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YouTubeから窺う 翻訳通訳のこれから

2020/09/23

【新連載】翻訳と通訳の距離    
第2回 

YouTubeから窺う  翻訳通訳のこれから

松江 万里子
通訳者/バベル翻訳専門職大学院生 ブリュッセル在住)

 

                                
前回、葛西優子さんが「
SNS翻訳を人間の手によって行うとすれば、通訳に近い作業になると思われますと書いていらしたことに示唆を受けて書いております。

コロナ禍のおかげ、というべきか、とにかくこの機にYouTubeのヘビーユーザーになった方は少なくないと拝察します。視聴するだけのユーザーではなく、発信する側でもあるユーザーが、着実かつ急速に増えたという印象を持ちます。いつ果てるとも見えないコロナ禍下で以前のようには仕事は戻ってきそうにない以上、自営業者のはしくれとして、発信する側に回るというビジネス展開の選択肢も、真剣に考えねばなりません。    

何を発信するか、というのも勿論考えどころではありますが、既存のサービスに付加・付与する形での業務化というのはどうでしょうか?

ユーザーコメントを見ていると、日本語の動画で大多数が日本語のコメントであるのに、英語で「英語字幕付けてください!」というリクエストがあるのを時折見かけます。あるいは、英語に限らず外国語で何らかのコメントが入っていることもあります。こうしたコメントへの対処に動画作成者のスタンスが窺えるわけですが、ざっと見たところ、見てくださってありがとう、外国語字幕も検討したいですけど、YouTubeの自動字幕機能に期待します、的な対応が多い印象を受けました。

YouTubeの字幕付与機能、以前は視聴者がボランティア的に訳したものを貼り付けて行くことが出来ましたが、昨今この機能は動画作成者のみに局限されたようです。ボランティア作業では、成果物の品質コントロールが難しかったり、恣意的(下手すると悪意を持った)内容の改変の可能性が排除出来ないことがあるからでしょうか。また、おそらくですが、ひと番組を全部翻訳した人が、その功績において制作者に準ずる権利を主張したり、といった類のいざこざが発生した、等とも邪推が可能です。

自動翻訳の、その前段階とも言える日本語の文字起こし機能について、YouTubeの現状を確認してみました。

正直に申し上げて、なかなか笑えます。嘲笑ではなくて安堵の部分が大きいです。

ほぼ話者の責任で発話不明瞭なのを、機械が力技で拾ってくるところ、拾い切れなかった時間帯が続くと、BGMすら鳴っていないのに[Music](?)という表示を出したきり、しばらくの間は無字幕状態となるところ(この場面を何度か見かけるうちに、これは自動文字起こしが上げている白旗、のようにも思えてきました)、などです。

「機械にはそういう風に聞こえちゃうんだ」
「機械にこれを拾えというのが酷ではあるかも」
「文字起こしだけでも、やっぱり人の手が入らないと実用には堪えないのか」

…等と思いながら、話されている内容が拾えていない以上、それを更に機械翻訳するということがどれだけ茫洋なことか、軽く目眩を覚えるほどです。

AIに駆逐されるであろう業態としては割と早い段階で消える方に挙げられているらしい 翻訳通訳という業務は、意外にも当面は安泰なのかも知れないよ?という気持ちすら湧いて来ます。未見の方はお試しいただくのも一興かと。再生画面で右上端、「…」がタテ向きになっているところから「字幕」に行き、日本語の動画の場合は「日本語(自動生成)」を選びます。

翻訳通訳の補助業務として発生しがちな、ベタの文字起こしという作業ですら、機械で完全自動化というのまでにはまだ時間がかかりそう、というのが実感されます。

野口悠紀雄さんが4年ほど前に音声入力を激推しされていましたが
確かに、スマートフォンで検索する時などには音声入力は非常に便利で、使ってしまうと後戻り出来ない感はあるものの、単語ではなく文章を扱う場合はまた違う話になるようです。

英訳リクエストをコメント欄に見つけると、ついつい「じゃあ自分ならどう訳す?」と自問しながら観進めてしまいます。
会議通訳の現場がほぼ消滅している昨今、こうした形での自問自答は、軽めの自主トレの役割を果たしている気もします。

そして実際に「英語の字幕つけて?」というリクエストがあるのを目の当たりにしているのです。つまり、お客さんがいるということです。

これを商機と捉えて、サイトのローカリゼーションを請け負う系の業者さんやフリーのYouTuberさんたちが、既に「あなたのYouTubeを世界に発信!」的な営業をかけているのは当然のことではあります。

ただ一方でこれは、フリーランスが単発で、各々の白兵戦で仕事を獲って行く、というのには実は馴染まないタイプの業態なのでは?というのも、ほとんど確信に近く意識されます。
訳出結果の品質を、どのように保証するか?というキモの部分が、無所属フリーランスでは担保しづらい(というか、ほぼ不可能)からです。

だからこそバベルグループの出番なのでは?と思います。
バベルのネットワークを、YouTubeにおける多言語対応支援のプラットフォームとして精錬し、「多言語サービス分野のUber」的ポジションを取りに行く、というのはどうでしょう?

「せめてちょっとでも英語の字幕入れて?」というリクエストがあるサイトは、管見の範囲で申し上げると、「古民家で一人暮らし」「作り置きお弁当」「猫動画」「乗り鉄系動画」等でした。Cool Japan狙いで、初めからご自身で英語字幕併記にされている方もおられますが、いろんな意味で正直なところメンテがきついのでは、と勝手に拝察してしまう現況だったりするようです。

《言語と距離は、超えられる壁です。》

高校の同窓会の協賛広告に出した、 12年前のコピーでございます。
今以て、否、今なればこそ、響いて欲しいなあと思っております。

 

【プロフィール】
松江万里子
バベル翻訳専門職大学院・法律翻訳専攻在籍中。1998年にベルギーへ移転。ルーヴェン大学日本学科専任講師を経てフリーランス通訳・翻訳、メディアコーディネーターとなり現在に至る。www.japanative.comブリュッセル在住。