大きくする 標準 小さくする

新型コロナが教えてくれたこと - ウィットマイア彩

2020/06/08

【特別特集】新型コロナに教えられたこと
第1回
 

 
新型コロナが教えてくれたこと

ウィットマイア 彩
(バベル翻訳専門職大学院生)


 

 毎朝、満員電車にのって、同じ時間に同じスーツを着た人間が会社へ向かい、一斉に仕事を開始する。学校を卒業した後も、小・中学校の延長上にあるかのようなライフスタイルを続ける会社勤めの生活に、違和感を感じていた。私自身、翻訳という仕事を選んだ理由は、場所や性別、年齢等にライフスタイルを制限されず働いていける仕事を考えたためであった。

 近年、ワーク・ライフ・バランスという言葉が定着してきているものの、行きすぎた残業、職場ハラスメント、職場での差別、うつ病による自殺率の増加、出生率の低下等の問題をメディア報道で目にしない日はなく、人間らしい生活を後回しにしてきた結果が顕著になってきていると思う。そんな中、新型コロナは「人間らしい生活(働き方)を見つめ直そう」というメッセージを送ってくれた気がしている。今回のテレワーク実施で、満員電車での通勤、印鑑での文書のやりとり、超過残業、大量の印刷物やファイリング、頻繁の飲み会、長いミーティング等は必要ではなかった、当たり前と思っていた日常が、当たり前ではなかったと多くの人が気づき始めていると思う。一企業の人事部で働く自身の経験から、今回の新型コロナが教えてくれたことを述べたいと思う。

 人間らしい生活(働き方)とは何だろうか。例えばデンマークには「ヒュッゲ(HYGGE)」という言葉がある。ヒュッゲとは、デンマーク語で「毎日の一体感」、「安全、平等、個人の全体性、自発的な社会的フローからもたらされる、快適で高く評価された毎日の体験」を指す、という。

(以下、引用)
“このヒュッゲという言葉、名詞としてだけでなく「ヒュッゲする」という動詞としても使われています。デンマークでは朝が早く、7時くらいから働き始めるかわりに、夕方4時ごろには仕事を終え家に帰ります。そして、家族がいる場所=「ヒュッゲな空間」であり、仕事よりも家族を優先しリラックスタイムをもつ。プライベートに仕事をもち込まないというのが、デンマーク人のヒュッゲ精神だとされています。” (引用サイト: Glocal Mission Times)

 “デンマークの人はワーク・ライフ・バランスを取るのが非常に上手です。仕事に対するモチベーションもお金や出世などよりも、自分の仕事が好きだと感じ、自主性を持って働いている人がほとんど。また、どれほど収入を増やしたとしても、ある一定額に達すれば半分が税金で徴収されるシステムになっています。納税額を高くすることで国家の福祉を充実し貧富の差を生じにくくさせているため、必死に「お金をもうけなくちゃ」となる必要がないことも大きな要因のよう。”(引用サイト:「キナリノ」)


 社会制度等、異なる日本ですべてをあてはめるのは難しいかもしれないが、「日々の中の小さな幸せを感じることを大切にする」というヒュッゲの精神は、コロナ以降の日本社会において今まで以上に大切なヒントを与えてくれるのではないだろうか。今回、自身もテレワークを実施する中で、「プライベートを大切にし、仕事の時間はしっかり集中する」大切さを改めて感じている。新型コロナは、日本社会にとって、人間らしい働き方へシフトする、まさに今が変革の始まりであることを教えてくれた。組織の部品と感じさせるような非人間的なワークスタイル(残業、満員電車での通勤、スーツ着用、朝礼といった同一の行動様式を求める画一的な組織体)から、人間的なワークスタイルへ(多様性を尊重し協働し新しい価値をつくる創造体)。人間らしい生活を大切にする働き方では、従業員は給料をもらいにいくため、決められた行動様式に従い日々通勤するのではなく、自分の仕事が好きで、一人一人がキャリア計画の実現を目指す、内面から湧き上がるモチベーションで働いている。そのため、一つ一つ会社は、企業のミッションに共感する、起業家精神をもったIndependentな社員の集合体であり、多様なワークスタイルを尊重し、協働し、高め合う創造体として社会で機能している。そんな働き方がスタンダードになる社会の実現に、一歩近づいたのではないだろうか。

 ただ、今回の”STAY HOME”に伴うテレワークも、出社できないという意味では、働き方を「選べない」点でコロナ以前と変わらない。これまでの人間らしい生活の喪失を招いているのは、企業が社員に画一的な行動様式を求めてきたからであり、多様なワークスタイルを選べない(制限されている)点では同じだ。だからこそ、今回の新型コロナをただの過去の出来事に終わらせてはならない。人間らしい生活を見直す機会と捉え、今回のテレワークから学んだことを教訓にして、多様なワークスタイルを「選べる」、本当の意味での人間らしい生活を大切にする働き方を実現していくのはこれからだ。AIの発達が働き方に及ぼす影響について様々な議論がなされる今、人間らしい生活を見直すことは、人間にできることをより発揮する社会と同じ延長上にあると思う。会社にいるのはほぼロボットだけで、人間はみんなリモートワークが主流となっている——新型コロナはその始まりだった、と近い未来に振り返る日が来るのかもしれない。

 現職の企業では、緊急事態宣言前の3月初旬よりほぼ全社員のテレワークを一斉に実現させた。コロナ以前より、人種、性別、国籍を超えた企業体として、ダイバーシティ施策を中心に、企業としての意思や目標を明確にし、社員が集中して仕事に取り組める働きやすい環境づくりを日々考えてきたが故の即座の対応だったと思う。先日、全社員向けの社長メッセージで「私たちはこの経験から学び、今後に生かしていかなければなりません。はっきり言えることは、過去の日常には完全に戻らないということです。私たちが柔軟な働き方に移行できたという実績は、会社にとって大きなプラスとなると信じています。」と、企業としての明確な意思を伝えていた。社会や会社が大きく意識を変えようとしている。私自身も、日本の未来を築く社会の一員として原動力となれるよう、今回新型コロナから得た学びを無駄にせず、自分から発信して、周りの人たちに輪を広げていければと思っている。ヒュッゲにあたる新しい日本語は何か、これから考えていきたい。


【プロフィール】
ウィットマイア 彩
福島県出身。新卒で入社した会社が倒産し、語学で身を立てることを決意。複数の企業で英文事務職を経験した後、現在は住宅建材メーカー人事部で日英メインの翻訳業務に携わっている。大切にしているのは、日本語の行間を読み取った自然な英語表現を追究すること。バベル翻訳専門大学院法律分野専攻にて学習中。