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翻訳家になろうと思ったきっかけ、現状、そして課題 -This Is My Story-クリーバー海老原 章子

2020/07/07

【新連載】VOICES from Alumni Overseas
第1回 

 
翻訳家になろうと思ったきっかけ、現状、そして課題
 -This Is My Story-

クリーバー海老原 章子
(翻訳者、バベル翻訳専門職大学院修了)

 
 
 
 バベル翻訳専門職大学院USA、2014年秋季修了生のクリーバーと申します。法律翻訳を専攻しました。

 本題に入る前に少しバックグラウンドからお話させていただきます。わたしは日本で生まれ、日本で育ち、日本の大学を卒業しました。カナダ人の夫と結婚してからは、日本と海外を転々としていますが、現在は、カナダのブリティッシュコロンビア州バンクーバー島に一家5人暮らしです。こんな風に言うと、「海外経験もあるんだから、もともと英語が得意だったのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、わたしの場合はまったくそんなことはありません。海外には住んでいますが、留学経験はありませんし、ちゃんと英語の勉強をしようと思ったのは、だいぶ大人になってから、30歳をとっくに過ぎてからです。ですから、翻訳の勉強は、高校英語からのスタートでした。

翻訳家になろうと思ったきっかけ
 では、なぜ翻訳家になろうと思ったのか?そのきっかけは、ずばり第一子を妊娠したことです。それまで営業畑にいましたので、こどもが生まれたらゆっくりしたいし、ずっと赤ちゃんのそばにいたい!そう思ったからです。在宅で何ができるだろうと考えたときに「翻訳」にいきつきました。大好きなバリ島のビーチ(または田園に囲まれたおしゃれなカフェ)で翻訳の仕事をしている自分を夢に描いたものです。

翻訳家へのステップ―バベルとの出会い
 それからバベルの通学コースをいくつか受講することになりました。当時はちょうどミレニアム、2000年でしたので、かれこれ20年前になります。通学制の基礎コースを2コース受けたあと、出産と同時にカナダのトロントに引っ越し、子育てをしながら日系コミュニティー向けのポリスレポートの翻訳や簡単な証明書など、ほそぼそとビジネスをスタートしました。アラブ首長国連邦に引っ越すことになったのですが、この時点で1歳から6歳までの子供が3人いましたので、「これからはなにがなんでも在宅!」と腹をくくった肝っ玉かあちゃんになっていました。ただ、なかなか翻訳の仕事が取れないというのが大きな課題でした。もう一度ちゃんと翻訳の勉強をしようと思い、バベル翻訳大学院に入学することになったのですが、そのときは40歳を過ぎていましたから、大きなチャレンジでしたが、ここで修士号が取れたらかっこいいじゃない?そんな思いもありました。

 ラッキーだったのは、大学院の特別奨学生制度を受けさせていただくことになったことです。学費を一部免除していただく代わりに、実務をこなしてポイントでお返ししていく制度です。現役の院生ではあるものの、実際に発注がきた「実務」を体験できますので、今思い返しても実に有益な経験でした。納品前にチェックもしていただけますので、とても勉強になりましたし、自信にもつながりました。

 大学院の授業は、必須科目と選択科目があり、必要な単位数を取得していくわけですが、選択科目は専攻以外の科目も選べるので、興味の幅を広げることができます。例えば、わたしの場合は法律専攻でしたが、特許翻訳の基礎コースを取り、どんなものか覗いてみることができました。もちろんこれも単位にプラスされます。また、必須・選択科目のほかにワークショップがあり、これも単位になります。特に有益だったワークショップは、小室先生のOmegaTのコースです(かれこれ6年以上前ですので、現在は新しいツールになっているかもしれません)。OmegaTは無料でインストールできる翻訳ツールなのですが、このワークショップを終了すると、実務で即活用できるようになります。現在は、Trados指定の案件が多いのでTradosを使っていますが、それまではOmegaTですべての案件をこなしていました。時間効率が劇的にアップする優れモノでした。

