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距離を縮める可能性は、ここにあり?

2020/09/07

【新連載】翻訳と通訳の距離    
第1回 

距離を縮める可能性は、ここにあり?

葛西優子
(バベル翻訳専門職大学院生)

 

    翻訳と通訳の違いは、どこにあるのでしょう?翻訳は文章を訳し、通訳は話す言葉を訳す、という違いがあります。イメージとして、翻訳は文章やドキュメントなど、それなりの分量をある程度の時間をかけて、仕上げる。対する通訳は、その場で話されている言葉を短時間で訳す。では、SNS内の投稿や動画配信サービスのメッセージ、コメントを訳した場合はいかがでしょうか?私の考えとしては、限りなく翻訳と通訳の距離が縮まるところは、その分野だと思うのです。

 なぜ、このように考えているのか。理由は3つあります。第一にご存知の通り、SNSでの発信は、文字を入力してはいるものの、頭の中は会話モードです。つまり話し言葉がベースとなります。しかも、話し言葉モードでありながら文字を入力するため、短くなります。こうなりますと、例えばSNSで発信されるものをリアルタイムで翻訳するとしたら、通訳に近い作業だと思われます。

 第二の理由として、SNSアプリケーション内の翻訳機能は、まだまだおぼつかないことがあります。つまり機械翻訳で表示できるものがあっても、精度としては不十分、ということはご存知の通りでしょう。実際、機械翻訳で出力された文章の確認や校正をせず、公式に掲載したところ珍文章で笑いのネタとなったものもありました。こういう事情もあって、SNS翻訳を人間の手によって行うとすれば、通訳に近い作業になると思われます。

 第一と第二の理由は翻訳が通訳に近づくという観点を述べました。第三の理由は、通訳が翻訳に近づくという観点で考えてみましょう。例えば、ニュースや動画の字幕が考えられます。最近は母国語でも字幕(テロップ)を目にする機会が増えてきました。つまり、音声が文字に起こされているのです。実際に同時通訳を除けば、何らかの文字情報を見ながら通訳を行うことも多いと聞きます。話し言葉が文字に変換されているということは、可視化されていることであり、そうなれば、サイト翻訳との違いは限りなく縮まると思われます。

 ただし、現時点では一つ難点があります。音声入力が、劇的に進んでいるわけではないと印象があります。あくまでも周囲の様子で推測していますが、スマホやPCに向かって話し、文字起こしをされている方は、少数で先進的のようです。つまり、文字を起こす必要が出てきます。この時差を考えますと、やはり通訳と翻訳の違いはあるといえます。
そうなると、第一と第二の理由で述べたように予め、文字で情報伝達がされているSNSの翻訳に通訳の手法はかなり有効であり、距離も相当縮まるのではないでしょうか?

 最後に、なぜこのように思ったのかを簡単に述べます。SNSを通じ様々な情報を見ることが多く、興味半分でアプリ内の翻訳機能を使用しても、精度が多少良くなっている印象はあるものの、まだまだ、と感じます。そして、ときには有名人が発信したもので、なかなか言わんとすることが翻訳されなかったり、誤訳のため間違ったように紹介されたりで、残念に思うこともあります。私自身は、翻訳は駆け出し、通訳は未知で偉そうなことが言える立場ではないことは分かっています。指摘することは易し、実行することは難しい、と思っています。とはいうものの、短い文章を自発的に翻訳してみて、面白い発見ができます。まさに通訳の手法を取り入れつつ、即効性ある翻訳を目指してゆくことで、距離を縮めることが出来るような気がします。

 

【プロフィール】
葛西優子
バベル翻訳専門職大学院・文芸翻訳専攻在籍中。幼少時にアメリカ、中学生の時は韓国在住。夫の赴任で約4年間アメリカ在住を経て、帰国後7年余り。現在TPT編集員。