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第4回 日本語について想うこと

2021/02/22

【新特集連載】翻訳の観点から日本語を再考する    
第4回 

日本語について想うこと

吉田 ひろみ
(バベル翻訳専門職大学院生)

 
  
 私の文字への興味が膨らんだのは4歳の頃、近所の書道教室の先生との出会いがきっかけでした。「大きくなったらお稽古へいらっしゃい」とお声がけを頂いたことがうれしくて、早速、書道教室へ通いたいと母へ懇願。「もう少し大きくなって、読み書きができる年頃、小学校へ上がってからいらっしゃい」と一旦、断られましたが、母から習って一応、読み書きはできるようになっていた事が幸いし(本当かどうか先生が確認)、お許しを頂きお稽古がスタートしました。人一倍小柄だったため、「こんなに小さなお子さんを教えるのは初めての経験。まだお筆を持つには手が小さすぎるので、まず最初に、硬筆から始めてみましょう。もっと大きくなってから、毛筆を始めましょう」毎週お稽古日を心待ちにし、スキップしながら先生のお宅へ通った事を覚えています。父の転勤辞令で引っ越しとなるまでお世話になり、ここで書道と日本語の基礎を学び影響を受けました。

 毛筆の漢字は、大きく分けて、篆書(てんしょ)、隷書(れいしょ)、草書、行書、楷書の5つ。楷書→行書→草書の3つの書体は比較的形が近く、楷書で学んだことを行書草書でも応用することが可能。ひらがなは楷書でありながら草書の要素も持ち合わせ、初心者にとっては難しい書体。一方で隷書と篆書は独特な字形を持ち、書道の中でも上級者向けの書体とされ、書くにはそれぞれの書体の特徴をよく知る必要があります。まさに、その通りだと実感。画数の少ない漢字やひらがななど、画数の多い文字より難しいものです。篆書、隷書に至っては、お習字(文字を習う)から、アート(芸術)の世界へ移行し、技法なども異なるので難しく感じられます。

中国で生まれた漢字は、絵文字から発生し、歴史と共に展開。殷時代後期(紀元前1400年頃~1100年頃)の甲骨文や鐘鼎文から、漢字の成り立ちを探ることができます。秦の始皇帝は各国の文字を整理統一して篆書が生まれ、その後、篆書を簡略化して生まれたのが隷書。隷書を速書きする過程で書かれるようになったのが草書。しかし、余りにも簡便な書体で、もう少し整えて読みやすく、美しい文字として生まれたのが行書。隷書や行書が変化する過程で、最後に生まれたのが楷書(三世紀中頃から書かれるようになったと考えられています)。漢代の標準的な書体であった隷書に代わって、南北朝から隋、唐にかけて標準となり、行書体が確立した時代に発生したため、文字の中では最後に生まれた書体といわれ、七世紀唐の時代には美しく完成。

 奈良時代には、万葉仮名を崩して草書で書いたものが見られるようになり、これがひらがなの起こりで、平安時代初期には、今の形のひらがなが誕生。当初は、漢字を崩したものという観点もあってか、正式な文字ではなく仮の文字であって、公では使うものではないという考えがあったようです。特に、漢字を習うことを禁止されていた女性が多く使ったとされ、ひらがなを女手、漢字(万葉仮名)を男手と呼びました。例えば、『土佐日記』の文頭「をとこもすなる日記といふものを、をんなもしてみむとてするなり」にも実態がよく表れています(男性も公の場以外では使っていた様子)。

 一方、カタカナも平安時代初期に誕生。ひらがなが万葉仮名を崩したのに対し、カタカナは漢字の字画を省いて誕生。平安時代、漢文は、貴族に必須の教養で、難しい漢文を読み解くためには、送り仮名などを付け足す必要があったこと、また、僧侶の間で読まれていた経典は、全て漢文で書かれていたため、行間に読み方などのメモ書きを入れる際、形の複雑な万葉仮名を使うのが難しいため生まれたのがカタカナ。9世紀頃から万葉仮名の一部だけが書かれるようになり、カタカナは漢文を読み解く僧侶と、それを学ぶ貴族の間で使われました。このように、ひらがなとカタカナは、使う人、使われる場面が明確に異なったため、両方が生き残ったと考えられています。現在では「外来語はカタカナ」などのルールがありますが、元々は、こうして生まれ、使われてきたようです。

 1900年(明治33年)、読書、作文、習字の3つが一教科へ統合され、尋常小学校で国語の授業が始まり、子供達が教科書で最初に習った文字は、ひらがなではなくカタカナでした。(理由は、子供達にとって、画数が少なく直線的で書きやすいと思われたため。後に、日常の話し言葉にあわせて便利なひらがなへ改定)。明治時代後半という比較的、近代の出来事だった事、また、それまで漢字とカタカナ表記だった公文書なども、昭和(終戦後)に漢字とひらがな表記となったことを知り驚きました。

 改めて、書道の奥深さ、また日本語の文字の由来と歴史の結びつきを知るよい機会となりました。

 

【プロフィール】
吉田 ひろみ
ハワイ州在住。国際企業フルタイム勤務の傍ら、子育てと学業の両立に奔走中。


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