お仕事事情
 次に翻訳家を目指す方が一番気になるのは、実際の仕事探しではないでしょうか。わたしも最初はどうやって探すのか、迷いました。とりあえず、修士号取得前から、カバーレターに「翻訳修士号取得予定」とコメントを入れ、どんどん履歴書を送りました。当時はProZ、Webで翻訳などのサイトを利用していて、それなりに反応がありましたが、法律関係の案件ばかりが上がってくるわけではありません。翻訳家の方の中には専門分野の案件のみを選んでお仕事をされている方も多いと思いますが、わたしの場合は「できる」と思ったらとにかく受けるようにしていました。

 そうしているうちに、某自動車メーカーのプロジェクト1年契約、樹脂メーカーと化学薬品メーカーの翻訳プロジェクト2年契約、バイクメーカーのプロジェクト2年契約など、定期的に仕事が取れるようになりました。一見、法律とは無関係なようですが、実は「秘密保持契約」や「合意書」なども含まれ、まったくかけ離れた内容ではありませんし、その分野の知識(例えば樹脂に関する知識)が増えるというプラスの面もありました。またベトナムを拠点とする翻訳会社からフルタイムの仕事をいただくチャンスがありました。8時から4時までの勤務で、やりとりはすべてSkypeとEメールです。あがってくる案件にどんどん対応していかなければいけないので、時間効率と品質維持は大きなテーマでした。 

 最近ではバベルグループさんの出版部門から書籍の翻訳、監訳のお仕事をいただいています。これまで書籍を3冊担当しています。現在は4冊目の監訳作業の最終段階に入ったところです。これは5名の共訳者の方と協力して一冊の書籍翻訳を仕上げていくワークショップで、わたしにとっては新たなチャレンジになりましたが、学ばせていただくことも多く、5名の共訳者の方々とともに出版を心待ちにしています。

課題と今後
 3年前にカナダに引っ越してからは、地元のクリニックでメディカルオフィスアシスタントをしながら、翻訳はフリーランスでやっています。新型コロナのパンデミックを機に、在宅ワークが見直されていますよね。翻訳業はまさにその先端を行っているわけで、「こんな時代の流れにも影響されない翻訳、やっててよかった」と思う反面、もっと良いやり方があるのでは?と思うこともあります。自分なりに感じている課題は次の通りです。 

 ①    ワード単価が上がらない(国によってはびっくりするほど低い)
 ②    信頼できるエージェントの確保
 ③    書籍翻訳をしたい場合のプロセス

 特に②のエージェント探しは今もわたしの大きな課題です。現在は、6年ほどお付き合いのある信頼できるエージェントが1つあります。単価が低い、支払いが悪いなどのエージェントを徐々に削っていって、結局このエージェントが残ったという感じですが、このエージェントから定期的にプロジェクトをいただくので、1か月のスケジュールはだいたい埋まります。とは言え、あと1,2つ信頼できるエージェントがあればいいなと思っています。

 ①のワード単価が上がらないのは業界全体の問題なのではと思います。単価を上げるのは実際なかなか難しいので、いかに時短でワード数をさばくか(品質は維持)をテーマにしています。それにはTradosの活用や用語集の充実などは欠かせないと思います。

 最後に、今後は書籍翻訳にもっと取り組んでいきたいと思っています。以前は「わたしは法律翻訳専攻だから、書籍とは無縁」と考えていましたが、実はそんなことはないのです。いろいろな内容の書籍がありますので、専攻に関係なくどなたでもチャレンジできます。自分の名前が載る、形になるというのはやはり魅力的ですよね。翻訳家になることはわたしの夢でした。これからも一歩ずつ歩みを先に進めて、おばあちゃんになってもPC片手に翻訳をやっていたい(大好きなバリ島で海を眺めながら!)、そう思っています。

現況
フリーランス翻訳家。これまでに担当した書籍翻訳は3冊。現在は書籍「The Daily Hazards of a Middle Eastern Wife」共訳ワークショップの監訳を担当しています。

 

【プロフィール】
クリーバー海老原 章子
バベル翻訳大学院法律翻訳修了。結婚後は夫の仕事の関係でマレーシア、トロント、アラブ首長国連邦に居住。現在は、カナダBC州のナナイモに一家5人暮らし。これまでに担当した書籍翻訳は3冊。フリーランスとして翻訳のお仕事をしています。