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第2回 日本語の特性 

2020/12/07

【新特集連載】翻訳の観点から日本語を再考する    
第2回 

日本語の特性

葛西優子
(バベル翻訳専門職大学院生)

 
  
 現在TPTでは『翻訳の観点から日本語を再考する』の特集が組まれています。私なりに考えてみました。はじめに私が日本語を再考するにあたり、英語との比較を前提としているのをお伝えします。私が翻訳を行うときは英日翻訳が主であり、言葉の移し替えで上手くいかず、よく立ち止まってしまいます。要因はいくつか思いあたりますが、日本語と英語の特性より、主に二つのことが考えられます。日本語の「て、に、を、は」(主要な助詞)と「5W1H」の順番です。以下、少しばかり詳しく説明します。
                
【日本語の主要な助詞「て、に、を、は」】
 日本語を母語とする者であれば、「て、に、を、は」は幼児の頃より自然と身についてしまうものです。2、3才頃は大人のまねで「て、に、を、は」入れてお話しをし始め、4、5才頃には「て、に、を、は」を理解して使い分けができる、目安があります。(言語聴覚士のホームページkotobast.comより)幼児期には話し言葉で自然と身につき、小学1、2年生で文を書くことで習得し、完成されるといえるでしょう。しかし改めて「て、に、を、は」の正しい使い方を問われたり、外国の方に説明する場に置かれたりする場合、戸惑われる方は少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。前者に関しては、自然と肌感覚的に身についたため、説明しづらいことが考えられます。後者に関しては、「助詞」のある言語は極めて少ないことが考えられます。英語にも「助詞」は存在しません。(「助詞」の訳語はpostpositional particleと辞書に載っていますが、これをまた和訳すると「後置詞」とあります。しかし「後置詞」と「助詞」は異なるらしいのです。)あえて英語に置き替えるとbe動詞や前置詞が日本語の助詞に当たる役割に近いのでしょう。

 文法のことは一度おいて、少し私自身のことを述べます。なぜならば「て、に、を、は」は長い間私のコンプレクスとするものでした。幼少期(3才-8才)は父の転勤により米国に在住し、第一言語が日本語ではなく英語だったことが考えられます。(正確には日本語を話すこと自体大変でした。)小学3年生で帰国し、卒業時の国語力は年齢相応に追いつき、いつの間にか第一言語は日本語になっていたものです。しかし成人後でも、何か微妙に違うと言われていたのが「て、に、を、は」でした。(そのころになると逆に英語で話すときは日本語を英訳する状態で現在に到っています。)

 さて話を「て、に、を、は」の用法に話を戻しましょう。日本語の助詞の中でも「て、に、を、は」は主要な助詞、或いは格助詞といえるようです。(手持ちの本やインターネットで閲覧情報より)調べていきますと詳細な文法記述や用例が多く並び、分かりづらいと感じ、私なりに具体例で考え、下記の表のように、簡単におおまかにまとめました。

*括弧内は「て、に、を、は」と類似した役割の助詞 
   用法  英語

*(へ)
どこ、誰(複数人)、なに
どこ
 in, at, on, with
いつ、どこ
、何  
in, at, on, with
to, for, Object
、誰
どこ(例:ボタンや点キー押す、引く)
to, for, Object
on, Object

*(
いつ、誰、何、どこ
いつ、誰、何、どこ
 be動詞(Subjectに続く)
   
 
 「て、に、を、は」の使い方や役割を考えていくうちに、ここ数年私の頭の中に浮かぶある考えと関係することが、ぼんやりと分かってきました。それは冒頭に申し上げた、語順です。語順といっても漠然とし過ぎ、非常に広範囲な分野にわたりますので、「5W1Hの順番」に焦点を当てて説明します。 
                                               
【5W1Hの順番】
5W1Hとは物事をわかりやすく、 伝えるための基本だと言われています。日本語でも、英語でも同じ言葉を見聞きし、概念も同じではあるものの、順番が異なっています。
    
例)    
日本語   いつ、どこで、だれが、なにを、なぜ、どう、(どうした )   
順番(日英)1→4   2→5    3→1  4→3  5   6   7→2
語       Who,  What,    When,    Where,   Why,    How,     Verb    

例)のように、日本語では「いつ、どこで」が1、2番目(英語では4、5番目)であり、「だれが、なにを」は3、4番目(英語では1、3番目)となっています。この語順は実際に言葉で表現するときの順番と一致することが多いと思われます。そして伝達情報の優先順の表れとも考えられます。

 ところが、日本語の文章では語順と優先順位が一致しない要素があります。5W1Hを表す言葉ではないものの、文が成り立つ不可欠な要素「どうした」つまり動詞の順番です。動詞は必須、つまり最優先の要素であるのにも拘わらず、日本語ではほぼ末尾にきます。英語では「誰は、何は」(主語)に続き、ほぼ2番目にきます。この点を掘り下げるには、私自身のリサーチが足りず、また更に長文となりそうですので、この場では一仮説のみ述べます。日本語の文章で動詞が末尾にくる特性は、却って語尾を重視する日本人の特性を表すといえます。また、日常の会話では主語が「わたし」や「あなた」の場合、ほぼ言葉に出すことはないものだが、「どうした」つまり動詞が出てこない会話は限られています。そのため、
日本語の動詞は文章の末尾であっても優先順位や重要性が低いとは言えず
むしろ文の中では末尾にくる、あるいは動詞一語で会話が成り立つほど、
際立っている、と思われます。

 文を構成する品詞や語順の他にも、言語の特性を決定づける要素は多岐にわたりますが、今回は助詞「て、に、を、は」と語順「5W1H」に焦点を当てて考えました。日本語について本格的に学んだことはなく、英日翻訳を行なうときに感じる壁を元に再考しています。

 ここは違う、またはこう考えた方がよい、など皆さまのご意見やご投稿をお待ちしております。                

 

【プロフィール】
葛西優子
バベル翻訳専門職大学院・文芸翻訳専攻在籍中。幼少時にアメリカ、中学生の時は韓国在住。夫の赴任で約4年間アメリカ在住を経て、帰国後7年余り。共訳絵本『ミス・グッディ2シューズ』(2020年4月刊)翻訳者。現在TPT編集員。

 

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CC.で 堀田都茂樹  hotta_t@nifty.com