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機械翻訳を通じて想うこと
2021/03/22
機械翻訳を通じて想うこと
~キーワードは読解力~
吉田 ひろみ
(バベル翻訳専門職大学院生)
先日、参加したセミナーで、機械翻訳に関する興味深い情報があると教えて頂き、早速読んでみました。今まで不思議に思っていたことの謎がとけたり、様々な気付きを頂きました。数学と翻訳がリンクするとは思いもよらぬ発見でしたが、例えば、ロボットなど何かを開発する時、様々な分野の方々の知識と協力のもとにうみだされるということから理解できました。特に、感銘を受けた部分など、下記一部引用させて頂きます。
《AIで代替できない人材に必要なこと。
「JBpress DX World 2020 第1回 デジタルの力で拓け、ポストコロナの未来」3rd week、国立情報学研究所 情報社会相関研究系 教授・理学博士・数学者・新井 紀子氏の講演内容の採録より》
私達が考える「読解力」は、「書かれていることを、書かれている通りに、しっかり読む力」です。文章に書かれていない文脈から意図をくみ取ることや、行間を読むこと、余韻を楽しむことを求めているわけではありません。大事なことは、どの分野でも好き嫌いなく読めるか、ということ。それが、21世紀に求められる「読解力」の基礎になります。
例えば、機械翻訳。「はい」という、たった2文字の言葉。英語で訳すと「Yes」という答えが98%くらいの確率で正しいでしょう。でも、「No」と訳さなければいけない場合もあります。それは否定疑問文で聞かれたときです。「それは状況を全部見れば分かるのではないか」という意見もあるかもしれませんが、そこまで見ると大変なので、機械翻訳によっては「Yes=はい」と訳さざるを得ません。このように、「正解はXに対して確率的に定まる」ということになります。(中略)機械翻訳の仕組みはディープラーニングによって実現されています。「太郎は走っている」という文を機械翻訳してみましょう。先ほど紹介したニューラルネットワークの「Hidden Layer(隠れ層)」に「太郎」という文字から順に入力すると、最終的に「Taro is running now.」という文が出てきます。この仕組みは本当に素晴らしい成果を挙げていて、特に「Google翻訳」は世界中で多くの人に使われています。
「ボタンを上下左右の順に押してください」と入力しても、「Press the buttons up, down, left and right」と完璧な訳が出ます。しかし、ボタンを上下左右上下下下下の順に押して下さい」と入力すると、「up, down, left right up, down, down,・・・」という具合に、「down」が2つまでしか出てきません。これはなぜでしょうか。その理由は、Google翻訳は一切文法を理解していないからです。つまり、これが統計的に処理するということです。(中略)Google翻訳がリリースされてから3年間、いまだにこの状態です。なぜ、このようなことが起きるかというと、先ほど言った教師データではめったに見られない「外れ値」や「AIが見たことがない領域」があるからです。AI通訳機といった製品も、旅先で現地の人と話したり、買い物をしたり、レストランでオーダーする上では素晴らしい仕組みといえます。でも、ビジネスマンが商談をしたり、契約書を確認したり、英語で議論をしたりする場面での活用は難しいでしょう。(中略)AIは「意味」を考えません。正しさの保証もしてくれません。(中略)「東ロボくん」も最初はセンター英語本試験で(200点満点中)100点を割る状態でした。 (中略) 東ロボくんは今、偏差値60を超えているので、上位1割の大学に合格できるはずです。これであれば、人間を超えたと言ってもいいわけです。しかし、東京大学には入れない。なぜかというと、本当に意味を理解して問題を解いている人には敵わないからです。(中略)教科書を暗記して知識を頭に詰め込んで、その翌日に全部忘れる、というような勉強法ではいけません。そうした人はAIに代替されやすく、賃金が安くなりやすい仕事にしか就けないんです。そして、そういう人をたくさん抱えた会社がDX時代を乗り切ることは、極めて難しいでしょう。DX時代、私たちに求められているのは「特殊な能力」ではなく、「教科書をしっかり読む能力」です。(中略)
するどい洞察力とご指摘はとても興味深く、先日、他セミナー内で社内翻訳者の方が仰っていたネイティブ翻訳者の方々の苦悩、受験勉強型の社内「TOEIC 700点ホルダー」の事などを思いだし、不思議な感じがしました。現在、機械翻訳だけでなく、店舗レジのセルフサービス、ホテルや空港での自動チェックインシステム等々、様々な分野でオートメーション化が進み、多忙な日常生活の中、時間短縮や便利化の促進で助かる部分もありますが、機械ではなく人間でなければできないこともまだまだたくさんあると思われます。文章に書かれていない文脈から意図をくみ取ること、行間を読むこと、余韻を楽しむことも、人としてすばらしい感性であり、また接遇などにおいては、その場の空気や人の心をよむ(感じる)ことを求められることもあり、もし、そういう感覚が失なわれたら、人間関係において様々な摩擦が生じることでしょう。オートメーション化が進んでも、人として大切なことを忘れずにいられるよう、心掛けていきたいと思います。
【プロフィール】
吉田 ひろみ
ハワイ州在住。国際企業フルタイム勤務の傍ら、子育てと学業の両立に奔走中。
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CC.で 堀田都茂樹 hotta_t@nifty.com
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