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White Privilege(白人の特権)とは

2020/08/07

【特別特集】反人種差別、暴動に想う~人種差別をどう考える    
第1回 


White Privilege(白人の特権)とは


チエン 静
(バベル翻訳専門職大学院生 法律翻訳専攻)

 

                                
 アメリカ本土に住んだ有色人種の人はみな、人種について考えてきたと思う。台湾系アメリカ人(二世)の夫と私もずっと考えてきた。なぜ、白人と黒人が住む地域が分かれているのか。なぜ、教師は白人で、スクールバスの運転手や清掃員は黒人なのか。小学校で仲良くしていた白人の友達が、中学に上がると我々を無視し始めたのはなぜか。なぜ、全国統一テストで自分の人種を書く必要があるのか。学校で習ったGreat American Melting Pot(「アメリカは人種の坩堝」)の話は大嘘だ。むしろピエトロドレッシングの成分のようにくっきりと分離している。私にとってこの問題は、バベルの翻訳リサーチ入門講座のテーマにするほど身近なものだ。人種の分類には科学的根拠がなく、白人が社会の構造を決めるために都合よく作り、変更してきたものであることが分かっている。アメリカには、アイルランド人を別の人種とみなし、差別してきた歴史もある。

 日本のように比較的“homogeneous”な(「単一人種・単一民族の」)社会では、人種問題に気付き、声を上げる例がまだ少ない。「単一人種…」に鍵括弧を付けたのは、これを否定する人もいるからだ。子供の頃使っていた色鉛筆の「はだいろ」は、1999年に廃止された。アメリカ人からすると「はだいろ」が存在したこと自体、論外だろう。日本でも少しずつ問題を指摘する声が増えている。かつては黒人のものまねで黒塗りが行われていたが、現在、アメリカではタブーとなっている。日本と中国では、最近ようやく黒塗りが問題視され始めた。

 人種差別というと、白人が有色人種の人に攻撃し、罵り、入店拒否するといった顕著な例を思い浮かべることが多いが、近年になり、分かりにくい形の差別について発言する声が増えてきた。キーワードに、白人によって植え付けられてきたwhite privilege(白人の特権)、white supremacy(白人至上主義)の概念がある。その例を挙げていきたい。

 一つは、「白い肌が美しい」、「金髪美女は最高」といった固定観念であり、日本にも蔓延している。「あの人は色白でモテる」「色素が薄いよね。ハーフかな」「堀が深く、足も長くて羨ましい。日本人離れしているよね」というような会話を何度耳にしてきたことか。日本のある女性用下着の雑誌を手にすると、どのモデルも白人で、日本人モデルがいないことに驚いた。「パリコレ」「日本人」でググると早速「身長や体型でやや見劣りする日本人」と書かれた記事を見つけた。ありのままの自分達の姿を、なぜ白人と比べて自虐するのだろうか。2016年の呉服店の「ハーフの子を産みたい方に」という宣伝文句に批判が殺到したが、実際、国際結婚専門の結婚相談所やハーフの子供を希望する人向けの情報サイトも存在する。この「ハーフ」の意味は、白人の血が入った人に限定されることが暗黙の了解となっている。

 「はだいろ」の話に戻ると、少し前まで、日本の化粧品ブランドのファンデーションのラインアップは片手で数えられる程度であった。アメリカでは様々な色が展開されているが、それでも黒人向けの色が少なく、複数購入して自分の肌の色に合うように調整する消費者が多かった。2017年、黒人歌手のリアーナがプロデュースしたブランドが40色のファンデーションを発売した。化粧品メーカーの従業員に白人が多く、マイノリティの意見が反映されていないことが問題となってきた。Representation(人種を代表し、意見を社会に反映させること)の問題は、白人が支配する政界、産業界、芸能界、教育現場等の場面で起きている。例えば、有色人種の歴史や文化に詳しくない白人の教師集団が、白人の観点から有色人種の学生を教育している問題がある。ハリウッドでも、アジア人の役を白人が演じたことに批判が起きた。バベルの奨学生のワーキング業務で日本翻訳協会の文芸翻訳セミナーに参加したとき、ハリーポッターの原著の登場人物が白人であるのに対し、アメリカ版の小説は、白人以外の人種を登場させ多様性を重視していることを知った。

 私の夫はアメリカ人であるにもかかわらず、「どこの国出身なの?あなたの両親はどこ出身?」と、白人なら絶対質問されないことを何度も質問されてきた。アメリカにとって人種差別は永遠のテーマだが、皮肉にもコロナウィルスのおかげで、後回しにされてきた問題について考える機会になっている。アメリカのSNSでは毎日のように人種に関する情報が入ってくる。「黒人にもキューバ系・ジャマイカ系がいるし、多くの人はアフリカから連れ去られてアイデンティティを失ったので、我々をアフリカ系アメリカ人ではなく、黒人と呼んで構わない」という投稿もあった。1967年の最高裁判決によって異人種婚禁止法が廃止されて以来(Loving v. Virginia)、Mixed race(多人種)の人も増えてきている。彼らは、どの人種にも完全に一致せず、両親や周りの人に気持ちを理解してもらうのに苦労しているが、語ると長くなるので、ここまでにしておきたい。我々の声で社会が変革していくことを願っている。

参考記事
NERISHA PENROSE, 2018 ‘It's 2018. Why Is It Still A Struggle To Find Foundation For Dark Skin?’, ELLE(2019年7月8日閲覧)

https://www.elle.com/beauty/makeup-skin-care/a22687914/struggle-to-find-dark-skin-foundation-woc-influencers-beauty-blender-tarte/


 

【プロフィール】
チエン 静
バベル翻訳専門職大学院生・法律翻訳専攻。東京都出身。海外在住歴は11年(コネチカット、ロサンゼルス、ロンドン等)。現在、台湾系アメリカ人の夫とホノルルに暮らしている。法律事務所秘書、メーカーの海外営業の仕事で契約書を読む機会が多かったため、法律翻訳の道に進むことを決意。