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やさしい日本語とは

2019/09/07

新連載
【特集】

『やさしい日本語』


やさしい日本語とは



猪塚 元 (いのづか はじめ) 日本語教育講師/東邦大学他講師
 

 まだ聞き慣れないひともいるかもしれないので今回は「やさしい日本語」に関して概観していきます。

 まず
2020年オリンピック・パラリンピック大会に向けた多言語対応協議会の「多言語対応に向けたポータルサイト
https://www.2020games.metro.tokyo.jp/multilingual/references/easyjpn.html」を見てみましょう。

 世界には、多くの言語があります。すべての外国人に対して母語で情報を伝えることが一番理想的ですが、現実的には不可能です。そこで、言語の選択という問題が生じます。

 多言語対応協議会では「多言語対応の基本的な考え方」を
2014年に定め、「日本語+英語及びピクトグラムによる対応を基本としつつ、需要、地域特性、視認性などを考慮し、必要に応じて、中国語・韓国語、更にはその他の言語も含めて多言語化を実現」とし、取組を進めています。

 しかし、言語の中でも難易度があるため、とりわけ、多くの外国人が理解できる日本語においては、できるだけわかりやすい情報発信(「やさしい日本語」)が求められています。

 ここであげられている「やさしい日本語」とは、、母語話者が日常使っている日本語よりも簡単でわかりやすい、人に「やさしい日本語」のことをいいます。「日本語による直接コミュニケーション」のため、翻訳の際にありがちな誤訳トラブルがなく、情報をリアルタイムに正しく伝えられるのが最大の特長です。

 「やさしい日本語」は
1995年の阪神・淡路大震災で、多くの外国人が被災したことをきっかけに開発されました。現在ではその利点から、災霧時の減災対以外に、全国の都道府県の自治体・NPOで活用されています。
さらに上述のように東京都オリンピック・パラリンピック準備局でも多言語対応コミュニケーションの手段のひとつとして「やさしい日本語」を推進しています。

やさしい日本語の例

 
「やさしい日本語」に関する情報が集約されている 弘前大学人文学部 社会言語学研究室 減災のための「やさしい日本語」
http://human.cc.hirosaki-u.ac.jp/kokugo/EJ1a.htm)からその例を見てみましょう。

けさ
721分頃、東北地方を中心に広い範囲で強い地震がありました。
大きな地震のあとには必ず余震があります。
引き続き厳重に注意してください。

今日
(きょう) (あさ) 7()21(ぷん)、 東北地方(とうほくちほう)で (おお)きい 地震(じしん)が ありました。
(おお)きい 地震(じしん)の (あと)には 余震(よしん)(あと)から ()る 地震(じしん)>が あります。
()をつけて ください。



 これは「やさしい日本語」にするための12の規則に基づいて作られたものです。
(1)難しいことばを避け、簡単な語を使ってください
(2)1文を短くして、分かち書きにし、文の構造を簡単にします。文は分かち書きにして、ことばのまとまりを認識しやすくしてください。
(3)災害時によく使われることば、知っておいた方がよいと思われることばはそのまま使ってください
(4)カタカナ・外来語はなるべく使わないでください 
(5)ローマ字は使わないでください 
(6)擬態語や擬音語は使わないでください
(7)使用する漢字や、漢字の使用量に注意してください。漢字にはルビを振ってください
(8)時間や年月日は外国人にも伝わる表記にしてください
(9)動詞を名詞化したものはわかりにくいので、できるだけ動詞文にしてください
(10)あいまいな表現は、避けてください
(11)二重否定の表現は避けてください

(12)文末表現はなるべく統一するようにしてください

 さらに現在では
NHKの「NEWS WEB EASYやさしい日本語で書いたニュース
https://www3.nhk.or.jp/news/easy/)を含め多くのマスコミのページで「やさしい日本語」で書かれた情報を得ることができます。

「やさしい日本語」の背景
 このように「やさしい日本語」が広まった背景には、従来も「英語」中心に対する反省があります。「外国人=英語」という感覚もあり、様々な母語の人を相手にする場合に従来ではいわゆる「リンガ・フランカ(=非母語話者同士の共通語)」として英語が選ばれていました。それもあって「異文化交流」ということが「英語」と密接に結びついていた時期がずっと続いてきていました。ただ実際には、多くの日本人には外国人に声をかけられると、逃げ腰になったリ、英語がうまく使えず結局コミュニケーションがとれない等の問題がありました。

 現在では在留外国人は
238万人を超え、そのうちの8割は日本語を使っています。さらに観光客へのアンケートで「日本に来たなら日本語を話してみたい」という人が8割ほどあるという調資結果もあります。

 そんな中で、英語教育とは別の観点から、異文化交流の手段として「やさしい日本語」が、病院・役所・観光などにおける多言語対応のコミュミケーション手段として注目を集めているわけです。

 現在では、「やさしい日本語」と検索すると上述の
NHK のニュースサイトを含めた多くのサイトが見つかります。さらにガイドや接客業の人を含めた日本人のための「やさしい日本語」の講座も開かれ、通信教育もあります。次回はそのような現状を踏まえ、従来の日本語教育との関係、翻訳における日本語との関連などについて見ていきます。




【プロフィール】
猪塚元(いのづか はじめ)
上智大学外国語学部ロシア語学科卒業、同大学大学院言語学研究科 
博士前期課程修了 文学修士
日本語教育能力検定試験 合格 
東邦大学等で講師
大学院では音声学の研究室に所属し10年ほど日本各地で方言の
フィールドワークに従事
大学院終了語、辞書出版社で露和・和露、英和・英英などの辞書の
編纂また情報処理振興事業協会でコンピュータ用日本語辞書の
プロジェクトに従事

 ●著書 
 (共著:猪塚恵美子)『日本語の音声入門』バベルプレス
 (共著:猪塚恵美子)『日本語音声学の仕組み』研究社
 (共著:井口厚夫他)『
Japanese Now(英文)』荒竹出版