのが要件となっており、日英翻訳においては、アメリカ合衆国をはじめ、多くの国が翻訳証明書の添付を義務付けています [2]。「翻訳証明書」には、 ①翻訳者本人が日英両語に通じていること、②翻訳者自身が翻訳を行ったこと、③翻訳が原文の「正確かつ完全な翻訳」であることの3つ[3]を記載します。

 上記③「正確かつ完全な翻訳」の「完全な翻訳」とは、スペルミスや訳抜けがないこと、表記ガイド(スタイルガイド)や用語集に合致していることです。では、「正確な翻訳」とは、どのような翻訳でしょうか。3つ挙げてみます。

 まず、1つ目に、「原文と訳文が意味的に等価であること」です。そのためには、専門分野であればあるほど、その分野の背景知識や経験、そして専門用語や固有名詞、背景情報のリサーチ力が問われます。

 2つ目に、訳文が原文に忠実であることです。これは、1語1語を言葉通りに、語順通りに訳すということではなく、原文が伝えたい情報を掴み、原文の意図に忠実に訳すということです。翻訳文法(法律翻訳であれば、法律文法)に忠実に訳すことも必須です。

 3つ目に、読み手に誤解を与えるような曖昧な表現のないことです。日本語の特徴は、①明確な主語の省略、②時制や単数複数の区別がないなどの曖昧さ、③オブラートに伝えるための婉曲的または間接的な表現にあると思います。日英翻訳の場合、①や②については、文脈から判断し、③については、冗長な表現を避け、直接的かつ具体的に表現すること、簡潔な文章にしますが、そこでは、翻訳者に決断力が求められると思います。

 次に、文章の構成パターンについて考えます。文章は、単文、重文および複文の3つに分けられます。単文とは、1つの主語に対し、1つの述語がある文章です。重文とは、並列関係にある主語と述語のペアが2つある文章です。複文とは、主語と述語のペアが修飾語の中に含まれている文章です
[4]

 主語と述語は、文を構成する最も基本的な要素である一方、日本語には、明確な主語を省略する性質があり、特に、重文と複文では省略されやすいです(契約書などでは、行為の主体を明確にするため、主語が省略されることは、一部例外を除いてありません)。ねじれ文が生じやすいのは、主語が省略されている文や1文の中に複数の主語と述語が存在していて、単文よりも主述の関係性が複雑な重文や複文、修飾語の多い文、専門用語の多い文です。構造の異なる言語を翻訳するにあたっては、受動態を能動態に訳す場合や主語を省略する場合(英日翻訳)、原文で省略されている主語を補う場合(日英翻訳)に、主述がねじれやすいです。

それでは、翻訳作業において、ねじれ文を訳出することを防ぎ、ねじれ文をスムーズに訳出するには、どうすればよいでしょうか。

1. まず、原文理解において、動作・行為の主体、主語と述語を正しく理解するために、主語と述語のみを抽出します。複雑かつ長い文は、文を切るまたは分解するなどします。

2. 訳出においてには、「主語と述語をできるだけ近くに配置すること」「語順を入れ替えること」、英日翻訳では、「てにをは」に留意し、日英翻訳では、「原文にない語句を補う」「代名詞も使う」などして、明確な文になるようします。

3. 訳文の見直しにおいては、主語と述語を再度抽出し、正しい関係にあるか確認する。修正した部分に編集ミスがないか再確認する。見直しにおいて、訳文を機械翻訳にかけてみることも一つの手であると思います。主述の係り受けが正しいかも含めて、文章全体が明確であるかどうか確認することができます。前述したコメントをくださった先生は、「訳文を声に出して読むこと」や「訳文を一晩寝かせる」ようアドバイスくださり、私も必ずそうしています。

 本投稿にあたって、日本語ネイティヴとして翻訳業務を行うのであれば、特に、英日の訳出において、不自然な日本語はあってはならないことだと再認識しました。今回、主述のねじれを防ぐ方法を考えたように、今後も、もっと良書を読み、日本語と英語の特性についてさらに学び、正確な訳出ができるよう努力していきたいです。

【引用元】
[1] 『翻訳ビジネス起業 (法人化) 実務』 第6講 「品質保証書」「翻訳証明書」「秘密保持契約書」「翻訳受託契約書」の制作-考え方と自分のための専用書式-P.8
[2]  同上
[3] 同上
[4] 主語と述語のねじれに注意!伝わりやすく書くための文章のクセの直し方
   https://edit.roaster.co.jp/writing/6767/

 


【プロフィール】
大城真理(おおしろまり)
バベル翻訳専門職大学院第4専攻(法律翻訳専攻)を2020年11月に修了。東京在住で1児の母。現在は、翻訳会社の登録翻訳者として、フリーランスで就業中。


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